つるに、物におそはるるかとせめて見開けたまへれば、あらぬ人なりけり。あ宅宮の、柏木への反応に即した 叙述。「聞こゆる」の主語は柏木。 天宮の動転するさまを捉える叙 やしく聞きも知らぬことどもをそ聞こゆるや。あさましくむくつけくなりて、 述を、柏木の感動で閉じる。 人召せど、近くもさぶらはねば、聞きつけて参るもなし。わななきたまふさま、一九柏木が宮を思う時、わが身の 低さが常に念頭にある。婿選びに もそれゆえに外れ、前の小侍従に 水のやうに汗も流れて、ものもおばえたまはぬ気色、いとあはれにらうたげな もその点で指弾された。 り。柏木「数ならねど、いとか , っしも田心しめき、るべき身とは、田ったまへられニ 0 自分自身には、あなた ( 宮 ) か ら厭われる身とも思われぬ、の意。 ずなむ。昔よりおほけなき心のはべりしを、ひたぶるに籠めてやみはべりなまニ一一途に秘めたままにしておい たのなら。「・ : ましかば・ : ぬべか うちくた りけるを」で、反実仮想の構文。 しかば、心の中に朽して過ぎぬべかりけるを、なかなか漏らし聞こえさせて、 一三なまじ意中を漏して。女三の 院にも聞こしめされにしを、こよなくもて離れてものたまはせざりけるに、頼宮に求婚したことをいう。 ニ三朱雀院も承知のこととして、 みをかけそめはべりて、身の数ならぬ一際に、人より深き心ざしをむなしくな宮の心を落ち着かせようとする。 ニ四自分が源氏より、身分が一段 しはべりぬることと動かしはべりにし、いなむ、よろづムフはかひなきことと思 , っ劣っているだけのことで。 一宝どれほど私に深く取りついて しまったか。↓一七三ハー一二行。 下たまへ返せど、いかばかりしみはべりにけるにか、年月にそへて、口惜しく ニ六心情語の重畳に注意。柏木の も、つらくも、むくつけくも、あはれにも、いろいろに深く思うたまへまさる長年にわたる切実で複雑な心情。 若 毛一面の自己反省。こうした言 い方で、相手の宮を説得。 にせきかねて、かくおほけなきさまを御覧ぜられぬるも、かつはいと思ひやり 夭不義の過失は犯すまい ニ九 なく恥づかしければ、罪重き心もさらにはべるまじ」と言ひもてゆくに、このニ九相手が柏木だった、と分る。 ニ 0 ニ四 ひときは 一八 ニ七 一セ
29 若菜上 ( 現代語訳二四四ハー ) とう・ぐ - っ 春宮にも、かかることども聞こしめして、「さし当たりたるただ今のことよ一九皇女降嫁という問題は。以下 の慎重論は父院と対照的。皇女独 のちょ りも、後の世の例ともなるべきことなるを、よく思しめしめぐらすべきことな身の考え方も作用していよう。 ニ 0 臣下はしよせん臣下だから。 ひとがら り。人柄よろしとても、ただ人は限りあるを、なほ、しか思し立っことならば、 = 一結婚をと決心なさるならば。 一三「 : ・こそ・ : め」は、勧誘の語法。 せう かの六条院にこそ、親ざまに譲りきこえさせたまはめ」となん、わざとの御消源氏への降嫁を勧める。「親ざま」 とあり、後見の役割を強調。 ニ四 そこ 息とはあらねど、御気色ありけるを、待ち聞かせたまひても、朱雀院「げにさるニ三押しつけがましくない勧言。 ニ四待望の気持で聞く意。 一宝東宮の意見に納得し、躊躇す いよいよ御心だたせたまひて、 ことなり。いとよく思しのたまはせたり」と、 る気持を振り切って決意。 あない 兵とりあえず、朱雀院の意向を。 まづかの弁してぞかつがっ案内伝へきこえさせたまひける。 0 婿がね候補が具体的に検討され るが、すべての条件にそぐわない。 この宮の御事、かく思しわづらふさまは、さきざきもみな 〔〈〕源氏、朱雀院の内 それが否定的な媒介となり、逆に 意を伝えられ辞退する 光源氏こそ最適と思わせる。さら 聞きおきたまへれば、源氏「心苦しき御事にもあなるかな。 に東宮の勧言が加わり、朱雀院は おく ニ七 いよいよ源氏降嫁の意を固めた。 さはありとも、院の御代の残り少なしとて、ここにはまたいくばく立ち後れた 毛私としても、どれほど長く院 てまつるべしとてか、その御後見のことをば承けとりきこえむ。げに次第をあの後に生き残れるとも思えない。 朱雀院四十二歳、源氏三十九歳。 やまたぬにて、いましばしのほども残りとまる限りあらば、おほかたにつけてニ ^ 兄弟の年齢の順序。 ニ九ただ叔父と姪の関係だけでも。 は、いづれの皇女たちをも、よそに聞き放ちたてまつるべきにもあらねど、ま三 0 朱雀院の皇女四人のいずれも。 三一朱雀院の特に心配なさると伺 ったお方、女三の宮については。 たかくとりわきて聞きおきたてまつりてむをば、ことにこそは後見きこえめと 三 0 ためし ニ六 ニ 0 ニ九 ニ五
よ。見しほどに入りたまひしかば、ふともえ起きあがらでさしはさみしを、忘一六源氏が入っていかれたのは、 それからしばらくしてからなのに。 れにけり」とのたまふに、、 しと聞こえむ方なし。寄りて見ればいづくのかはあ宅前の「・ : だに : ・」の文脈を受け、 ましてあなたは。宮への非難の弁。 はばか しいえ、それが。以下、手紙 らむ。小侍従「あないみじ。かの君もいといたく怖ぢ憚りて、けしきにても漏り天 を隠す余裕のあるなしに終始する 聞かせたまふことあらばとかしこまりきこえたまひしものを。ほどだに経ず、弁解。特に「忘れにけり」には、小 侍従も応ずる言葉さえ知らない。 かかることの出でまうで来るよ。すべていはけなき御ありさまにて、人にも見一九小侍従は念のため手紙を搜す。 ニ 0 柏木。密会直後から源氏を極 えさせたまひければ、年ごろさばかり忘れがたく、恨み言ひわたりたまひしか度に恐懼 ( 一八三ハー末 ) 。それが日 ごろ小侍従にも伝わっていたろう。 た 三あっけない露顕、の気持。 ど、かくまで思うたまへし御事かは。誰が御ためにもいとほしくはべるべきこ 一三以下、宮への無遠慮な批判 な ニ三蹴鞠の折にはじめて柏木に姿 と」と憚りもなく聞こゅ。心やすく若くおはすれば、馴れきこえたるなめり。 を見られ、以来六年余が経過。 答へもしたまはで、ただ泣きにのみぞ泣きたまふ。いとなやましげにて、つゆ = 四私に手引を頼んで恨み言を言 い続けてきたが、すぐにこんな仲 になるとはってもみなかった。 ばかりの物も聞こしめさねば、「かくなやましくせさせたまふを、見おきたて 一宝小侍従は宮の乳母子でもある。 下まつりたまひて、今は、おこたりはてたまひにたる御あっかひに、心を入れた = 六前ハ ' 一〇@涙の : ・」に照応。 毛以下、事情を知らぬ女房の評。 病身の宮を放っておく源氏を非難 まへること」とつらく思ひ言ふ。 若 夭回復した紫の上のお世話に。 おとど ふみニ九 大殿は、この文のなほあやしく思さるれば、人見ぬ方にて、ニ九柏木の筆跡とはまだ半信半疑。 〔三ニ〕源氏、密通の事情 三 0 「中納言」は柏木。女房らが を知り、思案憂悶する うち返しつつ見たまふ。さぶらふ人々の中に、かの中納一言彼をまねて戯れ書いたかとする。 ニ七 お ニ四 三 0
源氏物語 24 朱雀院「しか思ひたどるによりなむ。皇女たちの世づきたる一決断しがたい、を補い読む。 〔六〕朱雀院、女三の宮 ニ皇女たちが結婚しているのは。 の婿選びに苦慮する ありさまは、うたてあはあはしきゃうにもあり、また高き皇女の独身を主張。↓二一ハー五行。 三女は結婚して、悔まれること きは も、腹立たしい思いも起るもの。 際といへども、女は男に見ゆるにつけてこそ、悔しげなることも、めざましき ふびん 四一方では不憫で迷い悩むが。 五 思ひもおのづからうちまじるわざなめれと、かつは心苦しく思ひ乱るるを、ま五以下、前言から翻って、皇女 の独身暮しの危うさをいう。 おく のちセ たさるべき人に立ち後れて、頼む蔭どもに別れぬる後、心を立てて世の中に過六後見すべき親などに死別して。 セ自分の意思どおりに。独身を ぐさむことも、丑日は人の心たひらかにて、世にゆるさるまじきほどのことをば、押し通すことを暗にいう。 〈「昔」「今の世」の対比。末の 思ひ及ばぬものとならひたりけむ、今の世には、すきずきしく乱りがはしきこ世の今は皇族も生きづらいとする。 九皇女への臣下の懸想は高嶺の きのふ とも、類にふれて聞こゅめりかし。昨日まで高き親の家にあがめられかしづか花と諦めたものだったが、の気持。 一 0 縁につながる者を通じて。 くだ きは = 以下、高貴な女が不幸な結婚 れし人のむすめの、今日はなほなほしく下れる際のすき者どもに名を立ちあざ で、自らをも家門をも汚す具体例。 おもて はづかし むかれて、亡き親の面を伏せ、影を辱むるたぐひ多く聞こゆる、言ひもてゆけ三独身を通すのも結婚するのも、 前途が不安な点で同様、とする。 ば、みな同じことなり。ほどほどにつけて、宿世などいふなることは知りがた一三それそれの身分に応して。 一四よかれあしかれ、親兄弟のよ うな人が指図しておいたとおりに。 きわざなれば、よろづにうしろめたくなん。すべてあしくもよくも、さるべき 一五当人の過失にはならない。親 すくせ のちょ 人の心にゆるしおきたるままにて世の中を過ぐすは、宿世宿世にて、後の世にの失策か運命のせいか、となろう。 一六以下、前文から翻って、結末 あやま がよければ親兄弟の指図に従わな 衰へある時も、みづからの過ちにはならず。あり経てこよなき幸ひあり、めや ( 現代語訳二四一ハー ) な
こと つまおと 箏の琴は、女御の御爪音は、、 しとらうたげになっかしく、母君の御けはひ加一前の合奏での女御の演奏。 ↓一四四ハー注一 0 。 はりて、揺の音深く、いみじく澄みて聞こえつるを、この御手づかひは、また、三この場での、紫の上の演奏。 語 四気もそぞろになるほどの魅力。 物さま変りて、ゆるるかにおもしろく、聞く人ただならず、すずろはしきまで愛五末詳。今日の箏の奏法の一つ、 われん 輪連に近いとも。 ことね 源敬づき、輪の手など、すべて、さらこ、、 六次に「律」とあり、呂から律に ししとかどある御琴の音なり。返り声に、 変った。前の「葛城」は呂の曲 りちか きん みな調べ変りて、律の掻き合はせども、なっかしくいまめきたるに、琴は、五セ調絃後に弾く小曲。それぞれ の楽器がこれを弾く。 なか 箇の調べ、あまたの手の中に、心とどめてかならず弾きたまふべき五六の撥を、 ^ 女三の宮の演奏。 かいでかたたりすいう 九『河海抄』に掻手・片垂・水宇 びようそうがいはがんめい いとおもしろくすまして弾きたまふ、さらにかたほならず、いとよく澄みて聞瓶・蒼海波・雁鳴の五つを掲げる が、具体的には不明。 こゅ。春秋よろづの物に通へる調べにて、通はしわたしつつ弾きたまふ心しら一 0 五絃・六絃を掻爪 ( 撥 ) で手前 に掻くことか。未詳。 たが ひ、教へきこえたまふさま違へず、いとよくわきまへたまへるを、いとうつく = けっして未熟でなく。 三前の「四季につけて変るべき しく面だたしく思ひきこえたまふ。 響き : ・」 ( 一四四ハー一〇行 ) に照応。 一三鬚黒の三男と、タ霧の長男。 この君たちのいとうつくしく吹きたてて、切に心入れたる一四「耳疾し」。耳ざとい意。 三一〕女楽終り、タ霧ら 一五思いやりのないことをした。 禄を賜り帰途につく を、らうたがりたまひて、源氏「ねぶたくなりにたらむに。 一六鬚黒の三男。この時十歳。 宅タ霧の長男。前者より年下。 、一よひ 今宵の遊びは長くはあらで、はつかなるほどにと思ひつるを、とどめがたき物天紫の上からであろう。 一九女三の宮。 ニ 0 師匠の私を第一に扱ってほし の音どもの、いづれともなきを、聞きわくほどの耳とからぬたどたどしさに、 か さう おも りん せち
びやうぎ 一源氏は、柏木ら大勢が弔問し かく、これかれ参りたまへるよし聞こしめして、源氏「重き病者のにはかに たことを、タ霧を通じて知ったか。 ニ自分自身もじっと落ち着けず。 とぢめつるさまなりつるを、女房などは心もえをさめず、乱りがはしく騒ぎは 語 直接返礼できないことの言い訳。 物べりけるに、みづからも、えのどめず心あわたたしきほどにてなむ。ことさら三後日あらためて。 氏 四罪の意識で源氏に接する思い 源になむ、かくものしたまへるよろこびは聞こゅべき」とのたまへり。督の君は = の。びきならぬ事情でもなけ れば源氏のもとには参上できない、 胸つぶれて、かかるをりのらうろうならずはえ参るまじく、けはひ恥づかしくの意。「らうろう」は「牢籠」か 六柏木のうしろめたい秘め事へ 思ふも、心の中そ腹ぎたなかりける。 の、語り手の評言。 セ御息所は生前でさえ生霊にな のち かく、生き出でたまひての後しも、恐ろしく思して、またまたいみじき法どるような無気味なお人柄だったが。 ^ かって御息所の物の怪を「心 おこな もを尽くして加へ行はせたまふ。うっし人にてだに、むくつけかりし人の御け憂し」と感じ道心を抱くようにも なった ( 葵一一三・ ハー ) 。心底に沈んでいたその はひの、まして世かはり、あやしきもののさまになりたまへらむを思しやるに、 思いが、あらためて掘り起される。 いと心憂ければ、中宮をあっかひきこえたまふさへぞ、このをりはものうく、 九女の身はみな、深い罪障を作 る根源。『河海抄』は『涅槃経』の 「女人ハ地獄ノ使ニテ、能ク仏ノ 言ひもてゆけば、女の身はみな同じ罪深きもとゐぞかしと、なべての世の中い 種子ヲ断ツ。外面ハ菩薩ノ如ク、 むつものがたり とはしく、かの、また、人も聞かざりし御仲の睦物語にすこし語り出でたまへ内心ハ夜叉ノ如シ」を掲げる。 一 0 「世の中」は直接には男女の仲 りしことを一言ひ出でたりしに、まことと思し出づるに、し 一一源氏の紫の上への回想談。 、とわづらはしく思さ 一ニ物の怪を御息所の死霊と確認。 る。 一三これまで源氏は紫の上の出家 、 ) ころう 六 五 ほふ
おまへ 前の「大将」とは異なり、家庭 れたてまつりたまひにしかば、ゆるるかにも弾きとりたまはで、男君の御前に 内の夫婦関係を強調した呼称。 おうよう ては、恥ぢてさらに弾きたまはず、何ごともただおいらかにうちおほどきたるニ万事ただおっとりと鷹揚に構 える意。日常性に埋没した状態。 語 いとま 物さまして、子どもあっかひを暇なく次々したまへば、をかしきところもなくお三二人の間には子供が多い。 氏 四何の感興もわかない気持。 源ばゅ。さすがに、腹あしくてものねたみうちしたる、愛敬づきてうつくしき人 = 妻の嫉妬だけがわずかに感情 を新鮮にしてくれるという関係。 六東の対の寝所に ざまにぞものしたまふめる。 セ紫の上は女宮の話相手に残る。 院は、対へ渡りたまひぬ。上は、とまりたまひて、宮に御 ^ 細かなところまで上達した意。 〔一三〕源氏、紫の上と語 九源氏の特別指導を受ける以前 りわが半生を述懐する ただし、紫の上が女宮の琴を聞い 物語など聞こえたまひて、暁にそ渡りたまへる。日高うな たことは物語に見えない。 おほとのごも と , つるさくなりにけりな。いか一 0 どんなものかと危ぶまれたが。 るまで大殿籠れり。源氏「宮の御琴の音は、し 一一あなた ( 源氏 ) があんなに指導 九 に専心したのだから、上達するは が聞きたまひしーと聞こえたまへば、紫の上「はじめつ方、あなたにてほの聞き ずで、の意。自分が源氏に顧みら しはいかにぞやありしを、いとこよなくなりにけり。、、。ゝ しカてカは、かく他事なれなかった不満もひそむ言い方。 三あなたの言われるとおり。 く教へきこえたまはむには」と答へきこえたまふ。源氏「さかし。手を取る取一三頼りになる師匠というもの。 一四紫の上、女御、明石の君など。 る、おばっかなからぬ物の師なりかし。これかれにも、うるさくわづらはしく一五朱雀院や帝の思惑 ( 一四四ハー ) を受けて、女宮にだけ習わせた理 きん て暇いるわざなれば、教へたてまつらぬを、院にも内裏にも、琴はさりとも習由を言う。先まわりした弁解 一六「さりとも」を繰り返し、院や はしきこゆらんとのたまふと聞くがいとほしく、さりともさばかりのことをだ帝への思惑から女宮を特別に教え いとま 六 あいぎゃう 四 ・一と ) ) と
めのと のむすめなりけり、その乳母の姉そ、かの督の君の御乳母なりければ、早くよ一中納言昇進後も衛門督を兼任。 じっこん ニ小侍従との昵懇は女三の宮に りけ近く聞きたてまつりて、まだ宮幼くおはしましし時より、いときよらにな結婚問題が生じて以来 ( 若菜上一 うわさ 〇七ハー六行 ) 。女宮の幼少時の噂 語 は乳母を通じて知っていたらしい 物むおはします、帝のかしづきたてまつりたまふさまなど、聞きおきたてまつり 三「 : ・おはします」は、次の「帝 の : ・たまふ」と並列。美貌ととも 源て、かかる思ひもっきそめたるなりけり。 、帝最愛の姫宮である点に注意。 四 かくて、院も離れおはしますほど、人目少なくしめやかならむを推しはかりその恋慕は彼の権勢志向に始まる。 四紫の上の病気で、院 ( 源氏 ) を こじじゅう五 はじめ大勢が二条院に移っている。 て、小侍従を迎へとりつつ、いみじう語らふ。柏木「昔より、かく命もたふま 五柏木が、自邸に呼んだ。 じく思ふことを、かかる親しきょすがありて、御ありさまを聞き伝へ、たへぬ六手づる。小侍従のこと。 セ女三の宮の。 心のほどをも聞こしめさせて頼もしきに、さらにそのしるしのなければ、いみ ^ 前 ( 第命も : ・」を重層的に強調。 九宮にお聞きいただいて。 じくなむつらき。院の上だに、かくあまたにかけかけしくて、人に圧されたま一 0 返書などもなく一方的な恋慕。 = 片恋ゆえの恨めしさをいう。 おはとの′」もよ ふやうにて、独り大殿籠る夜な夜な多く、つれづれにて過ぐしたまふなりなど三父朱雀院でさえ。二行售 : ・ 悔い思したる : ・」に続く。 人の奏しけるついでにも、すこし悔い思したる御気色にて、同じくは、ただ人一三以下、院へのある人の報告。 源氏が大勢の女に情をかけていて。 うしろみ の心やすき後見を定めむには、まめやかに仕うまつるべき人をこそ定むべかり一四暗に紫の上をいう。世人のこ の噂は若菜上一〇七ハーにもあった。 すゑ けれとのたまはせて、女二の宮のなかなかうしろやすく、行く末長きさまにて一五以下、朱雀院の言葉。どうせ 同じく臣下の者の安心できる婿を ものしたまふなることとのたまはせけるを伝へ聞きしに、、とほしくも口惜し決めるというのであれば。 みかど 六 かむ けしき ゅ お
宮もうちはヘて、ものをつつましく、いとほしとのみ思し嘆くけにゃあらむ、一三「思ひ起こして」に照応。源氏 への恐懼から病がちの日々が続く。 こ・一ろう しと苦しげにおはしませば、院は、心憂しと思ひ一四女三の宮も、あれからずっと。 月多く重なりたまふままに、、 前述の柏木と照応。病悩の日常。 きこえたまふ方こそあれ、いとらうたげにあえかなるさまして、かくなやみわ一五ただつらいとばかり。 一六懐妊の月数が重なるにつれて。 しのり たりたまふを、いかにおはせむと嘆かしくて、さまざまに思し嘆く。御祈檮な宅前に不義を知 0 た源氏は、繰 り返し「心憂し」と憤慨した。 ではさらに、宮の痛々しいか弱さ ど、今年は、紛れ多くて過ぐしたまふ。 をいとおしむ気持も加わる。 みやま 御山にも聞こしめして、らうたく恋しと思ひきこえたまふ。月ごろかくほか天朱雀院も、宮懐妊の事実を。 一九源氏が二条院の紫の上に付き きりで、宮を顧みないでいたこと。 ほかにて、渡りたまふこともをさをさなきゃうに人の奏しければ、、かなるに ニ 0 宮の懐妊に不審を抱く。 かと御胸つぶれて、世の中も今さらに恨めしく思して、対の方のわづらひける = 一出家の身には無縁の夫婦の問 題で、今さらながら恨めしく思う。 一三源氏がその看病で、と聞いて ころは、なほ、そのあっかひにと聞こしめしてだに、なま安からざりしを、 ニ四 さえ心穏やかでなかったのに。 びん ニ三のち 「その後なほりがたくものしたまふらむは、そのころほひ便なきことや出で来 = 三その後も源氏の態度がもとど おりになりがたいのは。 ニ六うしろみ ニ四宮に不都合な事件が起ったか。 下たりけむ。みづから知りたまふことならねど、よからぬ御後見どもの心にて、 一宝宮自身に責任がなくとも。 ニ六女房などの世話役。 いかなることかありけむ。内裏わたりなどのみやびをかはすべき仲らひなどに 毛前に源氏も、后たちの不義を 若 思った。↓二〇二ハー一三行。 も、けしからずうきこと言ひ出づるたぐひも聞こゆかしとさへ思しよるも、 ニ〈八 ~ 今さらに : ・」に近い末練 こまやかなること思し棄ててし世なれど、なほこの道は離れがたくて、宮に若菜上一五ハ ' 注 = 一の歌による。 一六 ニセ かた ニ 0
源氏物語 一若い者同士ではないので、人 さまに常に聞こえたまふ。若々しかるべき御あはひならねば、御返りも時々に 目に怪しいと疑われる心配もない。 ぐ つけて聞こえかはしたまふ。昔よりもこよなくうち具し、ととのひはてにたる = 朧月夜が昔に比べて格段に何 もかもそなわり、円熟しきった、 御けはひを見たまふにも、なほ忍びがたくて、昔の中納言の君のもとにも、心その人柄のしのばれる手紙を。 三朧月夜づきの女房。かって源 深きことどもを常にのたまふ。 氏を手引↓賢木一六四ハー注一一。 四中納言の君の兄。和泉守は従 四 いづみのさきのかみ かの人のせうとなる和泉前司を召し寄せて、若々しくし冫 、こしへに返りて語ら六位下相当。現在は散位か。 五「いかにしてかく思ふてふこ ひたまふ。源氏「人づてならで、物越しに聞こえ知らすべきことなむある。さ とをだに人づてならで君に語ら む」 ( 後撰・恋五藤原敦忠 ) 。障子 あり すだれ りぬべく聞こえなびかして、いみじく忍びて参らむ。今はさやうの歩きもとこや簾で隔ててでも直接話をしたい。 六申しあげご承知願ったうえで。 ろせき身のほどに、おばろけならず忍ぶべきことなれば、そこにもまた人にはセ准太上天皇の窮屈な身分。 ^ 並々ならず秘密のことだから。 漏らしたまはじと思ふに、かたみにうしろやすくなむ」とのたまふ。 九互いに安心。裏に、無事遂行 してくれれば、あなたの国守就任 かむ 尚侍の君、「いでや。世の中を思ひ知るにつけても、昔よりつらき御心をこを斡旋しよう、の意が含まれるか。 一 0 源氏の意向が、和泉前司↓中 こら思ひつめつる年ごろのはてに、あはれに悲しき御事をさしおきて、いかな納言の君↓朧月夜と伝えられた。 = 源氏の薄情なお心を幾度も味 むかしがたり る昔語をか聞こえむ。げに人は漏り聞かぬゃうありとも、心の問はむこそいとわわされてきた長の年月の果てに。 三朱雀院の出家をさす。 恥づかしかるべけれ」とうち嘆きたまひつつ、なほさらにあるまじきよしをの一三「無き名ぞと人には言ひてあ りぬべし心のまま、 尸。。しかか答へ み聞こゅ。 む」 ( 後撰・恋三読人しらず ) 。 キ一んに