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検索対象: 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)
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1. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

こい 荒磯を越えてあらぬ方に去る波のようなあだな心をわたしは持つまい恋 死にはしても もと 集近江の海の沖の白波知らなくてもあなたの許とあらば七日でも続けて来 葉 よう かとり 萬 4 ( 大船の ) 香取の海にいかりを下ろしいかなる人が物思いせずにいようか いおえなみ 沖の藻を隠している波の五百重波のように千重に重ねて恋し続けること よ 荒磯越しーアリソはアライソの約、 人気なく岩石の多い水辺をいう。越 スは本来越ュの他動詞。波や風が障害物 を越えるのには越スを用いる。〇外行く 波のーホ力はある範囲より逸脱した部分。 以上一一句、外心を起す比喩の序。〇外心 ー特定の人以外の人を愛するよこしまな 沖っ白波ー知ラズのシラを起す同音 の序。第五句の越工に意味の面でも 2435

2. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

岩の上をほとばしり流れる滝の水のように早いーはしきやしーいとおしい あなたに恋するのもわが身のせいだ 集あなたは来ないしわたしはわけもなく立っ波のようにしきりにわびしい 葉これきり来ない気ですか おうみ 萬近江の海でも岸辺の波のことは誰でも見てわかります沖波の深い所はあな たをおいては知る人もありません 大海の底のように心の奥深く結んでおいたあの娘の心は確かで疑う余地 石走るー岩の上をほとばしり流れる。 がない 〇垂水の水のータルミは瀑布。以上 さだうら 貞の浦に寄せる白波のように絶え間なく思 0 ているのになぜあの娘に逢二句、 ( シキャシを起す序。次句の原文 に「早敷八師」とあり、ハの音に早い意が えないのだろう あってそれにかけたのであろう。〇はし きやしーいとしい。↓一一三究。〇我が心か 思い出してたまらなくなった時は ( 天雲の ) 限りもなく恋い焦れている ら↓一一九全。 ◆垂水に寄せる恋。 % 君は来ずー連用中止格。〇故なく立 っ波のー故ナクは、原因となるべき 事実がなくて、の意。風が吹けば波も立 とうが、その風も吹かないのに波が立つ、 それと同じように、の意。ここは、相手 から疎まれるようなことをした覚えもな いのに、という気持をこめて言った。〇 わびしー極度の悲嘆のために気力をなく し、がっかりしている意。〇かくて来じ

3. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

つん っ】 + 沖っ藻を隠さふ波の五百重波千重にしくしく恋ひ渡る 第 巻 力、も 続いている。〇知らずともー湖上の通い 路なので、毎回どの道を行くべきか迷う が、たといどんな苦労をしても、の意か 〇妹がりといはば↓一三六一 ( 妻がりといは ば ) 。〇七日越え来むー七日は多い日数 を示す。何日でも欠かさずに来よう、の 意。 % 大船のー地名香取の枕詞。カヂトリ あふみ 2 をまたカトリともいったのでかけた。 近江の海沖っ白波知らずとも妹がりといはば七日越え「神代紀」下に経津主に関して「此の神 かレ」り いま 今東国欟取の地に在す」と記している。 来む ↓三一一一一 ( 八十梶掛け ) 。〇香取の海ー「高 島の香取の浦」 ( 二七一 l) と同地で、滋賀県 高島郡内の湖岸の一部であろうが、所在 未詳。〇いかり下ろしーイカリの原文、 おほぶね おも 大船の香取の海にいかり下ろしいかなる人か物思はざこの歌は借訓「慍」を用いているが、一一噐 0 などは「重石」、『播磨風土記』 ( 飾磨郡 ) な どには「沈石ーとあって、この当時石が一 らむ 般に用いられた。以上三句、イカの音を 繰り返した序。 引隠さふ波のー隠サフは隠スの継続態。 四このノは同格を示す。〇五百重波ー 幾重にも重なる波。以上三句、千重ニシ クシクを起す序。〇しくしくーシクシク ニとも。元来、シク波・シキ波などとも 用いられ、何度も繰り返す意の動詞シク の重複形。 おきも かゆ ほかごころあれ 荒磯越し外行く波の外心我は思はじ恋ひて死ぬとも こ 力、も ありそ かしトり・ いほへなみちへ お いも なぬか

4. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

白波の来寄する島の荒磯にもあらましものを恋ひつつあ〇恋ひつつあらずは↓一一査六。 水沫に浮かぶ砂にも↓一三 0 四 ( 浮き砂 ) 。 絶えず動揺し不安な心理状態をたと らずは える。このニは、、として、、となって、 の意から比喩の対象を表す働きに転じた もの。〇我は生けるかーこの力は詠嘆。 住吉の岸の浦廻ー住吉↓一一六四六 ( 住吉 の津守網引 ) 。浦廻は入江の曲部。 〇しく波のーシクは、あとからあとから とひっきりなしに繰り返す、の意。以上 三句、シクシクを起す序。 風を疾みーイタミは形容詞イタシの 2 ミ語法。このイタシは荒く激しい意。 うらみ すみのえ 住吉の岸の浦廻にしく波のしくしく妹を見むよしもがも〇いたぶる波のーイタブルは激しく揺り 動かす意。ここは波が激しく動揺する意。 「波のほのいたぶらしもよ」 ( 三 0 ) のイタ プラシは、これから派生した形容詞。波 あひおも おも あひだ 風を疾みいたぶる波の間なく我が思ふ君は相思ふら・風・雪・氷・露・霜・地震などの天然 現象、自然現象を表すのに、他動詞を自 動詞のように用いる例は多い。以上二句、 むか 間ナシを起す序。 大伴の三津の白波ー大伴ノ三津↓一一七 十 孟 ( 三津の埴生の ) 。以上一一句、間ナ 第 シを起す序。〇人の知らなくーこのヒト 巻おとも は他人、無縁な存在の人の意。ここは自 分に対して無関心な相手をさす。ク語法 止め。 2737 2733 まなご みなわ 潮満てば水沫に浮かぶ砂にも我は生けるか恋ひは死な ずて こ あひだ 大伴の三津の白波間なく我が恋ふらくを人の知らなく きょ ありそ あ あれい いも 2735

5. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

うみぢ やまぢ あしひきの山道は行かむ風吹けば波のささふる海道は行いい加減である、の意のオホ、オホホシ、 オホロカなどの第二音節のホは清濁両形 があった。なお、元暦校本に二句下の かじ 「和」の原文と同じく「箟跡」とあるのによ ってノドと読む説もある。〇恐きや神の 渡りー旅人の渡航を妨げる邪悪な神の盤 あるん 拠する渡し場。「景行紀」二十七・一一十八 あなのうみ やまとたけるのみこと 或本の歌 年の条に、日本武尊が吉備の「穴海」の きびのみちのしりかみしま つきのおみのおびとかばね 悪神を退治した、とあり、その「穴海」は かんなべ 備後国の神島の浜にして、調使首、屍を見て作る歌一首 神島辺で開口し今日の神辺平野を水面下 に収めていた人海で、そこの悪神が毒気 あは 并せて短歌 を吐いて旅人を苦しめたといわれる。こ の水死者もその犠牲者と考えられていた ゅ 玉桙の道に出で立ちあしひきの野行き山行きにはたづみものか。〇しき波↓一西一七癲々のしき波 ) 。 〇高山ーここは神島の南の草戸山から鞆 めまくま うみぢ 月行き渡りいさなとり海道に出でて吹く風もおぼには吹まで続く沼隈山地の山々をいう。〇浦ぶ ちー海辺にある淵。↓三三四一一。〇枕にまき かしこ かず立っ波も和には立たぬ恐きや神の渡りのしき波のてーマクは枕にする意。 ◆この歌は、「三三五の前一二分の二「立っ波 まくら も凡には立たず」と、後三分の一「とゐ波 寄する浜辺に高山を隔てに置きて浦ぶちを枕にまきて のささふる道を」との間に「三三六の歌が挟 まなご おもちち み込まれたような構成になっている。二 + うらもなく伏したる君は母父が愛子にもあらむ若草の 首の歌が融合した形であろう。作者名や 巻 AJ いへぢ 詠まれた場所を記さないたてまえのこの 妻もあるらむ家問へど家道も言はず名を問へど名だにも巻十三の中にあって、このように題詞を 設けてそれらの作歌事情を明記するのは こと かしこ ただ 告らず誰が言をいたはしとかもとゐ波の恐き海を直渡例外的である。 3339 たまほこ はまへ た のど ゅ

6. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

うわさ おうみ 近江の海の沖っ島山の心のおく深くわたしが思うあの娘にはあれこれ噂 が高いことよ 集 ( 霰降り ) 遠つ大浦に寄せる波よしや人が言い寄せてもあなたは憎くない なたか 葉紀伊の海の名高の浦に寄せる波のように音ー噂が高いことよ逢ってもい 萬ないあの娘のことで うしまど 牛窓の波の潮鳴りが島を響かせるように音高く言い寄せられたあの人は 逢いに来てくれないのではなかろうか さだ 沖の波や岸波の寄せる左太の浦のこのさだ ( 時 ) を逸してあとで恋しく 思うことだろうか 2731 2729 ノ 囲沖っ島山↓ = 四三九。以上一一句、類音に よってオクを起す序。〇奥まへてー 心の奥深く秘めて、の意か。一 0 一一四・一 0 一三 にも例がある。類歌一一四三九には「奥まけて」 とある。〇我が思ふ妹が言の繁けく↓一一四 霰降りー遠ツ大浦のトホの枕詞。板 ひょう 屋根などに降る雹の音をトボトボと 聞いたものか。〇遠つ大浦ー大浦は滋賀 にしあざい 県伊香郡西浅井町大浦の地。琵琶湖北岸 大浦湾の最奥部にあるので遠ツを冠した。 〇寄する波ー以上三句、ヨスを起す序。 〇よしも寄すともーヨシは許容を表す。 この寄スは言寄ス ( 一一五六一 l) の意。〇憎くあ らなくに↓一一五六一一。 名高の浦ー和歌山県海南市名高の、 かって黒江湾の奥部の海浜であった 一帯。現在は陸地化し、国鉄海南駅の東 南に当る。〇寄する波ー以上三句、音高 シを起す序。〇音高きかもー音高シは人 あずまうた の噂が激しい意。東歌にも「音高しもな

7. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

165 巻第十一 2728 ~ 2732 2732 か沖 もつ 波 辺、 み の 来き 寄よ る 左さ 太だ の 浦 の こ の さ だ 過 ぎ て 後 む ことしげ あおもいも あふみ 近江の海沖っ島山奥まへて我が思ふ妹が言の繁けく とおうら 霰降り遠つ大浦に寄する波よしも寄すとも憎くあらな くに 寝なへ児故にー ( 三五 ) とある。〇逢はぬ 児故にーこのユヱニは、、なるものを、 の意の逆接的な意靺用法の一例。 1 牛窓ー岡山県邑久郡牛窓町。南の前 島との間に牛窓の瀬戸と呼ばれる小 海峡がある。当時瀬戸内海を山陽道沿い に航行する船はこの瀬戸を通過した。牛 窓のトは清音であったとも思われる。後 世の資料だが、細川幽斎の『九州道の記』 にこの地を「宇島門」と書いた例がある。 〇波の潮さゐー潮サヰは潮の流れと風と あ おとだか なたか 紀伊の海の名高の浦に寄する波音高きかも逢はぬ児故にがぶつか。て生じる波のざわめき。以上 二句、その音が高いことからやかましく 噂されたことの比喩の序をなす。〇島と よみ↓毛 0 四 ( 山下とよみ ) 。〇寄そりし君 うしまど 牛窓の波の潮さゐ島とよみ寄そりし君は逢はずかもあーわたしと関係があるように言い騒がれ たあの人。ョソル↓一一七 0 八 ( 名のみ寄そり らむ 2 左太の浦のー左太ノ浦は所在未詳。 幻「貞の浦」 ( 三 0 一一九 ) と同地か。以上三句、 サダを起す同音の序。〇このさだ過ぎて ーサダは時の意か。適時・盛時が過ぎる 意の中古語サダスグもこれから出たもの であろう。 ◆三一六 0 に重出。この機会を逸してはもう 逢えなくなるのではなかろうか、と不安 な気持で詠んだ歌。 2731 あられふ おき おく こゅゑ

8. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

おぶね 大船のたゆたふ海にいかり下ろしいかにせばかも我が恋て魚を捕える。この居ルは生息する意。 〇沖っ荒磯に寄する波ー以上三句、行ク や へ知ラズを起す序。〇行くへも知らず↓ 止まむ 一一七一一三 ( 行くへ知らずて ) 。 艫にも舳にもー艫は船尾、舳は船首。 2 原文は、底本などの仙覚本系諸本に は「舳毛艫毛」とあるが、嘉暦伝承本や類 聚古集などに「艫毛舳毛」とあるのを古形 トモの順序は、 と認め、これによる。へ・ へ先行一例 ( 三九 ) 、トモ先行二例 ( 一一 0 兊 ・四一一五四 ) と両方の形が見える。〇寄する 波ー以上三句、ヨスを起す序。〇寄すと も↓一一七一一九 ( よしも寄すとも ) 。 1 立つらむ波ーこのラムは恒常的事実 幻に関する推量を表し、伝聞に近い用 法。〇間あらむー以上三句は、ひっきり なしに寄せる波でさえ休止する時があろ うが、として以下に述べる自分の恋の絶 え間ないことと対照比較させるために取 り上げたもの。このような表現法は「韓 とまりのこ っ 4 亭能許の浦波立たぬ日はあれども家に 恋ひぬ日はなし」 ( 三六七 0 ) など、例が多い。 十 志賀の海人↓一一六一三。〇火気ー煙。ホ 第 あれ 幻ノケ ( 三 0 三三 ) ともいう。〇焼く塩のー 志賀の海人の火気焼き立てて焼く塩の辛き恋をも我はす以上 = 一句、カラシを起す序。〇辛き恋ー このカラシは、つらい、苦しい、の意。 ◆類歌三会一。 るかも 2739 大船の艫にも舳にも寄する波寄すとも我は君がまにまに あひだ 大き海に立つらむ波は間あらむ君に恋ふらく止む時も なし ありそ みさご居る沖っ荒磯に寄する波行くへも知らず我が恋ふ らくは レ」、も われ から や あ あ

9. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

かきのもとのあそんひとまろ 柿本朝臣人麻呂の歌集の歌には ことあ みず 8 3 あしはら 乃葦原の瑞穂の国は神意のままに言挙げしない国ですそれでも言挙げを 集わたしはしますお元気にご無事でいらっしゃいとつつがなくお元気であ ももえなみちえなみ 葉られたら ( 荒磯波 ) ありてもーそのうちに逢えようと百重波千重波のよう 萬に繰り返して言挙げをしますわたしは言挙げをしますわたしは 3 葦原の瑞穂の国ー日本の古名の一つ。 ちあきながいあき 反歌 「豊葦原の千秋の長五百秋の瑞穂の ことだま ( 磯城島の ) 大和の国は言霊の助け給う国ですご無事でいらしてください国」 ( 古事記 ) などともいう。瑞穂はみず みずしい稲穂。〇神ながらー神意のまま 右の五首 に。〇言幸くー予祝する言葉のとおり無 事に、の意か。〇ま幸くませとーマ幸ク 乃昔からの言い伝えには恋をすると苦しいものだと ( 玉の緒の ) 言い継が のマは接頭語。マセはイマセに同じ。〇 れているがあの娘の本心がわからずそれを知るすべがないので ( 夏麻つつみー事故。〇荒磯波ー同音でアリに かけた枕詞。〇ありても見むとーこのア 引く ) 命を傾けて ( 刈り薦の ) 心もうちしおれて人知れずⅱ リはこのままの状態を表す。この句は、 上の「ま幸くませと」と並立をなし、下の 「言挙げす」に続く。〇千重波にしきーこ のニは比喩の語に付き状態を表す。シク はあとからあとからひっきりなしに繰り 返す意。〇言挙げす我はー歌の最後の句 を小字で重ね書いた部分は繰り返して歌 われたことを示す。この巻十一二にも三三 ・三三三六に例があり、「仏足石歌ーの第六句 も、正確な意味での繰返しではないが、 似た形式になっている。

10. 完訳日本の古典 第5巻 萬葉集(四)

7 大船さえも揺れる海にいかりを下ろしいかにすればわたしの恋は静まる だろうか 集みさ・この住む沖の荒磯に寄せる波のように行くえもわからないわたしの 葉恋は 萬大船のともにもへさきにも寄せる波たとい人から言い寄せられてもわたし はあなたの意のままに 大海に立っている波も止む間がありましようあなたを恋しく思うことは や 止む時もありません しかあま 志賀の海人が煙を上げて焼く塩のようにからい恋さえわたしはすること よ 2741 2742 8 たゆたふーゆらゆらと揺れて安定し ないこと。〇いかり下ろし↓一一四三六。 ここもイカの同音繰返しの序だが、意味 の上からも、心の動揺を静めようと努力 することを匂わせたもの。 9 みさご居るーミサゴは鷲鷹目みさご もうきん 幻科の鳥。猛禽類の中では比較的小さ とび 、鳶と同じくらいの大きさで、荒磯や 孤島などの断崖に住み、水面に急降下し