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検索対象: 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)
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1. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

しく吹いて、灯は消えてしまっていたが、それをともしつ よう。そんなふうにしていらっしやるのはいけません。素 なにがしのいんものけ ける人もいない。あの某院で物の怪におそわれた折のこ直なのが何よりでございます」などとお教え申しあげるの とをお思い出しになって、荒れはてている様子はあそこに で、姫君は、引込み思案とはいうものの、さすがに人の申 語 物劣らないようだが、部屋が狭く、人の気配がいくらかは多しあげることに逆らったりはなさらないご性質とて、何か 氏 いのが多少心丈夫に思われるものの、そっと無気味な感じ と身づくろいして、いざり出て来られる。君は見ぬふりを 源 で、寝つけそうにもない夜の有様である。しかしそれはそ して、外の方を眺めていらっしやるけれども、横目づかい れで興深くもあり、またしみじみと気分をそそられもし、 も普通ではなく、どうかしらん、うちとけ姿の多少でも見 普通とはちがうところに心ひかれてしかるべき風情なのに、 まさりするところがあったらうれしかろうに、とお思いに ここに住む姫君がただ引込み思案で風流気がなく、まるで なるのも、無理なご注文というものではある。 ばっとしないのを、残念なこととお思いになる。 まず第一に、居丈が高く胴長にお見えになるので、ああ やっとのことで夜も明けてきた気配なので、格子をご自やつばり、と胸のつぶれる思いである。続いて、なんとも 分でお上げになり、前庭の植込みの雪をごらんになる。人見苦しいと思われるのは鼻であった。思わずそこに目がと ふげんばさっ の踏み分けた足跡もなく、遠くのほうまで一面に荒れてい まる。普賢菩薩の乗物かと思われる。あきれるばかり高く て、ひどく寂しい感じなので、このまま姫君を振り捨てて長く伸びていて、先の方が少し垂れて赤く色づいているの 帰ってしまうのもかわいそうな気がして、「美しい朝空の が、格別に情けない感じである。顔の色は雪も顔負けする 景色をごらんなさい。し 、つまでも遠慮だてしていらっしゃ くらいに白くて、青みをおび、額つきはこのうえもなく広 るのでは困ってしまいます」と恨み言を申しあげなさる。 いうえに、下半分も長い顔だちは、多分おそろしく長顔な あたりはまだ薄暗いけれども、雪明りで、君のお姿がます のであろう。痩せていらっしやることといったら、おいた そう ) 」う ます気高く若々しくお見えになるのを、老女房たちは相好わしいほどに骨ばっていて、肩の辺などは、衣の上からで みと をくずして見惚れ申している。「早くお出ましになりますも痛そうに見える。どうして何もかも残らず見届けてしま

2. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

「紅の花ぞあやなくうとまるる梅の立ち枝はなっかし んになって、自分からこの紅粉を塗りつけ赤く染めてごら けれど んになると、こんなにいい顔でも、こうして赤い色がそこ ( 赤い花だけはどうにも好きになれない。紅梅の高く伸び立 にくつついていては、見苦しいのも当然であった。姫君が 語 っている枝には心ひかれるけれども ) 物ごらんになって、ひどくお笑いになる。「わたしがこんな 氏 にみつともなくなってしまったら、どうでしよう」とおっ いやはや」と、どうにもならず、ついため息をおっきにな 源 る。 しやると、「いやでございますわ」と言って、本当にその まま赤く染みつきはせぬかと心配しておいでになる。君は こういう方たちのその後は、どういうことになったのだ ろ - , つ、か 拭き取るまねをして、「どうしても白くならない。つまら おかみ ないいたずらをしたものだ。主上がなんと仰せられるか」 と、とても真剣そうにおっしやるのを、姫君はほんとにお かわいそうにとお思いになって、そばに寄ってお拭き取り へいちゅう になるので、「平中のように、よけいな色をつけてはなり カまんできるけれど」と、冗 ませんよ。まだ赤いのなら、 ; 談をおっしやる様子は、まことに好ましいご兄妹とお見え かすみ になる。日がじつにうららかなうえに、もう早速一面に霞 こずえ のかかっている木々の梢が、いっ咲くのかと待ち遠しいな かにも、梅のつばみがふくらんで、今にもほころびそうな は . しがくし 気配を見せているのが格別に際だっている。階隠のもとの 紅梅は、とくに早くから咲く花で、もう赤く色づいている のだった。 くれなゐ た

3. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

に」とお思いになることまでも悲しくて、 はかりしれぬものであろう。なおさらのこと、この女君の うすずみ 限りあれば薄墨ごろもあさけれど涙そそでをふちとな場合嘆きの深さは無理からぬものがある。また、このお方 しける がたった一人の姫君でいらっしやることさえ物足りなくお ( 定めがあるので薄墨色の衣を着けてはいるけれども、深い 思いだったのに、今は袖の上の玉が砕けてしまった、とか ふち 悲しみの涙がその薄墨色の袖を、深い深い淵ー藤の色に変え いうのよりもなお嘆かわしい有様である。 てしまったではないか ) 大将の君は、二条院にさえ、ほんのしばらくもお越しに ねんず ねんご と詠じて、念誦をなさるお姿は、ひとしおあでやかさがま ならず、しみじみと心底から亡きお方をしのび嘆いて、懇 ひき′一え ほうかいざんまいふげんだい して、経文を低声にお読みになりつつ、「法界三昧普賢大ろに仏前のお勤めをなさっては、日々を過していらっしゃ とな 士」とお唱えになるお姿は、勤行が身についている法師よ る。あちらこちらのお通い所にはお便りだけをおさしあげ になる。 りも殊勝に見える。若君をごらんになるにつけても、「何 さえもんのつかさ に忍ぶの」と、なおさら涙をさそわれるけれども、もしも あの御急所は、斎宮の姫宮が左衛門府にはいっておしま けっさい こうした忘れ形見までもなかったとしたら、とお気持を慰 いになったので、一段ときびしい御潔斎にかこつけて文通 めていらっしやる。 申しあげることもなさらない。君は、憂きものと身にしみ 母宮は悲嘆に沈んで、そのままお起き上がりにならず、 て感じる世の中も、 いっさいが厭わしくおなりになって、 きずな お命にもさわりそうにお見えになるので、またそれが一騒 このような絆である若君さえ生れてこなかったら、念願と きとう ぎで、御祈疇などおさせになる。 する出家の生活にもはいってしまおうものを、とお思いに わけもなく日数が過ぎてゆくので、御法事の用意などを なるが、それにつけても、ますもって対の姫君が寂しくし 葵 おさせになるにつけても、お思いよりにもならなかったこ ておいでだろうと、その様子をふと思いやらずにはいらっ しゃれない。 ととて、どこまでもあきらめられず悲しいことではある。 ワとりえ みちょう 取柄のない、ふつつかな子であってさえ、人の親の思いは 夜は、御帳の中に一人でおやすみになると、宿直の女房 とのい

4. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

誰もみな気をゆるめている。院をはじめとして、親王がた が続いているのも気がかりだし、かといってまた親しくお かんだちめ うぶやしない や上達部が一人残らずお催しになる産養の数々の珍しく立目にかかるとなれば、どんなものだろうか、いやな気分に 派なことを、そのお祝いの夜ごとに見て大騒ぎをする。そ なるにちがいないので、あの方のためにもお気の毒と、 のうえ、御子が男児でいらっしやるので、その間の作法は ろいろにお考えめぐらされて、お手紙だけをおあげになる のだった。 にぎやかに、また申し分なく結構に催される。 あの御息所は、このようなご様子をお耳になさるにつけ ひどくおわずらいになった女君の御病の名残も不安で、 きとく ても心穏やかではない。一度は女君がもうご危篤との噂だ どなたも油断は禁物と心配していらっしやるので、それも ったのに、よくもまあ無事に、と妬ましくお思いになるの無理からぬこととて大将の君はお忍び歩きもなさらない だった。どうも不思議なことと、我ながら我ならぬような やはり女君がじつに苦しそうにばかりしていらっしやるの お気持をたどってごらんになると、お召物などにもすっか で、君は平素のようなご対面もまだなさらない。若君がま り護摩に焚く芥子の香がしみこんでいる。それが不審なの ったくそら恐ろしいくらい美しくお見えになるお姿なのを、 で、御髪をお洗いになったり、お着替えなどなさったりし君が今のうちから格別たいせつにお世話申しあげなさるご て、においが消えるかとお試しになるけれども、依然とし様子は並一通りではなく、左大臣も、すべて望みがかなっ て変りがないので、わが身にしてすら疎ましくお感じにな たというお気持で、うれしくありがたいことと思い申しあ るのだから、ましてや世人が何と言い、何と思うことだろ げていらっしやるが、それにつけてもただ女君のご気分が すっかりよくおなりではないのを不安にお感じになるけれ うなどと、誰にも言えることではないので、ご自分の胸一 つに悩んでいらっしやると、ますます平常のお心をお失く ども、あれほどに重くおわすらいになった名残にちがいな 葵 しになる。大将殿よ、、 。しくらかお気持も落ち着かれると、 いとお考えになって、そうどこまでもご心配になるわけで あまりにも想像を絶していたあのときの問わず語りも厭わもない。 しくお思い出しになっては、ほんとに御息所へのご無沙汰 ′一ま みぐし

5. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

うとろ′レ」 お遊びにばかり夢中になっていらっしやるので、それをき疎々しく気づまりなお気持になっていらっしやるのであろ まりわるく思わせてさしあげようと考え、そう言うと、姫うが、しいて何気ないふうを装って、冗談口をたたかれる 君はお心の内に、「それでは、わたしには夫ができたのだ 君のお仕向けに対しては、そうどこまでも気強くはなされ った。この人たちの夫というのは醜い者ばかりだのに、わないで、ついご返事などを申しあげなさるご様子が、やは ひと たしはこんなにも美しい若い人を夫にしたものよ」と、今 りほかの女とは格別といった感じである。女君のほうが四 歳ばかり年上でいらっしやるので、少し大人だけに、君も にしてお分りになるのだった。何といっても、お年が一 しるし っ加わった証というわけであろう。このように幼げなご様気づまりなくらい、今を盛りにととのってお見えになる。 このお方のどこに不足なところがおありなのだ 子が、何かにつけて目だつので、邸内の人々も、合点のゆ かぬことと思、つのだったけれども、まさかこれほどに世間 ろう、自分のあまりにもけしからぬ浮気沙汰ゆえに、この そいぶし ように恨まれ申すのだと、ご自身も反省せずにはいらっし 離れした御添臥であろうとは思ってもいないのであった。 〔を源氏、左大臣邸に源氏の君が宮中から左大臣邸にご退やれない。同じ大臣と申しあげる中でも、世の信望の重く なか 退出翌日藤壺へ参賀出になると、女君はいつものように ていらっしやる父大臣が、皇女であられる北の方のお腹の おももち 一人娘とてたいせつにお育てになったための気位の高さが 端然ととりすましたご様子で、やさしく素直な御面持もお 見せにならず、気づまりに感ぜられるので、「せめて今年じつに無類なので、少しでも粗略なお扱いがあると、もっ つま , っ からでも、もう少し世間の夫婦並にお改めくださるお気持てのほかのこととお思い申しあげられるのだが、い冫 賀 がみえるのでしたら、どんなにうれしいことでしよう」な男君は男君で、何もそれほどに、という態度をいつもおと みぞ 葉 どとお申しあげになるけれども、女君は、君がことさら りになる、そのようなお二人の心の溝というわけなのであ 紅 ろう。 に他の女を迎えてたいせつにしていらっしやるとお聞きに 5 なってからは、きっとその人を大事な奥方と定めておいで 大臣も、このように頼りにならぬ君のお心を、恨めしく なのだろうと、しぜんそれがこだわりになって、いよいよ お思い申していらっしやるけれども、さて実際にお目にか ひと

6. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

源氏物語 56 へど、御年の数添ふしるしなめりかし。かく幼き御けはひの事にふれてしるけ一夫婦の関係にない添臥。「添 臥」は、添寝する妻や愛人のこと。 そひぶし れば、殿の内の人々もあやしと思ひけれど、 いとかう世づかぬ御添臥ならむとニ以下、葵の上の、きちんと端 麗にとりすました挙措。 は田 5 は、り・ - け一り % 三元旦ゆえの言い方。 四少し世間並の夫婦らしく。 内裏より、大殿にまかでたまへれば、例の、うるはしうよ五源氏がわざわざ自邸に愛人を 〔セ〕源氏、左大臣邸に 迎えて寵愛しているという噂を。 退出翌日藤壺へ参賀 そほしき御さまにて、心うつくしき御気色もなく苦しけれ「 : ・思さるべし」まで挿入句。 六源氏はその人を大事な方と。 一とし セしいて冷淡に無関心を装う。 ば、源氏「今年よりだに、すこし世づきてあらためたまふ御心見えば、しカ 前にも「思はずにのみ」 ( 五一ハー ) 。 五 うれしからむ」など聞こえたまへど、わざと人すゑてかしづきたまふと聞きた ^ 源氏のくだけた冗談口に適当 に応ずる葵の上を賞揚してもいる。 六 九「子の上」で、兄・姉、の意。 まひしよりは、やむごとなく思し定めたることにこそはと、いのみおかれて、 源氏十八歳、葵の上一一十一一歳。 とど疎く恥づかしく思さるべし、しひて見知らぬゃうにもてなして、乱れたる一 0 年かさらしい品位を備え、源 氏が気おくれするほど立派で。 御けはひにはえしも心強からず、御答へなどうち聞こえたまへるは、なほ人よ = 前にも「あるまじきすさびご と」 ( 五一ハー ) が出来するとあった。 九 一 0 りはいとことなり。四年ばかりがこのかみにおはすれば、うちすぐし恥づかし三世間の人望が重々しい意。 一三葵の上の母は、桐壺帝の妹。 げに、盛りにととのほりて見えたまふ。何ごとかはこの人の飽かぬところはも一四少しでも疎略に扱われるのを。 一五源氏の、なぜそれほど葵の上 のしたまふ、わが心のあまりけしからぬすさびにかく恨みられたてまつるそかの機嫌を取らねばならぬかの態度。 一六夜離れの続くことなどをさす。 おとど し、と思し知らる。同じ大臣と聞こゆる中にも、おばえやむごとなくおはする宅実際に源氏に対面すると、あ よとせ けしき

7. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

かっていらっしやると、恨めしさも忘れて、なにくれと懸れて恐ろしいまでにご器量をお上げになるご様子ですね」 きちょうすきま 命に世話をしておあげになる。翌朝、君がお出かけになる と、女房たちがおほめ申しあげるのを、宮は、几帳の隙間 ところに大臣がお顔をお出しになって、ちょうど君は装束から、ほのかにごらんあそばすにつけても、なにくれとお 語 物を召していらっしやるので、有名な御石帯を大臣ご自身お胸をお痛めになることが多いのであった。 氏 持ちになっておいでになり、御装束の後ろをお直しするな 〔 0 皇子の誕生と、源ご出産は、十二月も過ぎてしまった 源 氏・藤壺の苦悩 のが気にかかって、いくらなんでも ど、まるでお沓を取らんばかりにお世話をなさるのが、ほ この正月にはと、宮づきの人々もお待ち受け申しあげ、帝 んとにおいたわしいお姿である。「このようにご立派なお もしかるべきお心づもりなどあそばすのに、その気配もな 品は、内宴などと申す催しもございますこととて、そうし ものけ くてこの月も過ぎてしまった。御物の怪のせいかと、世間 た折に用いさせていただきましよう」などとお申しあげに うわさ なると、「その折のにはもっとよいのもございます。これの人々も騒がしくお噂申しあげるのを、宮はまことに心細 いお気持になられて、このことのために身を滅ばすことに は、ただ珍しい形をしておりますので」とおっしやって、 なるにちがいないとお嘆きになるにつけても、まったくご 強って着用おさせになる。いかにも、万事この君をたいせ よ、よそれ つにお世話申し、お眺め申しておられると、生きがいが感気分も悪くおわずらいになる。中将の君よ、、 みずほう じられて、たとえ時折であってもよい、かような人を婿君と思いあたることがあって、御修法などを、はっきり目だ たぬように寺々でおさせになる。この世が無常であるにつ としてわが邸に出入りさせてみる喜びにまさる幸せはある まい、とお見えになる君のお姿である。 けても、宮との仲が、このままでもしやはかなく終ってし 参賀にお出ましになるのにも、君はそうあちらこちらへまうのではなかろうかと、あれやこれや思案を抱えて嘆い いちのいん ていらっしやるうちに、二月十余日のころ、皇子がご誕生 おまわりにならず、宮中と東宮と一院ぐらいで、そのほか おそばしたので、今までのご心配も消しとんで、帝も三条 には藤壺の三条宮に参上なさる。その君を、「今日はまた 宮の人々もお喜び申しあげなさる。これからは長く生きな 格別に美しくお見えになりますこと。お年を召されるにつ ( 原文五八ハー ) た くっ せきたい

8. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

363 巻末評論 下手くそな恋文を贈る条に付け加えて、「才かしこくなどそものしたまひける」 ( 真木柱 ) という。この場合 才学は鬚黒の魅力を増すうえに何の力にもならなかったのである。 鬚黒の滑稽の基調は、前述のように、やばな中年男がにわかに色恋に狂い出す皮肉のおもしろさにあるわ けだが、その堅物を印象づける要素に、この種の「才、を含めているのは、作者の思考形式を見るうえの一 ずいのう つの手懸りとなるだろう。源氏が煩わしい和歌の髄脳について悪口をいったり、末摘花がいつもいつも判で 押したように「からごろも」の陳腐な歌を贈ってくるのに業を煮やすのも、同じ理屈である。空疎な形式主 義を憎む心が、それらのものをからかうューモアとなり、諷刺となったのである。ここでもやはり、問題は そうした人々の心にあるといえるだろう。 へた ぎえ

9. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

だいはんどころ 一命婦は主上づきの女房。 またの日、上にさぶらへば、台盤所にさしのぞきたまひて、源氏「くはや、 ニ女房たちの詰所。清涼殿西廂。 きのふ 昨日の返り事。あやしく心ばみ過ぐさるる」とて投げたまへり。女房たち、何三呼びかけの発語。 語 四過度に気骨が折れる、の意。 物ごとならむとゆかしがる。「ただ、梅の花の、色のごと、三笠の山の、をとめ = 姫君、の返事を結び文にして。 六赤鼻の姫君をあてこする歌。 源 をば、すてて」と、うたひすさびて出でたまひぬるを、命婦はいとをかしと思『花鳥余情』は「たたらめの花のご と掻練好むやげに紫の色好む ひとゑ ふ。心知らぬ人々は、女房「なぞ。御独り笑みは」ととがめあへり。命婦「あらや」 ( 政事要略・衛門府風俗歌 ) を掲 げる。「たたらめの鼻」 ( 鍛冶の炉 しもあ一 をつかさどる巫女の赤鼻 ) から「た ず。寒き霜朝に、掻練このめるはなの色あひや見えつらむ。御つづしり歌のい だ梅の花」に転じたか。また「三笠 とほしき」と言へば、女房「あながちなる御事かな。この中には、にほへるはの山」の春日神社が常陸の鹿島神 社と同じ祭神ゆえ、常陸宮の姫君 さこんのみやうぶひごのうねべ なもなかめり。左近命婦、肥後采女やまじらひつらむ」など心もえず言ひしろを連想。 セ練って糊を落した柔らかな絹。 紅色が普通 9 「このめるはなの色 ふ。御返り奉りたれば、宮には女房つどひて見めでけり。 あひや」は前掲の風俗歌による。 ^ 一句ずつ短く切りながら歌っ 源氏逢はぬ夜をへだつる中の衣手にかさねていとど見もし見よとや た「ただ : ・すてて」の歌をさす。 九二人とも鼻が赤いらしい 白き紙に捨て書いたまへるしもそ、なかなかをかしげなる。 一 0 源氏からの返歌を姫君に。 っ′ ) もり ッ ) ろ・もばこ れう ぞひとぐ 晦日の日、タっ方、かの御衣箱に、御料とて人の奉れる御衣一具、葡萄染の = 姫君の「衣」に執し、「衣だに 中にありしは疎かりき逢はぬ夜を 織物の御衣、また山吹かなにぞ、いろいろ見えて、命婦そ奉りたる。ありし色さへ隔てつるかな」 ( 拾遺・恋三 読人しらず ) による。「へだつる」 くれなゐ一六 あひをわろしとや見たまひけんと思ひ知らるれど、「かれ、はた、紅のおもおは、夜を隔てる、仲を隔てる、の かいねり 五 えびぞめ

10. 完訳日本の古典 第15巻 源氏物語(二)

そら とうぐう 春宮の女御、かくめでたきにつけても、ただならず思して、「神など空にめで一東宮 ( 後の朱雀帝 ) の母、弘徽 殿女御。以前から源氏方に反感。 こころう によう・はう かたち つべき容貌かな。うたてゆゅし」とのたまふを、若き女房などは、心憂しと耳 = 山神が幼い雅明親王の舞姿を 1 = ロ 賞でるあまり神隠しにしたという 物とどめけり。藤壺は、おほけなき心のなからましかば、ましてめでたく見えま説話 ( 大鏡、昔物語 ) などによるか。 三帝に寵愛されながらも源氏と 源 密通したという畏れ多い気持。そ しと思すに、夢の心地なむしたまひける。 れがなければ源氏の麗姿を素直に せい力しー 五 とのゐ 賞賛しえたはずだとする。 宮は、やがて御宿直なりけり。帝「今日の試楽は、青海波に事みな尽きぬな。 四悪夢の中にさまようような、 悩ましいわが運命を思う。 しかが見たまひつると聞こえたまへば、あいなう御答へ聞こえにくくて、 五帝に侍して試楽を見てのち、 藤壺「ことにはべりつーとばかり聞こえたまふ。帝「片手もけしうはあらずこそ藤壺の局には下がらすに、そのま ま帝の夜の御寝に侍した。 見えつれ。舞のさま手づかひなむ家の子はことなる。この世に名を得たる舞の六心ならずも、の意。帝の問い に応答すべきなのに、の気持。以 下、帝だけが多弁である点に注意。 男どもも、げにいとかしこけれど、ここしうなまめいたる筋をえなむ見せぬ 九 セ「家の子」は、良家の子弟。 もみぢかげ 〈「ここ ( 子々 ) し」は、おっとり、 試みの日かく尽くしつれば、紅葉の蔭やさうざうしくと思へど、見せたてまっ の意。「なま ( 生 ) めく」とともに 「家の子」の初心で新鮮な芸を推称。 らんの心にて、用意せさせつる」など聞こえたまふ。 九行幸当日の紅葉の陰での舞楽。 っとめて中将の君、「いかに御覧じけむ。世に知らぬ乱り一 0 藤壺を思慕する源氏の迷乱。 〔ニ〕翌朝、源氏と藤壺、 = 「袖ふる」は、相手の魂を招き 和歌を贈答する 寄せる古代的表現ともいわれる。 心地ながらこそ。 舞の所作にそれを言いこめたか。 三なんと畏れ多いことか。 もの思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うちふりし心知りきや をのこ , 一ころ によう′ ) し く