斎宮 - みる会図書館


検索対象: 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)
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1. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

語 物 △尼上 氏 源△先帝 △母后 賢木 △前坊 ( 故宮 ) △大臣 ( 父大臣 ) 六条御息所 ( し 式部卿宮 朝顔の姫君瀕斎 ) 大宮 左大臣 ( 左の大殿、大臣、致仕の大臣 ) 右大臣 ( 、 △姫君 丘ハ部卿宀呂 ( 親王、父親王、宮 ) 北の方 藤壺中宮 ( 中宮、宮、母宮 ) 春宮 ( 宮 ) 律師 △桐壺更衣 ( 故母御息所 ) 藤少将 桐壺院 ) 頭弁 藤大納言麗景殿女御承香殿女御 弘徽殿大后 ( 大后、垢、姆垢、 后の宮宮大し朱雀帝 朧月夜の君 ( 恥女、女君 斎宮 ( 宮 ) 王命婦 ( 命婦、命婦の君 ) 少納言の乳母 ( 少納言 ) 中将 中将の君 宮の亮 弁 宮の大夫 中納言の君 横川の僧都 紫の上 ( 抦哂の対切姫君、 大将の君、大将殿、 源氏大将、男、君、 殿、客人、右大将 頭中将 ( 馳中将、 《の上 ( 殿の君、故姫君 ) 四の君 二郎 タ霧 ( 若君 )

2. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

かたち くだ ふついでに、かの斎宮の下りたまひし日のこと、容貌のをかしくおはせしなど一別れの櫛の儀での、帝の斎宮 への執着。↓一五五ハー ののみや あけばの三 語らせたまふに、我もうちとけて、野宮のあはれなりし曙もみな聞こえ出でたニ野宮での、源氏と御息所の早 朝の別れ。↓一五二ハー 語 三秘すべき内容なのに、の気持。 物まひてけり。 氏四 四九月二十日。月の出が遅い はつか 源二十日の月ゃうやうさし出でて、をかしきほどなるに、帝「遊びなどもせま五故院の諒闇中で管絃の遊びは できない。晩秋の感興が故院在世 こよひ ほしきほどかな」とのたまはす。源氏「中宮の今宵まかでたまふなる、とぶらのころの管絃の遊宴を追懐させる。 六源氏は、故院の遺言の、東宮 うしろみ ひにものしはべらむ。院ののたまはせおくことはべりしかば、また後見仕うま後見を楯に、その母藤壺への奉仕 を主張。故院追懐の情を底流させ とうぐう た対話は、東宮の話題へと移る。 、いとほしう思ひたまへられはべり つる人もはべらざめるに、春宮の御ゆかり セ東宮を朱雀帝の養子にという 遺言の内容は、他には見えない。 て」と奏したまふ。帝「春宮をば今の皇子になしてなどのたまはせおきしかば、 ^ 後見役の立場から卑下。皇嗣 にかかわる話題だけに応答は慎重。 とりわきて心ざしものすれど、ことにさし分きたるさまにも何ごとをかはとて 0 朱雀帝は、右大臣勢力に操られ かしこ こそ。年のほどよりも、御手などのわざと賢うこそものしたまふべけれ。何ごながらも、源氏と故院追懐に共感 し、東宮擁護の意思を抱いている。 おもて 九蔵人頭で大弁か中弁を兼ねた とにもはかばかしからぬみづからの面おこしになむ」とのたまはすれば、源氏 重職。弘徽殿大后の甥にあたる。 さと 一 0 「べし」まで語り手の挿入句。 「おほかた、したまふわざなど、いと聡くおとなびたるさまにものしたまへど、 権勢の傘下で苦悩がないとする。 = 朱雀帝の女御。 まだいとかたなりに」など、その御ありさまも奏したまひてまかでたまふに、 三『史記』『漢書』に見える故事。 せうととう とうのべん 大宮の御兄弟の藤大納言の子の頭弁といふが、世にあひはなやかなる若人にて、燕の太子丹が秦の始皇帝を討つべ えん

3. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

源氏物語 398 従五位 正 正二位 従二位 正三位 従一一 正四位 従四位 正六位 正五位 位 一、官制は「延喜式」及び「職原抄」にみえるもの。 一、位階は「職原抄」の官位相当の記述を基本とし、明記のないものは令制 ( 官位令 ) 及び「故実拾要」に従った。 官位相当表 一、その他「官職要解」「読史備要」を参照した。 神祇官太政官中務省式部省中宮職大舎人寮陰陽寮囚獄司隼人司弾正台衛門府斎院使按察使検非違使蔵人後宮大宰府国 治部省大膳職図書寮大炊寮正親司織部司 兵衛府勘解由使鎮守府 民部省左右京職内蔵寮主殿寮内膳司采女司 近衛府 兵部省修理職縫殿寮典薬寮造酒司主水司 刑部省 内匠寮掃部寮東西市司 大蔵省春宮坊大学寮斎宮寮 主膳監 宮内省 雅楽寮 玄蕃寮 主殿署 主馬署 諸陵寮 主計寮 主税寮 木工寮 左右馬寮 上 下 下伯 上 下 上 侍従 下大副少納言 大監物 大外記大内記 上少副 大史大丞 下 太政大臣 左大臣 右大臣 内大臣 大納言 中 参 左右大 左右中弁大輔 左右少弁 丱一 大輔 大判事 大丞 中判事 東宮学士 東宮 大夫 大膳大夫 亮 文章博士頭 助典薬助 明経博士斎宮助 頭 内 正 大忠 正少忠 大弼兵衛督勘解由長官按察使 中 少弼近衛少将 衛門佐 兵衛佐 斎院長官 解由次目 将軍佐 当 当 五位 掌侍 典膳 典縫 尚書 六位尚殿 尚酒大監 頭 典典尚尚尚尚 蔵侍縫膳侍蔵 大 帥 大国守 少弐上国守 大国介 中国守

4. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

395 各巻の系図 右大臣ー 葵 桐 △ , 入臣 ( 故父大臣 ) 式部卿宮 大宮 ( 宮 ) 左大臣 ( 大臣、大殿、殿 ) 弘徽殿大后 ( 今后、后 ) 朧月夜の君 ( 御匣殿 ) 朱雀帝 ( 内裏 ) 女三の宮 ( 宮 ) 丘ハ部卿宀呂 ( 父宮 ) 藤壺中宮 ( 后の宮、中宮 ) 春宮 院 ( 帝、院 ) 壺 △ ~ 則坊 ( 前坊、故宮 ) 文尿宀呂 ( 前坊の姫宮 ) 六条御息所 ( 姑自 ~ 所、 朝顔の姫君 ( ?) 頭中将 ()l 一粒艸髜、中 ) 源氏 ( 君、、大将殿、男君 紫の上 ( 対 葵の上 ( 臥鱸殿、 右近の蔵人の将監 惟光 少納一一 = ロの乳母 ( 少納言 ) 弁 中将の君 源典侍 ( む 姫君、一深如 ) 宰相の君 中納言の君 王命婦 ( 命婦の君 ) あてき 暦の博士 タ霧 ( 若君 )

5. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

とまる身も消えしも同じ露の世に心おくらむほどぞは も仰せになって、この自分にも、「このまま宮中でお暮し かなき になるよう」と再三お勧めあそばした、それをすら、まっ ( 後に残る者も、消えてしまった者も等しくはかない露の命たくあるまじきこととお辞り申し、浮世のことはあきらめ の世に生きているだけなのに、その露の世にいつまでも執着ていらっしやったのに、こうして、思いもかけぬことなが しているのは、つまらないことです ) ら、年がいのない恋の物思いに身をゆだねて、あげくのは お恨みもさりながら、どうか一方ではっとめてお忘れくだ て悪い噂を立てられるというはめにまで立ちいたるとは、 さいまし。ごらんにはならないかと存じまして、私のほ , っ とあれこれお悩みになるので、依然としてご気分が普通で でもほんのしるしばかり」と返事をさしあげなさる。 はいらっしやらない。とはいっても、この御息所の一通り 御息所は里邸にいらっしやるときだったので、こっそり の御身の上に関しては、たしなみ深く趣味も豊かなお方と とごらんになって、君がそれとなくほのめかしてお書きに の評判が高く、昔からひろく知られていらっしやったのだ ののみや ふぜい なったお気持を、心のやましさがあるだけにはっきりとお から、斎宮が野宮へお移りになる折にも、風情のある目新 てんじようびと 読み取りになって、やはりそうだったのかとお気づきにな しい趣向をいろいろと試みたりして、殿上人の中でも風流 るにつけても、じつに情けなくお思いになる。やはり、ど好みの者たちは、朝にタに露を踏みわけて野宮へ通うこと うわさ こまでもったないわが身の運だったのだ、このような噂が が、そのころの役目になっている、などとお聞きになるに 立ったら、院におかせられても、 しかがおばしめされるこ つけても、大将の君は、「さもあろう。どこまでもすぐれ とか、亡き東宮の同腹のご兄弟という方々の中でも、お二 たお人柄でいらっしやるのだから。こうした方が、もしも むつ 人はお互いにたいそう睦まじい御間柄でいらっしやって、 世の中に見切りをつけて伊勢に下ってしまわれたなら、さ この斎宮の姫宮の御事についてもこまごまとご遺言にお頼ぞかし寂しくてたまらぬことになるにちがいない」と、さ みあそばしたのだったから、院も、「このわたしが亡き東すがに心細いお気持になられるのだった。 宮の身代りになって、ひき続きお世話申そう」などといっ ことわ

6. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

かつらがは 十六日、桂川にて御祓したまふ。常の儀式にまさりて、長一群行 ( 伊勢下向 ) の日、野宮を 〔五〕群行の日、源氏、 出て桂川で祓をし、宮中での儀式 ぶそうし 御息所と斎宮に消息 奉送使など、さらぬ上達部も、やむごとなくおばえあるをを終え伊勢に向う。規子斎宮の群 行も十六日。准拠説の根拠の一つ。 ニ斎宮を伊勢に送り届ける勅使。 物選らせたまへり。院の御心寄せもあればなるべし。 氏 その長官は、参議または中納言。 源出でたまふほどに、大将殿より例の尽きせぬことども聞こえたまへり。「か = 桐壺院の斎宮母娘への心寄せ。 ↓葵九六・一一一三ハーなど。 おまへ のりと 四神事の縁で祝詞をまねた言辞。 けまくもかしこき御前にて」と、木綿につけて、源氏「鳴る神だにこそ、 五斎宮の御前。 みかみ 六これも神事にちなんだ趣向。 八洲もる国っ御神もこころあらば飽かぬわかれのなかをことわれ セ「天の原ふみとどろかし鳴る 思うたまふるに、飽かぬ、い地しはべるかな」とあり。いと騒がしきほどなれど、神も思ふ仲をばさくるものかは」 ( 古今・恋四読人しらず ) 。 おほむ によべたう ^ 前の「・ : だにを受け、「まし 御返りあり。宮の御をば、女別当して書かせたまへり。 て : ・」の語勢で、母への恋を娘に 哀訴。「国っ神は地上の神、斎宮。 国っ神空にことわるなかならばなほざりごとをまづやたださむ 「ことわる」は判断する意。 す 大将は、御ありさまゆかしうて、内裏にも参らまほしく思せど、うち棄てられ九斎宮寮の、女性の長官。 一 0 贈歌に即しながら、実意のな い言葉と切り返した歌。 て見送らむも人わろき心地したまへば、思しとまりて、つれづれにながめゐた = 宮中での別れの櫛の儀など。 まへり。宮の御返りのおとなおとなしきを、ほほ笑みて見ゐたまへり。御年の三女別当の代作とは知らない。 一三恋の対象として心騒ぐ。 一四たが ほどよりはをかしうもおはすべきかなとただならす。かうやうに、例に違へる一四神に仕える斎宮で、しかも愛 人の娘である者を恋する厄介さ。 わづらはしさに、ゝ 力ならず心かかる御癖にて、「いとよう見たてまつりつべか一五読者の批判を先取りし、恋に やしま 六 一五くせ かむだちめ はらへ ゑ ちゃう

7. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

9 賢木 迫るにつれて寝ても覚めてもお嘆きになっている。斎宮は、 りであるのなら、尽きぬ思いの別れをしなければならぬ、こ 若く無邪気なお気持から、いつまでもはっきりしなかった の一一人の仲についてどうかお裁きくださいまし ) 母君のご同行が、こうしていよいよ決ってきたのを、ただ どう考えさせていただいても、心ゆかぬ心地でございま うれしいとばかりお思いになっている。世間の人は、母君す」とある。ほんとにあわただしいときであるけれども、 のお付添いを先例のないことと、非難したり同情したり、 ご返事がある。斎宮のお歌は、女別当にお書かせになって いろいろに取り沙汰申しあげているようである。万事、人 からかれこれ批判されたりすることのない身分の者は気楽 国っ神空にことわるなかならばなほざりごとをまづや なものである。かえって、世にぬきんでたご身分の方々と たださむ なると、窮屈なことが多いもので : ( 国っ神がもしも空からお二人の仲をお裁きになるのでした かつらがわはらえ ら、あなた様の実意のないお言葉を、まず先におただしにな 〔五〕群行の日、源氏、十六日、桂川で御祓をなさる。常の ちょうぶそうし り・オしょ , っ ) 御息所と斎宮に消息儀式にまさって、長奉送使などやそ かんだちめ の他の上達部も、身分の高い、名望のある人たちをお選び大将は、斎宮母娘のご出立の儀をごらんになりたくて、ご あそばしている。院のご配慮もあったからであろう。 自分も宮中には参上したいとお思いになるけれども、うち ののみや 野宮をご出立になる時分、源氏の大将殿から例によって捨てられた形で見送るというのも、不体裁に感じられるの 書きつくせぬ思いの数々を申し述べてこられた。「申すも で、お思いとどまられて、所在なく物思いにひたっていら おそ 畏れ多い御前に」と、木綿に結びつけて、「鳴る神でさえ っしやる。斎宮のご返事が大人びているのを、笑み顔でご も思い合う仲を裂きはせぬといいますのに、まして、 らんになっている。お年のわりには、さだめし美しいご成 やしま みかみ 八洲もる国っ御神もこころあらば飽かぬわかれのなか 人ぶりなのだろうと、お心を動かされる。このように普通 ひと こころぐせ をことわれ とちがって面倒な事情の女には、必ず心ひかれるお心癖が ( 八島を守っていらっしやる国っ神も、もし思いやりがおあ おありで、「いくらでも拝見できたはずの幼いころの斎宮

8. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

すきびと 生きる好色人としての源氏の本性 りしいはけなき御ほどを、見ずなりぬるこそねたけれ、世の中定めなければ、 をいう語り口。後にも頻出。 一六天皇の譲位や崩御で斎宮も交 対面するやうもありなむかし」など思す。 代。世の無常に、その事態を思う。 宅御息所を特徴づける美質。 、いにくくよしある御けはひなれば、物見車多かる日なり。 〔六〕斎宮と御息所参内、 天午後四時から六時まで。 さるとき みやすんどころ 別れの櫛の儀 一九以下、過往の栄光を回顧。 申の刻に、内裏に参りたまふ。御息所、御輿に乗りたまへ ニ 0 「限りなき筋」は皇后の位。 一九おとどニ 0 るにつけても、父大臣の限りなき筋に思し心ざしていっきたてまつりたまひし三運勢の衰えた晩年。 一三以下、年齢不審。この東宮薨 後の朱雀院立太子の折、朱雀院七 ありさま変りて、末の世に内裏を見たまふにも、もののみ尽きせずあはれに思 歳、源氏四歳 ( 桐壺田一一九ハ -) 。現 おく こみや さる。十六にて故宮に参りたまひて、二十にて後れたてまつりたまふ。三十に在御息所三十歳ならば源氏は十四 歳で、通行年立の二十二歳と矛盾。 ここのヘ ニ三娘の晴儀ゆえに懐古の悲しみ てそ、今日また九重を見たまひける。 にひたりたくないが、東宮妃とし て時めいた往時とはかけ離れた 御息所そのかみを今日はかけじと忍ぶれど心のうちにものぞかなしき 「末の世」の悲しみに屈する歌。 ニ四 斎宮は十四にそなりたまひける。いとうつくしうおはするさまを、うるはしニ四斎宮らしく端正に整う。 一宝心ひかれながら別れる悲しみ。 みかどニ五 木うしたてたてまつりたまへるそ、いとゆゅしきまで見えたまふを、帝御心動き = 六別れの櫛の儀。この時帝は、 斎宮に黄楊の小櫛を挿し、御代が わりの帰京を避けるべく「京の方 しとあはれにてしほたれさせたまひぬ。 て、別れの櫛奉りたまふほど、、 ニ七 におもむきたまふな」と言う。 はっしゃう 出でたまふを待ちたてまつるとて、八省に立てつづけたる毛八省院。中央官庁である。 〔セ〕御息所、斎宮に伴 LO 夭伊勢下向の女房の車。「出車」 いだしぐるま そでぐち いだぎぬ 1 って伊勢へ出発する は出し衣 ( 花宴九〇ハー注一三 ) の車。 出車どもの袖ロ、色あひも、目馴れぬさまに、いにくきけ めな

9. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

269 葵 ろよりもかえって結構なものとお見えになる。ただ、おそ 〔一〕桐壺帝譲位後の源御代があらたまってからは、源氏の 氏と藤壺の宮 ばにおられぬ東宮をまことに恋しく思い申しあげあそばす。 君は、何かにつけてお気が進まず、 それに御身の尊さも加わったためか、軽率な忍び歩きもは東宮の御後見がないのを気がかりに思い申しあげて、大将 とが ひと ひと の君に万事ご依頼あそばすにつけても、君は、気が咎めは ばかられるので、こちらの女もあちらの女も君を待ち遠し く心もとない嘆きを重ねておいでになる、その報いでもあするものの、うれしく思っていらっしやる。 みやすどころ ろうか、君ご自身も、やはり自分につれない方のお心をど〔 = 〕伊勢下向を思案すそれはそうと、あの六条御息所を母 さきのとうぐう る御息所と源氏の心境君とする、前東宮の姫宮が、斎宮に こまでも恨めしくお嘆きになっていらっしやる。その藤壺 おなりになったので、御息所は、大将のお気持もまったく の宮は、帝がご譲位になられた今は、前にもまして、いっ もいつも、まるで臣下の夫婦のようにおそばに付ききりで頼りになりそうもないし、姫宮のまだお年若なのが気がか こきでん いらっしやる、それを、このたび皇太后になられた弘徽殿りであることを理由にして、このさい自分も伊勢へ下って しまおうかしら、と前々から考えていらっしやるのだった。 はおもしろからずおばしめすのか、始終宮中にばかりいら っしやるので、院の御所では、藤壺の宮と肩を並べて競 , っ院におかれても、こうした経緯をお耳にあそばして、「御 ちょうあい 人もなく、気がねのいらぬご様子である。院は、何かの折急所は、亡き東宮がじつにたいせつな人としてご寵愛にな かんげん ったものを、そなたが軽々しく、並々の人と同じ扱いをし 折につけて、管絃のお遊びなどを世間の評判になるほどに ているそうなのはおいたわしいことではないか。わたしは、 盛大にお催しになって、今のお暮しのほうが、ご在位のこ あおい 葵 いきさっ

10. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

くしさ のお姿を見ずじまいになってしまったのは心残りだが、し ので、帝は、お心を動かされて、別れの櫛を挿しておあげ 0 ふじよう かし世の中は不定なものだから、いっかきっと対面するご になるときには、じつに感きわまって、涙をお落しになる のであった。 縁もあるにちがいない」などとお思いになる。 語 物〔六〕斎宮と御息所参内、奥ゆかしくみやびやかなお方の御下〔セ〕御息所、斎宮に伴斎宮がお出ましになるのをお待ち受 別れの櫛の儀 向の装いなので、この日は物見車も って伊勢へ出発するけしようとて、八省院のあたりに並 源 さる さ・ん ~ い み・一し ぐぶ 多く出ている。申の時刻に参内なさる。御息所は、御輿に べ立ててある供奉の女房車の数々からのそいている袖ロや お乗りになるにつけても、父の大臣が、行く末は尊い后の衣装の色合いも、目新しい趣向であり、奥ゆかしい風情な てんじようびと ひと 位にもとお望みになって、たいせつにお世話なさったころ ので、殿上人たちも、それそれなじみの女と別れを惜しむ の有様とはまるで変って、運勢も尽きた末の齢に宮中をご方が多いのである。 とういんおおじ 暗くなるころご出立になって、二条通りから洞院の大路 らんになると、万事無性に悲しいお気持になられずにはい じゅだい らっしゃれない。十六歳で故東宮に入内なさって、二十歳へお曲りになるところは、ちょうど二条院の前なので、大 で死別申しあげなさったのである。そして三十歳になって将の君はほんとに胸にこみあげるものをお感じになって、 * 、かき 楙に結んで、 今日また九重をごらんになるのであった。 すずかやそせ そのかみを今日はかけじと忍ぶれど心のうちにものぞ ふりすてて今日は行くとも鈴鹿川八十瀬の波に袖はぬ かなしき れじゃ ( その昔のことを今日は心にかけまいとこらえているけれど ( 私を振り捨てて今日お立ちになったとしても、鈴鹿川を渡 も、心の中では何とはなしに悲しくてならない ) るころ、その八十瀬の川波に袖がお濡れにならないでしよう かー別れを悔いる涙にお濡れにならないでしようか ) 斎宮は十四歳になられるのだった。まことにかわいらし と申しあげなさったけれども、ひどく暗く、何かと気ぜわ くていらっしやるご容姿を、きちんと装いたてておあげに おうさか なったお姿は、まったく不吉なくらい美しくお見えになる しい折なので、あくる日、逢坂の関の向こうからご返事が そで