明石の君 - みる会図書館


検索対象: 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)
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1. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

おおい あかし せきりよう 巻名明石の君のかき鳴らす琴に響き合う「松風」により、大堰の邸に移り住んだ明石の君たちの寂寥を象徴する。「松風」 の語は、地の文にもみえ、また尼君の歌に「身をかへてひとりかへれる山ざとに聞きしににたる松風ぞふく」がある。 はなちるさと 梗概二条の東院が落成し、源氏は西の対に花散里を迎え入れたが、東の対にと予定していた明石の君は、わが身の程を思 うと上京の決心もっきかねている。明石の入道は、そんな娘のために大堰川のほとりにあった尼君伝領の邸を修築して、 これみつ そこに娘を移し住まわせることにした。これを知った源氏は、惟光を遣わして邸の整備に当らせた。 源氏の催促で、明石の君は、姫君、母尼君とともに、ただ一人明石にとどまる父入道と惜別してひそかに上京し、大堰 の邸に落ち着いた。閑寂な、明石の浦を思わせる大堰の景色は、懐かしい故郷を後にしてきた明石母子の感慨を誘うに十 分であった。 さがの 明石の君訪問を願いながらもなかなか果たせないでいた源氏は、造営中の嵯峨野の御堂や桂の院への所用にかこつけて、 疑念を抱く紫の上をなだめすかし、ようやくのことで大堰に明石の君を訪れた。三年ぶりの再会である。はじめて対面す る幼い姫君は予想以上に愛らしく、源氏は自邸への引取りを思案するが、二条の東院入りに応じようとはしない明石の君 の気持を思うと、きり出すことができない。二夜を大堰に過してこまやかな契りを交すのであった。翌日は、源氏の威徳 てんじようびと を慕って迎えに来た殿上人を桂の院で饗応、月明の下に遊宴が催され、都の帝との間に歌の贈答があった。 予定を過ぎて帰邸した源氏は、不満げな紫の上をなだめるのに懸命である。子供好きな紫の上は、明石の姫君を引き取 る件の相談を源氏からもちかけられて、わが手で養育したいものと思うのであった。 大堰への通いは容易ではない。嵯峨野の御堂の念仏にかこつけて、月に二度ほどの訪れであった。〈源氏三十一歳の秋〉

2. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

語 物 氏 源松風 兵部卿宮 藤壺中宮 内の大殿、殿、 源氏 ( 大殿、大臣 タ務 ( 大殿腹の君 ) △葵の上 ( 大殿 ) △大臣 ( 親 ) 明石の入道 ( 入道 ) 母君、 尼君 △桐壺院 ( 故院 ) 各巻の系図 冷泉帝 ( 上 ) 紫の上 ( 女君 ) 一、本巻所収の登場人物を各巻ごとにまとめた系図である。 一、△は、その巻における故人を示す。 、 ( ) 内は、その巻での呼び名を示す。 花散里 明石の君 ( 君女君 明石の姫君 ( 若君 ) 明石の御方、御方、 右近将監 ( 靫負の尉 △民部大輔の君 惟光 明石の姫君の乳母 頭中将 兵衛督 蔵人弁 ( 弁 )

3. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

一源氏の琴。↓明石 3 九三ハー られて、捨てし家居も恋しうつれづれなれば、かの御形見の琴を掻き鳴らす。 = 「琴の一日に峰の松風かよふら ひ しいづれのをより調べそめけむ をりのいみじう忍びがたければ、人離れたる方にうちとけてすこし弾くに、松 語 ( 拾遺・雑上徴子女王 ) 。 物風はしたなく響きあひたり。尼君もの悲しげにて寄り臥したまへるに、起きあ = 「身をか〈て」は尼姿をいう。 「山ざと」は大堰の邸。「聞きしに 源 にたる松風」は、明石で聞いた松 がりて、 風。明石の君の琴の音をもいう。 前歌・かの岸に : こに照応して、捨 身をかへてひとりかへれる山ざとに聞きしににたる松風そふく てた俗世に戻る不安を詠む。 四「ふる里」は明石。「琴」「言」の 掛詞。これも前歌「いくかへり・ : 」 に照応して、孤独の不安を詠む ふる里に見しょのともを恋ひわびてさへづることをたれかわくらん 五源氏の明石の君に逢えぬ気持。 おとど五 おおい かやうにものはかなくて明かし暮らす。大臣、なかなか静彼女の「なかなか : ・」 ( 前ハー ) に照応。 〔六〕源氏、大堰訪問の 六紫の上。源氏から明石の君の レし・カ 口実作る紫の上不満 心なく思さるれば、人目をもえ憚りあへたまはで渡りたま上京をはっきり知らされていない。 セこの「消息」は、口上での挨拶。 ふを、女君は、かくなむとたしかに知らせたてまつりたまはざりけるを、例の、 ^ 京都市右京区桂。源氏が桂の 別邸を造ったこと。これが初出。 せうそこ 聞きもやあはせたまふとて消急聞こえたまふ。源氏「桂に見るべきことはべる九ためらう気持の発語。 一 0 「人」は、暗に明石の君をさす。 を、いさや、心にもあらでほど経にけり。とぶらはむと言ひし人さへ、かのわ = 源氏の御堂。↓一三ハー注一六。 三仏体の彩色や装身具など。 みだう たり近く来ゐて待つなれば、心苦しくてなむ。嵯峨野の御堂にも、飾りなき仏一三明石の君訪問の口実でもある。 一四以下、紫の上の心中。 ふつかみか 一五紫の上は明石の君の存在を源 の御とぶらひすべければ、二三日ははべりなん」と聞こえたまふ。桂の院とい ( 現代語訳一一五〇ハー ) 御方、 四 いへゐ さがの かつら きんか

4. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

437 各巻の系図 △先帝兵部卿宮 △六条御息所ーー・斎宮の女御 ( 入道后の宮、宮、入道 △母后藤壺中宮 ( の宮、故宮、后の宮 冷泉帝 ( 上、内裏 ) 院 ( 院、故院 ) 桐 薄雲 △按穴小 , 入納一一口 ( 故大納言 ) △桐壺更衣 ( 更衣 ) △大臣ーーー明石の入道 式部卿宮 北の方 ( 尼君 ) 左大臣 ( 太政大臣 ) 壺 君、大臣の君、殿、大臣、 源氏の大臣、内大臣 明石の姫君君、 君、母君、女、 明石の君 ( 山里の人 頭中将 ( 権中言、大 前斎宮、女 紫の上 ( 対女君 △葵の上 花散里の〔院の 明石の姫君の乳母 中将の君 畄日に ィーセ物 王命婦 御匣殿

5. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

441 各巻の系図 初音 △桐壺院 弘徽殿大后 ( 朱雀院の后の宮 ) 雀院 △葵の上 紫の上 ( 上 ) 空嬋 ( 尼君 ) 花散里 源氏 ( 大臣の君、大臣 ) タ霧 ( 殿の中将の君、 矛山・将 △タ顔 内大臣 ( 内の大殿 ) 四の君 褝師の丑 ( 醍醐の阿闍梨の君 ) 摘花 ( 常陸の宮の御方 ) 明石の姫君 ( 姫君 ) 明石の君 ( 北の殿、明石の御方 ) 玉鬘 ( 西の対の姫君 ) 柏木 弁少将 中将の君

6. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

うぐひすはつね 巻名明石の君の姫君への贈歌「年月をまつにひかれて経る人にけふ鶯の初音きかせよ」になる。「はつね」の語は、源氏 の言葉の中にもみえる。 梗概六条院にはじめての春がめぐってきた。そのすばらしさは筆舌に尽しがたいほどだが、中でも紫の上の住む春の御殿 の有様は、あたかもこの世の極楽であった。 元日のタベ、源氏は、末長い契りをこめて紫の上と歌の贈答をした後、装いをこらして御方々のもとを訪れた。明石の 姫君のもとでは、明石の君から贈られた歌に生母の情のあわれさを思い、続いて訪れた夏の御殿では、花散里のおおらか たまかずら な上品さ、玉鬘のはなやかな美しさをあらためて確認する。暮れ方、姫君の返歌を見て思い乱れる明石の君のもとを訪れ、 その夜はそこに泊った。 かんだちめ 翌二日には臨時客の盛宴があり、上達部、親王たちが残らず参集したが、今年は、玉鬘を意識して気もそぞろな若人た すえつむはなうっせみ ちが多かった。源氏は、忙しい時期をやり過して、二条の東院に住む末摘花や空蝉をも訪れる。 おとことうか 今年は男踏歌がある。見物に六条院の女性たちは南の御殿に集り、玉鬘は明石の姫君や紫の上と挨拶を交した。源氏は、 この機会にと、女楽を計画する。 〈源氏三十六歳の正月〉 ふ

7. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

. ワ ふる道にわれやまどはむいにしへの野中の草は 言葉「今日長く別れたてまつりぬ」と照応し、今日の別れ えいけっ 0 すけみ ( 拾遺・物名・三七五藤原輔相 ) 茂りあひにけり を親子の永訣と意識して発する言葉となっている。 古くからある道に自分は迷うだろうか。昔からある野原の中 ・四・ 2 ほのばのと明石の浦の朝霧に島隠れ行く舟をし うっそう 語 の草が、鬱蒼と生い茂ってしまったのだ。 ( 古今・羇旅・四 0 九読人しらず ) ぞ思ふ 物 ほのばのと夜の明ける明石の浦の朝霧の中を、島陰に隠れな 氏隠し題として「やまと」を詠み込んで、遠のいた古代の土 とうろく もののな がら漕いで行く舟を見やり、しみじみとした感慨にふけって 源地柄に思いを馳せる。この作者は藤六と号し、物名など機 知的な歌を多く詠んだ。物語の尼君の歌は、捨て去ったは 前出 ( ↓澪標 3 三六六ハー上段 ) 。物語では、明石の浦を船出す ずの故郷京都に帰る意外ななりゆきから、京への道筋も忘 れて、「野中のみち」に迷うほかあるまいとする。 る情景。「昔人もあはれと言ひける」とは、この歌の情感 やみ ・・人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまど を強調した語り口であろう。また引歌提示部の「浦の朝 ひぬるかな ( 後撰・雑一・一一 0 三藤原兼輔 ) 霧」は、次の「隔たりゆくままに」の序詞ともなっている。 子を持っ親の心は、闇の道を歩いているわけでもないのに、 入道を残したまま、住みなれた土地と惜別するという文脈 わが子を思って取り乱し、道に迷ってしまうことだ。 が、この歌を根拠に形成される。 ・一とね 前出 ( ↓桐壺田四三八ハー上段など ) 。物語では、入道の、愛娘 ・ 2 琴の音に峰の松風かよふらしいづれのをより調 ( 拾遺・雑上・四五一徽子女王 ) べそめけむ 明石の君の栄達に腐心する親心をかたどる。後続の「心ま 琴の音色に、峰の松を吹く風が通じているらしい。琴のどの どひ」 ( 一八ハー六行 ) にも、この歌の表現がひびいていよう。 8 . 0 緒から、またどこの峰で、その音色を掻き鳴らしはじめたの 世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もとなげ だろうか ( 古今・雑上・九 0 一在原業平 ) く人の子のため おおい この世の中に、避けられない死別というものがなくてほしい。 前出 ( ↓賢木三八五ハー下段 ) 。物語では、大堰到着後の明石 きん 親の命が千年もと祈って嘆いている子のために。 の君が明石の地を思い起しながら、源氏の形見の琴を弾く、 前出 ( ↓タ顔田四四五ハー下段 ) 。『伊勢物語』では第四句「千その音色を語る。「松風はしたなく」はその弾奏の秀抜さ 、ーてムうらい を表しているが、それとともに、松籟と琴の音の交響が、 代もと祈る」。物語では、入道が明石の君に、父の死にも 動転するなと諫める言葉として用いられる。先立っ入道の明石の君の不安と悲しみの心象風景を形象していよう。

8. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

引歌一覧 く文脈で、しかし今までは、こんな所に住めるとは気づか ・幻・ 8 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまど ( 後撰・雑一・一一 0 三藤原兼輔 ) なかった、の気持。物語では、明石の君づきの女房が、明 ひぬるかな じよう 前出 ( ↓前ハー上段 ) 。物語では、姫君の将来などを思案して、石の地で知り合った靫負の尉に出会って発する言葉。昔の 思い屈する明石の君の親心をいう。その「心の闇」も、源恋人らしく気どり、歌枕ふうに古歌を羅列する。その最初 に位置するこの「八重たっ山」は、大堰をさす。 氏との対面で「晴るるやうなり」とする。 ・・ 5 ほのばのと明石の浦の朝霧に島隠れ行く舟をし 里遠みいかにせよとかかくのみはしばしも見ね もとギら ( 古今・羇旅・四 0 九読人しらす ) ( 元真集 ) ぞ思ふ ば恋しかるらむ そなたの住む里が遠いので、容易に逢うこともできず、いっ 前出 ( ↓前ハー下段 ) 。物語では、前項と同じく明石の君づき たいどうすれ、、 と、うのか。このまま、しばしも逢わず の女房の言葉。この歌によって「島がくれ」に明石の地の にいるのでは、恋しくてたまらないであろう。 意をこめる。 ・買・ 5 誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならな 『元真集』は、十世紀の歌人藤原元真の家集。この歌の詞 おきかぜ ( 古今・雑上・九 0 九藤原興風 ) 書によれば、地方にいる女に贈った歌。物語では、大堰の これからは誰を親しい友としようか。よ久しい高砂の松では、 山荘で明石の君に再会した源氏が、はじめてわが姫君に接 しよせん松でしかなく、昔なじみの友にはならぬのだから。 した感動から、このまま遠い山里には放置しておけぬ、と 「高砂」は、兵庫県高砂市の、松を連想させる歌枕。「松」 する。 ・・ 5 白雲の八重たっ山の峰にだに住めば住まるる世は老齢を象徴。親しい人々と次々に死別し、ひとり生き残 ( 源氏釈 ) る老齢の孤独を詠んだ歌。物語では、これも明石の君づき にこそありけれ 白雲が幾重にもたちこめている高い山の峰にさえ、住もうと の女房の言葉。「松も昔の」に、友のいない孤独の意を言 思えば住める世の中であった。 い込める。しかし古歌羅列の気どった物言いは、相手の靫 これたか 出典未詳。『古今集』 ( 雑下・九四五 ) には、惟喬親王の作とし負の尉に、いやみな女という印象を抱かせる。 ・四・ 5 6 久方の中に生ひたる里なれば光をのみぞ頼 て、「白雲の絶えずたなびく峰にだに住めば住みぬる世に ( 古今・雑下・九六八伊勢 ) Ⅱこそありけれ」。小野 ( 大原 ) の山里での隠棲の感懐を詠んむべらなる 私の住いは、月の中に生い茂っている桂という名の里である だものらし、。 結句の「こそ・ : けれ」は、逆接を含んで続

9. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

源氏物語 66 一明石の君の思いあがり。 でておほそうの住まひはせじと思へるを、おほけなし」とは思すものから、 ニ↓松風二四ハ ふだん 三深い事情がない人でさえ。 とほしくて、例の不断の御念仏にことつけて渡りたまへり。 四明石の君が源氏を。 な 五稀にしか逢えない恨めしさ。 しと深から、らむことに しと心すごげなる所のさまに、、 住み馴るるままに、、 六源氏との宿縁。「さすがに浅 てだにあはれ添ひぬべし。まして見たてまつるにつけても、つらかりける御契からぬ」は姫君が出生した縁。 おおい セ大堰川の鵜飼舟の篝火。 りのさすがに浅からぬを思ふに、なかなかにて慰めがたき気色なれば、こしら ^ 明石での生活を回顧し、明石 と大堰を類似の景として重ねる。 やりみづほたる か・か。りび へかねたまふ。いと木繁き中より、篝火どもの影の、遣水の蛍に見えまがふも九「いさりせし影」は、明石の漁 火。「 ( 身の ) 憂き」に「浮舟」を掛け をかし。源氏「かかる住まひにしほじまざらましかば、めづらかにおばえまし」て「篝火」の縁語とする。 一 0 「思ひ」に「火」をひびかす。 = これも「思ひ」「火」の掛詞。 とのたまふに、 「篝火の影となる身のわびしきは 九 流れて下に燃ゆるなりけり」 ( 古 明石「いさりせし影わすられぬかがり火は身のうき舟やしたひきにけん 今・恋一読人しらず ) による。 『紫式部集』にも類似発想の歌があ 思ひこそまがヘられはべれ」と聞こゆれば、 る。わが心を知らぬと切り返した。 三「うたかたも思へば悲し世の 源氏「あさからぬしたの思ひをしらねばやなほかがり火のかげはさわげる 中をたれ憂きものと知らせそめけ 誰うきもの」とおし返し限みたまへる。おほかたもの静かに思さるるころなれむ」 ( 古今六帖三素性法師 ) 。 一三伝聞形式で話を結ぶ。 たふと ば、尊きことどもに御、いとまりて、例よりは日ごろ経たまふにや、すこし思ひ 0 巻頭の明石の君の物語と首尾照 応。贈答歌に心つなぐ彼女の、源 氏に引き取られる日も近かろう。 紛れけむとぞ。 六

10. 完訳日本の古典 第17巻 源氏物語(四)

45 薄雲 「こそ : ・已然形ーは、逆接で続く語 紫の上舟とむるをちかた人のなくはこそあすかへりこむ夫と待ちみめ 法。言外に、「をちかた人」ゆえに な 帰れまいから、の意。嫉妬の歌。 いたう馴れて聞こゆれば、 いとにほひやかにほほ笑みて、 一九これも「桜人」による。「なか 一九 なか」は、行かないよりかえって。 源氏行きてみてあすもさねこむなかなかにをちかた人は心おくとも ニ 0 姫君の無邪気な可憐さ。 あり うへ 何ごととも聞き分かで戯れ歩きたまふ人を、上はうつくしと見たまへば、をち三「上」は、紫の上。 一三明石の君への不快な気分も。 ↓四三ハー五行。 かた人のめざましさもこよなく思しゆるされにたり。 いかに思ひおこすらむ、 ニ三紫の上の、明石の君を思う心。 一西自分がその立場だったら。直 我にていみじう恋しかりぬべきさまをとうちまもりつつ、ふところに入れて、 接話法から間接話法に移る文脈。 ち ニ五 たはぶ うつくしげなる御乳をくくめたまひつつ戯れゐたまへる御さま見どころ多かり。一宝乳の出ない乳房をふくませる。 紫の上の母性本能にふれる。 ニ六紫の上に子が生れないのか 御前なる人々は、「などか同じくは」「いでやーなど語らひあへり。 毛思いどおりにいかぬ世の中よ。 しとのどやかに心ばせあるけはひに住みなし 0 紫の上の明石の君嫉妬も、姫君 ニ 0 〕源氏、明石の君の ゆえに、おさまろうとしている。 心用意を重んじ労わる て、家のありさまもやう離れめづらしきに、みづからのけ天大堰 ニ九風流な造作。↓松風一一一一ハー はひなどは、見る度ごとに、やむごとなき人々などに劣るけぢめこよなからず、三 0 明石の君。貴人に匹敵。 三一通常の受領の娘と思われる程 かたち 容貌、用意あらまほしうねびまさりゆく。「ただ世の常のおばえにかき紛れた度で、格別目だたないのならば。 三ニ高貴な人が受領の娘を娶る例。 らば、さるたぐひなくやはと思ふべきを、世に似ぬひがものなる親の聞こえな三三父入道の偏屈者ぶり。 三四明石の君は素姓など十分なの 三四 に。入道の父は大臣であった。 どこそ苦しけれ。人のほどなどはさてもあべきを」など思す。はつかに、飽か ニ四 ニ ^ ニ六 ニ九 三三 ニ七 ニ三 せな 三 0 めと