くちみ いむくちあり はきいだ ノ開タルロヲ見レバ、婬ロニ有テ吐出シタリ。 一三精液を口から吐き出していた。 み わよねいり へみみ 此レヲ見ルニ、「早ウ、我ガ吉ク寝入ニケル、閇ノ発タリケルヲ、蛇ノ見テ一四なんとまあ、やはり。三行前 の「然ハ・ : 此ノ蛇ト婚ケルカ」とい よりのみ をむなとつぐ おば とき いむぎゃう へみえた 寄テ呑ケルガ、女ヲ嫁トハ思工ケル也ケリ。然テ婬ヲ行ジツル時ニ、蛇ノ否不う疑惑が事実だったことを確認し て驚いた気持。 - : 一ろう あさましおそろ そ・ ) さり かくれまらよく 一五男根が勃起していたのを。 堪デ死ニケル也ケリ」ト心得ルニ、奇異ク恐シクテ、其ヲ去テ、隠ニテ閇ヲ吉 一六人目につかない所、物陰。 あらひ ・一とひと かた おもひ よしな ことひとかたりきこ 々ク洗テ、「此ノ事人ニヤ語ラマシ」ト思ケレドモ、「由無キ事人ニ語テ聞エナ宅蛇毒を恐れて洗い落したもの。 ニ 0 ↓田九一ハー一〇 ~ 一二行。 へみとつぎ そうなり いはる おもひ かたら なほ・」 バ、『蛇嫁タリケル僧也』トモゾ被云ル」ト思ケレバ不語ザリケルニ、尚此ノ一〈つまらないこと。 一九世間の評判になったら。 ことあ、ましおば つひょ したし そうかたり そう おぢ 事ノ奇異ク思工ケレバ、遂ニ吉ク親カリケル僧ニ語ケレバ、聞ク僧モ極ジク恐 = 0 やはりこの事が ( あまりにも ) 不思議に思われたから。 四 ところ すべから そうそのち 語然レパ人離レタラム所ニテ、独リ昼寝ハ不可為ズ。レドモ此ノ僧、其ノ後 べちことな ちくしゃうひと いむう かならし 受別ノ事無力リケリ。「畜生ハ人ノ婬ヲ受ケツレバ、否不堪デ必ズ死ヌ」ト云フ = 一格別の変ったこと。変事。 呑 ま・ ) となり そうおくびやうしばらくやみつき あり 一三おじけづいて。おびえて。 寝ハ実也ケリ。僧モ憶病ニ暫ハ病付タル様ニテゾ有ケル。 きき ことそかたぎか そうかたり ものかかたった 此ノ事ハ其ノ語リ聞セケル僧ノ語ケルヲ聞タル者ノ此ク語リ伝へタルトャ。 蛇 よ へ あけ し 0 ひとはな なり ひとひるね なり ゃう まらおこり えたへ し
ものかぎあ 一九家主の男が持って出て行った 然ル事也」トテ、袋ヲ開テ見ルニ、男ノ持テ出ニシ物ノ限リ有リ。 ニ 0 物が全部あった。 おきとひ そとき ほふしいただきうへつきひ 「然レバコソ」ト云テ、其ノ時ニ、法師ノ頂ノ上ニ坏ニ火ヲ入レテ置テ問ケレニ 0 思ったとおりだ。案の定だ。 ニ一飲食物を盛る土器。ここでは をとこしかしか そこそこやまのなか そとき ほふしあっ 、其ノ時ニナム、法師熱サニ不堪ズシテ、「実ニハ其々ノ山中ニテ男ノ然々素焼の深めの皿か。 一三法師はなぜ犯罪が発覚したの と たま ものなりそもそこ はペ か不審に思ったもの。 侍リシヲ、殺シテ取タル物也。抑モ此ハ誰ガ問ヒ給フゾート云ケレバ、「此レ ニ四 ニ三訊問の意。↓一八二ハー注九。 てんせめかうぶり こた ほふし そひと いへなり ハ其ノ人ノ家也」ト云ケレバ、法師、「然テハ我レ天ノ責蒙ニケリ」トゾ答ニ四自分が殺した男の家に泊ると は、天罰が当ったのだ。 まこと さと さきたて ものどもあつまりゆきみ よあけそ ほふし へケル。然テ夜明テ其ノ法師ヲ前ニ立テ、郷ノ者共集テ行テ見ケレバ、実ニ一宝まだ山の獣や鳥が食い荒らさ ニ五 ず、死体がきちんとしていたので。 をとこころ おき 、つるはし あり そ いまものくひうしな はりつけ 其ノ男ヲ殺シテ置タリケリ。未ダ者モ不瞰失ハデ直クテ有ケレバ、妻子此レヲニ六立木などに四肢を磔にして射 殺したのであろう。重罪人に対す そ ほふし みなきかなし 九見テ哭悲ビケリ。然テ其ノ法師ヲバ、「将返テモ何ニカハセム」ト云テ、ヤガる極刑である。 ニ六 第 毛その恩をわきまえないで。 い・一ろ そところはりつけ 夭仏教での十惑の一。因果応報 テ其ノ所ニ張付テ射殺シテケリ。 被 の真理を無視する誤った考え。 きひとほふし をとこじひあり 其此レヲ聞ク人、法師ヲナム愡ミケル。「男ノ慈悲有テ、呼ビ寄セテ飯分テ食 = 九ほかの所。他の土地または家。 ニ七 宿 三 0 そのままただちに。転じて、 しら おも じやけんふか ものめすと ほかならぬ。 殺セナドシタルヲ思ヒモ不知デ、法師ノ身ニテ邪見深クシテ、物ヲ盗ミ取ラムト 聖 三一まのあたりに ( 天罰をこうむ ころ あらはか てんにくたまひ って ) 。いわゆる現報を受けたも 弥テ殺シタルヲ天ノ憾ミ給テ、外へモ不行ズシテ、ヤガテ其ノ家ニ行テ、現ニ此 三ニ 阿 の。 ころさる あはれことなり ひといひ かたった 三ニただ恐れ入るばかりだ。因果 ク被殺ル、哀ナル事也」トゾ聞ク人云ケル、トナム語リ伝へタルトャ。 の理の歴然たるを感嘆したもの。 、一となり ころ とり ふくろあけみ ニ九 ほふしみ たへ をとこもち・いで ゆ ゐてかへりな た ま・一と わ 三 0 そ よ いへゆき 一いしこ いひわけ
をむな いとうれしおもひ ただみこころなり 一ただあなたのお心次第です。 只御心也」ト云ケレバ、女、「糸喜ク思タリケリ」ト云テ、物食ヒ拈メナドシ ニ「機物」の当字。刑罰の具で、 をとこ おくべち あり ほど ひるつねこと ひとな はりつけ用の台木としたもの。も テ、昼ハ常ノ事ナレパ人モ無クテ有ケル程ニ、男ヲ、「去来」ト云テ、奥ニ別 と機織りの工具だったものを、刑 九 ものよ をとこかみなはつけ なり やゐてゆき 十也ケル屋ニ将行テ、此ノ男ヲ髪ニ縄ヲ付テ幡物ト云フ物ニ寄セテ、背ヲロ出サ罰の具に転用したことからの称。 四 三「カナグリ」の漢字表記を期し 第 ひきかためぎしもともっ をむなえまうし すいかんはかまき あしゅひかがしたためおき た欠字。背中を荒々しくむき出し 巻セテ、足ヲ結曲メテ拈置テ、女ハ烏帽子ヲシ水旱袴ヲ着テ、引編テ、笞ヲ以 にさせての句意。 集 をとこ をとことひ いかおば をとこせ たしかはちじふどうち 四「烏帽子「水旱袴」ともに男 語テ男ノ背ヲ慥ニ八十度打テケリ。然テ、「何ガ思ュル」ト男ニ問ケレバ、男、 子の着用。女は男装をしたもの。 かまどっちたてのま をむなさ あら 五↓一一六七ハー注一四。 今「気シクハ非ズ」ト答へケレバ、女、「然レバョ」トテ、竈ノ土ヲ立テ呑セ、 六片肌ぬぎになって。「引」は接 ひとときばかりありひきおこ よすのま っちょ 吉キ酢ヲ呑セテ、土ヲ吉ク掃テ臥セテ、一時許有テ引起シテ、例ノ如クニ成頭語。「編」は「褊」の誤用。 セ「気」は「異」の当字。別にどう くひものよ そのちれい と一い , っこ一は . ない ニケレバ、其ノ後ハ例ョリハ食物ヲ吉クシテ持来タリ。 ^ 思ったとおりだわ。たのもし さきところゐてゆき またおな よくよ みかばかりへだてつゑめ 吉々ク労ハリテ、三日許ヲ隔テ杖目オロ愈ル程ドニ、前ノ所ニ将行テ、亦同い方ねとたたえる気持をこめる。 ふくりゅうかん 九古来伏竜肝 ( カマッチ、カマ はちじふ っゑめしたがひちはしししみだれ もとっゑめうち ゃうはたものよ ジ様ニ幡物ニ寄セテ、本ノ杖目打ケレバ、杖目ニ随テ血走リ肉乱ケルヲ、八十ノシタノッチなどとも ) と称し、 止血の効があった。 をとこいささかけしきかへ とひ 一 0 水などでといて飲ませ。「立 度打テケリ。然テ、「堪ヌペシャ」ト問ケレバ、男聊気色モ不替デ、「堪ヌ・ヘ ツ」は茶をたてる ( 点茶 ) の「立つ」 よいたはり またしごにちばかりあり かむ たびはじめ シ」ト答へケレヾ ノ、此ノ度ハ初ョリモ讚メ感ジテ、吉ク労テ、亦四五日許有と同意。 一一漢方で栄養剤。塗布薬として いひ たへ なほおなじゃう またおなじゃううち テ、亦同様ニ打ケルニ、其レニモ尚同様ニ、「堪ヌペシ」ト云ケレバ、引返シ打撲傷の治療にも用いられた。 三鞭で打った傷跡が少しよくな かむ あら なほ はらうち るころ。「オロ」は少しの意。 テ腹ヲ打テケリ。其レニモ尚、「事ニモ非ズ」ト云ケレバ、艶ズ讃メ感ジテ、 どうち こた こた たへ はらひふ こと はたもの もてき えもいはほ ものく れい したた たへ ひきかへ なり
おば いへよに . よ、つばう 墓シク物モ否取リ不得デ、盗人、「被籠ヌ」ト思工ケレバ、其ノ家ニ吉キ女房一高貴な女房。花山院の女王を さす。当時上東門院の女房として しち おはし しちとりいだきいで さむでう にしギ ) まにげゆき ノ御ケルヲ、質ニ取テ抱テ出ニケリ。三条ョリ西様ニ逃テ行ケルヲ、此ノ質ヲ出仕。薄幸の皇女で、為元が花山 院に近侍していた縁 ( ↓前ハー注 = 一 ) 九 むまうちの ひとおひき にトう おほみやつむじいで おば 十バ馬ニ打乗セテ、大宮ノ辻ニ出タルニ、人追テ来ニタリト思工ケレバ、此ノ女から同家に引き取られていたもの。 ニ三条大路と東大宮大路の交差 第 ばうおほむぞひきはぎ めすびとすてにげ 点であろう。 巻房ノ御衣ヲ引剥テ、盗人ハ棄テ逃ニケリ。 三東大宮大路に沿って流れ、宮 集 ・一こち おも にようばうならたまは はだかおそろしおそろ ほど おほみやがはおちいり 語女房習ヒ不給ヌ心地ニ、裸ニテ怖々シト思ヒケル程ニ、大宮河ニ落入ニ中に引かれて御溝水とな 0 た掘割。 四「コゴリ ( ル ) 」または「コゴヒ」 昔 はひあがりひと みづこほりかぜっめたことかぎりな いへたちよりかどたたき 今ケリ。水モ凍シテ風冷キ事無限シ。水ョリ這上テ人ノ家ニ立寄テ門ヲ叩ケレドの漢字表記を期した欠字。こごえ て。 おぢみみききいるひとな しか にようばう四 つひし いぬくはれ モ、恐テ耳ニ聞入ル人無シ。然レバ女鬥テ遂ニ死ニケレバ、狗ニ被食ニケ五以下の描写は、きわめて凄惨 五 かっ詳烈な印象を与える。 きれぎれ っとめてみ いとながかみあかかしらくれなゐはかま ほめ・なか - あめ・ 六 ↓一六三ハー注 ^ 。 朝見ケレバ、糸長キ髪ト赤キ頭ト紅ノ袴ト、切々ニテゾ凍ノ中ニ有ケル。 セ粗暴な三位の意で、藤原道雅 。も のちせんじくだり もの やむごとな ぬすびととらへてたてまつり しゃうたまふべ 其ノ後宣旨下テ、「若シ此ノ盗人捕奉タラム者ニハ、止事無キ賞ヲ可給の異名。伊周の子。万寿三年 ( 一 9 一 六 ) 左近衛中将より右近権大夫に左 ののしあひ ことかぎりな ことくわうざむみいひふぢはら ^ ひと シ」トテ、隍リ合タル事無限シ。此ノ事ハ荒三位ト云テ藤原ノロト云フ人ゾ遷され、寛徳二年 ( 一舅 ) 任左京大 夫、従三位。歌人。天喜二年 ( 一 0 五 おひ そくわうぎむみ いぬくはれ ひめぎみけさう きか 負ケル。其レハ、其ノ荒三位ノ、彼ノ狗ニ被食タル姫君ヲ仮借シケルニ、不聞四 ) 没。年六 + 三。 ^ 藤原某の名の明記を期した欠 よひといののしり ザリケレ 字で、「道雅」が擬せられる。 バ、トゾ世ニ人云ヒ隍ケル。 九嫌疑をかけられた。 たづもとむあひだやまと くだ しかあひだけむびゐしさゑもんぜうたひらときみちうけたま 而ル間、検非違使左衛門ノ尉平ノ時道、承ハリテ尋ネ求ル間、大和ノ国ニ下一 0 女房を盗み出した理由は。 ↓一七四ハー注 = 。 そをのこけむびゐしみ やましろくに ははそもめ・ ところわたりをのこさしあひ ルニ、山城ノ国ニ柞ノ杜ト云フ所ノ辺ニ男指会タリ。其ノ男、検非違使ヲ見テ三検非違使で左衛門尉を兼ねた ばか そ 0 ものえと え めすびと か こめられ そ
九 しにんがいこつおほ 第然テ其ノ上ノ層ニハ死人ノ骸骨ゾ多カリケル。死タル人ノ葬ナド否不為ヲバ 語 もんうへ 殺此ノ門ノ上ニゾ置ケル。 死 ことそめすびとひとかたり ききつぎかかたった 山此ノ事ハ其ノ盗人ノ人ニ語ケルヲ聞継テ此ク語リ伝へタルトャ。 関 於 袴 あ おもひおそろし ぬすびとこ 盗人此レヲ見ルニ、心モ不得ネパ、「此レハ若シ鬼ニヤ有ラム」ト思テ怖ケ一 0 手づかみで荒々しく引き抜く、 むしり取る意。 も あ おど あけ こころみ おもひやはと レドモ、「若シ死人ニテモゾ有ル。恐シテ試ム」ト思テ、和ラ戸ヲ開テ、刀ヲ = 巻二四第二四話にも見えるが、 羅城門の鬼の伝承は古代・中世に おうなてまど てすりまど おのれおのれ いひはしより 多く、当時鬼が住むとされていた。 抜テ、「己ハ、己ハト云テ走リ寄ケレバ、嫗手迷ヒヲシテ、手ヲ摺テ迷へバ 三 ( 鬼だと大変だが ) ひょっとし なん おうなかく とひ おうなおのれあるじ めすびと 盗人、「此ハ何ゾノ嫗ノ此ハシ居タルゾ」ト問ケレバ、嫗、「己ガ主ニテ御マシたら、ただの死者 ( 死霊 ) かも知れ 死霊でも霊鬼にならないも あっかひとな かくおきたてまつりなりそみぐしたけ ひとうせたま のは、さして恐ろしいものではな ツル人ノ失給ヘルヲ、繚フ人ノ無ケレバ、此テ置奉タル也。其ノ御髪ノ長ニ 一九 かったらしい あまりなが それめきとりかつら ぬなりたすたま ぬすびと 余テ長ケレバ、其ヲ抜取テ鬘ニセムトテ抜ク也。助ケ給へ」ト云ケレバ、盗人、一三腰差しの短刀。 一四ゃいやい、こいつめ、こいっ ばひと「り おりはしりにげさり しにんき きめおうなき きぬぬきとり 死人ノ着タル衣ト嫗ノ着タル衣ト抜取テアル髪トヲ奪取テ、下走テ逃テ去ニケめ。 一五手をすり合せてうろたえたか ら。命乞いをしたもの。 一六どこのどんな婆あがこんなこ とをしているのか。つまり老婆の 身元と髪を抜き取る意図を問いた だしたもの 宅世話をする人。面倒を見る人。 一 ^ 背丈に余るほど長かったから。 一九頭髪を補うための添え髪。か もじ。長い髪は美人の要件だった ので、良質の毛髪はかもじの材料 として高値で売れた。 ニ 0 白骨化した死体 ニ一火葬。埋葬。 ぬき さそうへ 0 はかまだれせきやまにしてそらじにをしてひとをころすことだいじふく 袴垂於関山虚死殺人語第十九 み しにん おき こころえ かみ ひとはうぶり えせぬ おはし かたな
わをうときゅき ころもそでくちき 法師ノ着タル衣ノ袖ロ急ト見ュ。其レニ、我ガ夫ノ着テ行ニシ布衣ノ、袖ニ色一ふっと。ちらっと。 ニところがそれは。 こころえ あ をむなおも かはめひあはせ 革ヲ縫合タリケルニ似タリ。女思ヒモ不寄ネパ然モ心モ不得デ有ルニ、家三民間男子が普段着とした布製 の狩衣。 九 ただそ けなやう み をむななほこそでぐちいみじあやしおば 四なめして染めた革。袖口がい + 女尚此ノ袖ロノ極ク怪ク思工ケレバ、然ル気無キ様ニテ見ルニ、只其レニテ たまないように縫い合せてあった 第 のだろう。 五 ↓一八六ハー注一三。 集 あ かかこと となりゆきひそか そときい へのをむなおどろあやし 語其ノ時ニ家女驚キ怪ムデ、隣ニ行テ蜜ニ、「此ル事ナム有ル。何ナル事ニカ六「蜜」は「密」の通字。 七確かに。まぎれもなく。 あん もめすみ きはめあやしこと となりひと 今有ラム」ト云ケレバ、隣ノ人、「其レハ極テ怪キ事ニコソ有ナレ。若シ盗タル ^ 盗んだかどうかは知らないが。 九何はともあれ。とにかく。 とふべ ひじりとら きぬみたま ことなりまこといちぢゃうそ いみじいぶかし ニヤ有ラム。極ク不審キ事也。実ニ一定其ノ衣ト見給ハヾ、聖ヲ捕へテ可問一 0 「ナンナリ」の撥音の無表記。 「ナリ」は推定で、聞きただすべき ま きぬそでまさ いへのをむなぬすぬすま キニコソ有ナレート云ケレバ、家女、「盗ミ不盗ズハ不知ズ、先ヅ衣ノ袖ハ正ことのようだ。 = 告げ知らせて。ふれ回して。 さきと とひきくべ ほふし となりのひとさ それなり シク其也」ト云ケレバ、隣人、「然テハ、法師ノ不逃ヌ前ニ疾ク問テ可聞キ事一 = 犯罪が露見して手配されたと は思いもかけないで。 こときか し ) にーんばかりこ さとわかをのこどもがうりき ナ、リ」ト云テ、其ノ郷ノ若キ男共ノ強力ナル四五人許ニ此ノ事ヲ聞セテ、夜一三気を許して。くつろいで。 一四容教なく縛り上げて。 ーレカよりおさ おも うちとけふせ ものうちくひ いへよび ル其ノ家ニ呼テ、法師ノ、物打食テ、思ヒモ不懸デ打解テ臥ルヲ、俄ニ寄テ抑一五未詳。堅い木などで足をはさ みつけるような拷問をいうか しばりひきいだ ただしば からめ へテ搦ケレバ、法師、「此ハ何ニ」ト云ケレドモ、只縛リニ縛テ引出シテ足ヲ一六白状しなかったので。 宅そこに居合せた別の人が。 またひとあり いひおち さらわをかことな とひ はさ 「人有テ」は、ある人が、の意。 交ムデ問ケレドモ、「更ニ我レ犯ス事無シ」ト云テ不落ザリケレバ、亦人有テ、 天なるほど、そのとおりだ。↓ もち ふくろあけみ いへあるじものあ そほふし 「其ノ法師ノ持タリツル袋ヲ開テ見ョ。家ノ主ノ物ャ有ル」ト云ケレバ、「現一一一一〇七注 = 四。 ほふし あ 0 あん ほふし ほふし し・つ 五 しら しカ そで よ いへの こと
くらあ あさましわざ おもひ おば 一四本来なら「ニモ成ヌ」とあるべ 皆此ノ蔵ニ有リ。「奇異キ態カナ」ト思テ、ケルママニ車ニ積テ持来テ、思 きところ。話の展開を急いだため ゃうと かやう ほど いちにねん一四すぎ の文脈の乱れ。 シキ様ニ取リ仕ヒケリ。此様ニシッ、過シケル程ニ、一二年ニモ過ヌ。 一五ここでは、長時間泣き通した しかあひだこ めあ ときものこころばそげおもひつねな をとこれい 而ル間、此ノ妻有ル時ニ物心細気ニ思テ常ニ哭ク。男、「例ハ此ル事モ無キ意。男を本気に愛し始めた女が、 それを断ち切ろうとする悲しみの あや おもひ なかくおは とひ をむなただおもはわか ニ、怪シ」ト思テ、「何ド此ハ御スルゾ」ト問ケレバ、女、「只、不意ズ別レヌ涙。以下、竹取物語で昇天を前に してかぐや姫が泣く場面を連想さ あ おも あはれ いまさら・ ル事モャ有ラムズラムト思フガ哀ナルゾ」ト云ケレバ、男、「何ナレバ今更ニせる。 一六はかないこの世の中は、万事 とひ よ おば をむなはかな なかさ そうしたものだわ。 然ハ思スゾ」ト問ケレバ、女、「墓無キ世ノ中ハ然ノミコソハ有レ」ト云ケレ 宅さして深い意味もなしに言う をとこただい おもひ あからさまものゆか さきぎきす 、男、「只云フ事ナメリ」ト思テ、「白地ニ物ニ行ム」ト云ケレバ、前々為ルのだろう。 一 ^ ちょっと外出してこよう。 ゃうしたてやり ともものどものり ゃう あらむ 一九これ以下「留メテ有ケルニ」ま 様ニ為立テ遣テケリ。「共ノ者共、乗タル馬ナドモ例ノ様ニコソハ有ズラメ」 一九 では挿入句で、上句の「・ : ト思フ おも ふつかみかかへる ところ あり ともものども のるむま ト思フニ、二三日不返マジキ所ニテ有ケレバ、共ノ者共ヲモ乗馬ヲモ、其ノ夜ニ」は次行の「次ノ日ノ夕暮ニ」以 下にかかってゆくのが主たる文脈。 とど つぎひゅふぐれあからさまやうもてな ひきいだ 語ハ留メテ有ケルニ、次ノ日ノ夕暮ニ白地ノ様ニ持成シテ引出シケルマ、ニ、ヤ = 0 ちょっと出かけるようなそぶ りで馬を引き出したまま。 をとこあすかへ おもひたづ 女ガテ不見工ザリケレバ、男、「明日返ラムズルニハ此ハ何ナル事ゾ」ト思テ尋 = 一そのまま。本集では仮名表記 人 が普通。漢字表記は田六〇ハー七行 もと やみ おどろあやしおもひ ひとむまかりいそ ・同一〇一ハー一三行の「軈而」の二 被ネ求メケレドモ、ヤガテ不見エデ止ニケレバ、驚キ怪ビ思テ、人ニ馬ヲ借テ念 不 例のみ。 そ いへあとかたな あさましおば 一三女首領は、男への愛が組織の ギ返テ見ケレバ、其ノ家跡形モ無力リケレバ、「此ハ何ニ」ト奇異ク思エテ、 崩壊につながることを恐れて姿を くらありところゆきみ あとかたな とふべひとな くらましたのであろう。 蔵ノ有シ所ヲ行テ見レドモ、其レモ跡形モ無クテ、可問キ人モ無力リケレバ みなこ かへりみ み あり こと み すぐ をと一 いか くるまつみもてき 」カ、 , ) とな
をむななかゆひいちめがさき ついがきむかひうずくまり ↓一四四ハー注三。 バ」ト云ケレバ、男見ルニ、実ニ、女ノ中結テ市女笠着タル、築垣ニ向テ蹲一 ニ平安時代以降、婦女子が外出 ひと とひ めわらは たま ニ居タリ。「此ハ何ョリ居タル人ゾート問ケレバ、女ノ童、「今朝ョリ居サセ給時にかぶった凸字形の笠。菅製で 九 漆を塗ってある。 なりかくふたとき いひなき むま おり よりをむな 十ヘル也。此テ二時ニハ成ヌ」ト云テ泣ケレバ、男怪ガリテ馬ョリ下テ、寄テ女三↓五六【 , 注〈。 第 四顔に血の気もなくなって。顔 かほみ いろな あり ものやう 色が青ざめて。 巻ノ顔ヲ見レバ、顔ニ色モ無クテ、死タル者ノ様ニテ有ケレバ、「此ハ何カニ。 五 いつもこんなことがあるのか。 集 やまひっき かかことあ とひ あるじものいは わらは 六まんざら下賤の者ではないか 語病ノ付タルカ。例モ此ル事ャ有ル」ト問ケレバ、主ハ物モ不云ズ、女ノ童、 六 ら。「下主」は「下衆」。 昔 さきギ ) きかか あら セ蛇に魅入られて動けなくなっ 今「前々此ル事無シ」ト云へバ、男ノ見ルニ、無下ノ下主ニハ非ネパ、糸惜クテ たもの。 ひきたて う′ ) か 引立ケレドモ、不動ザリケリ 〈ふっと。↓二七四ハー注一三。 ほどをとこきむかひついがきかたおもはみやり ついがきあなあり 然ル程ニ男、急ト向ノ築垣ノ方ヲ不意ズ見遣タルニ、築垣ノ穴ノ有ケルョリ、九見守って。凝視して。 一 0 さては。下の「也ケリ」と呼応 へみかしらすこひきいれ をむなまもりあり へみ 大ナル蛇ノ頭ヲ少シ引入テ、此ノ女ヲ守テ有ケレバ、「然ハ、此ノ蛇ノ、女ノして、「早ウ : ・也ケリとほば同意。 = 陰部。ここでは女陰。 ゅばり まへみ あいよくおこ こころえ とらかし まへ 尿シケル前ヲ見テ、愛欲ヲ発シテ蕩タレバ不立ヌ也ケリ」ト心得テ、前ニ指タ三みだらな欲望を起して。 一三うっとりとさせたから。 つるぎゃう めき そ へみあ あなくち おく かたかたなは リケル一トビノ釼ノ様ナルヲ抜テ、其ノ蛇ノ有ル穴ノロニ、奥ノ方ニ刀ノ歯ヲ一四腰刀の一種。一本差しの短刀。 ↓一九九ハー注一一一。 つよた 一五刀の刃を向けて。 シテ強ク立テケリ 一六「済」は「抄」「掬」の当字。抱 じうしやどももつをむなすくひあげ ひきたてそこのき へみにはかついがきあな き上げて。 然テ、従者共ヲ以テ女ヲ済上テ、引立テ其ヲ去ケル時ニ、蛇俄ニ築垣ノ穴ョ 一セ 宅まっすぐに飛び出したさま。 っ いっしやくばかりさけ 、鉾ヲ突ク様ニ出ケル程ニ、二ニ割ニケリ。一尺許割ニケレバ否不出ズシ「鉾」↓二〇九ハー注一九。 おほき ひ 、」とな ゃう をとこみ 0 なり ほど まこと 0 をとこみ ふたっさけ たた をとこあやし なり とき えいで をむな
しちおき ジ」ト云ケレバ、女、「然ハ此ノ子ヲ質ニ置タラム。此ノ子ハ我ガ身ニモ増テ一 ^ ちょっとの間、放してくださ ニ 0 いませんか。 おもものなりよ あひとかみしもこかなしみなし こすて 思フ者也。世ニ有ル人、上モ下モ子ノ悲サハ皆知ル事也。然レバ此ノ子ヲ棄テ一九人質に置いてゆきましよう。 ニ 0 身分の上下を問わず、子供の ただはらずつなやみひまな - ) とあ かし・ ) とどま かわいさは。「悲サ」は、、いからい ョモ不逃ジ」ト、「只腹ヲ術無ク病テ隙無キ事ノ有レバ、彼ニテモ『留ラム』 とおし / 、田 5 , っこと。 おもひたちとどまりすごまう なり こつがいそ いだ、とり ト思テ、立留テ過シ申サムトハシッル也」ト云ケレバ、乞匈其ノ子ヲ抱キ取テ、 = 一ひっきりなしのこと。つまり 頻繁に便意を催すこと。 こすて おもひ ゆきかへりこ 「然リトモョモ子ヲ棄テハ不逃ジ」ト思ケレバ、「然ラバ疾ク行テ返来」ト云ケ一三あそこでも用を足そうと思っ ニ四 て。「彼」は、さっきこの二人をや をむなはるかゆき そ ことかま しら ゃうみ レバ、女、「遥ニ行テ、其ノ事構フル様ニ見セテ、ヤガテ子ヲモ不知ズ遷ナム」り過そうとした場所。 いくらなんでも、まさか子ど お・もひはしめ・はしりにげ - みちはし ト思テ、走ニ走テ逃ケレバ、道ニ走リ出ニケリ。 もを見捨てて逃げはしまい ニ六 一西用を足すように見せかけて。 そ ときでうどおひむまのり ものしごにんうちむれあひ をむなあへ 其ノ時ニ調度負テ馬ニ乗タル者四五人打群テ会タリ。女ノ喘タキテ退ルヲ見 = = そのまま子供など構わず。 ニ九 九 ニ六弓矢。↓一六二ハー注八。 あ な とひ をむなしかしかことはべりにぐなり 一一テ、「彼レハ何ド走ルゾ」ト問ケレバ、女、「然々ノ事ノ侍テ逃ル也」ト云ケレ毛 ( ゃ。て来るのに ) 出くわした。 第 ↓一九三ハー注一五。 むしやども いづ あ をむなをし むまはしら 語 ニ ^ 息を切らして。↓一一七ハー注 逃バ、武者共、「イデ、何クニ有ルゾ」ト云テ、女ノ教へケルマ、ニ馬ヲ走セテ 子 やまうちいりみ ところしばたて ふたみ ひきやぶり ニ九それなる女はどうして走って 匈山ニ打入テ見ケレバ、有ツル所ニ柴ヲ立テ、其ノ子ヲバ二ッ三ツニ引破テナム 乞 いるのか。 かひな をむな かなし こつがい 被逃テ去ニケル。然レバ甲斐無クテ止ニケリ。女ノ、「子ハ悲ケレドモ、乞匈ニ三 0 相手をうながす言葉。さあ。 ・女三ニ それで。 えちかづか こと おもひ こむしやどもほかむ ハ否不近付ジ」ト思テ、子ヲ棄テタル事ヲゾ、此ノ武者共讃メ感ジケル。 三一さっきの場所。例の所。 三ニ絶対近づくまい。決して肌を げすなか かはぢし ものあるなり かく かたった 許すまい 然レバ下衆ノ中ニモ此ク恥ヲ知ル者ノ有也ケリ。此ナム語リ伝へタルトャ。 にデさり し 三 0 をむなさ あり やみ ことなりさ と こわみ
今昔物語集巻第二十八 30 もと 一諡号の明記を期した欠字。 一一姓名の明記を期した欠字。下 の空格は伝写間の消滅とみる。 三古手のうだつのあがらない国 △「。昔、凵天皇ノ御代一一、 d:: 凵ノ、下「ムフ者有ケリ。年来、旧受領一一テ、 四 守。「受領」は、遥任国司に対し、 よろこなが から をはりかみなされ しづゐ ほど つかさなら 官モ不成デ沈ミ居タリケル程ニ、辛クシ尾張ノ守ニ被成タリケレバ、喜ビ乍ラ任国に赴任して実務をとる国守。 四任官もできすに。無官で。 ことっゅな カ でんばくつく いそくだり くにみなほろ にむごく 五「辛クシテ」の「テ」脱か 任国ニ念ギ下タリケルニ、国皆亡ビテ田畠作ル事モ露無力リケレバ、此ノ守ミ 六平安中期、尾張国が国守の苛 よまつりごち あり さききくに みわきま こころうるはし れんちゅうきゅう 斂誅求によって疲弊したことは、 本ョリ心直クシテ、身ノ弁へナドモ有ケレバ、前々ノ国ヲモ吉ク政ケレバ 永延一一年 ( 九犬 ) の「尾張国郡司百姓 とま となりくに ′、にたに / 、冖」 ことよまつりごち はじ くだりのちくに 此ノ国ニ始メテ下テ後、国ノ事ヲ吉ク政ケレバ、国只国ニシ福シテ、隣ノ国等解」などに徴せられる。 セ身のほどをわきまえて私利を にねんうち をかやま いはずでんばく くづつくり あつまきたり ひやくしゃうくもごと むさば ノ百姓雲ノ如クニ集リ来テ、岳山トモ不云、田畠ニ崩シ作ケレバ、二年ガ内貪らない意。 〈「只人」と同類の語で、普通の よ くにナよの・ 国。並の国。 ニ吉キ国ニ成ニケリ。 九人民の称。 むげつたなし くにぜんじ ほろば てんわうこ 然レバ天皇モ此レヲ聞シ食テ、「尾張ノ国ハ前司ニ被亡サレテ、無下ニ弊ト一 0 「タンナレ」の「ン」の無表記。 にいなめさい 一一新嘗祭の余興に演ずる五節の よ おほせられ とま一 0 きこしめ にむにねんなり 聞食スニ、此ノ任二年ニ成ヌルニ吉ク福シタナレート被仰ケレバ、上達部モ世舞の舞姫を出す役をあてられたこ 日、一同異様な風体をして「鬢夕、ラ」の歌を歌いはやして押し掛け、尾張守の心胆を寒から しめ、一家をなぶりものにした話。全編を通じて笑いの絶えない傑作譚であるが、特に年老い た尾張守の言動の描写は秀逸というべく、古風な老人気質をも鋭く突いて余すところがない。 前話同様、田舎者のカルチャーショックを嘲笑の種としている。なお、本話の殿上人のデモ行 為が、次話の六衛府官人のデモ話を引き出す仲介役を果している。 きこめし をはり かむだちめよ か