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検索対象: 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)
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1. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

一一藤原氏諸流の同名人物はいず いまはむかしはりまかみさへききむゆき れも該当しないが、同姓で名前の さだのり 今昔、幡磨ノ守、佐伯ノ公行トフ人有ケリ。其レガ子ニ、佐大夫〔凵凵ト よく似た藤原貞章が、天喜五年 ( 一 しでうたかくら ありものこのごろあ あきむね ちちなりそ さだいふ 0 五七 ) 八月、阿波守赴任の途中、海 テ、四条ト高倉トニ有シ者ハ近来有ル顕宗トフガ父也。其ノ佐大夫ハ、阿に没して死んでいる。年四 + 八。 かふぢはらさだなりあそむともあは くだり ほど ふね かみともうみいり この人物を誤り伝えたものか。 七 ノ守ミ藤原ノ定成ノ朝臣ガ共ニ阿波ニ下ケル程ニ、其ノ船ニテ守ト共ニ海ニ入三宇治拾遺では「河内前司」。 十 かうちのぜんじ 一三「云ヒシ」の音便形「云ッシ」を、 二テ死ニケリ。其ノ佐大夫ハ河内禅師トフシ者ノ類ニテナム有ケル。 促音に近い「フ」で表記したものか。 語 そかうちのぜんじ 借其ノ時ニ、其ノ河内禅師ガ許ニ黄斑ノ牛有ケリ。其ノ牛ヲ、知タル人ノ借ケ一 = 黄色い飴色のぶちのある牛。 よどやり 一七つめはし 、つしかひ くるまあしやり 一六京都市伏見区淀。 くるまかたわはし レバ、淀へ遣ケルニ、ロ集ノ橋ニテ、牛飼ノ、車ヲ悪ク遣テ、車ノ片輪ヲ橋ョ宅「樋」の漢字表記を期した欠字。 師 おと ひかれくるまはし おち くるまおつなり 京都市伏見区淀樋爪町にあった橋。 おもひ 内リ落シタリケルニ被引テ車モ橋ョリ落ケルヲ、「車ノ落ル也ケリ」ト思ケルニ 一 ^ それと気づく気持を表す。 一九 河 ニ 0 うしふみ うごかた 一九足を広げて踏んばって。 むながいき くるまおちそん ヤ、牛ノ踏ハダカリテ不動デ立テリケレバ、鞅ノ切レテ車ハ落テ損ジニケリ、 ニ 0 馬や牛の胸から背にかけて渡 ひも ワ 1 うしはしうへとどまり あり す丈夫な紐。荷を引くためのもの。 ひとそんぜ ったな 牛ハ橋ノ上ニ留テゾ有ケル。人モ不乗ヌ車ナレバ、人ハ不損ザリケリ弊キ三傷つかなか。た。 そとき そさだいふ に乗り回した話。神隠しならぬ霊の牛隠しというわけであるが、事の委細は、河内禅師の夢枕 に立った佐大夫の霊の釈明で明らかになったという趣向。同じ怪異譚ながら、前話とはやや趣 を異にするが、前話の男、本話の佐大夫がともに悪趣に堕して受苦懊悩したという共通要素が 両話をつなぐくさびとなっている。事の真偽はともかく、少なくとも本話は世上に事実譚とし て広まったものらしく、話末の注記「此ハ河内禅師ガ語リシ也」も本話の伝承源を示唆してい る。 ひとのら ひとあり くるま い四 さだいふ六

2. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

はただ驚きあきれるばかりであった。 夜である。 思うに、野猪が、この男の小屋にはいったのを見て、お もしゃ馬が草を食いながらどこかに立っていないかと捜 どそ , っと思し 、、、だましたのであろう。「こいつ、つまらぬしていると、根元の太さは二間四方ぐらいの家ほどもあろ 十まねをして死んだものだ」と人々はわいわい言い合った。 うかと見える、高さ二十丈 ( 約六十メートル ) ばかりの杉の 第されば、人気のない野中などには小人数で宿ったりして木が、一段ほど向こうにそびえ立っていた。中大夫はそれ はならぬものである。 を見つけ、そこに立ち止って、従者の男を呼び寄せ、「も 五ロ 1 三ロ さて、男は京に上り、このことを語ったが、それを聞き しかしたら、わしのひが目なのか、それとも何かに化かさ 物 昔継いで、こう語り伝えているということだ。 れて、思いがけぬ方に来てしまったのか。あそこに立って 今 いる杉の大木はお前の目にも見えるか」と尋ねると、従者 狐大きなる橸の木に変じて射殺される語 は、「わたしにもはっきり見えます」と答えた。そこで、 第三十七 中大夫は、「さては、わしのひが目ではなく、惑わし神に 会って、思いがけぬ所に来てしまったのだろう。この国に かすが なかとみの 今は昔、〔凵凵のころ、春日神社の宮司で中臣〔凵凵という これほどの杉の大木があるのを、どこかで見たことがある ちゅうだいふ 者がいたが、その甥に中大夫ロという者があった。その中 か」ときくと、従者は、「いっこう記憶がありません。ど 大夫の馬が草を食っているうちに姿が見えなくなったので、 こそこに杉の木が一本ありますが、それはもっと小さいも ゃなぐい それを搜そうと、中大夫は従者一人を連れ、自分は胡籐を のです」と答えた。中大夫は、「思った通り、わしはすっ 背に出かけた。彼の住いは奈良の京の南に当る三橋という かり惑わされてしまったのだ。どうしたらよかろう。本当 所である。中大夫がその三橋を出て、東の山に分け入り、 に恐ろしい。さあ、引っ返そう。 いったい家から何町ほど 馬を捜しながら二、三十町 ( 約二、三キロメートル ) ほども来たろうか。気味の悪いことだなあ」と言って帰ろうとす おばろづき 行くうち、日もとつぶり暮れ、夜になった。ちょうど朧月 ると、従者の男が、「これほどのことに出会って、むざむ ( 原文三〇五ハー ) みはし

3. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

ってきた。「さあ、まいりましよう」と言うので、一緒に宿るようなことはございません」と言う。そう言う様子は 出かけたが、西の方一町余り行くと、古びた堂があった。 じつにいいようもなく恐ろしい。正親大夫は、「わたしは 仲立ちの女は堂の扉を引きあけ、自分の家から持って来た ここに人がおいでになるとは少しも存じませんでした。た うすべり 薄縁一枚を敷き、「夜が明けましたらお迎えにまいります」 だ、ある人が、今夜だけここにいるようにと申しましたの で、やってきたのです。本当に失礼いたしました」と一言う と言って、あとをまかせて帰って行った。 そこで、正親大夫は女と横になり、寝物語などしていた と、その女が、「今すぐ出て行ってください。お出になら が、供に連れた従者もなく、ただ二人きりで人気のない古ぬと、おためになりますまい」と言う。そこで、正親大夫 びた堂にいるので、薄気味悪く思っていると、真夜中にも は愛人の女を引き立てて出て行こうとしたが、女は汗みず くになって立ち上がることもできない。それを、無理に引 六なったかと思われるころ、堂の後ろの方に火の光が現れた。 めのわらわ き立たせて外に出た。肩に引きかけて歩かせたが、歩けな 第人が住んでいたのか、と思っていると、女童が一人灯をと 語 いのを、どうにかこうにか女の主人の屋敷の門まで連れて もして持って来て、仏の御前とおばしき所に置いた。正親 たた 大夫は、これは困ったことになったぞ、と弱っていると、 行き、門を叩いて女を中に入れ、正親大夫は家に帰った。 家に帰っても、このことを思い出すと、頭の毛が太くな 時その後ろから一人の女が現れた。 これを見るや、怪しくも恐ろしい気がして、いったいど るように恐ろしく、気分も悪いので、翌日も一日じゅう床 うなるのだろうと正親大夫は起き上がり、見ていると、女 についていたが、夕方になって、やはり、昨夜あの女が歩 くこともできなかったのが気にかかり、例の仲立ちの女の 大は一間はど離れた所にすわって横目で様子をうかがってい 親たが、しばらくして、「ここにはいって来られた方はどな家に行って様子をきくと、「あの方は帰って来られてから 正 たでございます。まことに奇怪なことです。わらわはここ人事不省になり、ずんずん死んでいくように見えましたの あるじ の主でございますが、どうして主に断りもなく、ここには で、皆が『何事があったのです』と尋ねたのですが、何一 いっておいでになったのですか。ここには昔から人が来て つおっしゃいません。ご主人様も驚き騒がれましたが、あ

4. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

今昔物語集巻第二十七 306 だいふ 一年号または年時の明記を期し た欠字。 △「。昔、 t 凵凵ム比、春日ノ宮司ニテ中臣ノ凵ト「ムフ者有ケリ。其レガ甥ニ ニ春日神社 ( 藤原氏の氏神、奈 そちう もとめ ものあり ちうだいふ四 中大夫ロト云フ者有ケリ。其レガ馬ノ食失タリケレバ、其レ求ムトテ、其ノ中良市春日野町所在 ) の神官。 三中臣某の名の明記を期した欠 な そすところな じうしやひとりぐ 大夫、従者一人ヲ具シテ、我レハ胡録掻負テ出ニケリ。其ノ住ム所ノ名ヲバ奈字。↓本話解説。 四中大夫の名の明記を期した欠 ひむがしやまぎま ちうだいふそ ところなり きゃうみなみみはし 良ノ京ノ南ニ三橋ト云フ所也ケリ。中大夫、其ノ三橋ョリ出テ、東ノ山様ニ字。↓本話解説。 五草をたべあさりながら遠くへ つきょ もと にさむじふちゃうばかりゆき 行って帰ってこなかったから。 、日モ暮畢テ夜ニ成ニケリ。ヲポロ月夜ニテ 求メ入テ、二三十町許行ケレバ ↓二〇八ハー注一一。 六 あり セ現在の大和郡山市三橋町。 ゾ有ケル。 一 0 ^ 馬が草を食いながらその辺に やにけんばかりあ みあるき ほど むまはみたて 、まー ) 6 いカ 馬ャ食立ルト見行ケル程ニ、本ノ大キサ屋二間許ハ有ラムト見ュル程ノ榲ノし。 九根元の太さ。 みつけ ちうだいふこ いったんばかりの たけにじふぢゃうばかりあり 一 0 家の柱の間、二間隔分ぐらい。 木ノ長二十丈許有ケル、一段許去キテ立リケレバ、中大夫此レヲ見付テ、 格的な狐の登場は本話から始る。春日の宮司中臣某の甥中大夫が馬を見失って捜し回っている うちに、見聞きも知らぬ杉の巨木を発見し、不審に思って主従ともども一矢を射立てた。とこ ろが、案の定狐の化けた幻の巨木で、翌朝その地に老狐が射殺されていたという話。前話の野 猪の失敗譚のあとを受け、モチーフの類似した老狐の失敗譚を配したもの。なお、橘健二氏は 本話に登場する春日の宮司中臣某に近秀または有助、中大夫に有兼を擬して、本話の発生を永 久四年 ( 一一一六 ) ごろから保安三年 ( 一一 = = ) 五月の間と想定している ( ↓橘健二「今昔物語集成立年 時〈保安元年以後説〉についての一傍証」国語国文・第三〇巻第五号 ) が、論証方法に難があ り、容易に首肯しがたい もとおほ むまはみうせ 六 ゃなぐひかきおひ くれはてよるなり たて みはし そ み ほどすぎ

5. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

あきむね あわのかみふじわらの いる顕宗という者の父である。この佐大夫は阿波守藤原れた。この男は海に落ちて死んだと聞いたが、どうしてや さだなりのあそん ってきたのだろうと、夢、い地にも恐ろしく思いながら出て 定成朝臣の供をして阿波に下る途中船が沈み、守とともに こうちのぜんじ 行って会ってみると、佐大夫が、「わたしは死んで後、こ 海に落ちて死んでしまった。その佐大夫は河内禅師という の家の東北の隅に住んでいますが、あれから日に一度、 人の親類である。 そのころ、その河内禅師の家に黄まだらの牛がいた。そ〔樋〕集橋のたもとに行って苦しみを受けているのです。 ところが、わたくしは罪が深くて非常にからだが重いので、 の牛を知人が貸してほしいというので淀にやったところ、 つめばし 〔樋〕集橋の上で牛飼が車の扱いを誤って、片方の車輪を乗物が乗せられず、しかたなく歩いて行くのですが、苦し 七橋から落し、そのはすみで車も橋から落ちかかった。やれくてしかたありません。この黄まだらの御車牛は力が強く、 二車が落ちる、と思ったのか、牛は踏みはだかってこらえたわたしが乗っても大丈夫なので、しばらく拝借して乗らせ むながい ていただいていましたが、あなたがたいそうお捜しになっ 語ので、鞅が切れ、車は落ちてこわれてしまったが、牛はそ ておられるので、これから五日後、六日目の巳の時 ( 午前 るのまま橋の上にとどまっていた。車にはだれも乗っていな 十時 ) ごろ、お返しいたします。あまり大騒ぎしてお捜し 借かったので、怪我人はなかった。つまらぬ牛ならば、車に なされますな」と言う。こう夢に見て目が覚めた。河内禅 為引かれて、牛も傷ついたであろう。そこで、「すごく力の 師は、「わたしはこんな不思議な夢を見ましたよ」と人に 霊強い牛だ」と、そのあたりの人もほめたたえた。 とういうわ語って、牛は捜さずにいた。 のその後、その牛をたいせつに飼っていたが、・ その後、その夢に見た六日目の巳の時ごろ、この牛がに 禅けか知らず、姿を消してしまった。河内禅師は、「いった の どうしたことだろう」と、大騒ぎして搜したけれど見わかにどこからともなく歩いて帰って来た。何かひどく大 内し 河 仕事をしてきたような様子であった。 つからない。どこかへ逃げて行ったのかと、近くから遠く とうしても見つからないので、捜し すると、あの〔樋〕集橋で車は下に落ち、牛だけ橋の上 まで捜させてみたが、、、 に踏みとどまったのを、かの佐大夫の霊がたまたまそこに あぐねているうち、河内禅師の夢にあの死んだ佐大夫が現

6. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

243 正親大夫二コ若時値鬼語第十六 さかしものなり かくす ひととらやしなは 賢キ者也ケレ・ して、の意。 ハ、此モ為ルゾカシ。子ヲパ人ニ取セテ養セケリ 天「旧キ所」に妖怪が住んでいる のちそ おうなありさましら またひと かかこと あり かたことな 其ノ後、其ノ嫗ノ有様ヲ不知ズ。亦人ニ、「此ル事ナム有シ」ト語ル事モ無という思想は古来一般的なもので、 本巻にも随所にみられる。↓第五 そをむな のちかたり カリケリ。然テ、其ノ女ノ、年ナド老テ後ニ語ケル也。 話「池」、第七話「旧キ山庄」、第一 一九 四話「人モ不住ヌ大キナル家」、第 おも ふるところ あり かならものすむ 一六話「旧キ堂」、第一七話「川原 此レヲ思フニ、然ル旧キ所ニハ必ズ物ノ住ニゾ有ケル。然レバ、彼ノ嫗モ、 ノ院」、第三一話「荒タル旧家」な あなむまげ ただひとくち ど。 子ヲ、「穴甘気、只一口」ト云ケルハ、 定メテ鬼ナドニテコソハ有ケメ ニ 0 一九妖怪。化物。↓一一一〇ハー注三。 よりさやう ところ ひと たちいる ことなり かたった ニ 0 一人っきりで。たった一人で。 此レニ依テ然様ナラム所ニハ、独リマニハ不立入マジキ事也、トナム語リ伝 この「マ」を「コリズマ」の「マ」と同 へタルトャ。 じものとする説もあるが、他に類 例をみない。 そ おほきみのたいふ わかきときおににあふことだいじふろく 正親大夫冂凵若時値鬼語第十六 本話の典拠は未詳。正親大夫某が若年のころ、なじみの宮仕え女と無住の廃堂に一宿した夜 半、堂主と称する怪女が出現して無断宿泊を難詰した。その形相の恐ろしさに、某は早々に退 とし おおきみのたいふ おい さだ なり し かおうな あり 0 0

7. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

ざ引き下がるのはつまらないでしよう。この杉の木に矢を 射立てておいて、夜が明けてから様子をご覧になったらい かがです」と言ったので中大夫も、「まことにそれがよか 狐女の形に変じて幡磨安高に値ふ語第三 ろう。では、二人で射よう」と言って、主人、従者ともに 十八 弓に矢をつがえた。従者の男が、「それでは、もう少し近 はりまのやすたか このえのとねり うこんのじようさだ 今は昔、幡磨安高という近衛舎人がおった。右近将監貞 くに歩み寄って射なさいまし」と言うので、一緒に歩み寄 まさ ほろ・第一ろ・いん り、二人で同時に射たところ、手ごたえがあったと聞くと正の子である。法興院 ( 藤原兼家 ) の御随身であったが、 八同時に、その杉の木がばっと消えうせた。それを見て、中それがまだ若いころのこと、殿が内裏においでになってい る間、安高も内裏で控えていたが、自分の家が西の京にあ 三大夫は、「案の定、化け物に出会ったのだ。やれ、恐ろし ったので、そこに行って来ようと思った。だが、従者の姿 語や。さあ帰ろう」と言い、逃げるように帰って行った。 うちの が見当らなかったので、ただ一人で内野通りを通って行く 値さて、夜が明けたので、中大夫は朝早く従者を呼んで、 と、ちょうど九月中旬ごろのこととて、月がたいそう明る 部「さあ、昨夜の場所に行って様子を見てこよう」と言い えん 。夜ふけて、宴の松原あたりまで来ると、前方を濃い紫 磨従者と二人で行って見ると、毛もない老狐が杉の枝を一本 あこめしおんいろ のよく打ってつやを出した衵に紫苑色の綾織の衵を重ね着 て口にくわえ、腹に矢を二本射立てられて倒れ死んでいる。 めのわらわ 変これを見て、「さればこそ、昨夜はこいつが惑わしたのだ」した女童が歩いていたが、月の光に冂凵凵て、その姿といし 、ようもなくすばらしい。安高は長い 髪の様子と、 と言って、矢を引き抜いて帰って行った。 女この話は、つい二、三年のうちの出来事らしい。世の末沓をはいていたが、ごそごそ音を立てながら追いっき、並 狐 んで歩きながら見ると、絵を描いた扇で顔を隠していて、 にもこんな不思議なことがあるものだ。 されば、道をまちがえて知らぬ方に行ったりしたら、怪よくも見せない。額や頬の辺に一筋二筋髪の乱れかかった 8- 様子は、なんともいえず魅力的である。 しいことだと思うべきである、とこう語り伝えているとい , っことだ。 くっ

8. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

ニ云ハム方無ク怖シ。正親ノ大夫ガ云ク、「己レ更ニ人ノ御マシマシケル所ト一「マシマシ」は「御」の全訓捨て 仮名とみる。↓田二四ハー注四。 まうし まうでき もとびんな しりたまへ ただひと 一了よひ・はかり一 : あ 不知給ズ。只、人ノ、『今夜許此ニ有レ』ト申ツレバ、詣来タル。尤モ便無クニ大変ふとどきなことで ) 」ざい あし いでたまは に . よらノばう すみやかと いでたま 十候フ」ト。女房ノ云ク、「速ニ疾ク出給ヒネ。不出給ズハ悪カリナムート。然 = ( あなたにと 0 て ) 具合の悪い 四 ことになるでしょ , つ。 第 えたた をむなあせみづなり おほきみたいふ をむなひきたて 四恐怖で冷や汗をかくさま。汗 巻レバ、正親ノ大夫、女ヲ引立テ出ムト為ルニ、女汗水ニ成テ、否不立ヌヲ、 五 びっしよりになって。 集 えあゆま かまへあるじいへかど あながちひきたていで をとこかたひきかけゆき 五いろいろ骨折って。 語強ニ引立テ出ヌ。男ノ肩ニ引懸テ行ケレドモ、否不歩ヌヲ構テ主ノ家ノ門ニ 昔 いへかへり かどたたきをむな おほきみたいふ 今将行テ、門ヲ叩テ女ヲバ入レッ、正親ノ大夫ハ家ニ返ヌ。 六 ここち ことおもいづ かしらけふと あしおば 此ノ事ヲ思ヒ出ルニ、頭ノ毛太リテ、心地モ悪ク思工ケレバ、次ノ日モ終日六恐怖のはなはだしいさまを形 容する常套句で、本集に頻出。 った ゅふがたなりなほやぜんかをむなえあゆま ニ臥シテ、夕方ニ成テ尚夜前彼ノ女ノ否不歩ザリシガ不審サニ、彼ノ云ヒ伝フセ昨夜。 〈気掛りになって。 ものおば をむないは そひとかへたまひ 九見る見る絶え入ってゆくよう ル女ノ家ニ行テ聞ケバ、女ノ云ク、「其ノ人ハ返リ給ケルョリ、物モ不思工ズ、 に見えたから。 ことあり一 0 ひとびととはれ ゃうみえ ただしにし 一 0 「ツル」は直前の過去を示す。 只死ニ死ヌル様ニ見ケレバ、『何ナル事ノ有ツルゾ』ナド人々被問ケレドモ、 = 面倒をみてくれる人もいない し あ かりや あるじおどろさわぎ ひとなひと えのたまは 物ヲダニ否不宣ザリケレバ、主モ驚キ騒テ、知ル人モ無キ人ニテ有レバ、仮屋身の上だから。 三仮の小屋を造ってそこへ出し おほきみたいふ ほどな しにたま つくりいだされ ヲ造テ被出タリケレバ、程モ無ク死給ヒニケリ」ト云フヲ聞クニ、正親ノ大夫ておかれたところ。死のれを忌 みきらったための処置。↓一九一 あ一まし ま、一と ところひとふ ことありなりおにすみ あき、まーし やぜんしかしか 奇異クテ、「実ニハ夜前然々ノ事ノ有シ也。鬼ノ住ケル所ニ人ヲ臥セテ。奇異ハ ' 注一 = 。 一三鬼の住む所に人を寝かせるな 一とあ を。むなさらそこさ カリケル者カナ」ト云ケレバ、女更ニ其ニ然ル事有ラムト不知ヌ由ヲゾ答へケんて、あんたはひどい人だ、の意。 さぶら ゐてゆき もの ふ をむない へゆきき かたなおそろ もの おほきみたいふ おのさらひと い ^ し カ つぎひ こた と - 一ろ ひねもす し

9. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

ーカせいとくあるもの 一父同様の官位についたことか 此モ大夫ノ介トテ、事ノ外ニ勢徳有者ニテゾ有ケル。 らの通称。 そのたいふすけみ ひとききかたりなり ニ本話の登場人物に縁のある人 其大夫ノ介ヲ見タリケル人ノ聞テ語シ也。 物を説話伝承者に設定し、説話の これおも ままははこころきはめおろかなりわがこ ごとおもひやしなひたて まどはず 此ヲ思フニ、継母ガ心極テ愚也。我子ノ如ク思テ養立タラマシカバ、不迷真実性を強調した注記。 四 三継母は路頭に迷うことなく、 第 け、つやう ものなり しか げんせ′ ) しゃうこころからいたづらなし かた 巻シテ孝養モシテマシ。然レバ、現世後生、心柄徒ニ成タル者也、トナン語リ継子も孝養を尽したであろうに。 四自分の心がけから。わが心か 集 った ら招いて。 語伝へタルトャ。 五「現世後生」を受け、現世の幸 昔 今 福も来世の往生も、二つともに台 無しにした者の意。 これたいふすけ 六 ままははにつきたるあくりゃうひとのいへにままむすめをゐてゆくことだいろく 継母託悪霊人家将行継娘語第六 本話は題目だけをとどめる本文欠話。あるいは原初よりの欠脱か。内容については題目より 推察する範囲にとどまり、同類話と目すべきものも見当らない。前話に引き続く継子いじめの 話で、継母が継娘をたばかって他家に連れ出した ( 売り渡したのか ) というものらしいが、そ うした継母の悪行も、じつは乗り移った悪霊の仕業であったという結末が付されていたもので でもあろうか 、 ) とま、 あり 六乗り移る意。

10. 完訳日本の古典 第31巻 今昔物語集(二)

を裂いてやろうとしたが、弟が、「それはあの子のために ていたが、きびしく問い詰めると、ついに恐れ入り、あり もよくないことです」と諫め、追放するだけにとどめた。 のまま白状してしまった。 ところで、この子を穴に埋めた時、男があわてて菜や草 継母め、なんとあきれ果てた料簡だと思い、人をやって 十家を厳重に固めさせた。このことは隠そうとしても皆が知や枝を投げ込んだが、この子に助かるべき宿報があったの ふた 第り、長年、奥方様とあがめお仕えしていた従者たちも遠慮で、それらは子のからだにさわりもせず、穴の蓋になって すきま 隙間を作り、それで息ができて助かったのだ。これもみな なく口々に非難したが、継母は平然と、「これはいったい 集 語どういうことかい。心外なこと。子供が出て来て、わたし前世の宿報である。 この子は成長して元服し、やがて、父も叔父も亡くなる 昔の仕業だなどと言うとはまったくばかばかしい」と言う。 と、その二人の財産を合せて譲り受け、これも大夫介と呼 それは、子供は殺したので、よもや生きてはいまいと思っ ばれて、ことのほかに声望のある者となった。 たからであろう。 この話は、その大夫介に会った人が本人から聞いて語っ 介はこの家に四、五日とどまり、子の健康を回復させる きとう たものである。 ために祈疇をさせなどし、その後帰宅する時になって、 思うに、継母はじつに愚か者である。わが子のように思 「あの女が家にいると自然顔を合せることになり、我慢が って養育したなら、自分は路頭に迷うこともなく、継子も ならぬ」と言って弟を先に家にやり、継母を追い出させ、 かの乳母を捕縛させ、また継母の娘もはだしのまま追い出孝行したことであろう。されば、継母は現世も後世もみず から棒に振ってしまったのだ、とこう語り伝えているとい し、これらに気脈を通じる者は一人残らず追い払わせてか , っことだ。 ら、子供を連れて家に帰った。 このことを聞き知った者は、この継母を憎み、そばにも 寄せつけなかったので、母も娘もうらぶれた姿で諸方をさ まよい歩いた。子を理めたあの男は首をはね、その妻はロ