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検索対象: 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)
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1. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

455 各巻の系図 帚木 右大臣 左大臣殿 △故右衛門督 ( 響 ) 宮腹の中将、中 将、君、頭の君 玉鬘な ) タ顔 ( 常夏 ) 葵の上 ( 鬱 ・る源氏 源氏 君、中将 式部卿宮ーー朝顔の姫君宮 ) 嬋 ( 姉諸人、女君、姉 ) 伊予守、伊予、 予介 ( 伊予の翁、介 紀伊守 ( 守 〔△先妻〕 四の君 頭中将 ( 君 左馬頭 ( 馬頭 ) 藤式部丞 ( 式部 ) 左大臣家女房 中納言の君 中務 空嬋の女房 中将の君 ( 中将 ) 浮気な女 ( 女 ) 指喰いの女 ( 人、女、さがな者 ) 博士の娘 ( 女、娘、さかし人 ) 源氏 ( 君 ) 空蝉 伊予介 紀伊守 軒端荻 ( 〔△先妻〕 君 ( 若君 ) 民部のおもと ( 御許 ) 老びとつもと 女、妹、 姉君 西の御方、紀伊守 の妹、君、西の君

2. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

255 帚木 ひ - 一ばし いて、妻として頼りにできそうな女とも思えませんので、 のたなばた姫の仕立物のほうは二の次にして、彦星との夫 たまにしか顔を見せないでおりましたが、そのうちに、こ 婦仲の末ながい縁にあやかったらよかったのに。実際、そ の竜田姫の錦に及ぶものはあるまい。ちょっとした花や紅の女にはこっそりと情を交している男があったらしいので す。 葉といったものでも、時節時節の色合いが不似合いでばっ 十月のころ、月の美しい夜、宮中から退出いたしますと、 としないのは、まるで見ばえもせず引き立たぬものです。 てんじようびと そんなわけですから、女も同様むずかしいもので、誰しも ある殿上人がいっしょになって、私の車に相乗りいたしま 自分の妻を決めかねているのです」と話をはずませる。 したので、私は大納言の家に行って泊ろうとしますと、こ の人が言うには、『今夜は、わたしをさぞ待っているのだ 〔九〕左馬頭の体験談ー左馬頭は、「さてまた、それと同じ 浮気な女 ころに通っておりました女は、人柄ろうが、その女の家がいやに気になってね』というわけで、 も格別よくて、気性も本当に奥深く感じられるようで、歌この女の家がまた、ちょうど通ることになる道筋にあった つまおと もよく詠み、字も走り書き、かき鳴らす琴の爪音まで、手ものですから、荒れた築地の崩れから月影を映した池の水 すみか もよければロも達者で、何もかも危なげのない女だと、見が見えるので、月でさえ宿る住処を、さすがに素通りもで きかねて車を降りてしまいました。以前から情を交してい もし聞きもしておりました。みめかたちも無難でしたから、 たのでしようか、この男はひどくうきうきとして、中門に 例のロやかまし屋のほうをふだん向きにして、こちらはと なが えん きどき内証で逢っていましたが、その間は、このうえなく 近い廊の濡れ縁めいた所に腰を下ろして、しばらく月を眺 めています。菊が霜に色変りしてまことに美しく見わたさ 気に入っておりました。例の女が亡くなってからはどうな きそ るものでもなく、かわいそうとは思うものの、世を去ってれ、風に競って散り乱れる紅葉など、いかにも風情を感じ しまったからには詮のないことなので、この女のもとに何させます。男が懐中の笛を取り出して吹き鳴らし、『影も 度となく通いなじむにつれて、少し派手すぎて、思わせぶよし』などと合い間合い間歌うと、前もって調子を整えて わごん あった音色のいい和琴を女が上手に合奏していた様子は、 りであだつばいところなど、気に入らないところが目につ せん もみ

3. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

311 タ顔 ( 原文一五四ハー ) の宿を思い出すのも恥ずかしい気持である。君は、竹藪のも慎み深く、相手の心には従順というようなのがかわいい 中で、家鳩という鳥がのぶとい声で鳴くのをお聞きになっ もので、自分の思いどおりに教え仕立てて妻としたら、情 て、あの、いっぞやの院でこの鳥が鳴いたのを女君がひど も深まるに違いない」などとおっしやるので、「そういう く恐がっていた様子が目の前にありありと浮び、かわいら お好みには、格好のお方だったと存じますにつけ、残念な しく思い出されなさるので、「年はいくつでいらっしやっ ことでございます」と言って泣く。空が曇ってきて、風の かれん たの。不思議に普通の人とはちがって、可憐で弱々しそう冷たく感じられる折から、ほんとにしんみり物思いに沈ま にしていらしたのも、こうして長生きはできないからだっ れて、君は、 ゅふペ たのだね」とおっしやる。「十九におなりでございました 見し人の煙を雲とながむればタの空もむつましきかな ( 連れ添ったあの人を葬った煙があの雲かと思って眺めてい でしようか。この右近は、亡くなられました御乳母に先立 ると、このタベの空もなっかしくてならない ) たれましたので、三位の君がかわいがってくださいまして、 女君のおそばを離さずにお育てくださいましたが、そのご と、独り言をおっしやるけれども、右近はご返事も申しあ 恩を思い出しますと、これからどうして生きていかれまし げられない。女君が、もしこのようにして生きていらっし よう。『いとしも人に』と、おなじみ申したことが悔まれ やるのだったら、と思うにつけても、胸がいつばいになる。 るのでございます。何かと頼りなさそうにしていらっしゃ君は、やかましく聞えていた砧の音をお思い出しになるだ った女君のお気持を、頼るお方として長年おそばで過して けでも、その人が恋しく思われて、「正に長き夜」と口ず まいったことでございます」と申しあげる。「そのいかに さんで、横になられた。 いよのすけ こぎみ も頼りないのこそが、女はかわいい しつかりしていて言 〔 5 源氏、空蝉や軒端あの伊予介の家の小君が参上すると うなりにならない女はまったく好きにはなれない。わたし荻と歌を贈答する きもあるが、とくに以前のようなお ことづて 自身がはきはきせずしつかりしない性分なので、女はただ 言伝もなさらないので、空蝉の女は、君がこの自分をいや やさしく、うつかりすると男にだまされそうでいて、しか な女とあきらめてしまわれたのかと、そのことをつらく思 たけやぶ うっせみ きぬた

4. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

293 タ顔 れども、しかし、このお方から受ける感じは、やはり手探ことになっても、そういう因縁に結ばれていたというもの だろう。わが心とはいいながら、まったくこれほど女に打 りにでもはっきり分ることだったので、「どなたくらいの すきもの 方なのかしら。やはりあの好色者が仕組んだことなのだろ ち込むということはなかったのに、これはどういう宿縁が う」と、大夫を疑ってはみるものの、この男はどこまでもあったのだろうか」などとお思いよりになられる。「さあ、 ほんとに気がねのいらない所でゆっくりとお話をしましょ 何くわぬ顔で、まったく思いもよらぬといった体で、せつ せと浮かれまわっているので、どうしたわけなのかと腑に う」などとお誘いになると、「やはり心配でございます。 おちす、女のほうでも不思議な、普通の恋路とは様子の違そうはおっしやっても、普通ではないおもてなしですので、 う物思いをしたのであった。 なんとなく恐ろしゅう存じます」と、ひどく子供じみた返 源氏の君も、女がこうして無心な様子をしてこちらを油事なので、それもそうだと、ついお笑いになって、「なる しいから、ただ ほど、どちらが狐なのだろうね。なんでも、 断させ、そのうちにそっと姿を隠してしまったら、どこを 目当てに捜したらよいか、あそこは、やはりほんの一時のわたしに化かされていらっしゃい」と、やさしくおっしゃ おももち 隠れ家と見えるから、どこのどんな所へ移っていくか分ら ると、女もすっかりそのまま従っていようという面持であ なしが、その日をいっと予想もできまいとお思いになるに る。どんなに不都合なことであろうと、どこまでも言いな つけ、ーー取り逃して、それでいいかげんにあきらめがつりについて来ようとする、いは、じつにかわいい女だとお思 とこなっ いになるにつけても、やはりあの頭中将の常夏の女ではあ くというのだったら、ただその程度の気まぐれとして過さ れもしようが、とてもそのまますませてしまおうとのお気るまいかと疑われて、中将が語っていた女の気だてをまず 持にもなれず、人目をはばかりお越しになれない夜々など何よりもお思い出しになられるが、隠しているのはそれだ しんばう は、ほんとに辛抱できず、苦しいほど恋しくてならぬお気けのわけがあるのだろうと、無理にはお聞き出しにならな 思わせぶりな様子を見せて、にわかに逃げ隠れすると 持にもなるので、「やはりこの女を誰とも知らせすに二条 ・いったような気だてなどは感じられないので、こちらの夜 院に引き取ってしまおう。もし世間に知れて具合がわるい

5. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

( 原文六六ハー ) ふるまいを努めて身につけようとしているのが、こちらに なよなよしているような女にはご用心なさいませ。そうい もよく分って、いじらしい気がしましたから、末ながくわ う女が間違いを起すと、きまって相手の男が愚か者だとい たしを頼みにするように、などと言い聞かせることもあり う評判を立てられてしまうものです」と戒めている。 中将は、例によって、うなずいている。源氏の君は、片ました。 親もなくて、まったく心細い有様で、そういうことなら、 頬に笑みをうかべて、そういうものかとお思いのご様子で しトっ嚇 ~ い ある。「どちらにしても、人聞きよからぬ、間のわるい身 この人だけを生涯の夫と、何かにつけて思っている様子も、 かわいい感じでした。ところが、女がこうももの静かでお の上話ではないか」とおっしやって、皆で笑っていらっし やる。 となしいのに気をゆるして久しく訪ねてやりませんでした、 そのころ、私の家内の所から、情け知らずの、たいへんな ニ 0 〕頭中将の体験談ー中将は、「私は、愚かな女の話をし 内気な女 いやがらせを、しかるべき伝があって、それとなく言わせ ましよう」と言って、「ごく内緒で 逢いはじめた女が、どうやらそのままやってゆけそうな様てあったとのこと、それを後になって耳にいたしたのです。 そうしたつらいことがあるとも知らず、、いには忘れぬも 子でしたから、もっとも長続きする仲とも思っておりませ なじみ のの、便りなどもせず久しく放っておきましたところが、 んでしたが、馴染をかさねるにつれて、情が移ってきまし て、とだえがちながらも、見すてがたい者に思っておりまひどく悲観して、心細い思いから、幼い子供などもあった したので、そうなりますと、女のほうも私を頼みにしてい ので、思案にあまって、なでしこの花を折って手紙をよこ うかカ しました」と言って、中将は涙ぐんでいる。 る様子が窺えました。頼むからには、それだけに恨めしく 思うこともあろうと、われながら思わせられる折々もござ 源氏の君は、「それで、その手紙の文句は」とお尋ねに いましたが、女は気にかけもせぬ様子をして、久しく訪れなるので、「いえ、別段のこともありませんでした。 なでしこ 山がつの垣ほ荒るともをりをりにあはれはかけよ撫子 7 なかったときでも、こんなにめったにしか来てくれない人 の露 なのかと怪しむでもなく、ただもう朝に晩に、人妻らしい ほお かた かき

6. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

279 空蝉 ふすま かえってはっきりと聞えるのであった。 ほど寝ている。掛けている衾をおしのけて、寄り添われる 柔らかなだけに、 と、いっぞやの感じよりは大柄といった気がするけれども、 女は、源氏の君があれきり自分を忘れてくださったのを うれしいことと、努めて思おうとしてはいるけれども、あ まさか別人とはお思いにもならない。眠りこけている様子 つかま などが、妙にあのときとは変っていて、だんだんに正体が の異常な夢のような出来事が、束の間も心を離れないこの お分りになると、あまりのことにいまいましくおなりにな ごろとて、安らかに寝入ることすらもできず、昼は物思い うつ に虚け、夜は目覚めがちといったしだいで、春の「木の るけれども、人違いと感づかれるのも愚かしいことだし、 芽」ならぬ「この目」も休まる暇がなく、ため息ばかりつ女も変に思うだろう、目当ての人を尋ねあてようにも、こ うまで逃げる気でいるのだったら、そのかいもあるまいし、 いている有様なのに、碁の相手をしていた女君は、今夜は さぞこのわたしを愚かしくも思うだろうと、おあきらめに こちらでと、陽気におしゃべりをして、隣に寝てしまって ほかげ なる。あの灯影に見えたかわいい女ならば、それでもかま わぬという気におなりになるのも、不都合な、軽率で思い 若い人は、無邪気にほんとによく寝入っているらしい やりのないお心というものだろう。女はだんだんと目が覚 そこへ、このような衣ずれの気配がして、じっこ、、 めて、まったく思いもよらぬあまりの事態にびつくりし か香ばしくただよってくるので、女は、顔をあげてみると、 すきま ひとえの帷子をうちかけておいた几帳の隙間に、暗いけれ ている様子で、別段の深い思い入れや、同情もしたくなる ような心づかいがあるわけでもない。男をまだ知らぬにし ども、何やらにじり寄ってくる気配がはっきりと分る。こ てはもの分りのよいほうで、消え入りそうにうろたえるこ れはなんとしたことかとびつくりして、とっさには判断も すずしひとえ ともないのである。君は自分が誰なのかは知らせずにおこ つかず、そっと起き出して、生絹の単衣をひとつだけ着て うとお思いになるが、この女が、どうしてこんなことにな すべるように脱け出すのだった。 ったのだろうと、後であれこれ考えた場合、自分にとって 源氏の君はお入りになられて、女がただ一人で寝ている なげし ので、ほっとしたお気持になる。長押の下に、女房が二人はそんなことはなんでもないにしても、あの薄情な人がひ かたびら

7. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

れてゆく時分になって、あの女のほうではまた、私のこと頭中将が催促される。「下の下の私どものところに、何の を思い切れずにいて、ときどきは、誰に訴えようもなく胸お耳に入れておもしろい話がございましよう」と言うけれ こが を焦すタベもあろうかと思われます。こういうのが、長く ども、頭の君がむきになって、「さあ早く」とせきたてら 添いとげることのできない、いかにも頼みにならない部類れるので、式部丞はどんな話を申しあげたものかと思案を もんじようのしよう めぐらしていたが、「まだ私が文章生でございましたとき、 の女だったのです。 うまのかみ こんなわけですから、あのロやかまし屋も、思い出のあ賢い女の例にぶつかりました。先ほど馬頭が申しあげられ ましたように、公事の相談相手ともなり、また私生活の上 るという点で忘れがたいにしても、顔つき合せて暮すには うるさくて、悪くすると、まっぴらと言いたくなることもの世渡りの心がけを工夫するという面でも行き届いており あるでしようよ。琴が達者だったという女の才気も、浮気まして、学問のほうは、なまはんかの博士も顔負けするほ すき の罪は重いでしよう。私の頼りない女にしても、疑いを入どで、何から何まで相手に口を出させる隙もないくらいで れる余地がなきにしもあらずですから、どれ力しし。 、、ゝ、、とま結ございました。 それと申すのが、ある博士の所に、学問などいたそうと 局決めかねるということになります。男女の仲は、ただこ のようにそれぞれで、比べにくいというべきでしよう。こ通っておりました時分、主人の博士には娘たちがたくさん いると聞きこみまして、ふとした機会によしみを通じまし のさまざまの、良いところだけを取りそろえて、非難すべ さか。き きちじようてんによ たところ、親がそれを聞きつけて、杯を持って出てきて、 き点のまるでない女はどこにおりましようか。吉祥天女の まっ・一うくさ ような完璧な女を妻に望んだら、抹香臭くて、人間ばなれ『わが二つの道を歌うのを聞け』と私に言って聞かせまし たが、こちらはそれほど親身になって通うこともほとんど しているところが興ざめにちがいありません」と言って、 みな笑ってしまった。 せず、親の気持をはばかって、さすがになんとかひっかか しきぶのじよう しきぶのじよう りをもっていましたところ、女はひどく情け深く世話して 〔 = 〕式部丞の体験談ー「式部丞の所には、変った話があろ むつごと 博士の娘 くれまして、寝覚めの折の睦言にも、学問が身につき、公 う。少しずつお話ししてみよ」と、

8. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

歌 ) 。↓桐壺一一六ハー注九。その不幸 たまふ。行く先の御頼めいとこちたし。 しりぞ な顛末を「ゆゅし」として斥け、釈 さき . よ 迦入滅五十六億七千万年後に現れ タ顔前の世の契り知らるる身のうさに行く末かねて頼みがたさよ る弥勒の遥かな将来に約束する。 一五前世の因縁で現世が定まると かやうの筋なども、さるは、、いもとなかめり。 いう仏教の因果思想による表現。 いさよふ月にゆくりなくあくがれんことを、女は思ひやす「うさ」は、己が宿世ゆえのつらさ。 〔 = 〕源氏、タ顔の女を 一六詠歌の方面。一説には、仏道。 宿近くの廃院に伴う らひ、とかくのたまふほど、にはかに雲がくれて、明けゅ宅女の返歌について、こうは詠 むもののどうやら頼りなさそうだ とする語り手の評言。 く空いとをかし。はしたなきほどにならぬさきにと、例の急ぎ出でたまひて、 一 ^ 山の端に入りかねる月と、源 ニ 0 軽らかにうち乗せたまへれば、右近そ乗りぬる。そのわたり近きなにがしの院氏によって他所に誘い出されるの を躊躇する女の心とを照応させる。 かど におはしまし着きて、預り召し出づるほど、荒れたる門の忍ぶ草茂りて見上げ一九前の「明け方も近う」から推移 ニ 0 左大臣源融 ( 八 = = ~ 八九五 ) の河原 こぐら すだれ られたる、たとしへなく木暗し。霧も深く露けきに、簾をさへ上げたまへれば、院 ( 後に皇室伝領、十世紀半ばに は荒廃 ) が准拠。 そで 御袖もいたく濡れにけり。源氏「まだかやうなることをならはざりつるを、心三院を預り管理する者。 一三車の簾。 ニ三女を外に連れ出して逢うこと。 顔づくしなることにもありけるかな。 ニ四一説に、「人」は女の昔の愛人。 一宝「山の端」は源氏、「月」は女自 いにしへもかくやは人のまどひけんわがまだ知らぬしののめの道 タ 身。「うはのそら」は、中空、心の 不安、の両意。前の「にはかに雲 ならひたまへりや」とのたまふ。女恥ぢらひて、 がくれて」月光の消える景に、女 の不安と恐怖をかたどった歌。 かろ 「山の端の心もしらでゆく月はうはのそらにて影や絶えなむ たの ニ四 一九

9. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

思ひ直らむをりを見つけむと、年月を重ねむあいな頼みはいと苦しくなむある一あてにならない期待。 8 ニ左馬頭の計算ははすれて女の ほうから離別の件を言い出された。 べければ、かたみに背きぬべききざみになむある』とねたげに言ふに腹立たし 語 三相手の態度に対して、後には 物くなりて、憎げなることどもを言ひはげましはべるに、女もえをさめぬ筋にて、ひけず、さかんに応酬する。 四言いがかりをつけて。 源および 指ひとつを引き寄せて食ひてはべりしをおどろおどろしくかこちて、馬頭『か五役所勤めや世間との交際 六 六前ハー一三行の女の言葉「よろ はづかし かる傷さへつきぬれば、いよいよまじらひをすべきにもあらず。辱めたまふめづに見だてなく・ : 」に対応。 セ女の言葉「かたみに背きぬべ つかさくらゐ る官位、いとどしく何につけてかは人めかむ。世を背きぬべき身なめり』などき : ・」に対応。女への皹嚇である。 ^ 上句は、紀有常が、長年連れ および 言ひおどして、馬頭『さらば、今日こそは限りなめれ』と、この指をかがめて添 0 た老妻が尼になる際に贈った 歌「手を折りてあひ見しことを数 まかでぬ ふれば十と言ひつつ四つは経にけ り」 ( 伊勢物語 ) による。下句は、 馬頭『手を折りてあひみしことを数ふればこれひとつやは君がうきふし 「やは」が反語で、あなたの欠点は この一件だけなものか、の意。 え恨みじ』など言ひはべれば、さすがにうち泣きて、 「ふし」は、箇所の意に、指の関節 の意をひびかし、「手」の縁語。 女うきふしを心ひとつに数へきてこや君が手を別るべきをり 九あなたは私を恨めまい 一 0 贈歌の語を引き取りつつ、意 など言ひしろひはべりしかど、まことには変るべきこととも思ひたまへずなが を変えて反発した返歌。 一一実際には離縁の意思はない。 せうそこ あり りんじ ら、日ごろ経るまで消息も遣はさすあくがれまかり歩くに、臨時の祭の調楽に女との仲に対する、男の自信。 三他の女を求めて浮かれ歩く みぞれ 夜更けていみじう霙降る夜、これかれまかりあかるる所にて思ひめぐらせば、 「まかるは聞き手に対する謙譲 としつき 五 だの 四

10. 完訳日本の古典 第14巻 源氏物語(一)

63 帚木 びとき 馬頭「さて、また同じころ、まかり通ひし所は、人も立ち宅裁縫の技術は二の次にして。 〔九〕左馬頭の体験談ー 一 ^ 「あゆ」は、あやかる。年一度 浮気な女 ながら七夕の絶えざる逢瀬を願望。 まさり、心ばせまことにゆゑありと見えぬべく、うち詠み、 一九裁縫の技術にとどまらず、そ つまおと 走り書き、掻いく爪音、手つきロつき、みなたどたどしからず見聞きわたりの女の男〈の尽し方全般をさす。 ニ 0 「如く」に「敷く」をひびかし、 ニ七 はべりき。見るめも事もなくはべりしかば、このさがな者をうちとけたる方に「錦」の縁語とした。 ニ一色合が周囲に不調和なのは。 のち て、時々隠ろへ見はべりしほどはこよなく心とまりはべりき。この人亡せて後、ニニ少しも見ばえせず美しさも消 えてしまう。「露と「消え」が縁語。 しかがはせむ、あはれながらも過ぎぬるはかひなくて、しばしばまかり馴るるニ三話題の女を感心できない実例 三 0 として、男女の仲の難しさを言う。 えん にはすこしまばゆく、艶に好ましきことは目につかぬところあるに、 , っち頼むニ四前の話題の女より、人品も。 一宝奥深さを感じさせ。 べくは見えず、かれがれにのみ見せはべるほどに、忍びて心かはせる人ぞありニ六「見るめ」は、器量。 毛前の話題の女。指喰いの女。 けらし。 ニ〈死者を憐んでみてもかいのな いこととて、新たな恋に進む。 かみなづき 神無月のころほひ、月おもしろかりし夜、内裏よりまかではべるに、ある上 = 九派手で、見ていられぬ感じ。 三 0 思わせぶりで浮気つばい 人来あひて、この車にあひ乗りてはべれば、大納言の家にまかりとまらむとす三一自分の好みに合わないところ。 しだいに女への熱がさめてくる。 こよひ三三 やど 三ニ左馬頭の父か。 るに、この人言ふやう、『今宵人待つらむ宿なむ、あやしく心苦しき』とて、 三三「雲居にてあひ語らはぬ月だ にもわが宿過ぎて行く時はなし」 この女の家はた避きぬ道なりければ、荒れたる崩れより池の水かげ見えて、月 ( 拾遺・雑上伊勢 ) 。 三四 だに宿る住み処を過ぎむもさすがにておりはべりぬかし。もとよりさる心をか = 西自分もいっしょに車を降りた。 か ニ九 三ニ ニ五 ニ四 うへ