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検索対象: 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記
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1. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

蜻蛉日記 8 たけ 君が君を見で長き夜すがら鳴く虫のおなじ声にやたへざらむと一長歌の後半の「君」が指すのと 同じく、 北の方。次の「君」は、長 歌前半の「君」と同じ高明。 思ふこころはおほあらきの森の下なる草のみもおなじく濡ると ニ「人につくたよりだになしお ほあらきの森の下なる草のみなれ 知るらめやっゅ ば」 ( 後撰・雑一一躬恒 ) を踏まえ、 作者自身がだれも頼りにできない また、奥に 寂しい身であるだけに、つらい立 よもぎかど四 場にある北の方がお気の毒で、心 やど見れば蓬の門もさしながらあるべきものと思ひけむやそ から同情の涙を禁じえない、とい う。「大荒木」の「おほ」に「多」を、 と書きて、うち置きたるを、前なる人見つけて、「いみじうあはれなることか 「草の実」の「み」に「身」をかける。 三涙を暗示する「露」に、副詞の な。これをかの北の方に見せたてまつらばや」など言ひなりて、「げに、そこ 「つゆ」をかねて示す。 かみやがみ 四「さながら」と同じ。それに、 よりと言はばこそ、かたくなはしく見苦しからめ」とて、紙屋紙に書かせて、 門を「鎖しながら」をかける。 けづき 立文にて、削り木につけたり。「『いづこより』とあらば、『多武の峰より』と五「在る」に「荒る」をかける。 六↓五七ハー注 = 一。 にふだう 言へ」と教ふるは、この御はらからの入道の君の御もとよりと言はせよとてな七「げに」は侍女の言葉を肯定し、 かみやがみ 「とて、紙屋紙に書かせて : ・」と続 く。しかし「そこよりと・ : 」以下、 しし力や , つに りけり。人取りて入りぬるほどに、使ひは帰りにけり。かしここ、 差出し人は伏せておこうと言って、 「『いづこより』・ : 」へと展開する。 か定めおばしけむは知らず。 悲痛な内容を仰々しい長歌にした かくあるほどに、ここちはいささか人ごこちすれど、二十余日のほどに、御てれかくし、逸興。 ^ 頑迷である。野暮である。 とも 九紙屋川のほとりの紙屋院 ( 図 嶽にとて急ぎ立つ。幼き人も御供にとてものすれば、とかく出だし立ててぞ、 たてぶみ きたかた たふ み

2. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

7 け・ーし , っー ! もー ) , っ 5 またの日ーさての日 6 きこえーきこひ 絽 8 尼にーあまた ふみ 8 1 8 心をもーこゝろをや 1 よ 1 この文にーこのふみも 1 出でーいてゝ 己 2 京ー 一三ロ ようか 日 3 いと悲しーいかなし ( 底 ) はかなし 4 四日 ( 版 ) ーようこ 蛉 ( 見・黒 ) 5 騒ぎーさはに 蜻 3 かくーかゝへ 嫺 7 起きてーたたて 7 火ーめ 5 、も・ーき、とん 9 消えて ( 阿・ : 吉 ) ーきらて 6 あるべきかななどーあるヘきかな とゝ ( 底 ) あるヘきかなと ( 萩・ : 黒 ) 9 はひ入るにーはひいりに 身・にか・ーみには 9 やがて ( 無 ) ーやりて 1 1 かくてーかかとて ( 底 ) かはとて ( 吉 ) 1 いきあひてはーひきあひては よる かんだう 嫺 3 夜はーよるにて 3 勘当ーかんとて 嫺 5 ここちすー心ちあら 7 ・より - もーーとしよりて 嫺 5 心のばふるー心のはゐる 8 そぎたるーさきたる ゃうだい 嫺 6 紫野どほりーらんさきのとほり 様体いと ( 阿 : ・無・萩 : ・黒 ) ーやうたい 7 沢にーさへに ( 底 ) さはヘに ( 黒 ) ふなをか 8 船岡 ( 萩・ : 黒 ) ーふなをり 昭御子そかしーっらにかし き、り・げ・ー・き、わけ 1 ー - 1 旧 2 見ざりけるーみてりける うちとけずーうちとす 11 1 旧 5 ありき ( 吉 ) ーありさ よかず 4 夜数 ( 阿・ : 無・萩 : ・黒 ) ーよるす 旧 9 出でられぬーいてこれぬ 1 おはしますーおとゝます ( 底 ) おとしかず知らず ( 萩・ : 黒 ) ーかきしらす 残りのーのゝりの ます ( 吉 ) 圏 1 すずめがくれーすゝかくれ 2 引き入るるーひいるゝ ながえ 2 あはれーそはれ 2 轅ーなかは 3 おとなきーおとなに 4 あるまじう、うちあげつつーあるま 6 とあるーとあり しうちあけっゝ はレ」 7 昼つかたーひるほた ( 底 ) ひるほど ( 見・黒 ) いかでーいりて 0 11 1 やがて ( 阿・ : 無・萩 : ・黒 ) ーやりて 11 1 ここち 7 ー心 貶見むここちーみ心ち ただ ( 阿 : ・吉 ) ーナシ れいぜいゐん 冷泉院 ( 神・無・萩・ : 黒 ) ー冷はれ院 人ごこちー人ひとり人こち ( 底 ) 人ひ とり人ち ( 神・松・上・急・彰・無・萩 ) ぺいじゅう 陪従ーっいしう 4 火ーめ 4 見ゆるをーみゆると 5 わたりーかたり 9 わがかたはーわかくたから ( 底 ) わ かゝたから ( 萩・ : 黒 ) 1 1 と嘆くーみなけく 5 をのこどもーおのゝもん ( 底 ) おのこ もむ ( 無 ) 罰 6 など ( 阿・ : 吉 ) ーなん 聞く聞く ( 阿・吉 ) ーきゝ / 、 Ⅷ 8 とふ人あまたののしればとて、起き て答へたりーとふ人きまたのゝしれはせ て本にてもしたり 170 170 170 12 12 11 濃いと きとそ ーはと すかて ロ は か

3. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

さうぞ 装束き ( 吉 ) ーさううき 5 御よろこびーっよろしひ 7 よろこび ( 無・萩 : ・黒・吉 ) ーよろらひ加御前ーにせん まへまう 昭身ぞーみに 剏御前申しー御ゑゑまうし 1 このごろーこのこゝろ 御いとまのひまー御いとまひま 1 曇りみーてもりみ 2 ければ ( 吉 ) ーけれから 1 寒きーさむる ( 底 ) さむかる ( 神・松・ 6 さて・ーキ、とか 上・急・彰・無・萩 : ・黒 ) 6 あかっき ( 神・急・彰・無・萩・ : 黒 ) ー ありつき 2 ・・めかーしーー亠めり・ . し 2 こち風ーたち風 6 ここら・ーこゝち - 3 降り・ノ、らす・にー・ふり・ / 、らす・士ゝ 9 例のーいの 3 世の中 ( 無 ) ー世沖 ( 底 ) 世中 ( 神・松・ 9 あわたたしーありたゝし 上・急・彰・萩 : ・黒・吉 ) Ⅱなよよかなるーなよゝかならる ( 底 ) なよゝかならぬ ( 神・松・上・急・彰・無・ 7 世の中 ( 無 ) ー世中 だらに 萩・見 ) なよらかなゝる ( 吉 ) 8 陀羅尼ーむらに 8 をがむーたゝむ 歩み ( 吉 ) ーあみゆ そで Ⅱ袖 ( 松 ) ーにて 気色ばむーちゃしきはん ひご はべるーはつる 1 1 かた膝・ーかノ、ひさ 2 かるらかーからたか 夢解きーゅめとた 2 まつりごと ( 阿・ : 吉 ) ーまへりこと 5 風ーはせ 2 ものを〈そ〉 5 今日 ( 阿 ) ーける 3 にはあらず ( 阿・ : 吉 ) ーにあらす 己 7 草はーくちは 6 出でき ( 阿・ : 吉 ) ーいて 付三四寸 ( 神・松・上・急・彰・無・萩 : 9 右のかたのーみきの弟の 訂黒・吉 ) ー三四す 0 このーこのこの 11 1 校あな寒ーあなとかん をこなるべき ( 神・松・上・急・彰・ , 1 1 渡りたるに、類ーわたりたるい 無・萩・見 ) ーおこなるつき 4 7 人か。ーひとり・ あらねばーあらぬは 8 そらなりーにらなり 1 三ロ 、いのうちに思ふ。かくはあれど ( 阿 ・ : 吉 ) ーナシ 2 ここーーみ ふもと 9 麓になむ ( 阿 : ・吉 ) ーふもとに さること ( 萩 ) ーさる申 さいーしめ、う 7 ー 11 、 1 1 よ 宰相なくなりてまだ服のうちに ( 阿 ・ : 吉 ) ーナシ きトあり・しーーキ、めりし 1 よ 1 断さらむともーさらんとて 4 たまふー給は 7 。もろと一・もに - もー , もろレもにン一挈」 まして ( 阿・ : 吉 ) ーましてて Ⅱ生みたなりーうみたれり ( 底 ) うみた り ( 神・松・上・急・彰・無・萩 : ・黒 ) みづうみ 湖ーとうみ まへーまっ 4 京 ( 吉 ) ー 4 法師ーほそし 6 かー ) こ。ーかーした ) 8 月ごろーっきこゝろ ーーこ士か士かに 9 こ ( かに 剏あやしがりーあやしかる 1 またの日ー又の 3 「いかがは」とてーいかゝはせて 5 たれと ( 阿・神・上・急・彰・見・黒・ 吉 ) ーロ 5 ベキ、こと・ーへキ、にこと ぶく

4. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

9 産むべき ( 阿 : ・無・見・黒 ) ーうむつき 9 えらびてーはこひて 2 つづけてーっゝきて 己聞きにくき ( 池・見・黒 ) ーきにゝくき買 きロ 日Ⅱ ~ 則より・・ー亠よっより・ 蛉 ものにもがなーものにそかな 蜻心 ( 池 ) ーころ あらずとも ( 阿・神・松・上・急・彰・ 無・萩 : ・黒 ) ーあらすとて 四 1 心憂し ( 池 ) ー心そし 四 3 えまゐらぬ ( 阿・ : 無・萩 : ・黒 ) ーみまい 四 5 使ひに ( 阿 : ・無・萩 : ・黒 ) ーゝかひこ をとこぎみ 四 5 男君に ( 阿 : ・吉 ) ーおとこきみ 四 ここち - ーーこゝろ 四 二十余日 ( 阿 : ・無・萩・ : 黒 ) ー廿よか 1 来まほし ( 阿・ : 無・萩・ : 黒 ) ーうまほし しらっゅ 昭ただ白露のーおくしらっゅの いひたればーいひたれから % 1 うへの露のー上に内の 2 なりぬー世ふ % 2 山の端 ( 見・黒 ) ーやまの % 7 、こに - もー・挈、らに・も のわき % 9 野分ーのりき 1 いかにとも ( 阿・神・松・上・吉 ) ー 6 ゃんごとなきーやっことなき らぬ かにて 7 ばかりにもあらず ( 阿 : ・吉 ) ーはかり 3 1 い亠まはー・ ) は 認 1 速見ーっみ 1 か , つや , つ、ー、ら , つ。や , っ 7 ならむーあらん なりにしはてはてはーなりそていて 9 あればこそ ( 神 ) ーあれそこそ 9 身とも ( 阿・神・松・池・上・急・彰・ はては ( 底 ) なりそてはてはては ( 版 ) 萩 : ・黒・吉 ) ーみとて 死ぬるものかーしぬものは 3 ここち - ーー , っち一 こオっげ・に・ーこ - ま、け・に きにける ( 松 ) ーきにけり 4 いまそ胸はーいまにむねは 1 ことなり ( 池 ) ーことなりと 6 出づとてはーいへとては 7 ありくーありて 7 たへがたくとも ( 阿・神・松・上・急・ 彰・無・萩 : ・黒 ) ーたへかたくとて 8 嘆かるるーなけあるゝ 8 ちちに ( 松・急・彰・萩 : ・黒 ) ーちゝ 9 御ここちーっそら ( 底 ) 御そら ( 阿・ 神・松・上・急・彰・無・萩・ : 黒 ) 世の中 ( 吉 ) ー世中 , っと亠ま 1 しげ—ー , っ士ーレけ・ 囲騒ぎて ( 阿・ : 無・萩 : ・黒 ) ーさりきて さてーとて 四 2 薄き在 X 松 ) ーうすいろ ーしら・くも 、い - も・ーころ - も 四 6 白雲ーしらても 宮ーかみや 四 6 霧もーきみも 5 ありもこそすれーあるもこそあれ 四 9 うらゆゑにーそらゆへに 四 9 ふとも ( 阿・神・松・上・急・彰・無・ くまつづら ( 阿・ : 無 ) ーくまっゝち すくせ 萩・ : 黒 ) ーふとて 四宿世ーするを あがたありき ( 萩 ) ーありたありき 4 取らば ( 萩 ) ーとこは へだ 7 人わろげなるー人わろくなる 貶隔つるーへたる 8 たたへどもーたゝくとも 3 御返りーかへり 4 のどけからじを ( 神・松・池・彰・無・ 8 御津ーみそ 萩・ : 黒・吉 ) ーのとからしを 訂 1 さのみこそーさのみにそ 6 ころしも ( 吉 ) ーころも 訂 8 ふるすーふる 11 1 00 1 しかもゐぬーしりもゐぬ 罪のーいろの ・も

5. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

かた ぢゃうぐわんでん あさて 貞観殿の御方ー貞観殿つま ( 底責 4 するもーするを 4 明後日 ( 無 ) ーあとて はた′」 8 旅籠どころーはたにとしろ ( 底 ) はた 観殿御ま ( 阿・ : 無責観殿御さ ( 萩・ : 黒 ) 3 7 今日と ( 絵詞断簡 ) ーけにと ことしろ ( 阿・ : 無・見・黒 ) LO 1 世の中ー世中 8 さありし ( 阿 : ・吉 ) ーまありし 9 柚 ( 版 ) ー物 なげくらむやぞーなけくらむやう コし 8 ここちこ挈、ー、いち - にそ しる 三 1 ロ 1 うき ( 神・松・池・上・急・彰・無・萩 9 汁してーしなして 日 9 をかし ( 池・見・黒 ) ーをりし かもの ( 阿 : ・吉 ) ーよもの : 黒 ) ー , っキ、 , っキ、 蛉 - 騒ぐ - ー・さりノ、 2 騒ぐめりーさはくめめ 2 若く ( 池 ) ーわかて 蜻ことゾ」・も・ーこととて 7 三日ーみよ 4 なりぬとーなりぬ 待たるる ( 急・彰・萩 : ・黒 ) ーまたると 8 聞きて ( 吉 ) ーきして 1 かかる ( 阿 : ・吉 ) ーかる 6 世の中ー世中 声すーこゑも ーし、け・け「ればー・ー 9 け・れは 7 あるやう ( 阿 : ・無・萩・ : 黒 ) ーあらやう 例のーれいに なかのーなとの ところを一もーーところ、もも な 空さしてーと有さして 2 儺などーなまと 5 こはなそなぞーこはなう / 、 4 ちがひて ( 松 ) ーちりひて 3 するにーするそ 9 とこ挈トーこゝそ 5 鍋 ( 版 ) ーなく 3 せられて ( 池・萩 : ・黒 ) ーせはれて 3 ところ ( 池・彰・吉 ) ーとこゝろ Ⅱ帰さ ( 吉 ) ーかっさ 6 あみたててーあしたてゝ 5 とぞ ( 無・萩・ : 黒 ) ーとに とどむれば ( 阿・池 ) ーとらんれは 6 贄ーにつ 6 中のにー中かのに でうど かたあし 聞 1 調度ーてそ 7 片足に ( 阿 : ・吉 ) ーかたあしこ 7 越えにける ( 阿・神・松・池・上・急・ ずいじん 8 ある ( 萩 ) ーあり 2 随身ーすいんし 彰・萩・ : 黒 ) ーこえにけり 聞 3 おはしまし ( 阿・ : 無・萩・ : 黒 ) ーおはし 貶足にも ( 阿・ : 吉 ) ーあしこも 9 ここち「ーこゝろ あふご ( 阿・ : 無・萩 : ・黒 ) ーあふえ 浦 2 こまーたま ( 底 ) した ( 急・彰・萩・ : 黒 ) おほ′一と -4 6 き、り・け・つ 0 ーーき 6 き、り・け「り - 聞 4 仰せ言ーおほせと 5 きこえごち ( 阿・ : 無・萩・見 ) ーきこえ やよひ 聞 4 先なるーさきさる 8 3 三月にも ( 阿・ : 吉 ) ー三月こも うち かた くでうどのにようごどの 聞 4 とう促せーとそゝなかせ Ⅱ九条殿の女御殿の御方ー九条殿女御 8 5 なれにたればーなりにたれは 貶「しばししばし」とーしはし / く、ひをーひる 殿つかた ( 底 ) 九条殿女御殿御かた ( 阿・ : 無・ 聞岸に寄するーきしきする ( 底 ) しは / 、 ( 池 ) 萩 : ・黒 ) かさ 貶心の ( 松・池・無・萩・ : 黒 ) ー心 夢に ( 阿 : ・吉 ) ーゅめこ 聞重ぬる ( 松・池・萩 : ・黒 ) ーりさぬる 1 ところどころ ( 阿 : ・吉 ) ーところく 2 し渡しーにしわたし 7 よろこび ( 池 ) ーよろころ まえ なべ

6. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

よが 入道摂政、九月ばかりのことにや、夜離れしてはべり うのだが、「二夜」の語はふたたび『蜻蛉日記』に用いら けるっとめて、文おこせてはべりける返りに、つかはれることがない しける 『蜻蛉日記』のことばは、作品全体との関連において読み とある。『蜻蛉日記』をこの詞書と比較すると、そこにな解いていかなければならないと思う。 し「二夜」の意味が歴然とする。『後拾遺集』では、普通 きめめ ならば後朝の歌のやりとりをするところなのに、夜離れを おと した兼家がただ手紙だけ寄こしたので、その返事として詠 音と静寂の表現 んだ歌であるという。この詞書は、歌の詠まれた背後の事 こうちせい 情を一般化することによって、和歌の巧緻性をも叙情性を 伊牟田経久 も定着させようとする。それに対して、『蜻蛉日記』は前 後の散文と和歌とが一つになりながら、きわめて個体的な『蜻蛉日記』を読んでいくと、聴覚による優れた表現に出 心情の世界を造り出す。「しきりて二夜ばかり見えぬほど合って、はっとすることがある。 というのは、単に事情を詳しく述べているだけではない。 かくて、絶えたるほど、わが家は内裏よりまゐりまか 後になればまったく問題にもならない二晩ぐらいの夜離れ づる道にしもあれば、夜中あかっきと、うちしはぶき が、ひどく道綱母の身にしみるのは、まさに新婚時代だか てうち渡るも、聞かじと思へども、うちとけたる寝も ねぶ らこそであろう。彼女は「二夜」の淋しさを夫に甘え訴え ねられず、夜長うして眠ることなければ、さななりと る和歌を詠む。夫は返歌をするとともに、程なくたずねて 見聞くここちは、なににかは似たる。いまはいかで見 きてくれた。「二夜ばかり」の空閨の切なさ、それこそが 聞かずだにありにしがなと思ふに : 彼女にとって新婚の真意にほかならなかったのである。そ の後、夫兼家の「また、ほど経て、見えおこたる」夜がっ 天暦十年、結婚して二年たったころの記事である。具体 つく。こうして彼女の苦悩は新婚の甘さを突き崩してしま的な描写というよりは、観念的な表現というべきであろう みき

7. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

とも 一兼家の東三条邸。 むーなどあれば、いささか昔のここちしたり。っとめて、「供にありかすべき この「られ」は広義の受身。 さうずく 「出でぬ」とせず、「出でられぬ」と をのこどもなど、まゐらざめるを、かしこにものしてととのヘむ。装束してこ することで、兼家に対する作者の うれ 、とあはれに嬉しきここ隔絶感が和らぐ。↓八四ハー注五。 日よ」とて出でられぬ。よろこびにありきなどすれば、し こうふん 蛉 三兼家のロ吻をそのまま写す。 蜻ちす。それよりしも、例のつつしむべきことあり。二日も、かしこになむと聞 0 道綱が二十二日にも兼家邸〈 行くと聞いて、兼家が道綱をお礼 に連れて歩けば、その機会に帰り くにも、たよりにもあるを、さもやと田 5 ふほどに、夜いたく更けゆく。ゅゅし に来てくれるかもしれないと思う。 と思ふ人もただひとり出でたり。胸うちつぶれてぞあさましき。「ただいまな五こんなにおそくまで帰ってこ ないのでは、大変だと、作者が思 う人。すなわち、道綱。 む帰りたまへる」など語れば、夜更けぬるに、昔ながらのここちならましかば、 六一行目「いささか昔のここち したり」と逆の形で呼応し、とも かからましやはと思ふ心そいみじき。それより後もおとなし。 に身にしみる現在の悲境を示す。 しはす ここは、いとわしくて顔をそ 十二月のついたちになりぬ。七日ばかりの昼、さしのぞきたり。いまはいとセ むけたくなる、の意。 けしき きちゃう ^ 隔てとして室内に立てる家具。 まばゆきここちもしにたれば、几帳引き寄せて、気色ものしげなるを見て、 九以下の文脈は複雑である。 め ひく 「いで、日暮れにけり。内裏より召しありつれば」とて立ちにしままに、おと「いにしへを思へば」として想起さ れてくる心象は、「 : ・あはれ、障 らぬものと見しものを」まで全体 づれもなくて、十七八日になりにけり。 一 0 「わがため ( 作者への愛情 ) に けふ しもあらじ、心の本性 ( 好き心 ) に 今日の昼つかたより、雨いといたうはらめきて、あはれにつれづれと降る。 ゃありけむ」は、兼家が「雨風にも 。、にしへを思へば、わがために障らぬものとならはしたりし」こ まして、もしやと思ふべきことも絶えにたり 1 三ロ

8. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

なるたき 一「げに」は、この人の言葉。、 など、すべてさし向かひたらむやうに、こまやかに書きたり。鳴滝といふそ、 かでかくは」 ( 一二九ハー二行目 ) を この前より行く水なりける。返りごとも、思ひいたるかぎりものして、「たづ受けていう。ほんとに、おっしゃ るとおり、自分でもどうしてこん 旨ロ なことをと思いましたが、の意。 日ねたまへりしも、げにいかでと思うたまへしに、 蛉 ニこの人が作者に帰京を勧めた 蜻 ことをさす。 もの思ひの深さくらべに来て見れば夏のしげりもものならなくに 三水が流れて元へ返らぬ意と、 まかでむことはいっともなけれど、かくのたまふことなむ思うたまへわづらひ京へ帰るまいとする気持をかける。 四「住む」に「澄む」をかける。澄 んだ心境を得られぬ作者の嘆き。 ぬべけれど、 五登子。↓五七ハー注一八。 うわが 六手紙の上書き。 身ひとつのかくなるたきを尋ぬればさらにかへらぬ水もすみけり セ底本「とは」。「東」の誤写とす ためし る説に従う。作者が「西山より」と と見れば、例あるここちしてなむ」などものしつ。 書いたので、それと対照させて、 うはぶみ ないしのかん 京の町を「東の大里」としゃれて書 また、尚侍の殿よりとひたまへる御返りに、心細く書き書きて、上文に、 いた。みごとな機知。 おほぎと おば 「西山より」と書いたるを、いかが思しけむ、またある御返りに、「東の大里よ ^ 底本「心心にもたるきか」。 「、い々に見たるにか」の私案による。 、、かなる、い々に見たるにかありけむ。九「ある」は、この山にいるの意。 り」とあるを、いとをかしと思ひけむも 一 0 御嶽 ( ↓七八ハー注一五 ) から大峰 ( 奈良県吉野郡十津川の東の山脈 ) かくしつつ日ごろになり、ながめまさるに、ある修行者、御嶽より熊野へ、 を越えて熊野へ出る。 = 「斯かり」に「懸かり」をかける。 大峰どほりに越えけるがことなるべし、 一ニ作者の実情を知る者も知らな しらくも い者も、の意に、「これやこの行 外山だにかかりけるをと白雲の深きこころは知るも知らぬも 130 おはみね とやま みたけ 七 くまの

9. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

おと 人知れず思ふ。車の音ごとに胸つぶる。夜よきほどにて、みな帰る音も聞こゅ。饗があった ( 日本紀略 ) 。 一ニ伊尹の一条院は、作者邸 ( 一 にしのとういん かど 尸のもとよりもあまた追ひちらしつつゆくを、過ぎぬと聞くたびごとに、、いは条西洞院 ) に近かった。 一三心が動揺する。平静な気持で いられない。「車の音ごとに胸っ うごく。かぎりと聞きはてつれば、すべてものぞおばえぬ。あくる日まだっと ぶる」の、期待と不安の渦巻いた ふみ 感情から、この「過ぎぬと聞くた めて、なほもあらで文見ゅ。返りごとせず。 びごとに、、いはうごく」の、期待 一四おこた また二日ばかりありて、「心の怠りはあれど、いとことしげきころにてなむ。を裏切られた心のうずきへの感情 の変化がよくわかる。 あ 夜さりものせむに、、かならむ。恐ろしさに」などあり。「ここち悪しきほど一四怠慢はたしかにあるが、の意。 一五兼家は本心から作者の不機嫌 かいぎやく にて、えきこえず」とものして、思ひ絶えぬるに、つれなく見えたり。あさまを恐れてはおらず、諧謔を弄した にすぎない。 一六兼家が寝たふりをしたので、 、とねたさに、 ここらの月ごろ念じっ しと思ふに、うらもなくたはぶるれば、し 作者が愚痴をこばすのを途中で止 ることを一一 = ロふに、、かなるものと、絶えていらへもなくて、寝たるさましたり。める。すると、「さあ、それから」 と促す。↓五〇ハー注四。 ↓三一ハー注三 0 。 1 聞き聞きて寝たるが、うちおどろくさまにて、「いづら、はや寝たまへる」と宅 天兼家は、作者の感情の穏やか 年 あ 》レき でなかったことを感じていたし、 言ひ笑ひて、人わろげなるまでもあれど、石木のごとして明かしつれば、つと 自分も不愉快であったろう。しか 天 し、そうした二人の心の溝など無 巻めて、ものも言はで帰りぬ。 中 視して、裁縫の依頼をしてくる。 のち一 ^ 一九例によって作者は機嫌が悪い それより後、しひてつれなくて、「例の、ことわり。これ、としてかくして」 が、無理もない、の意。「例の」は 、一と 「ことわり」を修飾するのではない。 などあるも、いと憎くて、言ひ返しなどして、言絶えて二十余日になりぬ。 一九 た

10. 完訳日本の古典 第11巻 蜻蛉日記

六閏月に先立つ、初めの五月。 と言ふほどに、閏五月にもなりぬ セ兼家。 〈「経れ」に「降れ」をかける。 と苦しけれど、 つごもりより、なにごこちにかあらむ、そこはかとなく、い 九「真清水の」は「増して」 ( 副詞 ねん いのちを さはれとのみ思ふ。命惜しむと人に見えずもありにしがなとのみ念ずれど、見「まして」をかける ) の序詞。 一 0 真言宗で、乳木をたき、芥子 聞く人ただならで、芥子焼きのやうなるわざすれど、なほしるしなくて、ほどなどをその火中に投じて、悪因悪 業の焼滅を祈る行法。 つく かよ = 作者が潔斎をしていること。 経るに、人はかくきょまはるほどとて、例のやうにも通はず、新しきところ造 三東三条邸の改築造営であろう。 かよ 一三↓四一ハー注一七。 るとて通ふたよりにぞ、立ちながらなどものして、「いかにぞ」などもある。 一四「惜しからで悲しきものは身 ゅふぐれ なりけり人の心のゆくへ知らね ここち弱くおばゆるに、惜しからで悲しくおばゆるタ暮に、例のところより帰 ば」 ( 西本願寺本・類従本貫之集 ) 。 はす ひともと 一五兼家の新邸 ( ↓注一一 I) 。 るとて、蓮の実一本を、人して入れたり。「暗くなりぬれば、まゐらぬなり。 一六「いっしか見せむ : こにかかる。 5 これ、かしこのなり、見たまへ」となむ言ふ。返りごとには、ただ、「『生きて宅兼家病気の段に「いかでもい かでもものしたまはめ」 ( 四八ハー ) と兼家が言ったことなど、直ちに 月生けらぬ』ときこえよ」と言はせて、思ひ臥したれば、あはれ、げにいとをか 彼女の東三条邸入居を意味するも 一セ 一六 2 しかなるところを、命も知らず、人の心も知らねば、「いっしか見せむ」とあのとはかぎらないが、そんな言葉 に彼女はこうした期待を抱いたか。 安 天底本「さもあらはも」を私見に りしも、さもあらばれ、やみなむかしと思ふもあはれなり。 巻 よって改める。「さもあらばあれ」 中 の略。どうなろうとかまいはしな 花に咲き実になりかはる世を捨ててうき葉の露とわれそ消ぬべき いが、といった詠嘆的な挿入句。 ↓六八ハー注一。 など思ふまで、日を経ておなじゃうなれば、心細し。 うるふさっき へ み