池・国・肖・三・河 ) ーかのふみ 箱ぞ ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 池・国・肖・三・河・別 ) ーはこ Ⅲ 9 なめれば ( 証・柏・御・大・横・陽・ 池・国・肖・三・河・別 ) ーなんめれは 燗 9 うち泣きたまふ。とりたまひて ( 証 ・穂・幽・柏・御・横・陽・池・国・肖・三・ 明 ( 底本 ) ・証・穂・幽・柏・大・ 河・別 ) ーうちなけき給により ( 取イ ) 給て若菜下〔 横・楙・陽・池・肖・三・河・別 3 はぐくみげなれと ( 証・穂・幽・御・ 2 猫こそ ( 証・穂・柏・大・横・楙・陽・ △横・陽・池・国・肖・河 ) ーはくゝみけれれ 池・肖 ) ーねこそ 3 猫わざと ( 証・穂・幽・柏・楙・陽・ Ⅱはかなきことにても ( 証・穂・幽・ 肖・三 ) ーわさと 柏・御・横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーはか 6 おばゅ ( 証・穂・幽・柏・横・楙・陽・ . なきことにて 池・肖・河・別 ) ーおほゆる 燗にしも ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 7 つひに ( 証・穂・幽・柏・大・横・楙・ 陽・池・国・肖・三・河 ) ーしも 陽・池・肖・河・別 ) ーに こなた ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 11 、ー亠 陽・池・国・肖・三・河 ) ーこなた ( ハ ) 過ぐさまほしく ( 穂・幽・△柏・横・楙・ 陽・池・肖・三 ) ーすきまほしく Ⅱはれて ( 証・穂・幽・御・大・横・陽・ 川 5 のたまふべし ( 穂・幽・柏・横・陽・ 池・国・肖・三・河 ) ーは ( な ) れて 池・肖・三 ) ーの給て 鵬 6 所がら人がら ( 証・穂・幽・柏・御・ 大・横・陽・池・肖・三・河・別 ) ー心から人 6 琴に ( 証・穂・幽・柏・大・横・楙・ 池・肖・三・河 ) ー御ことに から 8 かざしの花の ( 証・穂・幽・柏・横・ 記Ⅷ 7 御簾のつまづま ( 証・穂・幽・柏・御・ 楙・陽・△池・肖・三・河・別 ) ーかさしの 付横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーみすのつま 3 まうでたまひつつ ( 証・穂・幽・柏・ 訂Ⅲ 8 まかで ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 横・楙・陽・池・肖 ) ーまうて給 校池・国・肖・三・河・別 ) ーまかりて 2 思しめぐらす ( 証・穂・幽・大・横・ あれど ( 証・穂・柏・御・大・陽・国 ) ー 楙・陽・池・肖・河・別 ) ーおほしめくらす あれと侍従は Ⅲ 2 この文 ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 1 - 一と Ⅷたまひにしかば ( 穂・幽・柏・横・楙・ 陽・三・河・別 ) ー給ひしかは いとこちたきに ( 穂・幽・柏・横・楙・ 陽・池・三・河 ) ーこちたきに 5 かこちなし ( 証・穂・幽・柏・大・横・ 楙・陽・池・肖・三 ) ーか ( たり ) なし 刪 3 愛敬づき ( 穂・柏・横・楙・陽・池・ 三・河・別 ) ーあい行っきて 2 その方は ( 穂・柏・横・楙・陽・△池・ 肖・河 ) ーそのかた 0 1 あるは ( 証・穂・幽・柏・横・榊・陽・ 1 よ 1 池・肖・三・河・別 ) ーあらは 9 たまはんに ( 穂・幽・柏・横・楙・陽・ 池・肖・三・河 ) ー給に 石 3 11 11 この心 ( 穂・幽・△大・横・楙・池・肖・ 三 ) ーこのころ 6 はべりなまし ( 証・穂・幽・柏・大・ 横・陽・肖・三 ) ーはヘなまし 御ためは ( 証・穂・幽・柏・大・楙・ 陽・池・肖・三 ) ーためは 思しはつる ( 証・穂・幽・柏・横・楙・ 陽・池・肖・三・河 ) ーおほしはヘる 8 たぶれたるが ( 証・幽・柏・大・横・ 楙・陽・池・肖・三・河 ) ーたはふれたるか かろ 軽む ( 証・穂・幽・柏・大・横・陽・ 池・肖・三・河・別 ) ーかるむ 3 いと ( 穂・幽・柏・横・楙・陽・池・ 1 よ 1
横・陽・池・肖・三 ) ーことも 7 大将の ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 陽・国・肖・三・河 ) ー大将 語 7 思しつづけらるるに ( 証・穂・幽・ 物柏・御・横・陽・池・国・肖・三・河・別 ) ー 氏おほしつゝくるに たまはじ ( 証・穂・幽・柏・御・横・ 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ーたまふまし 8 ありけり ( 証・幽・御・横・陽・池・ 肖・三・河 ) ーありける 7 はるけで ( 穂・柏・御・横・陽・池・ 国・三・河 ) ーえはるけて たいめん 9 対面 ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 池・国・肖・三 ) ーたいめ 8 8 忍ぶべきことなれば ( 証・幽・柏・ 御・横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーしのふれ 図御身を ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 陽・池・国・肖・三・河 ) ー御身 たいめん 聞 4 対面 ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 池・国・肖・三 ) ーたいめ 聞 5 もて隠して ( 証・穂・幽・柏・御・大・ 横・陽・池・国・肖・三 ) ーもてかくしては 3 御心地 ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 池・国・肖・三・河・別 ) ー御心 たいめん 9 対面 ( 証・穂・柏・御・横・陽・池・三 ) ーたいめ 筋 ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・池・ 横・池・肖・別 ) ー見給へてしかは 国・肖・三・別 ) ーすちに 6 この母君は ( 穂・幽・柏・御・横・陽・ 1 みづからぞ ( 証・穂・幽・柏・御・横・ 池・国・肖・三・河 ) ーはゝ君は 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ー身なからそ 5 身をば ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 花御設けは ( 証・穂・幽・柏・御・横・ 池・肖・三・河 ) ーみ ( ひと / 、 ) をは みやづかへ 陽・池・国・肖・河 ) ー御まうけ 5 思ひてこそ、宮仕のほどにも、かた 1 したまふを ( 証・穂・幽・柏・御・横・ への人々をば思ひ消ち ( 証・穂・幽・柏・ 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ーし給 御・横・陽・池・国・肖・三・河 ) ー思ひにけ ち 4 しつらひて ( 証・穂・幽・柏・御・陽・ 国・肖・三・河 ) ーしつらひにて ことに人も ( 証・穂・幽・柏・御・横・ らくそん 落蹲の ( 証・幽・柏・御・横・陽・池・ 陽・池・国・肖・三・河 ) ーこと人も 国・肖・三・河・別 ) ーらくそん 4 ふるまふとは ( 証・穂・幽・柏・御・ 5 人々は ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーふるまふい 陽・国・肖・三・河・別 ) ー人 / 、 ( と ) 3 こともなくて ( 穂・幽・柏・御・横・ 5 衛門督の ( 証・幽・柏・御・横・陽・ 陽・池・国・肖・三・河 ) ーことなくて 池・国・肖・三・河 ) ー衛もんのかみ 4 心ざしをも ( 証・幽・柏・御・横・陽・ 圏 6 尼君に ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 池・国・肖・河・別 ) ー心さしも 池・国・肖・三・河・別 ) ーあまきみ 7 跡ある ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ あひ見たまふことも ( 証・穂・△幽・ 陽・池・国・肖・三・河 ) ーあとをある 柏・御・大・横・陽・池・国・肖・三・河 ) ー つけてかは ( 証・穂・幽・柏・御・大・ あひ給ことも 横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーっけイ、尾 ( か ) % 2 かね言なれど ( 証・穂・幽・柏・御・ 8 ことに変らず ( 証・穂・幽・柏・御・ 大・横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーかねこと ぐわんぶみ 横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーことかはらす % 9 御願文 ( 証・幽・柏・御・陽・国・肖・ 御勢ひも ( 証・穂・幽・柏・御・大・ 三・河 ) ーくわん ( ネカヒ ) ふみ 7 さかしらがり ( 証・幽・柏・横・陽・ 横・陽・池・国・肖・三・河 ) ー御いきほひ 8 見たまひてしかば ( 証・幽・柏・御・ 池・肖・三・河 ) ーさかし . らかり 、・ 0 イ 1
陽・池・国・肖・三・河 ) ーこのよのおばえ 9 こそは ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 陽・池・国・肖・三・河 ) ーこそ ー行 7 思しめし定めて ( 証・穂・幽・柏・横・ きさいみや 4 后の宮の ( 証・穂・幽・柏・御・△横・ 陽・池・国・肖・△三・河 ) ーおばしさためて 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ーきさいの宮 5 見え ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 陽・池・国・肖・三・河 ) ーみえす 遊び物 ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 国・肖・三 ) ー御あそひもの 8 まかせて ( 証・幽・柏・御・大・横・ 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ーまかせ Ⅱ御方にと渡し ( 証・穂・幽・柏・御・ 横・陽・池・肖・三・河・別 ) ー御かたにとり 買 5 御ささめき言ども ( 証・穂・幽・御・ わたし 大・横・陽・池・国・肖・三・河 ) ー御さゝめ キ、こと・も 3 聞こえかはさせ ( 証・幽・柏・御・陽・ 池・国・肖・三・河 ) ーきこえさせ 囲 7 聞こしめさする ( 柏・御・横・陽・池・ 4 聞こえ知らせさせ ( 穂・△幽・柏・御・ 国・肖・三・河 ) ーきこしめさる 横・陽・池・国・△三 ) ーきこえしらせ 四 1 ことども ( 証・穂・幽・柏・御・大・ 横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーことも 母女御 ( 証・穂・幽・柏・御・△横・陽・ 四 2 ことなり ( 証・穂・幽・柏・横・陽・ 池・国・肖・三・河 ) ー女御 4 心寄せ ( 証・幽・柏・御・横・陽・池・ 池・国・肖・三・河 ) ー事也り 国・肖・三・河・別 ) ー御心よせ 四 9 御事にも ( 証・穂・幽・柏・御・横・ よひと 8 世人 ( 証・穂・幽・柏・大・横・陽・ 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ーことにも 己池・国・肖・三・河・別 ) ーよのひと 2 ひとへに ( 幽・柏・横・陽・国・肖・ 三・河 ) ーひとつに 付 2 ことどもも ( 証・穂・△幽・御・横・ 訂陽・池・肖 ) ーことゝも いとほしくも ( 証・穂・幽・柏・御・ 校 8 のたまはするにかと ( 証・穂・幽・ 横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーいとをしく 柏・御・横・陽・池・国・肖・河 ) ーの給はす 8 こと ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 四るにと 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ーことは あやにしき 子のおばえ ( 証・摠・幽・柏・御・横・ 引 9 綾、錦は ( 穂・柏・御・横・陽・池・ 1 三ロ 11 1 明 ( 底本 ) ・証・穂・幽・柏・御・大 ・横・陽・池・国・肖・三・河・別 9 国・三・河 ) ーあやにしき その残りの ( 証・穂・幽・柏・御・横・ 陽・池・肖・三・河・別 ) ーそのゝこり 昭とりわきて ( 証・穂・幽・柏・御・横・ 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ーとりわき 御気色を ( 証・幽・柏・御・横・陽・ 池・国・肖・三・河・別 ) ー御けしき 聞 2 筋は ( 証・幽・柏・御・横・陽・池・ 国・肖・三・河 ) ーすちには 訂 5 とりわきて ( 証・穂・幽・柏・御・大・ 横・陽・池・国・肖・三・河 ) ーわきて 8 御定めなど ( 証・穂・幽・大・横・陽・ 国・肖・河 ) ー御さだめなむと さることやあるとも ( 証・穂・幽・ 柏・御・大・横・陽・国・肖・三・河・別 ) ー さることもやあるとも あるより ( 証・大・横・陽・国・河・ 別 ) ーある樗 . ( 世に ) 2 こそは ( 証・幽・柏・御・大・横・陽・ 池・肖・三・河・別 ) ーこそ 3 かくては ( 証・幽・柏・御・横・陽・ 池・国・肖・三・河 ) ーかくて さるは ( 証・穂・幽・柏・御・大・横・ 陽・池・国・肖・三・河・別 ) ーさるは 5 儀式 ( 証・穂・幽・柏・御・横・陽・ 池・国・肖・三・河・別 ) ー御きしき 2 ことども ( 証・穂・幽・柏・御・大・ 11 00 、 1 00
肖・三・河 ) ーナシ 6 人々の ( 証・幽・柏・横・陽・池・肖・ 三・河 )- ー人の 期御事に ( 穂・幽・柏・横・楙・陽・池・ 物肖・三・別 ) ー御ことを 氏 4 添ひゐたまひて ( 証・穂・幽・柏・横・ 源楙・陽・池・肖・三 ) ーそひゐて 期Ⅱ宮は ( 証・穂・幽・柏・横・楙・陽・ 池・肖・三・河・別 ) ー宮 1 なほ見たまふ ( 穂・幽・柏・△横・楙・ 陽・肖・三・河 ) ー見給ふ 2 かくなりぬると ( 証・穂・幽・柏・大・ 横・榊・陽・肖・三・河 ) ーなりぬると 5 こまやかに ( 証・穂・幽・柏・楙・陽・ 肖・三・河 ) ーこまかに 6 御名 ( 証・穂・大・横・陽・池・河 ) ー御 院に ( 証・穂・幽・柏・大・楙・陽・ 肖・河 ) ー院には しがく 1 よ「ー 試楽によりぞ ( 証・穂・幽・柏・大・ 楙・陽・肖・三 ) ーしかくによりそ ( て ) 1 ごとくも ( 穂・幽・柏・横・楙・陽・ 池・三・河 ) ーことく 7 え聞こえず ( 証・幽・柏・大・楙・陽・ 肖 ) ーきこえす がくそ Ⅱ楽所にして ( 証・穂・幽・柏・横・楙・ 陽・池・肖・三・河・別 ) ーかく所 ( ソ ) にて 218 1 なの 226 思うたまへつれ ( 証・柏・横・陽・池・ 肖・河 ) ーおもふ給つれ いとことわりなり ( 証・穂・幽・柏・ 大・△横 : 池・肖・三・河 ) ーいとことわり ゃうにそ ( 穂・幽・柏・横・楙・陽・ 池・肖・三・河 ) ーやうに -4
ぐうじ ことだが、そのとき、ここの池には蓮がたくさん茂ってい り消滅してしまったのだった。 て、その夜、雨が降り、のちに月夜になった、ということ話し好きの老人に別れを告げて、裏手に回っていくと、 が、彼等の作品によってよくわかるのである。この蓮池は見上げるばかりのすばらしい楠が若葉を茂らせていた。樹 のちのちまで、晶子たちの歌材になっている。ところが今齢千年を越すというのだから、『源氏物語』の時代には若 では蓮など全く見当らない。 木だったわけである。太い幹に食い込むようにして何があ なんくんしゃ あきんど はったっ お守札の札所で、老齢の神主さんにそれを尋ねてみると、る。「楠珸社」という。というより、大阪商人には「初辰 いなり 老人はうれしそうに、 きん」として知られるお稲荷さんである。このあたりには 「蓮池 ? ありましたとも。ようご存じで」 楠の大木が多く、楠や、そこに住む神使の巳 ( へび ) を信 と応えてくれた。 仰する人々も多いという。月参りのたびに、土製の招き猫 話によると、あの太鼓橋のある大きな池は、以前は一面を受けて、四年間つづけると満願成就の由である。ここの うらばんえ の蓮池だったとか。ところが、夏の盂蘭盆会のころになるおみくじが「歌占い」であるのも、いかにも住吉らしい たねかし と、近くの人々が、仏前に供えるためにこの蓮の葉を採り近くの「種貸社」は、もとは農耕儀礼に発して、今はお に押し寄せてくる。それは長いこと黙認されていたのだが、金を繁殖させるという商売繁盛の神様で、子授けの神様と 昭和十一年に、当時、官幣大社だったこの社に、カのあるしても信仰されている。このほか、お金を集める守護神 おおとし 宮司さんが配属されて来た。その宮司はなかなかやり手で「大歳社」、女性の芸事の神として人気のある弁天さんこと あさぎわ あったらしく、さびれていた住吉大社をすっかり建て直し「浅沢社」など、摂社・末社も数々あるが、いずれも大阪 た功労者なのだが、神域にあるものを、仏前に供えるためらしく商売繁盛に結びついているところがおもしろい に採るとはけしからぬ、といって、池の蓮をすっかり取り帰り、石階の上から鳥居越しに海の方角を眺めたが、海 去ってしまったのだそうである。大社にとっては功労者なの気配もない。今は海岸まですっかり遠くなってしまった のだろうが、風流心のない宮司さんである。おかげで住吉が、舟で直接この社の下まで漕ぎ寄せたとき、明石の御方 大社の蓮は、『明星』の歌に姿をとどめるだけで、すっかの目には松原の合間にちらちら見える華麗な社と、源氏の
ことにわかりにくい のどちらも納得のいく気がした。 みずがき 付近には私鉄が入り乱れていて、住吉、住吉大社、住之瑞籬をめぐらした神域には、縦に三つ、横に一つ、全部 そ第らつお うわ 江、住之江公園などの駅があり、ますますわからなくなつで四つの社が並んでいる。底筒男、中筒男、表筒男の三海 たかし た。大ざっぱにいうと、住之江、浜寺、高師の浜は、海岸神と、神功皇后の四柱である。神功皇后の朝鮮半島出兵に 線にひとつづきの砂の松原であったが、今はコンクリートカを貸したのが、この住吉大神であったという。 ひわだぶきいりもや にかためられた大臨港工業地帯になり、わずかに住之江公 ここの社はちょっと変った造りで、拝殿は檜皮葺入母屋 園、浜寺公園に松林が保存されている。土地の人に尋ねた形の白木造りなのだが、本殿はその後ろに密着した形で造 きりづま すみよっさん ら、住之江は海浜、住吉は、「住吉大社のことをいうんやられ、切妻形のかなり急勾配の屋根に、鋭い感じの千木、 かつおぎ ないやろか」。 堅魚木が飾られている。屋根は檜皮だが、白壁に朱塗りの けぎよ たるき あおさび 住吉大社駅に下車すると、すぐに大鳥居が目に入る。そ柱、青錆色の懸魚 ( 飾り金具 ) 、金色に塗ったの切り口が、 こに渡る大通りを、阪堺電軌というかわいらしい路面電車周囲の緑に映え合ってたいそう華やかに見える。拝殿の曲 がトコトコ走っている。夏のころは大きな波の模様が車体線と清浄、本殿のカづよい直線と華麗、その対比がおもし の腹に描かれたりして、なんとなく楽しい、古風な電車でろい。妻入り形、縦長のこの本殿は、「住吉造り」といわ ある。 れる古い建て方の由。 社殿の横にも静かな池があって、小形の亀がたくさん泳 鳥居をくぐり、絵馬殿を越えると、緑色の静かな池に、 そりはし いでいた。すつばんなのかも知れない。手を叩くと首を出 見上げるほどの朱塗りの大反橋が架かっている。すべりど めの横木がついているのだが、渡るのにかなり神経をつか して近寄ってくる。 . しようらい った。どこからともなく松籟が聴えてくる。ちょうど、海池をいくつか見て、気になったことがあった。明治時代、 おおとり のささやきのようで、たいそう快く、深遠な感じである。短歌に新しい気風をもちこんだ例の与謝野鉄幹が、鳳晶 住吉の神は、海の守護神であると同時に、歌の神さまとし子、山川登美子、中山梟庵と共に、この住吉大社に詣でた ても知られているが、松風の音のなかに立っていると、そことがある。鉄幹、晶子、登美子の恋のはじまりのころの
家後の独り身とはいえ、源氏との、恋の再燃の不都合さをぶれば信太の森の千重はものかは」 ( 出典未詳 ) を掲げる。 『源氏釈』などは他の歌を掲げるなど、古来諸説がある。 4 思っている。 たまも むらとり 9 乙 . ワ】 、・ 0 1 春の池の玉藻に遊ぶにほ鳥の足のいとなき恋も ・矼・ 3 群鳥の立ちにしわが名いまさらに事なしぶとも 語 ( 後撰・春中・七一一宮道高風 ) するかな ( 古今・恋三・六七四読人しらず ) しるしあらめや 物 うわさ 春の池の、玉のように美しい藻の間を泳ぎめぐっているにお 群鳥の羽ばたくように、私の噂がばっと立ってしまったが、 氏 源 鳥の、その足はせわしく動いている。私もまた同じように、 いまさら何もないような顔をしても、効果があるだろうか おばろづきょ 、こ苦しむことである。 心の余裕のない恋レ 前出 ( ↓行幸同四〇三ハー下段 ) 。物語では、朧月夜との再会を ちゅうちょ 願いながら躊躇してもいる源氏が、この歌に即して「立ち第一句から「にほ鳥の」まで序詞。「にほ鳥」は、水中に にしわが名、今さらに取り返したまふべきにや」と思い直長くもぐる習性を持つ。和歌でもその習性を連想させる例 が多い。物語では、源氏と朧月夜の再会する条に引かれた。 すところから、再会が決意されていく。なお、ここでの 「いとなき恋もするかな」の情感を底流させながら、物語 「わが名」とは、相手の朧月夜に即した言い方である。 しのだ くすのき いづみ は一気に恋の場面へと展開する。なお、もとの「にほ鳥」 ・ 4 和泉なる信太の森の楠の千枝にわかれて物をこ ( 古今六帖・第一一「森」 ) を、夫婦仲のよさを連想させる「鴛鴦」に替えて引いたと ころから、いよいよ恋の熱い情感をそそりたてる表現にな 和泉国にある信太の森の楠が、たくさんの枝に分れて生い立 っている。 っている。同じように、あなたを思う私の心も千々に乱れる ばかりである。 ・・ 6 今日のみと春を思はぬときだにも立っことやす ( 古今・春下・一三四凡河内躬恒 ) 第一句から「楠の」までが序詞。物語では、源氏が和泉前き花のかげかは 今日限りと春を惜しまぬ日でさえも、容易には立ち去りがた 司を案内人に仕立てて、朧月夜に強引に逢いに行こうとす い花の陰であるよ。まして春の果ての今日は、立ち去れるも る文脈に引かれた。和泉前司の案内を「この信太の森を道 のではない。 のしるべに」とする表現には機知的なおもしろさも含まれ 春の果てに詠まれた歌。物語では、朧月夜の君に再会した るが、下句の「千枝にわかれて・ : ーがひびいているだけに、 源氏が、執着のあまり立ち去りがたいとする表現。朧月夜 再会を直前に千々に乱れる源氏の動揺が暗示されている。 おうせ なお、『紫明抄』などでは「わが思ふことのしげさになら本人とはもちろん、過往の逢瀬を思い起させる藤の花のも そ思へ
さかであるのを、ぶつぶつお恨み申しあげている。 つけても、やはりひどくご心配で、六条院のほうにはかり 殿は、このように宮のご気分がすぐれない由をお聞きに そめにもお越しにはなれない。 なって、やっとお出ましになる。対の女君は、暑くうっと 姫宮は、あのあるまじき一件に心を痛められてこの方、 うしいからと、御髪をお洗いになり、多少すがすがしそう そのまま常日頃の様子とはお変りになって、ご気分がわる にしていらっしやる。横になったまま御髪をうち広げてお くていらっしやるけれども、そうたいしたご病状ではなく、 いでになると、そうすぐには乾かないけれど、いささかも 先月から何も召しあがらず、ひどく青ざめておやつれにな ひと っていらっしやる。他方、あの男は、どうにも思いに堪え癖をふくんだり乱れたりする毛筋もなく、まことに気高く ゆらゆらとして、お顔の色の、青みがかっておやつれにな かねる折々には、夢路を通うような思いで宮にお逢い申し っていらっしやるのが、かえって青白にかわいらしく感じ ていたのであったが、宮は、どこまでも無体なこととつら はだ られ、透きとおるように見える御肌の感じなどは、世にま くお思いになっている。院の殿をひどくこわがっていらっ かれん えもんのかみ たとないくらいの可憐なご様子である。もぬけた虫の殻か しやる宮のお気持では、衛門督の様子といい人柄といし どうして殿と同列に比べられようか、督の君はたいそうた何ぞのように、まだじつに頼りない感じでいらっしやる。 長年の間お住まいにならなかったために、多少荒れてしま しなみがあって優美な人であるから、世間の人の目には、 っているこの院の内は、はなはだしく手狭にさえ感じられ ありきたりの男にはぬきんでて評判も上々といえようけれ ども、お年若の時分からあれほどまたとなくご立派なお方る。昨日今日はこのようにご気分がはっきりしていらっし やりみずせんぎい 下 やる折なので、念入りにお手入れをなさった遣水や前栽の、 のお人柄に常々接していらっしやる宮のお心からは、ただ にわかに気持も晴れ晴れするような景色をお眺めになるに 心外な者とのみ見ておいでになるが、そこへもってきて、 若 つけても、ああよくそ今まで命を持ちこたえてきたものよ こうしたご不例とて苦しみ続けていらっしやるとは、悲し めのと とお思いになる。 くいたわしい御宿世というものではあった。乳母たちがご 池はいかにも涼しそうで、蓮の花が一面に咲いており、 懐妊と気づいて、院の殿のお越しになるのもほんとにたま はす
源氏物語 62 かく渡りおはしましたるよし、ささめき聞こゆれば、驚きたまひて、尚侍「あ一中納言の君 ( 和泉前司の妹 ) が ニ和泉前司が源氏にどう返事を。 やしく。 三相手 ( 源氏 ) に気を持たすよう いかやうに聞こえたるにか」とむつかりたまへど、和泉守「をかしやか な扱いをしてお帰し申すのは。 にて帰したてまつらむに、 いと便なうはべらむ」とて、あながちに思ひめぐら四朧月夜へのお見舞などを。 ひ寺一ーレ 五廂と母屋の境までと誘い出す。 四 五 六朧月夜のため息まじりの挙措 して入れたてまつる。御とぶらひなど聞こえたまひて、源氏「ただここもとに。 びたい が、源氏には媚態とも映る。 物越しにても。さらに昔のあるまじき心などは、残らすなりにけるを」とわりセ源氏の心中。朧月夜の靡きや すさを昔に変らぬと、情をそそら 六 なく聞こえたまへよ、 。いたく嘆く嘆くゐざり出でたまへり。さればよ、なほけれる一方では、冷静に非難もする。 〈よく知り合った同士が、その ぢか 近さは、とかっ思さる。かたみにおばろけならぬ御みじろきなれば、あはれも身動きの気配から相手の姿態を想 九 像し、互いに情をそそられる。 ひむがしたい かた . ひさしす み一うじ 少なからす。東の対なりけり。辰巳の方の廂に据ゑたてまつりて、御障子のし九昔、藤花の宴の行われた所 ↓花宴②九〇ハー。 一 0 東南の方の廂の間に源氏を。 りは固めたれば、源氏「いと若やかなる心地もするかな。年月の積もりをも、 ふすま = 廂と母屋の間の襖。その襖を かぞ まぎれなく数へらるる、いならひに、かくおばめかしきは、いみじうつらくこ細く開け、下部にだけ掛金をした。 三若者扱いされる感じ。好色者 を用心する態度だと非難する気持。 そ」と恨みきこえたまふ。 一三逢わすに過した年月を正確に ふ たまも 夜いたく更けゆく。玉藻に遊ぶ鴛鴦の声々など、あはれに聞こえて、しめじ数えうる。自らの恋の証をいう。 一四知らぬふりの他人行儀は。 、っち 一五「春の池の玉藻に遊ぶにほ鳥 めと人目少なき宮の内のありさまも、さも移りゆく世かなと思しつづくるに、 の足のいとなき恋もするかな」 ( 後 へいぢゅう 平中がまねならねど、まことに涙もろになむ。昔に変りておとなおとなしくは撰・春中宮道高風 ) 。夫婦仲のよ 一ハ びん たつみ すき
275 若菜上 そん 蹲が舞い出た有様は、何といっても常にはめったに見られ通って池の堤の上を行くのを遠目に見ると、あの千年の寿 け′一ろも ない舞のさまなので、舞い終る時分に、権中納言と衛門督命を保ってあそぶ鶴の毛衣につい見まごうばかりである。 あや とが庭に下り立ち、入り綾を少しばかり舞って紅葉の陰に管絃のお遊びが始まって、これまたまことに楽しくうきう きした感じである。数々のお琴の類は、東宮の御もとから 姿を消してしまった、そのあとまで人々は名残の尽きぬ思 おととのえあそばされたのだった。朱雀院からお譲りのあ いで興趣を味わっていらっしやる。昔の朱雀院への行幸の そう びわ せ、力しー った琵琶、琴、帝より御下賜にあずかった箏のお琴など、 折に、青海波の舞のおみごとであったタベの情景をお思い どれもみな昔の思い出される音色であり、殿は、久しぶり 出しになる人々は、権中納言と衛門督とが父君たちにやは に合奏なさっていらっしやると、どの折この折の昔の故院 り劣らず立派に跡をお継ぎになって、父子二代にわたる信 の御有様や、宮中でのご生活などがお思い出されすにはい 望や地位、それに容姿や態度などもけっして負けをとるこ らっしゃれない。故入道の宮がもしご在世でいらっしやっ となく、むしろ官位はあの当時の父君たちよりも少し高く たら、このような御賀などには、懸命に奉仕させていただ さえ進んでおられることなどを、お年のかげんまで数えて、 いたであろうものを、この自分の深い気持を何一つごらん やはりこうなるべき前世の因縁で、昔からこのように立派 いただいたことがあったであろうか、まったくそうした機 な方々が代々あい並ぶご両家の御仲だったのだ、と感嘆し 会もなかったと、ただただ恨めしく残念にお思い出し申さ ている。主の院の殿も、胸がせまり涙ぐまれるお気持にな れる。 って、ついあれこれと昔をお思い出しにならずにはいらっ 帝におかせられても、故宮のご存命であられぬことを、 しゃれない。 夜になって、楽人たちは退出する。北の政所の別当たち万事はりあいなく物足りなくおばしめされるので、せめて この院の殿の御事なりとも、きまった作法どおりの父子の が、召使たちを引き連れ、禄のはいった唐櫃の側に寄って、 礼を尽してごらんに入れたいとおばしめされるが、そうお 一つずっ取り出して、次々と楽人たちにお与えになる。禄 できにならないのを常に物足りなくお感じになる、それに の白い衣装をいくつかそれそれ肩にかけて、築山のそばを まんどころべっとう からびつ な′ ) り ひ つきやま