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検索対象: 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)
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1. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

は、屋久貝といふ物して飲みて立つ、すなはち取り食みといふもの、をのこな一屋久貝を磨いて杯としたもの。 はいてんじようびと 螺盃。殿上人たちが五献を終って んどのせむだにうたてあるを、御前に女ぞ出でて取りける。思ひかけず人やあのちに飲む。 子 ニ饗宴のあと食物の余りを手当 ひたきや り次第に取ること、またそれをす 草らむとも知らぬに、火焼屋よりさし出でて、おほく取らむとさわぐ者は、なか る下人。 なかうちこばしてあっかふほどに、かろらかにふと取り出でぬものには、おく三警護のために衛士が火をたく かんもりづかさ をさどの れぬ。かしこき納め殿に、火焼屋をして、取り入るるこそをかしけれ。掃部司四不審。「取り出でぬるもの」の 誤りとみる。 すなご ははき とのもりづかさくわんにん たたみ の者ども、畳取るやおそきと、主殿司ノ官人ども、手ごとに箒取り、砂子なら五ちょうどいい物置に火焼屋を 使って。 ひやうし しようきゃうでん す。承香殿の前のほどに、笛吹きたて、拍子打ちて遊ぶを、「とく出で来なむ」六舞に移る準備。 セ仁寿殿の北にある御殿。舞人 あゆ 一 0 ませ あずまあそび と待つに、うど浜うたひて、竹の籬のもとに歩み出でて、御琴打ちたるほどなの控室や楽屋にする。以下は東遊。 しやくびようし ^ 笏拍子を打って。 するがまい 九東遊駿河舞の一節。「や、有 ど、ただいかにせむとそおばゆるや。一の舞のいとうるはしく袖を合はせて、 どはま 度浜に、駿河なる有度浜に、打ち ふたり 二人走り出でて、西に向ひて立ちぬ。つぎつぎ出づるに、足踏みを拍子に合は寄する波は、七くさの妹、ことこ そよし・ : 」。 きめくび くれたけ 一 0 清涼殿の前の呉竹の台垣。 せて、半臂の緒つくろひ、かうぶり、衣の領などっくろひて、「あやまもなき わごん 一一和琴。 みも」などうたひて、舞ひ立ちたるは、すべていみじくめでたし。おほひれな三駿河舞の途中から舞人が二人 ずつ登場する。 はんび はうしたがさね ど舞ふひびき、日一日見るとも飽くまじきを、果てぬるこそいとくちをしけれ一三半臂は袍と下襲との間に着る 短い衣。以下は舞の手振りか。 みこと ど、またあるべしと思ふはたのもしきに、御琴かきかへして、このたび、やが一四不審。舞の一節「あやもなき やくがひ はんびを ひひとひ て みこと そで 一四 ひたきや

2. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

みやづか めのと 宮仕えをしている人の所に訪れなどする男が、そこで食 心のよくない乳母が養っている子を見る時にいやな感じ し、よギ - う なのは、その子の罪でもないけれど、よりによってこんな物を食べるのこそは、ひどく劣った所業だ。食べさせる女 人に養ってもらっているとは、と感じられるためなのだろ房もとてもにくらしい。自分を思ってくれる女房が、「何 子 めのと うか。乳母は「たくさんお子様がある中で、この君は御両はさておいてどうぞ」などと、好意があって言おうのを、 草 まるで忌み嫌っているかのように、ロをふさいで、顔をそ 親が見下げていらっしやるのだろうか、おにくまれになる ことよ」などと荒つばく言う。幼児はこんな者とは思い知むけるわけにもゆくまいから、かしこまって食べているの ではあろうけれども。ひどく酔いなどして、どうしようも らないのだろうか、乳母を求めて泣き騒ぐ、それが乳母に おとな ゅづけ なく夜が更けてから男が泊ったとしても、決して湯漬だっ は気に入らないのであろう。そんな子は大人になっても、 てわたしは食べさせないつもりだ。そうして、男がわたし まわりの者が大切に世話をやいて大騒ぎするうちに、かえ のことを自分に好意を持っていない女なのだったと思って、 ってやっかいなことこそ多いようだ。 こちらでうっとうしくにくらしい人と思う人が、その人以後来ないのなら、それはそれでいいだろう。里で、奥の にとって間の悪いことをこちらが言って困らせても、びつ方から食事をととのえて出した場合には、これはしかたが ない。それでさえ、気がきいたことではない。 たりとこちらにくつついて馴れ親しむ態度をとっているの。 「少し気分が悪い」などと言うと、いつもよりも近くに臥 三〇八初瀬に詣でて、局にゐたるに して、物を食べさせ気の毒がり、別に何ということもなく さんけい つばね ついしよう 初瀬に参詣して、局に座っている時に、身分の低い下衆 思っているのに、まとわりついて追従をし、世話を引き受 たちが、それそれ着物の後ろを入れまぜにして並んで座っ けて大騒ぎするの。 ているありさまこそ、だらしないものだ。 三〇七宮仕へ人のもとに来などする男の、そ たいへんな決心をして参詣している時、河の音などが恐 ろしく聞える中に、くれ階を、やっとの思いでのばり、早 ( 原文一九四ハー ) かた はっせ

3. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

はかま 八月ばかり、白き単衣、なよらかなる、袴よきほどにて、紫苑の衣の、いと一以下別段とする考えもある。 ニ「なよらかなるに」の意とみる。 かさね あざやかなるをひきかけて、胸いみじう病めば、友だちの女房たちなど、かは三襲の色目としては表薄紫また もえギ一 すおう は蘇芳、裏青または萌黄。 子 れい 四何でもないような様子で。さ るがはる来つつ、「いといとほしきわざかな。例もかくやなやみたまふ」など、 草 なげ 枕事なしびに問ふ人もあり。心かけたる人は、まことにいみじと思ひ嘆き、人知 = 『名義抄』に「嘔」を「ツク」「ハ ク」と読む。一説、物の怪が憑く。 六かばいたくなるような可憐な れぬ仲などは、まして人目思ひて、寄るにも近くもえ寄らず、思ひ嘆きたるこ 美しさ」い , っ ゅ そをかしけれ。いとうるはしく長き髪をひき結ひて、物つくとて、起きあがりセ主上。病む女房は主上付きの 女房なのであろう。 〈主上のために清涼殿で随時御 たるけしきも、いと心苦しく、ら , ったげなり。 経を読む僧。 みどきゃう うへにも聞しめして、御読経の僧の、声よき、給はせたれば、とぶらひ人ど九お与えになっているので。 一 0 三巻本「見」ナシ。 ももあまた見来て、経聞きなどするも、隠れなきに、目をくばりつつよみゐた = その女房たちに僧が目を配り 配り経を読むのこそは。 三女性に気を取られるようでは るこそ、罪や得らむとおばゆれ。 仏罰を得ているであろう、の意。 一三相手の行為・様子が自分の心 とかけはなれて同感できない、の 三〇六心づきなきもの 意。気に入らない、いとわし 一四邪推をして。 ま、つ 一五根拠もないことでむやみに恨 心づきなきもの物へも行き、寺へも詣づる日の雨。使ふ人の、「われをば、 むこと。 めのと 人思はず。なにがしこそ、ただいまの人」など言ふを、ほの聞きたる。人より一六後文からみると子の乳母。 きこ 一 0 き ひとへ ゅ しをんきめ

4. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

したよ。作者を自分側のものとし て中宮が道隆に対して儀礼上けな した。下文「まし」不審。 一三女房の名か。 さて八日九日のほどにまかづるを、「いますこし近うなして」など仰せらる一四中宮様は御覧にならないけれ ど、少納言は早速見て。 一五先の「泣きて : この作者の言を れど、出でぬ。いみじう常よりも照りたる昼つかた「花の心ひらけたりや。 一九 受ける。濡れた造花など花の不名 かが = = ロふ」とのたまはせたれば、「秋かうまだしく侍れど、夜にここのたびな誉だ、の意であろう。 一六それから八、九日のころに。 宅もう少し供養の日に近くなっ むのばる心地して侍る」など聞えさせたり。 てから里におりよ。 しだい のば 天「・ : 一夜魂九タビ升ル、二月 と出でさせたまひし夜、車の次第もなく、「まづ、まづ」と乗りさわぐがに ひら 東風来タリ、草拆ケテ花ノ心開ク、 くければ、さるべき人三人と、「なほこの車に乗りざまのいとさわがしく、祭君ヲ思ヒテ春日遅シ : ・」 ( 白氏文集 ・長想思 ) によって私が恋しいだろ うから早く帰参せよ、と言ったも のかへさなどのやうに倒れぬべくまどふ、いと見苦し。たださはれ、乗るべき の。 車なくてえまゐらずは、おのづから聞しめしつけて、給はせてむ」など笑ひあ一九一夜に九回も魂がのばるほど 恋しい気持でございます。前の詩 による。 段はせて立てる前より、押しこりて、まどひ乗り果てて、出でて、「かうか」と ニ 0 仮に「外」とみる。内裏から外 みやづかさ の二条宮に。以前の回想。 言ふに、「まだここに」といらふれば、宮司寄り来て、「たれだれかおはする」 ニ一ただもう、どうでもいし 第 一三このあたり不審。↓現代語訳。 と問ひ聞きて、「いとあやしかりける事かな。今はみな乗りたまひぬらむとこ うねめ ニ三御厨子所の女官。采女の中か とくせん そ思ひつれば。などてかくはおくれさせたまへる。今は得選を乗せむとしつるら三名選ばれるのでいう。 せなり』と言ひはべりつ」と申したまへば、いみじうねたがらせたまふもをか し。 ニ 0 ここち たふ きこ きこ ロ - 三

5. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

りさせられた気分であったことよ。 仲の男などは、まして、人目のあることを考えて、寄るに しても近くも寄ることができず、思い嘆いているのこそお 三〇五病は もしろい。とてもきちんと長い髪をひき結んで、物を吐く ものけ 病気は胸。物の怪。あしの気。ただ何となく食物を食といって、起きあがっている様子も、ひどくいじらしく、 かれん べないの。これらは心配なものだ。 可憐に見える。 しゅじよう みどきよう 十八、九歳ぐらいの女で、髪がとてもきちんと整って、 主上におかせられてもそれをお聞きあそばして、御読経 すそ 背丈ほどの長さがあり、裾の方がふさふさしている女、そ の僧の、声のよい人を、おくだしになっているので、見舞 あいき・よ・つ してとてもよく太って、たいへん色が白く、顔は愛嬌があ の女房たちもたくさんそれを見にやって来て、経を聞きな って、美人だと見える女、そうした女が、歯をひどく病みどする姿も、隠れなく見えるので、その女房たちに目を配 ひたいがみ わずらって、額髪もじっとりと涙で泣き濡らし、髪の乱れり配り、僧が経を読んで座っているのこそ、そんな僧では ぶつばっ かかるのも気づかず、顔が赤くなって、痛むところを押え多分仏罰をこうむっているのであろうと思われることだ。 て座っているのこそ、風情がおもしろい ひとえ はかま 三〇六心づきなきもの 八月のころに、白い単衣の、しなやかなのに、袴はよい しおんうわぎ さんけい 具合なのをつけて、紫苑の表着の、とてもま新しく鮮やか 気にくわないものどこかへも行き、寺へも参詣する日 の雨。自分が召し使う人が、「わたしのことは、人は思っ 段なのを上に羽織っている人が、胸をひどく病んでいるので、 友だちである女房たちなどが、かわるがわる見舞にたずねてくれない。たれそれこそが、現在のお気に入りの人」な どと言うのを、小耳にはさんだの。ほかの人よりはやはり て来て、「何ともお気の毒なことですね。いつもこんなに 第 しいかげん お苦しみになるのですか」などと、通りいつべんにたずね少しにくらしいと思う人が、当推量をしたり、 3 る人もいる。その女に思いをかけている男は、、いの底から な物恨みをしたりして、自分だけえらそうにふるまってい たいへんなことだと思ってため息をつき、また、人知れぬるの。 せたけ

6. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

一物事にたくみな人。 取り立てて、人々しく人のそしるべき事もあらず。 一一「歌をよみたる歌」は不審。 じゃうずニ 上手の歌をよみたる歌を、物おばえぬ人は、そしらずやはある。かりのこ食三あひるなどの卵という。皆の 好物を嫌う人もあるように好みは 子 はぬ人もあンめり。梅の花をすさまじと思ふ人もありなむ。ざいけのこは、あさまざまだ、の意か。 草 四「在家の子」と読み、趣を知ら 枕さがほ引き捨てずやはありける。さやうにこそは、おしはからめ、げになまねぬ田舎の子とみる。故事引歌を考 えるべきか たくもおばえぬべき事ぞかし。されどなほこのすずろ事の、知らぬばかり好ま五逆を好む人がいるものだと読 む人は推測するだろう、の意か。 六この一文不審。↓現代語訳。 しくておかれぬをばいかがせむずる。 七「世に知らぬばかり」とみる。 はしかた たたみ ごんの せかみきこ 権中将のいまだ伊勢の守と聞えし時におはしたるに、端の方なる畳押し出 ^ 捨てておけないことは。 九源経房。長徳一一年 ( 究六 ) 七月 さうし でてすゑたてまつりしに、にくき物とは、草子ながら乗りて出でにけり。まど二十一日から同四年十月二十一日 まで右近権中将。 ひて取らむとするほどに、長やかにさし出でむかひなっきもかたはなるも思ふ一 0 腕のかっこうも見苦しいこと。 いつぶう変ったものだな。 に、「けしきの物かな」とて、取りてやがて持ておはしにしより、ありきはじ三源済政。左大臣源雅信の孫。 大納言時中の子。本書田八八段に なりまさ 当る三巻本本文の勘物に「蔵人式 めて、済政の式部の君など、つぎつぎ聞きてありきそめて、かく笑はるるなン 部丞三年正月叙還昇、阿波権守」 とある。同段、八五段参照。 めり - か 1 しと「 一三謙遜の表現。 一四底本はこのあと一行空白をの こす。次の奥書は改丁。 三この二字は原本にはないが便 この

7. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

Ⅱはど ( 諸 ) ーほとに て」傍書 ) ま所の のちのち 5 後々のは ( 諸 ) ー後 / 、の ものを ( 諸 ) ー物 町 7 刀自 ( 諸 ) ー年 ひとひ 3 をこなり ( 諸 ) ーをこり いとをかし ( 諸 ) ーいとおかしいと ( 下 2 一日 ( 諸 ) ー万 ( 「万」見セ消チ「一日」傍 8 ノ「いと」見セ消チ ) 子 7 たまふよ」と ( 富・十・十二・十三 ) ー やくがひ 貶いざや ( 諸 ) ーいまや〔「左」ノ草体ノ 1 屋久貝といふ物して飲みて立つ、す 草 「さ」ヲ「万」ノ草体ノ「ま」ト誤写シタノデア Ⅱ歩み ( 諸 ) ーあゆ なはち取り食みといふもの ( 三 ) ーやくか ロウ〕 枕 4 ゑませ ( 諸 ) ーえさせ ひといふ物〔上ノ「いふ物」カラ下ノ「いふも の」ニ目移リシテ写シ落シタモノデアロウ〕 6 まして ( 諸 ) ーましき ( 「き」見セ消チ ) 4 あらぬ事 ( 諸 ) ーあらて ( 「て」見セ消 ひひとひ チ ) ぬ事 日一日 ( 諸 ) ー一日 凵かへして ( 三 ) ーかくして 別貶ゃうなるこそ ( 諸 ) ーやうなる 5 知らぬものも ( 富・高・十・十三 ) ーし むいか にんぢゃう 6 六日もてさわぎ ( 富・高 ) ー六日まて らぬ物とも 人長 ( 諸 ) ー人定 ( 「定」ニ「長」傍書 ) まひびと さはき 7 ゐたまへる ( 諸 ) ーの給へる 2 舞人にて ( 諸 ) ー舞人のにても ( 「も」 見セ消チ ) 8 あれば ( 諸 ) ーあはれは 9 のたまへば ( 諸 ) ーの給は 聞 3 宮 ( 諸 ) ー色〔タダシ「宮」ニ酷似シタ字 いらへをかせむ ( 諸 ) ーいらへもせん 4 めでたき ( 諸 ) ーめてたさ ( 「さ」見セ消 1 たるに ( 諸 ) ーたりに チ ) き ゃうなる ( 諸 ) ーやうに ( 「に」見セ消 6 まかづる ( 諸 ) ーまかへる 訂 9 来たり ( 諸 ) ーきたる チ ) なる 訂 9 弁 ( 諸 ) ー弁の ものかな ( 諸 ) ー物かなと 1 いづこ ( 三 ) ー 6 よく言ひたる ( 諸 ) ーよく ( 次ニ「いひ」 物にあたる ( 諸 ) ーもて ( 「て」見セ消 補入 ) たる チ ) のにあたる 貶取り入れて、さなどは聞かせたてま のばるを ( 富・高・十二・十三 ) ーのほ 9 築地 ( 諸 ) ーっいたち つれど、「物忌なればえ見ず」とて ( 富・ るも ( 「も」見セ消チ ) を 5 わろからむ ( 諸 ) ーわろうらん 高 ) ーとりいれて 6 たりしこそ ( 諸 ) ーたりしも 鮖 2 くるみ色 ( 十・十二・十三 ) ーくろみい 4 かくては ( 諸 ) ーかた ( 「た」見セ消チ ) ろ くては Ⅱ深かる ( 諸 ) ーふるゝる 2 たまひけむ ( 諸 ) ー給へけん 6 仰せられ出でて ( 三・マ ) ー仰られて 7 装束 ( 諸 ) ーそ ( 「そ」見セ消チ ) 「さ」傍 書 ) うそく 7 わざと ( 諸 ) ー態 おにわらは 7 鬼童は、たてま所の ( 諸 ) ーをこひや 8 しもより ( 諸 ) ーしもとよ〔「よ」字形ャ くちをしきなり ( 富・高 ) ーロ惜なり ・、はン一り 1 よっ】 ャ不確カ〕り うか ( 「こひやうか」見セ消チ「おにわらはゝた 孟嘗君の鶏 ( 三 ) ーまうさうくんに 給事 て はとり・

8. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

いまいづくにか」といふ事を、うち出だしたまへりしかば、いみじうめでたし。一これほどびったりした句を。 -4 ニ中宮様の御座所。 いかでかは思ひ出でたまひけむ。おはします所に分けまゐるほどに、立ち出で三中宮様は立ってお出ましにな 子 四宴の半ばで中座して。 草させたまひて、「めでたしな。いみじう今日の事に言ひたることにこそあれ」 五頭中将 ( 斉信 ) びいきのお前 枕 ( 清少納言 ) にとっては。 とのたまはすれば、「それ啓しにとて、物も見さしてまゐりはべりつるなり。 六頭中将は私を。 なほいみじくめでたくこそ思ひはべれ」と聞えさすれば、「ましてさおばゆらセ「まほは「かたほ」の対。まと もに。夫婦として、の意。 ^ 古いなじみ、ひいき。 むーと仰せらるる。 九あなた ( 作者 ) とのお付合の思 わざと呼びも出で、おのづから会ふ所にては、「などかまろをまほに近くは 一 0 親しいお付合をするのは、む ずかしくはありませんが、仮にそ 語らひたまはぬ。さすがににくしなど思ひたるさまにはあらずと知りたるを、 うなったあとでは。 とくい = まるで役目のようにおほめ申 いとあやしくなむ。さばかり年ごろになりぬる得意の、うとくてやむはなし。 九 しあげるのに。 なに′」と てんじゃう あ 殿上などに、明け暮れなきをりもあらば、何事をか思ひ出でにせむ」とのたま三私に御好意だけお持ちくださ いませね。 のち かしやく へば、「さらなり。かたかるべき事にもあらぬを、さもあらむ後には、えほめ一三 ( 夫婦となったら ) 良心の苛責 にたえかねて、ほめ言葉も口にし おまへ にノ、 , っ′ギ、い士ー ) よ , っ・ものを一。 たてまつらざらむが、くちをしきなり。うへの御前などにて、やくとあつまり 一四そういう人こそ夫を他人の目 てほめきこゆるこ、 しいかでか。ただおばせかし。かたはらいたく、心の鬼出で以上にほめる連中が多いのだ。 一五それが私の気にさわらないの ならそれでもよいでしようが : 来て、言ひにくくはべりなむものを」と言へば、笑ひて「など。さる人しも、 きこ

9. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

ゅ こもとは落ちたる所に侍るめり。あがりたるーなど教へ行く。何者にかあらむ、語。 一五仏前に不断に点ぜられている いと近くさし歩み、さいだつ者などを、「しばし。人のおはしますに、かくは灯明。「常灯には・ : 奉りたる、は 「御あかし」の説明句 たかくら まじらぬわざなり」など言ふを、「げに」とてすこし立ちおくるるもあり、ま一六仏前にある高座で、仏を礼拝 し読経などする時に導師が座る。 つばね ほとけ た聞きも入れず、「われまづとく仏の御前に」と、行くもあり。局に行くほど宅「ろき」不審。「論義」を当てて も意は十分には通じまい。「ちか ゅ いめふせ いとうたてあるに、犬防ぎの中を見入れふ」は「誓ふ」か。三巻本「かひろぎ も、人のゐ並みたる前を通り行けば、 ちかふ」。 まう 天「満ちて、これはは、三巻本 たる心地、いみじくたふとく、「などて月ごろも詣でず過ぐしつらむ」とて、 「満ちたれば」。 一九「せめて」は副詞。「迫む」 ( 下 まづ心もおこさる。 一四 二段自動詞 ) から出た語。できる じゃうとう ことのぎりぎりの線まで近づいて、 御あかし、常灯にはあらで、うちにまた人の奉りたる、おそろしきまで燃え が原義。 ニ 0 仏に千灯を供養する御志は。 たるに、仏のきらきらと見えたまへる、いみじくたふときに、手ごとに文をさ 「たん」は底本仮名表記で「灯」の音 らいばん さげて、礼盤に向ひてろきちかふも、さばかりゆすり満ちて、これは、とり放表記としては確かではない。三巻 本「千とう ( 灯 ) 」。 ちて聞きわくべくもあらぬに、せめてしばり出だしたる声々の、さすがにまたニ一儀礼用の掛け帯。寺社参詣、 段 読経の折などに肩に掛ける。 ニ 0 たん ここにこのよ , つにおそばにお まぎれず、「千灯の御こころざしは、なにがしの御ため」と、はつかに聞ゅ。 あいさっ 伺いしております、の意で、挨拶 をが しきみ 帯うちかけて拝みたてまつるに、「ここにかう候ふ」と言ひて、樒の枝を折りの言葉。 ニ三枝を仏前に供え、葉や樹皮か ら抹香を作る。 て持て来たるなどのたふときも、なほをかし。 も み ここち な あ 一九 さぶら す きこ ふみ まっこう

10. 完訳日本の古典 第13巻 枕草子 (二)

くらま 親類の間柄。鞍馬のつづらおりという道。十二月の三十日 一七五大夫は と、正月の一日との間。 たゆう さえもん 大夫は式部の大夫。左衛門の大夫。史の大夫。 一七一遠くて近きもの 一七六六位の蔵人、思ひかくべき事にもあら 遠くて近いもの極楽。舟の道中。男女の仲。 ず。かうぶり得て くろうど 一七二井は 六位の蔵人は、それに任ぜられるのを希望すべきことで おうさか 井はほりかねの井。走り井は逢坂にあるのがおもしろ もない。五位に叙せられて、何々の大夫、何の国の権の守 いたぶき 山の井は、なぜそんなにも浅いという例になりはじめ などという人が、板葺の狭い家を持っていて、すっかり檜 あすかい がき しゃ - 一 たのだろう。飛鳥井は、「みもひも寒し」と水の冷たさを 垣を新しくし、車庫に車を引き入れて立て、庭前近くに、 ほめてあるのこそ、おもしろい。玉の井。少将の井。桜井。 小さな木を生えさせて、牛をつながせて、草などを与えさ きさいまち 后町の井。千女尺井。これらがおもしろい せるのこそ、とてもにくらしい むらさきがわ 庭をたいへんきれいに見えるようにして、紫革をつけて いよす めのしようじ 一七三受領は 伊予簾を一面にずっと掛けて、布障子などを張って住って ずりよう かみいずみ いるよ。夜は、「門をしつかりしめろ」などと、指図して 段受領は紀伊の守。和泉の守がよい。 いるのは、ひどく将来性がなくて、気にくわない。 一七四やどりづかさの権の守は 自分の親の家とか、主人の家などはもちろんのことだが、 しもつけか えち′」 ちく′一あ 第 やどりづかさの権の守は下野。甲斐。越後。筑後。阿おじゃ兄などが住まない家、また、そうした適当な人がい 波。これらがよい ないような人は、自然と、親しくよく知っている受領が、 あ 今、また任国へ行ってむだに空いている家とか、さもなけ わ ごん ′ ) くらく しきぶ し ひ