ひ多かり。女君は二十七八にはなりたまひぬらんかし、盛りにきよらにねびま知った紫の上が、自分に隠し隔て したと思うだろう、とする。紫の さりたまへり。すこしほど経て見たてまつるは、またこのほどにこそにほひ加上への刺激は、今後の玉鬘の処遇 に不都合ともみていよう。 一五以下、源氏と紫の上が同座。 はりたまひにけれと見えたまふ。かの人をいとめでたし、劣らじと見たてまっ 一六右近は七日ぶりの対面。 宅つやつやした視覚的な美しさ。 りしかど、思ひなしにや、なほこよなきに、幸ひのなきとあるとは隔てあるべ 天玉鬘を。↓一七〇 ~ 一ハ ニ 0 あし おほとの′ ) も 一九順境の人 ( 紫の上 ) と逆境の人 きわざかなと見あはせらる。大殿籠るとて、右近を御脚まゐりに召す。源氏 ( 玉鬘 ) では同じ資質でも差がある。 むつ 「若き人は苦しとてむつかるめり。なほ年経ぬるどちこそ、心かはして睦びよニ 0 貴人の足をもんだりさすった りすること。 かりけれ」とのたまへば、人々忍びて笑ふ。女房「さりや、誰かその使ひなら一 = 疲れると言って。 一三源氏と右近。 たはぶごと いたまはむをばむつからん。うるさき戯れ言いひかかりたまふを、わづらはしニ三複数の会話として、「さりや」 ニ四 「誰か・ : むつからん」「うるさき : うへ きに」など言ひあへり。源氏「上も、年経ぬるどちうちとけ過ぎば、はたむつわづらはしきにとも区切れる。 一西紫の上も。「はた : ・」に続く。 かりたまはんとや。さるまじき心と見ねば、あやふし」など、右近に語らひて紫の上への、親愛をこめた戯れ。 ニ七 一宝「むつかる」ことのない性分。 おほやけ ニ六あいぎゃう ニ六近ごろの源氏の様子。 鬘笑ひたまふ。いと愛敬づき、をかしきけさへ添ひたまへり。今は朝廷に仕へ、 毛太政大臣は職掌が特に定めら いそがしき御ありさまにもあらぬ御身にて、世の中のどやかに思さるるままに、れす、閑暇。↓少女一〇五ハー四行。 玉 夭女房たちの心をためす意。 レカカニ九右近。 ただはかなき御戯れ言をのたまひ、をかしく人の心を見たまふあまりこ、 三 0 右近の報告「あはれなる人を ふるびと ・ : 」 ( 前ハー一〇行 ) をさす。 る古人をさへそ戯れたまふ。源氏「かの尋ね出でたりけむや、何ざまの人そ。 三 0 一九 一七
99 少女 ぎうニ九 おこな るところなく、例あらむにまかせて、なだむることなく、きびしう行へ」と仰の間では異例。学問の衰退の時代。 一五文章博士は定員一名 ( 従五位 さ、つぞく 下 ) 。ここは博士と他の儒者たち。 せたまへば、しひてつれなく思ひなして、家より外にもとめたる装束どもの、 一六高位高官に囲まれては、かえ おも こわ って気おくれするにちがいない うちあはずかたくなしき姿などをも恥なく、面もち、声づかひ、むべむべしく 宅当時は、先例を規範とした。 さはふ 天臆しがちだが平静を装って。 もてなしつつ、座につき並びたる作法よりはじめ、見も知らぬさまどもなり。 一九以下、貧しい儒者たちの身な きむだち りや態度を、やや戯画的に叙述。 若き君達は、えたへずほほ笑まれぬ。さるはもの笑ひなどすまじく、過ぐしつ ニ 0 ・もっと・もらし / 、しては。 す・ぢ・こと つ、しづまれるかぎりをと選り出だして、瓶子なども取らせたまへるに、筋異ニ一不用意に笑ったりしないよう な、年配の、分別ある者だけを。 かはらけ みんぶきゃう 一三酒を入れて盃などに注ぐ具。 なりけるまじらひにて、右大将、民部卿などの、おはなおほな土器とりたまへ ニ三民部省の長官。ここのみ登場。 とが かいもと 。オ。オ丿ニ四懸命につとめて。 るを、あさましく咎め出でつつおろす。博士「おほし垣下あるじ、よよま。こド 一宝儒者がこきおろし叱りつける。 三 0 おほやけ おほよ 常にはべりたうぶ。かくばかりのしるしとあるなにがしを知らずしてや朝廷にニ六「凡そ」の転。「はなはだ」「非 常」も漢文訓読調。儒者らしい語。 は仕うまつりたうぶ。はなはだをこなり」など言ふに、人々みなほころびて笑毛宴席の相伴役。 ニ ^ 無作法。三行後にも繰り返す。 ひざう ニ九「はべりたうぶ」は、古風なか ひぬれば、また、博士「鳴り高し。鳴りやまむ。はなはだ非常なり。座を退き たくるしい語感。ここは尊敬語。 て立ちたうびなん」など、おどし言ふもいとをかし。見ならひたまはぬ人々は、三 0 著名な。これも漢文訓読調。 三一儒者が学生を静める際の用語。 きよう かむだちめ めづらしく興ありと思ひ、この道より出で立ちたまへる上達部などは、したり風俗歌にもみえる。 三ニ大学寮出身の上達部は少数で、 顔にうちほほ笑みなどしつつ、かかる方ざまを思し好みて、心ざしたまふがめ常は肩身が狭いが、ここは得意顔。 ゑ え ニ五 ニ四 ニ 0 ひ ひ
四松風 ほ所がらのすごさ添へたる物の音をめでて、また酔ひ加はりぬ。ここには設け宅清涼殿の殿上の間。源氏別邸 の遊宴が宮廷以上とする点に注意。 つか おほゐ こな の物もさぶらはざりければ、大堰に、「わざとならぬ設けの物や」と言ひ遣は一〈「荷、は、一人で付える程度。 一九女の装束は、禄として普通。 きめびつ一八かけ したり。とりあへたるに従ひて参らせたり。衣櫃二荷にてあるを、御使の弁はニ 0 月の桂とは名ばかりで、真の 月光ー帝の威光に浴したいとする。 一九さうぞく 「久方の中に生ひたる里なれば光 とく帰り参れば、女の装束かづけたまふ。 をのみぞ頼むべらなる」 ( 古今・雑 下伊勢 ) 。 源氏久かたのひかりに近き名のみしてあさゆふ霧も晴れぬ山里 0 ここでの月も皇統の威光の象徴。 ぎゃうがう ずん 行幸待ちきこえたまふ心ばへなるべし。源氏「中に生ひたるーとうち誦じたま帝と源氏が、互いに相手をそれと みてたたえあう点に注意。 ニ三あはぢしま みつね ニ四 ふついでに、かの淡路島を思し出でて、躬恒が、「所がらか」とおばめきけむ三語り手の推測 一三注 = 0 の歌による。 ニ三↓明石 3 七一一ハー一二行。 ことなどのたまひ出でたるに、ものあはれなる酔泣きどもあるべし。 一西「淡路にてあはと遥かに見し ニ六 こよひ 月の近き今宵は所がらかも」 ( 新古 源氏めぐり来て手にとるばかりさやけきや淡路の島のあはと見し月 今・雑上凡河内躬恒 ) 。 一宝時の推移を思う。語り手の評。 頭中将、 ニ六「めぐり来て」は、月がここに、 ニ七 自分が流離から都に、の両意。明 うき雲にしばしまがひし月かげのすみはつるよぞのどけかるべき 石での歌 ( 明石 3 七一一ハー末 ) を回顧。 な むつ 左大弁、すこしおとなびて、故院の御時にも睦ましう仕うまつり馴れし人なり毛「憂き」「浮雲」、「澄み」「住 み」、「夜」「世」の掛詞。「月かげ」 は源氏。結句は前ハー帝の歌による。 夭系図にない人物。 ニ九桐壺院崩御の意をもこめる。 ニ ^ 雲のうへのすみかをすててよはの月いづれの谷にかげかくしけむ ニ五 ニ九
( 現代語訳三八九ハー ) しとめでたう書いたまへり。源氏「たぐひ草」が縁語。「うちとけて」「むす べはおいらかに、すくすくしきに、、 ばほる」が対照的。『伊勢物語』 ( 四 十九段 ) の兄妹の恋の贈答・うら いかに人見たてまつりけむ。 なかりし御気色こそ。つらきしも忘れがたう。 若み寝よげに見ゆる若草を人の結 ばむことをしぞ思ふ / 初草のなど うちとけてねもみぬものを若草のことあり顔にむすばほるらむ めづらしき言の葉そうらなくもの 、とば 一九 をさな 幼くこそものしたまひけれーと、さすがに親がりたる御一一 = ロ葉も、いと憎しと見を思ひけるかな」により、義父ゅ えの実事なき恋の苦悩を詠んだ歌。 みちのくに たまひて、御返り事聞こえざらむも、人目あやしければ、ふくよかなる陸奥国一九昨夜のことがありながら。 ニ 0 紙質の厚い実用的な紙。 紙に、ただ、玉鬘「承りぬ。乱り心地のあしうはべれば、聞こえさせぬーとの三聡明で分別ある娘とはいえ、 一本調子でかたくるしい みあるに、かやうの気色はさすがにすくよかなりとほほ笑みて、限みどころあ一三語り手の評言。相手の女の冷 淡さにかえって熱心になる源氏を、 困ったものと評す。 る心地したまふも、うたてある心かな。 ニ三「しのぶれど色に出でにけり のち 色に出でたまひて後は、「太田の松の」と思はせたることわが恋はものや思ふと人の問ふま 〔を玉鬘、源氏の愛に で」 ( 拾遺・恋一平兼盛 ) 。 困惑他の求婚者たち と」とこ ニ四「恋ひわびぬ太田の松のおほ なく、むつかしう聞こえたまふこと多かれば、し かたは色に出でてや逢はむといは まし」 ( 源氏釈 ) 。 蝶ろせき心地して、置き所なきもの思ひっきて、いとなやましうさへしたまふ。 一宝源氏の玉鬘への懸想 ニ六二人をまったくの親子の仲と。 かくて、事の心知る人は少なうて、疎きも親しきも、無下の親ざまに思ひき 胡 毛世間のもの笑い。玉鬘はわが こえたるを、「かうやうの気色の漏り出でば、いみじう人笑はれに、うき名に身の破滅をも懸念する。 夭父大臣とはいえ親身の気持で おとど はあるまい、とする推測 もあるべきかな。父大臣などの尋ね知りたまふにても、まめまめしき御心ばへ がみ ニ五 ニ四 おほた 一セ ニセ ゑ ニ六 ニ 0
からしきし 一貴重な料紙で、貴人ぶった趣。 思ひて文など書きておこす。手などきたなげなう書きて、唐の色紙かうばしき ニ「訛む」。方言で訛る意。 三以下、地方の実力者の風貌。 香に入れしめつつ、をかしく書きたりと思ひたる、言葉ぞいとたみたりける。 四武骨な田舎者、の先入観から。 語 じらう みそぢ 物みづからも、この家の二郎を語らひとりて、うち連れて来たり。三十ばかり五庶民や田舎者の、意味の分ら 氏 ぬ言葉。↓須磨 3 五一一ハー注九。 をのこたけ 源なる男の丈高くものものしくふとりて、きたなげなけれど、思ひなし疎ましく、六次@見ゅ」まで、監の求婚ぶ りを揶揄する語り手の評。「夜は やみ 荒らかなるふるまひなど見るもゆゅしくおばゅ。色あひ心地よげに、声いたうやすきいも寝ず、闇の夜に出でて かいまみ も、穴をくじり、垣間見、惑ひあ けさうびとよ へり。さる時よりなむ、よばひと 枯れてさへづりゐたり。懸想人は夜に隠れたるをこそよばひとは言ひけれ、さ は言ひける」 ( 竹取物語 ) 。 ま変へたる春の夕暮なり。秋ならねども、あやしかりけりと見ゅ。心を破らじセ懸想人の来訪は夜、人恋しさ は秋なのに、春の夕暮とは風変り。 なさけ とて、祖母おとど出であふ。監「故少弐のいと情び、きらきらしくものしたま ^ 「いっとても恋しからずはあ らねども秋のタベはあやしかりけ ひしを、いかでかあひ語らひ申さむと思ひたまへしかども、さる心ざしをも見り」 ( 古今・恋一読人しらす ) 。 「あやし」を、奇想天外の意に転用。 九乳母。祖母と自称している。 せきこえずはべりしほどこ、 しいと悲しくて、隠れたまひにしを。そのかはりに、 一 0 人情深く立派であられたので。 かう 一向に仕うまつるべくなむ心ざしを励まして、今日は、、 しとひたぶるに強ひて = 故少弐の代りに、専心お世話 させていただこうと。 。いとかた三血筋が格別と。監は、故少弐 さぶらひつる。このおはしますらむ女君、筋ことにうけたまはれま、 の息子から玉鬘の素姓を聞いたか。 わたくし いただき じけなし。ただなにがしらが、私の君と思ひ申して、頂になむ捧げたてまつる一三男性の謙遜した自称。 一四個人的な主君。 べき。おとどもしぶしぶにおはしげなることは、よからぬ女どもあまたあひ知一五「おとど」は、乳母への敬称。 お九 さ、 なま
55 薄雲 のちょ てまかづるを、召しとどめて、帝「心に知らで過ぎなましかば、後の世までの階では、東宮安泰の目的も加わる。 三冷泉帝は十一歳で即位。母藤 とが 咎めあるべかりけることを、今まで忍びこめられたりけるをなむ、かへりてう壺の祈疇も十一年間続いた。 一三以下、僧都の詳述を略す筆法。 しろめたき心なりと思ひぬる。またこのことを知りて漏らし伝ふるたぐひやあ一四しばらくの間、沈黙が続く。 一五実父を知らないでは、仏教で わうみやうぶ いう四恩 ( 三宝・国王・父母・衆 らむ」とのたまはす。僧都「さらに。なにがしと王命婦とより外の人、このこ 生 ) の一つに背いたろう。 一九 てんべんしき とのけしき見たるはべらず。さるによりなむ、いと恐ろしうはべる。天変頻り一六謝すべきだが、かえって僧都 を油断ならぬ人と思った、の意。 にさとし、世の中静かならぬはこの気なり。 いときなくものの心知ろしめすま冗談に紛らし、次の質問に転ずる。 宅秘事を知る者を捜したい気持。 よはひた じかりつるほどこそはべりつれ、やうやう御齢足りおはしまして、何ごとも天藤壺の女房。↓若紫田〔一三〕。 他に弁なども知っているらしいが とが ここでは問題外。 わきまへさせたまふべき時にいたりて咎をも示すなり。よろづのこと、親の御 ( 賢木〔一六〕 ) 、 一九真相を知らせなかったら、天 てんけん 世よりはじまるにこそはべるなれ。何の罪とも知ろしめさぬが恐ろしきにより、変が続き帝に天譴が下るだろう、 それが恐ろしい。前冫 こ「公ざまに 思ひたまへ消ちてしことを、さらに、いより出だしはべりぬること」と、泣く泣物のさとししげく : ・」 ( 四八ハ -) 。 ニ 0 以下、主語は冷泉帝 ニ一帝のどんな罪障による天変か く聞こゆるほどに明けはてぬればまかでぬ。 0 母藤壺を喪った冷泉帝にとって うへ 源氏の存在がいよいよ重大となる。 上は、夢のやうにいみじきことを聞かせたまひて、いろい 〔き冷泉帝煩悶し、源 それだけに、源氏が実父であると こゐん 氏に譲位をほのめかす 知る帝ははげしく動揺する。 ろに思し乱れさせたまふ。故院の御ためもうしろめたく、 一三これが故桐壺院の往生の妨げ になっていまいかと気がかりで。 大臣のかくただ人にて世に仕へたまふもあはれにかたじけなかりけること、か ニ 0 うしな
219 胡蝶 一九 もみぢ きのふ 宮、かの紅葉の御返りなりけりとほほ笑みて御覧ず。昨日の女房たちも、「げで、中宮をさす。中宮の心か ら春ま ? : 」 ( 少女一四五ハー五行 ) を受け、春の優位を主張する歌。 に春の色はえおとさせたまふまじかりけり」と花におれつつ聞こえあへり。 一九紫の上方訪問の中宮方の女房。 ニ 0 春には降服せざるをえない意。 鶯のうららかなる音に、島の楽はなやかに聞きわたされて、池の水鳥もそこ 三「おる」は、ばける意。 さへづ はかとなく囀りわたるに、急になりはつるほど、飽かずおもしろし。蝶はまし一三以下の「鳥の楽」「蝶」は、法 会のための迦陵頻・胡蝶楽の舞姿。 て、はかなきさまに飛びたちて、山吹の籬のもとに、咲きこばれたる花の蔭にニ三一曲は序・破・急から構成。 一西中宮職の次官 ( 従五位下相当 ) 。 一宝褒美。普通は衣類。「とりつ 舞ひいる。 づく」は上位から下位へ取り次ぐ。 うへびと ニ六襲の色。表白、裏赤。 宮の亮をはじめて、さるべき上人ども、禄とりつづきて、童べに賜ぶ。鳥に 毛表薄朽葉、裏黄。 ニ六ほそなが ニ七がさねたまは は桜の細長、蝶には山吹襲賜る。かねてしもとりあへたるやうなり。物の師ニ ^ 語り手の評。桜、山吹を持っ のに合せて衣服を与える手際よさ。 ニ九ひとかさねこしぎし どもは、白き一襲、腰差など次々に賜ふ。中将の君には、藤の細長添へて、女え白い衣一襲や巻絹などを。 三 0 襲の色。表薄紫、裏青。 さうぞく きのふね その 三一「わが園の梅のほっえに鶯の の装束かづけたまふ。御返り、中宮「昨日は音に泣きぬべくこそは。 音になきぬべき恋もするかな」 ( 古 やヘやまぶき 今・恋一読人しらず ) 。 こてふにもさそはれなまし心ありて八重山吹をへだてざりせば」 三ニ「胡蝶」「来てふ ( といふ ) 」、 = 一三らう 「八重山吹」「八重山」の掛詞。「隔 とぞありける。すぐれたる御労どもに、かやうのことはたへぬにゃありけむ、 て」は「隔ての関」 ( 二一三ハー末 ) 。 三三経験豊かなお二方といえども 思ふやうにこそ見えぬ御ロつきどもなめれ。 荷が重すぎる、とする。紫の上と まことや、かの見物の女房たち、宮のには、みな気色ある贈物どもせさせた中宮との贈答に対する語り手の評。 うぐひす ニ 0 みもの ニ ^ ませ ろく 三 0 た
89 朝・顔 む」、「流るる」「泣かるる」、「空」 夜更けゆく。 そら′一と 「嘘言」の掛詞。自身を石間の水に、 源氏を月影にたとえ、孤心を形象。 月いよいよ澄みて、静かにおもしろし。女君、 『紫式部集』に、類似の発想がある。 いしま 一六物思う女の、美貌の典型。 こほりとぢ石間の水はゆきなやみそらすむ月のかげそながるる 宅藤壺。過去の人としては語っ ていない点に注意。 外を見出だして、すこしかたぶきたまへるほど、似るものなくうつくしげなり。 天他の女に分けられていた源氏 一七おもかげ の情愛もきっと取り戻せよう。 。しき、 髪ざし、面様の、恋ひきこゆる人の面影にふとおばえて、めでたけれま、 一九「鴛鴦」は、夫婦の情愛を象徴。 ニ 0 「むかし恋しき」は藤壺追懐の さか分くる御心もとりかさねつべし。鴛鴦のうち鳴きたるに、 情。「雪もよに」は「雪もよょに」の 約か。「鴛鴦のうきね」は、藤壺を 源氏かきつめてむかし恋しき雪もよにあはれを添ふる鴛鴦のうきねか 亡くした悲情を象徴。前述の、雪 おほとのごも 入りたまひても、宮の御事を思ひつつ大殿籠れるに、夢との夜にかたどられた心象風景に連 ニ 0 〕亡き藤壺の宮、源 なり、亡き藤壺への哀傷を詠む。 氏の夢枕に立って恨む もなくほのかに見たてまつるを、いみじく恨みたまへる御 0 同じく雪の夜を詠みながらも、 紫の上の孤心と、源氏の哀傷とい けしき う相違に注意。 気色にて、藤壺「漏らさじとのたまひしかど、うき名の隠れなかりければ、恥 三源氏が紫の上に藤壺のことを 語ったのをさす。 づかしう。苦しき目を見るにつけても、つらくなむ」とのたまふ。御答へ聞こ 一三罪障を償うための苦患。 ニ三恨めしい。生前の藤壺には用 ゆと思すに、おそはるる心地して、女君の「こは。などかくは」とのたまふに いられない語。前の「恨みたまへ おどろきて、いみじく口惜しく、胸のおきどころなく騒げば、おさへて、涙もる、と同様、理性的ならざる魂の 言葉であろう。 流れ出でにけり。今もいみじく濡らし添へたまふ。女君、いかなることにかとニ四夢の覚めたことが。 かむ ふ おもやう ニ四 をし
たるさま、いとめでたく見ゅ。右近「おばえぬ高きまじらひをして、多くの人一六条院での宮仕え。 ニ紫の上。最高の美貌と賞賛。 かたち をなむ見あつむれど、殿の上の御容貌に似る人おはせじとなむ年ごろ見たてま三明石の姫君。 四源氏の子ゆえ美しいのは当然。 語 四 物つるを、また生ひ出でたまふ姫君の御さま、いとことわりにめでたくおはしま五次@見えたまふ」まで、玉鬘 前述の二人にも劣らぬ美貌とする。 源す。かしづきたてまつりたまふさまも、並びなかめるに、かうやつれたまへる六源氏は、父桐壺帝の時代から。 セ冷泉帝の母、藤壺。故人。 おとど さまの、劣りたまふまじく見えたまふは、ありがたうなむ。大臣の君、父帝の ^ 明石の姫君。 九紫の上に。 しも によう ) 、きさき 御時より、そこらの女御、后、それより下は残るなく見たてまつりあつめたま一 0 藤壺と明石の姫君を。 = 藤壺を見ることがなかった。 かたち ははきさき へる御目にも、当代の御母后と聞こえしと、この姫君の御容貌とをなむ、『よ三明石の姫君の将来の美貌が。 一三「殿の上」に同じ。紫の上。 き人とはこれをいふにゃあらむとおばゆる』と聞こえたまふ。見たてまつり並一四源氏も紫の上を。 一五自分の妻ゆえ、ロに出しては、 一一きさきみや ぶるに、かの后の宮をば知りきこえず、姫君はきよらにおはしませど、まだ片美人の数の内には入れない、の意。 一六私と夫婦でいらっしやるとは、 かたち さきお あなたには分不相応。源氏の冗談。 なりにて、生ひ先ぞ推しはかられたまふ。上の御容貌は、なほ誰か並びたまは 宅源氏と紫の上のお姿を。 むとなむ見えたまふ。殿もすぐれたりと思しためるを、言に出でては、何かは天玉鬘が紫の上に比べて。 一九仏のように頭上はるかに発す うち かぞ る光。光背の中の頭光。「世尊ノ 数への中には聞こえたまはむ。『我に並びたまへるこそ、君はおほけなけれ』 りし・ , ノ ) 一ん 頂ハ百宝無畏光明ヲ放ツ」 ( 楞厳 となむ戯れきこえたまふ。見たてまつるに命延ぶる御ありさまどもを、またさ経 ) 。玉鬘の明るいさまを予感さ せる軽妙な話しぶり。 レしつくか劣りたまはむ。もニ 0 玉鬘 るたぐひおはしましなむや、となむ思ひはべるこ、、。 たはぶ お たうだい うへ 九
ば物越しの対面。 ばっかなき隔てなくとこそ思ひたまふれ。よからぬものの上にて、恨めしと思 一四女房たちが自分をどう見るか。 ひきこえさせつべきことの出でまうで来たるを、かうも思うたまへじと、かっ・前の女房の陰口にからんだ物言い。 一五常にお目にかかり、の意。喜 は思ひたまふれど、なほしづめがたくおばえはべりてなん」と涙おし拭ひたまぶ大宮の気持を逆手にとって迫る。 一六不心得者、雲居雁のことで。 たが けさう・ ふに、宮、化粧じたまへる御顔の色違ひて、御目も大きになりぬ。大宮「いか宅「恨めし」と思う一方では。 一 ^ 「御尼額 : この、大宮の装い。 よはひ ゃうなることにてか、今さらの齢の末に、、いおきては思さるらん」と聞こえた照応。対面の喜びが驚きに急変。 一九雲居雁をさす。 かげ 一九 ニ 0 私は、雲居雁本人に対しては。 まふも、さすがにいとほしけれど、内大臣「頼もしき御蔭に、幼き者を奉りおき ニ一身近な人、弘徽殿女御が。 て、みづからをばなかなか幼くより見たまへもっかず、まづ目に近きがまじら一三宮仕えが思うようにならない 意。立后できなかったこと。 ひなどはかばかしからぬを見たまへ嘆き営みつつ、さりとも人となさせたまひニ三「営む」は、奔走する意。 ニ四雲居雁を一人前に。 しと口惜しニ五雲居雁とタ霧の意外な恋仲 てんと頼みわたりはべりつるに、思はずなることのはべりければ、、 ニ六以下、タ霧のこと。「有職」は、 あめした うなん。まことに天の下並ぶ人なき有職にはものせらるめれど、親しきほどに物知り。博識で有能な人物と評し ながらも、婿とするのには反対。 女かかるは、人の聞き思ふところもあはつけきゃうになむ、何ばかりのほどにも毛「しはべるを」にかかる。 夭「 : ・だに」の文脈を受け、まし あらぬ仲らひにだにしはべるを、かの人の御ためにもいとかたはなることなり。て歴とした家柄のタ霧のためにも。 少 ニ九他人の、豪勢で格別に立派な ニ九 しまめかしうもてなさるる家で。雲居雁の入内をも思うか。 さし離れ、きらきらしうめづらしげあるあたりに、、 三 0 縁者同士のなれあいの結婚は。 おとど こそをかしけれ。ゆかりむつび、ねちけがましきさまにて、大臣も聞き思すと三一源氏を引合いに説得を強化 ニ六 三 0 ニ ^ いうそく ニ七 ニ四 のご