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検索対象: 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)
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1. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

471 巻第十 1964 ~ 1968 1967 ぐ は し き 花 橘 を 玉 に 貫ぬ き 送 ら む は み れ て も あ る ものおも 默 . もあらむ時も鳴かなむひぐらしの物思ふ時に鳴きつつ もとな 1966 倏を詠む こ ころもす 思ふ児が衣摺らむににほひこそ島の籐原秋立たずとも きな ほととぎす来鳴きとよもす橘の花散る庭を見む人や誰 も 花を詠む しの はなたちばな 風に散る花橘を袖に受けて君がみ跡と偲ひつるかも はりよ あと はりはら たれ このムニは、 : ・ムタメニの意。〇にほひ こそーニホフは本来赤い色が発散する意 だが、ここははんのきの実が熟して茶褐 色になることを含めて、その葉が黄葉す ることをいう。コソ↓一一三 ( 目のみだに 我に見えこそ ) 。〇島の倏原秋立たずと まだら もー島ノ籐原は「時ならぬ斑の衣着欲し きか」 ( 一一一六 0) のそれと同地か。籐の実が 熟するのは秋なのでこう言った。この歌 も若い恋人の成長を待ちわびる趣か。 君がみ跡とーこのアトは記念の意。 トは、、として、、と田 5 って、の意。 この「君」は、橘を媒介として思い浮べら れる男性をさすのであろう。 かぐはしきーカグハシはカウ・ハシ・ カン・ハシの古形。語源は香十細シ ( ↓一会 D で、香が優れている意。ここは 原義的用法。〇玉に貫き↓一五 0 一一 ( 玉にこ そ貫け ) 。ここは実に緒を通すのでなく、 蕾に緒を通して首飾り状にすることをい うのであろう。〇みつれてーミツレは、 やつれ疲れ、の意か。「かくばかりみつ れにみつれー ( 七一九 ) という例もある。 花散る庭↓一四当 ( 花散る里のほとと ぎす ) 。〇見む人や誰ー見るのはお そらくあなたであろう、の意。 ◆自家の花橘を媒介として相手を誘う歌。 1968

2. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

かわら 佐保川で鳴いている千鳥よどうしてそう川原を愛してせっせと川を上る のか 集人は通り一遍に思って何とでも言おうがわたしがこんなに愛している川原 葉 をひとり占めなさるな 萬 右の一一首は、鳥を詠む。 しがつあま 3 ささなみ 乃楽浪の志賀津の海人よわたしが居ない時に水に潜るでないぞ波が立たな くても 大船に梶でも調っていればよいのですがあなたが居ない時に水に潜りまし ようか波が立たなくても 右の二首は、海人を詠む。 1251 さ かじ ちどり のな 佐保川↓二一三。 0 鳴くなる千鳥ー呼 びかけ。千鳥↓二一三 ( 清き川原に鳴 く千鳥 ) 。このナリは伝聞推定。〇なに しかもーナニは、どういうわけで、の意 の疑問副詞で、動機や原因を尋ねるのに 用いる。〇いや川上るーイヤは、いよい よ、の意。ただし、ここは、頻繁に、の 意に用いた。この川上ルは小走りに駆け る意か。↓二一一四 ( さをどる千鳥 ) 。 ◆千鳥は通い来る男の比喩で、女の親が 迷惑げに ( あるいは男の友人がひやかし 半分に ) 、取柄のない娘に何故そんなに 繁く通うのか、と尋ねる趣の歌であろう。 2 人こそばーヒトは鳥に対していう。 裏に、他人、の意をこめる。コソ・ハ 1251

3. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

赤土に寄する こと うだまはに やまと 引大和の宇陀の真赤土のさ丹つかばそこもか人の我を言な 七さむ 巻 1375 やみよ 闇の夜は苦しきものをいっしかと我が待っ月もはやも照意。ヌ力は希望。上にモをとることが多 いが、この歌には二つもモがある。 や恋人を月にたとえてその来訪を待っ歌。 らぬか 消易き命ーケはキエに同じ。ケ・ケ ・ク・ : と活用した。〇誰がためにー あなた以外の誰のために、の意。「・ : 誰 あさしも けやすいのちた わおも ちとせ が故に心尽くして我が思はなくにー ( 一三一一 朝霜の們易き命誰がために千歳もがもと我が思はなくに 0 ) 、「 : ・誰ゅゑに乱れむと思ふ我ならな やみよ くに」 ( 古今七一一四 ) などと似た表現。ただし、 右の一首は、譬喩歌の類にあらず。ただし、闇の夜の歌人の タメは目的・利益を表し、原因・理由を 表すュヱとは差があった。〇千歳もがも とも もち おもひ 所心の故に、並にこの歌を作る。因りてこの歌を以て、このーモガモは願望を表す。 一原文には「不有譬喩歌類也」とある。 つぎての その「不有」は、、がない、、を持ってい 次に載す。 ない、の意で、、でない、、にあらず、 の意を表すには、「非」や「不」が一般に用 いられる。和習漢文の誤用であろう。 一三七四の作者。 三「所思」に同じく、和習的表現。思う こと しやど 四顔料に用いる赤土や赭土の類。 宇陀の真赤土ー宇陀は奈良県宇陀郡。 マは接頭語。〇さ丹つかばーサニッ クは赤みを帯びること。愛する心が表情 に出たら、の意。〇そこーそのこと。〇 言なさむー言ナスは、とやかく噂する意。 神に寄する 四 に るい あ わ 1376 1375 ↓一三一三。

4. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

( たらちねの ) 母の仕事の桑でさえ頼めば衣に着られるというのに 0 かわいらしいわが家の毛桃は本がしつかり茂っているので花だけ咲いて 集実らずじまいということがあろうか かつら したえだ 葉向こうの山の若い桂の木の下枝を手に取り花が咲くのを待っ間にため息 萬 をついたことだ 花に寄せる 命がけでわたしは愛しているのに山ぢさのようにあなたはあだ花でもう 気が変ってしまったのでしようか や くわ 引たらちねのー母の枕詞。語義未詳だ が、原文に「足乳根乃」とあり、また 他の歌で「垂乳根乃」などと表記したもの もあることからみて、母乳の満ち足り、 したたるばかりに豊かな意と考えられて いたのであろう。〇母がその業るーナル は生業として勤労する意。このソノはす ぐ上の語を受けて強める働きに用いた。 養蚕は家婦の仕事であった。〇桑すらに ースラニは単独のスラと同じく、極端な 例を示し、一般を類推させる働きを有す る。副助詞サへ・スラは、元来、体言的 性格の語で実質性が強く、サへは添へ ( おまけの意 ) の転、スラは空と同源の空 虚なものの意と考えられる。これらに資 格を表す、、として、の意の格助詞ニが 付いた、サへニ・スラニの形がむしろ原 形で、慣用の結果ニのない形が一般的な ように思われるに至った。ノミニ ( 一四査 など ) も同じであろう。桑は蚕の飼料で、 やがて繭糸となり衣服ともなる霊妙さを 主題としたもの。 ◆心から願えば、万事かなうもの、恋も

5. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

七風吹きて海は荒るとも明日と言はば久しくあるべし君が 巻 まにまに 「大舩」とある。これによってオホプネノ と読む説もあり、その可能性もなくはな い。〇さもらふ水門ーサモラフは、様子 をうかがい、事態の好転するのを待つ意。 見守る意のモルの継続態に接頭語サが付 いた形。ここは、船出しようとして波風 の静まるのを待っこと。水門↓二六一一 ( 的 形の湊 ) 。〇いづへゅーイヅへは方向に 関する不定代名詞。原文に「従何方」とあ り、イヅクュ・イヅチュなどの訓も可能 イヅクは場所に関する不定代名詞だが、 イヅチ・イヅへと相互に通用することが ある。〇率凌がむーヰルは引き連れる意。 シノグは、障害物を押しのけ突き倒して 海に寄する 進むこと。 おほうみ みなと 大き海をさもらふ水門事しあらばいづ ( ゅ君は我を率凌◆相手の男に、結婚に関する種々の困難 を乗りきれる自信があるか否かを尋ねる 女の歌。 がむ 風吹きて海は荒るともー目下周囲の 状況は自分たちにとって好ましくは ないが、の意。〇明日と言はばー明日ま で待ってほしいと申し上げたら。〇久し くあるべしー久シクとアリとが連続して も久シカリとなることは少ない。〇君が まにまにーマニマはママの古形。心任せ に、の意。 ◆女の方から誘う内容の歌。 川に寄する まも わた この川ゅ舟は行くべくありといへど渡りごとに守る人 あり けり あ わ し の

6. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

海に寄せる かじ 大船に梶をいつばい通し漕ぎ出したら沖はきっと深かろう潮が干た時で 集も ふしご 葉弸伏越えから行くべきだった様子をうかがって濡らされてしまった波の間 ま梶しじ貫きーマ梶は船の両舷のす 萬合いを計らなくて うわさ べての梶。シジヌキはシジニヌキの 弸岩を洗 0 ての浦辺に寄せる波のようにそばに近寄ったら人の噂が絶え 約。シジニは、隙間もなくびっしりと、 の意。出航準備を整えることをいう。堅 ないだろう い決意で男と逢い始めることのたとえ。 磯の浦に寄せ来る白波のように幾度も返りながら過ぎかねているのはあ 〇沖は深けむ潮は干ぬともー私の心は終 始深いことであろう、たといあなたが心 なたのことを思い悩んでいるからです 変りしようとも、の意か。深ケムは深カ おうみ 近江の海の波がこわいからといって風向きをうかがううち年が過ぎてしまラムの意。 うのではないか漕ぎ出すのでもなく 伏越ー所在未詳。高知県安芸郡東洋 町野根の伏越に擬する説もあるが、 本来、這って通るような難所をいう地形 語であろう。〇まもらふにーマモラフは 見守る意のマモルの継続態。〇波数まず してーこのヨムは数える意。波の間合い を計り損ねて、というのであろうが、比 喩の内容は不明。女の許に行く時間を計 り間違ってひどい目に遭ったことをいう 8 石そそきー波が岩に激しくぶつかる 1 こと。〇岸の浦廻ー浦廻は人江の湾 とお

7. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

113 巻第七 1310 ~ 1314 1313 る は と 1310 1311 1312 1314 こしま かしこ く - もカく 雲隠る小島の神の恐けば目は隔てども心隔てや かきのもとのあそみひとまろ 右の十五首、柿本朝臣人麻呂の歌集に出づ。 くれなゐ お けられていた。〇事なしー無事平穏の意 だが、ここは、好ましいの意に用いた。 『名義抄』に「美ー「好」をコトモナシ・コ トムナシと読んでいる。 ◆「戸令」に良賤間の通婚に関する規定が あり、良女と賤男との姦は罰せられたが、 きぬ 男性主人と家女・婢との関係は処罰され 衣に寄する なかった。 つるはみきぬひとみな 2 凡ろかにーオホは、普通、通り一遍、 橡の衣は人皆事なしと言ひし時より着欲しく思ほゅ の意。ロカは接尾語。〇下に着てな れにし衣ーシタは外から見えない所。ナ ルは、着物が着古され汚れる意だが、裏 に、人が知り合い、なじむ気持をこめて した われ きぬ 凡ろかに我し思はば下に着てなれにし衣を取りて着めある。 ◆昔なじみの女に語りかける内容の歌か。 紅の深染めの衣ー紅↓一一一一八 ( 紅にほ やも ふ ) 。深染メは色濃く染めること。 〇下に着て上に取り着ばーウへは表面、 人の目につく所。以前から心が通い合う 仲であったのを正式の夫婦としたならば、 の意か。〇言なさむかもー言ナスはとや かく噂する意。前の歌と連作か。 解き洗ひ衣ー着古した衣をほどき、 1 洗い張りし、仕立て直した衣。〇怪 しくもー我ながら不思議に思うほどに。 ◆かって愛した家女・婢を思い出し、近 たわ づきたく思う戯れ男の歌であろう。 こと 紅の深染めの衣下に着て上に取り着ば言なさむかも あらきぬ あや 橡の解き洗ひ衣の怪しくもことに着欲しきこのタかも ふかそ きぬした うへ き き ゅふへ

8. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

あ おほみやひと ももしきの大宮人のかづらけるしだり柳は見れど飽かぬ 力も 十 第 巻 1851 1853 山の際の雪は消ざるをみなひあふ川のそひには萌えにけ「滄」「深」はそれぞれ、水が溝に注ぐ、 小水が大水に人る、の意で、歌意に違背 しない。ただ、そのミナヒにさらにアフ るかも が接することがやや疑問であるが、今は 原文を尊重しておく。〇川のそひー川沿 い。「顕宗紀」に「川そひ柳」の例がある。 朝な朝なーアサナアサナの約。ナは 時間を表す語に付いて副詞格に転ず る接尾語。ョナョナの対。 0 森にはやな れーモリは元来神霊の宿る木の意。現代 方言で、一株でも茂り立っ巨木を、モリ という地方がある。ハヤは、今すぐ、の 意。命令や意志・願望などの表現と呼応 して用いられることが多い。 糸の細しさークハシは繊細な美しさ を表す形容詞。 0 乱れぬい間にーイ ↓一三究 ( 花待つい間に ) 。〇見せむ児もが も↓一四突。 2 ももしきの↓一 0 実。 0 かづらけるー カヅラクはカヅラ ( 一四一一九 ) として頭上 に載せる意。〇しだり柳ーシダルは下に ふぞくうた 垂れ下がる意の四段動詞。風俗歌には 「しだら小柳」「しだる小柳」という形も 見える。 やど↓一三三八。〇柳の眉ー新柳の細葉 を美人の眉にたとえていう。もとは 漢籍の表現。マヨはマュの古形。 あをやぎ 青柳の糸の細しさ春風に乱れぬい間に見せむ児もがも わ 梅の花取り持ち見れば我がやどの柳の眉し思ほゆるかも あささ 朝な朝な我が見る柳うぐひすの来居て鳴くべき森にはや なれ わ くは きゐ ま 1851

9. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

559 巻第十 2177 ~ 2180 2179 2177 2178 らし〈一に云ふ、「告げに来らしも」〉 山を詠む くれなゐ 春は萌え夏は緑に紅の斑に見ゆる秋の山かも 原文も「綵色」とある。 一『万葉集』ではこのように「黄葉ーと 書いたものが八十八例あり、紅・赤の各 三例に比して圧倒的に多い。中国でも六 ちょう 朝・初唐詩では「黄葉」と書くのが一般で あり、その影響を受けたと考えられる。 妻隠るー地名矢野のヤの枕詞。妻と 籠居する屋の意でかけた。 0 矢野の 神山ー所在未詳。神山は、神として祭る 山、神の在す山をいう。 あり渡るがねーアリ渡ルは、そのま 黄葉を詠む 幻まずっと変らずにある、の意。ガネ には、意志や命令を表す文と共存する形 つまごも やの かみやまっゅしも 妻隠る矢野の神山露霜ににほひそめたり散らまく惜しも式と、単独で文末をなす形式とがある。 前者は、、するように、、するために、 の意の理由や目的を表す修飾格としての 用法と、、してほしい、または、、して くれるだろう、などの希求や希望的推測 を表す文末と解することもできる一一次的 形式とに分けられる。「梅の花よしこの ころはかくてもあるがね」 ( 一三一一九 ) のよう な単独文末形式はそれがさらに変じたも のと考えられる。ここは、、するように、 の意。 0 濡れ通りー春日山を擬人化した表現。 幻濡レ通ル、およびその意の通ルは、 人に限って用いられる。 ながっき かすが 九月のしぐれの雨に濡れ通り春日の山は色付きにけり 朝露ににほひそめたる秋山にしぐれな降りそあり渡る がね もみち かきのもとのあそみひとまろ 右の一一首、柿本朝臣人麻呂の歌集に出づ。 まだら いろづ を 2178 いま

10. 完訳日本の古典 第4巻 萬葉集(三)

天の川瀬を速みかもぬばたまの夜はふけにつつ逢はぬ 彦星 十 第 巻わたもり ふたたびかよ 渡り守舟はや渡せ一年に二度通ふ君にあらなくに 州が散在し浅瀬の多い川と考えてのこと であろう。 0 思ひつつーこの思フはいと しく思う意。〇来しくも著し↓一五圭。 ◆彦星が織女星の許にたどり着いて詠ん だ趣向の歌。 5 人さへや見継がずあらむー相手の織 女星だけでなく、地上の人々までも 見守っていないであろうか。見継グは続 けて見る意。反語で、皆が見詰めている ことをいうのであろうが、人までも見続 けないであろうか、の意だとすれば、織 ちかづゅ 人さ ( や見継がずあらむ彦星の妻呼ぶ舟の近付き行くを女星は見続けていないことになり、この 表現には無理がある、とする説もある。 〇妻呼ぶ舟ーこの妻呼プは求婚する意。 〈一に云ふ、「見つつあるらむ」〉 〇「見つつあるらむ」ー第二句の異伝。こ れならば、反語でなくなり、ヤの疑問の 気持も薄く、わかりやすい。 6 瀬を速みかもーミ語法による疑問条 件。結びは逢ハヌだが、その逢ハヌ はまた「彦星ーの連体修飾ともなっている。 〇ふけにつつー原文は底本などに「闌尓 乍」とあり、その「闌」には時期外れにな る意がある。しかし、元暦校本などには 「開尓乍」とあり、明ケニツッと読まれる 今底本に従って読む。 7 渡り守舟はや渡せー織女が渡し守に 向って言っているような趣向の歌。 良さ おも あまがはわたぜ 天の川渡り瀬ごとに思ひつつ来しくも著し逢へらく思 へば はや ひととせ ひこし よ しる あ