源氏物語 46 の、い細げに見えたまひしかば、あまり世のことわりを思ひ知り、もの深うなり一世の道理。世の無常。 ニ悟りすましすぎて。 ためし 工′わ一 ぬる人の、すみ過ぎて、かかる例、心うつくしからず、かへりてはあざやかな三その人らしいと噂される面が。 四自分 ( タ霧 ) が柏木に。 る方のおばえ薄らぐものなりとなむ、常にはかばかしからぬ心に諫めきこえし五以下、宮への弔問の言葉。 六御息所の言葉に納得する気持。 かば、、い浅しと思ひたまへりし。よろづよりも、人にまさりて、げにかの思しセ皇女の身分への謙遜の気持 ^ 通例よりも長時間の弔問 うち 九柏木がタ霧 ( 一一十七歳 ) より五、 嘆くらむ御心の中の、かたじけなけれど、いと心苦しうもはべるかな」など、 六歳年長。ここではじめてふれる。 へ 一 0 人なっこい親しみやすさ。 なっかしうこまやかに聞こえたまひて、ややほど経てぞ出でたまふ。 一一タ霧。「すくよか」はきまじめ。 このかみ かの君は、五六年のほどの年長なりしかど、なほいと若やかになまめき、あ三↓「御前の木立いたうけぶり て」 ( 四二ハー一四行 ) 。 いだれてものしたまひし。これは、、 しとすくよかに重々しく、男々しきけはひ一三↓幻一一一〇ハー注一 0 の歌。 一四不吉な連想があるので。宮の 墨染姿 ( 出家 ) を連想したか。 して、顔のみそいと若うきよらなること、人にすぐれたまへる。若き人々は、 一五「春ごとに花の盛りはありな おまへ もの悲しさも少し紛れて見出だしたてまつる。御前近き桜のいとおもしろきを、めどあひ見むことは命なりけり」 ( 古今・春下読人しらず ) 。 「今年ばかりは」とうちおばゆるも、いまいましき筋なりければ、タ霧「あひ見一六「片枝枯れにし」は夫柏木の死。 引歌に連接して、これからの人生 にも、よい季節があるとする。 一セ前の「口ずさむ」を詳しく説明。 天「 ( 柳の ) 芽」に「目」をひびかし、 涙を暗示。花の行方を知らず涙で 過すとする。「あさみどり糸より むことは」とロすさびて、 タ霧時しあればかはらぬ色ににほひけり片枝枯れにし宿の桜も しとと , つ、 わざとならず誦じなして立ちたまふに、、 一セ かたえ
源氏物語 36 尼宮は、おほけなき、いもうたてのみ思されて、世にながかれとしも思さざり一だいそれた柏木の恋心も。 ニ柏木の回復を祈る気持さえ。 四 三柏木逝去の報に接すると、さ しを、かくなむと聞きたまふはさすがにいとあはれなりかし。若君の御事を、 すがに愛憐の情が起る。 さぞと思ひたりしも、げにかかるべき契りにてや思ひの外に、い憂きこともあり四柏本は猫の夢から宮が懐妊と 判断 ( 若菜下一八〇ハー ) 、それに き。よろ・く 「げに」と納得しながら宿世を恐懼 けむと思しよるに、さまざまもの、い細うてうち泣かれたまひぬ 五晩春のはなやぐ情景に転する。 やよひ 六 三月になれば、空のけしきもものうららかにて、この君五六若君 ( 薫 ) の生後五十日の祝い 〔 ^ 〕若君の五十日の祝 セ声を出したりするさま。 儀源氏感慨に沈む 十日のほどになりたまひて、いと白ううつくしう、ほどよ ^ 女三の宮のもとに。 九出家の身ではわが子を祝うか おとど ^ いもない。宮の出家を嘆く気持。 りはおよすげて、物語などしたまふ。大殿渡りたまひて、源氏「御心地はさは 一 0 出家以前の、普通のお姿で。 やかになりたまひにたりや。いでや、いとかひなくもはべるかな。例の御あり反実仮想の構文で、出家を惜しむ。 = 出家後にかえって宮を厚遇。 さまにてかく見なしたてまつらましか、よ、 しいかにうれしうはべらまし。心憂く三五十日の祝いには、餅を作り、 父親などが赤子のロにも含ませる。 す 一三母親の出家ゆえに、型どおり 思し棄てけること」と、涙ぐみて恨みきこえたまふ。日々に渡りたまひて、今 の儀式をすべきか否か決めがたい 一四女児なら女親の尼姿は忌まわ しも、やむごとなく限りなきさまにもてなしきこえたまふ。 しいが、男児ならかまわぬ、の意。 もちひ 御五十日に餅まゐらせたまはむとて、かたちことなる御さまを、人々、いか一五寝殿の南正面。源氏晩年の実 子の誕生として、盛儀となる。 になど聞こえやすらへど、院渡らせたまひて、源氏「何か。女にものしたまは一六若君が柏木の実子という真相。 宅つらく、目をそむけたい思い。 みなみおもて おまし ばこそ、同じ筋にていまいましくもあらめ」とて、南面に小さき御座などよそ盛儀に酔う人々のなかで、源氏の ( 現代語訳二四八ハー ) か 九 ひび
53 柏木 こと ゑもんのかみ むばせたまひける。「あはれ、衛門督」といふ言ぐさ、何ごとにつけても言物語と近接した時代とする。 ^ 柏木の死が、遠近親疎や身分 はぬ人なし。六条院には、まして、あはれと思し出づること、月日にそへて多の区別なく、大勢に惜しまれた。 九「惜し」は愛着を感ずるものを かり。この若君を、御心ひとつには形見と見なしたまへど、人の思ひょらぬこ失うことへの恐れ。「あたらし」は、 すぐれたものを惜しむ気持。 一 0 もっともらしく格式ばった事 となれま、 。いとかひなし。秋っ方になれば、この君はゐざりなど。 柄。公人としての才学・技芸など。 = 人情家であるとする。 三さほどでもない役人や、女房 などの年老いた者たちまで。 一三生前、今上帝の信任が厚く、 死の直前には権大納言に昇進。帝 の東宮時代、柏木は琴などを教授。 音楽を通じても親交があった。↓ 若菜下一二四ハー一二行。 一四柏木は死を予感した時も宮に 「あはれとだにのたまはせよ」と願 ったが ( 一三ハー五行 ) 、死後の今そ れを世間の人々に言われている。 一五「まして、上には」 ( 前ハー末 ) と 呼応。源氏も帝と同程度に哀惜。 一六源氏の薫への感慨 ( 三九ハー ) 。 薫に柏木を偲ばうともする。 ◆柏木讃歌ともいうべき結び。右 将軍保忠への哀傷詩を冒頭に置き、 死の物語を重々しく語り閉じる。 し
63 横笛 が 〔 = 〕タ霧、一条宮訪問、秋のタのものあはれなるに、一条宮を思ひやりきこえたまている。↓柏木〔凸。 一三柏木は源氏の勘気の解けるよ 一と 柏木遺愛の笛を受ける うタ霧にとりなしを遺言。その約 ひて渡りたまへり。うちとけしめやかに御琴どもなどき 束を果せば柏木の霊も浮ばれよう。 ひさし 一四前節の「思ひわたる」の時間が たまふほどなるべし。深くもえとりやらで、やがてその南の廂に入れたてまっ 経過して、季節は物思いの秋。 きめおと りたまへり。端っ方なりける人のゐざり入りつるけはひどもしるく、衣の音な「タ」も物思いの時刻。 一五タ霧の心に即した推測 かう みやすどころたいめん ひも、おほかたの匂ひ香ばしく、、いにくきほどなり。例の、御息所対面したま一六奥にかたづけることもできず。 宅「けはひ」「音なひ」「匂ひ」と、 一九 との ひて、昔の物語ども聞こえかはしたまふ。わが御殿の、明け暮れ人繁くてものタ霧の神経が女宮の周辺に集中。 天これまでも応対に出るのは常 を一な に母御息所。↓柏木四三・五〇ハー 騒がしく、幼き君たちなどすだきあわてたまふにならひたまひて、いと静かに 一九柏木生前のころの話。 けだか ニ 0 大納言兼左大将のタ霧邸は、 ものあはれなり。うち荒れたる心地すれど、あてに気高く住みなしたまひて、 繁栄して人の出入りも多い せんぎい 一 = 「すだく」は群がる、集る意。 前栽の花ども、虫の音しげき野辺と乱れたるタ霙えを見わたしたまふ。 一三「君が植ゑし一群薄虫の音の わごん りち しげき野辺ともなりにけるかな」 和琴を引き寄せたまへれば、律に調べられて、いとよく弾きならしたる、人 ( 古今・哀傷御春有助 ) 。前にも 香にしみてなっかしうおばゅ。「かやうなるあたりに、思ひのままなるすき心類似の表現。↓柏木四九ハー一四行。 ニ三秋の調子。女性らしい調子。 ある人は、静むることなくて、さまあしきけはひをもあらはし、さるまじき名品和琴への宮の移り香を感取。 ニ六 一宝タ霧は自らを「すき心」とは無 こぎみ をも立つるぞかし」など、思ひつづけつつ掻き鳴らしたまふ。故君の常に弾き縁とするが、好色めいてもくる。 一宍柏木は和琴の名手。↓若菜上 たまひし琴なりけり。をかしき手ひとつなど、すこし弾きたまひて、タ霧「あ四五ハー四行。 こと はしかた 一四ゅふべ 一セ 一八 ニ四 ひと
203 ほだし 心やすきに、今なんっゅの絆なくなりにたるを、これかれ、かくて、ありしょは、若菜下圈一六四ハー・御法一九 一ハーの、栄華も憂愁も比類ない人 めな りけに目馴らす人々の今はとて行き別れんほどこそ、いま一際の心乱れぬべけ生、の述懐の繰返し。 一 0 以下も、右の御法巻の繰返し。 れ。いとはかなしかし。わろかりける心のほどかな」とて、御目おし拭ひ隠し = 死期の迫った晩年に、紫の上 の死に遭った、の意。今五十二歳。 たまふに紛れずやがてこばるる御涙を見たてまつる人々、ましてせきとめむ方三宿世のったなさも器量の限界 も。それらを見極めた現在の気持 うれ からは出家するにも支障はない。 なし。さて、うち棄てられたてまつりなんが愁はしさをおのおのうち出でまほ 一三女房の一人一人を数えあげる。 一四紫の上在世のころよりも。 しけれど、さもえ聞こえず、むせ返りてやみぬ。 三紫の上との死別に悲しみ乱れ ているムフよりも、いっそう。 かくのみ嘆き明かしたまへる曙、ながめ暮らしたまへるタ暮などのしめやか 一六人間関係をはかないとする。 おまへ なるをりをりは、かのおしなべてには思したらざりし人々を御前近くて、かや宅あきらめのわるいわが根性よ。 一 ^ 源氏に出家されること。 うの御物語などをしたまふ。中将の君とてさぶらふは、まだ小さくより見たま一九以下、前出の召人たち。↓注 = 。 ニ 0 源氏が内々に情をかけたこと。 ニ 0 ひ馴れにしを、いと忍びつつ見たまひ過ぐさずやありけむ、いとかたはらいたニ一中将の君の態度。 一三色めいた対象としてではなく。 のち きことに思ひて馴れもきこえざりけるを、かく亡せたまひて後は、その方には = 三紫の上が中将の君を。 ニ四紫の上の形見という意味で。 あらず、人よりことにらうたきものに心とどめ思したりしものをと思し出づる = 五これから生長する小松。『河 海抄』などは、墓に植えた松で、 ニ四 かたち につけて、かの御形見の筋をぞあはれと思したる。心ばせ、容貌などもめやす中将の君を亡き紫の上の形見の意 に解す。情をかけた召人だけに、 いよいよ故人の形見と思われる。 くて、うなゐ松におばえたるけはひ、ただならましよりは、らうらうじと思 あけばの 一五ひときは のご 一四 かた
こよひ 今宵は例の御遊びにゃあらむと推しはかりて、兵部卿宮渡りたまへり。大将 = 源氏には、かって一心に琴を かれん はんすう 習った宮の可憐さが反芻されよう。 の君、殿上人のさるべきなど具して参りたまへれば、こなたにおはしますと、 一ニ源氏の琴の弾奏に宮が聞き入 る。過往の日々が懐かしまれる。 ことね 御琴の音を尋ねてやがて参りたまふ。源氏「いとつれづれにて、わざと遊びと一三宮の出家から転じて、朧月 夜・朝顔の姫君の出家なども回顧 一セ ね ↓若菜下同二〇九・柏木一一六ハ はなくとも、久しく絶えにたるめづらしき物の音など聞かまほしかりつる独り 一四蛍の宮。桐壺聖代を讃える風 ごと おまし 琴を、いとよう尋ねたまひける」とて、宮も、こなたに御座よそひて入れたて流人として登場するのが例 一五タ霧。 おまへ 一九えん まつりたまふ。内裏の御前に、今宵は月の宴あるべかりつるを、とまりてさう一六女宮の方と、琴の音色で分る。 宅女楽以来、紫の上の病気や宮 かむだちめ ざうしかりつるに、この院に人々参りたまふと聞き伝へて、これかれ上達部なの一件などで琴を弾かなかったか。 一 ^ 蛍の宮。 ども参りたまへり。虫の音の定めをしたまふ。 一九中秋名月の宴。唐伝来の趣向。 ニ 0 中止の理由は不明。 ニ一鈴虫・松虫優劣論の続き。 御琴どもの声々掻き合はせて、おもしろきほどに、源氏「月見る宵の、 一三「いっとても月見ぬ秋はなき あら ものをわきて今宵のめづらしきか とてもものあはれならぬをりはなき中に、今宵の新たなる月の色には、げにな な」 ( 後撰・秋中藤原雅正 ) 。 ニ三「三五夜中新月ノ色二千里 ほわが世の外までこそよろづ思ひ流さるれ。故権大納一言、何のをりをりにも、 虫 ノ外故人ノ心」 ( 白氏文集・八月十 おほやけわたくし 亡きにつけていとどばるること多く、公私、もののをりふしのにほひ失せ五日夜禁中独直対月憶元九 ) 。 ニ四前注の詩から亡き柏木を追懐。 鈴 かた たる心地こそすれ。花鳥の色にも音にも思ひわきまへ、言ふかひある方のいと = 五↓柏木五三ハー二行。 ニ六↓薄雲団六三ハー注一九の歌。 8 ニ七 うるさかりしものを」などのたまひ出でて、みづからも、掻き合はせたまふ御毛すぐれていた、の意。 ほか か し ニ六 ぐ ニ四 ニ三 か ニ五 ニ 0 ひと
源氏物語 26 おとど 大殿の君、うしと思す方も忘れて、こはいかなるべきことそと悲しく口惜し一厭わしいと思う密通事件。源 氏は、前に宮の出家を良策とも思 ったが、朱雀院のにわかな対処に ければ、えたへたまはず、内に入りて、源氏「などか、いくばくもはべるまじ ろうばい 狼狽。ここで出家に同意しては、 四 自ら宮への疎略を証しかねない。 き身をふり棄てて、かうは思しなりにける。なほ、しばし心を静めたまひて、 ニ宮への愛憐の情を誘発される。 三余生の短い自分 ( 源氏 ) を。 御湯まゐり、物などをも聞こしめせ。尊きことなりとも、御身弱うては行ひも 四 ↓二二ハー三行。 かしら したまひてんや。かつはつくろひたまひてこそ」と聞こえたまへど、頭ふりて、五まずは体の回復が先決、出家 はその次でも遅くはないとする。 六ともかく養生なさってから。 いとつらうのたまふと思したり。つれなくて、恨めしと思すこともありけるに 七宮は源氏の勧告に耳を借さず、 やと見たてまつりたまふに、、とほしうあはれなり その思いやりなさを思う。 ^ 源氏は、宮が自分の仕打ちを、 とかく聞こえ返さひ思しやすらふほどに、夜明け方になりぬ。帰り入らむに、表面はさりげなく、しかし内心で は恨めしく思っていたのかと。宮 一一いのり ふびん の思い屈する表情が不憫さを誘う。 道も昼ははしたなかるべしと急がせたまひて、御祈疇にさぶらふ中に、やむご ちゅうちょ 九出家に反対、また躊躇もする。 み となう尊きかぎり召し入れて、御髪おろさせたまふ。いと盛りにきよらなる御一 0 院は「夜に隠れて」の御幸ゆえ。 一一出産から奉仕している祈疇僧。 ぐし さほふ おとど 髪をそぎ棄てて、忌むこと受けたまふ作法悲しうロ惜しければ、大殿はえ忍び三院が受戒のためのすぐれて尊 い僧を選んで、簾中に招き入れる。 一三↓「悲しく口惜し」 ( 一行 ) 、 あへたまはず、いみじう泣いたまふ。院、はた、もとより、とりわきてやむご 「いとほしうあはれ」 ( 七行 ) 。 となう、人よりもすぐれて見たてまつらむと思ししを、この世にはかひなきゃ一四宮が誰よりも幸福になるよう。 一五出家しても身体健やかに。 うにないたてまつるも飽かず悲しければ、うちしほたれたまふ。朱雀院「かくて一六出家したうえは来世の救済に す みぐし
そで 月廿余日」。↓一九〇ハー注一。 致仕の大臣いにしへの秋さへ今の心地してぬれにし袖に露ぞおきそふ 三葵の上の死を悲嘆した人々の 多くは故人。時の経過を思う。 御返し、 一三一八五ハー注一一の歌と同じ表現。 一四大臣の子。柏木や右大弁の弟。 源氏露けさはむかし今とも思ほえずおほかた秋の夜こそっらけれ 一五「いにしへの秋」は葵の上死去 一セ もののみ悲しき御心のままならば、待ちとりたまひては、、い弱くもと、目とどの秋。「露」は涙を連想。昔の悲別 を重ねながら源氏を弔問する歌。 おとど めたまひつべき大臣の御心ざまなれば、めやすきほどにと、源氏「たびたびの一六「むかし」は葵の上の死、「今」 は紫の上の死。二つを重ねながら 人生の晩秋の悲しみをかたどる。 なほざりならぬ御とぶらひの重なりぬること」とよろこび聞こえたまふ。 宅大臣は、源氏の意気地なさを うすずみ 「薄墨」とのたまひしよりは、、 しますこしこまやかにて奉見咎めなさるような気性だから。 〔一巴世の人ことごとく 源氏は毅然たる文面をしたためた。 紫の上を追慕する れり。世の中に幸ひありめでたき人も、あいなうおほかた天葵の上死去の折、源氏が喪服 を着て「限りあれば薄墨ごろも・ : 」 の世にそねまれ、よきにつけても心の限りおごりて人のため苦しき人もあるを、と詠んだ ( 葵一二〇ハー ) 。それよ りもっと色濃い喪服を着用。 あやしきまですずろなる人にもうけられ、はかなくし出でたまふことも、何ご究身分・地位が高いからとて。 ニ 0 以下、紫の上についての賞賛。 法とにつけても世にほめられ、、いにくく、をりふしにつけつつらうらうじく、あ = 一無縁な人々からも人望があり。 一三さほど縁のなさそうな一般の りがたかりし人の御心ばへなりかし。さしもあるまじきおほよその人さへ、そ世人までが。「風の音、虫の声」の 御 秋の景物に寄せて紫の上の死を悲 おと のころは、風の音、虫の声につけつつ涙落とさぬはなし。ましてほのかにも見嘆。以下、紫の上を惜しむ人々を、 他に「ほのかにも・ : 人」「年ごろ : な むつ たてまつりし人の、思ひ慰むべき世なし。年ごろ睦ましく仕うまつり馴れつる人々」と、三段階に分けて叙述。 ニ 0 一九
わりなき御心なむいみじうつらき。人の聞き思はむこともよろづになのめなら一タ霧の心づもりが情けない意。 計画的に事を運んで、主人顔をし ざりける身のうさをばさるものにて、ことさらに、い憂き御心構へなれ」と、まて一条宮に住み込んでいること。 一一「言ひ返すーは、拒否する意。 語 三以下、タ霧の焦燥した気持。 物た言ひ返し恨みたまひつつ、はるかにのみもてなしたまへり。 氏 四宮に拒まれたとの噂を危惧。 源 「さりとてかくのみやは。人の聞き漏らさむこともことわ五「はしたなう」は、上からも下 〔三ニ〕小少将、タ霧を塗 へも続く文脈。 籠の中に導き入れる 六一条宮の女房や大和守の目。 り」とはしたなう、ここの人目もおばえたまへば、タ霧 セ宮の内々のお気づかいの点は。 ナよさけ 前ハー「この御服のほど・ : 」を受ける。 「内々の御心づかひは、こののたまふさまにかなひても、しばしは情ばまむ。 〈宮の気持に逆わず、表向きだ 世づかぬありさまの、いとうたてあり、またかかりとてひき絶え参らずは、人けの夫婦でいよう。本心ではない。 九宮と夫婦らしくない自分のあ ゝよ、とましかるべき。ひとへにものを思して、幼げなるこそいとりようが異常である、の意。 の御名いカカ。し 一 0 宮の態度が冷淡だからとて。 ほしけれ」など、この人を責めたまへば、げにとも思ひ、見たてまつるも今は = 宮がタ霧に捨てられたとの噂。 三小少将の君。 めりごめ 心苦しう、かたじけなうおばゆるさまなれば、人通はしたまふ塗籠の北のロよ一三タ霧を。 一四宮が女房を出入りさせる塗籠 り入れたてまつりてけり。いみじうあさまし , つつらしと、さぶらふ人をも、げの北の戸口。タ霧のいるのは南側 一五次 ( 見せつべかりけり」とと にかかる世の人の心なれば、これよりまさる目をも見せつべかりけりと、頼ももに、「思す」にかかる。 一六↓「情けなくあはつけき人の 心なりけり」 ( 一五四ハー三行 ) 。 しき人もなくなりはてたまひぬる御身をかへすがヘす悲しう思す。 宅信頼してきた小少将の君にも をと・一 男は、よろづに思し知るべきことわりを聞こえ知らせ、言の葉多う、あはれ裏切られた感じ。 一四かよ 一セ
りたまふべきに、このころは、何ごとも思されで、おほそうの御とぶらひのみ一長男柏木の重病ゆえ。 ニ世間の噂を集めるような盛儀。 かむだちめ そありける。宮たち、上達部などあまた参りたまふ。おほかたのけしきも、世それとは対蹠的な源氏の苦衷。 語 三宴につきものの管絃もなく、 おとど 物になきまでかしづききこえたまへど、大殿の、御心の中に心苦しと思すことあ源氏中心の一座の感動も薄い 四か細く弱々しい体。 源 五以下、初産の難渋さをいう。 りて、いたうももてはやしきこえたまはず、御遊びなどはなかりけり。 六わが身の不運を、不義の子の 出生によって思い知らされる。 宮は、さばかりひはづなる御さまにて、いとむくつけう、 〔四〕女三の宮出家を望 セなかば捨てばちの語気。 み、源氏苦慮する ならはぬことの恐ろしう思されけるに、御湯なども聞こし 0 このあたり、宮と源氏の、交流 のない深い苦悩を交互に語る。 めさず、身の心憂きことをかかるにつけても思し入れば、さはれ、このついで ^ 「人にはけしき漏らさじ」 ( 一 八ハー一一行 ) と、外面を装う。 おとど 九生後まもない頃のなじみにく にも死なばやと思す。大殿は、、 しとよう人目を飾り思せど、まだむつかしげに い表情。それが過ぎてからとする おはするなどを、とりわきても見たてまつりたまはずなどあれば、老いしらへ裏に、素直に喜べぬ気持がこもる。 一 0 女三の宮づきの、老齢の女房。 る人などは、「いでや、おろそかにもおはしますかな。めづらしうさし出でた = 源氏の若君への冷淡を非難。 一ニ前ハー六行の女房と同質の評。 一三宮の心中。源氏の隔て心は必 まへる御ありさまの、かばかりゆゅしきまでにおはしますを」とうつくしみき 定と推測。 こゆれば、片耳に聞きたまひて、さのみこそは思し隔つることもまさらめと恨一四前は「死なばや」 ( 八行 ) 、ここ は出家。衝動につき動かされがち。 一五以下、源氏の、宮への疎隔。 めしう、わが身つらくて、尼にもなりなばやの御心つきぬ。 一六勤行に励む者に出産の諸事は よる おほとのごも 夜なども、こなたには大殿籠らず、昼っ方などそさしのぞきたまふ。源氏乱りがわしい。宮には酷薄な言葉。 四 ら′わ寺一