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検索対象: 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集
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1. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

207 えし て明 女がど後ながど圧答み でが彼た故せ中 る発 押いり男 。作したはナ 力、で んみ 竹負萎な眼女だ収黙菊だてる に入 連変叫を段田 身る 女冫 に替 見彼 にう 部し が抵 っ向 先を の悠 真二 がを きな 上は る薬 がか 色上 つ手かた にげ あ女 のた つを た足 作彼 てひ 竹れなか そ引 に女 田をかり のき るろ さけ てろ をな 彼は 誰力、 え折 よた はま 色込 て息 見か ~ 知 をの には よら 彼いな動部の こ軽 つに えぐ にれ でけたか男女失げず紫 うな く度 の女 眼ゆ 中はのか んず 雑みがな いは 。る て彼 人の の間 はそ に向 初体男中 見肩 う度 のを きが うし、 に足 て伏 むよ っし つ中 よ向 ま菊けれ 自み 続て 由ず 閉ざされた部屋 終一 た 中る カ : 圧 え て い る 腕 は っ が 上を をの 彼 い や よ は 変 く 白 度ま 外 を 掌 の そ たけ見 つ人何雑 : 女 ん い た 竹 田 カ : 終 替 り そ ま っ何なの彼 を し、 う じたは 。出の らたし ふカ と 彼し 、女ナ の彼 冫ま 思答 出な そし、 と悠 があ つに や ん 、で う か巾えは へは っ 。て 守冫 し て う 江い 々 し 、を・ えた圧た眼 ぇ で は っ 、て 。を 壜わ たは っと な 冫こ . て . 空く る 腕 変 来ね 男 る す と よ う の腰た が持み 紫ちみ ず は ど ず は を あ く 動 彼 動 時 抗 は 来びてな自 。て出乗気分 り っ っ て ロ に め 岩そる 見れだ がでけ も し鼻ず カ : の よ つう 、かし感し を 呼 び ぇ し、 く 。る 。でそ来暗 覚 、る 応は う 。彼ち の 分 っ さ て 、′つ の 替こ れと 力、 ・つ 跡姿 菊悠が勢し声ど 江二あでてを はっ寝悠かだ もたて二け げ 両 に江 と う が し てた た いはて た覗も 腕菊る 。き答 男 いちを が曲 女て に っ 背 。彼げ遅 伏 に 畳 た抱田 が ら 目リ り も く っ せいて る 最 いを竹き出 ぬ よ 転 か 。た立 、後仰上 っく いす彼 、だそ 黙 に うわろ った ち 。ち り 、て う だ し、 つみ た ち っき屋かに い ロ彼八はが も ど う ナこ を ろく と し か たた づ 巾ず終し ク ) 取動て に も体女 を なよ体 じ し、 た の は へ来よカま っ時けかな 、る し ネ申 のづ じでた り絶す っ乗色 り り に り 女 げ蹴け し、 の て し つ近 づく け て と 同な じ 動 く り のみ男らたただたかる 、 1 ノ 。か し そ れ が そ の と と 関ま りわ あ る 人わ言 っ も 彼 の の の 。み し、 。ぜけ 枷十 の字肩 よ架を にかで 男か押 ちた仰 掌うけ のなに の ナこ う 作丁速 を度 3 時度は 今 返で江がも だ彼三そ 、女 の 最の 動跳は菊 し体程 断しな はとれ う 止げ信 が上は きね江 じ の ら い

2. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

じふん いてみると、薄暗く埃っぽい闇のなかに、ひげを土まで垂しないことであった。ふいに水の自噴するように体の内に * かんう たたす らした関羽が稚拙に怒ったまなざしで佇んでいた。これと音楽がわき起り、彼は眼をまじまじと瞠った。《谷間の灯》 関係があるのかないのか、久瀬にはわからなかったが、一隊が奏でられはじめると、猿のお面をかぶった子供が、きや が《聖者来たりなば》を吹き鳴らしつつ入っていくと、そっきやっとくすぐったそうに声をたてながらも、おどろく たく の村ではちょうど踊りをやっているさいちゅうであった。 ほど巧みに曲へ体をのせて、藻のようにゆらゆらしはじめ 農民たちが円陣を作ってとりかこむなかで二人の子供がおた。子供はとまどいながらもなめらかにトラムペットの酸 うるし 面をかぶって踊っていた。お面は漆であろうか、泥絵具でつばい、高らかな響きにあわせて体をくねらせ、見物人の あろうか、猿の顔が赤や黒や黄で描いてあった。古・ほけた円周を踊り歩くと、トラムペットを吹いているアメリカ兵 太鼓をたたく男がおり、殷周時代の発掘物のような銅鑼をの長い野戦服の足に寄ってきて、とがった肩でとんとんこ たたく男がおり、子供は夢中になって跳ねまわり、見物人づいた。そしてお面をとると、虫歯の穴を見せ、につと笑 はときどきおとなしく笑ったり、拍手したりしていた。どった。 アメリカ兵はペットを口からはなして子供を眺め、 こにとってあったのか、大きな達磨のような物を頭からか 「おっそろしく愉快な小僧だな」 ぶって踊りだす一一人の男があったが、それは達磨ではなく とら とつぶやいた。 て、猿と虎であった。ひょろひょろと酔ったような足どり で男たちが迷い歩くと、農民たちは笑い崩れ、娘たちはロ彼は子供の頭を撫でると、太った腹をゆすって笑い、ふ ま、 -0 嚇、く たたびペットをとりあげて、いっしんに調子はずれに吹き に手をあてた。久瀬は胸をうたれた。これは猿楽であり、 獅子舞であった。ここではそれが虎になっているだけのこはじめた。子供はお面をかぶりなおし、酔った足どりで踊 とだ。日本列島の古代の住人たちは虎におびやかされるこりをつづけた。 たく とがなかったので空想の動物、獅子に神格を托して楽し見物についてきたヴェトナム人の将校や兵たちは昼食時 ごらそう み、かっ恐れたのではあるまいか。少年時代、正月のさびになると農家に入りこんで貧しい御馳走を食べ、食べおわ なだれ ひらめ しい、清潔な玄関へ、とっぜん朱と金を閃かして雪崩れこるところころよこになって寝た。けれどシーグラム大尉は みは んでくる獅子舞を久瀬はたじろぎながらも眼を瞠って見とけっして部下を藁葺小屋のなかに入れようとせず、軒下や 、ようばうせんさ、 じゅうじゅん らんにゆうごうしゃ れていたのではなかったか。兇暴と繊細のあの闖入の豪奢木のかげにすわらせた。アメリカ兵たちは従順にそれに さくれつ な炸烈をこんなところで思いださせられようとは、予想も従い、陽焼けでまっ赤になったが、不平は洩らさなかっ たいこ さる ちせつ ほこわ・ いんしゅう だるま な

3. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

のひらにひびいてきて、思わずおれはあとにさがった。青わばる。踏みつけられてあきらめ、野望をとげてむなしさ 年はおとなしくよこたわっていたが、おれがおびえるのををお・ほえる。 みとめたのであろう、眼に不可解な優しい微笑をうかべて せまい、悪臭のみちた病室のなかにごろんと寝ころん おれの顔を見あげた。傷や死体や肉の破片など、変形したで、おれは四日間、薄い薄いつるつるの皮一枚につつまれ 人間の体には戦争中にさんざん経験をかさねて慣れきって たきりの脳について考えこんでいた。患者たちは悪臭をた いるはずのおれなのに、手のひらにはいつまでも脳の脈動てて眠り、ぎこちなくうごいたり、ぶざまにうなったりし がしみついてうごいていた。その夜も、つぎの朝も、午後ていた。その四日間はいつもとおなじように誰も川をわた も、箸をにぎったり毛布をつかんだり、手がなにかにふれって訪ねてこなかった。左官屋は『ここはお国を何百里』 るたびにおれは裸の脳を感じた。四日ほどというもの、おをうたわなかったが看護婦がゼンマイと油揚の煮たのをタ ーテン れは手だけになっていた。壁、柱、窓、裏庭の朽ちたドラ食に持ってきたのを見てチェッチェッといった。・、 けいべっ ム罐、手術室の注射針、メスの腹、遠い電車のひびき、なダーは愚衆を軽蔑しきったそぶりで窓を向き、大きなおな きようばう にを見ても、もろさと界暴さが感じられた。人間は不透明らをおとし、眉ひとつうごかさずに泣いてだけいた。タコ なビニールの膜につつまれてあぶなっかしく脳や内臓や筋頭の青年は一日じゅう毛布にもぐりこんでひとことも口を 肉をかくしてうごきまわっている。ちょっとした針の一突きかず、まじまじと眼をって手をにぎったりひらいたり づえ きでたちまち膜はやぶれて液を流してしまい、浜のクラゲして遊んでいた。右半身不随の大工は松葉杖をひいてよち のようにペちゃんこになる。・ ふるぶるたよりなげにふるえよちと歩きまわり、明朗きわまる笑い声をたてておれたち ぶじよく る脳をかくし、ぶるぶるたよりなげにふるえつっそこからを侮辱してまわった。左官屋のところへいってお地蔵さん 泡のようにたちの・ほる言葉をすこしずつ小出しにかわしあだといった。・ハ ーテンダーのところへいって、おまえはむ 、ゆうだん 嘘ばかりつきあい、おごそかに糾弾し、すみやかに忘 つつりすけべえだろといった。青年の頭に手をふれようと なた れ、すさまじい量の鉄や石油を移動させる。紙に署名し、 していきなり鉈のような腕をふるわれ、床にころがった。 ボタンをおし、荒地にひいたおぼろげな一本の線をめぐっ大工はよだれをたらしつつ床のうえをのろのろいまわ なわば り、おれの顔を見てニコニコ笑った。て、て、てんにう、 て血を流し、野生動物の繩張り意識を賢く研究して本をか さねあい、たくましく儲けてたよりなく性交する。笑いをてんぼうといった。 忘れて議論し、酒を飲んで妥協し、朝になればふたたびこ あわ かん うそ

4. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

俊介は課長が投げてよこす書類綴りを手に受けた。繰つるぜ、雪がとけてみたら木がまる裸になってたんでびつく てみると、どの報告書にもそれを送って来た至急便の封筒りしたなんてトッポイことをヌケヌケ書いている。どうし てそんなことがいままでわからなかったんだ」 がついていた。しばらくだまって爪をかんでいた課長は、 なにを思いついたのか、ふいに体を起した。その眼からさ課長は目的を発見したので語気するどく、かさにかかっ た口調でそういった。俊介にはその思わくがすぐのみこめ きほどの混乱の表情が薄れているのを見て俊介は用心ぶか かいひ た。この男は早くも責任回避の逃げ道を発見したのだ。予 くかまえた。 、まとなって事の 防策をなにひとっ講じなかったくせに、し 「君。君は派出所から来る日報を読んでるね ? 」 たいまん 原因がまるで派出員の怠慢だけにかかっているかのような 「ええ」 もののいい方をする。派出員がどれほど熱心に山のなかを 「ずっと ? 」 歩きまわったところで、雪のためにネズミの音信は完全に 俊介は言葉を注意して選んだ。 「私のところへ来た分は全部読んでいるつもりです。この断たれていたのだ。かろうじて雪の上にでた木の幹だけが 報告書は、いまはじめて見せられたので、別ですが : : : 」ネズミの活動を知らせる唯一のアンテナだったのだ。それ かみ、ず に、なによりも問題なのは派出員が幹の咬傷をどれほどく 課長はあわてて手をふった。 わしく熱心に調査したところでいまさらどうしようもなか 「いや、それは、なにも君を無視したわけではないんだ。 ったということである。い っそここでいやがる相手に動物 それは、べつに、どうでもいいんだが、俺にはわからない ことがある」 学を講義して真相をすっかりさらけだしてしまうか、それ 「なんですか ? 」 ともその場かぎりのいいかげんな同意でお茶をにごすか、 かんしん ・つまりだナ、・ とうしてそれほどネズミがいるのにい あるいはこれを機会に相手の歓心を買うべくはじしらずに ままでわからなかったかということだ。ついこないだま媚びるか。いろいろと手はあると思ったが、事件ははじま で、日報はどれもこれも特記事項ナシばっかりで、なにも ったばかりなので、いままでどおり俊介はどっちつかずに ネズミのことなんかにふれていなかったじゃないか」 黙っていることにした。 俊介はばからしさのあまり、あいたロのふさがらないよ 彼の表情をどう読んだのか、課長は派出員を攻撃するこ うな気がした。 とをやめて、気づかわしげな表情でたずねて来た。 れんらく いいかげんなことをいって「君、いっか話のあった動物業者には、すぐ連絡がつくよ 「その報告書を読んで見給え。 つめ ゆいいっ

5. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

たのだ。な・せお化けは子供になって山からでて・ハスにのつの男のようだ。彼は・ほくの仕事を邪魔するばかりである。 2 て死なねばならなかったのか。 どんな眼があらわれるだろうかと・ほくは軽い不安を抱い 太郎には友人がいない。彼は仲間に対して圧迫感を抱いて待ったが、玄関にでてきた夫人は健康で、清潔で、一 ている。母親に禁じられて彼は粗野で不潔な仲間とまじわ見、酒や終電とはまったく関係のなさそうな家庭人であっ ることができず、いつもひとり・ほっちでいる。その圧力をた。彼女は・ほくをみると両手をそろえてつつしみ深く頭を はいじよ 彼は画で排除しようとしたのだ。だから子供はお化けであさげ、 ムつきゅう 「お待ちしておりました。どうそこちらへ : り、お化けは死なねばならなかった。彼は画で復仇したの ぼくは、彼女について廊下を歩き、応接室に入った。太 だ。この小伝説にはそんな仮説のための暗示があるよう 郎を川原へつれだした日にも入った部屋である。こころよ だ。おそらく根本的な点でそこに誤りはないだろう。た い乳黄色の壁には春の午前の明るい陽が踊り、一「三点の だ、ぼく自身はそういう軽快な合理化だけで満足できない はんてん のだ。ぼくは赤に太郎の肉体を感じたのだ。環境に抵抗し画にも透明な斑点が浮いていた。いずれも画は大田氏の庇 て、いつどの方向へどんな力で走りだすかわからない肉体護を受けている作家のものらしかったが、彼は趣味がずい を、いよいよ彼も回復したのだ。・ほく以外の人間にとってぶん気まぐれのようで、セザンヌまがいのリンゴと、ニコ おくめん ルソンまがいの山口の抽象画とが臆面もなくむかいあって はしみでしかない画用紙をまえに・ほくは。ほっかりとひらい た傷口を感じた。血は乾いて、壁土のように、白い皮膚にかかっていた。おそらく大田氏は現物をみないで秘書に金 こびりついていた。・ほくは夕方のアトリエで、子供たちのを払わせるだけではないか。・ほくはそんなことを考えなが のこしていった異臭をかぎつつ、さらに傷口を深める方法らタ・ハコをふかし、夫人が席につくのを待った。 、ん、よう しばらく挨拶を交わしたり、太郎の近況を話したりして をあれこれと考えた。 ′ - うよ ~ し いるうちに、はやくも・ほくは後悔しはじめた。夫人は・ほく ある日、・ほくはあらかじめ電話で在宅をたしかめておい りようさいけんぼ にまったく警戒心を抱こうとせず、型どおりの良妻賢母を てから大田夫人を訪ねた。彼女に会って確認しておきたい ことが・ほくにはいくつかあった。山口にはない特殊な立場演じて、いささかも疑わないのである。先夜、駅前広場で わいけい ・ほくにみられていることに、彼女はまったく気がついてい があったので、・ほくは大田氏に面とむかって太郎の歪形を 訴えることができたが、当分彼は信用できそうになかつないのだ。ぼくが太郎の画や性格を話すと、彼女はいちい た。彼は有能な商人かもしれないが父親としては資格皆無ちうなずいて、完全にそれを認めたあげく、ほっと、ため とくしゅ 2 リいかい あいさっ じゃま ひ

6. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

ぎた。これは新しい戦争の開始であった。どの町も焼けかがやかしい火のまわりの暗がりにうかんだり、消えたり ず、崩れず、裂けた畑や街道の遺棄死体を見ることはなかする顔はゆがんで眼を伏せていた。朝になって私たちが町 ったが、穀物倉はからつ。ほで、商店の窓に砂埃りがたまをでて、街道をしばらくいってからふりかえると、男たち が畑をよこぎって町にもどってゆく姿が見られた。彼らは り、広場に人影のないのはかっての軍閥時代そのままだっ みぞ た。私たちは長途の徒歩旅行に疲れきっていたので、畑の丘や溝や森からいだしてきたのだが、そのと・ほと・ほした あいしゅう かなたに黄土の壁があらわれると軍歌や労働歌を大声で合足どりは哀愁に犯された泥酔者のように朝のものとも夜の 唱しながら進んでいったが、町の人間は誰ひとりとして出ものともけじめがっかなかった。 さいやくおお 迎えにあらわれなかった。どの町も私たちが到着するより首都にちかづくにつれて街道はいよいよ災厄に蔽われは まえに男たちが徴集されて出発したあとだったので、城門じめた。町、村、市場、畑、壁のなかから狩りだされた男 コウリャン をくぐっても、家や路地からでてくるのは寡婦と子供と老たちが高粱畑のなかをそろそろ歩いていた。彼らは茂み けんべい 人ばかりであった。憲兵と収税吏は町が最低の生活を維持のかげの細流からあらゆる水の脈管をつたって大河へおり あぜみら してゆくのに必要な男たちをのこしておく習慣だったが、 てゆく魚群のように畦道から村道へ、村道から街道へ、 誰を徴集し、誰をのこすかという選択の権限はいっさい彼郡、県、市を通過していっせいに首都をめざして行進して むち らに任せられているので、女たちは私たちの労働部隊の先 いた。綱につながれている一群もあれば、鞭に追われて歩 導者に男たちの姿が見つかることを恐れ、私たちが街道の いている一団もあり、道ばたにごろ寝する小隊もあれば、 かなたにあらわれるのを見るや否や町の裏門から男たちを夜昼なしに歩きつづける中隊もあった。平野を網の目のよ こうさ たいひ おお 退避させた。女たちは法令によって労働部隊の士気を鼓舞うに蔽う無数の道の交叉点で部隊と部隊が出会うとそれは することを命じられているので、私たちが町に入ると、手くつついてひとつになり、市庁、県庁の広場でさらにその つばあわがゆわん に手に水壺や粟粥の碗をもってでてきた。ときには休息が地方の東西南北から集った諸部隊に合流して大旅団となっ 夜までのびて宿泊するようなこともあったが、こんなときてつぎの旅行に出発した。私たちはやがて綱をとかれた りんぶ は女たちは広場にかがり火をたいて合唱や輪舞を見せてく が、厳重な点検をうけて、およそ武器と目されるものなら かんせい ほっしゅう かわおび れた。夜空にこだまするその喚声や音楽は、しかし、私た革帯から。ヒン一本にいたるまで没収された。部隊が大きく ちの疲労を回復するのになんの効果ももたなかった。女たなるにつれて私服の憲兵にかわって完全武装した兵士が私 かんし ちの体は閉じて、ひからび、むなしい経血の匂いをたて、 たちを監視するようになった。彼らは馬や兵車にのって部 すなばこ にお

7. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

なっとく にも焼きようがないじゃないか。局長だって納得しないの 「君の企画書だ。ずっと前に局長室からもどったんだが、 があたりまえだよ」 そのままになっていたので返すよ」 えり つまようじ 課長は背広の襟から妻楊枝をぬきとり、たんねんに歯を俊介はこのあたりでちょっと抵抗してみせるのも手だと 思ったので、 せせりながら俊介に説明した。 「前の課長も君の企画を会議に出すことは出したらしいが「おっしやるとおりですが、起ってからではおそすぎるん いっしゅう オしかとも思ったもんですから」 ね、山持ちの県会議員に一蹴されたらしいよ。これは局長じゃよ、 えさ といった。すると相手はすぐ餌にとびついて来た。課長 も文句をいえやしない。長いものには巻かれろってこった は回転椅子に背を投げると、俊介の顔をちらりと眺めた。 課長は楊枝のさきについた血をちびちびなめた。俊介はその眼には満足そうな蔑のいろがはっきりでていた。課 息のかからないように机から体をひき、相手の不潔なしぐ長はきめつけるようにいった。 そうじ さをだまって眺めた。課長はひとしきり歯の掃除をすませ「当てずつ。ほで役所仕事ができると思うかね。前例もない つづ ると、眼をあげ、日報の綴りをちらりとふりかえってたずのに、君の突飛な空想だけで山は焼けないよ。君の企画は ねた。 お先走りというやつだ。気持はよくわかるがね」 俊介はその言葉で、いままで自分がどういうふうに見ら 「ネズミのこと、なにか出ているかい ? 」 「べつに、なにも : : : 」 れていたか、あらためて知ったような気がした。彼は発明 課長はめんどうげに彼の手から日報をとると、パラ。 ( ラ狂や易者とおなじ種類の人間と考えられていたのだ。 一「三枚はぐった。 「局長はね、こういうんだ」 「特記事項ナシ、例年ト大差ナシか。君の予想とはずいぶ課長は両手を組んで机におき、俊介を見あげた。眼から は軽蔑が消え、まがいものの真剣さがのぞいていた。 んちがうようだな」 「 : : : なにしろ雪ですからね。冬はネズミの動きはめだた「 : ・ : つまり、ネズミは毎年春になるとわくものなんだ。 ないものなんです」 たとえ君が心配しているほどではないにしてもね。それ 課長は彼の答えに不満らしく頭をふった。 で、一度イタチを山に放してみたらどうかということなん はんしよく いくらササ原を焼けこ。 「君、日報は局長室まで行くんだよ。 だこいつは生きものだからほっておいても繁殖する。毎 といったって、現実になにも起っていなかったら、焼こう年補給しなくってもいいから大助かりだよ」 とっぴ

8. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

もら′ま - / 、 あぶ 田中少年が心配そうにたずねた。 を網膜にお・ほえる。空と土に焙られて膚は海綿をし・ほるよ 「わるくない味だよ。むしろうまいといっていいな。田ンうに汗をふきだすが、汗はでるあとでるあとから乾き、毛 しわ せきしゆっ ・ほのネズミにはベスト菌がいないっていうよ。サイゴンの穴がチリチリ皺ばみ、塩が析出されてくる。その暑さと明 せき ゅうじゅう 市場では箱につめて売ってる。ネズミがチュウチュウ島、 ロ・し晰さには何かしら徹底して痛烈なものがある。優柔なサイ て客を呼ぶんだよ。食べてみないか」 ゴン生活でよどんだ蒼白な汚物が見る見る汗といっしょに はいせつ 「無理しなくてもいいと思いますがね」 排泄されていく快感がある。酒、議論、書物、情事などが ぶんびつ 田中少年はヴ = トナム兵に洗面器からひときれ、ふたぎ分泌した蒼白な汚物がたちまち褪せ、ムシロを湿らせて、 れとってもらい、気味わるそうにして食べた。吐きだしは 消えていく。 しなかったが、うまいともいわず、ただ呑みこんでしまっ 二台の一五五ミリ砲の砲身にネットを張ってパンツ一枚 になったヴェトナム兵たちが・ハレー ・ポールをして遊んで トタン あてがわれたハンモックで昼寝しようとしたが、 いる。球がのんびりと、また、せわしく、いったり来たり 小屋のなかはあまり蒸暑いので、パンツ一枚になって日光する。少しはなれた小屋のかげでは二人のアメリカ兵と三 浴をすることにした。シーグラム大尉が《サン・タン》と人のヴェトナム将校が大人国と小人国の試合のように馬蹄 いうローションをくれたので、それを全身にぬって、二人投げをして遊んでいる。フランス軍がいた頃は玉ころがし ぎんごう は塹壕によじの・ほり、ムシロを敷いてよこになった。あた だったにちがいない。海岸に大基地を設けて内陸へじりじ ′」うま 0 っせ - いも ~ ・ル しんとう りには獰猛、精悍で知られる特殊部隊のアメリカ兵たちもり浸透していく目下強行中の計画をアメリカは《インクの 何人かいて、赤、緑、黄などのパンツをはいて体を焼いてしみ》と呼んでいるが、かってフランス遠征軍はおなじこ タッシュ・デュイル いた。マイアミかワイキキの浜のようであった。田中少年とを《油のしみ》と呼んだはずだ。ムッシウがミスター が写真をとろうとすると、つよく手をふってことわられに変った。玉が蹄に変った。油がインクに変った。カビ タンがキャ。フテンに変った。 日光は積乱雲の城館のそびえたっ空にみなぎり、透明な 田中少年が眼をうっとり細めて鋭くとがった肩のうえに くだ おとろ なが 炎がたたきつけるようによせてくる。草が衰え、土が砕顔をあげた。彼は・ハレー ・ポールや馬蹄投げ遊びを眺め、 け、むきだしの膚がヒリヒリ痛む。眼を閉じると薄いまぶウエル・ダンにしようかミディアムにしようかと迷いつつ たを日光がたたき、薄明のなかでギラギラと炎上する異物寝返りをうっている特殊部隊を眺め、とまどったように、 こ 0 の

9. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

乳屋はいつも暗がりを手さぐりもしないで左官屋の老人の「高田って、それ、会社の重役だ。元柔道のチャンビオン びん 4 口に牛乳壜をつつこんでやるのに、今日は壁のスイッチをだったってよ。盆栽をかかえて病院へきたという先生よ。 ひねった。 夜になったらやいのやいのってなんとかの盆栽を廊下へだ してた : : : 」 「おう、お父ちゃん、まだ生きてたか」 「サポテンだろう ? 」 牛乳屋は荒つぼい口調でいつもとおなじせりふを叫び、 つかっかと左官屋の老人のところへ歩いてゆく。老人は・ヘ 「そうだ、サポテンだ」 ッドの背に頭をもたれさせ、ロをポカンとあけている。牛「死んだのか ? 」 乳屋はズックの袋を床において一本ぬきだすと栓をとって「昨夜シュテルたって、山内さんがいってた。葬式は会社 老人のロへつつこんでやった。うつろな老人ののどの奥ででだすんだってよ。宴会とおなじに社用でおとすんだって さ。金持は死んでも損しないようにできてるんだ。山内さ 牛乳がごぼご・ほと音をたてる。 「よう、お父ちゃん、ニュースだぞ。五号病室の高田が昨んがそういってたよ」 牛乳屋はおれに背を向けたままそう答えると、部屋の患 夜シュテルたってよ。高田が死んだんだってよ。いまそこ 者の肩を一人一人ゆり起し、ズックの袋をさげてでていっ で看護婦の山内さんに聞いてきたんだ」 なぜ電燈をつけたのかがわかった。牛乳屋はいつもとちた。 がっていた。左官屋に牛乳を飲ませおわると、いつもより朝の五時半に肩をゆさぶられたので患者たちはいつもと ちがって眼をパチ。ハチさせていた。壁のスイッチをひねっ はずんだ、陽気な声をあげて患者の肩を一人一人たたき、 五号室の高田が死んだ、五号室の高田が死んだと大声で耳ておれは眠ろうと思った。ところが、大工がむつくりふ もとに吹きこみながら牛乳壜をおいてまわった。おれにはとんをのけて体を起したので、注意がそれた。大工の小さ この男は狂人には優しいのだが、 な、丸い眼はいまさめたばかりだというのにいきいきと輝 なにもいってくれない。 つもちらと顔だけ見て、 おれには見向きもしないのだ。い いていた。おれはなにか″異常〃の気配を感じた。彼の脳 見て見ぬふりをしてでてゆく。 は狂っているけれどこの部屋ではいちばん敏感なのだ。牛 ・ : 高田って誰だ ? 」 乳屋の言葉が耳から大脳にしみて眼へでたのにちがいなか ーテンダーをゆり起している牛乳屋の背におれは声をつた。右半身不随の彼は左手を使ってべッドからおりる と、壁にたてかけてあった松葉杖をとり、ひょいとあげた かけた。自信のある、おちついた声だった。 せん ゅんべ ばんさい づえ

10. 現代日本の文学48:石原慎太郎 開高健 集

ころあい の歓喜を説明しはじめる。・ほくは頃合をみてそっと彼のま仲間といっしょに公園につれていった。この子は幼稚園で えに新しい紙と絵具をおくのだ。彼の眼の内側に、やがてぬり画ばかりやっていたので、太郎とおなじように自分で ゅううつ ツ。フ派だった。・ほく 白球がとび交い、群衆が起きあがれば、耐えられなくなっ描くことを知らない。憂鬱なチューリ て彼は絵筆をとる。ほんのちょっとしたきっかけで、無人は地面にビニール布をひろげ、あらかじめ絵具や紙や筆を の電車は帰途の超満員電車にまで発展するのだ。いつもお用意してから、彼といっしょに・フランコにのった。はじめ なじ手口で成功するとはかぎらないが、彼らひとりひとりのうち、彼はすくんでおびえていたが、何度ものったりお こうふん しんどう せいへ、 とつばこう りたりしているうちに昻奮しはじめ、ついに振動の絶頂で の生活と性癖をのみこんでいさえしたら、きっと突破口は ロ走ったのだ。 発見されるのだ。すくなくとも・ほくはそう考えたい。 ところが、太郎は何日たっても画を描こうとしなかっ 「お父ちゃん、空がおちてくる ! た。自分のイメージに追われて叫んだり、笑ったりしてい 彼を救ったものはその叫びだった。一時間ほど遊んでか けんそう る仲間の喧騒をよそに彼はひとりぼつんとアトリエの床にら彼は画を描いた。肉体の記憶が古びないうちに描かれた いカた なが すわり、ものうげなまなざしであたりを眺めるばかりだっ画は鋳型を破壊してはげしいうごきにみちていた。 ぎら こうそう た。いつみにいっても彼の紙は白く、絵具皿は乾き、筆も綱ひきや相撲が効を奏したこともあるが、肉体に訴える はじめにおかれた場所にきちんとそろえられたままだつばかりが手段ではない。子供は思いもよらない脱出法を考 こうらよく よくあっ た。泥遊びの快感で硬直がほぐれることもあるので、ためえだすものだ。「トシオノ・ハ力、トシオノ・ハ力」と抑圧者 びん しにフィンガー・べイントの瓶をさしだしてみると の名を・ほくの許すまま壁いつばいに書きちらしてからやっ しか 「服が汚れるとママに叱られるよ」 と画筆をとるきっかけをつくった少女もあった。もうすこ まゆ 彼はそういって細い眉をしかめ、どうしても指を瓶につし年齢の高い子は自分をいじめるタヌキの画をまっ赤にぬ っこもうとしなかった。きちんと時間どおりにやってきてりつぶして息をついた。タヌキは彼の兄のあだ名であった。 一時間ほどしん・ほうづよく坐っては帰ってゆく彼の小さな太郎の場合に困らされたのは・ほくが彼の生活の細部をま から ちゅうてつ 後姿をみると、ぼくは大田夫人の調教ぶりに感嘆せずにはったくといっていいほど知らないことだった。鋳鉄製の唐 くさもよう やし、 草模様の柵でかこまれた美しい邸のなかで彼がどういうふ おれなかった。 まるで画を描こうとしない子供のこわばりを・ほくはいまうに暮らしているのか、そこでなにが起っているのか、・ほ までに何度かときほぐしたことがある。・ほくはある少年をくには見当のつけようがなかった。。ヒアノ教師や家庭教師 すもう