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検索対象: 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)
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1. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

( 原文三四ハー ) 院はこれに目をおとめになって、しみじみと昔をお思い出した。こうしてこのわたしを深く思ってくださるあなたと しにならずにはいられないのだった。中宮が、ご自身にあの別れこそが、まったく堪えられないのですよ」とおっし やかるのもわるくはあるまいとて、お譲り申しあげられる やって、ご決心もゆるぎそうになるけれども、しいてこら きようそく ぎす えて御脇急にお寄りかかりになり、叡山の座主をはじめと とは、、かにも面目ある櫛であるから、ご返事も、昔の思 あぎり しはさておいて、 してご授戒のため三人の阿闍梨が伺候し、法服などをお召 よろづよ さしつぎに見るものにもが万代をつげの小櫛の神さぶ しになる際の、この俗世をお離れになる御作法はたいそう るまで 悲しいものである。今日ばかりは、世間のことを悟りきっ ・そ、つり - ( あなたにひき続いて、この女宮が幸せに栄えていく姿を見 ている僧侶たちさえ、とても涙を抑えることができないの たいものです。万世のことほぎを教えるこのつげの小櫛が古だから、なおさらのこと、女宮たちや女御、更衣、また大 かみしも びてゆくまでに ) 勢の男も女も、上下いっせいに泣きどよむので、院はお心 しず が動揺するばかりで、このような騒ぎもない閑かな所にそ とだけお喜びのご返事を申しあげあそばす。 のままこもろうとのお心づもりでいらっしやった、その御 朱雀院は、ご気分がほんとにお苦しいのを辛抱なさって は元気をお出しになり、この御儀がすむと三日を過してか本意に反するようにもお感じになるが、それというのもた だこの幼い女宮にひかされてのあまりとお思いになり、ま ら、ついに御髪をお下ろしになる。尋常の身分の人でさえ、 たそうも仰せられる。帝をはじめとしてお見舞が跡を絶た いよいよ姿を変えるとなればいかにも悲しいものであるか 上 なかったのはいうまでもない ら、院の場合はなおさらのこと、まことにしみじみと痛ま 菜 ないしのかみ しく、御方々も途方にくれてお嘆きになる。尚侍の君はずニ 0 〕源氏朱雀院を見舞六条院の殿も、この御兄の院が少し 若 い女三の宮の後見承引ご気分もおよろしくいらっしやると っとおそばにお付きになっていて、たいそう思いつめてい お聞き申されて、お見舞に参上なさる。この殿は、朝廷か 7 らっしやるので、院はお慰めするすべもなく、「親が子を ら賜る御封などこそ、御退位になられた帝とすべて同等に 思う道にはまだ限りがあってあきらめもっくというもので しんばう

2. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

おとど 一源氏が宮のもとにいた時。 御文こまやかにてありけるを、大殿おはしますほどにて見たまふ。 ワ ~ ニあらたまった用件もなく。 朱雀院そのこととなくて、しばしばも聞こえぬほどに、おばっかなくてのみ三あなたの様子も分らぬまま。 語 四現世への未練の残るのはどう 物年月の過ぐるなむあはれなりける。なやみたまふなるさまは、くはしく聞きしたことか。自分自身の心を疑う。 氏 五宮と源氏の夫婦仲。 のちねんず 源し後、念誦のついでにも思ひやらるるま、、 : 、。 。しカカ世の中さびしく、思はず六源氏への嫉妬の表情や態度。 セ源氏は、愛娘を思う院を不憫 に思う。以下も、院に対する気持。 なることありとも、忍び過ぐしたまへ。恨めしげなる気色など、おばろけに ^ 宮の不始末。それを知らぬ父 しな - つわ、 て見知り顔にほのめかす、いと品おくれたるわざになむ。 院が、世の噂を根拠に、源氏を一 方的に不満に思うらしいとする。 九私こそ、じつにつらい。不義 など、教へきこえたまへり。 ゆえの不快さをこめて言う。 うち - っち・ ^ いといとほしく、い苦しく、かかる内々のあさましきをば聞こしめすべきには一 0 心外に思うことがあったとし ても。これも不義をにおわす表現。 = 疎略な扱いで人が変に思うよ あらで、わが怠りに本意なくのみ聞き思すらんことをとばかり思しつづけて、 うな態度はとるまい。↓二〇七ハー せうそこ 源氏「この御返りをばいかか聞こえたまふ。心苦しき御消息に、まろこそいと三院に対して、私のことを悪く。 一三宮の、わが過ちを思う気持。 みとが 苦しけれ。思はずに思ひきこゆることありとも、おろかに人の見咎むばかりは 0 六条院主催の賀宴が無期限に延 期。それに応ずるかのごとく朱雀 た あらじとこそ思ひはべれ。誰が聞こえたるにかあらむ」とのたまふに、恥ぢら院は宮の不始末を想像し心痛する。 一四朱雀院は、あなたの。 ひて背きたまへる御姿もいとらうたげなり、、こ しオく面痩せて、もの思ひ屈した一五院のこの消息を拝見して。 一六今後とも何かと心配でならぬ。 罪を繰り返してはならぬ、の気持。 まへる、いとどあてにをかし。 ふみ おもや けしき

3. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

いとど暑きほどは息も絶えつついよいよのみ弱りたまへば、言はむ方なく思し一源氏は。 ニ紫の上は、意識もないような けしき 嘆きたり。亡きゃうなる御心地にも、かかる御気色を心苦しく見たてまつりた病状のなかでも。以下、わが身よ りも、悲嘆の源氏を気づかう。か 語 物まひて、世の中に亡くなりなんも、わが身にはさらに口惜しきこと残るまじけって源氏が、紫の上の出家願望に 氏 さえ、ひとり取り残される孤独を 源れど、かく思しまどふめるに、むなしく見なされたてまつらむがいと思ひ隈な恐れた ( 一六五【 -) 。それに照応。 三自分が亡くなるのも。以下、 かるべければ、思ひ起こして御湯などいささかまゐるけにや、六月になりてぞ紫の上の直接話法による心中叙述。 四自分の空しくなった姿をお目 にかけるのも、まったく思いやり 時々御頭もたげたまひける。めづらしく見たてまつりたまふにも、なほいとゆ のないことだろうから。 五源氏への憐憫から、生きねば ゅしくて、六条院にはあからさまにもえ渡りたまはず。 ならぬとする気力を奮い起す。 姫宮は、あやしかりしことを思し嘆きしより、やがて例のさまにもおはせず、六薬湯など。 セ物の怪ゆえに油断ができない。 なやましくしたまへど、おどろおどろしくはあらず、立ちぬる月より物聞こし ^ 女三の宮への夜離れが続き、 六条院は依然人少なである。 めさで、いたく青みそこなはれたまふ。かの人は、わりなく思ひあまる時々は九思いもかけぬ柏木との不義。 一 0 物思いの精神的痛苦が、その 夢のやうに見たてまつりけれど、宮は、尽きせずわりなきことに思したり。院まま肉体的な変調をももたらす。 = 密通の翌月の五月以来。 をいみじく怖ちきこえたまへる御心に、ありさまも人のほども等しくだにやは一 = 懐妊の悪阻も加わった症状。 一三柏木。理性で処しがたい情念。 おうせ ある、いたくよしめき、なまめきたれば、おほかたの人目にこそ、なべての人一四現実とも思えぬ逢瀬の感覚。 密会は一度ならず繰り返された。 一五柏木の「わりなく」に対応。こ にはまさりてめでらるれ、幼くよりさるたぐひなき御ありさまにならひたまへ ぐし な お 一 0 ぐま つわり

4. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

高きまじらひにつけても心乱れ、人に争ふ思ひの絶えぬもやすげなきを、親のの特異な本性を示唆している。 一六以下、紫の上の境涯にふれる。 窓の内ながら過ぐしたまへるやうなる心やすきことはなし。その方は、人にす宅流離の時期の生別れ以外には。 天女の最高の地位をあげて、そ ぐれたりける宿世とは思し知るや。思ひの外に、この宮のかく渡りものしたまれでさえ不如意の人生だとする。 一九帝寵をめぐる後宮の争い へるこそは、なま苦しかるべけれど、それにつけては、、 しとど加ふる心ざしのニ 0 あなた ( 紫の上 ) が、その点で、 人にすぐれた宿世だったとは。 ほどを、御みづからの上なれば、思し知らずやあらむ。ものの心も深く知りたニ一女宮の降嫁を契機に、自分の 紫の上への情愛が深まったとする。 一三ご自分のことだからかえって。 まふめれば、さりともとなむ思ふ」と聞こえたまへば、紫の上「のたまふやうに、 ニ三自分を、源氏以外には頼れる ものはかなき身には過ぎにたるよそのおばえはあらめど、心にたへぬもの嘆か人もない孤立無縁の身の上とする。 一西源氏の言う「人にすぐれ : ・」に ニ七 しさのみうち添ふや、さはみづからの祈りなりける」とて、残り多げなるけは応じ、彼の厚志に謝するほかない。 一宝前述から反転して、憂愁の一 面を指摘。源氏の述懐の栄華と憂 ひ恥づかしげなり。 愁に対応する物言いでもある。 紫の上「まめやかによ、、 。しと行く先少なき心地するを、今年もかく知らず顔に実源氏の、憂愁ゆえの存命の主 張に応じて、憂愁こそ自分のため 、と , っしろめたくこそ。さきギきも聞こゆること、 いかで御ゆるの祈疇、人生の支えだったとする。 下て過ぐすは、し 毛多くを言い残した様子は、気 しあらば」と聞こえたまふ。源氏「それはしも、あるまじきことになむ。さておくれするほど奥ゆかしい。 若 ニ ^ 重厄の年にあたり、その仏事 かけ離れたまひなむ世に残りては、何のかひかあらむ。ただかく何となくて過よりも、出家の本懐を遂げたい。 前にもその願望を訴えたが、源氏 ぐる年月なれど、明け暮れの隔てなきうれしさのみこそ、ますことなくおばゆが許さなかった。 すくせ ニ四 - ) とし ニ 0

5. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

さかであるのを、ぶつぶつお恨み申しあげている。 つけても、やはりひどくご心配で、六条院のほうにはかり 殿は、このように宮のご気分がすぐれない由をお聞きに そめにもお越しにはなれない。 なって、やっとお出ましになる。対の女君は、暑くうっと 姫宮は、あのあるまじき一件に心を痛められてこの方、 うしいからと、御髪をお洗いになり、多少すがすがしそう そのまま常日頃の様子とはお変りになって、ご気分がわる にしていらっしやる。横になったまま御髪をうち広げてお くていらっしやるけれども、そうたいしたご病状ではなく、 いでになると、そうすぐには乾かないけれど、いささかも 先月から何も召しあがらず、ひどく青ざめておやつれにな ひと っていらっしやる。他方、あの男は、どうにも思いに堪え癖をふくんだり乱れたりする毛筋もなく、まことに気高く ゆらゆらとして、お顔の色の、青みがかっておやつれにな かねる折々には、夢路を通うような思いで宮にお逢い申し っていらっしやるのが、かえって青白にかわいらしく感じ ていたのであったが、宮は、どこまでも無体なこととつら はだ られ、透きとおるように見える御肌の感じなどは、世にま くお思いになっている。院の殿をひどくこわがっていらっ かれん えもんのかみ たとないくらいの可憐なご様子である。もぬけた虫の殻か しやる宮のお気持では、衛門督の様子といい人柄といし どうして殿と同列に比べられようか、督の君はたいそうた何ぞのように、まだじつに頼りない感じでいらっしやる。 長年の間お住まいにならなかったために、多少荒れてしま しなみがあって優美な人であるから、世間の人の目には、 っているこの院の内は、はなはだしく手狭にさえ感じられ ありきたりの男にはぬきんでて評判も上々といえようけれ ども、お年若の時分からあれほどまたとなくご立派なお方る。昨日今日はこのようにご気分がはっきりしていらっし やりみずせんぎい 下 やる折なので、念入りにお手入れをなさった遣水や前栽の、 のお人柄に常々接していらっしやる宮のお心からは、ただ にわかに気持も晴れ晴れするような景色をお眺めになるに 心外な者とのみ見ておいでになるが、そこへもってきて、 若 つけても、ああよくそ今まで命を持ちこたえてきたものよ こうしたご不例とて苦しみ続けていらっしやるとは、悲し めのと とお思いになる。 くいたわしい御宿世というものではあった。乳母たちがご 池はいかにも涼しそうで、蓮の花が一面に咲いており、 懐妊と気づいて、院の殿のお越しになるのもほんとにたま はす

6. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

かぜ のち くはべる家の風の、さしも吹き伝へはべらむに、後の世のためことなることな一家風。「久方の月の桂も折る ばかり家の風をも吹かせてしが な」 ( 拾遺・雑上菅原道真の母 ) 。 くこそはべりぬべけれ」と申したまへば、源氏「いかでか。何ごとも人にこと ニ鞠の方面で伝わっても、子孫 語 しる 物なるけぢめをば記し伝ふべきなり。家の伝へなどに書きとどめ入れたらむこそ、のために格別のこともなかろう。 氏 三柏木の鞠の名手ぶりを家伝な 源興はあらめ」など戯れたまふ御さまの、にほひやかにきよらなるを見たてまつどに。源氏のからかいである。 四源氏ほどの夫に連れ添う宮は、 るにも、「かかる人に並びて、いかばかりのことにか、いを移す人はものしたまどんな事情があるにせよ、ほかの 男 ( 柏木 ) に心を移すはずもなかろ う。「人」は女三の宮。 はむ。何ごとにつけてか、あはれと見ゆるしたまふばかりはなびかしきこゅべ 五宮が自分 ( 柏木 ) を、かわいそ 六 うにと。「あはれ」は相手への共感。 き」と思ひめぐらすに、、 しとどこよなく御あたりはるかなるべき身のほども思 六高貴の宮に近づきがたい自分 の分際。柏木は、身分の低さから ひ知らるれば、胸のみふたがりてまかでたまひぬ。 求婚を断られたことを想起。 ひと 大将の君一つ車にて、道のほど物語したまふ。柏木「なほ七夕霧は三条邸に、柏木は二条 〔三九〕柏木、タ霧と同車 の太政大臣邸に帰る。 して宮への同情を語る このごろのつれづれには、この院に参りて紛らはすべきな ^ 通説では「なほ・ : なりけり」も タ霧の言葉とするが、とらない。 いとまひま 九 ↓一〇八ハー一行。 りけり」、タ霧「今日のやうならむ暇の隙待ちつけて、花のをり過ぐさず参れ、 一 0 源氏が 一うち とのたまひつるを、春惜しみがてら、月の中に、小弓持たせて参りたまへ」と = 残りわずか。↓一〇七ハー注一一六。 三五行前の叙述の繰返し。興奮 さめやらす談合に熱中する。 語らひ契る。 一三紫の上のもとにのみ。 おのおの別るる道のほど物語したまうて、宮の御事のなほ言はまほしければ、一四紫の上への寵愛。 たはぶ

7. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

- 一とひと せぬものをと目とまれど、見ぬゃうに紛らはしてやみたまひぬ。他人の上なら一宮以外の女君が書いたのなら。 ニ宮はあなたと対抗できない幼 稚な人だから、の気持をこめる。 ば、さこそあれなどは、忍びて聞こえたまふべけれど、いとほしくて、ただ、 語 三「今朝」 ( 五四ハー三行 ) と同じ五 物源氏「心やすくを思ひなしたまへ」とのみ聞こえたまふ。 日目。女御入内の際は、五日目に ところあらわし 昼間の露顕の例があるという。 源 今日は、宮の御方に昼渡りたまふ。心ことにうち化粧じた四これまで夜の来訪だったので、 〔宅〕源氏幼い宮に比べ 源氏の姿をはっきり見ていない。 紫の上の立派さを思う まへる御ありさま、今見たてまつる女房などは、まして見五源氏お一方だけはご立派だが、 困ったことが起るにちがいない。 おほむめのと 宮の幼稚さを熟知する老女房らは、 るかひあり、と思ひきこゆらんかし。御乳母などやうの老いしらへる人々ぞ、 源氏の立派さがかえって夫婦の不 五 「いでや。この御ありさま一ところこそめでたけれ、めざましきことはありな和を招き、宮が紫の上よりも寵愛 されないのではないかなどと懸念。 六「ける」とあるべきところ。 むかし」とうちまぜて思ふもありけり。 セ部屋飾りなどが仰々しく、堂 女宮は、、 しとら , ったげに幼きさまにて、御しつらひなどのことごとしく、よ堂と格式ばっているが。以下、高 貴な身分と幼稚な人柄が対比的。 だけく、 , つるはしきに、みづからは何、いもなくものはかなき御ほどにて、いと ^ まるでお召物ばかりで、体が どこにあるか分らぬほど華奢。 ^ ぞ ち′ ) おも 御衣がちに、身もなくあえかなり。ことに恥ぢなどもしたまはず、ただ児の面九源氏に対して。 一 0 人見知りをしないような感じ。 ぎら 嫌ひせぬ心地して、心やすくうつくしきさましたまへり。「院の帝は、男々し = 以下、源氏の心中。朱雀院の 女三の宮への教育について批判的。 ざえ よひと 三男らしく理屈つばい方面の学 くすくよかなる方の御才などこそ、心もとなくおはしますと世人思ひためれ、 。漢学をさす。 かた をかしき筋、なまめきゅゑゅゑしき方は人にまさりたまへるを、などてかくお一三趣味の方面、優雅で奥ゆかし ひと きやしゃ

8. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

語 物 氏 ふること こと 古言など書きまぜたまふを、取りて見たまひて、はかなき言なれど、げに、と一自作歌と同内容の伝承古歌。 ありふれた古歌ながら、源氏をし ことわりにて、 て合点させる。この場合の真実の こもる歌として再評価される。 ニ前歌を、生命はかない世の中 源氏命こそ絶ゆとも絶えめさだめなき世のつねならぬなかの契りを と受け止めながら、一一人は世の常 とも異なり変らぬ仲、と切り返す。 とみにもえ渡りたまはぬを、紫の上「いとかたはらいたきわざかな」とそそのか 三紫の上が気がかりゆえ。 五 四不都合なこと。紫の上は、自 しきこえたまへば、なよよかにをかしきほどにえならず匂ひて渡りたまふを、 分のせいと思われたくない 見出だしたまふもいとただにはあらずかし。 五宮を訪ねる源氏の衣服のさま。 六源氏を送り出す紫の上の姿態 セ紫の上の心中叙述。三行後 年ごろ、さもやあらむと思ひしことどもも、今はとのみもて離れたまひつつ、 「思しなりぬる」で地の文に移る。 さらばかくにこそはと、うちとけゆく末に、ありありて、かく世の聞き耳もな ^ 高貴な正妻を迎えること。朝 顔の姫君との一件 ( 三八ハー ) など。 一 0 のめならぬことの出で来ぬるよ、思ひ定むべき世のありさまにもあらざりけれ九「出で来ぬるよ」まで、「今は さりとも・ : 人笑へならむこと」 ( 四 のち 一ハー ) に照応。世間のもの笑い冫 ば、今より後もうしろめたくぞ思しなりぬる。さこそっれなく紛らはしたまへ さえなりかねぬ己が運命を痛恨 一 0 安心できる仲でなかったので。 ど、さぶらふ人々も、「思はずなる世なりや。あまたものしたまふやうなれど、 = 内心の隠蔽。↓四八ハー六行。 かた は・はか いづ方も、みなこなたの御けはひには方避り憚るさまにて過ぐしたまへばこそ、三以下、紫の上づき女房の視点。 一三源氏には、大勢の女君たちが 事なくなだらかにもあれ、おし立ちてかばかりなるありさまに、消たれてもえ一四紫の上の御威勢に一歩譲って 遠慮してきたからこそ。 過ぐしたまはじ。またさりとて、はかなきことにつけてもやすからぬことのあ一五女三の宮方のはばかりないや

9. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

源氏物語 48 、四 一三日間続く婚儀の期間 らしき御仲のあはひどもになむ。 ニ朱雀院からも、六条院からも。 あるじゐんがた 三日がほど、かの院よりも、主の院方よりも、 いかめしくめづらしきみやび三紫の上。梅枝同一八七・藤裏 葉 3 二一六ハーにもみえる呼称だが、 うへ 必ずしも正妻を表す呼称ではない。 を尽くしたまふ。対の上も事にふれて、ただにも思されぬ世のありさまなり。 四以下、紫の上の心。「げに」は、 五おとけ かかるにつけて、こよなく人に劣り消たるることもあるまじけれど、ま源氏の言葉三九ハー一二行を受ける。 五女三の宮。 た並ぶ人なくならひたまひて、はなやかに生ひ先遠く侮りにくきけはひにて移六これまでの揺るぎない存在。 セ女三の宮が ろひたまへるに、なまはしたなく思さるれど、つれなくのみもてなして、御渡 ^ 何となく居心地が悪いけれど。 九何気なさのみを装って。内心 りのほども、もろ、いにはかなきこともし出でたまひて、いとらうたげなる御あの苦衷を隠蔽。↓四一ハー注一一四。 一 0 源氏といっしょに。 = 源氏は、自分に協力的な紫の りさまを、いとどありがたしと思ひきこえたまふ。姫宮は、げにまだいと小さ 上の可憐さを実に得がたい人と感 うち そんたく く片なりにおはする中にも、 いといはけなき気色して、ひたみちに若びたまへ動するが、その苦悩を忖度しない 三十四歳。適齢期だが不完全で り。かの紫のゆかり尋ねとりたまへりしをり思し出づるに、かれはされて言ふ幼稚。「中にも」は、その上 : ・の意。 一三紫の上が源氏に引き取られた のは十歳。↓若紫田一六九ハー二行。 かひありしを、これま、、 。しといはけなくのみ見えたまへば、よかめり、憎げに 一四紫の上は、機転がきいて相手 にしがいがあったが。 おし立ちたることなどはあるまじかめりと思すものから、いとあまりもののは 一五以下、源氏の心。幼稚な宮ゅ え紫の上と対抗すまいと安心する えなき御さまかなと見たてまつりたまふ。 一方では、期待を裏切られる気持。 一六前の「三日がほど」に対応。同 けしき あなづ かれん

10. 完訳日本の古典 第19巻 源氏物語(六)

35 若菜上 一五自身のこととしては、出家も はべりぬる心のぬるさを、恥づかしく思うたまへらるるかな。身にとりては、 格別のことではあるまいと思い 事にもあるまじく思うたまへ立ちはべるをりをりあるを、さらにいと忍びがた決心することが何度かあったが。 いざとなれば。ここでの堪え がたさは、捨てがたい絆の存在。 きこと多かりぬべきわざにこそはべりけれ」と、慰めがたく思したり。 姫宮を思う院の心中を察した表現 宅前ハー八 ~ 苦しき : こに照応。 院ももの、い細く思さるるに、え心強からす、うちしほたれたまひつつ、昔 天わが生命も今日か明日かと。 一八 今の御物語、いと弱げに聞こえさせたまひて、朱雀院「ムフ日か明日かとおばえは「人の世の老をはてにしせましか ば今日か明日かと嘆かざらまし」 べりつつ、さすがにほど経ぬるを、うちたゆみて深き本意のはしにても遂げず ( 朝忠集 ) によるか。 一九心からの念願の一端、出家。 よはひ なりなむことと思ひ起こしてなむ。かくても残りの齢なくは行ひの心ざしもかニ 0 こうして出家はしたものの。 ニ一一時なりとも出家の功徳で生 なふまじけれど、まづ仮にてものどめおきて、念仏をだにと思ひはべる。はか命を延ばし、せめて念仏でもと。 山里での本格的な修行の前の段階 ばかしからぬ身にても、世にながらふること、ただこの心ざしに引きとどめらなので、「念仏をだに」とする。 一三仏道に励まなかった怠慢さえ、 仏がどう思うか気にかかる。 れたると、思うたまへ知られぬにしもあらぬを、今まで勤めなき怠りをだに、 ニ三さりげなく本題に移る趣 一西源氏の「さらにいと忍びがた やすからすなむ」とて、思しおきてたるさまなど、くはしくのたまはするつい きこと・ : 」 ( 二行 ) に照応。 をむなみこ でに、朱雀院「皇女たちを、あまたうち棄てはべるなむ心苦しき。中にも、またニ五他に世話を頼める人。 ニ六はっきりとは言わぬご様子を 思ひゅづる人なきをば、とりわきてうしろめたく見わづらひはべる」とて、ま毛源氏の心中。以下、女三の宮 への、亡き藤壺の姪ゆえの、聞き うち けしき ほにはあらぬ御気色を、心苦しく見たてまつりたまふ。御心の中にも、さすが過すことのできない関心の強さ。 へ ニ四 す ニ六