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検索対象: 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)
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1. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

とだけは、残念なことであったが、ああした入道の決断は御方々より盛んになられる女宮のご声望であるにつけても、 この自分はただ殿お一人のお世話によりすがって、どなた 容易なことではない、とはいえ、こうした場に皆といっし にも負けをとらずにいるのだが、あまりにも年を重ねるこ よというのでも見苦しかろう。世間の人々が、この明石の とになったら、ご情愛もしまいには衰えてしまうことにな 人々を例として、志を高く持とうとする時勢のようである。 ろう、そのような目にあわぬ前に、自分から世を捨てたい 万事につけて人々はばかばめし、世間話の種として、「明 ものと絶えずお考え続けになっていらっしやるけれども、 石の尼君」といえば、それは幸い人のことなのだった。あ すごろく おうみ の致仕の大殿の近江の君は、双六を打っときの祈り言にも、殿が小賢しいことをとお思いになりはせぬかと遠慮されて、 そのことをはっきりとはとても申しあげることがおできに 「明石の尼君、明石の尼君」と言って、よい賽の目が出る ならない。女宮については、今上の帝までが特別にご支援 のを望むのであった。 うわさ あそばすので、この宮を疎略に扱っているというような噂 三〕紫の上の寂寥六入道の帝は、仏道のご修行に専心あ が院の帝のお耳にはいるのも困ることなので、殿はそちら 条院の女性のその後そばして、宮中の政治向きのことに で夜をお過しになることがだんだんと数ひとしくなってゆ はまるでおロ出しにならない。ただ春と秋の今上の行幸の く、それを上は、そうなるのが当然、無理からぬとは思い 折には、ご在俗の昔をお思い出しにならずにはいらっしゃ ながらも、やはり懸念していたとおりよ、とばかり不安な れぬこともなくはないのだった。ただ姫宮の御身の上だけ お気持になられるけれども、やはり何知らぬふうをよそお については、今もご放念にはなれず、この六条院をやはり おももち 下 って相変らずの面持でお過しになる。東宮のすぐ下の御妹 表向きの御後見としてお頼み申しあげあそばして、今上の の女一の宮を、ご自分で格別たいせつにご養育申しあげて 帝には内輪のお心添えを賜るべくご依頼申しあげていらっ 第ほん 若 いらっしやる。そのお世話に取り紛れて、ものわびしい御 しやる。その女宮は i 一品にお進みになって、御封なども加 独り寝の夜な夜なを慰めてもいらっしやるのであった。上 わるし、ますますはなやかにご威勢がつのるのである。 は、この女一の宮に限らず、どの宮をもかわいくいとしい 対の上は、このように年月のたつにつれて六条院の他の さい ひ こぎか

2. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

通はしたまふらむかしと思しやるに、、 しと憎ければ、よろづのあはれもさめぬ一五賀を催すべく朱雀院に参上す ること。十月も、延期のまま。 一六落葉の宮主催の賀 ( 二一二ハー ) 。 べけれど、言葉など教へて書かせたてまつりたまふ。 宅懐妊八か月の様態をいうか。 参りたまはむことは、この月かくて過ぎぬ。二の宮の御勢ひことにて参りた天源氏や朱雀院の父、桐壺院の 忌月。賀の期間は十二月しかない。 はばか まひけるを、古めかしき御身ざまにて、立ち並び顔ならむも憚りある心地しけ一九宮の懐妊の様子。 ニ 0 賀宴の期間は年内。これを催 しもっき きづき さないのでは、院に対して源氏の り。源氏「十一月はみづからの忌月なり。年の終り、はこ、 オいともの騒がし。 女三の宮厚遇の事実をも証せない。 また、いとどこの御姿も見苦しく、待ち見たまはむをと思ひはべれど、さりと三宮が明るく振舞われて。 一三一 ~ よろづの : ・」を否定的に てさのみ延ぶべきことにやは。むつかしくもの思し乱れず、あきらかにもてな受け、やはり不憫とも思うとする。 0 源氏は自らを老醜と自嘲する。 おもや いとら , ったし宮への皮肉の物言いだが、おのす したまひて、このいたく面痩せたまへるつくろひたまへ」など、 とそこには、晩年を迎えながらも 達観できぬ苦衷も現れている。 と、さすがに見たてまつりたまふ。 ニ三源氏の今までの柏木への親近。 かならずこと柏木も同様の回顧。↓二〇六ハ 衛門督をば、何ざまのことにも、ゆゑあるべきをりふしには、 一西源氏は世人が、柏木の六条院 せうそこ への不訪を不審がるだろうと思う。 下さらにまつはしたまひつつのたまはせあはせしを、絶えてさる御消息もなし。 柏木も同様に思う。↓二〇六 菜ニ四 一宝前の宮への対話で繰り返され 人、あやしと思ふらんと思せど、見むにつけても、 いとどほればれしき方恥づ 若 た老醜の自嘲と照応。ここは妻を 奪われた老人のぶざまさをいう。 かしく、見むには、また、わが心もただならずやと思し返されつつ、やがて、 ニ六自分自身の心としても。どん とが な不始末が起るかもしれない危惧。 月ごろ参りたまはぬをも咎めなし。おほかたの人は、なほ例ならずなやみわた ニ六 一四

3. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

びやうぎ 一源氏は、柏木ら大勢が弔問し かく、これかれ参りたまへるよし聞こしめして、源氏「重き病者のにはかに たことを、タ霧を通じて知ったか。 ニ自分自身もじっと落ち着けず。 とぢめつるさまなりつるを、女房などは心もえをさめず、乱りがはしく騒ぎは 語 直接返礼できないことの言い訳。 物べりけるに、みづからも、えのどめず心あわたたしきほどにてなむ。ことさら三後日あらためて。 氏 四罪の意識で源氏に接する思い 源になむ、かくものしたまへるよろこびは聞こゅべき」とのたまへり。督の君は = の。びきならぬ事情でもなけ れば源氏のもとには参上できない、 胸つぶれて、かかるをりのらうろうならずはえ参るまじく、けはひ恥づかしくの意。「らうろう」は「牢籠」か 六柏木のうしろめたい秘め事へ 思ふも、心の中そ腹ぎたなかりける。 の、語り手の評言。 セ御息所は生前でさえ生霊にな のち かく、生き出でたまひての後しも、恐ろしく思して、またまたいみじき法どるような無気味なお人柄だったが。 ^ かって御息所の物の怪を「心 おこな もを尽くして加へ行はせたまふ。うっし人にてだに、むくつけかりし人の御け憂し」と感じ道心を抱くようにも なった ( 葵一一三・ ハー ) 。心底に沈んでいたその はひの、まして世かはり、あやしきもののさまになりたまへらむを思しやるに、 思いが、あらためて掘り起される。 いと心憂ければ、中宮をあっかひきこえたまふさへぞ、このをりはものうく、 九女の身はみな、深い罪障を作 る根源。『河海抄』は『涅槃経』の 「女人ハ地獄ノ使ニテ、能ク仏ノ 言ひもてゆけば、女の身はみな同じ罪深きもとゐぞかしと、なべての世の中い 種子ヲ断ツ。外面ハ菩薩ノ如ク、 むつものがたり とはしく、かの、また、人も聞かざりし御仲の睦物語にすこし語り出でたまへ内心ハ夜叉ノ如シ」を掲げる。 一 0 「世の中」は直接には男女の仲 りしことを一言ひ出でたりしに、まことと思し出づるに、し 一一源氏の紫の上への回想談。 、とわづらはしく思さ 一ニ物の怪を御息所の死霊と確認。 る。 一三これまで源氏は紫の上の出家 、 ) ころう 六 五 ほふ

4. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

つるに、物におそはるるかとせめて見開けたまへれば、あらぬ人なりけり。あ宅宮の、柏木への反応に即した 叙述。「聞こゆる」の主語は柏木。 天宮の動転するさまを捉える叙 やしく聞きも知らぬことどもをそ聞こゆるや。あさましくむくつけくなりて、 述を、柏木の感動で閉じる。 人召せど、近くもさぶらはねば、聞きつけて参るもなし。わななきたまふさま、一九柏木が宮を思う時、わが身の 低さが常に念頭にある。婿選びに もそれゆえに外れ、前の小侍従に 水のやうに汗も流れて、ものもおばえたまはぬ気色、いとあはれにらうたげな もその点で指弾された。 り。柏木「数ならねど、いとか , っしも田心しめき、るべき身とは、田ったまへられニ 0 自分自身には、あなた ( 宮 ) か ら厭われる身とも思われぬ、の意。 ずなむ。昔よりおほけなき心のはべりしを、ひたぶるに籠めてやみはべりなまニ一一途に秘めたままにしておい たのなら。「・ : ましかば・ : ぬべか うちくた りけるを」で、反実仮想の構文。 しかば、心の中に朽して過ぎぬべかりけるを、なかなか漏らし聞こえさせて、 一三なまじ意中を漏して。女三の 院にも聞こしめされにしを、こよなくもて離れてものたまはせざりけるに、頼宮に求婚したことをいう。 ニ三朱雀院も承知のこととして、 みをかけそめはべりて、身の数ならぬ一際に、人より深き心ざしをむなしくな宮の心を落ち着かせようとする。 ニ四自分が源氏より、身分が一段 しはべりぬることと動かしはべりにし、いなむ、よろづムフはかひなきことと思 , っ劣っているだけのことで。 一宝どれほど私に深く取りついて しまったか。↓一七三ハー一二行。 下たまへ返せど、いかばかりしみはべりにけるにか、年月にそへて、口惜しく ニ六心情語の重畳に注意。柏木の も、つらくも、むくつけくも、あはれにも、いろいろに深く思うたまへまさる長年にわたる切実で複雑な心情。 若 毛一面の自己反省。こうした言 い方で、相手の宮を説得。 にせきかねて、かくおほけなきさまを御覧ぜられぬるも、かつはいと思ひやり 夭不義の過失は犯すまい ニ九 なく恥づかしければ、罪重き心もさらにはべるまじ」と言ひもてゆくに、このニ九相手が柏木だった、と分る。 ニ 0 ニ四 ひときは 一八 ニ七 一セ

5. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

395 引歌一覧 くならば、初雁が空を鳴きながら飛び渡るように、私も泣き 若菜上 ながら御所の外から思いやることにしよう。 こ . どばがき 詞書に「七条后」の亡くなった後に詠んだとある。「七条 ・貶・ 6 沖っ波荒れのみまさる宮のうちは年経て 住みし伊勢の海人も舟流したる心地して寄らむ方后」は、宇多天皇の中宮、温子のこと。その御所の亭子院 しぐれ なく悲しきに涙の色の紅はわれらがなかの時雨が七条にあったところからの呼称。作者伊勢の宮仕えは多 もみぢ 年に及んだ。これはおそらく、七条后の一周忌 ( 延喜八年 にて秋の紅葉と人々はおのが散り散り別れなは はなすすき 〈九 0 ◇六月 ) が過ぎて、最後まで残った宮仕え人もいよい 頼む蔭なくなりはててとまるものとは花薄君なき よ御所を立ち去ろうとする時に詠まれた歌であろう。末尾 庭に群れ立ちて空を招かば初雁の鳴き渡りつつ の「よそにこそ見め」は、多年住みなれてきた御所を、こ ( 古今・雑体・長歌・一 00 六伊勢 ) よそにこそ見め 沖の波が荒れまさるばかりのようなこのごろの亭子院の御所れからは自分とは無縁のものとして外から眺めやるほかな 、の気持である。物語では、朱雀院出家後の女三の宮が では、長年住み続けてきた伊勢の海人も舟を流してしまった 後見もなくなって孤立無援になりかねない危惧を、「誰を ような気持になり、どこの岸辺にもたどりつくすべとてなく 悲しいものだから、紅色の涙は我々の身に降りそそぐ時雨で頼む蔭にて : ・」とする。「頼む蔭」の歌語だけの共通とも みえるが、華麗な日々を過した宮廷との決別を思う気持を あり、秋の紅葉となって人々がめいめいちりちり別れて行っ てしまったなら、後には頼みになる木陰一つとてなくなって、重視したい。 はなすすき ・・ 8 老いぬればさらぬ別れのありといへばいよいよ 残るものといえば花薄だけが、主の亡くなった庭に群がり立 ( 伊勢物語・八十四段 ) つばかりで、その花薄の穂が亡き主の魂を空に向って呼び招見まくほしき君かな 引歌一覧 、この「引歌一覧」は、本巻 ( 若菜上・若菜下 ) の本文中にふまえられている歌 ( 引歌 ) で、脚注欄に 掲示した歌をまとめたものである。 一、掲出の仕方は、はじめに、引歌表現とみられる本文部分のページ数と行数をあげ、その引歌および出 典を示し、以下、行を改めて、歌の現代語訳と解説を付した。 へ

6. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

( 現代語訳三〇〇ハー ) 衛門督は、いといたく思ひしめりて、ややもすれば、花の◆咲き乱れる桜の下の蹴鞠を背景 〔三 0 柏木、女三の宮へ 、柏木の惑乱する恋を語る一場 一セ の恋慕の情に思い悩む 木に目をつけてながめやる。大将は、心知りに、あやしか面が、六条院の新たな物語を拓く。 一六脳裡に宮の面影の焼きついた 一八はしぢか みすすきかげ りつる御簾の透影思ひ出づることやあらむと思ひたまふ。いと端近なりつるあ柏木は、放心の体である。 宅柏木がかいま見た事情を知っ かろがろ ているので。タ霧は観察者の立場。 りさまを、かつは軽々しと思ふらむかし、いでや、こなたの御ありさまのさは 一 ^ 女三の宮が。「あるまじかめ うちうち あるまじかめるものをと思ふに、かかればこそ世のおばえのほどよりは、内々るものを」まで、タ霧の心中。 一九柏木は宮に心ひかれながらも、 ニニうちと の御心ざしぬるきゃうにはありけれと思ひあはせて、なほ内外の用意多からず一方では軽率と思っていよう。 ニ 0 紫の上。宮の軽率さから反転 して、理想の彼女が顧みられる。 しはけなきは、らうたきゃうなれどうしろめたきゃうなりやと思ひおとさる。 ニ三 ニ一宮は世間の高い声望に比して、 一いしゃう 宰相の君は、よろづの罪をもをさをさたどられず、おばえぬ物の隙より、ほ源氏の情愛が疎略にもなるのだ。 一三他人に対しても自分に対して のかにも、それと見たてまつりつるにも、わが昔よりの心ざしのしるしあるべも思慮が足りず、幼いのは。 ニ三柏木。参議 ( 宰相 ) 兼右衛門督。 一西宮の欠点にほとんど気づかな きにやと契りうれしき心地して、飽かずのみおばゅ。 めし ニ六 い。恋に盲いた心。四一 4 かつは おほきおとど ・ : 」の柏木へのタ霧の推測と照応。 上院は、昔物語し出でたまひて、源氏「太政大臣の、よろづのことにたち並び ニ五柏木は偶然のかいま見を、わ 菜かちまけ が恋の報われる前兆と勝手に思う。 て勝負の定めしたまひし中に、鞠なむえ及ばずなりにし。はかなきことは伝へ ニ六柏木らの父。 若 毛遊び事に伝授もあるまいが。 しと目も及ばすかしこ , っこ あるまじけれど、ものの筋はなほこよなかりけり。、 夭名手の血統。 ゑ ニ九 そ見えつれ」とのたまへば、うちほほ笑みて、柏木「はかばかしき方にはぬる = 九公の政務にかけては。 一九 まり ひま

7. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

大将の君は、この姫宮の御事を思ひ及ばぬにしもあらざり 0 明石の君の卑下忍従は、六条院 〔三巴タ霧、女三の宮と に位置づけられるための知恵であ 紫の上とを比較する しかば、目に近くおはしますをいとただにもおばえず、おった。彼女は、娘女御の将来に期 待できる幸福感から、ひとり源氏 な ほかたの御かしづきにつけて、こなたにはさりぬべきをりをりに参り馴れ、おの心にすがるほかない高貴の女君 たちのはかない存在をも思う。 ひとすぢ みき しと若くおほどきたまへる一筋宅タ霧もかって、女三の宮の婿 のづから御けはひありさまも見聞きたまふに、、 ニ 0 の候補者の一人にされた。↓〔三〕。 ためし にて、上の儀式はいかめしく、世の例にしつばかりもてかしづきたてまつりた一 ^ 女三の宮への好奇心。 一九女三の宮の居所 ( 寝殿の西側 ) 。 まへれど、をさをさけざやかにもの深くは見えず、女一房なども、おとなおとなニ 0 源氏の女宮への表向きの対遇 は。↓「うはべの : ・」 ( 前ハー六行 ) 。 かたちびと しきは少なく、若やかなる容貌人のひたぶるにうちはなやぎさればめるはいとニ一際だって奥ゆかしくも見えな 。「見えず」まではタ霧の観察。 つど 以下、語り手の女房たちへの観察 多く、数知らぬまで集ひさぶらひつつ、もの思ひなげなる御あたりとはいひな に転ずる。女房のありようから、 うち がら、何ごとものどやかに心しづめたるは、、いの中のあらはにしも見えぬわざその女主人の人柄も推測される。 一三しつかりした年輩者。 ニ三真実楽しげに屈託なさそうな なれば、身に人知れぬ思ひ添ひたらむも、また、まことに心地ゆきげにとどこ はた 人と付き合っていると、その傍の 上ほりなかるべきにしうちまじれば、かたへの人にひかれつつ、同じけはひもて人に引かれては、同じ気分や態度 に合せるものなので。 わらは 。しはけたる遊び戯れに心いれたる童ニ四雛遊びや絵などに熱中するか。 なしになだらかなるを、ただ明け暮れま、 ニ五源氏は実際感心しない気持。 若 べのありさまなど、院はいと目につかず見たまふことどもあれど、ひとっさま = 六一律に世間のことを断じたり、 批判したりなさらぬ性分なので。 ほんじゃう ↓五七ハー五行。 に世の中を思しのたまはぬ御本性なれば、かかる方をもまかせて、さこそはあ ニ四 たはぶ ニ六

8. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

源氏物語 62 かく渡りおはしましたるよし、ささめき聞こゆれば、驚きたまひて、尚侍「あ一中納言の君 ( 和泉前司の妹 ) が ニ和泉前司が源氏にどう返事を。 やしく。 三相手 ( 源氏 ) に気を持たすよう いかやうに聞こえたるにか」とむつかりたまへど、和泉守「をかしやか な扱いをしてお帰し申すのは。 にて帰したてまつらむに、 いと便なうはべらむ」とて、あながちに思ひめぐら四朧月夜へのお見舞などを。 ひ寺一ーレ 五廂と母屋の境までと誘い出す。 四 五 六朧月夜のため息まじりの挙措 して入れたてまつる。御とぶらひなど聞こえたまひて、源氏「ただここもとに。 びたい が、源氏には媚態とも映る。 物越しにても。さらに昔のあるまじき心などは、残らすなりにけるを」とわりセ源氏の心中。朧月夜の靡きや すさを昔に変らぬと、情をそそら 六 なく聞こえたまへよ、 。いたく嘆く嘆くゐざり出でたまへり。さればよ、なほけれる一方では、冷静に非難もする。 〈よく知り合った同士が、その ぢか 近さは、とかっ思さる。かたみにおばろけならぬ御みじろきなれば、あはれも身動きの気配から相手の姿態を想 九 像し、互いに情をそそられる。 ひむがしたい かた . ひさしす み一うじ 少なからす。東の対なりけり。辰巳の方の廂に据ゑたてまつりて、御障子のし九昔、藤花の宴の行われた所 ↓花宴②九〇ハー。 一 0 東南の方の廂の間に源氏を。 りは固めたれば、源氏「いと若やかなる心地もするかな。年月の積もりをも、 ふすま = 廂と母屋の間の襖。その襖を かぞ まぎれなく数へらるる、いならひに、かくおばめかしきは、いみじうつらくこ細く開け、下部にだけ掛金をした。 三若者扱いされる感じ。好色者 を用心する態度だと非難する気持。 そ」と恨みきこえたまふ。 一三逢わすに過した年月を正確に ふ たまも 夜いたく更けゆく。玉藻に遊ぶ鴛鴦の声々など、あはれに聞こえて、しめじ数えうる。自らの恋の証をいう。 一四知らぬふりの他人行儀は。 、っち 一五「春の池の玉藻に遊ぶにほ鳥 めと人目少なき宮の内のありさまも、さも移りゆく世かなと思しつづくるに、 の足のいとなき恋もするかな」 ( 後 へいぢゅう 平中がまねならねど、まことに涙もろになむ。昔に変りておとなおとなしくは撰・春中宮道高風 ) 。夫婦仲のよ 一ハ びん たつみ すき

9. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

上 菜 若 5 ニ七 い方面。音楽や和歌などをさす。 いらかに生ほしたてたまひけむ。さるは、いと御心とどめたまへる皇女と聞き 一四女三の宮は、何でも源氏が申 されるままに、素直に従われて。 しを」と思ふも、なま口惜しけれど、憎からず見たてまつりたまふ。ただ聞こ 一五とても見捨てられぬご様子に。 えたまふままに、なよなよとなびきたまひて、御答へなどをも、おばえたまひ一六昔の自分だったら。 宅十人十色と穏やかに考えて。 けることは、、はけなくうちのたまひ出でて、え見放たず見えたまふ。昔の心天人あれこれとさまざまだが、 抜群に立派な女はいないものだ。 ならましかば、 , ったて心劣りせましを、ムフは、世の中を、みなさま、ざまに思ひ一九それそれ長所短所も多いもの。 ニ 0 女三の宮も、外からみれば、 なだらめて、「とあるもかかるも、際離るることは難きものなりけり。とりど妻として申し分ない、の意。皇女 ゆえの理想性をいう。 ニ一反転して、紫の上について思 りにこそ多うはありけれ、よその思ひはいとあらまほしきほどなりかし」と思 う。女宮降嫁以前と以後に区別し、 後者の彼女に感動を抱き直す。 すに、さし並び目離れず見たてまつりたまへる年ごろよりも、対の上の御あり 一三紫の上へのわが教育を自讃。 ひとよ お さまそなほありがたく、我ながらも生ほしたてけりと思す。一夜のほど、朝の前ハー「院の帝は : ・」の批判と照応。 ニ三一夜の隔ても、あるいは外で とどしき御心、ざしのまさるを、などかくおばゆら明かした朝の間も。 間も恋しくおばっかなく、い ニ四死別を恐れる気持。紫の上へ ニ四 の情愛の高まりゆえの感懐 んとゆゅしきまでなむ。 一宝女宮降嫁と同じ二月。 ニ五うちみてら 院の帝は、月の中に御寺に移ろひたまひぬ。この院に、あニ六西山の御寺。↓一二ハー注六。 〔一 0 朱雀院山寺に移り、 毛以下、院の消息の大意。私 せうそこ 源氏と紫の上に消息 はれなる御消息ども聞こえたまふ。姫宮の御事はさらなり、 ( 朱雀院 ) が聞いたらどう思うだろ う、などと厄介に思って遠慮なさ しーーカ ることなく。 わづらはしく、いかに聞くところやなど、憚りたまふことなくて、ともかくも、 お きは かた うへ あした ひと

10. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

51 若菜上 り方に負けたままでは過されまい らむをりをり、かならずわづらはしきことども出で来なむかし」など、おのが 一六紫の上が対抗しうるとしても。 よひと 、とけはひをかしく宅「世人に漏りきこえじ」 ( 四一 じしうち語らひ嘆かしげなるを、つゆも見知らぬゃうに、 ・ ( ー二行 ) の決意で、平静を装う。 一八ふ 一〈婚礼を祝すべく早寝しない。 物語などしたまひつつ、夜更くるまでおはす。 一九源氏の女君たちが。 一九 かう人のただならず言ひ思ひたるも、聞きにくしと思して、紫の上「かくこれニ 0 准太上天皇にふさわしい妻の いないことをいう。↓二二ハー。 きは かれあまたものしたまふめれど、御心にかなひていまめかしくすぐれたる際にニ一自分もまだ。若い姫君と童心 にかえって遊びたいとする発言で、 めな 心の余裕を示そうとする。 もあらずと、目馴れてさうざうしく思したりつるに、この宮のかく渡りたまへ 一三困ったことに、こちらに隔て ニ一わらはごころう むつ 心でもあるかのように。口さがな るこそめやすけれ。なほ童心の失せぬにゃあらむ、我も睦びきこえてあらまほ い女房たちの陰口に釘をさす。 しきを、あいなく隔てあるさまに人々やとりなさむとすらむ。等しきほど、劣ニ三自分が自分と同等とか、低い とか思われる人に対してこそ。女 三の宮の上位を明言し、宮方と張 りざまなど思ふ人にこそ、ただならず耳たっこともおのづから出で来るわざな り合いたがる女房のロを封する。 れ、かたじけなく心苦しき御事なめれば、 いかで心おかれたてまつらじとなむニ四姫宮降嫁を、皇女なのに後見 もなく気の毒、とみる発言。 なかっかさ 思ふ」などのたまへば、中務、中将の君などやうの人々目をくはせつつ、「あ一宝次行、昔は : ・」にあるように、 二人とも源氏の召人だったが、今 まりなる御思ひやりかな」など言ふべし。昔は、ただならぬさまに、使ひ馴らは紫の上づき。↓須磨 3 二三ハー。 ニ六明石の君や花散里など。 したまひし人どもなれど、年ごろはこの御方にさぶらひて、みな心寄せきこえ毛寵愛など諦めていた自分たち は。このあたりの同情には、紫の ニ七 たるなめり。他御方々よりも、「いかに思すらむ。もとより思ひ離れたる人々上の不幸を喜ぶ気持さえあろう。 ニ四 ニ六 - 一と 一セ