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検索対象: 現代日本の文学 18 石川淳集
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1. 現代日本の文学 18 石川淳集

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2. 現代日本の文学 18 石川淳集

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3. 現代日本の文学 18 石川淳集

みとらなければ、どこにそれが沸き出るであろ、つか か。字義通りである。握りしめていたのを開いたとき 観念ではなくて、落日を、そして事物を、「苦学」では のてのひらの、のせている空、ささえている空、うえ絽 なくて楽学のパリを、その事物を、眺め続けていなけの空、うわの空、そして同時に、てのひらのなかにひ ればならないわけである。おもてに風狂をよそおってろがっている空。そして、ここまでくれば、もう空を いなければ、到底バランス . のとれないわけである。すクウと発音しても、 しいかもしれない。てのひらの空、 なわち、「秋の海いそぐともなき船のゆれ」いそぐでも このそらは、観念の空ではない。 石川さんのてのひら ないのに、船はゆれていざるをえないわけである が、現実につかみとってきたパリ の空の一ひらである。 ところで、そろそろ、わたしもパ ) を引きあげねば そこにはおのすからまた、落日の光も、流れ通りしみ ならないころおいである。すでに石川さんの『西游日わたっているに違いオし しかし、それは同時に、つ 録』のガイドによるわたしの「あとの雁」の低空飛行 かみとり、にぎりしめられたすえに、 ふるさとひとに も終りに近づいたからであるひきあげて、どこへゅむかってひらくがゆえに、瞬間にして、虚妄となるで ・ 9 も、つしし くか。『西游日録』の末尾から二行目に石川さんはいうあろう。虚実皮膜の間 : 曾呂利は舞いの 「復帚ということは避けがたいものか他にゆくすべな ばった空から、たちまち落ちて大きな嚏一つしていっ ければ、一兀のところにかえるはかない」そ、つして、こ まだ地上に生きていたか。」しかし、空のほ のあとに、さきはどおもわせ、 に予告したわたしの 石川さんのてのひらから、いつまでも決して落 石川芸術における発見、それを行わしめた一行、いやちることはない。 落ちるのはいつも : 一首の「詩諧」があらわれる いや、石川さんの「おとしばなし」の末尾ならば、 きっとこ、フい、つオチがつけられるに一いない かへりゆきてふるさとびとになに見せむひらけばか 「いや、キツネが落ちる。」 なしてのひらの空 てのひらの空とは、もちろん、クウと発音すべきで はあるまい。そら。しかし、てのひらの空、とは、何

4. 現代日本の文学 18 石川淳集

こではじつにケチなものであった。測もひっかけてもらえまえから詰めてあった。ヒースが半分以上のこっていたの ない。みじめということだろう。国助は足音をしのばせで、それがあとから流れこんで来たビースとまじって、ど の箱がどれとも見わけられなかった。あとからの箱にぶつ て、肩をほそくして梯子段をのぼった。 やっと自分の室にもどることができた。階下の気合はこかる公算のほうが大きいとしても、まえの箱にぶつかると う小さい公算もまたありえた。国助の手にわたったビー こまではったわって来ない。窓には、これはほんものの月い 影がおぼろにさしていゑ紙面の活字をそれと見さだめるスがどちらの箱であったか、判然としなかった。またそれ にはまだ暗い。国助は・ヘッドの上にぐったり腰をおとしが判然としないということを、国助は知らなかった。 た。そして、うしろの壁に背をもたらせて、しばらく呼吸国助はポケットからたばこの箱をとり出した。あ、その をしずめた。やがて、室内にいくらか光の色がひろがって箱は例の品物ではなくて、ふつうの。ヒースの意匠がほどこ 来た。窓のほうを見ると、活字がその位置からすこしずれされているやつであった。しかし、国助はそれを例の品物 て、どうやらうごきはじめたように目にうつった。そのととのみ信じきっていて、窓の活字がうごくほうに、すなわ き、国助はたばこのことをおもい出して、ポケットに手をち明日いかなる事件がおこるかということのほうにじっと 目をそそいでいたので、手の中の箱をあらためては見なか 入れた。そこに例に依ってビースの箱があった。 ところで、これは国助の気がっかなかったことだが、そった。そして、その箱から一本抜いたやつを、うつかりく のビースの箱が例の箱かどうかということに疑問があつわえて火をつけた。 た。というのは、きようたばこ屋の店でちょっとした手ち「あっ。」 たった一息すいこんだけむりで、のどが焦げくさくむせ がえがあったからである。店から出がけに国助はぎようも また店員が例の紙袋の。ヒースを壜の中にあけかえるのを見かえった。国助はべっと唾をはいた。ふところの小大が悲 鳴をあげて飛び出した。たちまち、けむりは悪臭をはなっ た。そして、そこで。ヒースを一つ買うことは買った。ただ ちょうどそのおりに、そばを駆けて通ったひとにどしんとて室内にたちこめた。けむりの中には煤のようなものがま 鷹突きあたられたので、国助は横をむくという失策を演じじっていて、その黒い斑点は天井にのぼり、壁にふれ、窓 にぶつかって、月の薄あかりを犯した。とたんに、活字は た。そのわずかのすきに店員は壜の中に手をさし入れて、 ビースの箱の一つを任意につかんだ。国助がむき直ったとうごくことをやめて、闇は物質のようにおもく垂れかかっ きには、その箱は目のまえに置かれていた。壜の中には、

5. 現代日本の文学 18 石川淳集

「さがれ。」 ないでいるものだ。」 今はみな息をひそめてスクリーンのみごとな絵様に見と叱咤をあびながら、音彦はたじろぎもしないで、女の影 がなおそこにとどまっているかのように、じっと白布を見 れているけはいであった。すべての怒号は底に沈んだ。 つめつづけた。 それにしても、この女はいったい何だろう。 ときに、ホ 1 ルの中ごろに、しわぶきの声がして、ぬっ おのずから洩れたためいきが、声をなすにも至らずに、 と立ちあがった仮面の人物があった。その人物は久太のほ ここに、けむりのようにただよった。 うにすすみ寄って、したしげなようすで、 いきなり、ホールの片隅から、高い声があがって、 「朽木君。今夜はおもしろい催しを見せてくれたな。わし 「その女は白痴だ。」 みな闇をすかして、その見えない片隅のほうに目をむけは気に入った。きみとふたりで、ゆっくり語りあってみた た。すがたはみとめられなかったが、久松音彦の声であっ 「どなたですか。おはなしがあるなら、ここでうかがいま 「こういう女のからだがいかなるものか、・ほくは今日までしよう。」 「いや、はなしの筋は他聞をはばかる。」 の体験に依って知っている。これは白痴のからだよりほか のものではない。たぐいなき甘美なからだ。一度抱いて寝久太は無遠慮に笑ってのけた。 てみたら、絶対に他人の手にわたせつこないようなもの「他聞をはばかりたがるのは、秘密警察かなにかでしょ だ。これは・ほくが全所有をなげうって買う。この女のからう。・ほくには、秘密というものはありません。・ほくの席は いつでも公開の場所に在るのです。いったい、ここのある ・こは、・ほくが買った。」 じの・ほくにむかって仮面のままの挨拶は無礼でしよう。そ とたんに、ばっと灯がついて、ホールは隈なくかがやい の野暮な目かくしはとったほうがよさそうですな。」 た。片隅に、音彦が立ちあがって、指をのばして、スクリ たちまち、仮面がおのずから落ちて、河越盛行のけわし ーンをさしていた。しかし、そこにはもう何の影もかすめ い目がそこにあからさまに光った。 虹落ちず、艶の抜けた白布がとりのこされているだけであっ そのとき、外の廊下のほうに、突然調子たのしく、歌を うたう女の声がきこえた。 「邪魔者。」 「うるさい。」 そこに、

6. 現代日本の文学 18 石川淳集

なくとも、この絨毯の趣味はあなたとわたしとの先先代に そういって、小助はほっと息をついた。しかし、その息 は熱くさく、また別の興奮に燃えている顔つきであった。 於てま 0 たくおなじものです。あなたも、わたしも、おな じ絨毯の上にうまれ、産著のようにそこにくるまれて、場音彦のほうも常のけしきとはおもわれなかったが、これは 所は別別ながら、ひとしくあたたかい雰囲気の中にはぐくにわかにひどく蒼ざめて来て、今の早業にも似ず、寒けに おそわれたように声がふるえさえした。 まれて来ました。成人したわれわれにとっても、そこはい つまでも生活の地盤です。今この場所であなたにめぐりあ「いったい何のおはなしですか。あなたはこの絨毯のこと を『高貴』だの『生活の地盤』だのとおっしやったが、ぼ ったのは必然の成行というものでしよう。」 くはそれには完全に関係がありませんよ。現在は決定的に 初対面の年下の相手にむかっていうにしては、どうも丁 寧すぎたその挨拶は、またいささか見当ちがえの、滑稽なそうですが、そもそものむかしから、あなたのいう絨毯の セリフともきこえた。あるいは、小助は目前の青年のすが雰囲気の中でそだてられていた時分から、トルコ産やら人 たに於て、いわば二重うっしに、かって見たことのない大生観やら、そんなことはてんで知ろうともしなかった。そ むかしの顧客、久松家の先先代の像を見たようにおもったのおかげで、とんだミスをやってしまったのですが : ・ のかも知れない。その挨拶のあいだにも、当人おそらく気や、それはどうでもいい。不思議なのは今の矢のことで がっかずに、トルコ絨毯を靴のかかとでふかふか踏みしめす。いったいどうして・ほくはあの矢を払いおとすことがで て、あたかも両家の歴史の跡をそこにたしかめるというにきたのですか。どうすれば、そんな器用な芸当が・ほくにで 似たしぐさをくりかえしたが、それはむしろその敷物の今きたのか。・ほくの手は元来かみそりさえ使うことを知らな いように生れついた手です。自分の手ではネクタイもまん 日の相場を値ぶみしているというふうに見えないこともな ぞくに結べない。それが・ほくの『お手ぎわ』ですよ。その 力ー 手をもって、おまけに小大に吠えっかれてもおびえるよう 小助はさらにことばをつづけて、 「たった今、わたしとしておとなげなく一時の興奮にからな臆病の性分をもって、まったくおせつかいに、よくあの れて性急な矢をはなったのですが、おりよくあなたのお手いさましい手出しができたものだ。わるくすると、矢に射 ぎわのおかげで、われわれの高貴な絨毯を、しかも魔物のぬかれるのは・ほく自身でした。われながら、ぞっとします 血をもってけがさないですみました。あやういところでしね。いや、ぞっとするといえば、さっきこの家の門をくぐ って、中に一あし踏みこんだときから、・ほくは異様な身ぶ た。さいわいに、もうおちつきました。」

7. 現代日本の文学 18 石川淳集

れておるというではないか。都のうちですら、いずれが正らぬおもいっきじゃ。おいおい世にひろまろうな。」 「暦とともに、神宮の信仰もまた禁中からながれ出て、俗 朔を奉ずるものとも知れぬ。」 「まことに、ちかごろ禁裏仙洞に於ても、留守番衆のめん間にひろまって行くことになりましようか。」 めん、妻子を引き入れて住まわしめ、御所なお私宅のごと「うむ。仮名暦はよし。俗信はいかがなものか。伊勢は神 神の食いものの世話をやく神がおるところじゃ。暦こそ賤 きありさまなれば : ふせや 「なげくな、新左。暦に閏月のちがいはあっても、日月星がいもを作るときの役にもたとうが、神宮は伏屋の鍋にい しもにも米にも無用の俗信、末 辰の運行をさまたげるには至るまい。御所とても、ひとのもの煮えたのも知るまい。、 住むところじゃ。女こどもを引き入れて、いくさの難を避の世にはどうなり行くことか、そこまでは目がとどかぬ。」 けさせたのを、とがめることはない。狐狸が住まなくてさ「ものの崩れて行くすがたならば、末の世を待たずとも、 * おんみよう いわいよ。もっとも、うろたえものの陰陽博士なら、なんよきにつけ、あしきにつけ、今の世にさまざまのためしが とか星が紫微宮を犯したなんそと、あらぬことを口ばしつ見られますな。あれも、これも。」 て、一さわぎしてみせるところか。無用の気づかい、おま「その近いためしが : ・ 一休いいかければ、新左衛門うなずいて、 えにも似合わぬ。」 「ほい。これはおおせられた。この新左衛門もうろたえも「武家とおおせられる。」 「すぐ気がつくだけに、おまえはいくらかましのほうじ のの数に入りましたかな。」 そういいながら、他の一冊を手にとりあげて、 「おそれいりました。」 「こちらの暦は。」 とうりよう 「源氏の棟梁として、その位にそなわったのは、おもえば 「伊勢の暦じゃ。」 たかうじ 等持院殿 ( 尊氏 ) までであったな。一旗のもとに、諸国の 羅「伊勢。」 「かの神宮に仕えるものども、町人とあい謀って、京の暦源氏こぞって下知をあおげばこそ、棟梁とはいう。位すな * っちみかど 修の本家土御門家に請うて、暦の写しをゆずりうけた。町人わち力にほかならぬ。その位どりは系図に依 0 てさだめら の才覚、かの具注暦の堅きをやわらげて、ここに仮名暦をれた。すなわち、分家の義貞ごときもの、ついに本家の尊 ごだい tJ * おし つくる。これをば御師のみやげとしてくばったのが、ちか氏におよびえなかった所以じゃ。されば、後醍醐のみかど ごろは銭をとってたれにも売るようになったという。抜かも、味方の義貞を軽んじて、かえって敵の尊氏をば重く見 はか ゆえん しず

8. 現代日本の文学 18 石川淳集

波を打った。 れもこのうえにおどろく余地はなかったろう。 少年はふた目と見られぬポロとデキモノにも係らず、そところで、ここに意外の事件がおこった。少年がイワシ かつばら の物腰恰好は乞食のようでもなく掻払いのようでもなく、 屋の店を出てすうとあるきはじめたときには、たれの眼に また病人とも気ちがいともおもわれず、他のなにものとももつい消えうせるかと見えたのに、それがとたんに身をひ 受けとれなかったが、次第に依ってはずいぶん強盗にもひるがえして、となりのムスビ屋の店に飛びこみ、どこに入 と殺しにも、他のなにものにでもなりかねない風態であつれてあったのか折目のつかないまあたらしい札を一枚出し はえ た。しかし、ウミのあいだにうかがわれる目鼻だちはまあて台の上におくと、まっくろに蠅のたかったムスビを一つ 尋常のほうで、びんと伸びた背骨の、肩のあたりの肉づきとって、蠅もろともにわぐりと噛みついた。はたからさえ す、 も存外健康らしく、もし年齢をあたえるとすれば十歳と十ぎる隙もない速い動作で、店番の若い女がなにかさけびな 五歳の中ほどだが、いわゆる育っさかりの、四肢の発育が がら立ちあがろうとしたひまに、ムスビはすでに食われて いじけずに約東されていて、まだこどもつ。ほい柔軟なから いた。そして、おなじくすばやい身のうごきで、少年は今 だっきで、それが高慢なくらいに胸を張りながら、まわり度はムスビではなく、立ち上ろうとした女のほうにおどり の雑鬧にはふりむこうともせず、いったい何の騒動がおこかかって腰掛の上に押しつけるぐあいに、肉の盛りあがっ ったのかと、ひとり涼しそうに遠くを見つめて、役者が花たそのはだかの足のうえに、ムスビに噛みつくようにぎゅ 道に出たようにすうとあるいて行くのは、どうしておちつうっと抱きついた。女の足の肉と少年の顔とのぶつかる音 たの きはらったもので、よほどみずから恃むところがないと、 が外にまで聞えたほど烈しいカであった。女は悲鳴ととも こうしぜんには足がはこぶまいとおもわれた。少年はどこ に飛び立って、「なにしやがんだい、畜生、ガキのくせに。」 このこれも懸命のカで振りもぎろうとするが、少年はなかなか スから来てどこへ行こうとするのか。たれも知らない。 = 新開地では、種族を判別しがたい人間どもがどこからとも離れない。そこへ、兵隊靴の男がまた駆けつけて来て、ほ のなくわらわらとあつまって来て、どこへ行くともなく右往そい竹の棒を振りまわしながら、しかしただ「畜生、畜 焼左往している中に、ひとり権威をもって行くべぎ道をここ生」とさけぶだけで、やはりポロとデキモノに怖れをなし ろえたような少年の足どりの軽さはすでに十分ひとをおどているのか、揉みあう一一人のからだのまわりを飛びまわっ て、びゆっぴゆっと竹を鳴らすにとどまって、よく手を出 ろかすに堪えた。もし一瞬の白昼のま・ほろしとして、ひょ っと少年のすがたがまのあたりに掻き消えたとしても、たして引分けることをしかねた。女と少年とは一体になっ ぎっとう こじ、

9. 現代日本の文学 18 石川淳集

示した。祝の席に盲は不吉であった。そのとき、さっと吹る大岩、こなごなに打ち砕かせましよう。そのところに き入る風に、あるかぎりの灯はみなゆらいで、ばたばたは、地をきよめて、われらの大神をあらたにいっき祭る。 と、あわや消えようとした。 かくて、神霊武威ならびおこなわれて、敵なる名なしの神 荒玉、さかずきをなげうって、 のごときは、すなわち宿なしとなり、もはやこの国土の中 「斬れ。」 にかくれるべき峰あろうともお・ほえませぬ。」 兵すなわち剣を抜いてすすめば、童子の首ふたっ、たち「たわけ。うろたえものが出すぎたまねをするな。」 どころに飛んだ。風おさまって、灯はまたあかあかと燃え はげしい声に、広虫は舌をちちめた。 た。その光今はむなしく、ひとびとすでに面色蒼ざめて、 「なんじのようなる不覚人が事をあやまるのじゃ。それな さかずきの酒は冷えきっていた。 ればこそ、わざと申し聞けるぞ。」 「宴はこれまで。」 荒玉のしらがの眉はつねよりひややかに冴えた。 荒玉は立って宮の奥に入った。腹心に広虫というもの、 「いっき祭らずばならぬのは、かの名なしの神じゃ。」 あとにしたがって、ひそかにようすをうかがうに、荒玉す「なんと、敵なる神を。」 こしも臆する色なく、ひとを遠ざけて、 「さきほどのあやかしを見て、おそれのこころを兆したと 「広虫。」 でも、おもいおるか。左にあらず。聞け、広虫。われら、わ 「は。」 ずかにこの尺寸の地をえたのみにて、小成にやすんじては 「なんじ、なにをおそれるぞ。うろたえたさまを見せるな。」ならぬ。国はまだまだひらけるそ。いや、ひらいて見しょ 逆にとがめられて、広虫、さかしげに、そばにすすみ寄う。国つくりはこれからじゃ。打ちしたがえるべき山山は 数かぎりない。行くところの地には、かならずやその地に 起「かの名なしの神のけしからぬ振舞、いかにお・ほしめされ古き神神はあろう。またその神神をふかく信ずるやからが るか。なおざりに捨ておいてはなりますまい。」 あろう。力なき神は取るにたらぬ。ひとに畏怖の念をいだ 八「捨ておけぬといって、何とする。」 かしめるほどの神ならば、取ってもってわが神とすべし。 「されば、かの山はほろぼしても、いまだわざわいの根をすなわち、その神を奉ずるやからのこころを取ると知れ。 断つには至りませぬ。夜があけたなら、こなたの霊峰に祀そのやからとても、ひらけ行くわれらの国の、あらたに附 って、ふたたび兵をつかわし、かのあやしの足跡をとどめく民じゃ。神も人も、殺すべきものは殺し、生かすべきも

10. 現代日本の文学 18 石川淳集

て、王のいくさをたすけ、空に奇瑞を示されよう。いざ、 「賊ごときに屈するにあらず。ただ天運にしたがうまでじ 行け。行ってもろもろの悪神を討ちほろ・ほせ。」 ゃ。山の盛衰は一に山の大神のみこころのままと知れ。 玉姫すなわち陣中にあって、髪を男のさまに結び、男の賊、何するものぞ。われらの山はここのみではない。およ よそおいに身をかためて、手にはつるぎ、かねてかくしおそこの国土に古くより久しくそびえる山山は、すべてわれ いたまことの宝剣をとって立つ。つねは虫も殺さぬふぜ いらの山じゃ。山に立たせたもうは、いずこもおなじ、こ・こ ひょうじよう ながら、大事にのそんで兵杖をとって立っときは、男よ一つの大神。いずこに行くとして、山はいつの世にも尽き りもすさまじく血に荒れくるうこと、この一類の女のならず、神霊すなわち永くわれらの身に添う。かの賊のつくり いであった。 なせる山のごときは、いつわりの幻術じゃ。たとい幻術一 大軍すでにして敵に迫る。ときに玉姫、宝剣をあげて天時の勝をとろうとも、われらの山山すべてほろびることゆ をさせば、かなたの大山、たちまち峰をふるってせい高くめあろうか。さわぐな。三郎。」 伸びあがり、敵の山をしのぐごと一千丈、みずから岩根をそのことばっきも、身のかまえも、つねの父には似なか 引き抜いて、一千丈のいただきは炎とともに山より飛び立っこ。 ナ三郎もし・せん膝を折って、下にいて、 かけ ち、烈火の尾を曳いて風に翔り、そのいきおい雲を焼き、 「その儀ならば、父よ、われら一類この山を去って、いま 八くさの雷神またこれにしたがって、かの敵の山の真上だ知らぬ他の山にでもうつるということか。ここを措し に、ただ一打の勝負と、鳴りはためいて落ちかかった。 て、そもいずこに行こうぞ。」 「まずこの山を去れ。他の山山はおのずからおまえを呼 ぶ。住むところは広いぞ。山から山へと道はきわまりな 、濃くも浅くも木木の緑はつらなる。そここそ、のちの すえ 「父よ。賊この山を侵すというに、みすみす手をつかねて世まで、われらの裔のはたらき場所じゃ。どの山にも行 おるのか。」 き、どの山にもとどまらぬ。里のものどもは遠くからただ 門の内にははいっても、三郎はなおしきりにはやった。木木を見て、われらを見ぬ。その見えぬところに、谷をわ 「しずまれ。」 たり峰をめぐって、われら一類、子も孫もそのまた孫も、 石別は岩の城の奥ふかく、つねの座にもどって、さてい隈なく満ちて、末ながく生きてはたらくのじゃ。」 ゝっこよ、 そういうこころを、三郎は解しかねて、