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検索対象: 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)
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1. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

気分がすぐれず、常の有様でなくすっとただ病がちに暮し か。宮自身ではご存じにはならぬことであっても、分別の 3 ていらっしやる。 ないお世話役の女房たちの考えから、何かがあったのだろ 宮もひき続いて、何かと気おくれがして、ただつらいお うか。宮中あたりなどでお互いに風流を楽しみ合うような 語 うわさ 物気持でお悩みになるせいだろうか、月が重なっていくにつ間柄などでも、不都合なよからぬ噂の立っ例もよく耳にす 氏 れて、いかにも苦しそうにしていらっしやるので、殿は、 ることだから」とまでお気をおまわしになるにつけても、 源 一方で情けなくお思いになるものの、またいかにも痛々し俗世のわずらわしいことは断念してしまわれた御身の上で く弱々しいお姿でこうも悩み続けていらっしやるものを、 あるけれども、やはり子を思う道はお忘れになりにくくて、 どうおなりになるのかとご心配で、あれこれとお心をお痛宮にお手紙をこまごまと書いておあげになったのを、ちょ きとう めになる。御祈疇など、今年は忙しいことが多くて日々を うど大殿がいらっしやるときなのでごらんになる。 お過しになる。 これといった用事もなくて、たびたびはお便りをさしあ 御山でも、ご懐妊のことをお聞きつけあそばして、いじ げないでいるうちに、ご様子も分らぬまま年月が過ぎて らしく恋しくお思い申しあげなさる。幾月もの間、院の大 しまうのは悲しいことです。ご気分がおわるくいらっし 殿がこうもよそにばかりおられて、宮のもとにお越しにな やる由を詳しく耳にしてからは、念仏誦経の折にもあな ることもほとんどないかのように誰ぞ申しあげたので、ど たのことが思いやられてならないのは、どうしたことで しん ういうことなのかとお胸が騒いで、夫婦の仲の頼みがたさ すか。大殿との御仲の寂しく心外なことがあっても、辛 おももち をいまさらながら恨めしくおばしめされて、対のお方の重 抱してお過しになるように。、かにも恨めしそうな面持 病でいらっしやった時分は、そのお世話のためのお留守で など、よいかげんなことで心得顔にほのめかすのは、品 あるとお聞きになってさえも、やはり何となく心穏やかで 格を下げることなのです。 はなかったのに、「その後も相変らずでいらっしやるとい などと、おさとし申していらっしやる。 うのは、そのころに何か不都合なことでも起ったのだろう 大殿は院のお気持がまことにお気の毒にもおいたわしく

2. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

265 若菜上 て出家しようとするのま、、、 。し力にも跡を追うようで気ぜわていらっしやるご様子をごらんになるにつけても、どうし しんばう ても辛抱がおできにならす、昔の中納言の君のもとにも、 しい」とおとめになって、少しずつ仏事などのご用意をお させになる。 深くせつない思いのたけの数々を始終お打ち明けになる。 この女房の兄である和泉前司をお呼び寄せになって、 六条院の大殿は、深い情けを交されながら、飽かぬ思い のまま別れておしまいになったお方のこととて、その後長若々しい昔にかえって話をおもちかけになる。「人の取次 によるのではなく、物越しにでも尚侍の君にお聞き知りい し忘れがたく、どのような機会にか対面のかなわぬもの ただかねばならぬことがある。そなたからしかるべく申し か、もう一度逢ってみて、あの当時のこともお話し申しあ あげてご承知願ったうえで、ごく内密にお伺いしよう。今 げたいものと、そのことばかり思い続けていらっしやった はそうした忍び歩きも窮屈な身分であるし、これはきびし のだが、お互いに世間の聞えを遠慮なさらねばならぬご身 く人目を避けなければならないことだから、そなたもまさ 分であるし、また、見るもおいたわしかった天下の騒ぎな か他人にはお漏しになるまいと思うゆえ、お互いに安、いと どもついお心に浮んでくるので、万事に慎んでお過しにな いうものだ」と仰せられる。 っていらっしやったけれども、尚侍の君がこうして平穏に 尚侍の君は、「さて、どうしたものか。世の中のことが 落ち着いてお暮しになる身となられ、浮世の情けにお気持 よく分ってくるにつけても、昔からあの方の薄情なお心を を乱されることもなさそうなこのごろのご様子が、ひとし お知りたく気にもかかるので、あってはならぬこととはお何度も味わわされてきた長い年月の果てに、おいたわしく 思いになるものの、一通りのお見舞にかこつけて、思いの悲しい院の御事をさしおいて、どのような昔の思い出話を 申しあげられよう。なるほど、他人に秘密の漏れぬように こもるお手紙を絶えずおさしあげになる。今となっては、 とが 若い者のような色恋めいた御間柄でもないのだから、ご返したところで、我とわが心に問い咎められたとき、それこ そほんとに恥ずかしいことにちがいない」とお嘆きになっ 事も、その折その折に応じてお申し交しになっていらっし ては、やはりいまさら、もってのほかである由をのみご返 やる。昔よりも格段にすべてがそなわり、すっかり円熟し

3. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

き筋に契りを交し、是が非でもなさねばならぬ役目として をまかせられる人もない宮がとりわけ気がかりで、どうし お守り申しあげるお世話役のおりますのが安心でございま たものかと案ぜられます」とおっしやって、はっきりとは おももち 仰せにならない御面持を、殿はおいたわしくお見あげ申さすから、やはり、どうしても将来へのご心配が残るようで したら、適当にお選びあそばして、内密にしかるべき御婿 れる。お心の中では、なんといっても、お気持のひかれる 女宮の御有様であるから、そのままお聞き過しにはなれな君をお決めおきになるのがよろしゅうございましよう」と お申しあげになる。院は、「そのように考えてみることも くて、「いかにも、尋常の臣下の者とちがって、こういう あるのですが、それも容易ならぬことだったのです。昔の ご身分のお方では内々の御後見役がないのは、よそ目にも 例を聞いておりますが、父帝が位にあって盛りのころの皇 不都合というものでございます。東宮がこうしてご立派に おそ 女についてさえ、相手を選んで、そうした後見をおさせに いらっしゃいますのを、末の世に過ぎたまことに畏れ多い あが なる例が多かったのです。なおさらのこと、こうしていよ お世継ぎの君として天下をあげて頼りどころと崇め申しあ いよこの世をそむくまぎわに、大げさに考えるべきことで げておりますので、なおさら父院のあなた様が、この女宮 のことを仰せおかれます段においては、何一つたりとも東もないのですけれど、しかしまた、こうして世を捨ててし 宮がおろそかにあそばすはずはございませんから、将来のまっておりましても、やはり捨てきれないことがあるもの で、さまざま思案にくれておりますうちに、病は重くなり、 ことはさらさらご懸念にも及びませんでしようけれど、 また取り戻せるはずもない月日が過ぎてゆくので、心ばか かにも物事には限りというものがございますので、東宮が 上 りせかされまして : 心苦しい譲りものですが、この幼 御位にお即きになって天下の政もお心のままになるとは い内親王ひとりを、特別にお目をかけてくださって、しか 申せ、さりとて一女人の御ために、どれほどの際だったご 若 るべき縁づき先もあなたのお考えで決めて、そちらにお預 親切をお約束になれるというわけにもまいらぬものでござ オ 6 ー ) よ、つ けくださるようお願い申したいのですが : : : 権中納言な 。いったい、女人の御ためには、あれこれ実の ある御後見として事にあたろうとすれば、やはりしかるべどが独身でいた間に、こちらから進んで切り出せばよかっ まつりごと

4. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

のだと思われるにしても、やはり、ふと耳にしたところでれでは深い念願も果さずじまいになってしまいそうな気が 幻は、親にも知られず、しかるべき人の同意もないのに、自するので、つい心がせかされるものだから。あの六条の大 しいかにもああしたふうではあっても、道理がよく分 分勝手の内証事をしでかしたというのでは、女の身として殿ま、 語 物は、これ以上の汚点はないと思わずにはいられない所行と っていて、不安のない点ではこれ以上の人はないだろうか によ .. し - う 氏 いうものだ。身分のない普通の臣下の者の間でさえ、これら、あの方この方と大勢いらっしやる女性のことを気にす 源 はあさはかでおもしろからぬことだ。もっとも当人の気持る必要もあるまい。どうなるにせよ、万事当人の心次第と とはかかわりなく事が運ばれてよいはずのものではないに いうものだ。あの大殿は悠然と落ち着いていて、広く世間 しても、本人の意志がそこにないままに夫と結ばれて、自の手本でもあられるし、行く末が安心という点ではぬきん でていらっしやるお人なのだ。それ以外では、まあましだ 分の運勢もそこで決められてしまうというのでは、まった く日ごろの身だしなみや行いがいかにも軽率なのだと推量といえそうな人として、いったいどんな人がいるだろうか。 ひょうぶきようのみや せずにはいられぬものだが : : 。宮は妙になにか頼りない 兵部卿宮、これは人柄は無難だろうし、同じ皇族だから、 性質ではないか、と心配せざるをえないようなご様子なの他人扱いして悪しざまに言ってはいけないけれど、あまり にもわやわやと風流ぶっているので、重々しいところが乏 を、まわりの誰かれが勝手にお扱い申しているが、そんな ことが世間に聞えるようなことになっては、じっさい情け しく、多少軽薄なという感じが勝っているようだ。やはり ないことになる」などと、女宮を残して出家あそばした後 そういう人は、どうも頼りになりそうもない。また大納一言 あそん のなりゆきを、いかにも気がかりなこととお案じ申してい の朝臣が宮の家司になりたいと望んでいるそうで、それ相 らっしやるので、これはいよいよ難儀なことになったと一 応に忠実に仕えてくれるにちがいなかろうけれど、しかし むこ 同思案にくれて、る。 どんなものだろうか。あのようにありふれた身分の者を婿 にとるのは、やはり不本意というべきだろう。昔も、こう 院は、「もう少し分別がおっきになる年ごろまで、この した婿選びには、万事にわたり常人とは異なった名望ある ままそっとしておこうと年来こらえてきたのだったが、そ

5. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

一柏木の父、太政大臣の邸。 に言はせずなりぬ。異事に言ひ紛らはして、おのおの別れぬ。 ニ結婚への高い理想。女三の宮 カむ おほいどのひむがしたい ひとず 督の君は、なほ大殿の東の対に、独り住みにてそものしたのような高貴な女君との結婚を望 〔四 0 〕柏木、慕情つのつ み独身を貫く。「わが身かばかり」 語 て小侍従に文を送る 物 「心おごり」ともあり、彼の宮への まひける。思ふ心ありて、年ごろかかる住まひをするに、 氏 執着は、権勢志向に発していた。 源人やりならずさうざうしく心細きをりをりあれど、わが身かばかりにてなどか = 自ら好き好んで。 四これほど出自や器量才覚がす 五 ぐれて。権門の嫡男らしい自負。 思ふことかなはざらむとのみ心おごりをするに、このタより屈しいたく、もの 五女三の宮をかいま見たタ方。 思はしくて、「いかならむをりに、またさばかりにてもほのかなる御ありさま六「頭痛く」の読み方もある。鬱 屈した狂気をかかえこむ。 きは セ女三の宮が何をしても人目に をだに見む。ともかくもかき紛れたる際の人こそ、かりそめにも、たはやすき つかぬ身分なら、かりにも、気軽 ものいみかたたが かるがる ひま な物忌や方違えに出かけるのも身 物忌、方違への移ろひも軽々しきに、おのづから、ともかくもものの隙をうか 軽だから、もしかすると何とか逢 うち う機会をねらえもしようが がひっくるやうもあれ」など思ひやる方なく、深き窓の内に、何ばかりのこと ^ 深窓に。「養ハレテ深窓ニ在 いたくいぶレパ人末ダ識ラズ」 ( 長恨歌 ) 。 につけてか、かく深き心ありけりとだに知らせたてまつるべきと胸 九宮の乳母子 ( ↓一〇七ハー注一一四 ) 。 ふみ ひとひ みかき せければ、小侍従がり例の文やりたまふ。柏木「一日、風にさそはれて御垣の「例の」とあり、習慣的。 一 0 過日、六条院の蹴鞠に出かけ ゅふペ たこと。「御垣の原」は六条院内。 、とどいかに見おとしたまひけむ。そのタより乱り 原を分け入りてはべしに、し = 卑下の表現。柏木は、自分を 見た宮の関心のほどを知りたい。 心地かきくらし、あやなく今日はながめ暮らしはべる」など書きて、 一ニ「見ずもあらず見もせぬ人の 恋しくはあやなく今日やながめ暮 柏木よそに見て折らぬなげきはしげれどもなごり恋しき花のタかげ こと ) ) と かた ゅふべ 六

6. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

87 若菜上 めのと 日々に、物をひきのぶるやうにおよすげたまふ。御乳母な三明石の君の心用意。 〔毛〕若宮成長し紫の上 一三産湯の儀で謙譲の態度を貫い と明石の君の仲睦まじ ど、心知らぬはとみに召さで、さぶらふ中に品、、いすぐれたように、卑下すべきは卑下する。 一四わがもの顔には振舞わぬのを。 一五紫の上は以前、明石の君と対 たるかぎりを選りて仕うまつらせたまふ。 面している。↓藤裏葉 3 〔一 0 〕。 御方の御心おきての、らうらうじく気高くおほどかなるものの、さるべき方一六明石の君にかって抱いた嫉妬。 ↓澪標 3 〔七〕・松風団〔 0 〔一 = 〕・ 一四 には卑下して、憎らかにもうけばらぬなどをほめぬ人なし。対の上は、まほな薄雲団〔九〕・玉鬘団〔一三〕など。 宅かって女御を養女に迎えた時 一セ らねど、見えかはしたまひて、さばかりゆるしなく思したりしかど、今は宮のも嫉妬を緩和した。↓薄雲団〔七〕。 一 ^ ↓薄雲団四一ハー注一一 0 。 とく 御徳にいと睦ましくやむごとなく思しなりにたり。児うつくしみしたまふ御心一九せわしく物事をする意。 ニ 0 身分低い尼君の、東南の寝殿 あまがっ への参上は、容易に許されない。 にて、天児など御手づから作りそそくりおはするもいと若々し。明け暮れ、こ 三「恋ひ」に、強い執心がこもる。 の御かしづきにて過ぐしたまふ。かの古代の尼君は、若宮をえ心のどかに見た 0 これまで「身の程」意識をかかえ て忍従に耐えてきた明石の君は、 てまつらぬなむ飽かずおばえける。なかなか、見たてまつりそめて恋ひきこゅここでは娘女御の立后を祈念する ところから、女御の養母紫の上へ の謙譲をいよいよ貫こうとする。 るにぞ、命もえたふまじかめる。 一三僧侶は煩悩から解脱し、肉親 の情愛などにも動揺すべきでない。 かの明石にも、かかる御事伝へ聞きて、さる聖心地にもい 三 ^ 〕明石の入道入山、 ニ三思い残すこともなく、いっ死 最後の消息を都に送る とうれしくおばえければ、入道「今なむこの世の境を心やんでも悪道に堕ちるまい、の心境。 現世への執着は往生を妨げる。 ニ四 すく行き離るべき」と弟子どもに言ひて、この家をば寺になし、あたりの田なニ四明石の浦の邸。 ゅ ひげ むつ え 一九 ニ 0 こだい けだか ニニひじりごこち うへ さかひ

7. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

= 自分自身へのもどかしさ。 事なくて過ぐすべき日は心のどかにあいな頼みして、いとしもあらぬ御心ざ 一ニ以前の病状よりも悪化。 かどで おく しなれど、今はと別れたてまつるべき門出にやと思ふは、あはれに悲しく、後一三柏木の父母。柏木は長男。 一四別々に住んでいては。柏木は ははみやすどころ れて思し嘆かむことのかたじけなきをいみじと思ふ。母御息所も、いといみじ現在、妻の落葉の宮邸に住む。 一五柏木の実家では、見舞もまま ならず、夫婦仲を裂かれたも同然。 く嘆きたまひて、御息所「世の事として、親をばなほさるものにおきたてまつり 一六これまでの結婚生活を顧みる て、かかる御仲らひは、とあるをりもかかるをりも、離れたまはぬこそ例のこ柏木の心情に即した叙述。 宅気長にかまえ、当てにもなら となれ、かくひき別れて、たひらかにものしたまふまでも過ぐしたまはむが心ぬ将来のことを当てにして。 天格別深い情もかけなかったが。 一九死別を直感。↓須磨 3 一一一ハー づくしなるべきことを。しばしここにてかくて試みたまへ」と、御かたはらに 注四「かりそめの : ・」の歌。 きちゃう ニ 0 落葉の宮の母 ( 一条御息所 ) 。 御几帳ばかりを隔てて見たてまつりたまふ。柏本「ことわりや。数ならぬ身に 三柏木の病床の。 一三自分を卑下して皇女降嫁の て、及びがたき御仲らひになまじひにゆるされたてまつりてさぶらふしるしに 「及びがたき」光栄に浴したとする。 は、長く世にはべりて、かひなき身のほども、すこし人と等しくなるけぢめをニ三降嫁への感謝のしるし。 ニ四官界での栄達のこと。 下もや御覧ぜらるるとこそ思うたまへつれ、いといみじくかくさへなりはべれば、一宝瀕死の重病の状態。内心では 源氏にそむいた身の破滅をも思う。 菜ニ六 ニ六妻への深い情愛さえ。 深き心ざしをだに御覧じはてられずやなりはべりなむと思うたまふるになむ、 若 毛死を予感した言い方。 ニ七 ニ ^ 安心してあの世には行けそう とまりがたき心地にも、え行きやるまじく思ひたまへらるる」など、かたみに にないと。現世への執着。 泣きたまひて、とみにもえ渡りたまはねば、また、母北の方うしろめたく思しニ九柏木の母。 だの ニ九

8. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

らむ。さかさまに行かぬ年月よ。老は、えのがれぬわざなり」とてうち見やり一「さかさまに : ・」「老は : ・」で 前述の内容を重層的に強調。「さ かさまに年もゆかなむとりもあへ たまふに、人よりけにまめだち屈じて、まことに、い地もいとなやましければ、 よはひ ず過ぐる齢やともに返ると」 ( 古 語 そらゑ 物いみじきことも目もとまらぬ心地する人をしも、さし分きて空酔ひをしつつか今・雑上読人しらず ) 。 二一九ハーにも「御目とまれど」。 さかづき かしら 源くのたまふ、戯れのやうなれど、いとど胸つぶれて、盃のめぐり来るも頭いた柏木は前から源氏の目を恐れてい た。↓一八三ハー末・二〇六ハー七行。 とが くおばゆれば、けしきばかりにて紛らはすを御覧じ咎めて、持たせながらたび三試楽の感興に紛れていた気分 がさまされ、日ごろの苦悩が増大。 たび強ひたまへば、はしたなくてもてわづらふさま、なべての人に似ずをかし。四試楽のすばらしさも、恐懼の あまり、柏木の目には入らない 心地かき乱りてたへがたければ、まだ事もはてぬにまかで五酔いを装って本心を吐露する。 〔三九〕柏木悩乱し、病の 六他者には酒席の戯れと受け取 身を親もとで養う たまひぬるままこ、、 冫しといたくまどひて、「例の、いとおられるが、柏木には痛烈な皮肉。 セ柏木の酔ったふりを許さない。 どろおどろしき酔ひにもあらぬを、いかなればかかるならむ。つつましともの源氏の鋭くきびしい凝視は持続。 ^ 外面から柏木の美質を捉えな おく おして、この場を語りおさめる。 を思ひつるに、気ののばりぬるにや。いとさいふばかり、臆すべき心弱さとは 0 柏木の恐懼はここに極まるが、 おばえぬを、言ふかひなくもありけるかな」とみづから思ひ知らる。しばしのその罪の意識は、源氏を絶対者と 敬う気持から自己増殖している。 おとど 九気づまりなことと思いつめて 酔ひのまどひにもあらざりけり。やがて、いといたくわづらひたまふ。大臣、 いたので。源氏への思惑である。 との 一 0 自分ながらそれほど怖気づく 母北の方思し騒ぎて、よそよそにていとおばっかなしとて、殿に渡したてまっ ほど、意気地なしとも思わぬが 源氏の言動を必要以上に重大視。 りたまふを、女宮の思したるさま、またいと心苦し。 ( 現代語訳三七三ハー ) ゑ たはぶ ゑ くん おい おじけ

9. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

41 若菜上 ( 現代語訳二五二ハー ) ふべき、おのがどちの心より起これる懸想にもあらず。堰かるべき方なきもの他人のめに従われるような、当 ←人同士の心から出た恋でもない。 よひと から、をこがましく思ひむすばほるるさま世人に漏りきこえじ。式部卿宮の大一六愚かしく物思いに沈んでいる さまを世間に知られまいとする。 北の方、常にうけはしげなることどもをのたまひ出でつつ、あぢきなき大将のわが苦衷を内心に封じ込める。 宅紫の上の継母。 天常に呪わしげなことを。↓須 御事にてさへ、あやしく恨みそねみたまふなるを、かやうに聞きて、い力にし 磨 3 一九ハー・真木柱 3 一六〇ハー ちじるく思ひあはせたまはむ」など、おいらかなる人の御心といへど、いかで一九大北の方は鬚黒大将と玉鬘の 結婚までも紫の上の計略と思い込 かはかばかりの隈はなからむ。今はさりともとのみわが身を思ひあがり、うらんでいる。↓真木柱 3 一五九ハー ニ 0 姫宮降嫁を、紫の上が鬚黒の した なくて過ぐしける世の、人笑へならむことを下には思ひつづけたまへど、いと結婚に加担した報いとする。 三以下、語り手の言辞。 一三この程度の邪推はしよう。 おいらかにのみもてなしたまへり。 ニ三もう大丈夫、自分以上に寵愛 年も返りぬ。朱雀院には、姫宮、六条院に移ろひたまはむされる者はいまいと自足し、安心 〔三〕玉鬘、若菜を進上 しきってきた身の上が 源氏の四十の賀宴催す 御いそぎをしたまふ。聞こえたまへる人々、いと口惜しく = 四世間のもの笑い。最悪の事態 の危惧から、苦衷を心内に封じ込 思し嘆く。内裏にも御心ばへありて聞こえたまひけるほどに、かかる御定めをめ、平気を装う処世態度を持す。 0 紫の上は以前のような嫉妬する 女君でない。過酷な運命を思い 聞こしめして、田 5 しとまりにけり。 新たな処世態度を貫く決意である。 ことしよそぢ さるは、今年そ四十になりたまひければ、御賀のこと、おほやけにも聞こし = 五女三の宮に求婚した人々。 ニ六源氏四十賀。冷泉帝は前年か ら準備。↓藤裏葉 3 二一一三ハー めし過ぐさず、世の中の営みにて、かねてより響くを、事のわづらひ多くいか ニ四 けつ ニ六が せ かた ちょうあい

10. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

一五蛍宮の態度表情に億劫さが現 まふさまいとものうげなり。大宮、いと心づきなきわざかなと思し嘆きたり。 れる。亡妻への思慕が消えやらず、 母君も、さこそひがみたまへれど、うっし心出でくる時は、口惜しくうき世と新妻に感動しない。 一六母君は女の幸不幸は母親次第 と考えて娘を引き取っただけに落 思ひはてたまふ。大将の君も、「さればよ。いたく色めきたまへる親王を」と、 胆が大きい。↓真木柱同一五七ハー はじめよりわが御心にゆるしたまはざりしことなればにや、ものしと思ひたま宅鬚黒大将。 天実父の許諾を無視したとする。 一九玉鬘。彼女の結婚前後の昔を へり。 回顧させる呼称。次に当時を回想。 尚侍の君も、かく頼もしげなき御さまを、近く聞きたまふには、さやうなるニ 0 真木柱の、蛍宮を夫として信 頼しがたく思っている状態。 世の中を見ましかば、こなたかなたいかに思し見たまはましなど、なまをかし三継娘という身近な関係。 一三「・ : ましかば : ・まし」の反実仮 かみ くもあはれにも思し出でけり。「その昔も、け近く見きこえむとは、思ひょら想の構文で、自分が蛍宮と結婚し ニ四 ていたらと仮想。賢明だった自分 な * 一けな ) け ざりきかし。ただ、情々しう、心深きさまにのたまひわたりしを、あへなくあの身の処し方に胸をなでおろす。 ニ三宮との結婚は考えなかった意。 はつけきゃうにや、聞きおとしたまひけむ」といと恥づかしく、年ごろも思しニ四宮が自分にやさしく。 一宝宮は、自分と鬚黒との結婚を、 はりあいなく軽率なものと。↓真 下わたることなれば、かかるあたりにて聞きたまはむことも、心づかひせらるべ 木柱 3 一四二ハー。 ニ六玉鬘のほうからも。 くなど思す。 若 毛継母としてできること。 ニセ ニ六 ニ〈真木柱の実弟、太郎君次郎君。 これよりも、さるべきことは扱ひきこえたまふ。せうとの君たちなどして、 ワ ~ ニ九蛍宮と真木柱の不仲 三 0 けしき かかる御気色も知らず顔に、憎からず聞こえまつはしなどするに、心苦しくて、三 0 蛍宮の、真木柱への憐憫 かむ ニ 0 一セ おっくう