すどもこ あさまし おもひみ ほどにそ うりただお おひ はひまつはり 一六 ( 芽が ) 双葉になって。これ以 衆共此レヲ見テ、「奇異」ト思テ見ル程、其ノ二葉ノ瓜只生ヒ生テ、這綬ヌ。 下の瓜の急速な生育は、幻術師の しげり はなさきうりなり そうりただおほ なり みなめでたうりじゅく よくやる目くらましの術。唐代小 只繁リニ繁テ、花栄テ瓜成ヌ。其ノ瓜只大キ・ニ成テ、皆微妙キ瓜ニ熟シヌ。 説「幻異志」所収の板橋三娘子にも あ おぢおもほど こげすどもこ 其ノ時ニ、此ノ下衆共此レヲ見テ、「此ハ神ナドニヤ有ラム」ト恐テ思フ程蕎を播種して半夜で収穫した類 似の妖術がみえる。 、つめ・とめ・ おきなこ こげすども めしたちくはせ 宅蔓が延びてまつわりついた。 ニ、翁此ノ瓜ヲ取テ食ヒテ、此ノ下衆共ニ云ク、「主達ノ不食ザリツル瓜ハ、 一 ^ お前さんたちが食わせなかっ みなく - つり′おほ かうりつく げすども た瓜はだな、こうしてわしが作り 此ク瓜作リ出シテ食」ト云テ、下衆共ニモ皆食ハス。瓜多カリケレバ、道行ク 出して食うわい ものども おきな いままかり よろこびく 翁「今ハ罷ナムート一九「有テ」は逆接。あるのに。 者共ヲモ呼ツ、食スレバ、喜テ食ヒケリ。食畢ツレバ、、、 ニ 0 驚き、悔しがる時の仕草。 ゆきかた いひた 三↓九一ハー注一六。 云テ立チ去ヌ。行方ヲ不知ラズ。 一九 一三目をごまかして。 ありそうち そのちげすどもむまうりおほ 其ノ後、下衆共、「馬ニ瓜ヲ負セテ行カムートテ見ルニ、籠ハ有テ其ノ内ノニ三いまいましがる。悔しがる。 ニ 0 ニ四「道行ケル者共ーは、七行前の な そ うちあさまし ことかぎりな はや おきなこ う・りひと ときげすどもて + 瓜一ッモ無シ。其ノ時ニ下衆共、手ヲ打テ奇異ガル事無限シ。「早ウ、翁ノ籠「道行ク者共」を踏まえたもの。下 四 の「此」は、大和へ帰る下衆どもの くら しり いだ なり われら み 吾ノ瓜ヲ取リ出シケルヲ、我等ガ目ヲ暗マシテ、不見セザリケル也ケリ」ト知テ、様子に限らず、この事件のいきさ 1 三ロ つをさす。 おきなゆき ねた かたしら みなやまとかへり 、且ハ : ・」は、一方で 盗嫉ガリケレドモ、翁行ケム方ヲ不知ズシテ、更ニ甲斐無クテ、皆大和ニ返テケ = = 「且ハ ニ四 被 は : ・、他方では・ : の意の慣用語法。 みちゅき ものどもこれみ かつあやし 術 ニ六「マシカバ : ・マシ」は反実仮想。 道行ケル者共此ヲ見テ、且ハ奇ミ、且ハ咲ヒケリ。 外 ニ六 以 もし食わせていたならば。 げすどもうりをしま おきなくは みなとられ 下衆共瓜ヲ不惜ズシテ、二ッ三ツニテモ翁ニ食セタラマシカバ、皆ハ不被取毛こうした仕返しなども。 ニ七 ニ ^ 神仏などが、仮に人間の姿を をし おきなにくみかく またへんぐゑもの ザラマシ。惜ミケルヲ翁モ憾テ、此モシタルナメリ。亦変化ノ者ナドニテモャ借りて現れた者。 ただしげ そとき うりと 0 さり み いだ 」し ふたみ め み ゅ かつわら くひはて かみ さらかひな ふたば み みちゅ つる
急いで逃げて行きながら、一同この虎に目を注いでいると、 虎は海に落ち込んでしばらくすると泳ぎ出し、岸に泳ぎ着 みぎわ いた。見ていると、汀にある平たい石の上に登って行く。 どうするつもりだろうかと思いながら見ると、虎の左の前 今は昔、九州のロ国冂凵〔〕郡に住んでいた人が商売のた足が膝から切れてなくなっており、血が流れ出ている。海 そう しらぎ めに、一艘の船に大勢乗り込んで新羅に渡った。 に落ち込んだ時、鰐が食い切ったのだと思って見ていると、 ふもと 商用が終っての帰途、新羅の山の麓に沿って漕いで行き虎はその切れた足を海水に浸してうずくまっている。 ながら、船に水など汲み込もうと、水の流れ出ている所に すると、沖の方から、一匹の鰐がこの虎のいる方に向け 十船を止め、人を降して水を汲ませていた。その時、船に乗て泳いで来た。鰐が近づき、虎に襲い掛かると見るや、虎 ふなばた 第った者が一人、舷に出て海面を見おろしていると、山の影は右の前足で鰐の頭に爪を打ち立て、岸の方に投げ上げた。 が水に映っている。見れば、三、四丈ほどもある高い断崖一丈ばかり浜に投げ上げられ、鰐は砂の上であおのけざま 値 の上に、一匹の虎がうずくまり、何かをねらっている姿が になってばたばたするのを、虎は走り寄り、鰐の頤の下目 て水面に映っていた。そこで、そばにいる者にこのことを知がけて躍り掛かって食いっき二、三度ほど打ち振って、鰐 てのひら が冂凵る間に、虎は肩に引っ掛けて、掌を立てたような、 渡らせ、水汲みに行った者共を急いで呼び集めて船に乗せ、 手に手に櫓を取って大急ぎで船を出した。その瞬間、虎は高さ五、六丈ほどもある岩壁を、残った三本の足で、下り 新がけ 人崖から身を躍らせて船に飛び込もうとした。だが、船は一坂を走り下るようにかけ登って行ったので、船内にいる者 西瞬早く岸を離れた。虎は落ちて来るまでに少し時間がかか共はこれを見て、ほとんど生きた心地もしなかった。 ったので、いま一丈ほどのところ飛びつけず、海に落ち込 「なんと、この虎の仕業を見ると、もしこれが船に飛び込 9 んだ。 んだなら我々は一人残らずみな食い殺され、家に帰り着い 船に乗った者共はこれを見て恐れおののき、船を漕いで て妻子の顔を見ることもできずに死んだことだろう。たと 鎮西の人新羅に渡りて虎に値ふ語第三十 だんがい
25 円融院御子日参曾禰吉忠語第三 くるまかへやり そのちみな一ニはき はなもとひき ラ車ョリ下ヌレバ、車ハ返シ遣ツ。其ノ後、皆ロヲ履テ、烏幗子ヲ鼻ノ許ニ引三漢字表記を期した欠字。該当 いれ あふぎもっかほふさぎ 語は「タビ ( 足袋 ) 」などか。 かみいちでうい まぶか 入テ、扇ヲ以テ顔ヲ塞テゾ、摂津ノ守ノ一条ノ家ニハ返タリケル。 一三失態を恥じ、烏帽子を目深に すゑたけのちかた なり たけつはものまう かぶり、扇で顔を隠したさま。恥 くるまたたかひふようさぶらふ 季武ガ後ニ語リシ也、「猛キ兵ト申セドモ、車ノ戦ハ不用ニ候ナリ。其ョリ じ入っているさま。総じて本話で のちこり こり くるまあたり まかよら は、都誇りの目から東国武士の無 後懲トモ懲テ車ノ当ニハ不罷リ寄ズ」ト。 教養を嘲笑し、その野卑ぶりを活 写する。 しか こころたけおもばかりかし ものども いまくるまひとたびのら ものども 然レバ、心猛ク思量賢コキ者共ナレドモ、未ダ車ニ一度モ不乗ザリケル者共一匹本話の伝承源を伝えた記事。 かかなしく ゑひしに 「シ ( キ ) 」の使用に注意。↓二八 ことなり かたった ニテ、此ク悲シテ酔死タリケル、嗚呼ノ事也、トナム語リ伝へタルトャ。 三ハー注三。 一五すっかり懲りて。 くるまおり ゑんいうのゐんのおほむねのびにそねのよしただまゐることだいさむ 円融院御子日参曾禰吉忠語第三 しようゆうき 本話の典拠は末詳ながら、史実に基づく説話で、当日の模様は『小右記』永観三年二月 + 三日の条 こじだん ( 『古事談』一の一五にも転載 ) に詳しく、また、「大鏡裏書」巻六紫野子日事にも所見。ただし、 そねのよしただ 本話の中核をなす曾禰好忠追放の件については、『小右記』には「公卿達称レ無 = 指召「追 = 立善 正 ( 『古事談』には好忠 ) ・重節等→時通云、善正 ( 『古事談』には好忠 ) 已在 = 召人内一云々」、 「大鏡裏書、には「爰丹後掾曾禰好忠・永原滋節等不レ承 = 召旨「加 = 候末座→仍忽被一追起。 かへり えまうし
わにぎめ 落下し、鰐鮫に左の前足を食いちぎられたがひるまず、再度来襲した鰐鮫を浜辺につかみ投げ て屠り、鰐鮫を肩に負い、三本足で絶壁を疾駆登攀した。この猛威に、船中一同肝を冷やし、 九州に帰着後、九死に一生を得た喜びを伝え、聞く者も虎の猛威に震え上がったという。前話 の殺害のモチーフを介して話題は動物界に転じ、畜生残害の営みを叙述したもの。話末の教訓 は、飽くことを知らずして死を招いた鰐鮫の愚を例に中庸の必要を説いている。なお、本話を 転機に、以下の説話は動物を主役とする話題に移行する。 九古代朝詳の国名。紀元前五七 年の建国とされ、慶州を本拠に四 今。昔、鎮げノ畍げノゴ住ケル人商セムガ為ニ、船一ツニ数ノ人乗紀後半に百済・高句麗を滅して半 しらきわたり 島を統一。わが国との政治的、文 テ、新羅ニ渡ニケリ。 化的交流が緊密だったが、九三五 あきなひをはりかへり 年高麗に滅された。 しらきやまねそひこぎゅき ほど ふねみづ 商シ畢テ返ケルニ、新羅ノ山ノ根ニ副テ漕行ケル程ニ、船ニ水ナド汲入レ一 0 山のふもと。山裾。山が海岸 みづながいで ところふねとど まで押し出している地勢。 ひとおろ みづくま ほど ふね 三ムトテ、水ノ流レ出タル所ニテ船ヲ留メテ、人ヲ下シテ水ヲ汲スル程ニ、船ニ = 船べり。 ものひとりふなばたゐ 三「映」の当字。 うみのぞき やまかげうつり たかきしさむしぢゃう ロのり 乗タル者一人舷ニ居テ海ヲ臨ケルニ、山ノ影移タリ。其レニ高キ岸ノ三四丈一 = ところが。しかるに。 一六 ばかりのばり うへ 一四切り立った崖。絶壁。 とらしじまゐものうかがやう あり そかげうみうつり 羅 許上タル上ニ、虎ノ縮リ居テ物ヲ伺フ様ニテ有ケレバ、其ノ影ノ海ニ移タリ一 = 一丈は + 尺、約三 かたはらものどもこ 一六身をちぢめてうずくまって。 っげ みづくみゆき ものども いそよの てごと 西ケルヲ、傍ノ者共ニ此レヲ告テ、水汲ニ行タル者共ナド公 0 ギ呼ビ乗セテ、手毎跳躍に移る寸前の姿勢。 ろ いそ とき ふねいだし とらきし 一セ船は早く岸を離れ、虎が落下 をどりお ふねとびい ニ艫ヲ取テ公 0 ギテ船ヲ出ケル時ニ、其ノ虎岸ョリ踊下リテ船ニ飛入ラムト為ルするのが一瞬遅か。たので。 一セ ふねと とらおちぎたほどおそ 一 ^ あと一丈ほどのところで飛び いまいちぢゃうばかりをどりつか とらうみ こみそこなって。 ニ、船ハ疾ク出ヅ、虎ハ落来ル程ノ遅ケレバ、今一丈許不踊着ズシテ虎海ニ とり くみい
いふかひな そ をむないひことおもあはされ 一どうしようもなくて。 云甲斐無クテ、其ノ時ニゾ女ノ云シ事思ヒ被合ケル。 ニ一七一ハー四行の「只、不意ズ もとしり をとこすべ かたな おば ひともとゆきすぐ ・ : 哀ナルゾ [ を中心とする女の言 然テ男、可為キ方無ク思工ケレバ、本知タリケル人ノ許ニ行テ過シケル程ニ、 葉をさす。 わこころぬすみ ほど にさむど しかあひだ 三やりつけたこと。 + 為付ニケル事ナレバ、我ガ心ト盗シケル程ニ、二三度ニモ成ニケリ。而ル間、 第 四自分から進んで。自発的に。 をとことらへられ とはれ 」レ」こあり ことおとさ 五 一つももらさず。一部始終。 巻男被捕ニケレバ、被問ケルニ、男有ノマ、ニ此ノ事ヲ不落ズ云ケリ。 集 なお、説話の伝承源を登場人物に いとあさましことなりそ をむなへんぐゑもの あり いちににちほどや 語此レ糸奇異キ事也。其ノ女ハ変化ノ者ナドニテ有ケルニヤ。一二日ガ程ニ屋仮託するのは、本集での一般的方 昔 法。 く、り′」も あとかたなこほちうしな ことなりまたそこばくたからじうしやども 今ヲモ蔵共ヲモ跡形モ無ク壊失ヒケム、希有ノ事也。亦若干ノ財、従者共ヲモ引〈意外な驚くべきこと。 セ神仏・霊鬼などの化身。 ぐ そ のちきか あさまし - 一となり 具シテ去ニケムニ、其ノ後不聞ズシテ止ニケム、奇異キ事也カシ。亦家ニ居乍 ^ 「壊失ヒケムハ」の意。破壊し 去ったのは。「ケム」は、編者の時 おもやう きたり じうしやどもふるま ラ、云ヒ俸ル事モ無キニ、思フ様ニシテ、時モ不違ズ来ツ、従者共ノ翔ヒケム、点から話中のできごとを推測した もの。以下の「ケム」も同じで、本 きはめあやしことなりか いへをとこにさむねんそひあり 、一ころう さなり ・一とな 極テ怪キ事也。彼ノ家ニ男二三年副テ有ケルニ、「然也ケリ」ト心得ル事無ク集に頻出する形。なお、「こほっ」 の「ほ」は清音。 やみ まためすみ あひだきたあものどもたれ ゅめしらやみ テ止ニケリ。亦盗シケリ間モ、来リ会フ者共、誰ト云フ事ヲモ努不知デ止ニケ九多くの財物。 一 0 そうだったのかと、真相に気 ただいちど ゆきあひ ところさしのきた ・ ) とものどもうちかしこまり 其レニ、只一度ゾ、行会タリケル所ニ差去テ立テル者ノ、異者共ノ打畏づくこともなしに終った。 = 「リ」は「ル」の誤字で、原姿 をとこいろ ほかげ - み いみじしろいつくし つら タリケルヲ、火ノ焔影ニ見ケレバ男ノ色トモ無ク極ク白ク厳カリケルガ、頬ッ「盗シケル間モ」か。 三まったくわからずじまいに終 おもてぎまわめ あ キ面様我ガ妻ニ似タルカナト見ケルノミゾ、然ニヤ有ラムト思工ケル。其レモ たいまっ 一三松明の光で見ると。ここの たしかしら 「影」は光の意。 褪ニ不知ネパ、不審クテ止ニケリ。 しつけ 0 ) り おきっことな こと ひ いぶかし とき やみ み やみ ときたがヘ な もの こと なり またいへゐなが ほど ひき
くらあ あさましわざ おもひ おば 一四本来なら「ニモ成ヌ」とあるべ 皆此ノ蔵ニ有リ。「奇異キ態カナ」ト思テ、ケルママニ車ニ積テ持来テ、思 きところ。話の展開を急いだため ゃうと かやう ほど いちにねん一四すぎ の文脈の乱れ。 シキ様ニ取リ仕ヒケリ。此様ニシッ、過シケル程ニ、一二年ニモ過ヌ。 一五ここでは、長時間泣き通した しかあひだこ めあ ときものこころばそげおもひつねな をとこれい 而ル間、此ノ妻有ル時ニ物心細気ニ思テ常ニ哭ク。男、「例ハ此ル事モ無キ意。男を本気に愛し始めた女が、 それを断ち切ろうとする悲しみの あや おもひ なかくおは とひ をむなただおもはわか ニ、怪シ」ト思テ、「何ド此ハ御スルゾ」ト問ケレバ、女、「只、不意ズ別レヌ涙。以下、竹取物語で昇天を前に してかぐや姫が泣く場面を連想さ あ おも あはれ いまさら・ ル事モャ有ラムズラムト思フガ哀ナルゾ」ト云ケレバ、男、「何ナレバ今更ニせる。 一六はかないこの世の中は、万事 とひ よ おば をむなはかな なかさ そうしたものだわ。 然ハ思スゾ」ト問ケレバ、女、「墓無キ世ノ中ハ然ノミコソハ有レ」ト云ケレ 宅さして深い意味もなしに言う をとこただい おもひ あからさまものゆか さきぎきす 、男、「只云フ事ナメリ」ト思テ、「白地ニ物ニ行ム」ト云ケレバ、前々為ルのだろう。 一 ^ ちょっと外出してこよう。 ゃうしたてやり ともものどものり ゃう あらむ 一九これ以下「留メテ有ケルニ」ま 様ニ為立テ遣テケリ。「共ノ者共、乗タル馬ナドモ例ノ様ニコソハ有ズラメ」 一九 では挿入句で、上句の「・ : ト思フ おも ふつかみかかへる ところ あり ともものども のるむま ト思フニ、二三日不返マジキ所ニテ有ケレバ、共ノ者共ヲモ乗馬ヲモ、其ノ夜ニ」は次行の「次ノ日ノ夕暮ニ」以 下にかかってゆくのが主たる文脈。 とど つぎひゅふぐれあからさまやうもてな ひきいだ 語ハ留メテ有ケルニ、次ノ日ノ夕暮ニ白地ノ様ニ持成シテ引出シケルマ、ニ、ヤ = 0 ちょっと出かけるようなそぶ りで馬を引き出したまま。 をとこあすかへ おもひたづ 女ガテ不見工ザリケレバ、男、「明日返ラムズルニハ此ハ何ナル事ゾ」ト思テ尋 = 一そのまま。本集では仮名表記 人 が普通。漢字表記は田六〇ハー七行 もと やみ おどろあやしおもひ ひとむまかりいそ ・同一〇一ハー一三行の「軈而」の二 被ネ求メケレドモ、ヤガテ不見エデ止ニケレバ、驚キ怪ビ思テ、人ニ馬ヲ借テ念 不 例のみ。 そ いへあとかたな あさましおば 一三女首領は、男への愛が組織の ギ返テ見ケレバ、其ノ家跡形モ無力リケレバ、「此ハ何ニ」ト奇異ク思エテ、 崩壊につながることを恐れて姿を くらありところゆきみ あとかたな とふべひとな くらましたのであろう。 蔵ノ有シ所ヲ行テ見レドモ、其レモ跡形モ無クテ、可問キ人モ無力リケレバ みなこ かへりみ み あり こと み すぐ をと一 いか くるまつみもてき 」カ、 , ) とな
きょげ をむなかたあいぎゃうづき としはたちあまりばかり ただひとゐ うちゑみ三 清気ナル女ノ、形チ愛敬付タルガ年二十余許ナル、只独リ居テ、打暖テ冂凵一年のほど二 + 歳過ぎぐらいの、 四 五 美しく魅力的な女。 をとこちかより かばかりをむなむつ をとこなり ものすぐすべやうな ケレバ、男近ク寄ニケリ。此許女ノ睦ビムニハ、男ト成ナム者ノ可過キ様無ケ = 「暖」は「咲」の俗字。 九 三漢字表記を期した欠字。該当 つひふたりふし + レバ、遂ニ二人臥ニケリ。 語は「ウナヅキ」などで承諾の意か 第 四これほどに女が親しげにふる いへまたひとひとりな あやしおも まう状況では。 巻其ノ家ニ亦人一人無ケレバ、「此ハ何ナル所ニカ有ラム」ト怪ク思へドモ、 五男と生れた者がだまって見過 けぢかなりのちをとこをむなこころぎしふかなり ふし ひくれ 語気近ク成テ後、男女ニ志深ク成ニケレバ、暮ルモ不知デ臥タルニ、日暮ヌす手はないので。いわゆる「据膳 昔 食わぬは男の恥」に相当。 かどたたものあ ひとな をとこゆきかどひらき さぶらひ をのこふたり 六親しい関係になった後。 レバ、門ヲ叩ク者有リ。人無ケレバ男行テ門ヲ開タレバ、侍メキタル男二人、 セ一六五ハー注一四の「半蔀」をさす。 に . よら・ば、つ と。も をむなひとりげすをむなぐ いりき しとみおろ いときょ 女房メキタル女一人、下衆女ヲ具シテ入来タリ。蔀下シ、火ナド燃シテ、糸清 ^ きれいに調理された食物。 九 九盛りつけて。 しろかねうつはどもしす をとここ をむなをとこ おも 気ナル食物ヲ、銀ノ器共ニ為居へテ、女ニモ男ニモ食セタリ。男此レヲ思ヒ一 0 自分以外の男。同棲の男 一一食欲がそそられてきたから。 いり・と ゃうわ そ のちをむなひと - 一とな ケル様、「我レ入テ戸ハ差テキ。其ノ後、女人ニ云フ事モ無力リツルニ、何ニ腹がすいてきたので。 三「月」は当字。「つきなし」は調 。も わくひもの もてき あ ことをうとある あ おも シテ我ガ食物ヲサへ持来タルニカ有ラム。若シ異夫ノ有ニヤ有ラム」ト思ヒケ和を欠くさま。男の前でも遠慮な く物を食べるのは、普通ならつや ・よ ものほしなり くひ を・むオよをとこ はばからものく ゃうつきな レドモ、物ノ欲ク成ニケレバ、吉ク食ツ。女モ、男ニモ不憚ズ物食フ様月無力消しなのだが、この女の場合、そ れも板についてぶちこわしにはな に . よう・ば、つ いでさり そのちをとこ ラズ。食畢ツレバ、女房メキタル者取リ拈メナドシテ、出テ去ヌ。其ノ後、男らない、の意。女の露骨な食欲を 見て、多年の愛情も消し飛んだ話 やり ふたりふし は少なくない ( ↓巻三〇第一一 ヲ遣テ、戸ヲバ差セテ二人臥ヌ。 一二話 ) 。しかし、この女はそれ よあけのちまたかどたたき をとこゆきひらき やぜんものども あらことものどもいり 夜明テ後、亦門ヲ叩ケレバ、男行テ開タルニ、夜前ノ者共ニハ非デ異者共入さえしつくり調和して、興ざめに げ くひは くひもの と さ著一 ものと したた と - 一ろ くる
わおもとっきごろこひし ほそさしいで ザリツルゾ。和御許ハ月来恋カリツルニ、ロ吸ハム」ト云テ、細ク指出タル亀一亀を旧妻に見立てて言った語。 ↓二〇ハー注七。 くち をのこくちさしあて わづかみ かめにはかくび ノロニ、男ノロヲ指宛テ、纔ニ見ュル亀ノロヲ吸ハムト為ル程ニ、亀俄ニ頸ヲニ食い違いにかみついたから。 なお、実際には亀やスッポンには 八 さしいで をのこうへしたくちびるふか くひあは 歯がなく、角質化した固く分厚い + 急ト指出テ、男ノ上下ノ唇ヲ深ク咋合セッ。 唇でかむ。 第 ひきはな かめうへしたは くひちがひくひ しよしくひい 巻引放タムト為レドモ、亀ノ上下ノ歯ヲ咋違テ咋タレバ、弥ョ咋入リニコソ咋 = ますます深く食いこむことは 四 あれ、どうして放すはすがあろう。 集 とき ゆる をのこてひらきくぐ ごゑさけ ゃうな 語入レ、免サムャハ。其ノ時ニ、男手ヲ披テ含モリ音ニ叫ペドモ、可為キ様モ無四唇をふさがれているので、ロ 内に籠って聞き取りがたい声。 昔 まど なむだおと ことものどもみなよりかたなみねもっかめかふう 今クテ、目ョリ涙ヲ落シテ迷フ。然レバ異者共、皆寄テ刀ノ峰ヲ以テ亀ノ甲ヲ打 = 手をもがいて。 六すばっと。す早く一刀のもと かめいよいくひい をのこてかき まどことかぎりな ことものどもか テパ、亀弥ョ咋入リニ咋入ル。然レバ男、手掻テ、迷フ事無限シ。異者共ハ此に切り落した、といった感じ。 セかみついたまま残ったのを。 まど またほかむきわらものあり ^ 「頸」の俗字ともされるが、こ ク迷フヲ見テ糸惜ガルニ、亦外ニ向テ咲フ者モ有ケリ こでは別字別義で、下あごの付け しかあひだひとりをのこあり かめくび六 かめむくろおち くびく 而ル間、 一人ノ男有テ、亀ノ頸ヲフット切ツレバ、 亀ノ体ハ落ヌ。頸ハ咋ヒ根の骨をさす。 九あご。下あご。 ながとど ものおしあ かめくちわき かたない きばねゃぶり そのち 乍ラ留マリタルヲ、物ニ押宛テ、亀ノロ脇ョリ刀ヲ入レテ、頚ヲ破テ、其ノ後一 0 「崎」は「先」の当字。錐の先端 のように鋭くとがった。亀には歯 かめきばねおとがひひきはな きりさきゃう かめはども ちがはれ はないが、固い唇の縁で切断する。 ニ亀ノ頚頤ヲ引放チッレバ、 錐ノ崎ノ様ナル亀ノ歯共、咋ヒ被違ニケレバ その強さにおいて、本話の亀はス やはかまへをこつりめ めとき うへしたくちびる くろちはしことかぎりな 其レヲ和ラ構テ、棍抜キニ抜ク時ニ、上下ノ唇ョリ黒血走ル事無限シ。走リ畢ッポンを思わせる。 一一静かにあれこれ工夫して。 そのちはちすは もっゆで おほ ツレバ、其ノ後ニ蓮ノ葉ヲ煮テ、其レヲ以テ茹ケレバ、大キニ腫ニケリ。其ノ三だますようにして抜く時に。 ↓二一ハー注一三。 のちうみかへり ひさし 一三蓮の茎・葉の青汁や煎じ汁は 後膿返ツ、、久クナム痛ケル。 み かめくちす くちす きり 0 すほど はれ は。しはて かめ くひ ・」も へり
さそのちふたよばかりこ おいほふしかねっ みのときばかりかねつき 然テ其ノ後、二夜許、此ノ老法師鍾ヲ槌ク。其ノ次ノ日ノ巳時許ニ、鍾槌ノ一午前 + 時ごろ。 0 ニ漢字表記を期した欠字。該当 2 ほふしいでき もの かねっ しカ かねだう おもひ 法師出来テ、「此ク冂凵ニ鍾ヲ槌ク法師ハ何ナル者ゾ、ト見ム」ト思テ、鍾堂語は「マメ」または「マメャカニ」か。 三ひどく老いさらばえた感じの。 九 した ′ ) ばう おしあけ はひいりみ としはちじふばかり 四一九六ハー注三の「布衣」とは異 + ノ下ニ、「御房ハ坐スルカ」ト云テ、戸ヲ押開テ這入テ見レバ、年八十許ナル 四 五 なり、ここは「ぬのぎぬで、麻布 第 こしまき いみじげ たけたか あやしげ さしそ しにふ などで作った粗末な衣服をさす。 巻老法師ノ極気ナルガ長高キ、賤気ナル市衣ヲ腰ニ巻テ、差喬リテ死テ臥セリ 五「差反リテ」に同じ。手足をそ かねつきこ もとゆき のきかへりみだう六ぢうぢ おいほふし はやしにふ らして。「喬」のよみは「ソバ」の 語鍾槌此レヲ見テ去返テ、御堂ニ住持ノ許ニ行テ、「老法師ハ早ウ死テ臥セリ。 「ソ」を借りたもの ( ↓一八一ハー注一一 昔 あわて ぢうぢおどろきかねつきぐ 今此ハ何ガセムト為ル」ト、周タル気色ニテ云へバ、住持驚テ、鍾槌ヲ具シテ 六下の「住持ノ許ニ」の「ニ」と呼 かねだうゆき ほそめあけのぞ おいほふしまことしにふ 応する語法。↓二二二ハー注一 0 。 鍾堂ニ行テ、戸ヲ細目ニ開テ臨ケバ、老法師実ニ死テ臥セリ セ死の穢れ。↓二一三ハー注一四。 ぢうぢ しか とひきたて そうてらそうども よしつぐ てらそうども 然レバ戸ヲ引立テ、住持ノ僧、寺ノ僧共ニ此ノ由ヲ告レバ、寺ノ僧共、「由 ^ 「だいとこ」とも。高徳の僧の 意で、僧の敬称ともするが、ここ おいほふしやど てらけがれいだ だいとく はらだちあひ - 一とかギりオよ 無キ老法師ヲ宿シテ、寺ニ穢ヲ出シッル大徳カナ」ト云テ、腹立合タル事無限では、住職を「とんでもない大和 尚さん」と皮肉ったもの。 さと いまかひな とりすて さとものどももよほ シ。「然レドモ今ハ甲斐無シ。郷ノ者共ヲ催シテ取テ棄サセョ」ト云へバ、郷九神事に穢れは禁物なので、鎮 九 守社の祭に奉仕する里人たちは、 ものどももよほ おほむやしろまつりちかなり いかけがすべ そろって死穢をいみきらったもの。 ノ者共ヲ催サスルニ、「御社ノ祭近ク成ニタルニハ、何デ可穢キゾ」ト云テ、 一 0 そうかといって ( 死人を ) この しにんてか ものひとりな あるべこと いひののしほど まま放置しておけようか 「死人 = 手懸ケム」ト云フ者一人無シ。「リトテ可有キ事力 0 」ト云テ隍ル程 = 午後一時ごろ。 むまひつじばかりなり ↓六一ハー注八。 ニ、日モ午未許ニ成ヌ。 一三以下の服装は、当時の在地武 しかあひだとしさむじふばかりをのこふたり しひにびいろすいかんすそごはかまき はかま〕てばとり 而ル間、年三十許ナル男二人、椎鈍色ノ水旱ニ裾濃ノ袴着タルガ、袴ノ喬取士の旅行時の一般的いでたち。 な おいほふし ひ と カ けしき ほふし そ つぎひ み 0 0 けが
ぬすびとうつふたふ こをのこおそひかか 三「小」は年少の意。藤大夫家の 足ヲ、掻抱テ引ケレバ、盗人低シニ倒レニケリ。其ノ上ニ此ノ小男療懸リテ、 一五若い使用人。↓三五ハー注一一一四。 めすびと一四かたなめきふたかたなみかたなっき めすびとあし とられ いたたふ むね 盗人ノロヲ刀ヲ抜テ二刀三刀突ケレバ、盗人足ヲ被取テ痛ク倒レニケレバ、胸一 = 上の「其ノ盗人ヲ」を受けて、 それをさらに細叙したもので、本 つきものおば 一六あまたたびつかれ とかく ヲ突テ物モ不思工ザリケルニ、此クロヲ数度被突ニケレヾ、ヒ ノ止モ彼モ不為デャ集に散見する「 : ・ヲ : ・ヲ」の語法に 準する形。 し そ ときこ こをのこめすびとふたつあしくびとり いたじきしたおくぎま ガテ死ニケリ。其ノ時ニ此ノ小男、盗人ノ二ノ足ノ頸ヲ取テ、板敷ノ下ニ奥様一四漢字表記を期した欠字。特定 しがたいが、身体の一部の名称が ふかひきい ニ深ク引入レツ。 はいるべきところ。 一五胸を打って。 、 ) をのこさ けなやう いでき にげかく ものどもめすびと 然テ、此ノ小男ハ然ル気無キ様ニテ出来タレバ、逃隠レタリツル者共、盗人一六↓注高。 一九 宅そのまま死んでしまった。 みないでき ののしあひ きぬはがれ ものはだかふる いへうちょろづもの ↓一八六ハー注一三。 去ヌレバ、皆出来テ隍リ合タリ。衣被剥タル者ハ裸ニテ篩フ。家ノ内ノ万ノ物一〈 一九大声で騒ぎ合った。 どもみなふみやぶら うちそこなはれことかぎりな めすびとものとりはて ゐのくまくだりいではしり 七共皆被踏壊レ、被打損タル事無限シ。盗人ハ物ヲ取畢テ、猪熊下ニ出テ走ケル = 0 「震」の当字。 第 ニ一猪熊小路を南に。「下ル」は京 となりものどもおきあひ や さん、んにげ、 ニ、隣ノ者共ノ起合テ、箭ヲ射懸ケレバ、散々ニ逃テ去ニケリ。其レニ、此ノの南北に走る道を南に行くこと。 えしら 一三西洞院大路と「凵凵とが交差す 次皿ひとりつきころされ る地点。 強一人ガ被突殺タルヲモ否不知ズ。 ニ三東西に走る道路名の明記を期 やはんすぎいり ぬすびと そ のちいくばくな よあけ となりひとあつまきたり 夜半過テ入タル盗人ナレバ、其ノ後幾モ無クテ夜明ヌ。隣ノ人モ集リ来テした欠字。 ニ四 ニ六 ニ四藤原氏で検非違使尉である人 大訪ヒ隍ル。ノ洞院ト凵トニ有ル藤判官トフ検非違使モ、此ノ藤大物の通称。「判官」は、も。ばら検 藤 非違使庁の尉であるものに用いる。 ふとくい あり めすびとっきころ こをのこか 夫ト得意ニテ有ケレバ、人ヲ遣セテ訪ヒケルニ、此ノ盗人突殺シタル小男、彼 = 五藤判官の名の明記を期した欠 8 字。 とうはんぐわんもとゆき つかまつり とうはんぐわんきおどろき ノ藤判官ノ許ニ行テ、「鉢々ノ事ナム仕タル」ト聞セケレバ、藤判官聞キ驚 = 六↓一六二ハー注 0 有 ロ さり あし かきいだきひき し し か と ひとおこ かけ か とぶら きか せ 一七