一近江をさす。↓九五ハー注 = 三。 とやうにて、例の、日過ぎて、つごもりになりにたり。 ついな ニ「追儺」に同じ。↓五九ハー注一五。 いみ 三兼家が近江のほうへばかり行 忌のところになむ、夜ごとに、と告ぐる人あれば、心やすからであり経るに、 っていて、いつの間にか大晦日に きロ なってしまった作者の、みじめさ 日月日はさながら、鬼やらひ来ぬるとあれば、あさましあさましと思ひ果つるも 蛉 に徹し、孤独感が身に滲みとおっ わらはおとな てくるさま。 蜻いみじきに、人は、童、大人ともいはず、「儺やらふ儺やらふ、と騒ぎののし 四「儺」は悪鬼。 六 みき るを、われのみのどかにて見聞けば、ことしも、ここちょげならむところのか五童女や侍女が騒いでいるのを 自分には無関係のこととして傍観 ぎりせまほしげなるわざにぞ見えける。雪なむいみじう降ると言ふなり。年のしている、その作者の気持を「の どかに」といった。 六「・ : せまほしげなる」の「げな 終はりには、なにごとにつけても、思ひ残さざりけむかし。 る」と呼応して、あたかも、の意。 ↓一三七ハー注一七。 セありとあらゆる物思いをし尽 す。↓一四六ハー注五。 148 五 四 ふ
一 0 鵜ではなく、網で魚をとる。 をそする。またなくをかしくあはれなり。 = 所在不明。↓六三ハー注一一 0 。 にへの・ いづみがは一三 明けぬれば、急ぎ立ちてゆくに、贄野の池、泉川、はじめ見しにはたがはで三木津川。↓六三ハー注 = 一。 一三作者はしばしば前回 ( 上巻末 ) あるを見るも、あはれにのみおばえたり。よろづにおばゆることいと多かれど、の初瀬詣での追憶にひたりながら、 今回の初瀬詣での旅を行く。 一四『枕草子』「森は」の段にも見 いともの騒がしくにぎははしきに紛れつつあり。ようたての森に車とどめて、 える。『今昔物語集』の「夜立の森」 かすが すくゐん 破子などものす。みな人のロむまげなり。春日へとて、宿院のいとむつかしげ ( 巻二十 ) と同じで、京都府相楽郡 木津町の南、市坂付近か、という。 ↓六三ハー注一八。 なるにとどまりぬ。 一六春日神社。藤原氏の氏神。 みかさやま それより立つほどに、雨風いみじく降りふぶく。三笠山をさしてゆくかひも宅参詣者が宿泊する僧坊。宿坊。 一 ^ 底本「あれより」。「それより」 みてぐらたてまっ なく、濡れまどふ人多かり。からうして、まうで着きて、御幣奉りて、初瀬と改める説に従う。 一九「三笠山」の「笠」の縁語で、 あすかみあかし くぎめき ざまにおもむく。飛島に御灯明奉りければ、ただ釘貫に車を引きかけて見れば、「指してゆく」の「さして」に、「笠 ( 傘 ) を差して」の意をかける。 月 木立いとをかしきところなりけり。庭清げに、井もいと飲ままほしければ、むニ 0 ↓五五ハー注一四。 年 ニ一飛鳥寺。平城京成立後移され た新元興寺。奈良市。 禄べ「宿りはすべし」と言ふらむと見えたり。いみじき雨いやまさりなれば、し 天 一三柱を立て横木を渡した柵。車 ながえ の轅を釘貫に掛けたのである。 巻ふかひもなし。 中 ニ三湧き水。有名な飛鳥井をさす。 つばいち からうして、椿市にいたりて、例のごと、とかくして出で立つほどに、日もニ四催楽「飛鳥井」の一節 一宝↓六三ハー注一一六。 暮れはてぬ。雨や風、なほやまず、火ともしたれど、吹き消ちて、いみじく暗ニ六主語は「雨や風」。 わ . り′一 ニ四 ゐ ニ三 一九 はっせ
こよひ ひとよ 見えられたり。一夜のことども、しかじかと言ひて、「今宵だにとて急ぎつる九↓注讐 一 0 「流れては妹背の山の中に落 いみ を、忌たがヘにみな人ものしつるを、出だし立てて、やがて見捨ててなむ」なつる吉野の川のよしや世の中」 ( 古 今・恋五読人しらず ) を引く。 ど罪もなく、さりげもなく言ふ。いふかひもなし。あくれば、「知らぬところ「あせむ」は、夫婦の愛情がかれる 意に、川の水がかれる意をかける。 = 七月四日。四日まで物忌があ にものしつる人々、いかにとてなむ」とて急ぎぬ。 き、五日はまた物になる。「あ のち くる日」は六日。「またの日」は七 それより後も七八日になりぬ。あがたありきのところ、初瀬へなどあれば、 日。七夕ゆえに兼家の訪れを待つ。 むまどき もろともにとて、つつしむところに渡りぬ。ところ変へたるかひなく、午時ば三「・ : たるに」という気持 一三「られ」は受身。 かどあ ともやす 一四作者の父、倫寧。 かりに、にはかにののしる。「あさましや、たれか、あなたの門は開けつる」 一五初瀬詣でのため精進をしてい す かう・ - も - る所。倫寧邸とも、別ともされる。 など、あるじも驚き騒ぐに、ふとはひ入りて、日ごろ、例の香盛り据ゑて行な ↓六二注一三。 なげし 宅長押の上に設けた棚か ひつるも、にはかに投げ散らし、数珠も間木にうち上げなど、らうがはしきに、 天兼家は、作者の精進を、再度 月 の山籠りのためと誤解し、このよ 7 いとぞあやしき。その日のどかに暮らして、またの日帰る。 年 うな暴挙に出たのであろう。 さて、七八日ばかりありて、初瀬へ出で立つ。巳の時ばか一九↓八八ハー注七。 ニ 0 ↓一〇六ハー注一一。 飫三五〕再度の初瀬詣で も・つ - つレ ニ一按察使大納言は師氏 ( ↓六七 り、家を出づ。人いと多く、きらぎらしうてものすめり。 山・ニ 0 ハー注一一 0 ) 。「この」は感動をこめて うぢ ひつじ ニ一あぜちのだいなごんりゃう 未の時ばかりに、 この按察使大納言の領じたまひし宇治の院にいたりたり。人指示する語で「宇治の院」にかかる。 一三旅の興を感じることはわずか はかくてののしれど、わが、いははつかにて、見めぐらせば、あはれに、、いに入で、の意にとっておく。 ずずまぎ 一セ はっせ はっせ み 一九
一安和ニ年 ( 突九 ) 。「あらたまの 年たちかへるあしたより待たるる うぐひす ものは鶯の声」 ( 拾遺・春素性 ) 。 兼家を待っ心をそれとなく含む。 ニ不吉な言葉を忌み慎んでロに 蜻蛉日記中 し・ないよ , つにす . ること。 三↓五〇ハー注四。 四人の注意をひきつけるための あした かくはかなながら、年たちかへる朝にはなりにけり。年ご発語的呼びかけ。 〔一〕年頭の寿歌三十 五同母妹か。「・ : とおばしき人」 こといみ 日三十夜はわがもとに は第三者的筆法。↓一〇ハー注一。 ろあやしく、世の人のする言忌などもせぬところなればや、 六申しあげます。妹の言葉。 四 ことほうた セ寿歌「天地を袋に縫ひて幸 かうはあらむとて、起きて、ゐざり出づるままに、「いづら、ここに、人々、 ひを入れてもたれば思ふことな ・」とし 今年だにいかで言忌などして、世の中こころみむーと言ふを聞きて、はらからし」。 ^ この寿歌を少し変えて、「三 ふ あめっち とおばしき人、まだ臥しながら、「ものきこゅ。天地を袋に縫ひて」と誦ずる十日三十夜はわがもとに入れても たれば思ふことなし」と言った、 みそかみそよ しいとをかしくなりて、「さらに、身には、『三十日三十夜はわがもとに』と即興の冗談。初句はない。↓注一一。 九最大限に強める。↓九ハー注六。 年 ゑはうとしとくじん 2 言はむーと言へば、前なる人々笑ひて、「いと思ふやうなることにもはべるか一 0 不詳。「恵方」 ( 歳徳神のいる 方角 ) 、「会 ( 仏事 ) ・法 ( 修法 ) 」の 安 との たてまっ ずほふ 一一語、「修法」と改める説などある。 な。おなじくはこれを書かせたまひて、殿にやは奉らせたまはぬ」と言ふに、 = この替歌の寿歌を兼家に書き 中 送った時には、「月ごとのなどの 臥したりつる人も起きて、「いとよきことなり。天下のえほうにもまさらむ 初句が加えられただろう。 たてまっ など、笑ふ笑ふ言へば、さながら書きて、小さき人して奉れたれば、このごろ三道綱
だうのば さて、五日ばかりにきょまはりぬれば、また堂に上りぬ。日ごろものしつる一叔母。↓一二〇ハー注一。 人、今日ぞ帰りぬる。車の出づるを見やりて、つくづくと立てれば、木陰にや三きわだって。格別に 四↓五〇ハー注五。 旨ロ 日うやういくも、いと心すごし。見やりてながめ立てりつるほどに、気や上りぬ五↓五〇ハー注六。 蛉 六真言で、仏の加護を祈る修法。 蜻らむ、ここちいと悪しうおばえて、わざといと苦しければ、山ごもりしたる禅寂寞感に包まれて感傷的な気 五 分になること。女が山寺に籠って 祈疇を受けたり、念誦したりして 師呼びて護身せさす。 いる様子を、話に聞き、物語で読 ゅふぐれ わんず 夕暮になるほどに念誦声に加持したるを、あないみじと聞きつつ思へば、昔、んだ時の浪漫的な感動をいう。三 行目の「心すごし」と応じ、嘱目の たか わが身にあらむこととは夢に思はで、あはれに、いすごきこととて、はた、高や景が想像の心象風景とまさに一致 しているさまを鮮やかに示す。 〈「言ひにも言ひて」にかかって、 かに、絵にもかき、ここちのあまりに言ひにも言ひて、あなゅゅしとかつは思 声を高くしての意であるが、心理 ひしさまにひとったがはずおばゆれば、かからむとて、ものの知らせ言はせた的に「絵にもかき」にもかかる。 九底本「物ゝ思らせいはてなり ひとり一 けるなりけり」。「思らせ」を「しら りけるなりけりと、思ひ臥したるほどに、わがもとのはらから一人、また人も せ」、「いはて」を「いはせ」とする ろともにものしたり。はひ寄りて、まづ、「いかなる御ここちそと里にて思ひ説に従い、その下は底本に近い形、 「たりけるなりけり」としておく。 たてまつるよりも、山に入り立ちては、いみじくもののおばえはべること。な霊的な存在が将来を暗示して、そ う言わせたのだった、の意。 ねん 一 0 作者と同居している妹。↓六 でふ御住まひなり」とて、ししと泣く。人やりにもあらねば、念じかへせど、 九ハー注五。 あ = 底本「又人もかへりもに」。私 え堪へず。泣きみ笑ひみ、よろづのことを言ひ明かして、明けぬれば、「るい 122 た ごしん ふ 六 かぢ 一 0 あが 四
ゃうか 八日の日、未の時ばかりに、「おはしますおはします」とののしる。中門お一二十八日。 ↓一〇六ハー注一一。 あ ごぜん ↓一〇六ハー注六。 し開けて、車ごめ引き入るるを見れば、御前のをのこども、あまた、轅につき 六 五 一三ロ こう しぢも お したすだれ すだれ ↓六五ハー注一一。 日て、簾巻きあげ、下簾左右おし挟みたり。榻持て寄りたれば、下り走りて、紅五 蛉 六 ↓六八ハー注四。 蜻梅のただいま盛りなる下よりさし歩みたるに、似げなうもあるまじう、うちあセ兼家は、折からにふさわしい 様子で、声をあげてうたう。 のば かぐらうた げつつ、「あなおもしろ」と言ひつつ歩み上りぬ。またの日を思ひたれば、ま ^ 歌謡の一節か。神楽歌「あは れ、あなおもしろ、あなたのし : こ ( 古語拾遺 ) かともいう。 た南塞がりにけり。「などかは、さは告げざりし」とあれば、「さきこえたらま 九兼家の東三条邸は南に当る。 しカばしかがあるべかりける」とものすれば、「たがへこそはせましか」と一 0 作者の言葉。今後は、あなた の心の中をよく確かめてみなけれ あり。「思ふ心をも、いまよりこそはこころみるべかりけれなど、なほもあばなりませんねと皮肉まじりに言 い返す。「心をも」は底本「心をや」。 それでは「や」を受けるところがな らじに、たれもものしけり。小さき人には、手習ひ、歌よみなど教へ、ここに いので、私見によって改めた。 あ = 兼家も作者も。お互いにああ てはけしうはあらじと思ふを、「思はすにてはいと悪しからむ。いま、かしこ 言えばこう言う、ヘらずロの応酬。 もぎ なるともろともにも裳着せむ」など言ひて、日暮れにけり。「おなじうは、院三習字と和歌は、当時の女子教 育の基本。 一三「ここにてけし , つはあらじと へまゐらむ」とて、ののしりて出でられぬ。 は思ふを」の意。ここで、まずま けしき このごろ、空の気色なほりたちて、うらうらとのどかなり。暖かにもあらす、す教えられるとは思うのに。 せんし ニ 0 一四時姫腹の詮子。「かしこ」は兼 むめ うぐひす にはとり・ 寒くもあらぬ風、梅にたぐひて鶯をさそふ。鶏の声など、さまざまなごう聞こ家の東三条邸。時姫はすでにこの 九ふた ひつじ 一か した はさ ながえ ちゅうもん
しきわざは、えものせず、ことほぎをそさまざまにしたる。例のごとなり。白ないという気持でつながる。 = 父倫寧。 てう むめ 一ニ出産。このとき生れたのが、 う調じたる籠、梅の枝につけたるに、 たかすえ 後年菅原孝標の妻となり、『更級 けふかきね 日記』の作者を生んだ異母妹か 冬ごもり雪にまどひしをり過ぎて今日ぞ垣根の梅をたづぬる 一三出産五十日目のお祝い。以下 たちはきをさ よ とて、帯刀の長それがしなどいふ人、使ひにて、夜に入りてものしけり。使ひ、「 : ・行なひのほども過ぎぬ」 ( 次ハー 七行 ) まで翌春のこと。↓次ハー注四。 一六 うちきひとか、ね 一四白く塗った髭籠。 っとめてそ帰りたる。薄色の袿一襲かづきたり。 一五東宮御所の警固に当った舎人 ゆきま ( 帯刀 ) の長官。 枝わかみ雪間に咲ける初花はいかにととふににほひますかな 一六薄紅色または薄紫色。 ニ 0 ↓一五二ハー注九。 など言ふほどに、行なひのほども過ぎぬ。 一 ^ 作者の歌に対する返歌。出産 をした女性の歌であろう。 「忍びたるかたに、、・ しさ」と誘ふ人もあり、「なにかは」とて、ものしたれば、 一九「如何」に「五十日」をかける。 まう 人多う詣でたり。たれと知るべきにもあらなくに、われひとり苦しうかたはら = 0 正月の勤行を終え、十四日を 過ぎる。↓一五〇ハー注七。 はら たるひ 9 いたし。祓へなどいふところに、垂氷いふかたなうしたり。をかしうもあるか三以下、再び天延元年冬に戻る。 ニ四 年 一三祓殿。↓一四二ハー注一。 おとな わらは * ごっず . く つらら 元 ニ三氷柱。 延なと見つつ帰るに、大人なるものの、童装束して、髪をかしげにてゆくあり。 ほそなが 天 ニ四男女の童に共通の細長、童女 そで ひとへ かぎみ の汗衫など。男女いすれか不明。 巻見れば、ありつる氷を、単衣の袖に包みもたりて、食ひゆく。ゅゑあるものに 下 一宝こんな姿をしているのも、そ くくれなりの理由があるのであろう。 ゃあらむと思ふほどに、わがもろともなる人、ものを言ひかけたれば、氷 ニ七 ニ六自称の代名詞。男も女も使う。 なほもの みたる声にて、「まろをのたまふか」と言ふを聞くにそ、直者なりけりと思ひ毛身分素姓の低い者 ニ六 はつはな 一九 ひ か とねり
蜻蛉日記 しみづ 一午後三時ごろ。一説では、午 か清水にと思ふ。未の終はりばかり、果てぬれば、帰る。 後四時ごろ。 やまぐち ふりがたくあはれと見つつゆき過ぎて、山口にいたりかかれば、申の果てばニ午後五時ごろ。一説では、午 後六時ごろ。 かくぞおばえけ三「かつがっと」 ( 五一ハー注一五 ) の かりになりにたり。ひぐらしさかりと鳴きみちたり。聞けば、 「と」と同じ用法。 四「鳴き」に「泣き」をかける。 る。 五逢坂の関近くにあった湧き水。 四 六 ↓六六ハー注六。 なきかへる声そきほひて聞こゅなる待ちゃしつらむ関のひぐらし セ同車の人。「わがおなじゃう なる人」 ( 八七ハー注一九 ) か とのみ言へる、人には言はず。 ^ 「駒の足とく走り」から、「走 走り井にはこれかれ馬うちはやして先立つもありて、いたり着きたれば、先り井」を言いかける。 九「しりなる人」の上句に、作者 立ちし人々、いとよく休み涼みて、ここちょげにて、車かきおろすところに寄が下句をつけた、連歌。「影」に 「鹿毛」をかける。「逢坂の関の清 もち 水にかげ見えていまやひくらむ望 り来たれば、しりなる人、 月の駒」 ( 拾遺・秋貫之 ) を踏まえ 、】まあし た軽妙な応酬をともに興じ、相手 うらやまし駒の足とく走り井の に反発した形で、雰囲気を盛り上 げている。この本歌は屏風歌。屏 と言ひたれば、 風絵的な源流から発展をとげた場 面構成を示す。 清水にかげはよどむものかは かみぎ 一 0 不明。上座をいうか。「あと なる」「あうよる」などの説もある。 近く車寄せて、あてなるかたに幕など引きおろして、みな降りぬ。手足もひた = 前に「このごろのここち」 ( 八 したれば、ここちもの思ひはるくるやうにぞおばゆる。石どもにおしかかりて、七ハー ) とあったような深刻な気持。 は五 し は八 し ゐ さきだ 六 さる らき
れ。さしたまへ」と寄りきてささめけば、「いでこころみむかし」とて、の九そばにいる侍女。 一 0 堅く織った無地の絹の織物。 ひひなぎめみ しカうそ書きたりけるは、、かなる、いば = 雛人形の着物 雛衣、三つ縫ひたり。したがひどもこ、ゝ 三着物の前を合せる時、下に重 したまえ なる部分。下前。 へにかありけむ、神そ知るらむかし。 一三次の三首の和歌は兼家との仲 の回復を祈願している。しかしこ しろたへのころもは神にゆづりてむへだてぬ仲にかへしなすべく うして祈ってもどうにもならない そんな自分を客観視した表現。 一四「たへ ( 栲 ) 」は楮の繊維で織っ からごろも た白い布。同時に「しろたへの」が 唐衣なれにしつまをうちかへしわがしたがひになすよしもがな まくらことば 「衣」の枕詞になっている。 一五「唐衣」は「なれ ( よれよれにな る意に、馴染む意をかける ) 」の枕 なつごろも 詞。「衣」の縁語仕立てで、「褄」に 夏衣たつやとそみるちはやぶる神をひとへにたのむ身なれば 「夫」を、「したがひ」 ( 注一一 I) に「従 月 ひ」をかける。「うちかへし」は、 暮るれば帰りぬ 反対に、逆にの意。 月 一六枕詞風に用いた「夏衣」の縁で -4 明くれば、五日のあかっきに、せうとなる人、ほかより来て、「いづら、今 「丿っ ( 祈りの験が 「裁つ」としし 年 よる 延日の菖蒲は、などかおそうはつかうまつる。夜しつるこそよけれ」など言ふに、現れる ) 」をかける。「ちはやぶる」 は「神」の枕詞。副国・ひとへに」に 天 かうし しゃうぶ 巻おどろきて、菖蒲ふくなれば、みな人も起きて、格子放ちなどすれば、「しば「単衣」をかける。 下 宅理能か。↓四二ハー注三。 し格子はなまゐりそ。たゆくかまへてせむ。御覧ぜむにもとてなりけり」など天召使に言う。↓五〇ハー注四。 一九「御覧ぜむにも良からむとて きのふ など言うところを略した。 言へど、みな起きはてぬれば、事行なひてふかす。昨日の雲かへす風うち吹き さうぶ こと かとり
た、神・蛇神が男に化けて通って て果てぬ きた三輪山伝説を踏まえて、「ゆ 二十八日にぞ、例の、ひもろきのたよりに、「なやましきことありて」などゅし」と言ったとも考えられる。 = 卯の花の陰にほととぎすが隠 れて鳴くというのに、兼家は来な あべき。 い。「卯」に「憂き身」を響かす。 さっき 三神に供物をするにつけて。そ 五月になりぬ。菖蒲の根長きなど、ここなる若き人騒げば、つれづれなるに、 の用意を作者に頼んだか。二十八 たてまっ つらめ 取り寄せて、貫きなどす。「これ、かしこに、おなじほどなる人に奉れ」など日、伊尹が石清水八幡宮に参詣 ( 日本紀略 ) 。兼家も同行したか。 一三「あるべき」の音便。「二十八 言ひて、 日にぞ」の結び。兼家の手紙を第 かくめお 三者的に表現。↓一六六ハー注一五。 隠れ沼に生ひそめにけりあやめ草知る人なしに深き下根を 一四五色の糸で菖蒲の葉を貫いて 薬玉を作ること。↓二〇八ハー注四。 と書きて、中に結びつけて、大夫のまゐるにつけてものす。返りごと、 一五作者が道綱に言う言葉。 一八 月 一六詮子。↓一六四ハー注一四。 あやめ草根にあらはるる今日こそはいっかと待ちしかひもありけれ 宅作者が時姫と詮子に養女を紹 ニ 0 月 介した歌。作者の代作による養女 大夫、いま一つとかくして、かのところに、 あいさっ 年 からの挨拶ともとれる。 天時姫の返歌。時姫の代作によ わが袖は引くと濡らしつあやめ草人の袂にかけてかわかせ 禄 天 る詮子の返歌ともとれる。 一九「五日」に「何日か」をかける。 巻御返りごと、 下 ニ 0 大和だつ人。 ニ一「御」は不審。作者の不用意か 引きつらむ袂は知らずあやめ草あやなき袖にかけずもあらなむ 一三「たるなり」の音便。「なりーは と言ひたなり。 そで さうぶ 一九 たもと したね 推定。 っ