51 常夏 けしき 見入れたまふ。このいとこも、はた気色はやれる、五節「御返しや、御返しや」内大臣の感想。 とう 天貴人は殿舎内の通行にも先払 と、筒をひねりて、とみにも打ち出でず。中に思ひはありやすらむ、いとあさ しをさせた。ここは近江の君に気 づかれまいと制した。 かたちニ四 あいぎゃう へたるさまどもしたり。容貌はひぢちかに、愛敬づきたるさまして、髪うるは一九五節のほうもまた、はしゃい で。「いとこ」は親しい人。 ひたひ しく、罪軽げなるを、額のいと近やかなると、声のあはつけさとに損はれたる = 0 双六の賽を入れ振り出す用具。 三よい賽を出そうと、ためらう。 一三「さざれ石の中に思ひはあり なめり。とりたててよしとはなけれど、他人とあらがふべくもあらず、鏡に思 ながらうち出づることのかたくも すくせ ひあはせられたまふに、、 しと宿世心づきなし。 あるかな」 ( 紫明抄 ) 。 ニ三「浅ふ」。無思慮である、の意。 ニ六 内大臣「かくてものしたまふは、つきなくうひうひしくなどやある。こと繁く = 0 以下、近江の君。「ひぢぢか」 は親しみやすい意か。↓澪標 3 一 したど 二九ハー注三 0 。 のみありて、とぶらひ参でずや」とのたまへば、例のいと舌疾にて、近江の君 一宝自分 ( 内大臣 ) と近江の君とが、 「かくてさぶらふは、何のもの思ひかはべらむ。年ごろおばっかなくゆかしく他人であるとは思われない意。 一宍内大臣の、近江の君を女御の 思ひきこえさせし御顔、常にえ見たてまつらぬばかりこそ、手打たぬ心地しは侍女にと考える下心からの発言。 毛自分 ( 内大臣 ) の職は激務。 ニ九 べれ」と聞こえたまふ。内大臣「げに。身に近く使ふ人もをさをさなきに、さや = ^ 常に拝せぬことだけが手を打 たぬような、じれったい思いです うにても見ならしたてまつらんとかねては思ひしかど、えさしもあるまじきわ が。「手打つ」は、双六のよい目が 出る意。低俗な遊戯用語で応じた。 三 0 ざなりけり。なべての仕うまつり人こそ、とあるもかかるも、おのづから立ち = 〈私の傍らで、いつも。 三 0 これが一般の奉公人であれば。 まじらひて、人の耳をも目をも必ずしもとどめぬものなれば、心やすかべか三一誰にも関心をもたれないので。 かろ そこな
ゑひな まふと恨みきこゅべくなん」などのたまひて、酔泣きにや、をかしきほどに気父子の礼。「高祖五日ニ一タビ大 公ニ朝スルコト、家人父子ノ礼ノ 色ばみたまふ。タ霧「いかでか。昔を思うたまへ出づる御かはりどもには、身如シ」 ( 史記・高祖本紀 ) 。 三孔子の教え、儒教。孝を重ん す を棄つるさまにもとこそ思ひたまへ知りはべるを、いかに御覧じなすことにかずる儒教精神から、自分を父とし て重んじてほし、、 の意をこめた。 はべらん。もとより愚かなる心の怠りにこそ」とかしこまりきこえたまふ。御一六私 ( 内大臣 ) を。 宅亡き祖父母 ( 左大臣・大宮 ) や 一九 ず たまは 時よくさうどきて、内大臣「藤の裏葉の」とうち誦じたまへる、御気色を賜りて、母 ( 葵の上 ) が存生していた昔。 はや 一 ^ 頃合いを見計らって囃したて。 まらうと さかづき 頭中将、花の色濃くことに房長きを折りて、客人の御盃に加ふ。取りてもて一九「春日さす藤の裏葉のうらと けて君し思はば我も頼まむ」 ( 後撰 ・春下読人しらす ) 。結婚の許諾 悩むに、大臣、 の意をこめた。この巻の名の由来。 ニ 0 「紫」は雲居雁。「待っ」「松」、 紫にかごとはかけむ藤の花まつよりすぎてうれたけれども うれ 「憂れ」「末」の掛詞。藤の花が松 宰相盃を持ちながら、気色ばかり拝したてまつりたまへるさま、いとよしあり。の木末を越えた景に、タ霧に待ち 遠しい思いにさせられた意をこめ る。藤と松の構図は和歌に多い タ霧いくかへり露けき春をすぐしきて花のひもとくをりにあふらん ニ一返礼の拝舞。 一三「露けき」は恋仲を隔てられた 葉頭中将に賜へば、 悲涙。「花のひもとく」は、開花す 裏 る、本望がかなって逢う、の両意。 柏木たをやめの袖にまがヘる藤の花見る人からや色もまさらむ ニ四 藤 ニ三「藤の花」は雲居雁。相手 ( タ ずんなが 霧 ) しだいで一段と映えよう。 次々順流るめれど、酔ひの紛れにはかばかしからで、これよりまさらず。 ニ四酒盃が回って各人が歌を詠む。 七日のタ月夜、影ほのかなるに、池の鏡のどかに澄みわたれり。げに、まだ一宝これ以上の歌が出ない。 ゅふづくよ はニ おこた
一「心」は花を散らすまいとの心。 「取りあへぬ」に「鳥」をひびかす。 自分の不用意な笛では調和を崩す 「心ありて風の避くめる花の木にとりあへぬまで吹きやよるべき として、六条院の美しさを讃える。 ロなさけ ニと言うので、ぐらいの意。 物情なく」と、みなうち笑ひたまふ。弁少将、 三「ねぐらの鳥」は梅の枝の鶯。 源 この「ほころぶ」は鳥が鳴き出す意。 かすみだに月と花とをへだてずはねぐらの鳥もほころびなまし 四前歌の、夜明け前を受ける。 あがた まことに明け方になりてぞ、宮帰りたまふ。御贈物に、みづからの御料の御五薫物の判者、宮への贈物 六源氏自身の着料の。 なほし ひとくだり ^ たきものふたつば セ直衣・烏帽子・指貫の三種か。 直衣の御よそひ一領、手ふれたまはぬ薫物二壺添へて、御車に奉らせたまふ。 ^ 昨夜試みなかった薫物二壺。 九「花の香」は贈物の梅花の薫香。 「えならぬ袖」も源氏から贈られた 直衣。「事あやまり ( 女との過失 ) 」 花の香をえならぬ袖にうっしもて事あやまりと妹やとがめむ があったかと「妹 ( 妻 ) 」に咎めだて られるほどだとして、贈物を讃美。 とあれば、源氏「いと屈じたりや」と笑ひたまふ。御車繋くるほどに追ひて、 一 0 ひどく弱気な、の意の冗談。 ふるさとびと = 「古里人」は前歌の「妹」を受け、 源氏「めづらしと古里人も待ちぞみむ花のにしきを着てかへる君 宮邸の人の意。「花のにしき」も 。いといたうからがりたまふ。次々の君「えならぬ袖」を受け、「夜の錦」の またなきことと思さるらむ」とあれ、 故事 ( ↓ 3 三六四ハー ) をもじった表 現。「古里人」ともひびきあう。 たちにも、ことごとしからぬさまに、細長、小袿などかづけたまふ。 三宮は六条院を讃美したつもり 一四おとどいぬとき だが、源氏の大仰な表現に屈服。 かくて、西の殿に戌の刻に渡りたまふ。宮のおはします西 〔四〕姫君の裳着の儀 一三頭中将、弁少将など。 はなちいで みぐしあげないし 中宮、腰結役を務める の放出をしつらひて、御髪上の内侍なども、やがてこなた 0 タ霧と柏木・弁少将また源氏と 宰相中将、 四 九か 一 0 くん こ、っち・き 六 れう
語 物 氏 源 なと思ひ騒がるるを、まして、草むらの露の玉の緒乱るるままに、御心まどひ一以下、中宮の野分への動揺。 ニ「朝夕露の光も世の常ならず、 もしぬべく思したり。「覆ふばかりの袖」は、秋の空にしもこそ欲しげなりけ玉かとかかやきて」 ( 前ハー ) に照応。 露の吹き散るのを、玉を貫く糸が みかうし れ。暮れゆくままに、物も見えず吹き迷はして、いとむくつけければ、御格子切れて乱れ散るのに見立て、さら に、いの乱れるさまを言いこめた。 五 三「大空に覆ふばかりの袖もが など参りぬるに、うしろめたくいみじと花の上を思し嘆く。 な春咲く花を風にまかせじ」 ( 後 おとど せんぎい 南の殿にも、前栽つくろはせたまひけるをりにしも、かく撰・春中読人しらず ) 。 〔ニ〕タ霧六条院にまい 四格子を下ろす意。 り紫の上をかいま見る 吹き出でて、もとあらの小萩はしたなく待ちえたる風のけ五庭前の花が見えず、気がかり。 六紫の上の御殿。「秋の前栽」も しきなり。折れ返り、露もとまるまじく吹き散らすを、すこし端近くて見たままじえてある。↓少女団一四二ハー セ「宮城野の本あらの小萩露を ひむがしわた おとど ふ。大臣は、姫君の御方におはしますほどに、中将の君参りたまひて、東の渡重み風を待つごと君をこそ待て」 ( 古今・恋四読人しらず ) 。風は つまどあ どのこさうじかみ 殿の小障子の上より、妻一尸の開きたる隙を何心もなく見入れたまへるに、女房風でも、野分ではひどすぎる意。 ^ 萩の枝が。繰り返しの意も。 おと びやうぶ のあまた見ゆれば、立ちとまりて音もせで見る。御屏風も、風のいたく吹きけ九露、少しも、の両意。 一 0 紫の上は。 ひさしおまし れば、押したたみ寄せたるに、見通しあらはなる廂の御座にゐたまへる人、も = 源氏は、明石の姫君のもとに。 三タ霧。野分の見舞に来訪。 一七あけばのかすみ のに紛るべくもあらず、気高くきよらに、さとにほふ、い地して、春の曙の霞の = = 寝殿から東の対に通ずる建物。 「小障子」は、、 さい衝立。 かばざくら 間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す。あぢきなく、見たてま一四烈風で、廂に入る妻戸が開く。 この偶然がタ霧にかいま見させる。 あいぎゃう つるわが顔にも移り来るやうに、愛敬はにほひ散りて、またなくめづらしき人一五廂の間のご座所の人、紫の上。 六 おほ けだか ひま うへ を
ら、として、結婚を許す意をこめている。この歌の「藤」 された男の抗議。後半二段が、抗議の対象にされた弟嫁の れもまた、ゆかりの色として前項の表現に照応する。また、 反論。「葦垣」は、葦で作った垣。「真垣」は、小枝などで この歌からこの巻の名が出た。 作った垣。「てふ」は、勢いよく越すさま。「たれ」は、誰 あしがきまがき はや 語 ・・ 3 葦垣真垣真垣かきわけてふ越すと負ひ越とも解せるが、囃しことばと解した。「親」は母親であろ 物 う。「とどろける」は、うるさいことで鳴りひびいている 氏すとたれ 源てふ越すと誰か誰かこのことを親に申よこし申しし意で、「弟嫁」にかかる。「弟嫁」は、諸説あるが、弟の嫁 おとよめ とどろけるこの家この家の弟嫁親に申よこしけら と解した。「菅の根の」は枕詞。「すがな」は、「すがなし」 しも ( 孤独で心楽しまぬ意 ) の語幹。物語では、タ霧と雲居雁が あめっち そう 天地の神も神も証したべ我は申よこし申さず ついに結ばれる夜、内大臣家で催された宴で、次男の弁少 すが うた 菅の根のすがなすがなきことを我は聞く我は聞く 将によって謡われる。内大臣はこの歌を、二人の仲をさい 、刀子′ ( 催馬楽「葦垣」 ) ) てきた自分に当てつけがましいと思いながらも、この場に ひと 男あの女の家の葦垣、真垣をかき分けて、とんと踏み越す ふさわしく戯れて、「とどろけるこの家ーの歌詞を「年 と、あの女を背負って越すと、タレ。 経にけるこの家」と、名門の旧家の意に謡い替えてもみ とんと踏み越すと、 いったい誰が、誰がこのことを、あの女る。内大臣家の人々の、わが家の繁栄を祝い、タ霧・雲居 の親に告げロしたのか。 雁の結婚を祝う気持が、これに象徴されている。 うるさいことで評判の、この家の、この家の弟嫁が、親に告 ・・ 4 恋ひわびて死ぬてふことはまだなきを世のため げロしたらしいよ。 ( 後撰・恋六・一 0 三七壬生忠岑 ) しにもなりぬべきかな あかし 恋に苦しんで死ぬということはまだなかったけれども、あの 弟嫁天地の神も神も、無実なことの証を立ててくれ、私は告 げロは申しません。 人を恋うこの苦しみは世のためしになってしまいそうである。 気にいらぬ、おもしろからぬことを、私は聞く、私は聞くの詞書に「つれなくはべりける人に」とある。『古今六帖』 です。 に「恋しきに死ぬるものとは聞かねども世のためしにもな 男が女をおびき出そうとするが、告げロする者があって失りぬべきかな」 ( 第四「恋」 ) 。物語では、タ霧が雲居雁と結 うわさ ばれた夜、彼女を相手に、自分の恋は世のためしにもなり 敗するという内容。前半三段が、女をおびき出したと噂さ まう
31 蛍 ニ 0 った人で。夫人の一人ぐらいに。 夢見たまひて、いとよく合はする者召して合はせたまひけるに、「もし年ご 考えていたのだろう。 ろ御、いに知られたまはぬ御子を、人のものになして、聞こしめし出づること一五つまらぬ愛想づかしをして。 実は、内大臣の正妻の迫害を恐れ て身を隠したのだが、ここでの内 や」と聞こえたりければ、内大臣「女子の人の子になることはをさをさなしかし。 大臣はそれを語ろうとしない。 一六「くさはひ」は材料。ここでは、 いかなることにかあらむ」など、このごろぞ思しのたまふべかめる。 政権争いに活用できる娘という意。 宅玉鬘の存在を。一時は忘れて いたのに、の意。功利的な動機か ら娘を捜し出そうとする。 天源氏をはじめ皆が。 一九立后や入内の失敗をいう。 ニ 0 夢の吉凶を正確に占う者。 若紫田一九一ハー注一一五。 ニ一誰かが養女にしているとする。 一三この叙述によれば、養女は当 時珍しかったらしい ニ三語り手の推測 0 玉鬘が実父内大臣に知られる日 も遠くないらしい。それにしても 源氏の懸想はどうなるのか。読者 の期待を次巻以後につなぎながら、 この巻は終る。 をむな′」
な」 ( 拾遺・雑上菅原道真の母 ) 。 かくて、御参りは北の方添ひたまふべきを、「常にながな 〔九〕姫君入内の際、明 = 下に、分るまい、の意。 石の君を後見役とする がしうはえ添ひさぶらひたまはじ。かかるついでに、かの三してやられた、ぐらいの気持。 一三人目をごまかして這うように うしろみ 御後見をや添へまし」と思す。上も、「つひにあるべきことの、かく隔たりて逢うのだろう。語り手の推測。 一四一門を代表する女性が付き添 うべきだが、の意。紫の上が相当。 過ぐしたまふを、かの人もものしと思ひ嘆かるらむ。この御心にも、今はやう 一五実母明石の君を後見役として。 ゃうおばっかなくあはれに思し知るらん。方々心おかれたてまつらんもあいな一六紫の上。 宅最終的には姫君が実母といっ ニ 0 しょに暮すことになろうとする。 し」と思ひなりたまひて、紫の上「このをりに添へたてまつりたまへ。まだいと 一 ^ 姫君のお気持としても、今で は実母を、気がかりで恋しいと。 あえかなるほどもうしろめたきに、さぶらふ人とても、若々しきのみこそ多か 一九自分が実母からも姫君からも。 めのと れ。御乳母たちなども、見及ぶ事の心いたる限りあるを、みづからはえっとし = 0 明石の君を姫君に。 ニ一幼く弱々しい年齢。十一歳。 一三私 ( 紫の上 ) 自身が。 もさぶらはざらむほど、うしろやすかるべく」と聞こえたまへよ、 ししとよく田 5 ニ三実母が付き添えば安心、の意。 しよるかなと思して、「さなん」とあなたにも語らひのたまひければ、いみじ品明石の君に。 一宝高貴な紫の上に劣らぬほどに。 さうぞく ニ六明石の君の母、尼君。 葉くうれしく、思ふことかなひはつる心地して、人の装束何かのことも、やむご 毛不定の命にまで執念を燃やし となき御ありさまに劣るまじくいそぎたつ。尼君なん、なほこの御生ひ先見たて。姫君に再会するのが生きがい。 藤 ニ〈姫君の入内後は、今よりいっ ひと ニ七 しふね てまつらんの心深かりける。いま一たび見たてまつる世もやと、命をさへ執念そう会いがたいと思う。 ニ九入内の当夜。昼間でなく、夜 ニ九よ くなして念じけるを、いかにしてかはと思ふも悲し。その夜は、上添ひて参り参入するのが通例らしい。 ニ四 一九 かたがた ニ六 さき ニ五
1 一口 やがて御覧ずれば、すぐれてしもあらぬ御手を、ただ片か一蛍兵部卿宮の持参した草子を。 〔 0 源氏をはじめ、人 ニそれが一つの才能だが、の意。 人の仮名を論評する に、しといたう筆澄みたるけしきありて、書きなしたま具体的には、次の「いといたう : 四 けしき」 ( じつにすっきりと、あか ふること みくだり 物へり。歌もことさらめき、側みたる古一一 = ロどもを選りて、ただ三行ばかりに、文ぬけた感じ、の意 ) をさす。 三技巧をこらして、変った好み 源字少なに好ましくぞ書きたまへる。大臣御覧じ驚きぬ。源氏「かうまでは思ひの古歌。風流人らしい撰歌である。 四一首を三行程度に、ほとんど す たまへずこそありつれ。さらに筆投げ棄てつべしや」とねたがりたまふ。蛍宮全部仮名で。 五巧者すぎて、こちらが書く意 おも たはぶ 「かかる御中に面なく下す筆のほど、さりともとなん思うたまふる」など戯れ欲を失った。大げさなほめよう。 六名手のなかで臆面もなく。 たまふ。 セ下手でも、まあまあというと ころ。「戯れ」言のゆえんである。 書きたまへる草子どもも、隠したまふべきならねば、取う出たまひて、かた ^ 源氏の書かれた草子の数々。 九紙質の堅いものに。 一う から 前ジ注一八。 みに御覧ず。唐の紙のいとすくみたるに、草書きたまへる、すぐれてめでたし一 0 ↓↑ = 紙面のきめ細かい感触の。 はだ と見たまふに、高麗の紙の、膚こまかに和うなっかしきが、色などははなやか三↓前ハー注一八。 一三ごらんになる宮の感涙までも。 をむなで ならで、なまめきたるに、おほどかなる女手の、うるはしう心とどめて書きた一四筆跡。涙もそれに沿い流れる。 一五紙屋紙は公文書用の粗末な紙。 みづくき まへる、たとふべき方なし。見たまふ人の涙さへ水茎に流れそふ心地して、飽ここでは、それとは別の、紙屋院 特製の色紙をいう。 く世あるまじきに、またここの紙屋の色紙の色あはひはなやかなるに、乱れこ一六草仮名の乱れ書き。書法の様 式の一つをいう。 さう 一七 る草の歌を、筆にまかせて乱れ書きたまへる、見どころ限りなし。しどろもど宅型にとらわれず自在に書いて 一うし くだ かむやしきし なご す え で
( 現代語訳三一一六 り」と、うち嘆きて出でたまひぬ。 一五「言ひけん」まで、鬚黒の心内。 ひとよ 一六鬚黒の薄情さへの語り手の評。 一夜ばかりの隔てだに、まためづらしうをかしさまさりておばえたまふあり鬚黒の玉鬘への熱中ぶりをも暗示。 宅「うきこと」は、北の方の狂乱。 ニ 0 こ、」ろう 、ヤも き、、まこ、、 レしとど心を分くべくもあらずおばえて心憂ければ、久しう籠りゐたま「燻ゆる」「悔ゆる」の掛詞。前歌 の嫉妬の意を後悔の意に切り返す。 へり。 一 ^ 想外の北の方の狂乱が噂され る不都合さを思う。↓一五三ハー。 ずほふ 修法などし騒げど、御物の怪こちたく起こりてののしるを聞きたまへば、あ「中間」は、式部卿宮の怒りから北 ニ三 の方が引き取られ、源氏の不信か きず ら玉鬘との仲も切れる事態。 るまじき疵もっき、恥ぢがましきことかならずありなんと恐ろしうて寄りつき ニ五 一九以下、玉鬘との逢瀬。 ことかた きみ ニ 0 玉鬘以外の女には。 たまはず。殿に渡りたまふ時も、他方に離れゐたまひて、君たちばかりをそ、 三北の方への気持。 呼び放ちて見たてまつりたまふ。女一ところ、十二三ばかりにて、また次々男 = = 鬚黒が玉鬘の所で、使者から。 ふたり ニ三「疵」は不名誉。以下、自邸に 二人なんおはしける。近き年ごろとなりては、御仲も隔りがちにてならはした戻れば何をされるか分らぬ恐怖心。 一西時折、自邸に帰る折もある。 まへれど、やむごとなう立ち並ぶ方なくてならひたまへれば、今は限りと見た一宝北の方のいない部屋に。 ニ六子供らを母から離して呼ぶ意。 毛鬚黒と北の方の子供らの紹介。 柱まふに、さぶらふ人々もいみじう悲しと思ふ。 夭本来は。↓一四五ハー一〇行。 三 0 父宮聞きたまひて、「今は、しかかけ離れてもて出でたま = 九北の方 三〕式部卿宮、北の方 真 三 0 前の発言 ( 一四六ハー ) に酷似。 おも を引き取ろうとする ふらむに、さて心強くものしたまふ、いと面なう人笑へな三一北の方を無視して玉鬘に熱中。 = 三辛抱は、無駄であるばかりか、 ることなり。おのがあらむ世の限りは、ひたぶるにしも、などか従ひくづほれ世間の物笑いの種になる、とする。 ニ四 ものけ 三ニ ニ七ひと ニ九
が、稀有な体験のとまどいを表象。 宰相の君「いづ方のゆゑとなむ、え思し分かざめりし。何ごとも、わりなきまで、 宅自分自身の心から招いた苦悩。 おほかたの世を憚らせたまふめれば、え聞こえさせたまはぬになむ。おのづか一〈「妹背山、「ふみ」は前歌と同 様。「まどひける道」は柏木の恋の ながゐ らかくのみもはべらじ」と聞こゆるも、さることなれば、柏木「よし、長居し迷い。「たれも」は、自分も、の意。 ニ四 一九前ハー四 ~ いづ方に : ・」に対応。 らふ かくごん はべらむもすさまじきほどなり。ゃうやう﨟つもりてこそは、恪勤をも」とて柏木が弟の立場か否か不明瞭。 ニ 0 姫君 ( 玉鬘 ) はあまりにも世間 立ちたまふ。 に気がねなさるようだから。 いつまでもこうではあるまい えん 月隈なくさし上がりて、空のけしきも艶なるに、い とあてやかにきょげなる一三時期尚早でよろしからぬ時期。 ニ六 ニ三役立っことが多くなれば。 かたち さいしゃうの 容貌して、御直衣の姿、好ましく華やかにていとをかし。宰相中将のけはひ = 四「恪勤」は、精励、の意。 一宝前に「月の明かき」。時の経過。 ありさまには、え並びたまはねど、これもをかしかめるま、、ゝ。、ゝ 。しカてカカる御仲柏木を月光に映える貴人と捉える。 ニ六タ霧を柏木にまさる人とする。 毛タ霧と柏木。玉鬘と柏木とも。 らひなりけむと、若き人々は、例の、さるまじきことをもとりたててめであへ ニ ^ さほどでもないことをも。 ニ九柏木は鬚黒と同じ右近衛府の。 三 0 玉鬘との縁談を内大臣に。↓ ニ九 すけ 大将は、この中将は同じ右の次将なれば、常に呼びとりつ 袴六〕鬚黒大将、玉鬘に 三一摂関として政治の実権を握る おとど 対して熱心に言い寄る つ、ねむごろに語らひ、大臣にも申させたまひけり。人柄こと。その理由は後述。 藤 三ニ「下形」は地盤の意。候補者。 おほやけ うしろみ したかた もいとよく、朝廷の御後見となるべかめる下形なるを、などかはあらむと思し三三内大臣が婿とするのに支障な いと。次の「かの大臣ーは源氏。 三四 三四源氏と玉鬘との愛人関係。 ながら、かの大臣のかくしたまへることを、いかがは聞こえ返すべからん、さ 0 ニ五くま 一九 なほし れい 三 0 三三 ニ七