枕草子 82 いづみ ずりゃう 一紀伊は上国、和泉は下国。国 受領は紀伊守。和泉。 の規模によって別がある。都に近 ふうこうめいび く風光明媚な国の長官としてあげ たものであろう。 一七四やどりづかさの権の守は ニ宿官。叙爵した者が受領に任 ちく′ ) ゑち′ ) しもつけかひ ごんのかみごんのすけ ごんかみ ずるのを待っ間、権守・権介など やどりづかさの権の守は下野。甲斐。越後。筑後。阿波。 に一時任ぜられること。任地には 赴かない 三以下いずれも上国。 一七五大夫は 四五位に叙せられた者の称。以 しきぶのたいふ さゑもんのたいふしのたいふ 下いずれも六位相当官でありなが 大夫は式部大夫。左衛門大夫。史大夫。 ら五位に叙せられた者をあげる。 五太政官の左右大史 ( 正六位上 ) が特に五位に叙せられた者。 一七六六位の蔵人、思ひかくべき事にもあらず。かうぶり 六冒頭を前段末尾につける説も 得て ある。叙爵を希望すべきではない、 の意となる。 え くろうど 六位の蔵人、思ひかくべき事にもあらず。かうぶり得て、何の大夫、権の守六位蔵人は望むべき役ではな 九 一説、以下に述べるような小 。も くるまやどり ひがき いたや などいふ人の、板屋せばき家持たりて、またく檜垣あたらしくし、車宿に車引成に安んじてはならない。 ^ 五位に叙せられて。 ふ おほ 九板で屋根を葺いた家。 き立て、前近く、こ木を生して、牛つながせて、草など飼はするこそ、いとに あじろ 一 0 檜の薄板を網代に組んだ垣。 = 「小木」で小さい木か ノけ・ . れ - 。 四 か ひのき
195 第 308 ~ 311 段 らも、なほさしあたりてさるをり なども言ふほどこそあれ、歩み出でぬれば、同じゃうになりぬ。 をり、いとねたきなり。はらひえ たる櫛、あかに落とし入れたるも ねたし」とある。 三〇九言ひにくきもの 一六女房には貴人の仰せ言を他に 伝達し、また言上を貴人に取り次 せうそこ 一六ごと ぐという重要な役があった。 言ひにくきもの人の消急、仰せ一言などのおほかるを、ついでのままに、は 宅貴人にお伝えしにくい かへりごと じめより奥まで、いと言ひにくし。返事また申しにくし。はづかしき人の、物天失敗、恋愛などか。当人の前 では言いにくいのである。 おとな おこせたる返事。大人になりたる子の、思はすなる事聞きつけたる、前にては一九この段三巻本にはない。前田 本を参考として「四位五位」の束帯 としては「冬」がよい、の意と仮に いと一一 = ロひに / 、し。 解く。四位は黒い袍を、五位は浅 緋色の袍を着る。 一一 0 六位の袍は深緑色。 三一〇四位五位は冬。六位は夏 ニ一正式の束帯姿に対し、夜宿直 する時に着用する簡略な装束を宿 とのゐすがた 直姿という。宿直姿などでも四位 四位五位は冬。六位は夏。宿直姿なども。 五位は冬、六位は夏がよい、とみ る。 一三品格を備えること。この段三 品こそ男も女もあらまほしき事なンめれ 巻本にはない。 ニ三主婦のことか しな わきま ニ四物事の弁えのある使者。 品こそ男も女もあらまほしき事なンめれ。家の君にてあるにも、たれかは、 一宝自然とその家の君のよしあし ニ四 つかひびとい さだ を言うにちがいない。 よしあしを定むる。それだに物見知りたる使人行きて、おのづから言ふべかン 一九 あ ニ三
くらゐ 位こそなほめでたきものにはあれ。同じ人ながら、大夫の君や、侍従の君な一官位をめぐっての感想。 ニ五位に叙せられた名家の子弟 ど聞ゆるをりは、、 しとあなづりやすきものを、中納言、大納言、大臣などになでまだ官職のない人。 子 三従五位下相当官。名家の子弟 が最初につく官職であることが多 草りぬれば、むげにせんかたなく、やんごとなくおばえたまふ事のこよなさよ。 ずりゃう七 ほどほどにつけては、受領もさこそあンめれ。あまた国に行きて、大弐や四位四「むげに」は、甚だしく。「せ んかたなくは、どうしようもな かんだちめ 、一ま以」 0 などになりぬれば、上達部などもやむごとながりたまふめり。 五「おばえ」は、相手によって感 うち めのと じられること。「たまふーは、中納 女こそなほわろけれ。内わたりに、御乳母は、内侍のすけ、三位などになり 言等になった人への敬語。 おもおも ぬれば、重々し。されど、さりとてはど過ぎ、何ばかりの事かはある。またお六身分身分に応じて言えば。 セ「やんごとなくこそおばゅめ きたかた ほくやはある。受領の北の方にてくだるこそ、よろしき人のさいはひには思ひれ」の意。 ^ 「あまた国ーで一語。 きさき かんだちめ 九大宰府の次官。 てあンめれ。ただ人の上達部のむすめにて后になりたまふこそめでたけれ。 一 0 大国従五位上、上国従五位下、 されど、なほ男は、わが身のなり出づるこそめでたく、うちあふぎたるけし中国正六位下、下国従六位下相当。 一九 = 男に比べて劣っている。 ぐぶ なにごと 三典侍従四位相当。 きよ。法師などの、なにがし供奉など言ひてありくなどは、何事かは見ゆる。 一三しかしそうかといってすでに 経たふとくよみ、め清げなるにつけても、女にあなづられて、なりかかりこそ老年になっているのだから、どれ くらいのよいことがあろ、つか、あ そうづ そうじゃう り・はし・ + ない すれ。僧都、僧正になりぬれば、「仏のあらはれたまへるにこそ」と、おばし 一四普通の身分の人の幸福。 せつけ 一五摂家・清華家などの家柄では まどひて、かしこまるさまは、何にかは似たる。 き - 」 ニ 0 五 一四 ないし だいじん てんじ
さぶら しも・ヘ 「下部候ふ」とのたまへば、出でたるに、「さやうの物ぞ、歌よみしておこせた一下部が参上しました、という あいさっ 挨拶。「下部」は行成の戯称。 ひびしくも言ひたりつるかな。女、すこしわれはと思ひニ解文のように書いた手紙。 まへると思ひつるに、。 子 三見事に、立派に、の意という。 四 草たるは、歌よみがましくぞある。さらぬこそ語らひょけれ。まろなどに、さる四私などに歌を詠みかけるよう な人はかえって無風流というもの のりみつ むしん 枕 だろうよ。謙辞とも皮肉とも考え 事言はむ人は、かへりて無心ならむかし」とのたまふ。「則光なりや」と笑ひ られる。「無心」は有心の対。 五則光は橘則光。八八段に歌を てやみにし事を、殿の前に人々いとおほかりけるに、語り申したまひければ、 好まなかったことが見える。それ ではまるで歌を嫌った則光みたい 「『いとよく言ひたる』となむのたまはせし」と人の語りし。これこそ見苦しき なものですね。 六三巻本「上」。 わればめどもなりかし。 セ行成が。 ^ 我褒め。自慢話。 九はじめて任官した。 一三七などて官得はじめたる六位笏に くろうどしやく 一 0 六位蔵人の笏。束帯の時六位 から右手に笏を持つ。 しきみぎうし たつみすみついぢ つかさ ろくゐのしやく 「などて官得はじめたる六位笏に、職の御曹司の辰巳の隅の築地の板をせしぞ。 = 東南。「立身」をかけるという。 一ニつまらないことばかりですね。 にしひんがし さらば、西東をもせよかし。また、五位もせよかし」などいふ事を言ひ出でて、ここから女房たちの話の内容。仮 に適宜句切る。 一三根拠もない名をつけたのは全 「あちきなき事どもを。衣などをも、すずろなる名どもつけけむ、いとあやし。 く理解に苦しむ。 ーし . り↓はか 」わらは かざみ ほそなが きめ 一四細長は女子の平常着として小 衣の名に、細長をばさも言ひつべし。など、汗衫は。尻長と言へかし、男の童 うちき うわぎ 袿の上に重ねる表着。おくみがな もろこし からぎめ み′一ろ の着るやうに。なそ、唐衣は。短き衣とこそ言はめ」「されど、それは、唐土いので身頃がせまい。細長はまあ きめ 一八きめ
おんかおおが く仏の御顔を拝み申しあげたいものだと、局に急いで入っ みのむし 三一〇四位五位は冬。六位は夏 ていると、蓑虫のような者で、奇妙な着物を着ている姿が 四位五位の正装は冬がふさわしい。六位は夏がよい。宿 とてもにくらしいのが、立ったり座ったり、額ずいて礼拝 いすがた 直姿などでも同様だ。 しているのは、しやくにさわって押し倒してしまいたいほ どの気持がする。 品こそ男も女もあらまほしき事なンめ ひどく身分の尊い方の局ぐらいを限っては、前を人払い れ してあるのだが、まあ普通の身分の人は、制しかねて困っ ひんかく 品格というものこそ、男も女も持ちたいことであるよう てしまうのだ。頼みの綱である法師を呼んでそうしたじゃ に思われる。だが、家の女主人としての立場にある時にも、 まになる者たちに注意をさせると、「お前たちちょっと向 だれが、そのよしあしを定められようか。それでさえも、 こうへ行け」などとも言ううちこそいいけれど、その法師 が歩み出てしまうと、前と同じ状態になってしまう。 物事の分別のあるよその使者がその家に行って、自然とよ みやづか しあしを一言うに違いないことであるようだ。まして宮仕え 三〇九言ひにくきもの などの勤めを持つ人は、特別である。猫が土の上に降りて おおごと いるように人目につく状態であるから。 言いにくいもの人の手紙、尊い方の仰せ言などのたく 段さんあるのを、順序どおりに、はじめから終りまで、ちゃ 一二人の顔にとりつきてよしと見ゆる所は んと取り次ぐのは、とても言、こく、 返事も、また申し 障あげにくい。気のおける立派な人が、物をこちらに送って 人の顔に備っていて、すばらしいと見える所は、毎日見 おとな 第 来たその返事も、言いにくい 。もう大人に成長している子る場合でも、ああいいなと見える。絵などは、何度も何度 に関しての、思いがけないことを聞きつけたのは、子の面も見てしまうと、目も引かれなくなるものだ。身近に立っ びようぶ ている屏風の絵などは、たいへんすばらしいけれど、自然 前ではとても言いにくいものだ。 めか きだ との
も レはかにいま一つえじつるに、これをこそ借り申すべかりけれ。さらば、もし一 = 裳をつけるのは臣下の礼。貴 子が唐衣を着ず略式の小袿姿であ またさやうの物をきりししめたるに」とのたまはするに、また笑ひぬ。大納言ることを婉曲にとがめたとみる説 もある。 せいそうづ 殿、すこししりそきゐたまへる、聞きて、「清僧都のにゃあらむ」とのたまふ。一六御主人は中宮様なのだから。 宅近衛府が御座所の前に陣を設 ひとこと けるのが行幸啓の例。 一言としてをかしからぬ事ぞなきや。 天私 ( 清少納言 ) が さしぬき 僧都の君、赤色の薄物の御衣、紫の袈裟、いと薄き色の御衣ども、指貫着た究僧の正装【赤色の袍・裳を用 ニ四 いる。ここは布施の料。 そう ばさっ いとをかし。「僧ニ 0 「給ふ」は自尊敬語とみる。中 まひて、菩薩の御ゃうにて、女房にまじりありきたまふも、 ニ五 宮がくださった、ともみられるか ゐぎぐそく 三法服を切り縮めて唐衣にして 綱の中に、威儀具足してもおはしまさで、見苦しう、女房の中に」など笑ふ。 いるのか、という冗談。 あや なほし ニ六 父の大納言殿の御前より松君ゐてたてまつる。葡萄染の織物の直衣、濃き綾 = = 清少納言の「清に因む冗談。 ニ三隆円僧都。伊周の弟。十五歳。 の打ちたる、紅梅の織物など着たまへり。例の四位五位いとおほかり。御桟敷 = 0 僧官、僧位の総称。 一宝仏語。動作が礼にかなって品 に、女房の中に入れたてまつる。何事のあやまりにか、泣きののしりたまふさ位があること。 ニ六伊周の長男道雅の幼名。三歳。 毛法会がいよいよ始って。 段へ、いとはえばえし。 夭蓮花の造花。 そうぞくかんだちめ いっさいきゃう 一部づっ入れて、僧俗、上達部、ニ九衆僧が列を正して経を読みな 事はじまりて、一切経を、蓮の花の赤きに、 ニ九 がら、仏堂を回る儀式。 第 。も だいぎゃうだうゑ え・一う てんじゃうびとぢげ 殿上人、地下、六位、何くれまで持てわたる、いみじうたふとし。大行道、回三 0 仏事の終りに回向文を唱える こと。 うち カう 向、しばし待ちて、舞などする、日ぐらし見るに、目もたゆく苦しう、内の御三一法会後行われる法楽の舞楽。 。力、つ ニ七 ひと まひ はす えびぞめ
・も からぎめき 一めのと 御乳母になりたる。唐衣も着ず、裳をだに、よう言はば、着ぬさまにて、御前一高貴な方の乳母。 ニ女房の礼装として当然着るも つばね どころ みちゃう に添ひ臥して、御帳のうちをゐ所にして、女房どもを呼び使ひ、局に物言ひやのなのに、身内のような顔をして。 礼を失したさま。 子 三どうかすると。 り、文取り次がせなどして、あるさまよ。言ひ尽くすべくだにあらず。 くろうど 草 四 四蔵人所の雑色。無位。六位の みこと こぞしもっき ざふしきくらうど 枕雑色の蔵人になりたる。去年霜月の臨時の祭に、御琴持たりし人とも見えず、蔵人となると急にはなばなしい役 になる。田九二段にも「いづこな きんだち りし天くだり人ならむとこそおば 君達に連れ立ちてありくは、いづくなりし人ぞとこそおばゆれ。ほかよりなり ゆれ」とあった。 とり 五十一月下の酉の日に行われる たるなどは、同じ事なれど、さしもおばえず。 かも 賀茂の臨時の祭。 わごん 六試楽の折に雑色が二人で和琴 を舁き出すのが例。↓一四五段。 二四三雪高う降りて、今もなほ降るに 七雑色以外から蔵人になる者。 〈袍の色か。一説、顔色。 雪高う降りて、今もなほ降るに、五位も四位も、色うるはしうわかやかなる九袍。五位は蘇芳、四位以上は 黒色の袍。 とのゐすがた おび 一 0 不審。三巻本「革の帯のかた が、うへの衣の色はいと清らにて、かめの帯のつきたるを、宿直姿にて、ひき つきたるを」。 あこめくれなゐ したがさわ はこえて、紫のも雪に映えて、濃さまさりたるを着て、衵の紅ならずは、おど = 夜の略式の姿。下襲を脱ぎ、 うえのはかまさしめき 表袴を指貫にかえ帯はつけない。 ろおどろしき山吹を出だして、からかさをさしたるに、風のいたく吹きて、横三衣服をたくし上げて着ること。 袍の後ろを腰の部分に折り込む。 ふかぐっはうくわ ひとえ ざまに雪を吹きかくれば、すこしかたぶきて歩み来る深沓、半靴などのきはま一三単衣と下襲との間に着る。こ こは下襲を着ないので袍の下にな で、雪のいと白くかかりたるこそをかしけれ。 ( 現代語訳三〇六ハー ) ふみ きめ やまぶきい あ く っ る。 か すおう かは
風など吹き、荒々しき夜来たるは、たのもしくて、をかしうもありなむ。 0 一「うへの」不審。三巻本「うへ くらうどニ なほし くらうど 雪こそめでたけれ。直衣などはさらにも言はず、狩衣、うへの蔵人の青色の、の衣、蔵人」。 ニ六位蔵人着用の青色の。 子 ろう寺、う 三一般六位官人着用の色。緑色。 いとひややかに濡れたらむは、いみじうをかしかるべし。緑衫なりとも、雪に ろうそう 草 作者は蔵人が緑衫を着用するのを 好まないようである。 枕だに濡れなば、にくかるまじ。昔の蔵人などの、人のもとなどに青色を着て、 四 雨に濡れて、しばりなどしけるとか。今は昼だに着ざンめり。ただ緑衫をのみ四青色の袍を着ずに緑衫を着る という流行の変化を嘆く。 ゑふ こそかづきたンめれ。衛府などの着たるは、ましていとをかしかりしものを。 くれなゐ かく聞きて、雨にありかぬ人やはあらむずらむ。月のいと明かき夜、紅の紙 六 五「月のあかかりける夜女のも ひき一し のいみじうあかきに、ただ「あらすとも」と書きたるを、廂にさしたるを、月とに遣しける / 恋しさは同じ心に あらずとも今宵の月を君見ざらめ や」 ( 拾遺・恋三源信明 ) にあてて見しこそをかしかりしか。雨降らむをりは、さはありなむや。 ひさし 六廂の間に差し入れてあるのを。 きめぎめ セ いつも後朝の文をよこす男が。 二七二常に文おこする人 ^ 今はもうこれきりだ。 九思ったとおりだ、とはいえ、 常に文おこする人、「何かは。今は言ふかひなし。今はなど言ひて、またやはりいくらか期待はしていたの おと 一 0 い の日音もせねば、さすがに、明けたてば、さし出づる文の見えぬこそさうざ , っ一 0 召使の差し出す手紙。 = きつばりと割り切ったあの人 の気持といったら。 しけれと思ひて、「さても、きはぎはしかりける心かな」など言ひて暮らしつ。 七ふみ ひる かりぎめ一
47 第 141 段 み かんだちめそうがう あさてる るが、朝光か 「さは、こはたれがしわざにか。好き好きしき上達部、僧綱などは、たれかは 九円融院の御所の長官。 ある。それにやかれにや」などおばめきゅかしがりたまふに、うへ、「このわ一 0 わけがわからないままに儀礼 上の返歌をした。 = 「これをだに」の歌とこの返歌。 たりに見えしにこそは、、 しとよく似たンめれ」と、うちほほゑませたまひて、 三そ知らぬ様子で、とばけて。 一五ひとすぢみづし いま一筋御厨子のもとなりけるを、取り出でさせたまひつれば、「いであな心一三僧官の僧正・僧都・律師、僧 位の法印・法眼・法橋の総称。 かしら 憂。これ仰せられよ。頭いたや。いかで聞きはべらむ」と、ただ責めに責め申一四不審がって知りたく思われる。 一五下書などか。いずれにせよ主 して、うらみきこえて笑ひたまふに、やうやう仰せられ出でて、「御使に行き上のいたすらだったのである。 一六まあ、なんと情けないこと。 おにわらは ニ 0 こひやうゑニニ たりける鬼童は、たてま所の刀自といふ者のともなりけるを、小兵衛が語らひこのわけをおっしやってください。 宅「蓑虫のやうなる童」をさす。 いだしたるにゃありけむ」など仰せらるれば、宮も笑はせたまふを、引きゅる大柄な童を「鬼童」といったもの。 だいばんどころ 一 ^ 不審。三巻本「台盤所」。 がしたてまつりて、「などかくはからせおはします。なほ疑ひもなく、手をう一九雑役をつとめる女官。 ニ 0 供の者。三巻本「もと」。 をが いとほ三中宮付きの女房の名。 ち洗ひて、伏し拝みはべりし事よ」。笑ひねたがりゐたまへるさまも、 一三話をつけて誘い出す。 ニ三藤三位が中宮を。主上の乳母 こりかに、愛敬づきてをかし。 としてまた大叔母としての遠慮の だいばんどころ わらは つばね さて、うへの台盤所にも笑ひののしりて、局におりて、この童たづねいでて、なさ。 文取り入れし人に見すれば、「それにこそははべるめれ」と言ふ。「たれが文をニ四主語は藤三位か。 ニ五藤三位は。 たれが取らせしぞ」と言へば、しれじれとうちゑみて、ともかくも言はで走りニ六痴れ痴れととばけて。 あら あいぎゃう 一九 ニ六 すず せ つかひ
一中宮様はこの程度の人をまで めにもかろがろしう、「かばかりの人をさへおばしけむ」など、おのづから、 おかわいがりになったのだろうと。 ニ仮に下に「もどかむ」などの省 物知り、世ノ中もどきなどする人は。あいなく、かしこき御事かかりてかたじ 略とみる。 子 は。まことに身のほど過ぎたる事もあ三「あいなく」 ( そうしてみたと けなけれど、ある事などは、またいかが 草 ころでどうしようもなく ) は「かた じけなけれど」にかかる。 枕りぬべし。 四おそれ多い中宮様の御事がか 院の御桟敷、所々の桟敷ども見わたしたる、めでたし。殿はまづ院の御桟敷かわって。 五事実なのだからどうして書か ふたところさんみの にまゐりたまひて、しばしありて、ここにまゐりたまへり。大納言一一所、三位ずにいられようか。 六高貴な方々の桟敷 てうど 九 中将は、陣近うまゐりけるままにて、調度負ひて、いとっきづきしうをかしう七権大納言伊周と道頼。ただし 道頼はこの時権中納言であり、権 な 一一ともさぶら てんじゃうびと ておはす。殿上人、四位五位、こちたううち連れて、御供に候ひて並みゐたり。大納言に任じたのは六か月後の正 暦五年 ( 究四 ) 八月のこと。 もからぎめみくしげどの 入らせたまひて見たてまつらせたまふに、女房ある限り、裳、唐衣、御匣殿ま ^ 左中将隆家。従三位に叙せら れたのは同じくこの年八月。 こうちき うへ で着たまへり。殿のうへは、裳の上に小袿をそ着たまへる。「絵にかきたるや九近衛の陣屋。 きゅうせん 一 0 武官としての弓箭など。「負 うなる御さまどもを。いまいらへ今日はと申したまふぞ。三、四の君、宮の御ひて」は、一説「帯びて」。 = 関白の御供。 しゅう 裳ぬがせたまへ。この主には御前こそおはしませ。御桟敷の前に陣をすゑさせ三女房とは言えない、の意か。 一説、一番年若い御匣殿まで。 みなひと からぎめ たまへるは、おほろけの事か」とそうち泣かせたまふ。げにと皆人も涙ぐまし一三表着の上に唐衣の代りに着る 一九 もの。通常礼服 ほふぶくひと 一四不審。誤脱があろう。 きに、赤色に桜の五重の唐衣を着たるを御覧じて、「法服一くだり給へるを、 さじき六 四 一七さじき