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検索対象: 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)
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1. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

思ひしに、なのめにだにあらず、そこらの人のほめ感じて、『せうとこそ。聞 = そうした和歌の方面。 くふう 一ニ不審。一応「区分す」「工夫 かた したごころ け』とのたまひしかば、下、いにはいとうれしけれど、『さやうの方には、さらす」 ( 思慮をめぐらす意 ) など当て て考える。三巻本「さぶらふ」。 こと にえくふんすまじき身になむはべる』と申ししかば、『言加へ聞き知れとには一三世間の人 ( 一説、作者 ) に語れ。 一四皆からの思われ方。 一五どうにもつけようがない。 あらず。ただ人に語れとて聞かするぞ』とのたまひしなむ、すこしくちをしき 一六不審。三巻本「ことに」に従え ば、以下「ことさらまたこれの返 せうとのおばえにはべりしかど、『これが本つけ試みるに、言ふべきゃうなし。 事をすべきだろうか、その必要は 一セ あるまい」の意となろう。ただし、 こと、またこれが返しをやすべき』など言ひ合はせ、わろき事いひては、なか 「またこれの返事をしなければな なかねたかるべしとて、夜中までなむおはせし。これ、身のためにも、人の御るまいか」と解く説もある。 宅へたなことを言っては、かえ つかさめしせうせうつかさ ためにも、さていみじきよろこびにはべらずや。司召に少々の司得てはべらむっていまいましい目にあうだろう。 天夜中まで評定していたの意か。 は、何と思ふまじくなむーと言へば、げにあまたしてさる事あらむとも知らで、一九知らすに返事をしたことに対 して、してやられた悔しさをいう。 いもひと ニ 0 「妹人」の音便。本来は男から ねたくもありけるかな。これになむ胸つぶれておばゆる。この「いもうとせう 同腹の姉妹をいう語。作者のこと。 つかさな ぶん きようだい分。愛人関係と普通解 段と」といふ事は、うへまでみな知ろしめし、殿上にも、司名をば言はで、せう かれているが、一説にはなお夫婦 となるには距離なり事情なりがあ ととぞっけたる。 第 る場合仮に義兄妹の約をすること。 物語などしてゐたるほどに、「まづ」と召したれば、まゐりたるに、この事ニ一仲間の女房と。一説、則光と。 8 一三何はさておいてすぐに。 仰せられむとてなりけり。うへのわたらせたまひて、語りきこえさせたまひて、ニ三草の庵の件。 一九 よなか 」もと ニ 0

2. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

( 現代語訳一一六八ハー ) くほんれんだい げばん ほうべんほん なンめり。筆、紙給はりたれば、「九品蓮台の中には、下品といふとも」と書九『法華経』方便品に「十方ノ仏 土ノ中ニハ唯一乗ノ法有リ。二モ きてまゐらせたれば、「むげに思ひくんじにけり。、 しとわろし。言ひそめつる無ク亦三モ無シ」とある。「乗」は 彼岸に至らしめる乗物の意。一乗 は第一の乗物で『法華経』をさす。 事は、さてこそあらめ」とのたまはすれば、「人にしたがひてこそ」と申す。 一 0 「十方ノ仏土ノ中ニハ西方ヲ 「それがわろきそかし。第一の人に、また一に思はれむとこそ思はめ」と仰せモッテ望ト為ス。九品蓮台ノ間ニ いへどまさた ハ下品ト雖モ応ニ足ルペシ」 ( 和漢 朗詠集・仏事慶滋保胤 ) による。 らるるもいとをかし。 『観無量寿経』によると極楽往生に は九階級があり、上品・中品・下 品の三段階がそれぞれ上生・中 一〇六中納一一 = ロ殿まゐらせたまひて 生・下生に分れる。ここでは九品 往生できるなら下品でも満足だ、 あふぎ 中納言殿まゐらせたまひて、御扇奉らせたまふに、「隆家こそいみじき骨を即ち中宮に思われるなら第二・第 三でも結構だ、の意を含む。 これちか 得てはべれ。それを、張らせてまゐらせむとするを、おばろけの紙は張るまじ = 隆家。伊周・定子の弟。 三「おばろけ」は普通一通りのこ ければ、もとめはべるなりと申したまふ。「いかやうなるにかある」と問ひと。並々。「おほろか」の転か。 第一と 一三「言高く」であろう。自慢げに きこえさせたまへば、「すべていみじく侍る。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり』声高に。 一四「扇の」は「扇の骨」の意。 となむ人々申す。まことにかばかりのは見ざりつ」と、こと高く申したまへば、一五見たことがないのなら、骨の しゃれ 第 ないくらげの骨だ、という洒落。 きこ 三巻本「くらげのななり」。 「さては扇のにはあらで、くらげのなり」と聞ゆれば、「これは隆家がことにし 一六秀逸の洒落だから隆家が功を 横取りしよう、という冗談。 てむ」とて、笑ひたまふ。 ふでかみ はべ いち たかいへ 一六 ほね また

3. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

ひをけ かなる人などの、さはしたりし。老いばみうたてある者こそ、火桶のはたに足一「らむーは現在推量の助動詞だ が、ここでは習慣的にきまって起 さへうちかけて、物言ふままに押しすりなどもすらめ。さやうの者は、人のもる事、確実に行われると思う事に 子 ついての推量を表す。 あふぎちりはらは 草とに来て、ゐむとする所、扇して塵払ひ掃き捨てて、ゐも定まらずひろめきて、ニひらひらゆらゆらと動く。 はかまさしめき 三貴族の通常服。袴は指貫。座 ざま 枕かりぎぬ る時は、前の垂れを広げて向こう 。しふかひなききは 狩衣の前、した様にまくり入れてもゐるかし。かかる事ま、、 に出すのが作法であった。 しきぶのたいふするがぜんじ 四いくらか身分のある者。 にやと思へど、すこしよろしき者の、式部大夫、駿河の前司などいひしが、さ くろうど しきぶのじよう 五式部丞で六位蔵人を兼ねてい た者が五位に叙せられたのをいう。 せしなり。 六そうしたのだ。「し」を用いて ひげ いるから作者が直接見たのである。 また、酒飲みてあめきて、ロをさぐり、髯あるは、それを撫でて、杯、人に セわめく。「あ」も「わ [ も擬音。 た 取らするほどのけしき、いみじくにくし。なやみ、ロわきさへ引き垂れ、「ま ^ 仮に泥酔した人の様子とみる が、酒を勧められた人の動作とす わらは 一 0 との た飲め」など言ふなるべし、身ぶるひをし、童べの「こほ殿にまゐりて」などる説がある。この辺り異文が多い。 九ロの両端をいうか。 一 0 三巻本「こう殿」 ( 国府殿 ) 。当 うたふやうにする。それはしも、まことによき人の、さしたまひしより、心づ 時の童謡か俗謡らしいが、未詳。 = 身分の高い人。 きなしと思ふなり。 三気にくわない。不愉快だ 物うらやみし、身の上嘆き、人の上言ひ、つゆばかりの事もゆかしがり聞か一三時間的に長く用いてはいるが、 内容はほんのちょっとである事を ゑん いうか。三巻本「僅かに聞き得た まほしがりて、言ひ知らせぬをば怨じそしり、また、わづかに聞きわたる事を る」。 ば、われもとより知りたる事のやうに、ことごと、人に語りしらべ一一 = ロふもいと一四ことごとく。すっかり。 な さかづき

4. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

最後の御高坏盤を運んでいる蔵人がこちらに参上して、お墨ばさみの継目もはなしてしまいそうである。中宮様は、 しきし 食事の用意の整ったことを奏上するので、中の戸から主上白い色紙を押したたんで、「これに、たった今、頭に浮ん でくる古歌を書け」とお命じあそばされるので、外に座っ は昼の御座の方へお出ましあそばされる。 とも ていらっしやる大納一一 = ロ殿に、「これはいかがなさいますか」 主上の御供に、大納一言殿が参上あそばされて、さきほど と申しあげると、「あなたがたが早く書いて差しあげなさ の桜の花のもとに、今までとは座をかえて座っていらっし しもなげし みきちょう 男子はロ出しをすべきでもございませんーと言って、 やる。中宮様が御几帳を押しやって、下長押のもとにお出 その色紙を御簾の中に差し入れてお返しになった。中宮様 ましあそばされていらっしやるご様子など、ただもう何が どうということもなく、万事につけてすばらしいのを、伺は御硯をこちらへお下げおろしなさって、「早く早く、た なにわづ なん だもう思案しないで、難波津でも何でも、ふっと浮んでく 候する人も、思うことのない満ち足りた心地がするのに、 大納言殿が「月日もかはりゆけども久に経るみむろの山る歌をとお責めたてあそばされるのに、どうしてそんな に気おくれしたのか、全く顔までも赤くなって思い乱れる の」と、「宮が高くそびえるように、中宮様がときわにお ことよ 栄えあそばすように」ということを、ゆったりと口に出し 。ししなカら、 春の歌や、花についての気持などを、そうま、 て誦んじながら座っていらっしやるのが、とてもすばらし いと感じられる。なるほどほんとうに千年もこのままであ上席の女房たちが二つ三つ書いて、次に「ここに」という ことなので、 ってほしいようにお見上げする中宮様のご様子であるよ。 はいぜん 段 年経ればよはひは老いぬしかはあれど花をし見れば物 陪膳にお仕えする人が、男の人たちなどをお召しになる 思ひもなし 炻かならないかのうちに、主上はこちらにお越しあそばされ すずり 第 ( 年月がたったので、年はとってしまっている。そうではあ てしまった。中宮様が「御硯の墨をすれ」とお命じあそば うわ るけれど、花を見ると、何の物思いもない ) されるが、目はただもう上の空で、ひたすら主上のおいで という古歌を、「君をし見れば」とわざと書きかえてある あそばすご様子をだけお見申しあげているので、あやうく ・一う たかっきばん ひさふ ・一か

5. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

( 現代語訳一九四ハー ) 一四正しくは「大殿油」 ( 宮中や貴 人の家の灯油のあかり ) 。 三この「まゐる」は謙譲語から転 じた尊敬語。おともしになって。 一六女御の所へ。 宅父大臣。 一〈寺に使者を遣わして僧に読経 させること。なお「誦経」は誦経に 対しての布施をもいうが、ここで は一応原義とみてよいであろう。 一九多くの寺々に。 ニ 0 風流でしみじみと趣深い 二一生ひさきなく、まめやかに ニ一つまらぬ者。 一三こちら ( 中宮の所 ) に伺うのを。 お ニ三 しふせくニ三幸いに見えて実は本当の幸い 生ひさきなく、まめやかに、えせざいはひなど見てゐたらむ人は、 : ではないもの。 ニ六 ニ七 あなづらはしく思ひやられて、なほ、さりぬべからむ人のむすめなどは、さし = 四「ゐる」は座る意。安住する。 一うっとうしく。 まじらはせ、世ノ中のありさまも見せならはさまほしう、内侍などにてもしば = 六自然推量されて。 毛宮仕えをさせ。 ないしのつかさ ないしのかみないしのすけ しあらせばやとこそおばゆれ。 ニへ内侍司の女官 ( 尚侍・典侍・ ないしのじよう 段 掌侍 ) の総称。 みやづか 「宮仕へする人は、あはあはし」など、わろき事に思ひ言ひたる男こそ、いと元「をとめ」に対する語。「をと」 は「をつ」 ( 若返る ) と同源。「若い 第 三 0 かんだちめてん にくけれ。さる事ぞかし。ょにかしこき御前をはじめたてまつり、上達部、殿男性」が原義。中古では男性一般。 あわあわ 三 0 他人に顔を見られる点で淡々 3 じゃうびと 上人、四位、五位、六位、女房さらにもいはず、見ぬ人はすくなくこそはあらしいと思われるのは、もっともだ。 まき めでさせたまひ、「いかでさおほくよませたまひけむ。われは三巻四巻だにも、 えよみ果てじーと仰せらる。「昔は、えせ者も、すきをかしうこそありけれ。 さぶら このごろ、かやうなる事やは聞ゆる」など、御前に候ふ人々、うへの女房のこ なたゆるされたるなどまゐりて、口々言ひ出でなどしたるほどは、まことに思 ふ事なくこそおばゆれ。 ニ四 い ^ ニ九 をと、】

6. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

のを御覧あそばして、「ただ、こうしてそなたたちの心の いろいろな歌の上の句を仰せになって、「これの下の句は ねんとう 四はたらきが知りたかったのだよ」と仰せになるついでに、 どうだ」と仰せになるのに、すべて夜も昼も念頭にあって、 えんゅういんみよ みかど そうし 「円融院の御代に帝の御前で、『この草子に歌を一つ書け』 自然と浮んでくる歌が、まるつきり浮んでこず、ロに出し 子 てんじようびと さいしよう と殿上人にお命じあそばしたので、たいへん書きにくくて、 て申しあげられないのはどうしたことなのか。宰相の君が 草 じよう おことわり申しあげる人々があった。『いっこう、字の上十首ほど、やっと申しあげる。それぐらいでは、それも ずへた 手下手や、歌が季節に合わなかろうのもかまわないことに 「自然と思い浮ぶ」などと言えたものではない。まして五 しよう』と仰せになったので、困ってみなが書いた中に、 首、六首、三首などは、思い浮んでもやはり、思い浮ばな さんみちゅうじよう ただいまの関白殿が、三位の中将と申しあげたころ、 いということをこそ申しあげるのが当然なのだけれど、 おおごと しほの満ついつもの浦のいつもいつも君をば深く思ふ「そんなにそっけなく、仰せ言を、仰せつけ映えがないよ やはわれ うに取り扱って、 しいものだろうか」と言って、残念がる ( 潮の満ちて来るいつもの浦の『いつも』という名のように のもおもしろい。知っていると申しあげる人のない歌は、 いつもあなたをば深く思うことよ、私は ) そのまま下の句をお詠みつづけあそばされるのを、「その という歌を、末の句を『たのむやはわれ』とお書きになっ下の句どおりで、これはみな知っている歌ですよね。どう にぶ ていたのを、たいへんおほめあそばされたのだった」と仰してこんなに鈍いのかしら」と言って嘆息する。その中で せになるのも、むやみに汗が流れ出るような気持がしたの も、『古今集』をたくさん書き写しなどする人は、全部で そら だった。年が若い人だったら、そうも書けそうもない事態 も当然空に思い浮んでくるはずのことである。 せんようでんにようご であったろうか、と感じられる。いつもの、言葉をたいへ 中宮様が「村上天皇の御代に、宣耀殿の女御と申しあげ こ方ま、、 ん上手に書く人たちも、どうしようもなくみな自然と遠慮オ 一条の左大臣殿の御娘でおいでになったから、 されて、書きよごしなどしているのもある。 だれが存じあげない人があろう。まだ姫君でいらっしやっ とじほん おとど 『古今集』の綴本を中宮様は御前にお置きあそばされて、 た時、父君の大殿がお教え申しあげあそばされたことは、 わたくし かた かみ しも

7. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

35 第 20 段 だいしようじおもの もかはりゆけども久に経るみむろの山の」と、「宮高く」といふ事をゆるるか宅天皇の食事。大床子の御膳。 天警蹕の声。原文「をし / 、」だ ちとせ にうちよみ出だしてゐたまへる、いとをかしとおばゆる。げにぞ千年もあらまが、「ををしし、の表記で、しかも 「をーしー」とよむべきかともいう。 一九最終第七番の御盤。 ほしげなる御ありさまなるや。 ニ四 ニ 0 清涼殿北廂と萩の戸を区切る。 はいぜん ニ一三巻本「かへりゐたまへり」。 陪膳つかまつる人の、をのこどもなど召すほどもなくわたらせたまひぬ。 一三中宮定子。十八歳。 すずりすみ 「御硯の墨すれ」と仰せらるるに、目はそらにのみ、ただおはしますをのみ見ニ三「月も日も変りゆけども久に 経るみむろの山のとっ宮どころ」 ただみね ( 忠岑十体 ) 。原歌は『万葉集』三一一三一。 たてまつれば、ほとほとつぎめもはなちつべし。白き色紙を押したたみて、 じようろう ニ四御給仕役。上﨟四位の役の由。 くろうど 一宝蔵人。台盤を下げるため召す。 「これにただいまおばえむ古ごと書け」と仰せらるるに、外にゐたまへるに、 すみばさ ニ七 兵墨挟みと墨との継目。 こと ま 毛「言交ず」。一説「言増す」。 「これはいかに」と申せば、「とく書きてまゐらせたまへ。をのこは言まずべき ま 「言申す」とも解けようか。 なにはづ にもはべらず」とて、さし入れたまへり。御硯取りおろして、「とくとくただ夭「難波津に咲くや木の花冬こ もり今は春べと咲くや木の花」 ( 古 なにはづなに 思ひめぐらさで、難波津も何も、ふとおばえむを」と責めさせたまふに、など今・仮名序 ) という古歌。当時手習 のはじめとしたもの。 おく おもて ニ九三巻本「さいふ / 、も」。 さは臆せしにか、すべて面さへ赤みてぞ思ひ乱るるや。 そめどののきさき 三 0 『古今集』春上に「染殿后 ( 文 ニ九 じゃうらふ まへはながめ 徳帝の后藤原明子 ) のお前に花瓶 春の歌、花の心など、さいふに、上﨟二つ三つ書きて、「これに」とあるに、 に桜の花をささせ給へるを見てよ 三 0 ふ める前太政大臣 ( 明子父良房 ) 」 年経ればよはひは老いぬしかはあれど花をし見れば物思ひもなし と詞書を付す。「花」を「君 ( 中宮 ) 」 に変えた。 といふことを、「君をし見れば」と書きなしたるを、御覧じて、「ただこの心ば ひさふ ニ五 ニ六 め しきし と けいひっ

8. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

みやづかさ さみだれ さくへいもん 三内裏の北門 ( 朔平門 ) にある武 宮司、車の事言ひて、北の陣より、五月雨はとがめなきものそ、とて、入れさ 官の詰所。以下難解だが、「五月 ゅ つばね せおきたり。四人ばかりそ、乗りて行く。うらやましがりて、「いま一つして雨には局まで車を入るるは咎めな きものそ、とて北の陣より ( ヲ通 はーしギ一は ッテ ) 内裏の車を職の局の階際ま 同じくは」など言へど、「いな」と仰せらるれば、聞きも入れず、情けなきさ で入れさせおきたり」の意とみる。 ゅ むまば 一六ここは道順と五月五日の日取 まにて行くに、馬場といふ所にて、人おほくさわぐ。「何事するそ」と問へば、 りからみて、一条西洞院にある左 一 ^ ゆみい 「手つがひにてま弓射るなり。しばし御覧じておはしませ」とて、車とどめた近の馬場。右近の馬場は一条大宮。 宅騎射・射礼・賭弓などの演習。 り。「右近中将みな着きたまへる」と言へど、さる人も見えず。六位などの立ここは騎射の手番。三日は左近の、 あらてつがい 四日は右近の荒手番、五日は左近 ちさまよへば、「ゆかしからぬ事そ。はやかけよ」とて、行きもて行けば、道の、六日は右近の真手番を行う。 天真弓。一説、馬弓。 あきのぶあそんのいへ も祭のころ思ひ出でられてをかし。かういふ所には、明順の朝臣家あり。「そ一九三巻本「左近中将」。「みな」は 一説、二人いる右近中将をさす。 ゐなか むまかた こもやがて見む」と言ひて、車寄せておりぬ。田舎だち、事そぎて、馬の形か = 0 地下の官人。 三賀茂祭。四月に行われる。 さうじあじろびやうぶみくりすだれ きたる障子、網代屏風、三稜草の簾など、ことさらに昔の事をうっしたる。屋 = = 高成忠 ( 中宮の母貴子の父 ) の三男。左中弁。中宮のおじ。 段のさまは、はかなだちて、端近き、あさはかなれどをかしきに、げにぞかしが = 三部屋を仕切る建具。ここでは ふすまついたて 4 ・ ほととぎす ニ六 襖・立のようなもの。 一西檜皮を網代に編んだ屏風。 ましと思ふばかり鳴き合ひたる郭公の声を、御前に聞しめさず、さはしたひっ 第 ニ五三稜草の茎で編んだ簾。 いねニセ る人々にもなど思ふ。「所につけては、かかる事をなむ見るべき」とて、稲と = 六「さは」または「さば」とみても 4 落ち着かない。三巻本「さばかり」。 げすをんな いふものおほく取り出でて、若き下衆女どもの、きたなげならぬ、そのわたり毛見馴れぬ気持を表す。 ニ四 っ ニ五 きこ のりゆみ

9. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

一六ひたひお あやふ草は、岸の額に生ふらむも、げにたのもしげなくあはれなり。、 しつま大阪府にある。「長居」の名への興 味。つまとりは宮城県古川市付近 で草は、生ふる所いとはかなくあはれなり。岸の額よりも、これはくづれやすという。「妻取り」の名への興味。 セ五月の節供に用いる。 げなり。まことの石灰などには、え生ひずやあらむと思ふぞわろき。事なし草〈水草。などを作る。 わけいかずちのかみ 九賀茂別雷神が夢に託宣した ラしな かぎし は、思ふ事なすにゃあらむと思ふもをかし。また、あしき事を失ふにやと、 のが賀茂祭の葵第頭の由来。 一 0 花慈姑。「面高」の意での興味。 づれもをかし。 = 沼地に生える。 はまにんじん 三三巻杢・ひるむしろ」。浜人参。 った しのぶ草いとあはれなり。屋のつま、さし出でたる物のつまなどにあながち三木や岩につく蔦の一種という。 一九 ニ 0 一四「こだに」の校合文混入か。 よもぎ つばな はまち に生ひ出でたるさま、いとをかし。蓬いとをかし。茅花いとをかし。浜茅の葉一五未詳。特定の草ではないかも。 ひたひ 一六「身ヲ観ズレバ岸ノ額に根ヲ こすげうきくさ あさぢ は、ましてをかし。まろ小菅。浮草。こま。あられ。笹。たかせ。浅茅。あを離レタル草」 ( 和漢朗詠集・無常 ) 。 宅壁に生える草というが未詳。 つづら。 天未詳。「事為し」「事無し」に とくさ おと 木賊といふ物は、風に吹かれたらむ音こそ、いかならむと思ひやられてをか 一九五月の節供に用いる。 はすう はますげ しけれ。なづな。ならしばいとをかし。蓮の浮き葉のいとらうたげにて、のどニ 0 浜菅のことかという。 段 三「こま・あられ・たかせ」不審。 おもて ~ かに澄める池の面に、大きなると小さきと、ひろごりただよひてありく、 しと一三茎がざらざらしているので。 ならしば -6 ニ三不審。「平芝」かとも。 第 をかし。取りあげて、物おしつけなどして見るも、よもにいみじうをかし。八 = 四まるまらないようにするのか。 一宝不審。「四方に」か。 9 へむぐらやますげやまゐひかげはまゆふあしくず 重葎。山菅。山藍。日陰。浜木綿。葦。葛の風に吹きかへされて、裏のいと白 = 六ひかげのかずら。蔓草の一種。 い . ー ) ばひ ニ六 ニ四 や ささ うら 一セ とる。 な

10. 完訳日本の古典 第12巻 枕草子(一)

たか つれもあるを、それしも、葉がヘせぬためしに言は一「はし鷹のとかへる山の椎柴 の木。椎の木は、常磐にい の葉替へはすとも君はかへせじ ( 拾遺・雑恋 ) 。 れたるもをかし。 ニ葉の裏が白いからの名という。 なか 三当時は四位以上は黒袍。黒の 草白樫などいふもの、まして深山木の中にもいとけどほくて、三位二位のうへ 染料はブナ科のクヌギ ( 当時イチ 枕きめ ヒ。『和名抄』に「櫟・橡実」を「イ の衣染むるをりばかりそ、葉をだに人の見るめる。めでたき事、をかしき事に チヒとよむ ) の実から採り白樫か すさのをの ま 申すべくもあらねど、いっとなく雪の降りたるに見まがヘられて、須佐之男らは採れないがクヌギの枯葉の白 つばさを白樫と誤ったかという。 とも あしひき いづも みこと しみ四『拾遺集』冬人麻呂の「足引 命の、出雲の国におはしける御供にて、人麻呂よみたる歌などを見るに、、 の山路も知らず白樫の枝にも葉に ひと じうあはれなり。いひ事にても、をりにつけても、一ふしあはれともをかしとも雪の降れれば」 ( 『万葉集』の原歌 は第四句「枝もとををに」 ) を『綺語 しよう どうもう . しトすー・ 抄』『和歌童蒙抄』では須佐之男命 も聞きおきつる物は、草も木も鳥虫も、おろかにこそおばえね。 六 の作とする。歌語り的伝説があっ ゅづ 譲る葉のいみじうふさやかにつやめきたるは、いと青う清げなるに、思ひか 五この語不審。「人の話」の意か。 くき けず似るべくもあらぬ茎の赤うきらきらしう見えたるこそ、いやしけれどもを六三巻本「ゆづり葉」。 セ亡霊は十二月末日午の刻に来 しはす て正月一日卯の刻に帰るという。 かしけれ。なべての月ごろは、つゆも見えぬものの、師走のつごもりにしも、 〈三巻本「亡き人の食ひ物に」。 の な 時めきて、亡き人の物にも敷くにやと、あはれなるに、またよはひ延ぶる歯固九新年の延寿の祝膳。肉や餅を 食べ歯を食い固めたという。餅な もみぢ めの具にもして使ひたンめるは、、かなるにか。「紅葉せむ世や」と言ひたるどに譲り葉を嗷いたのだろう。 一 0 不祝儀・祝儀に両用している。 かしはぎ = 「旅人に宿かすが野の譲る葉 いとを一かし。 も、たのもしかし。柏木いとをかし。葉守りの神のますらむも、 しらかし しひ つか ときは みやまぎ 四 ひとまろ よ はがた