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検索対象: 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)
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1. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

源氏物語 72 うしろで しとをこなるべしと思しやすらふ。中寺、 当いかで我と知 . ら一「をこ」は、愚かしいさま。 走らむ後手田 5 ふに、、 ニ親愛する相手に懇願する言葉。 三「好ましは、好色がましい意。 れきこえじと思ひて、ものも言はず、ただいみじう怒れる気色にもてなして、 四見かけはなんとか見られるが。 たち 太刀を引き抜けば、女、「あが君、あが君」と向かひて手をするに、ほとほと五ここではじめて典侍の年齢を 明示。六十に近いとは意外な印象。 四 笑ひぬべし。好ましう若やぎてもてなしたるうはべこそさてもありけれ、五十六えもいわれぬほど若く美しい 源氏十九歳、頭中将一一十三、四歳。 はたち 七八の人の、うちとけてもの思ひ騒げるけはひ、えならぬ二十の若人たちの御セ「つきなし」は、不似合いの意。 ^ 頭中将が別人を装うこと。 中にて物怖ぢしたるいとっきなし。かうあらぬさまにもてひがめて、恐ろしげ九かえって不自然に感じさせる。 一 0 一行目にも「をこ」。ここは、 自分をおどす誰かの芝居と直感。 なる気色を見すれど、なかなかしるく見つけたまひて、我と知りてことさらに 物語は、典侍との話から源氏と頭 しとをかしければ、中将の話へと展開する。 するなりけりとをこになりぬ。その人なめりと見たまふに、、 = 「その人」は頭中将。こんな戯 太刀抜きたる腕をとらへていといたう抓みたまへれば、ねたきものから、えたれは彼以外には考えられまい 三「抓む」は、つねる意。 たはぶ なほし へで笑ひぬ。源氏「まことはうっし心かとよ。戯れにくしゃ。いでこの直衣着一三「をかしきを : ・」 ( 前ハ -) に照応。 一四互いにもみ合う様子。 む」とのたまへど、つととらへてさらにゆるしきこえず。源氏「さらばもろと一五あれこれ引っ張り合ううちに。 一六袖下の縫い合せてない綴じめ。 宅「つつむ」「ほころぶ」「衣」の もにこそ」とて、中将の帯をひき解きて脱がせたまへば、脱がじとすまふを、 縁語で、衣に執した表現。「つつ むーは、衣で包む、秘密を包む、 とかくひこしろふほどに、綻びはほろほろと絶えぬ。中将、 ひとえ の両意。「中の衣」は直衣と単衣の 間に着る中着、さらに衣を引き交 「つつむめる名やもり出でん引きかはしかくほころぶる中の衣に ものお この かひな ほ , : っ っ 六 けしき

2. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

ューモアに一役買っているものに老人がある。 じようねんしようにん 『徒然草』 ( 百五十二段 ) には、さる人物が、年老いて眉が白くなった静然上人の姿を見て、「あな尊の気色 ひのすけとも 論や」と感嘆したところ、日野資朝が、「年の寄りたるに候」と言い、あとから毛の抜けた老犬を「この気色 尊く見えて候ーと言って、その人のもとに送り届けた、という話が出ている。 巻老人の姿を尊いと見る考えがいつごろから日本人のものとなったのか私は知らないが、この資朝の逸話は、 豪放な彼の人柄を物語ってあまりがない こういういわば自然主義的な人間観は、平安朝の貴族の考え方に通ずるものがはなはだ多いように思われ この語り手の寸評が、右の具体的な大夫監像諸元の造型に加わることで、はじめてこの道化の像は完成す るのである。 前半のユーモアは、大夫監像自体が、この物語全体の優雅な世界に対してもっ不調和が生み出すものであ り、後半のユーモアは先行文学を援用した語戯の類で、両者は異質である。しかし、前者の粗野な人間像は、 後者の優雅のヴェールをかけられることで物語の世界に融和され、調和的に救済される、といってよいだろ う。この条の滑稽はそうした複合体なのである。 そのほか、これに続く、大夫監が玉鬘の乳母にうまくごまかされるあたりも、彼が不得意な和歌をめぐる 滑稽であり、和歌は田舎者と都人との文化的落差をつないで、しかもその傾斜度を明示する機能をもつので ある。 まゆ たふとけしき

3. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

源氏物語 18 じゃうず まへり。 いと上手におはすれば、し 、とおもしろう吹きたまふ。御琴召して、内一「羲 . は、絃楽器の総称。 ニ葵の上の御簾の内。 三音楽に心得のある女房たち。 にも、この方に心得たる人々にかせたまふ。 四葵の上づきの女房の一人。 と、つ 中務の君、わざと琵琶は弾けど、頭の君心かけたるをもて離れて、ただこの五「わざと」は、特に、の意。 六頭中将が懸想するのを。 けしき たまさかなる御気色のなっかしきをばえ背ききこえぬに、おのづから隠れなくセ源氏から時たま見そそがれる 情愛を忘れかねている。中務の君 めしうど はいわゆる召人 ( 情交関係のある て、大宮などもよろしからず思しなりたれば、もの思はしくはしたなき心地し 女房 ) とみられる。 〈左大臣の正妻。葵の上らの母。 て、すさまじげに寄り臥したり。絶えて見たてまつらぬ所にかけ離れなむも、 九その場に居づらい気持がして。 一 0 「すさまじ」は、期待が裏切ら さすがに、い細く思ひ乱れたり。 れたり、懸想が冷めたりする感じ。 きんね 君たちは、ありつる琴の音を思し出でて、あはれげなりつる住まひのさまな = やはり源氏を断念しえぬ執心。 一ニ先ほどの末摘花の弾奏。 とをかし , つら , ったき 一三零落の姫君のひそかに隠れた ども、様変へてをかしう思ひつづけ、あらましごとに、し 存在は、好色者たちの最大の関心 人の、さて年月を重ねゐたらむ時、見そめていみじう心苦しくは、人にももて事であった。↓帚木田四九ハー 一四一一行後ー思ひけり」にかかる。 騒がるばかりやわが心もさまあしからむなどさへ、中将は思ひけり。この君のまさかそんなこともあるまいが、 とする語り手の気持。 あり かう気色ばみ歩きたまふを、まさにさては過ぐしたまひてむやと、なまねたう一五「あはれげ」な暮しのままで。 一六相手への憐憫に心痛んでは。 あやふがりけり。 宅見苦しく心を取り乱すことに なろうか、とまで。「さへ」に注意。 一 ^ 「気色ばむ」は、意気ごむ意。 なかっかさ ゃう かた ふ

4. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

一「いぶせしーは気が晴れない意。 ひ出でられさせたまふに忍びがたくて、参りたまはむとて、源氏「内裏などに ニ久方ぶりの参内をこう言った。 うひだ もあまり久しう参りはべらねば、いぶせさに、今日なむ初立ちしはべるを、す三葵の上の。 四病気の葵の上と身近に話せな 語 かった心もとなさを、あえて、相 物こしけ近きほどにて聞こえさせばや。あまりおばっかなき御心の隔てかな」と 氏 手がうちとけてくれない心もとな えん 源恨みきこえたまへれば、女房「げにただひとへに艶にのみあるべき御仲にもあさ、と恨んだ言い方をした。 五すでに子供まで生れた夫婦の 間柄だから、物越しに他人行儀の らぬを、いたう衰へたまへりといひながら、物越しにてなどあべきかは」とて、 対面をする仲でもない。 おまし 臥したまへる所に御座近う参りたれば、入りてものなど聞こえたまふ。御答へ六もう助かるまいと思った時の 葵の上を回想。九死に一生の思い な セ危篤状態にあった時のこと。 時々聞こえたまふも、なほいと弱げなり。されど、むげに亡き人と思ひきこえ ^ うって変って。衰弱の病人が し御ありさまを思し出づれば夢の、い地して、ゆゅしかりしほどのことどもなど急に元気づいて生霊が現れた。 九ここでも「心憂し」。目前の葵 聞こえたまふついでにも、かのむげに息も絶えたるやうにおはせしが、ひき返の上に、過日の物の怪を想起。長 話を「いさや」とためらうゆえん。 しつぶつぶとのたまひしことども思し出づるに、い憂ければ、源氏「いさや、聞一 0 源氏が薬湯の世話などまでも。 = 妻への源氏の深い情愛に感動。 三体力が弱り容色がやつれて。 こえまほしきこといと多かれど、まだいとたゆげに思しためればこそ」とて、 一三生きているのかどうかの。 一四「らうたげ」は、葵の上につい 「御湯まゐれ」などさへあっかひきこえたまふを、何時ならひたまひけんと、 て稀な表現一 。↓一二ハー注五。 三髪の美しさに象徴される葵の 人々あはれがりきこゅ。 上の稀有なまでの美貌 いとをかしげなる人の、いたう弱りそこなはれて、あるかなきかの気色にて一六源氏はあらためて、葵の上の 四 っ けしき

5. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

一自分 ( 源氏 ) を好色な人間だと。 る御気色なむいと心憂き。すきずきしき方に、疑ひょせたまふにこそあらめ。 ニ薄情な気持。 四 三女が自分を信じて気長に構え さりとも、短き心ばへつかはぬものを。人の心ののどやかなることなくて、思 語 てくれないこと。以下、これまで の女性交渉を念頭に置いた発言。 物はずにのみあるになむ、おのづからわが過ちにもなりぬべき。心のどかにて、 四不本意な状態。「のみ」に注意。 源おやはらから六 親兄弟のもてあっかひ恨むるもなう、心やすからむ人は、なかなかなむらうた五女のせつかちが原因でも、結 果的には自分のせいになろう。 八かさやどり かるべきを」とのたまへば、命婦「いでや、さやうにをかしき方の御笠宿には六女の世話をして、婿が悪いと 恨み言をいわないこと。 えしもやと、つきなげにこそ見えはべれ。ひとへにものづつみし、ひき入りたセ疑念、不賛成を表す発言。 ^ 「笠宿」は軒下などでの雨宿り る方はしも、ありがたうものしたまふ人になむーと、見るありさま語りきこゅ。で、恋の立ち寄り所。催馬琴 がかど 之門」↓若紫田二〇二ハー注一。 いと児めかし , つおほどかな九なりえないだろうと。 源氏「らうら , つじうかどめきたる心はなきなめり。 一 0 一途に遠慮深く、引込み思案 であるという点では。 らむこそ、らうたくはあるべけれーと思し忘れずのたまふ。 = 「らうらうじ」は、年たけた者 いとま わらはやみ の美質で、洗練された魅力。「ら 瘧病にわづらひたまひ、人知れぬもの思ひのまぎれも、御心の暇なきゃうに うたし」 ( 可憐だ、の意 ) の対。 三タ顔のことを。 て、春夏過ぎぬ。 一三若紫巻冒頭に「瘧病にわづら 火のころほひ、静かに思しつづけて、かの砧の音も、耳にひたまひて : ことあった時期。 〔をいらだっ源氏、命不 一四藤壺との密通事件をさす。 婦に手引をうながす つきて聞きにくかりしさへ、恋しう思し出でらるるままに、◆以上の物語は、タ顔の死後、若 紫巻前半の時期に遡る事件。 ひたちみや 常陸の宮にはしばしば聞こえたまへど、なほおばっかなうのみあれば、世づか一五タ顔の家で聞いた砧の音や、 九 けしき こころう あやま 一五きめた きぬた

6. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

139 葵 ゐ その夜さり、亥の子餅参らせたり。かかる御思ひのほどな一六色とりどりに。紅・白・黒と 三 0 源氏、三日夜の餅 する説もあるが、未詳。 を紫の上に供する れば、ことごとしきさまにはあらで、こなたばかりに、を宅源氏は、亥子餅から結婚三日 五 目に供される三日夜餅を想起した。 わり′一 かしげなる檜破子などばかりをいろいろにて参れるを見たまひて、君、南の方一〈以下、源氏は暗に、色さまざ まではない、白一色の三日夜餅を 一 ^ もちひ に出でたまひて、惟光を召して、源氏「この餅、かう数々にところせきさまに準備すべく依頼。「今日はいまい ましき」として「明日の暮」という 一九 あす 限定した日時を指定するのも、て はあらで、明日の暮に参らせよ。今日はいまいましき日なりけり」とうちほほ れながらも結婚をほのめかした物 笑みてのたまふ御気色を、心とき者にて、ふと思ひょりぬ。惟光、たしかにも言いである。 一九含みのある笑い え うけたまはらで、惟光「げに、愛敬のはじめは日選りして聞こしめすべきことニ 0 ここでは、男女関係に勘の鋭 い人、の意。惟光らしい個性。 にこそ。さても子の子はいくつか仕うまつらすべうはべらむ」と、まめだちて三源氏の言葉に納得、の気持。 一三結婚の初め。遠回しの表現。 申せば、源氏「三つが一つにてもあらむかし」とのたまふに、、い得はてて立ち = 三明日が子の日なので「亥の子」 をもじった、遠回しの表現。 ニ五な ニ四三分の一。 ぬ。もの馴れのさまや、と君は思す。人にも言はで、手づからといふばかり、 一宝「心とき」惟光への源氏の評。 ニ六自身が手を下すほどの熱心さ 里にてぞ作りゐたりける。 で。「里」は、惟光の自邸。 毛略奪結婚を想定した表現。 君は、こしらへわびたまひて、今はじめ盗みもて来たらむ人の心地するもい 夭紫の上と契ってはじめて抱く かたはし とをかしくて、「年ごろあはれと思ひきこえつるは片端にもあらざりけり。人感動から、移ろいやすいのが人間 の心であると、一般化した表現。 ニ九「ものにはあれ」に同じ。 の心こそうたてあるものはあれ。今は、一夜も隔てむことのわりなかるべきこ これみつ ニ九 こもちひ ニ七 ニ六

7. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

源氏物語別 そで 一女の口ずさむ歌の「朧月夜」に て、ふと袖をとらへたまふ。女、恐ろしと思へる気色にて、女「あなむくつけ。 よりながら、二人の出会うべき宿 縁の深さを強調。「月のおばろけ」 こは誰そ」とのたまへど、源氏「何かうとましき」とて、 と「おばろけならぬ契り」を結ぶ。 くるるど ニ枢戸の内側から、細殿の間に。 源氏深き夜のあはれを知るも入る月のおばろけならぬ契りとそ思ふ 三奥に通ずる枢戸。 四以下、色好みの人として自信 とて、やをら抱き降ろして、戸は押し立てつ。あさましきにあきれたるさま、 に満ちた言葉。「かやうにて世の いとなっかしうをかしげなり。わななくわななく、女「ここに、人」とのたま中の : ・」 ( 前ハー ) の自覚とも照応。 五この「わびし」は、困惑の気持。 みなひと へど、源氏「まろは、皆人にゆるされたれば、召し寄せたりとも、なんでふこ外聞への怖れであろう。 六無愛想で強情な女には見られ とかあらん。ただ忍びてこそ」とのたまふ声に、この君なりけりと聞き定めて、まい。源氏に心ひかれる反応。 セ以下「 ( 源氏も )••・けん」「女も : べし」と、語り手の推量に委ね いささか慰めけり。 ながら、一一人の情交を暗示。 な * 一け わびしと思へるものから、情なくこはごはしうは見えじと思へり。酔ひ心地 ^ 「強き心」は、強く拒む気持。 九官能の時間が一瞬に過ぎる。 くちを や例ならざりけん、ゆるさむことは口惜しきに、女も若うたをやぎて、強き心一 0 困惑と恋慕で感情が乱れる。 = 「なほとあり、源氏はこれま で再三、女の名を尋ねていた。 も知らぬなるべし、らうたしと見たまふに、ほどなく明けゆけば、、いあわたた 一ニ便りのしようもない、の意。 一 0 し。女は、まして、さまざまに思ひ乱れたる気色なり。源氏「なほ名のりした一三名を知らぬからとて、「草の 原」 ( 死後の魂のありか ) を尋ねな つもりか、のい力。。 まへ。いかでか聞こゅべき。かうてやみなむとは、さりとも思されじ」とのた 心を傾けてしまった女の、相手に 情愛を確かめる気持。源氏が執拗 まへば、 た 四 いだ けしき ゑ

8. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

源氏物語 % き御ありさまのうしろめたさにことつけて下りやしなましとかねてより思しけ一「ことつけて」に注意。幼い姫 君の伊勢下向への同伴を口実に、 こみや り。院にも、かかることなむと聞こしめして、院「故宮のいとやむごとなく思源氏への未練を断ち切るべく決意。 ばくじよう ニ斎宮ト定の時点からであろう。 かるがる 0 源氏の冷淡さに悩む御息所像は、 し、時めかしたまひしものを、軽々しうおしなべたるさまにもてなすなるがい 早くタ顔巻 ( 田一一九ハー ) にも点描。 つら とほしきこと。斎宮をもこの皇女たちの列になむ思へば、いづ方につけてもおしかし物語の本格的な展開はここ から開始。源氏と御息所との仲は すでに終末的な様相である。 ろかならざらむこそよからめ。心のすさびにまかせてかくすきわざするは、、 三「故宮」は前坊。桐壺院の兄弟。 けしき と世のもどき負ひぬべきことなり」など、御気色あしければ、わが御心地にもその死後に朱雀院が立坊したこと になる。以下、桐壺院は、故宮の げにと思ひ知らるれば、かしこまりてさぶらひたまふ。院「人のため恥がまし厚遇を得た御息所の過去の栄光に 比して現在の薄幸ぶりを思う。 きことなく、し 、づれをもなだらかにもてなして、女の恨みな負ひそ」とのたま四源氏が御息所を。 三この「なり」は伝聞の意。院は そくぶん はするにも、けしからぬ心のおほけなさを聞こしめしつけたらむ時と恐ろしけ源氏の冷淡さを仄聞し、同情する。 六自分 ( 桐壺院 ) の皇女と同列に。 セ御息所を疎略にせぬがよい。 れば、かしこまりてまかでたまひぬ。 ^ 心の勢いにまかせて。 九「人」は、特に御息所をさす。 また、かく院にも聞こしめしのたまはするに、人の御名もわがためも、すき 一 0 源氏の藤壺思慕をさす。 = 御息所のご名誉にとっても。 かきし , ついとほ 1 ) キ、に、、 しとどやむごとなく心苦しき筋には思ひきこえたまへ 一ニ公然と正式な結婚の形レ ど、まだあらはれてはわざともてなしきこえたまはず。女も、似げなき御年の一三源氏二十二、御息所二十九歳。 一四相手の気持に遠慮しているか のようにふるまう。源氏は相手に ほどを恥づかしう思して心とけたまはぬ気色なれば、それにつつみたるさまに かた ′」 0

9. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

1 一口 一王命婦 ( ↓一八七ハー末 ) 以外に とのたまふもほの聞こゆれば、忍ぶれど涙ほろほろとこばれたまひぬ。世を思 も、出家した女房がいるらしい ひすましたる尼君たちの見るらむも、はしたなければ、言少なにて出でたまひニ冷静になりえない源氏は、冷 静な視線をあびて、きまりわるい 三以下、老女らの源氏評。 物ぬ。「さもたぐひなくねびまさりたまふかな。心もとなきところなく世に栄え、 氏 四 「一つもの」は、同様のもの、 ひと 源時にあひたまひし時は、さる一つものにて、何につけてか世を思し知らむと推が原義。ここは、恵まれた人に共 通の世間知らず、の意。 しはかられたまひしを、ムフはいといたう思ししづめて、はかなきことにつけて五人生や世の現実が分らぬ意。 六人を感動させるような感じま でが備って、の意。 も、ものあはれなる気色さへ添はせたまへるは、あいなう心苦しうもあるか セすぐれた人柄なのに、世に重 な」など、老いしらへる人々うち泣きつつめできこゅ。宮も思し出づること多用されぬ不合理さをいう気持。 ここは、一月中旬の地方官任 じもく 命の除目。↓一六一ハー注一五。 九年功上昇進すべきとする道理。 つかさめし たまは つかさ 司召のころ、この宮の人は賜るべき官も得ず、おほかたの一 0 年爵。宮司などを名目上の地 〔三一〕藤壺・源氏方への 方官として位田を支給、その所得 だうり 圧迫左大臣辞任する 道理にても、宮の御賜りにても、かならずあるべき加階なを上皇・東宮・皇后のものとした。 一一中宮出家の場合でも、すぐに どをだにせずなどして、嘆くたぐひいと多かり。かくても、いっしかと、御位と、位を廃したり御封を停止した り・はす・ ( い を去り御封などのとまるべきにもあらぬを、ことつけて変ること多かり。みな三封戸。官位勲功に応じて賜る 民戸。中宮には千五百戸。その地 す かねて思し棄ててし世なれど、宮人どもも拠りどころなげに悲しと思へる気色租の半分、庸・調の全部が所得。 一三出家を理由に。所得が減って、 とうぐうみ どもにつけてそ、御心動くをりをりあれど、わが身をなきになしても春宮の御形ばかりの中宮となった。 、刀 . り・ 六 けしき かかい

10. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

語 物 氏 一口が悪すぎるとして、読者の の裾にたまりて引かれたるほど、一尺ばかり余りたらむと見ゅ。 反発を封じこめる語り口。 きんじき 着たまへる物どもをさへ言ひたつるも、もの言ひさがなきゃうなれど、昔物 = 紅や紫の薄い色。禁色の対。 三もとの色が分らなくなるほど。 ゆるしいろ うはじら さう」く くろてん 語にも人の御装束をこそまづ言ひためれ。聴色のわりなう上白みたる一かさね、四黒貂の皮をつぎ合せ、綾の裏 四 をつけて綿を入れた衣服。 うちき うはぎ ふるきかはぎめ なごりなう黒き袿かさねて、表着には黒貂の皮衣、いときよらにかうばしきを五黒貂の皮衣は村上朝までは貴 人に着用されたという。主に男用。 着たまへり。古代のゆゑづきたる御装束なれど、なほ若やかなる女の御よそひ六対照的で目だつ意。 セ昨夜の女房らの会話を受ける。 ^ 青白い顔色をさすか。一説に いともてはやされた。されど、げに、 には似げなうおどろおどろしきこと、 寒さで鼻が赤い、とする。 九慮外さにロもきけない。 この皮なうて、はた、寒からましと見ゆる御顔ざまなるを心苦しと見たまふ。 一 0 姫君の無口に対する表現。 = 前の源氏の歌。↓二五ハー 何ごとも言はれたまはず、我さヘロとぢたる心地したまへど、例のしじまもこ 三袖や扇でロの辺を隠すこと。 しやく ころみむと、とかう聞こえたまふに、いたう恥ぢらひて、ロおほひしたまへる一三笏を持って肘を張る儀式官の 格式ばった姿を想起。 ぎしきくわんね ひぢ 一四不体裁なほどちぐはぐで。 さへひなび古めかしう、ことごとしく儀式官の練り出でたる肘もちおばえて、 一五「すずろ」は、物事がある状態 けしき におのずと進み出るさま。ここで さすがにうち笑みたまへる気色、はしたなうすずろびたり。いとほしくあはれ は、姫君の、説明しがたいさま。 にて、いとど急ぎ出でたまふ。源氏「頼もしき人なき御ありさまを、見そめた一六逃げ出す口実をもうけて。 宅「たるひ」は「垂る氷」で、つら むつ ら。「溶け」にうちとける意を、 る人には疎からず思ひ睦びたまはむこそ、本意ある心地すべけれ、ゆるしなき 「つらら」に「つらし」を、「むすば 一六 ほる」 ( 凍る意 ) に気持が晴れる意 御気色なれば、つらう」などことつけて、 すそ 一 0 ひじ