現代語 - みる会図書館


検索対象: 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)
361件見つかりました。

1. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

5 凡例 2 本文の見開きごとに注番号を通して付け、その注釈は見開き内に収めるように心がけた。だが、スペ ースの関係で、時には前のページあるいは後のページの注を参照するよう、↓を付してページと注番号 を示した。 3 『源氏物語一・二』 ( 第一冊・第二冊 ) を参照すべきことを示す場合は、次のようにした。 〇↓帚木田四九ハー ( 本文を参照する場合 ) ↓タ顔田一一一八ハー注一四 ( 脚注を参照する場合 ) ↓賢木〔一四〕 ( 本文中の太字見出しの章段を参照する場合 ) 語釈は、スペースの許すかぎり、語義・語感・語法・文脈・物語の構成・当時の社会通念などにもふ れながら、読解・鑑賞の資となるよう心がけた。 5 段落全体にわたる問題、とくに鑑賞・批評などには、 0 を付して記した。 6 引歌がある部分の注は、当該引歌とその歌が収録されている作品および作者とをあげるにとどめ、引 歌の現代語訳と解説とは、巻末付録「引歌一覧」に掲げた。 7 登場人物・官職・有職故実については、本文の読解・鑑賞に必要な範囲内にとどめたので、巻末付録 の「系図」「官位相当表」「図録」をも併せて参照されたい。 一、現代語訳については、次のような配慮のもとに執筆した。 原文に即して訳すことを原則としたが、また独立した現代文としても味わい得るようにつとめた。 2 そのために、必要に応じて、①主語・述語の補充、②語順の変更、③会話・独白 ( モノローグ ) ・心内 語・引用における「」の添加、④文中の言いさしの言葉には下に補いの言葉の付加などの工夫をした。 3 和歌は、全文を引用したのち、その現代語訳を ( ) 内に示した。

2. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

源氏物語 6 4 見出しは、本文に付したのと同じ見出しを現代語訳の該当箇所に付けた。 原文と現代語訳との照合の検索の便をはかり、それぞれ数ベージおきの下段に、対応するべージ数を 示した。 一、巻末評論は、本巻所収の巻々に関連して問題となるテーマを一つとりあげて論じた。 一、巻末付録として、「引歌一覧」「各巻の系図」「官位相当表」「図録」「地図」を収めた。 一、本巻の執筆にあたっての分担は、以下のとおりである。 本文は、阿部秋生が担当した。 脚注は、秋山虔と鈴木日出男が執筆した。 現代語訳は、秋山虔が執筆した。 4 巻末評論は、今井源衛が執筆した。 5 付録の「引歌一覧」は、鈴木日出男が執筆した。 一、その他 1 ロ絵の構成・選定・図版解説については田口栄一氏を煩わせた。 2 ロ絵に掲載した『源氏物語須磨図色紙』については和泉市久保惣記念美術館の、『源氏物語関屋図屏 風』については静嘉堂文庫の、『源氏物語絵合冊子表紙絵』については天理図書館の協力を得た。

3. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

みるめ 一「海松布」「見る目」、「浦古 藤壺見るめこそうらふりぬらめ年へにし伊勢をの海人の名をや沈めむ り」「心古り」の掛詞。「海松布」 をむなごと ひとまき かやうの女言にて乱りがはしく争ふに、一巻に言の葉を尽くしてえも言ひやら「浦」「伊勢をの海人」 ( 須磨三七 ハー ) 「沈め」が縁語。海人の住む海 語 わかうど うへ 物ず。ただ、あさはかなる若人どもは死にかへりゆかしがれど、上のも、宮のも浜のわびしい景に流離の業平像を 氏 形象。源氏の流離ともひびきあう。 平典侍の歌よりも業平像が鮮明。 源片はしをだにえ見ず、いといたう秘めさせたまふ。 ニ女たちのとりとめのない論議。 大臣参りたまひて、かくとりどりに争ひ騒ぐ心ばへどもを三絵に心得のない若い女房たち。 〔セ〕朱雀院、秘蔵の絵 四帝づき、藤壺づきの女房も。 六 かちまけ 巻を斎宮の女御に贈る かしく思して、源氏「同じくは、御前にてこの勝負定めむ」 0 左方が作中人物の精神の高潔さ、 古代への回帰に論評の基準を置く とのたまひなりぬ。かかることもやとかねて思しければ、中にもことなるは選のに対し、右方は朝廷とのかかわ り、現代的な華麗さを重視する。 五源氏の大臣。 りとどめたまへるに、かの須磨、明石の二巻は、思すところありてとりまぜさ 六帝の御前で。 せたまへりけり。中納言もその御心劣らず。このころの世には、ただかくおもセ「なり」に注意。源氏個人の意 思よりも、宮廷全体の関心による。 あめしたいとな しろき紙絵をととのふることを天の下営みたり、源氏「今あらため描かむこと ^ 源氏の、かねてよりの心用意。 九特に秀抜の絵は残していた。 は本意なきことなり。ただありけむかぎりをこそ」とのたまへど、中納言は人一 0 前に「中宮ばかりには : ・」 ( 一 八四ハー一三行 ) とあったのに照応。 にも見せで、わりなき窓をあけて描かせたまひけるを、院にもかかること聞か = 紙に描いた絵。 三無理に部屋を用意して秘密裡 むめつば に製作。源氏とは対照的な措置。 せたまひて、梅壺に御絵ども奉らせたまへり。 一三朱雀院。次文以下、斎宮の女 うちせちゑ じゃうず 年の内の節会どものおもしろく興あるを、昔の上手どものとりどりに描ける御への絵の贈与の経緯とともに、 ( 現代語訳三一一四ハー ) かた ふたまき え

4. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

須磨 : 明石 : ・ 澪標 蓬生・ 関屋 : 校訂付記 : 巻末評論・ 凡例 : 目次 原文現代語訳

5. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

まにまほならず描きすさび、なまめかしう添ひ臥してとかく筆うちやすらひた一六以前の「とりどりに」 ( 前ハー ) 帝 寵を競い合う均衡が崩れた。 まへる御さま、らうたげさに御心しみて、いとしげう渡らせたまひて、ありし宅負けず嫌いで、現代ふうには きはきした性分。 一 ^ 「はげむ」に注意。わが女御の よりけに御思ひまされるを、権中納言聞きたまひて、あくまでかどかどしくい 劣勢を知り、挽回すべく斎宮方へ じゃうず まめきたまへる御心にて、我人に劣りなむやと思しはげみて、すぐれたる上手の挑戦に心を奮い立たせる。 0 後宮での帝寵の優劣は、その後 どもを召し取りて、いみじくいましめて、またなきさまなる絵どもを、一一なき見者の政治的命運を左右する。お のずと二人の権勢争いとなる。 紙どもに描き集めさせたまふ。権中納言「物語絵こそ心ばへ見えて見どころある一九当今一流の絵師であろう。 ニ 0 後に皆を驚かせて一気に劣勢 え ものなれーとて、おもしろく心ばへあるかぎりを選りつつ描かせたまふ。例のを挽回すべく、口外を禁ずる。一 ニ四 説には、絵への厳重な注意・注文。 、 ) とは 一 = 物語の場面や人物を描いた絵。 月次の絵も、見馴れぬさまに、言の葉を書きつづけて御覧ぜさせたまふ。わざ 一三絵の意味する内容が明瞭。 ニ六 とをかしうしたれば、またこなたにてもこれを御覧ずるに、、いやすくも取り出ニ三毎月の行事・風物を描いた絵。 一西あえて説明を加えて明瞭なも らう でたまはず、いといたく秘めて、この御方へ持て渡らせたまふを惜しみ領じたのにするのは、権中納言らしい趣 向。それが「見馴れぬさま」か みこころ ニ七 合まへば、大臣聞きたまひて、源氏「なほ権中納言の御心ばへの若々しさこそあ = = 弘徽殿女御のもとで、帝に。 ニ六帝が、斎宮の女御方で。 おとし 毛大人げなさ。貶めた言い方。 らたまりがたかめれ」など笑ひたまふ。 絵 ニ ^ 権中納言の蒐集する現代絵画 に、古い名画で対抗。権中納言の 源氏「あながちに隠して、心やすくも御覧ぜさせず悩ましきこゆる、いとめ ニ ^ ニ九 挑戦を放置しておけぬ気持である。 との ざましゃ。古代の御絵どものはべる、まゐらせむ」と奏したまひて、殿に古きニ九二条院。 つきなみ か か 一七 一九

6. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

るは、、いとどむるたよりもなきものをと思すに、おのが心をやりてよしめきあ一遊女の嬌態を示すさま。 ニ明石の君は、源氏一行が難波 を通り過ぎるのをお待ちして。 へるも疎まし , っ思しけり。 三以下、明石に帰還の後。ここ 語 みてぐら でも、「なかなか」の思いを繰り返 物かの人は過ぐしきこえて、またの日ぞよろしかりければ、幣帛奉る。ほどに 氏 し、「身」のほどを嘆く点に注意。 ぐわん 源つけたる願どもなどかつがつはたしける。またなかなかもの思ひ添はりて、明 0 帰京直後の源氏から。 五母娘を。↓一〇九・一一五ハー け暮れ口惜しき身を思ひ嘆く。今や京におはし着くらむと思ふ日数も経ず御使六「ほのばのと明石の浦の朝霧 に島隠れ行く舟をしぞ思ふ」 ( 古 今・羇旅読人しらず ) により、明 あり。このごろのほどに迎へむことをぞのたまへる、「いと頼もしげに数まへ 石を離れることの不安を表現。 なかぞら のたまふめれど、いさや、また、島漕ぎ離れ、中空に心細きことやあらむ」とセ上京後の不安。両親とも離れ、 源氏とて当てになるまい、と思う。 思ひわづらふ。入道も、さて出だし放たむはいとうしろめたう、さりとて、か〈娘の孤立を懸念しつつ、土着 させまいとする思惑をも顧みる。 九 く埋もれ過ぐさむを思はむも、なかなか来し方の年ごろよりも、心づくしなり。九源氏と会う以前の年月よりも。 一 0 明石の君が源氏に = 「まことや」で、六条御息所母 よろづにつつましう、思ひ立ちがたきことを聞こゅ。 娘のその後の話題に転換。 さいぐう一ニ まことや、かの斎宮もかはりたまひにしかば、御息所のば一ニ御世代りで、斎宮も交代。 〔三〕源氏、帰京した六 一三源氏は時節の見舞はもちろん、 のち一三 条御息所の病を見舞う りたまひて後、変らぬさまに何ごともとぶらひきこえたま実生活的な世話をもしてきた。 「変らぬ」は、源氏の誠実さ。 .. はき、け 一四以下「見じ」まで御息所の心内。 ふことは、ありがたきまで情を尽くしたまへど、昔だにつれなかりし御心ばへ 昔でさえ冷淡だった源氏のお気持。 一五かえって悔まれる往時の執心 のなかなかならむなごりは見じと思ひ放ちたまへれば、渡りたまひなどするこ ( 現代語訳一一八六ハー ) 五 かた みやすむどころ へ

7. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

しきしまやまと からねこ 敷島の大和にはあらぬ唐猫を君がためにぞもとめいでたる ( 『夫木和歌抄』 ) というのがある。それはある尊い女性からいい猫がほしいと求められて、他人の飼猫だったのを取り上げて、 その女性に差し上げた時、首に札を付け、この歌を書き付けたものという。この歌は、『古今和歌集』恋の 部の、 からころも 敷島の大和にはあらぬ唐衣ころも経ずして逢ふよしもがな の改作である。相手の女性がもしこの古歌を知らなければ、この趣向は理解されず、「何をもったいぶって」 と軽蔑されるのがおちである。本歌取りには教養・知識の共有が必須の条件であること、引歌の場合と同じ である。 現代でも、本歌取りは、たとえば年頭恒例の週刊誌を賑わす小倉百人一首。ハロディ歌のような、バロデ せん イ・もじり歌という形で残っている。しかし、ヾ / ロディ以外のものとなると、それは古歌の二番煎じで、 ひょうせつ 「模倣」であり「剽窃」「盗作」となって、創作を重んずる芸術家にあるまじきふるまいとして非難される。 王朝時代の本歌取りには、このバロディに類するものもないわけではないが、むしろそれ以外のものが大 しりぞ 部分で、それらは「類歌」「異伝歌ーなどと呼ばれているが、しかし「盗作」「模倣作」の名を以て斥けられ ることはない。それは、独創性を金科玉条とする近代芸術観と、様式や型の継承の中に、新味を添えること 論 評を旨とした古典の芸術観との相違に帰するほかはない。 巻 『源氏物語』の基本的な文体は、詩ではなく散文である。しかし散文といっても、それはヨーロッパの近代 ふばく

8. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

源氏物語 一そういえば。話題を転ずる語 かに書きたまひて、奥に、源氏「まことや、我ながら心より外なるなほざりご 法で、過往の浮気沙汰にふれる。 とにて、疎まれたてまつりしふしぶしを、思ひ出づるさへ胸いたきに、またあ = 出来心。浮気をさす。 三明石の君との仲を暗に言う。 四 やしうものはかなき夢をこそ見はべりしか。かう聞こゆる問はず語りに、隔て四↓七六ハー注六。 あやま 五「忘れじと誓ひしこと邁たば 三笠の山の神もことわれ」 ( 奥入 ) 。 なき心のほどは思しあはせよ。誓ひしことも」など書きて、源氏「何ごとにつ 六地の文から直接続く。「しほ しほ」 ( しよばしよば濡れる意 ) と けても、 「塩」、「かりそめ」と「刈り」、「見 みるめ る目」 ( 女に逢う意 ) と「海松布」が しほしほとまづそ泣かるるかりそめのみるめは海人のすさびなれども」 掛詞。「海人」は自分。「塩」「刈 七ゅめ とある御返り、何心なくらうたげに書きて、はてに、紫の上「忍びかねたる御夢り」「海松布」「海人」が縁語。 セ源氏の「問はず語り」に照応。 がたり ^ 源氏の「思しあはせよ」を逆用、 語につけても、思ひあはせらるること多かるを、 君の不実に思いあたるとする。 九「うらなし」は思慮が浅い意。 うらなくも思ひけるかな契りしを松より浪は越えじものぞと」 それに「浦」を掛け、「浪」と縁語。 おいらかなるものから、ただならずかすめたまへるを、いとあはれにうち置き「契りしを」は、源氏の「誓ひしこ とも」を逆用し、切り返した表現。 「松より : こは、「君をおきてあだ がたく見たまひて、なごり久しう、忍びの旅寝もしたまはず。 し心をわが持たば末の松山波も越 女、思ひしもしるきに、今そまことに身も投げつべき心地えなむ」 ( 古今・東歌 ) による。 〔一五〕源氏、紫の上を思 一 0 おうような書きぶりながらも。 う明石の君の嘆き する。行く末短げなる親ばかりを頼もしきものにて、何時 = 紫の上の嫉妬に感じ入る気持。 三手紙を読んだ後に残る気分。 の世に人並々になるべき身とは思はざりしかど、ただそこはかとなくて過ぐし一三明石の君のもとに通うこと。 ( 現代語訳一一五九ハー ) みじか なみ あま ほか

9. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

にはなれまい」と、その時機の到来を待っておいでになる。 を、格別に立派な紙に幾枚も描かせなさる。「わけても物 ちょうあい このお二方へのご寵愛はそれそれに厚く、互いに競い合っ 語絵は、その意味が分って見ごたえのするものだ」と言っ ていらっしやる。 て、おもしろく興趣のゆたかな物語を選りに選ってはお描 語 かせになる。例の月次の絵も、目新しい趣向に詞書を書き 物〔五〕帝、絵を好み、後帝は何にもまして絵に興味をお持ち 氏宮、絵の蒐集を競うでいら 0 しやる。格別に好尚がおあつらねて、ごらんに供される。とくに入念におもしろく描 りになるからだろうか、またとなく上手にお描きあそばす。 いたものなので、帝は斎宮の女御方にいらっしやるときも、 斎宮の女御も、まことに上手にお描きになるので、こちらやはりこれをごらんになろうとするが、権中納言はそう容 にお心が移って、しげしげとお渡りになっては、ごいっし易にはお取り出しにならず、ほんとにひどく秘密にしてい てんじよう ょに絵を描いてお気持を通わしておいでになる。若い殿上て、帝がこちらのお方のほうにお持ち出しになるのを惜し 人などでも、絵を習う者に対しては、お目をかけてお気に がってお手放しにならないものだから、源氏の大臣はこの 入りにおばしめしたので、なおさらのこと、お美しいお姿ことをお聞きつけになって、「やはり権中納言のお気持の のこのお方が、風情あるさまに型どおりではなく自由に描大人げなさは、相変らずのようだ」などとお笑いになる。 き興じ、物腰もやさしく物に寄りかかって、何かと筆をと 「むやみと隠しだてして、帝が気持よくごらんあそばすよ うにせず、お気をもませたりするとは、まったくけしから めて想を練っていらっしやるご様子、そのかわいらしさに 帝はお心をとらえられて、まことに頻繁にお越しになって ぬことです。私のほうに昔の御絵がいろいろございます、 は以前よりも際だってご寵愛が深くなっていくのを、権それをさしあげましよう」と奏上なさって、お邸で、古い ずし 中納言はお耳になさり、どこまでも人と張り合って現代ふ のと新しいのと数々の絵を納めてある御厨子をいくつもお うに派手でいらっしやるご性分から、こちらが負けてなる開かせになって、女君とごいっしょに、目新しいのはあれ ちょうごんかおうしようくん ものかと奮起なさって、すぐれた名人たちをお呼び取りに とこれとと選び出しておそろえになる。長恨歌や王昭君な なり、きびしく口封じをしてまたとなくみごとな絵の数々 どのような絵は、おもしろく心うたれるけれども、不吉な ( 原文一八二ハー ) びと つきなみ

10. 完訳日本の古典 第16巻 源氏物語(三)

絶えもうひうひしくなりにけれど、、いにはいっとなく、ただ今の、い地するなら一初心の、気恥ずかしい気持。 いつも空蝉を思い、つい今の ことと思うのが癖になって、の意。 ひになむ。すきずきしう、 いとど憎まれむや」とてたまへれば、かたじけなく 三昔よりも、源氏が私を少し疎 語 物て持て行きて、衛門佐「なほ聞こえたまへ。昔にはすこし思し退くことあらむとんじておられるところがあろうと。 氏 四男女の慰みごと。 五きつばりとお断りできない。 源思ひたまふるに、同じゃうなる御心のなっかしさなむいとどありがたき。すさ 六女の身としては、相手の説得 よう びごとぞ用なきことと思へど、えこそすくよかに聞こえかへさね。女にては負に負けて応答をしたところで誰の 非難も受けまい。「罪」は夫以外の けきこえたまへらむに、罪ゆるされぬべし」など言ふ。今はましていと恥づかし男に通じる罪。それを楽観的に言 う。不義の仲を取り持とうとする う、よろづのことうひうひしき心地すれど、めづらしきにやえ忍ばれざりけむ、のは、権勢家への追従心によろう。 セ源氏も「うひうひしく」 ( 一行 ) 。 せき ^ 語り手の推量による。 空蠅「あふさかの関やいかなる関なれば繁きなげきの中をわくらん 九「逢坂の関」に「逢ふ」を、「関」 に「木」をひびかせ、再会の場とな 夢のやうになむ」と聞こえたり。あはれもつらさも忘れぬふしと思しおかれた った「関」に執した表現。繁茂する 木々に、度重なる悲嘆を託す。 る人なれば、をりをりはなほのたまひ動かしけり。 一 0 空蝉への、いとしさ恨めしさ。 ひたちのかみおい かかるほどに、この常陸守、老のつもりにや、なやましく = 時折の源氏の消息が続く。 〔三〕空嬋、夫と死別、河 けそう 三河内守や右近将監など。 内守の懸想を避け出家 のみして、もの心細かりければ、子どもに、ただこの君の一三「君」「御」は、夫よりも出自 の高い空蝉への敬意。次ハー二行 御事をのみ言ひおきて、「よろづのこと、ただこの御心にのみまかせて、あり「たまふ」も同様。 一四以下遺言。継母に従えと言う。 こころうすくせ つる世に変らで仕うまつれーとのみ明け暮れ言ひけり。女君、心憂き宿世あり一五私の在世中と変らず。 ( 現代語訳三一四ハー ) の 六