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検索対象: 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)
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1. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

このあさぎのかみしもき もの * 一し おきなと いふべきあら かの 此浅黄上下着タル者ヲ指テ云へ・ ハ、此年老タル翁、「此モ彼モ可云ニ非ズ。彼一九あれこれ議論すべきではない。 ニ 0 「なるなり」の音便形「なんな ぬしうべきニ 0 いひとら 、 ) とものどもさり そうあさぎ をとこえら 主ノ可得ナ、リ」ト云テ取セッレバ、 異者共ハ去ヌ。然レバ、僧浅黄ノ男ニ被り」の撥音の無表記。 ニ一遠くかけ離れたような言い方 れ ゐてゆくかたゆくそう これみなおに ゐてゆきく 得テ、其レガ将行方ニ行。僧、「此ハ皆鬼ナメリ。我ヲバ将行テ瞰ハンズルニをするのであろうか。 一三楽しい土地。物心ともに満ち おも かなしなむだおっ につほんくに コソ」ト思フニ、悲クテ涙落。「『日本ノ国』ト云ツレ、、ヒ、 足りたの意をこめる。 ノノ止ノ何ナル所ニテ、 とほげ あやしおも けしき このあさぎをとこみ そう ニ三さっきの家、つまり郡司の家。 此ク遠気ニハ云ナラン」ト、怪ビ思フ気色ヲ、此浅黄ノ男見テ、僧ニ「ムク、 ニ四望ましいさまに造って。 こころえずおもひたまひ ここいとたのしせかいなりおも あらたてまつらずる 「不心得ナ思不給ソ。此ハ糸楽キ世界也。思フ事モ無テ、豊ニテ有セ奉ム為 = 五従者。使用人。 ろくぶ ニ六回国修行僧や六部・山伏など なり いふほど 也」ト云程ニ、家ニ行着ヌ。 が背に負う旅行具で、仏像・経巻 ・仏具・衣類・食糧などを入れる あり すこちひさ つくり なむによくゑんぞく 家ヲ見レバ、有ツル家ョリハ少シ小ケレドモ、可有力シク造テ、男女ノ眷属足付きの箱。 毛「シッラヒの漢字表記を期し いへものどもまちょろこびはしさわことかぎりなしあさぎをとこそう あがたま 八多カリ。家ノ者共待喜テ、走リ騒グ事無限浅黄ノ男、僧ヲ、「疾ク上リ給た欠字。すばらしくきれいに整え ニ六 第 た部屋。 いたじきよびあぐ おひいふものとり かたはらおき みのかさわらぐっ ヘートテ、板敷ニ呼上レバ、負タル笈ト云物ヲ取テ、傍ニ置テ、簑、笠、藁沓 = 〈ここに「キ」が現れるのは不審。 生 「テ」の誤写か。 いとよ ぬぎあがり ところすニ ^ ニ九食事を早くさし上げよ。 神ナド脱テ上ヌレバ、糸吉クロタル所ニ居へキ。 ニ九 猿 三 0 三 0 なんともいえないほど見事に まづものとまゐらせ じきもつもてき いをとりえもいはととの 調理してあった。 弾「先、物疾ク参ョ」ト云へバ、食物持来タルヲ見レバ、魚鳥ヲ艶ズ調へタリ。 飛 三一前出の「浅黄上下着タル男」で、 そうそれみ くはず このあさぎをとこいできたり これ くはぬ 僧其ヲ見テ不食シテ居タ匕 この家の主人。 ハ、此浅黄ノ男出来テ、「何ド此ヲバ不食ゾート。 三ニ戒律を守り、魚鳥を口にしな 1 そう をさな まかなりのち いまかかもの かったのである。 僧、「幼クテ法師ニ罷リ成テ後、未ダ此ル物ヲナン食ネパ、此ク見居テ侍ル也」 おほ ほふし いへゆきっき ニ七 おひ このとしおい み ことなく あるべ な 一九 し く ゆたか みゐ と ところ はべなり

2. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

にしかおもたち くはしかた あさまし ほかのこと、た。 ツル事然々也」。此ョリ俄ニ思ヒ立テ出ヅル程ョリ委ク語ルニ、奇異クテ、然 一九 宅「 : ・也ト」の「ト」を欠いた形。 ちご そもそいかなり いとたゆげみあげ いはね 一 ^ 「緩気・施気」で、だるそうに。 テ、児ニ、「抑モ何成ツル事ゾ」ト問へバ、糸絶気ニ見上テ、物モ不云バ、「今、 一九「今ニ」の意。きわめて近い将 こころれいのやうなり ーしばらひと しらしめず めをとこ あっか 来をさす。いましばらくして。 心例様ニ成ナバ云テン」トテ、暫ク人ニモ不令知シテ、妻夫シテ繚フ。 ニ 0 介抱する。看病する。 ひとも しるかゆ ほどなり こころやすおも よなかうちすぐほど かゆ 暮ヌレバ火灯シテ、粥ナド食フ程ニ成ヌレバ 心安ク思フニ、夜中打過ル程ニ一水を多く入れて炊いた粥で今 のお粥。汁粥。なお、当時の粥は ちごねおどろき なに′ ) と ものおば おもひを ニゾ、児寝驚テ、「此ハ何事ゾ」トイへバ、「物思ェニタルナメリ」ト思テ、伯水を入れて炊いたご飯の総称で、 今の米飯は「かたかゆ ( 堅粥 ) 」。 ここわがいへなりいか つかまつりゃうしかしか ち ) ) ちち 一三昏睡状態から目をさまして。 、「此ハ我家也。何ニシタリツル。事ツル様ハ然々」ト云へバ、児、「父ハ ニ三「つかまつりツルとよめば、 ちちいまこのことしりたまはずこくふ おは こた ちご ト問へバ、 これこれの処置をしたの意となる 「父ハ未ダ此事知不給。国府ニコソハ御スラメ」ト答フレバ、児、 ニ四 が、「事」を「つかまつる」とよませ っげたてまっ 、一と いまっげたてまつら さるに しカ ひと 「告奉ラバヤ」ト云へバ 、「今告奉ム。然テモ何ナリツル事ゾ。為ツル人ハるのは本集では例外。「有 , の草体 を「事」の草体に誤ったものとすれ と おばニ五 きくべきこと あ よくおば ( え ) ね バ、児、「不知、吉モ不思エド、 ば、事の委細を説明したの意。 第思工ャ。疾ク可聞事ニテコソ有レ」ト云へ ニ六 語 ニ四やった人、つまり加害者。 それがしまろいふをのこ いぎたま をぢもと ばだうつげ そのをとこぐ ニ五「エ」は「ユ」の誤写か。 介某丸ト云男ノ、『去来給へ、伯父ガ許へ』ト「ムツレバ、母堂ニ告テ、其男ニ具 夫 ニ六↓一〇三ハー注一一六。 きたり みち そのをのこ やまのいも あな われひきおとし 毛万が一にもその男の考えから 官シテ来ツルニ、道ニテ其男ノ、『暑預』トテ、穴ヲ堀テ、我ヲ引落ツルマデハ 府 ニセ 出たことではあるまい おば そののちことおばえず そ をのこしわぎ こころ 夭早く早くと待ち望む意。夜が 、いトハョモ為ジ。 奥覚ュ。其後ノ事ハ不覚」ト云へバ、「其ノ男ノ為態ニテハ、 陸 明けるやすぐにの句意。 あ これままはははかりこと こころえ 人ノ教へタルニコソハ有ラメ。此、継母ノ謀ナラン」ト心得ツ。 ニ九破損による欠文とすれば、す に介に知らせようと思っての意 よ こ、 ) ろ あく なく めかへすがへいひおき 夜ノ明ルモ心モト無テ、何シカ明マ、ニ、「凵凵凵「凵凵〔凵凵妻ニ返々ス云置テ、の叙述があったものか。 ひとをし と くれ ことしかしかなり ここ こと ニ八 あくる と ほど ニ九 もの し せ

3. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

よろこ とふ かは げすのたうにんあひ たま三かふ 天淀の渡。淀川河口の渡船場。 ク借シタリシ喜ビ〕 = 卞衆唐人ニ会テ、「玉力買」ト問ニ、「買ム」トイへバ、 一九饗応。 うち うち 1 はかまこし たまとりいだしとら げすのたうにんたまうけとり 袴ノ腰ョリ玉ヲ取出テ取セタレバ、下衆唐人玉ヲ受取テ、手ノ裏ニ入レテ、打ニ 0 舎人として仕えた男。↓注 = = 。 ニ一「アコヤ」の漢字表記を期した あ ) まし これあたひいく おもひ けしき ほしげおもひ + 振テ見マ、ニ、「奇異」ト思タル気色ニテ、「此ハ直何ラ」ト問へバ、 ( 欲気ニ思欠字。「アコヤ」はあこや貝。あこ や貝から採取される玉で、真珠。 第 けしきとねりをのこみ じっぴき たうにんまどひ じっぴきかは 巻タル気色ヲ舎人男見テ、「十疋ニ」トイへバ、唐人迷テ、「十疋ニ買ム」ト云ヲ、 = = 馬のロ取りなどをする下人。 ニ三水張にして干した絹製の狩衣。 集 とねりをのこ あたひたかもの あら おもひすみやかこひとり たうにんわれ あら 語舎人男、「直高キ物ニヤ有ム」ト思テ、速ニ乞取ケレバ、唐人我ニモ非デ、返 = 0 もうけ物をした。 一宝急いで漕ぎ放れた意。 ニ六博多。今の福岡県博多港。 今シ取セテケリ 毛「マデニ」では意不通。「マ、 いまよ たう とねりをのこ たづねうら 舎人男、「今吉ク尋テ売ン」ト云テ、本ノ如ク袴ノ腰ニ裹テ去ニケレバ、唐ニ」とあるべきところ。 六 なささめき せんどううち ^ にんさだしげむかゐ せんどうもとより 一お礼。下に欠文があろう。宇 人貞重ニ向ヒ居タル船頭ガ許ニ寄テ、其事トモ無ク私語ケレバ、船頭打ロテ、 治拾遺に照らすに、欠脱部は、宇 さだ。しげ き、だしげ いはくおほむじゅしゃなか たまもち ものあんなりそのたまめしたま 貞重ニ云、「御従者ノ中ニ、玉持タル者有也。其玉召テ給ハランヤ」ト。貞重治拾遺の「質は少なかりしに、物 は多くありしなどいはんとて、行 ともげすなか たまもち ものあんなり たづねめ ひとよび きたりければ、唐人も待ち悦て、 人ヲ呼テ、「共ノ下衆ノ中ニ、玉持タル者有也。ソレ尋テ召セ」ト云ケレバ 酒飲ませなどして物語しける程に、 そのとねりをのこそでひか これ ひきいで かくっげ たうにんはし この玉持のをのこ、下種唐人にあ 此告ツル唐人走リ出テ、其舎人男ノ袖ヲ引へテ、「此ゾ」ト教へテ、引出タレ ひて」の傍線部に対応する。 をのこしぶしぶ いふたてまっ さだーしげ・ まことたまもち - ニ身分の卑しい唐人。前出の唐 、貞重、「実ニ玉ャ持タル」トトへバ、男渋々ニ、「候フ」ト云。「奉レ」ト 人の従者か。 と、ら せんどうたま はかま・一し さだしげらうどうと った 前ハー七行の「玉ャ買フ」に照ら イへバ、袴ノ腰ョリ取出タルヲ、貞重ガ郎等取リ伝へテ取セタレバ、船頭玉ヲ三 すに、「カ」は「ヤ」の誤写とも。 おも うちふりみる たちはしりうちいり 、だしげ 四手のひら。 受取テ、打振テ見マ、ニ、立走テ内へ入ヌ。貞重、「何シニ入ニカ有ン」ト思 ノふりみる - つけレ」り・ か とら 0 とりいで そのこと もと′ ) と はかまこしつつみ、り さむら 四 て あら かへ わたり

4. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

いまはむかしかうちのかみみなもとのよりのぶのあそむかむつけのかみそのくにあり ときそ 一↓五七ハー注一。 今昔、河内守源頼信朝臣上野守ニテ其国ニ有ケル時、其ノ乳母子ニテ、 ニ上野守在任は長保元年 ( 究九 ) ひやうゑのぜうふぢはらのちかたかいふものあり 前後。 兵衛尉藤原親孝ト云者有ケリ 五 五 三頼信の乳母の子。 きはめつはもの よりのぶともそ あひだそ 十そ 四貞正の子。右兵衛尉。 一一其レモ極タル兵ニテ、頼信ト共ニ其ノ国ニ有ケル間、其ノ親孝ガ居タリケル 六 五この上なくすぐれた武者。 めすびととら うちつけおき 六ものに縛りつけておいた意。 家ニ、盗人ヲ捕へテ打付テ置タリケルガ、何ガシケム、枷錬ヲ抜テ逃ナムトシ 集 セ「枷」は首かせ、首綱、「錬」は 五ロ にげうべやうな いつむばかり ^ あり 枷ケルニ、可逃得キ様ャ無力リケム、此ノ親孝ガ子ノ五ッ六ッ計ナル有ケル男子手足を縛る鎖で、共に刑具。 昔 九 ^ 「ナリケル」と同義。「ナル有 かたいつくし はしありき めすびとしちとり つばやあり 今 ケル」は同意語の重出に近い。「ナ ノ、形チ厳カリケルガ、走リ行ケルヲ、此ノ盗人質ニ取テ、壺屋ノ有ケル内ニ ル男子」と「有ケル男子」の混態か ひぎもとこのちごかきふ かたなめき ち ) ) はらさしあ 九美麗の意。かわいらしい 入テ、膝ノ下ニ此児ヲ掻臥セテ、刀ヲ抜テ、児ノ腹ニ差宛テ、居ヌ。 一 0 間仕切りをし、三方を壁仕立 そのときちかたかたちあり ひとはしゆき わかぎみ めすびとしちとたてまっ てにした物置・納戸のような部屋。 其時ニ親孝ハ館ニ有ケレバ、人走リ行テ、「若君ヲバ盗人質ニ取リ奉リッ」 = 腰に差す短刀・懐剣の類。 っげ ちかたかおどろさわぎはしきたりみ まことめすびとつばやうちちごはらかたな ト告ケレバ、親孝驚キ騒テ走リ来テ見レバ、実ニ盗人壺屋ノ内ニ児ノ腹ニ刀ヲ三国守の居館。国。 一三驚きと悲嘆に目の前が暗くな さしあてゐ かたな ただより おば ばひ ったような気がして。 差宛テ居タリ。見ルニ目モ暗レテ、為ム方無ク思ュ。「只寄テャ奪テマシ」ト 一四しやにむに近寄って子供を奪 おも おほ かたなきら あらはち′ ) はらさしあて ちか おはしま 思へドモ、大キナル刀ノ鋼メキタルヲ現ニ児ノ腹ニ差宛テ、「近クナ寄リ不御い返してやろう ( か ) 。 一五はた目にはっきり見えるよう し ちか よりおはしまさっ ころたてまっ あらはいふ に子供の腹にさし当てて。 座ソ。近クダニ寄御座バ突キ殺シ奉ラムトス」ト云へバ、「現ニ云マ、ニ突キ 一六一歩でもお近づきになったら。 ひやくせんこやっき きざみ なにやく あるべ おもひ 一 ^ らうどうども 殺テパ、百千ニ此奴ヲ切リ刻タリトモ、何ノ益力ハ可有キ」ト思テ、ロ郎等共宅「現ニ」は「突キ殺テパ」にかか 一九 ニ 0 る。警告通り、盗人が実際に突き あなかしこちか ただとほよそ まもりあ みたちまゐりまう ニモ、「穴賢、近クナ不寄ソ。只遠外ニテ守テ有レ」ト云テ、「御館ニ参テ申サ殺したならば。 - 一ろし み め 0 せ ちかたか しカ ちかたかゐ めきにげ めのとご をのこ′ ) うち

5. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

意外な逆転劇と下女の蛮勇ぶりが本話のミソ。常識を破る奇異な話として伝承されたのではあ ろうが、本話に描かれた庶民の女のたくましさは、仮名文学に登場する女性たちとはまったく 対照的なものがある。前話を受けた殺人事件である一方、親族の争いというテーマを介して次 言を引き出している。双六は、今の絵双六と違い、対局者は白黒の駒石に分れ、中央を空地で 区切って左右各十二条の陣地を設けた長方形の木盤の上に各十五の駒石を並べ、交互に木また は竹筒に入れた二個の賽を振り出た目に応じて盤上の駒を進める大陸伝来の遊戯。なお、双六 しようゆうき から傷害沙汰に及んだ話は巻二九第三〇話、『小右記』寛仁三年八月 + 一日の条以下、諸書に散見。 一四↓本話解説。 十 ↓一八ハー注六・七。 今昔、鎮酌」げノ風ニ住ケル人、合聟也ケル者ト双六ヲ打ケリ。其人極テ 第 一六武芸をたしなまない並みの人。 こころたけ きうぜんもつみ かギ一り すぎ つはものなりあひむこただあるものなり 語 宅主とする。もつばらにする。 心猛クテ、弓箭ヲ以テ身ノ荘トシテ過ケル兵也。合聟ハ只有者也ケリ 一 ^ 一本に「宗トスル事也ケル」。 - もと一 あらそ もつむね こと一 ^ 下・すぐろく これらさいろん あひだ 一九「」は「簿」の通字で、双六の 殺双六ハ本ョリ論戦ヒヲ以テ宗トスル事トスル。此等饕論ヲシケル間ニ、遂ニ さい。「論」は、筒中の賽の目を ニ 0 このむしゃ 被たたかひなり ものあひむこもとどりとり うちふせ 一し めか 当てる遊戯か 敵戦ニ成ケリ。此武者ナル者、合聟ガ髻ヲ取テ打臥テ、前ニ差タル一トビヲ抜 ニ 0 格闘。暴力沙汰。 擬 おびとりさやっき ゅひつけ かたて そのむすびとか ニ一漢字表記は一佩。短刀の一種。 おびとり 六ムトスルニ、幔ニ鞘ニ付タル緒ヲ結付タリケル刀ニテ、片手ヲ其結ヲ解ントシ 一三「穫」の偏を「巾」に置き替えて 打 ほどかたきそのかたなっか とりつき 通用させた字。太刀を腰につるた 人ケル程ニ、敵其刀ノニヒシト取付タリケレバ、武者立テカ有者也ケレドモ、 めの革紐または組み紐。 ニ五 えめきえず やりど ニ三↓二〇〇ハー注六。 はうちゃうかたなさされ 否不抜得シテ、ヒチクリケルニ、喬ナル遣戸ニ、包丁刀ノ被指タリケルヲ見付一西ここでは、ひねくり回す意。 もとどりとりなが そこひきもてゆき ニ五正字は「庖丁刀」。料理用の刀。 もとどりとられ ものやりどもとニ六ゆき テ、髻ヲ取乍ラ、其へ引持行ケルヲ、髻被取タル者、「遣戸ノ許へダニ行ナバ ニ六引戸のもとへ行ったら最後 ニ四 かたな まへ 0 みつけ つひ

6. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

一九 ゃう しま 6 い。カ くらはれ おなじし のちひとき のり 一四糊を用いす、水張りにして干 様、「今ハ何ニストモ此ノ鬼ニ被瞰ナムトス。同死ニヲ。後ニ人モ聞ケカシ。 した絹で作った狩衣の一種で、男 おにい おもひものかくれおほき ニ一がりやゆみつがひおにさしあ つよ 此ノ鬼射ム」ト思テ、物ノ隠ョリ大ナルロ鴈箭ヲ弓ニ番テ、鬼ニ指宛テ、強ク子の平服。「袴」はその袴で、上衣 と一対のもの。 おにもなかあたり いられ たちはしり 引テ射タリケレバ、鬼ノ最中ニ当ニケリ。鬼ハ被射ケルママニ、立走テ出ヅト一五居合せた陰陽師が、の意。 ニ四 一六どのようにしてはいったとも おもほど かきけやううせ や たた をどりかへり わからない状態ではいってきた。 思フ程ニ、掻消ッ様ニ失ニケリ。箭ハ不立ズシテ踊返ニケリ。 宅「戸」をそえて「かまど」とよま あさましわざ めし をとこおな 家ノ者、皆此レヲ見テ、「奇異キ態シッル主力ナ」、ド云ケレバ、男、「同ジせたもの。 し 一 ^ もうこんな所まではいって来 のちひとき 、 ) とあ おもひこころみ なり おむやうじ たなあ。 死ニヲ。後ニ人ノ聞カム事モ有リト思テ、試ツル也」ト云ケレバ、陰陽師モ奇 ニ六 一九どうせ同じく死ぬのなら。こ そのちそ べちことな 異ノ気色シテナム有ケル。其ノ後、其ノ家ニ別ノ事無力リケリ。 この「ヲ」は間投助詞的用法で、余 情をこめて下句を省略した語感。 しか おむやうじ こと おもふべ かど いりニ八ありさま 四然レバ、陰陽師ノ構へタル事ニヤ有ラムト可思キニ、 門ョリ入ケム有様ョリニ 0 五行後の「後ニ人ノ聞カム事 十 モ有リト思テ」とほば同意。 はじ やをどりかへりたた ことおも ただもの あら なり おば 第始メテ、箭ノ踊返テ不立ザリケム事ヲ思フニ、只物ニハ非ザリケリト思ュル也。 = 一「とがりや」の「ト」の漢字表記 語 を期した欠字。↓一九五ハー注一一六。 おにあら ひとげん ことありがたおそろ ことなり かたった ここでは腹または胸の真ん中。 被鬼ノ現ハニ此ク人ト現ジテ見ュル事ハ難有ク怖シキ事也カシ、トナム語リ伝 家 ニ三↓一一一〇ハー注四。 一西矢は突き刺さらずにはね返っ 来へタルトャ。 鬼 国 一宝「主」は対称の代名詞で、あき 磨 れたことをしたお人だの意。 ニ六特に変った事。格別の変事。 毛仕組んだ事。 ニ〈↓二五三ハー注一五。 ひきい いへものみなこ けしき か あり ニ七 かま み み あ

7. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

いまはむかしみちのおくくにせいとくあ ものきゃうだいあり あにおとうと 今昔、陸奥ノ国ニ勢徳有ル者、兄弟有ケリ。兄ハ弟ョリハ何事モ事ノ外ニ一三国府の官人。 ま ) りあり 第、。に・す . け まつりごととりおこな つねあり 増テゾ有ケル。国ノ介ニテ政ヲ取行ヒケレバ、国ノ庁チニ常ニ有テ、家ニ居一四権勢。また、権勢と財力。 一五国府の次官。ここでは陸奥介。 ことまれ あり いへたち ひやくちゃ、つばかりさり ・ : としての意。 タル事ハ希ニゾ有ケル。家ハ館ョリ百町許去テゾ有ケル。字ヲバ大夫ノ介「ニテ」は、 一六「館 ( 舘 ) 」と同意。 宅五位の介だったことからの通 トナン云ケル。 称。 それわか わたからをつたふべきひとなし こあながちねが 其ガ若カリケル時、子モ無リケレバ、我ガ財可伝人無トテ、子ヲ強ニ願ヒ ほど としゃうやおい とししじふあま一八 いまこむまこと 五ケル程ニ、年モ漸ク老ニケリ、妻ノ年ハ四十ニ余ルニテナン、今ハ子産ン事モ 一九 おもひかけめほどくわいにむ めをうととも よろこおもほど つきみちたんじゃうびれい 子不思懸程ニ懐妊シニケリ。夫妻共ニ此レヲ喜ビ思フ程ニ、月満テ端正美麗ナル ・天 . をのこごむめ ぶもこれかなしあい めはなたずやしなほど そははほどな 大男子ヲ産バ、父母此ヲ悲ミ愛シテ、目ヲ不放養フ程ニ、其ノ母程無ク死ケリ。 ニ一物の道理。物の分別。 府 なげ かなしことおろかならず どもかひなく やみ 一三継母 ( 後妻 ) を迎えまい 国歎キ悲ム事不愚トイへ共、甲斐無シテ止ヌ。 ニ三「亦」の意。 陸 ちち ちご ものこころしりおとな ままははにみえじ ニ四この下に欠字を想定。「子 父、「此ノ児ノ、物ノ心知テ長ビムマデハ、継母不見ト云テ、妻ヲ儲ル事 ( モ ) 」が擬される。 ニ五 ニ五「甥」の異体「男ーの誤写か。い ただこのすけおとうと ニ四なか あは このをひちごきはめいつくし 無シ。只此介ガ弟モ二。無リケルニ合セテ、此勢ノ児ノ極テ厳ケレバ、「我ずれにせよ、正字は「甥」。 ( 現代語訳三八一ハー ) おちくばものがたり こすみよしものがたり て多いが、構造的に細部まで一致する同類話は見当らない。『落窪物語』や『古住吉物語』以 下の存在と相まって、古来継子いじめの話が盛行したことをうかがわせる一話でもある。 ときこ なか め あり あぎな なにごと い七 まうくこと いへゐ ま、 われ すけ 天「程ニテナン」の意。 一九容姿が整って美しいさまを形 容する常套語。容姿端麗。 ニ 0 深く愛して。

8. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

九 はこぎきたいふのりしげおほぢなり 云ケル。近来有ル筥崎ノ大夫則重ガ祖父也。 た、秦定重が有力な該当者。なお、 「貞重」の表記は当字の可能性が大。 ↓一〇五ハー注一四。 其貞ガ t げノノ缶畢テ上ケルニ、送リニ京七ストテ、宇治殿ニ参ラセ = 六京の五位の意で、貞重が在京 れうまたわたくししり - ひと こころざ たうにんものろくしちせんびきばかりかり そのしち ム料、亦私ニ知タル人ニモ志サント、唐人ノ物ヲ六七千疋許借テケリ。其質勤務したことからの通称か。 セ本句は典拠よりの転載で、同 さだしげよ たちとをこし おき ニ、貞重吉キ大刀十腰ヲゾ置タリケル。 文の注記は宇治拾遺にもみえる。 ^ 今の福岡市箱崎町。則重の本 きゃうのばり うぢどのものどもまゐ わたくししり ひとびとここ・つギ、し 京ニ上ケルマ、ニ、宇治殿ニ物共参ラセ、私ニ知タリケル人々ニ志ナドシ拠であろう。 一九 九秦氏。大宰大監。従五位下。 よど かへくだり ふねのり あひだしり ひとまうけ テ返リ下ケルニ、淀ニテ船ニ乗ケル間、知タル人ノ儲シタリケレ バ、ソレ食ナ同人については治暦・延久から康 和初年 ( 一 0 六五 ~ 究 ) にかけて、大宰 ほど ふねのりあきなひ もの たまか ききいるものなか ドシケル程ニ、船ニ乗テ商スル者、「玉ャ買フ」ト云ケルヲ、聞入ル者無リケ府関係文書等に散見。 ニ 0 一 0 「其貞重ガーは下句を隔てて、 さだしげとねりつかまつり をのこふね わルニ、貞重ガ舎人ニ仕ケル男ノ、船ニノリタリケルガ、「此へ来レ。見ム」ト「送リニ京上ストテ」にかかる。 = 人名の明記を期した欠字。何 ケレバ、漕寄テ、襷ノ腰ョリ凵ノ玉ノ大キナル大豆リ有ヲ、取出シテ取某が輔 ( ↓次注 ) の任期が終。て上 得 京したので、の句意。 とねりをのこき すいかんめぎ これ たま ここでは「介」の当字。貞重の 淀セタリケレバ、舎人男、着タリケル水干ヲ脱テ、「此ニハ替テンヤ」ト。玉ノ三 ニ四 於 住国より推すに、筑前介か。 しよとく おも すいかんとりてまどひ ふねさしはなちさり 従主、「所得シッ」ト思ヒケルニヤ、水干ヲ取、手迷ヲシテ、船ヲ指放テ去ニケ一三藤原頼通をさす。宇治拾遺は 重 「故宇治殿」とする。 とねりをのこ たかかひ おも ことすいかんきかへ 西レバ、舎人男、「高ク買ツルニコソ」ト思ヒケレドモ、異水干ヲ着替テ、「悔一四献上用品。 ニ六 一五個人的な知合い おもひ はかまこしつつみかへほど ひかずつも 一六当時の一疋は銭十文。ここで シ」ト思テ、玉ヲバ袴ノ腰ニ裹テ返ル程ニ、日員積リテ、波方ニ行着ニケリ。 はその金額相当の物品。 さだしげふね おるニ七 ものかし たうにんもとゆき しちすくな 貞重船ョリ下ルマデニ、物借タリシ唐人ノ許ニ行テ、質ハ少クシテ、物ヲ多宅「腰」は刀剣を数える助数詞。 めし このごろあ たま かへ はかたゆきっき ここきた ものおほ

9. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

なか ものあ さら たがひうたがおも あ著 ) まし 中ニ、「知タル者ャ有ラム」ト、互ニ疑ヒ思へドモ、更ニ云ヒ甲斐無シ。「奇異天意にかなうの意。忠勤を励ん て御意にかなってきた。 たまひ あるじ こゑ たまは くちをししにたまふべ キ死ニシ給ヌル主力ナ。何ドカ音ヲダニシ不給デ。『此クロ惜ク可死給シ』ト一九情けない死にざま。 一八 ニ 0 「横なまりたる音」と同意。訛 おもは としごろあとさきたちかなたてまつり うんっきたまひ なが ハ不思デコソ、年来後前ニ立テ叶ヒ進ツレ。運ノ尽給タルトハ云ヒ乍ラ、弊りのある声。当時、東国方言をさ すことが多かった。 し たまひ こゑどももっ あひののしことかぎ ( り ) キ死ニシ給ヌルカナ」ト、横ナバリタル音共ヲ以テヰリメキ合テ隍ル事無限 = 一物を燒る時のように、ひしめ き騒ぐ意。 なし 一三恐れ慎むこと。 ニ三なかでも特に。とりわけ。 しかあひだこれもちこれきき いみじおどろさわ わ はぢなりわれはばかりな 而ル間、維茂此ヲ聞テ、極ク驚キ騒ギ、「此ハ我ガ恥也。我ニ憚ヲ成サム者 = 四時期。場合。 一宝本国の意。 っゅはばかりこころおかね かくす いとびんな ハ殺テムャ。露憚ノ心ヲ不置バコソ此ハ為レ。其ノ中ニ折節ノ糸便無キ事也。 = 六「シ」を「為」の全訓捨て仮名と ニ六 ニ七 みて、「せ」を補読し、「シせられ もとすみか しらめくにきたりか ( し ) せられ あさましねたことなり 本ノ栖ニテ然モ有ナム、此ク不知国ニ来テ此ク被為シヌルハ、 奇異ク妬キ事也。ヌルハ」とよむ。 ニ七いまいましいこと。 そもそこすけひと ひところし ころされ ちひさきさぶらひかうの 抑モ此ノ介ハ一トセ人殺テシ者ゾカシ。其ノ被殺ニシ者ノ子ナム小侍ニテ守夭「ナル」は伝聞で、お仕えして いるそうだの意。 四とのあん さやうものころ あり たちゅき 第殿ニ有ナル。然様ノ者ノ殺シタルニコソ有ヌレ」ナド云テ、館ニ行ヌ。 ニ九「共」は「供」。従者の意。 語 ニ九 三 0 三 0 昨夜の意。↓田一六一ハー注一一 0 。 叔かみのまへ これもちいは おのれともさぶらひそれがし こよひひところしさぶらふなりかかたびどころ 被守前ニシテ維茂云ク、「己ガ共ニ侍ツル某ヲ、今夜人ノ殺テ候也。此ル旅所三一旅先の宿。 三ニ「慮外」の誤り。「不慮ノ外」と まゐりか せられさぶら これもちきはめ はぢなり ことひとしわざ さぶらはずひと 茂ニ参テ此ク被為テ候へバ、維茂ガ極タル恥也。此レハ異人ノ為態ニハ不候。一同意で、思いがけなくの意。 三四 三三乗馬のまま前を横切った無礼 平 りよぐわいのむまとが いころき一ぶら をのここちひさきをのこ とのさぶら三五 とが トセノ盧外馬咎メニ射殺シ候ヒシ男ノ子ノ小男コソ殿ニ候フナレ。定メテ其を咎めたものか。 三四年少の子。少年。 しわざ さぶら かめしと おもたま 三五「ナレ」は伝聞。 レガ為態ニコソ候フメレ。『彼レ召テ問ハム』トナム思ヒ給フル」ト。 ころし し 0 三ニ しり 三三 あり な もの そ なかをりふし ものこ かひな さだ ことなり 一九 ったな もの ぎよい

10. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

一九 ひとっくりかみ そな 天順ぐりに。順番に。 ナ、リ。然テ、生贄ヲパ人造テ神ニハ備フルカ」ト問へバ、妻、「然ニハ非ズ。 ニ 0 はだかなし 一九料理して。調理して。「造ル」 まないたうへうるはしふせ みづかきうちかきいれ ひとみなさり 『生贄ヲバ裸ニ成テ、爼ノ上ニ直ク臥テ、瑞籬ノ内ニ掻入テ、人ハ皆去ヌレバ は肉を切り分けて調理すること。 ニ四 ニ 0 きちんと寝かせて。 かみつくりくふ やせったないけにヘ かみあれ さくもつよからずひと 神ノ造テ食』トナン聞。痩弊キ生贄ヲ出シッレバ、 神ノ荒テ、作物モ不吉、人三↓一二四ハー注一五。 一三「舁入テ」の意。かつぎ入れて。 やみさとしづかならず かくいくたびなくものくは するなり ニ三荒れ狂って。 モ病、郷モ不静トテ、此何度ト無物ヲ食セテ、食ヒ太ラセント為也」トイへ ニ四五穀も実らず、疫病が流行し、 をうとっき′一ろいたはり ことどもみなこころえ かみ かたち 、夫月来労ツル事共皆心得テ、「然テ、此生贄ヲ食ラン神ハ、何ナル体ニテ里に不安が絶えない意。神の祟り というわけである。 おは とへ め さるかたちおは きく こた をうとめかたら 御スルゾ」ト問バ、妻、「『猿ノ形ニ御ス』トナン聞」ト答フレバ、夫妻ニ語フ = = 鍛えのよい刀。 ニ六お安いご用です。 ゃうわれかねよか かたなもとめえしめ あら かたなひと 毛用意して。都合して。 様、「我ニ金吉ラン刀ヲ求テ令得テンヤ」ト。妻、「事ニモ非ズ」ト云テ、刀一 ニセ 一穴元気が満ちあふれて。勇気百 かまへとら をうとそのかたなえ かへすがへとぎ もち かく 倍して。 ッヲ構テ取セテケリ。夫其刀ヲ得テ、返々ス鋭テ、隠シテ持タリケリ。 ニ ^ ニ九 ( 生贄が神のお気に召して ) 里 すぎ いささかえ よ くひふと いへあるじよろこ これ 八過ヌル方ョリハ勇ミ寵テ、物ヲモ吉ク食太リタリケレバ、家主モ喜ビ、此ヲの暮しは平穏無事らしい、と言 0 ニ九 三 0 て喜んだ。 一とよ いひょろこ かく まへなめか ロききつぐもの 三 0 祭日の一週間前から。 聞継者モ、「郷吉カルベキナメリ」ト云テ喜ビケリ。此テ前七日ヲ兼テ、 三一↓一一一三ハー注三 0 。 このをとこしゃうじんけっ * 、い . ヒこのいへにしりくへひき しりくへひきつつしあひ 三ニ↓一二三ハー注 = 九。 襯此家注連ヲ引ツ。此男ニモ精進潔斉セサス。家々ニモ注連ヲ引慎ミ合タリ。 猿 三四 三三「慎ミ」は精進潔斎と同意。物 いまいくにち なきいり をうといひなぐさめ おもはめ三五 弾此妻ハ、「今何日ゾ」ト計へテ泣入タルヲ、夫云曖ツ、、事ニモ不思ヲゾ、妻忌みをし合った。 飛 三四夫が何度も慰めては平然とし すこなぐさみ 少シ曖ケル。 ているので。 三六 三五「ヲ」は「ニとありたいところ。 かくそのひなり このをとこもくよく しゃうぞくうるはし かみけづ 三六櫛で頭髪をすかせて。 此テ其日ニ成ヌレバ、此男ニ沐浴セサセ、装束直クサセテ、髪削ラセテ、 このめ 、け・、ヘ かた 、けにヘ きく かぞ もの このいけにヘくふ ニ六 こと と ふと ニ三 こと 三三 かね あら