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検索対象: 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)
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1. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

( 現代語訳一九四ハー ) 一四正しくは「大殿油」 ( 宮中や貴 人の家の灯油のあかり ) 。 三この「まゐる」は謙譲語から転 じた尊敬語。おともしになって。 一六女御の所へ。 宅父大臣。 一〈寺に使者を遣わして僧に読経 させること。なお「誦経」は誦経に 対しての布施をもいうが、ここで は一応原義とみてよいであろう。 一九多くの寺々に。 ニ 0 風流でしみじみと趣深い 二一生ひさきなく、まめやかに ニ一つまらぬ者。 一三こちら ( 中宮の所 ) に伺うのを。 お ニ三 しふせくニ三幸いに見えて実は本当の幸い 生ひさきなく、まめやかに、えせざいはひなど見てゐたらむ人は、 : ではないもの。 ニ六 ニ七 あなづらはしく思ひやられて、なほ、さりぬべからむ人のむすめなどは、さし = 四「ゐる」は座る意。安住する。 一うっとうしく。 まじらはせ、世ノ中のありさまも見せならはさまほしう、内侍などにてもしば = 六自然推量されて。 毛宮仕えをさせ。 ないしのつかさ ないしのかみないしのすけ しあらせばやとこそおばゆれ。 ニへ内侍司の女官 ( 尚侍・典侍・ ないしのじよう 段 掌侍 ) の総称。 みやづか 「宮仕へする人は、あはあはし」など、わろき事に思ひ言ひたる男こそ、いと元「をとめ」に対する語。「をと」 は「をつ」 ( 若返る ) と同源。「若い 第 三 0 かんだちめてん にくけれ。さる事ぞかし。ょにかしこき御前をはじめたてまつり、上達部、殿男性」が原義。中古では男性一般。 あわあわ 三 0 他人に顔を見られる点で淡々 3 じゃうびと 上人、四位、五位、六位、女房さらにもいはず、見ぬ人はすくなくこそはあらしいと思われるのは、もっともだ。 まき めでさせたまひ、「いかでさおほくよませたまひけむ。われは三巻四巻だにも、 えよみ果てじーと仰せらる。「昔は、えせ者も、すきをかしうこそありけれ。 さぶら このごろ、かやうなる事やは聞ゆる」など、御前に候ふ人々、うへの女房のこ なたゆるされたるなどまゐりて、口々言ひ出でなどしたるほどは、まことに思 ふ事なくこそおばゆれ。 ニ四 い ^ ニ九 をと、】

2. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

ただたかさねふさ 一三話によると、どうも・ : ようだ。 「忠隆、実房なむ打つ」と言へば、制しにやるほどこ、 しからうじて鳴きやみぬ。 かど 「死にければ、門のほかに引き捨てつ」と言へば、あはれがりなどするタつか一四藤原実房。蔵人。 一五「わびしは、悲しさに気落ち している状態をいう語。 た、いみじげに腫れ、あさましげなる犬の、わびしげなるが、わななきありけ 一六「やは」は反語であろう。 ば、「あはれ、翁まろか。かかる犬やはこのごろは見ゆる」など言ふに、「翁ま宅三巻本「あへす」とあるのを、 萩谷説は「肖えず」 ( 似ない ) と解く。 くちぐち 一七 一 ^ 皇后定子に対する謙譲。その ろ」と呼べど、耳にも聞き入れず。「それそ」と言ひ、「あらず」と言ひ、口々 会話によって皇后が「右近そ : ・」と う・一ん 申せば、「右近ぞ見知りたる。呼べ」とて、しもなるを、「まづ、とみの事」と言われることになる。 うこんないし 一九次ハーに見える右近の内侍。主 め て、召せば、まゐりたり。「これは翁まろか」と見せさせたまふに、「似てはべ上付きの女房だが、定子の信任も 厚かったらしい るめれど、これはゆゅしげにこそはべるめれ。また、『翁まろ』と呼べば、よニ 0 「ゆゅし、は、神聖不可触の意 から、忌み避けねばならぬほど甚 ろこびてまうで来るものを、呼べど寄りて来ず。あらぬなンめり。『それは打だしい意ともなる。ここは恐ろし 、気味が悪い、などの意。 ち殺して捨てはべりぬ』とこそ申しつれ。さる者どもの二人して打たむには生ニ一、「まうでく」は、中古の用例で みると、改った気持の会話に用い て、自己側の者の「来る」動作を謙 きなむや」と申せば、心憂がらせたまふ。 段 譲し丁重に言う語。「やってまい 暗うなりて、物食はせたれど、食はねば、あらぬものに言ひなしてやみぬるります」にほば当る。 一三髪を櫛でとかして整えること。 ぐし 第 おはん おほんかがみ ニ三この「まゐる」は、貴人自身が っとめて、御けづり櫛にまゐり、御手水まゐりて、御鏡持たせて御覧ずれば、 動作する意の尊敬語に転じたもの。 ワさぶら きのふ 候ふに、犬の柱のもとについゐたるを、「あはれ昨日翁まろをいみじう打ちしニ四膝をついて畏まって座る。 ニ四 おほんてうづニ三 一五 推定。 ひざ かし - 一

3. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

さかづき 一君達とは同席を避けて座った。 ゅ。みづから杯さしなどしたまふを、わが心にもおばゆらむ。いみじうかしこ 「ゐる ( 坐る ) 」の主語は蔵人。 きんだち まり、べちにゐし家の子の君達をも、けしきばかりこそかしこまりたれ、同じニ底本原文「たまつわれ」は、も と「たゝまつはれの「ゝ」が脱し 子 「はれ」が語意を合理化するため ゃうにうち連れありく。うへの近く使はせたまふさまなど見るは、ねたくさへ 草 「われ」に変えられたものか。三巻 すずりすみす うちは 枕こそおばゆれ。御文書かせたまへば、御硯の墨磨り、御団扇などまゐり、ただ本は「御文書かせ : ・三年ばかりの ほどを」に当る部分を「馴れ仕うま みとせ よとせ つる三年四年ばかりを , とする。 まつはれつかうまつるに、三年ばかりのほどを、なりあしく、物の色わろく、 くろうど 三六位蔵人の任期は六年。「六」 たきものか 薫物、香などよろしうて、まじろはむは、言ふかひなきものなり。かうぶり得の誤写か。一説、当時は三年ぐら いで叙爵退下するのが普通だった。 りんじ いのち て、おりむ事近くならむだに、命よりはまさりてをしかるべき事を、臨時にそ四六位蔵人は任期が満ちると五 位に叙せられる。叙爵。なお蔵人 くらうど たま の御給はりなど申して、まどひをるこそいとくちをしけれ。昔の蔵人は、今年は六位でも昇殿できるが、蔵人を 辞すると四位以上でなければ昇殿 できない の春よりこそ泣きたちけれ、今の世の事走りくらべをなむするとか。 五臨時に在任中の功労によって くださるものなどを申請して。臨 才ある人、いとめでたしといふもおろかなり。顔もいとにくげに、下﨟なれ じもく 時の除目に諸国の受領に任ぜられ ども、ことなる事なけれども、世にゃんごとなきものにおばされ、かしこき人るように申請する、の意か 六「をり」は座っていることから、 さぶら の御前に近づきまゐり、さるべき事など問はせたまふ御文の師にて候ふは、め卑屈な低姿勢の状態であること。 セ「今の世の事」不審。「を」を添 ぐわんもん九 でたくこそおばゆれ。願文もさるべき物の序作り出だしてほめらるる、いとめえて解くが「事」は「は」の誤りか。 ^ 仏事を営む時願意を述べる文。 九詩歌などの序文。 でたし。 ざえ ふみ げらふ ことし

4. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

あした と、立ちかへるより待たるる物なれば、なほ思はずなるは、くちをし。人げな一「あらたまの年立ち返る朝よ り待たるる物は鶯の声」 ( 拾遺・春 ) 。 からすとび き人をばそしる人やはある。鳥の中に、烏、鳶などの声をば見聞き入るる人やニ人並でない人。 子 三それに反して鶯は平凡な鳥で こ、一ち よ はないから、漢詩文にも詠まれて 草はある。鶯は、文などに作りたれど、心ゆかぬ心地する。 いるのに、上記の点からは不満だ。 枕 庭鳥のひななき。水鳥。山鳥は、友を恋ひて鳴くに、鏡を見せたれば、なぐ 0 尾張いき誌科の鳥。 五『俊頼髄脳』『袖中抄』などの さむらむ、いとわかう、あはれなり。谷へだてたるほどなど、いと、い苦し。鶴歌学書にこのような話が見える。 六昼は雌雄同居し、夜は谷を隔 くもゐ かしら は、こちたきさまなれども、鳴く声の雲居まで聞ゆらむ、いとめでたし。頭赤てて寝るといわれる ( 奥儀抄 ) 。 きうかう 七「鶴ハ九皐ニ鳴キ、声ハ天ニ かるがをとり一 0 聞ュ」 ( 詩経・小雅 ) 。 き雀。斑鳩の雄鳥。たくみ鳥。 にゆうない ^ べに雀。一説、入内雀。 鷺ま、、 しと見目もわろし。まなこゐなども、よろづにうたてなっかしからね九豆まわし。雄鳥は羽が美しい 一 0 みそさざい。巣を作るのが巧 ど、「ゆるぎの森にひとりは寝じ」とあらそふらむこそをかしけれ。鴛鴦いとみなのでこの名があるという。 = 「高島やゆるぎの森の鷺すら はねうへ もひとりは寝じと争ふものを」 ( 古 しとをか あはれなり。かたみにゐかはりつつ、羽の上の霜をはらふらむなど、、 今六帖・第六 ) 。ゆるぎの森は滋賀 よろ し。雁の声はるかなる、いとあはれなり。近きぞわろき。千鳥いとをかし。は県高島郡万木にある。 一ニ「羽の上の霜うち払ふ人もな ひとりね しをしの独寝今朝そ悲しき」 ( 古今 六帖・第三 ) 。鴨の条に「羽の霜う ちはらふらむと : ・」 ( 前ハー ) とある。 一三これもほば同じことが前ハーに ある。 こ鳥。 にはとめ・ さぎ 四九あてなるもの ふみ 四 き、一 つる

5. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

くどく るべき日なれど、功徳のかたにはさはらず見えむとにや、いそぎ来て、その事一外出も差障りがないように。 はばか 8 ニ女たちは人前に出るのを憚っ ひじり する聖と物語して、車立つるをさへそ見入れ、ことにつきたるけしきなる。久て外に車を据え車中で聴聞した。 子 三身を入れて世話をし、場馴れ まう 草しく会はざりける人などの、詣で会ひたる、めづらしがりて、近くゐ寄り、物している様子である。 四金・銀・水晶などで装飾。 あふぎ ふさ 枕 語し、うなづき、をかしき事など語り出でて、扇広うひろげて、ロにあてて笑五数珠の総をたばねて網のよう 四 にかがった部分のことという。 さうずく なんなにがし ひ、装束したる数珠かいまさぐりて、手まさぐりにうちし、すがりを物言ふ拍六何の某が行った。 セ新しく写した経のために仏事 子にこなたに打ちやりなどして、車のよしあしほめそしりなにかして、その人を行うこと。 ^ 法華八講。『法華経』を朝夕一 きゃうくやうはかう のせし経供養、八講と言ひくらべゐたるほどに、この説経の事も聞き入れず。巻すっ講じて四日間で終る。 九そんな、蔵人の五位のような な 者ではなくて。 何かは、常に聞く事なれば、耳馴れて、めづらしうおばえぬにこそはあらめ。 一 0 控え目に前駆を追わせる。 さはあらで、講師ゐてしばしあるほどに、さきすこしおはする車とどめてお「さきすこしおはする : ・さばかり して入れば」のあたり文脈不審。 さしぬきすずしひとへ かりぎめ なほし るる人、蝉の羽よりもかろげなる直衣、指貫、生絹の単衣など着たるも、狩衣 = そんなふうな軽快な服装で。 一ニそのくらいの人数で。 さぶらひ すがた 姿にても、さやうにては若くほそやかなる三四人ばかり、侍の者、また、さば一三講師の座る席 一四「急に」か。 かうざ かりして入れば、もとゐたりつる人も、すこしうち身じろぎくつろぎて、高座一五どうかして世間に後々までに も語り伝えるぐらいに のもと近き柱のもとなどにすゑたれば、さすがに数珠押しもみ、きうに伏し拝一六文意不審。それらの貴公子は 聴聞するとて騒がしく行動して礼 った いかで語り伝ふばかり拝する熱心さの程度にも似合わす みて聞きゐたるを、講師もはえばえしく思ふなるべし、 し せ み かうじ せきゃう ふ ひやう をが さしさわ

6. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

ののしりて、「これ縫ひなほせ」と言ふを、「たれかあしう縫ひたりと知りてか一模様を織り出した絹布。 -4 ニ模様がない。無地の。 あや なほさむ。綾などならばこそ、縫ひたがへの人のげになほさめ、無紋の御衣な三何を目印にして表裏の区別が っこ , つか 子 り。何をしるしにてか。なほす人たれかあらむ。ただまだ縫ひたまはざらむ人四二人とも中宮の女房であろう。 草 五遠くから見て座っていた。 めのと 「見やる」主語は命婦の乳母であろ 枕になほさせよ」とて、聞きも入れねば、「さ言ひてあらむや」とて、源少納言、 うか。作者とみる説もある。 六長徳元年 ( 究五 ) 四月六日行啓 新中納言などいふ、なほしたまひし顔見やりてゐたりしこそをかしかりしか。 の折の事とすると、十日夜道隆薨 六 これは、よさりのばらせたまはむとて、「とく縫ひたらむ人を、思ふと知らむ」去の後、中宮は十二日に登華殿に 参内した ( 日本紀略 ) 。「よさり・ : 」 は、十日以前宮中に戻ろうとした と仰せられしか。 時 ( 実際はできなかった ) の事か。 ふみ または正暦三年 ( 究一 l) 暮の事か 見すまじき人に、ほかへやりたる文取りたがへて持て行きたる、いとねたし。 セ已然形で結ぶのは不審。「かー ひとめ えんじ は衍字か。 「げにあやまちてけり」とは言はで、ロかたうあらがひたる、人目をだに思は 〈長方形の、足のついた長持で ながびつも はぎすすき ずは、走りも打ちつべし。おもしろき萩、薄などを植ゑて見るほどに、長櫃持あろう。二人でかつぐ。 九「ただ・ : に : ・す」のように同じ たる者、鋤など引きさげて、ただ掘りに掘りていぬるこそ、わりなうねたかり動詞に「に」を挟んで用いた場合は、 その動詞を強調する意を表すこと が多い けれ。よろしき人などのあるをりは、さもせぬものを、いみじう制すれど、 一 0 「わりなし」は、自分の心が当 ずりゃう 「ただすこし」など言ひていぬる、言ふかひなくねたし。受領などの家に、し惑のあまり、条理をはずれてどう しようもない状態であるのをいう。 = 相当な身分・地位の人。 もめなどの来て、なめげに物言ひ、さりとてわれをばいかが思ひたるけはひに すき 五 むもん

7. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

賢げに闕腋の袍を着て、裾はねずみのしつばのようで、そ 月夜に空の牛車が動きまわっているの。きれいな男が不 0 きりよう ひげ れを細く輪に巻いて几帳に掛けてあるであろう様子は、そ器量な妻を持っているの。鬚が黒々として不器量な男で、 かたこと れこそ女を訪ねるのに似つかわしくない夜行の人々である年とっているのが、片言を言う幼児をあやしているの。ど 子 がまん つばねがよ ことだ。この官に在職の間は、我慢して、女の局通いはやれも似つかわしくないものだ。 草 めてしまってほし、。 五位の蔵人の場合も同じこと。 五五主殿司こそ とのもりづかさ 五三細殿に人とあまたゐて 主殿司の女官こそ、やはりよいものではある。下級の女 細殿に、ほかの女房たちと大勢で座っていて、そこを通官の身分としては、これほどうらやましいものはない。身 びばう る者たちを、みつともないのもかまわずに呼び寄せて、話分のある人にさせてみたいような仕事である。若くて美貌 こどねりわらわ などする時に、きれいな様子の召使の男や、小舎人童など で、服装などをいつもきれいにしている者ならば、まして りつば が、立派な包みや袋に、幾枚かの着物を包んで、その端か きっといっそうよいだろうよ。年をとって、物事の先例な さしぬきこしひも ら、中の指貫の腰紐などがちらと見えているのは、おもし どを知って、物おじをせず平気な様子をしているのも、と たてほそだち なん ろい。袋に入れてある弓、矢、楯、細太刀などを持って歩てもその場にびったり合った感じで、見て難がない。主殿 あいきよ、つ きまわるのを、「どなたのか」と問うと、ひざまずいて座司の女官で、顔の愛嬌のあるような者を、むすめ分などと なにがしどの って、「某殿ので」と言って行くのは、たいへんよい。き してでも自分が持っていて、装束は季節季節に従って、唐 どって恥ずかしがって、「知りません」と言ったり、聞き衣などを流行の当世風に仕立てて、歩きまわらせてみたい 入れもしなかったりして去ってゆく者は、ひどくにくらし ものだと思われる。 いッ ) とだ。 五六をのこは、また随身こそ ずいじん 五四月夜にむな車のありきたる 召使の男では、また、随身こそすぐれているようだ。た かしこ けってきほう きょ ぎめ から ぶん から

8. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

枕草子 198 が、そんな見苦しいことをしていたか。年寄めいてみつと た、かるがるしい女性。土塀の崩れ。 もない人こそ、きまって火鉢のふちに足までもひょいとか にくきもの けて、物を言いながら足をこすったりなどもするようだ。 ながばなし にくらしいもの急用のある時にやって来て、長話をすそんな無作法な者は、人の所にやって来て、座ろうとする ちり る客。それが軽く扱ってもいい程度の人なら、「あとで」所を、まず扇で塵を払って掃き捨てて、座り場所も定まら かりぎめ などと言っても追い帰してしまうことができるであろうけずにふらふらと落ち着かず、狩衣の前の垂れを、膝の下の りつば れど、そうはいっても、気のおける立派な人の場合は、ひ方にまくり入れでもして座るのである。こうしたことは、 言うに足りない身分の者がすることかと思うけれど、いく どくにくらし、 しきぶ たゆう するがぜんじ すみ す すずり らか身分がある者で、式部の大夫とか、駿河の前司などと 硯に髪の毛がはいって磨られているの。また、墨の中に いった人が、そうしたのである。 石がはいっていて、きしきしときしんでいるの。 こうちゅう ひげ しゅげんじやさが また、酒を飲んでわめいて、ロ中をまさぐり、髯のある 急病人があるので、修験者を探し求めると、いつもいる さかずき 所にはいないで、別の所にいるのを探しまわっているうち人はそれを撫でて、杯をほかの人に与える時の様子は、ひ はた どくにくらしい。苦しがって、ロの端をまで引き垂して、 に、待ち遠しくて長い時間がたつが、やっと待ち迎えて、 からだ ものけちょうぶく 相手に「もっと飲め」などときっと言うのであろう、身体 よろこびながら加持をさせるのに、このごろ物の怪調伏に との を震わせて、子どもたちが「こほ殿にまゐりて」などを歌 疲れきってしまったのだったせいであろうか、座るやいな どきよう う時のようなかっこうをする。それは、人もあろうに、ほ や読経が眠り声になっているのは、ひどくにくらしい んとうに身分の高い立派な人が、そうなさったので、気に これということもない平凡な人が、わけもなくしきりに ひばち いらないと思うのである。 にこにこ顔をして物をさかんにしゃべっているの。火鉢の しわ 人のことをうらやましがり、自分の身の上をこばし、他 火ゃいろりなどに、手のひらを裏返し裏返しして、皺を押 し伸ばしなどしてあぶる者。いったいいっ若々しい人など人のことをあれこれ言い、ちょっとしたことも知りたがり ( 原文四五ハー ) ふる な た ひぎ

9. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

し、まして歌よむと知りたる人のおばろけならざらむま、、ゝ。、 。しカて力とつつまし一五気に入らないことなどがある 時、指の先を鳴らす動作。 きこそはわろけれ。「よむ人はさやはある。いとめでたからねど、ふとこそは一六下に「ば」脱か。 宅「あは」は「淡ーで、赤紐の「あ 、、とましナれ、 言へ」と、爪はじきをしありくも はび結び」にかけると解くのが通 説だが、「あはび結び」という語の うす氷あはに結べる紐なればかざす日かげにゆるぶばかりを 存在の味がなお不確かである。 「紐」に「氷」、「日影」 ( 日光 ) に「日 こうがい と弁のおもとといふに伝へさするに、消え入りつつえも言ひやらす。「などか陰のかずら」 ( 節会の冠の笄の左右 に結んで垂れた組糸。もと日陰の かずらを用いたのによる名 ) をか などか」と耳をかたむけて問ふに、すこしことどもりする人の、いみじうつく ける。一説「あは」を近似音の「あ ろひめでたしと聞かせむと思ひければ、えも言ひつづけずなりぬるこそ、なかわ」に合せて、『万葉集』の「玉の緒 あわを を沫緒によりて結べらば」などを ここち はぢ 参考にして「沫緒ーとみようとする なか恥隠す心地してよかりしか。 が、それでもわかりにくい。『千 おりのばる送りなどに、なやましと言ひ入りぬる人をも、のたまはせしかば、載集』雑上、『清少納言集』に見え る。 む まひひめ 一 ^ 女房の呼び名。 ある限り群れ立ちて、ことにも似ず、あまりこそうるさげなンめれ。舞姫は、 一九却って私の下手な歌の恥を。 すけまさむまのかみ そめどの 段相尹の馬頭のむすめ、染殿の式部卿の宮のうへの御おとうとの四の君の御はら、 = 0 中宮様が、出仕するようにと。 三藤原相尹。右大臣師輔の孫。 十二にていとをかしげなり。果ての夜も、おひかへにもさわがず。やがて仁寿一三村上帝皇子為平親王。「うへ」 第 はその妃で左大臣源高明の娘。 でん せいりゃうでんおまへひんがしすのこ つばね かづ 殿より通りて、清涼殿御前の東の簀子より、舞姫を先にて、うへの御局へまゐ = 三不審。三巻本「負ひ被き出で も騒がす」 ( 疲労して人に背負われ りしほどをかしかりき。 て退出するような騒ぎもなくて ) 。 つま さき ニ 0 じじゅう かえ すけまさ へた

10. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

一「おうな」 ( 嫗 ) の誤りか。 の家のむすめ、女などひきゐて来て、五六人してこかせ、見も知らぬくるべき ニ不審。『和名抄』蚕糸具に「反 ふたり ほとと 物ふし、二人して引かせて、歌うたはせなどするを、めづらしくて笑ふに、郭転」をクル・ヘキとよむ。糸をよる 四 子 機械だが、それに類した回転する ぎす かけばん 精穀機械か。ただし「くるべき」を 公の歌よまむなどしたる、忘れぬべし。よこゑにあるやうなる懸盤などして、 名詞とすると「物ふし」が不審。 枕物食はせたるを、見入るる人なければ、家あるじ「いとわろくひなびたり。か = 横絵か。不審。 = 一巻本「唐絵」。 四食器を載せる四脚の台。 かる所に来ぬる人は、ようせずは『あるも』など責め出だしてこそまゐるべけ五不審。「あるものも。の意に解 く。まだ外にある物も。 したわらび 六この「まゐる」は召し上がる意。 れ。むげにかくては、その人ならず」など言ひてとりはやし、「この下蕨は、 セそうした田舎の客らしくない。 にようくわん 手づから摘みつる」など言へば、「いかでか、女官などのやうに、つきなみて ^ 古草の下に生え出る小さい蕨。 九懸盤に並んで着席する。 れい おまへ まらま はあらむ」など言へば、「取りおろして。例のはひぶしにならはせたる御前た一 0 い臥す。衣装をつけた女 きまま 房が気儘でいる姿勢であろうか。 = 「おほまへ」の約という。 ちなれば」とて、取りおろしまかなひさわぐほどに、「雨降りぬべし」と言へ 三女房の一人が、であろう。 一三うつぎの白い花。 ば、いそぎて車に乗るに、「さてこの歌は、ここにてこそよまめ」と言へば、 一四「葺く」は、屋根を覆ったり軒 「さはれ、道にてもと」など言ひて、卯の花いみじく咲きたるを折りつつ、車端に挿したりすること。 一五挿しにくそうにする。三巻本 すだれ えだふ の簾、そばなどに、長き枝を葺きささせたれば、ただ卯の花垣根を牛にかけた「わらひつつ」。 一六 と。も 一六屋形・天井を網代で作った網 あじろ るやうにぞ見えける。供なるをのこどもも、いみじうわづらひつつ、網代をさ代車を用いていたのであろう。 宅「なり」は音声による推定。 一七 天「散り散らす聞かまほしきを へ突きうがちつつ、「ここまだし、ここまだし」と、さしあつむなり。人も会 っ