出 - みる会図書館


検索対象: 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)
486件見つかりました。

1. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

57 巻第十一 2459 ~ 2463 2462 我 子こ や 我 を は ま そ 、呪が み り 出い る 月 の : 影 に 見 え 来こ ね あまて ひさかたの天照る月の隠りなば何になそ ( て妹を偲はむ こひ Ⅷ山の端を追ひ出づる月のはつはつに妹をそ見つる恋しき までに しの 遠き妹が振り放け見つつ偲ふらむこの月の面に雲なたな びき ゅ ことはや 我が背子が浜行く風のいや早に言を速みかいや逢はざの意か。この行クは風が激しく吹く意で あろうが、例がない。以上二句、イヤ早 ニを起す序であろう。〇言を速みかー言 らむ 速シは噂が激しい意。「音速み」 ( 一一六一六 ) 、 「言速くはし ( 一一七一一 l) などの例もある。ミ語 法による疑問条件法。原文に「【事」 ( 「速 事」に同じ ) とあり、「ハヤコトナサ・ハ」な どと読む説もある。 や風に寄せる恋。 振り放け見つつーこのサクは視線を 遠くに放っこと。 や類歌一一六六九は第一句が「我が背子がーとあ り、女の作になっている。 山の端を追ひ出づる月のー山ノハは 2 山の稜線。ここは月の沈むべき西山 のそれをいう。この追フは目指して行く こと。『土佐日記』に「浦戸より漕ぎ出で て、大湊を追ふ」などとあるのと同じ用 法。〇はつはつに↓一一四二 ( はつはっ ) 。 一我味子やーこのヤは親密な人 ( の呼 びかけを表す。〇まそ鏡ー次句の照 リ出ヅル月にかけた比喩の枕詞。〇影に 見え来ねーこのカゲは月そのものをいう。 ネは希求の終助詞。 3 なそへてーナソフはなぞらえる意。 眼前にないものを偲んで、現在見え ている他の物に擬すること。 わ いも ふさ い カく おも あ

2. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

こ わぎもこ やす + 我妹子に恋ふれにかあらむ沖に住む鴨の浮き寝の安けく 巻 もなき 隠り妻はも↓一一五六六。〇「里とよめ - ー下二 段活用のトヨムは、トヨモスに同じく、 声で周りのものを震動させること。 たかべさ渡りータカべはこがも。現 囲在たかぶとも呼ばれる。鴨類中最小 で、秋飛来し、四、五月ごろ北帰する。 以上二句、タカの音を繰り返してタカタ 力を起す序。〇高々にー人の来訪をしき りに待ち望む気持を表す副詞。爪先立ち、 背伸びする動作によって言う。〇待ち出 でむかもー待チ出ヅ↓一一哭四 ( 君を待ち出 たかやま たかたか 高山にたかべさ渡り高々に我が待っ君を待ち出でむかもでむ ) 。 5 鳴き来る鶴のー以上二句、音ドロを 起す序。〇音どろもー音ドロは未詳。 遠く聞える音響の意か。音に、驚ク・オ あれこ おと 伊勢の海ゅ鳴き来る鶴の音どろも君が聞こさば我恋ひめド。オドロシなどのオド。が接して約ま った形とする説もある。〇聞こさばーキ コスは言フの敬語。 やも 恋ふれにかあらむー恋フレ・ハニカア 囲ラムに同じ。ニは断定ナリの連用形。 恋フレ・ハカ・恋フレカモなどの疑問条件 形式を、さらに下句から独立させた表現。 歌末に、、のは、、とは、のような語を 補って倒置し、主語ー述語の形に置き換 えて解することも可能。〇浮き寝ー水鳥 などが水上に浮んだまま寝ること。絶え ず動揺することのたとえ。 さとなか かけ こもづま 里中に鳴くなる鶏の呼び立てていたくは鳴かぬ隠り妻は も〈一に云ふ、「里とよめ鳴くなる鶏の」〉 ね 長々し夜をひとりかも寝む」 たづ かけ き つづ

3. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

187 巻第十一 2783 ~ 2787 2786 見天 っ地 の 寄 り 「コ の み 玉 の の 絶 え と が あ た り 2787 2783 こ、も こ からあゐ そのふ ~ 隠りには恋ひて死ぬともみ園生の韓藍の花の色に出でめ やも 2785 あめっち こ 咲く花は過ぐる時あれど我が恋ふる心の中は止む時も なし あかも いめ やまぶき 山吹のにほへる妹がはねず色の赤裳の姿夢に見えつつ ふふ わぎもこ 我妹子が何とも我を思はねば含める花のほに咲きぬべし隠りには↓毛 00 。人に知られずに。 幻このハは逆接と応じて強めを表す働 きに用いたもの。〇み園生ー貴人の庭園。 ここは相手の庭をさす。〇韓藍の花のー カラアヰはひゅ科の多年草けいとうの古 名。秋茎の頂に鶏のとさか状の花を開き、 その汁を染料にしたことから色ニ出ヅを 起す比喩の序とした。〇色に出でめやも ー色ニ出ヅ↓一一五一一三 ( 色には出でず ) 。人目 につくようなことなどいたしましようか 過ぐる時あれどーこの過グは盛りを 幻過ぎて衰える意。↓毛四一 ( 間あらむ ) 。 6 山吹ーばら科の落葉低木。春黄金色 幻の花を開く。〇にほへる味がー色美 しい恋人の。ニホフは本来赤系統の色が 発散する意。〇はねず色ー黄赤色のいわ ゆる、くちなし色。ハネズ↓六五七 ( はね ず色の ) 。 や以上四首、花に寄せる恋。 天地の寄り合ひの極みー天地が無限 のかなたで寄り合う、その極点まで。 時間的に無限の将来を表すために空間的 無限遠点を借りた表現。〇玉の緒のー絶 ュ・乱ル・長シ・継グなどの枕詞。ここ は絶エジにかかる。〇絶えじと思ふーこ の絶ュは男女の関係が切れることを表す。 連体格。「妹」に続く。 なに われ いも たまを あ うち や い 2787

4. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

見たいものは空のかなたに見える美しい十羽の松原だ皆の者よさあ出 て見ようどうせ放すなら国で放してほしかったどうせ放すなら家で放し 集てほしかった天地の神々が恨めしい ( 草枕 ) この旅のさ中で妻を引き放 葉してよいものか 萬 反歌 ( 草枕 ) この旅先で妻に死なれ故郷 ( 帰る家道を思うと人心地もない〈あ る本の歌には、「旅のさ中で」とある〉 右の一一首 萬葉集巻第十一一一 とば 見欲しきはー見欲シは、見ることが 3 願わしい、の意。着欲シの類例があ る。〇雲居↓三一六七。〇うるはしきー国土 山川など自然の景物を賛美するにはウル ハシを用いて、ウックシといわない。〇 十羽の松原ー所在未詳。〇童どもーワラ ハは幼児。また成年に達していてもその 髪を結い上げていない使用人、小者など にもいう。ここは後者に対する呼び掛け。 〇いざわ出で見むーイザは他人に誘い掛 けたり、自ら行動を起そうとしたりする

5. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

4 っ 4 あ あおもいも や ならやま + 奈良山の小松が末のうれむぞは我が思ふ妹に逢はず止み 第 巻 なむ 2485 2486 ふたり 君来ずは形見にせむと我が二人植ゑし松の木君を待ち出〇君を待ち出でむー待チ出ヅは、待。た 甲斐があって対象が出現したことを、主 語を一本化して表現したもの。この出ヅ でむ は他動詞的用法。松は待ッと同音ゆえき っと待つ効果があろう、と考えたもの。 5 袖振らば見つべき限りー袖振ルの主 四語は夫、見ルの主語は作者 ( 女 ) 。ッ ペシは可能を表す。旅に出る夫が名残を 惜しんで振る袖が見える、そのぎりぎり まで。〇その松が枝ーこのソノは現場指 示としての用法。作者の眼前にある松の 木の枝。 跖千沼の海ー大阪市の南部から岸和田 四市の一帯にかけての大阪湾の呼称。 千沼は和泉国 ( もと河内国の一郡 ) の古名。 〇浜辺の小松根深めてー序から主題への 転換が緩やかな一例。〇人の児↓一一三六七。 〇「潮干の小松」ーこの潮干は潮が干た跡。 以上二句、ネモコロを起す序。〇「恋ひ や渡らむ」↓一三六七 ( 我が恋ひ居らむ ) 。 7 奈良山ー奈良市北部の丘陵地。〇小 四松が末のーウレは木草の枝先や葉の 先端、または山の頂をいう。以上二句、 同音を利してウレムゾを起す序。〇うれ むぞー未詳。「うれむそこれのよみがヘ りなむ」 ( 三一一七 ) とも見えたことから、反語 性の疑問副詞と考えられる。 ちぬ はまへ 千沼の海の浜辺の小松根深めて我恋ひ渡る人の児故に しひ 或本の歌に曰く、「千沼の海の潮干の小松ねもころに 恋ひや渡らむ人の児故に」 そぞふ 袖振らば見つべき限り我はあれどその松が枝に隠らひに けり かたみ うれ われ あれ こゅゑ

6. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

207 巻第十一 2827 ~ 2829 し も の あ な 衣 : む に 寄取 替カ て を 吟た 墨くと るば なや が ノし、す れ た る 2829 2828 2827 くれなゐ ゅ ころもぞ くれなゐ 紅の花にしあらば衣手に染め付け持ちて行くべく思 ほゅ きぬ ふかそ う区別があった。類歌「深染めの衣」 ( 3 三三 ) もコゾメノコロモと読み改めたい。 〇下に着ばーシタは人の目につきにくい 所、裏面をいう。ここは下着として着る ことをいう。〇人の見らくにー見ラクは 見ルのク語法。ここは、人の見ている所、 の意。〇にほひ出でむかもーニホフ↓一一七 会 ( にほへる味が ) 。ここは赤く派手な色 が上衣を通して透けて見えることをいう。 ◆こっそり逢ったつもりだが、相手が美 人であるため、他人に見あらわされるの ではないか、という寓意の歌。 9 衣しも多くあらなむーシモは強め。 ゅ 『古今集』には「時しもあれ」 ( 会九 ) 、 のようにコソと同じく結びに已然形を求 した 紅の濃染めの衣を下に着ば人の見らくににほひ出でむめる例もある。ナムは希求の終助詞。ヌ 力やコソに比べて、、であったらよいの に、と事実に反すること、実現の可能性 か、も がないことを仮想する場合に用いられる ことが多い。着物こそは多い方がよいが、 配偶は一人で十分だ、と多情な男を非難 した女の言葉。〇取り替へて着ればやー 疑問条件。あれこれ沢山の女性と関係を 結ぶからなのか、の意。〇君がーこのガ は主格を示す。〇面忘れたるー面は作者 の顔。長い間相手の男が来てくれなかっ たことを皮肉って言う。 右の二首 きぬ そ

7. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

+ 我が背子が使ひを待っと笠も着ず出でつっそ見し雨の降 巻 らくに 3119 慰め合って過そう、という気持で言う。 〇紐解け我妹ー相手を含めたわれわれの 意志を表す文の末尾は一般に「今は漕ぎ 出でなーのように願望のナを用いるが、 共寝の場合に限り、命令ないし希求のネ を用いる。原文は大部分の古写本に「綏 解我妹ーとあるが、「綏ーは車内に垂して これをつかんで乗車する縄の類を意味し、 これを紐の意に転用したものであろう。 ただ冷泉本系に属する一本に「倭」とあり、 それは冠の緒を表す字「綏」の誤りと考え られる。「綏」が時に「綏」と通用であった ことは、中国にも例があり、『新撰字鏡』 いまさら またよ 今更に寝めや我が背子新た夜の全夜も落ちず夢に見えにも「綏綏二同、冠緒也」とある。 今更に寝めやー事新しく共寝しなく 引てもよいでしよう。〇新た夜↓一一八四一一。 こそ 〇全夜も落ちずー原文に「全夜毛不落」と ある。類歌一一八四一一に「一夜も落ちず」とあり、 これと合せて読み、「全夜ーは意によって 書いた、と解すべきか。 ◆類歌三一一会。 笠も着ずーこの着ルは笠をかぶるこ 引とをいう。〇雨の降らくにー降ラク は降ルのク語法。ク語法十ニもナクニと 同様に逆接を表すことがある。ここもそ の一例。 ◆一一交一に重出。 ゅ こよひ よひ 明日よりは恋ひつつ行かむ今夜だに早く宵より紐解け わぎも 我妹 わせこ けむ 右の一一首 右の一一首 あらよ かさ い いめ ひもと

8. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

( 白たへの ) わたしの袖に露は置いたあの娘は逢ってくれないためらって 8 いて 集あれこれと物思いはしますまい朝露のようにはかないこの身一つはあな 葉たまかせです あさとぞ ゅうこ 萬タ凝りの霜が置いています朝戸出の時強く踏みつけて人に知られてはな りません これほどに恋をし続けるくらいなら朝も昼もあの娘が踏んでいる土であ る方がましだ こあ 0 露は置きぬー原文に「露者置」とあり、 底本などはツュハオキテと読んでい るが、ツュハオキ ( 嘉暦本 ) ・ツュハオキ ヌ ( 略解 ) ・ツュハオケド ( 古義 ) など各種

9. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

我妺子が我を送ると白た ( の袖漬つまでに泣きし思ほゅ刈り薦ー「モは沼地に生えるいね科 の多年草、まこも。それを刈り取っ て編み、敷物や敷蒲団代りに用いた。 0 寒けくもなしー寒ケクは形容詞寒シのク 語法。↓一三八一 ( 見まく欲しけく ) 。 幻かきつはたーあやめ科の多年草。 乃は清音。ここはその下のニッラフ君 の比喩。〇につらふーサニッラフとも。 ニは丹、朱色を表すが、ツラフの語性不 乃刈り薦の一重を敷きてさ寝れども君とし寝れば寒けくも明。赤みを帯びた、の意で、多くは若い 女性の血色の良い肌を形容するのに用い るが、ここは若い男について言ったもの。 なし 〇ゆくりなくーだしぬけに。思いがけな 恨みむとー恨ムは上二段活用。これ おもい 乃から派生した形容詞が恨メシである かきつはたにつらふ君をゆくりなく思ひ出でつつ嘆きっ ことから、あるいは当時上一段活用であ ったかと思われる。自分に加えられた仕 辺 Q 力、も 打を不満に思い、相手に報復する、ない し、恨み言を言う意。原文は「恨登」とあ り、ウラメシトとも読まれるが、『新古 おも今集』に「さらでだに恨みんと思ふ我味子 + 恨みむと思ひて背なはありしかば外のみそ見し心は思 が」 ( 一三 0 五 ) とあるのにより、旧訓に従う。 第 〇思ひて背なはーセナは夫。ただし、東 巻 へど 国特有語か。また原文に「思狭名盤とあ るが、順接条件句の主格はノ・ガをとる のが例であり、この訓は決定的でない。 2518 2519 のち いたと 奥山の真木の板戸を押し開きしゑや出で来ね後は何せむ うら わぎもこ こ、も われ ひとへ そぞひ よそ い こ

10. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

367 巻第十二 3207 ~ 3211 3210 3211 あらたまの年の緒長く照る月の飽かざる君や明日別れにかけた。一三一三にも例があり、アシヒキ ノ・ヌ・ハタマノにも「あしひきの岩根こ ごしみ」 ( 四一四 ) 、「ぬばたまの月に向かひ なむ てー ( 三九八八 ) などの同じような修飾例があ る。〇闇の夜に見ゅー悲しみの涙で眼前 が真っ暗になることをいう。↓大二 ( 闇 のみに見つ ) 。原文は「闇夜耳見」とある が、「耳」は「所」の誤りとみて意改し、一兀 暦校本などの古写本の訓に従った。 春日なる三笠の山ー春日は春日山 ( 一一 四五四 ) に同じ。三笠ノ山↓一一六七五。広義 の春日山の中に含まれる。〇居る雲ーこ の居ルは雲がかかってしばらく動かない かすが 春日なる三笠の山に居る雲を出で見るごとに君をしそことをいう。 片山雉ー山の傾斜地に住んでいる雉。 おも 雉が妻問いした後、鳴いて別れると 思ふ 考えて、旅に出て行く別れがたい夫のた とえとした。 0 現しけめやもー現シケは、 正気である、の意の形容詞現シの未然形。 きりよ ↓一一五 0 八標題。ここは羈旅・悲別に関 する問答歌を集めたもの。 玉の緒の現し心や↓一一大一。普段の安 らかな気持で残って居られようか。 〇八十梶掛けー八十梶は数多くの梶。カ 問答歌 ヂをカとだけいうのは、「大船の香取 ( 一一 を 四三六 ) ・カコ ( 水夫 ) とこの八十梶だけでい うつごころやそかか 玉の緒の現し心や八十梶掛け漕ぎ出む船に後れて居らむずれも複合語。 3208 かたやまきぎし あしひきの片山雉立ち行かむ君に後れて現しけめやも やみよ 久にあらむ君を思ふにひさかたの清き月夜も闇の夜に 見ゅ ひさ みかさ を つくよ うつ おく を 3210