残ったものであろう。しかし、不思議に他書に本事件を伝える記事をみない。左右の最手取組 おとことうか の禁に関連して、話末に男踏歌廃止の先例を引き、ともにいわれなしと断じたところに、作者 または本話伝承者の合理精神の片鱗が顔をのぞかせている。なお、本話をここに配したのは、 次話へのつながりを配慮したためであろう。 十 一第六十四代。村上天皇の皇子。 第 巻 ニ九八四年。下の空格は日付の にちほりかはのゐん しちぐわっ ゃうぐわんにねんい いまはむかしゑんいうのゐんのてんわうみよ 明記を期した欠字。日本紀略、永 今昔、円融院天皇ノ御代ニ、永観一一年ト云フ年ノ七月ロ日、堀河院ニ 観二年八月一日に「於一一堀川院一有 四 物 すまひせちあり 相撲事「とみえるのが該当。 昔 シテ相撲ノ節有ケル。 今 三藤原基経邸の称。 これをめしあはせら ひだりほてまかみなりむらみぎほてあまつねよ 四↓八五ハー注一 0 。 而ルニ、抜手ノ日、左ノ最手真髪ノ成村、右ノ最手海ノ常世、召之被合ル。 五「抜出」に同じ。選抜試合のこ 九 ちからあへ たち なりおほ とりのばりて と。相撲の節会では左右対抗の召 なりむらひたちのくにすまひなりむらかみおほむとき 成村ハ常陸国ノ相撲也。村上ノ御時ョリ取上テ手ニ立タル也。大キサ、カ、敢 合の翌日、その勝者を中心に選抜 して取り組ませる。番数は五番。 たんご すまひなりそれむらかみおほむときすゑかた つねよ ならものな テ並プ者無シ。恒世ハ丹後ノ相撲也。其モ村上ノ御時ノ末ッ方ョリ出来テ、取 六↓九三ハー注一四。 あり 七↓八五ハー注六。 きはめじゃうず なりむらすこしおとり なりせい たち のばりほて 上テ最手ニ立タル也。勢ハ成村ニハ少劣タレドモ、取手ノ極タル上手ニテ有ケ〈後文は「恒世」。↓九 9 、注一。 九第二一話では陸奥国とする。 しようぶ ものども - : 一ろにく ふたりなが なりけふめあはせらる ル也。今日召シ被合レバ、二人乍ラ心憾クテ久ク成リタル者共ナレバ、勝負ノ一 0 天慶九年 ~ 0 より康保四年 ( 九六七 ) の間 ひさしなり いはむなりむらつねよ いみじいとほし あひだたれため 間、誰ガ為ニモ極ク糸惜カリヌペシ。況ャ成村ハ直世ョリハ久ク成タル者ナレ = ↓九三【 , 注一 = 。 一ニ「最手」の略とみるべきか きはめいとほし もしうた 一三相撲の取ロ。↓九三ハー注七。 、若被打レムニ極テ糸惜カリヌペシ。 一四↓八八ハー注一五。 著、はり・ さはりまうすつねよ なりむらむたび 然テ、成村六度マデ障ヲ申。恒世モ障ヲコソ不申ドモ、「成村ハ我ョリハ久一 = 勝敗の成行き。 8 五 ぬきで ひさしな まうき ) ね とし とりて なりむらわれ いできたり もの ひ著、し とり
くちあそび いんがものがたり われたことは『ロ遊』人事篇第十の記事にも徴され、後代に属するが、片仮名本『因果物語』上の 七にも算によるト占の記事が所見 としひら 一「信平」とも。助順の子。加賀 四 守を経て永承元年 ( 一 0 四六 ) 丹後守在 十 任。従四位下 ( 上 ) 。入道して法名 信寂 ( ↓注三 ) 。 第 いまはむかしたんごのぜんじたかしなのとしひらのあそむい ふものあ のち なりたんごのにふだう 巻今昔、丹後前司高階俊平朝臣ト云者有リキ。後ニハ法師ニ成テ丹後入道 = 「キ」を付すことに注意。注 四 五 の「有シ」もこれに対応。↓六九ハー 集 あり そのおとうとっかさな ただあ ものあり な 注九。 語トテ有シ。其弟ニ官モ無クテ、只有ル者有ケリ。名ヲバ 三後拾遺六、四一三の詞書に「法師 昔 それかんゐんさねなりそちともちんぜいくだりあり ほど ちかわたり たうにんみ になりて飯室に侍りけるに」とみ 今其ガ閑院ノ実成ノ帥ノ共ニ鎮西ニ下テ有ケル程ニ、近ク渡タリケル唐人ノ身 える。 ぎいかしこあり そのたうにんあひ さんお - 一とな はじめ ヾ、刀四連体形止め。↓注一一。 ノ才賢キ有ケリ。其唐人ニ会テ、冂凵「算置ク事ヲ習ハム」ト云ケレノ 五伝未詳。 こころ れ さらをしへギ、 さんおか たうにんこれみ 六 この下に「「「・ト云ケリ」など ハ心ニモ不入デ、更ニ不教リケルヲ、片端少シ算ヲ置セテ、唐人此ヲ見テ、 とあるべきところ。↓注一 0 。 よ なむぢいみじさんおき につばんあり す 「汝ハ極ク算置ッペキ者也ケリ。日本ニ有テハ何ニカハセムト為ル。日本ハ算セ藤原公季 ( 閑院 ) の長男。中納 言兼大宰 ( 権 ) 帥。正二位。安楽寺 みちかしこからギ、ところ そうわた すみやかをし ノ道不賢ル所ナメリ。然レバ、我レニ具シテ宋ニ渡ラムト云バ、 速ニ教ヘム」事件によって停任。後に復位。寛 徳元年 ( 一 0 四四 ) 没。年七十。↓注一一四。 をし よ そのみちかしこ なるべ ^ 九州の古称 ト云ケレバ、一〔〔凵〕、「吉ク教へテ其道ニ賢クダニ可成クハ、云ニコソハ随ハメ。 九ここでは算道の才。 そうわたり もちゐられあるべ につばんあり したがひぐわたり 宋ニ渡テモ被用テ可有クハ、日本ニ有テモ何ニカハセム。云ハムニ随テ具シ渡一 0 俊平の弟の名の明記を期した 一六欠字。 、一と・よ たうにんそのことなびき き ) ん、ご ) ろい いち = 「云ケレド」とありたいところ。 ナム」ト、事吉ク云ケレバ、唐人其言ニ靡テ、算ヲ心ニ入レテ教へケルニ、 三すばらしく算を置けそうな者。 ききじふじ さとやうなり たうにん さんおくものおほ 算道の天才的素質がある者。 事ヲ聞テ十事ヲ悟ル様也ケレバ、唐人モ、「我国ニ算置者多カリト云へドモ、 じ ものなり わ かたはしすこ ・わ一かくに 0 六 ほふし をし につぼんさん したが
らん、ひまもなくもてなし給へれば、何事にもかくしも身もてなすべきにもあらす。かくてあ る程に、うつくしげなるをのこゞうみつ。その子中納言に成て、本院の中納言あったゞと云は 此人成けり。誠わすれにけり。おとゞ北の方車にのせ給し程に、下がさねのしりとりて、御車 にいるゝゃうにて、へいぢうよりてかきつけてをしつけてさりにけり。おとゞは見給はず成に けり。北の方又見けるに、袖の下にみちのくに紙をひきやりてをしつけたるを、あやしとおも ひて見れば、忍ぶる人の手にて、 物を社いはねの松の岩躑躅いはねばこそあれ恋しき物を となん有ける。車に乗し程、下がさねのしり入しはこれにこそ有けれとおばしける。又ある人 の語しは、若君のかいなに書て、母にみせ奉れとてやりたりけるとも申す。 わが 昔せし我かねごとの悲しきはいかに契りし名残なりけん 此歌こそちごのかいなにかきて、母にみせ奉れといふに、わか君みせけり。女いみじく泣て、 又かいなにかきて、返し。 うつつ 現にてたれ契りけん定めなき夢路にたどるわれは我かは」とある。 八 ↓三五ハー注一四。 第 語 ニ↓三四ハー注五。 妻 三↓三五ハー注一五。 いまはむかしほんゐんさだいじんまうひとおはし ときひら せうせんこう 納今昔、本院ノ左大臣ト申ス人御ケリ。御名ヲバ時平トゾ申ケル。昭宣公ト四小世継「歳二 + 七ばかりにて」。 五醍醐天皇。↓四五ハー注一八。 まうし くわんばくみこなり ところ ほんゐんい ぢうしたまひ としわづかさむじ・ふばかり 国申ケル関白ノ御子也。本院ト云フ所ニナム住給ケル。年ハ僅ニ三十許ニシテ、 六すぐれた者。傑出した者。 五 セ大鏡「世間の作法 ( 風儀の意 ) 臣かたびれいありさまめでたことかぎりな えんぎ てんわうこ おとど おばし したゝめさせたまひしかど」。 大形チ美麗ニ有様微妙キ事無限シ。然レバ、延喜ノ天皇此ノ大臣ヲ極キ者ニゾ思 ^ 取り仕切ることで、ここでは 時めし 食タリケル。 政治を執る、取り締るの意。 七 八 九次ハー二行の「過差ノ制」と同意。 しかあひだてんわうよのなかしたためおはし おとどうちまゐりたまひ 而ル間、天皇世間ヲ拈御マシケル時ニ、此ノ大臣内ニ参給タリケルニ、制禁制戒め。 こそ とき みな まうし みじもの
あらずまたあまたくもっしもっそのかずあ いたづらまたすにちすぐすべ またここ テ又此ニテ徒ニ亦数日ヲ可過キニ非。亦、数ノ公物私物其員有リ。何カ此ニ留陰陽寮の陰陽師、従八位下。 九陰陽道で、星回りがその年に なむなほあながちあ これを カ のがるべき ただ とうねんしようほん 、当年星と本 ラムャ。但シ、何ニシテカ彼ノ難ヲバ可遁」ト。是雄ガ云ク、「汝ヂ尚強ニ明当る星を属星といし み、よう・しト - う・ 命星がある。それを祭る祭事を ところかくゐ へうしとらすみ おも なむぢせつがい すものい 日家ニ返ラムト思ハヾ、汝ヲ殺害セムト為ル者ハ家ノ丑寅ノ角ナル所ニ隠レ居大属星祭という。 一 0 ここでは祭らせる意。 のちなむひとりゆみ ものども みなとりおか なむま いへゆきっき ・一三↓注 = 。 タル也。然レバ、汝チ先ヅ家ニ行着テ、物共ヲバ皆取置セテ後、汝ヂ一人弓ニ 一四凶相。凶夢を見たのである。 ものかくれゐ と、」ろにむかひ ゆみひきおしあて や うしとらすみさやう 一五↓注一一。 箭ヲ番テ、丑寅ノ角ニ然様ノ者ノ隠居ヌペカラム所向テ、弓ヲ引テ押宛テ云 一六ここでは今晩の意。↓一六 、一と まち けふわれせつがい わと - っ′ ) く ー注一一 0 。 ハム様ハ、『己レ、我ガ東国ョリ返上ルヲ待テ、今日我ヲ殺害セムト為ル事ヲハ 宅↓注 = 。 はふずつ いでずすみやかいころ かねし 兼テ知レリ。早ク罷リ出ョ。不出ハ速ニ射殺シテム』ト云へ。然ラバ、法術ヲ一 ^ 官物。ここでは徴税した金品。 「私物」は「公物」の対で、私有物。 をし ことあらは もっ あらはれず 一九数量が多い意。 四以テ、不顕ト云フトモ、自然ラ事顕レナム」ト教ヘッ。 十 ニ 0 東北の隅。鬼門に当る。 第 凵其教へヲ得テ、明ル日京ニ急返ヌ。家ニ行着タレバ、家ノ人、「御座 = 一対称の人代名詞。同輩または 語 目下に用いる。↓一一八ハー注一 0 。 ものども みなとりおか いらず さわののしことかぎ ( り ) なしニ五ひとり ここでは陰陽道の術。 雄タリ」ト云テ、騒ギ隍ル事無限リ。「凵凵一人ハ不入シテ物共ヲバ皆取置セテ、 是 ニ三身をひそめて隠れていても。 ところこも 力し ひとま ゆみや つがひうしとらすみかためぐりみ ニ四・ニ五・ニ六↓注一一。 一間ナル所ニ薦ヲ懸タリ。 引「凵凵ハ弓ニ箭ヲ番テ、丑寅ノ角ノ方ヲ廻テ見ルニ、 士 毛善家異説では、寝室の東北隅 まち のば おもひゆみひきやさしあていは とする。母屋の東北隅の一間の部 文「此ナメリ」ト思テ、弓ヲ引テ箭ヲ差宛テ云ク、「己レ、我ガ上ルヲ待テ、今日 天 屋 ( 間口一間の仕切られた小部屋 ) いでず わそのよしかねしり われせつがい むしろ の入口に莚を垂し、法師が隠れて 我ヲ殺害セムトス。我レ其由ヲ兼テ知タリ。早ク罷出ョ。不出ハ射殺シテム いたのであろう。 そのときこもなか ほふしひとりいで あらむしろ 一穴真菰で織った荒莚。 ト云フ。其時ニ薦ノ中ョリ法師一人出タリ。 すいへかへ なりさ ゃう つがひ おの はやまか おのづか なん かへりのば はやまかりいで おの わ いころ いかで、】ことどま す
のりす これあざけりすこぶわづらはをむなしばらものい ( は ) ずふねのあるじなほいひかく 乗テ過グトテ、此ヲ嘲テ頗ル煩ス。女暫ク物不云ハ。船主尚云懸ルニ、女ノ = ひとをか もの一ニ つらいたうたれ ふねのあるじこれききふねとど 云ク、「人ヲ犯サントセム者ハシャ頬痛ク被打ナン」ト。船主此ヲ聞テ船ヲ留一 = ↓ をむなう をむなこれとがめず ふねなからかたう ともかた いりふねの メテ女ヲ打ツ。女此ヲ不咎シテ、船ノ半ノ方ヲ打ツ。舳ノ方ョリ水ニ入ヌ。船 あるじつのほとりひとやとひふねものとりあげ またふねの そのときをむないは うやな ゅゑ 主津辺ノ人ヲ雇テ船ノ物ヲ取上テ、亦船ニ乗ル。其時女ノ云ク、「礼無キガ故一三「引居へ ( ヱ ) ッペシ」の意。 一四しいたげる意。↓七三ハー注一五。 ふねひきす なにゆゑもろもろひとわれれうあなづ いひをむなふねにのせたるもの ニ船ヲ引居ヘッ。何ノ故ニ諸ノ人我ヲ抜ジ蔑ルゾ」ト云テ、女船ノ荷載物ヲ、一五↓七四ハー注八。 一六↓七四ハー注七。 またいっちゃうばかりのほどひきあげすゑ そ ときふねのあるじをむなむかひひぎまづきいは おほきをか 亦一町許程引上テ居ツ。其ノ時ニ船主女ニ向テ跪テ云ク、「我レ大ニ犯宅解き放つ意。 ことわりなり をむなゆる セリ。理也」。然レバ女免シテケリ。 そ のちそのをむなちからこころみ ため ふねごひやくにんもつひかしむ うご ( か ) ずこれ 其ノ後、其女ノカヲ試ムガ為ニ、船ヲ五百人ヲ以テ令引ルニ、不動力。此的表現。 九 - もっしり かをむなちからごひやくにんちからまさり いふこと + ヲ以テ知ヌ、彼ノ女ノカ五百人ノカニ勝タリト云事ヲ。 五ロ 1 三ロ これみきくひときいなりとおもふ よ ぜんぜ - 一とあり カ此ヲ見聞人、奇異也思ニ、「前世ニ何ナル事有テ此ノ世ニ女ノ身トシテ此ク 強 都ちからあるら ひといひ かたったへ カ有ン」トゾ人云ケル、トナン語リ伝タルトャ。 因 実 山 叡 比 一九 ひえのやまのじついんそうづのがうりきのことだいじふく 比叡山実因僧都強力語第十九 し いか をむなみ わ か をむな ここでは、ひやかし、なぶり ものにして、の意。 六七ハー注三三。 天「知ヌ」を強調した一種の倒置 一九力が強いこと。剛力。
↓二三七ハー注一一一。「式部大夫 ( 正しくは輔 ) 」は式部省の次官。 いふひとあり いまはむかししきぶのたいふおほえのまさひら 一 0 ↓六九ハー注九。 今昔、式部大夫大江匡衡ト云人有キ。 = 諸説があるが、「みやび」とよ がくしゃう ときみやびざい たか さしかた みぐるし リむ。風雅の才はあったけれども。 学生ニテ有ケル時、閑院ノ才ハ有レドモ、長ケ高クテ、指肩ニテ、見苦カ 一ニ怒り肩をさすか にようばうどもわごんさしいだ よろづことし たま いひわらひ まさひらよび 一一ヶルヲ云咲ケルニ、匡衡ヲ呼テ、女房共和琴ヲ差出シテ、「万ノ事知リ給ヘル一三わが国上代の琴で、桐胴の六 十 弦琴。やまと琴・東琴とも。 たまふ まさひらそ こた ひきたま 一四「ナレ」は伝聞。 第ナレバ、此レヲキ給ラム。此レ弾給〈。聞カム」ト云ケレバ、匡衡其ノ答〈 五ロ 1 一 11 ロ 一五第四句に「東ノ事」と「東琴 ( 和 いはず よみかけ 歌 琴 ) 」をかける。↓一七二ハー注一一。 ヲバ不云シテ、此ナム読懸ケル、 読 一六上の「此レヲ」を受けて、さら 琴 に具体的に記したもの。 アフサカノ関ノアナタモマダミネパアヅマノコトモシラレザリケリ 和 宅「ヲ」は「シテ」の合字「メ」の誤 によ、つばうたちこ えわらはめ一七かしづまり 江ト。女房達、此レヲ、其ノ返シヲ否不為マジカリケレバ、否不咲ヲ、掻キ静テ写か 大 天「官望ケル時ニ」の意。 ひとりだ みなたちさり 一九江吏部集に「蓬壺侍臣一一十輩、 独立チニ皆立テ去ニケリ。 一八 一九 合「宴于亀山之下大井河之上一」。 またこ まさひらのぞみまうし えなら ころほひてんじゃうびとあまたおほゐがはゆき ニ 0 ↓二〇二ハー注九。 亦、此ノ匡衡望申ケル時ニ、否不成デ歎ケル比、殿上人数大井河ニ行テ、 あり こほんせつわしゅう 本話の典拠は未詳。ただし、第二・三・四段は『古本説話集』上の四と同文的同話で、両者 おおえのまさふさ じっきんしよう は同原拠とみられるはか、第二・三段と同話は、大江匡房の逸話として『十訓抄』三の二、『古 ごしゅういわかしゅう こんちよもんじゅう 今著聞集』五の一八四にも所見。『後拾遺和歌集』一六雑二・一七雑三・一九雑五には、話中の和歌 全部が収録され、簡略ながら同趣の詞書を付する。前話同様、表題は最初の詠歌事情のみを対 象とするが、話中には和歌三首をあげ、各詠歌事情をしるして大江匡衡の歌才を伝えている。 カく せき そ とき かへ えす あ なげき た 九
をむなくすしのいへにゆきてかさをぢしてにぐることだいはち 女行医師家治瘡逃語第八 てんやくのかみ 本話の典拠は未詳。同じ典薬頭でも、本話の主人公は、医術の名手ではあるが、とんでもな い狒々爺である。この好色の老典薬頭が、秘密裡に秘部の治療にやってきた美女に舌なめすり をし、ギブⅡアンドⅡティクを期待して治療に全力を尽したが、病気も癒えていよいよという 土壇場で、女に脱走されて泣きつつらをかいたという風流艶笑譚。獲物を前にした老典薬頭の ハッスルぶりと、それを計算に入れた女の虚々実々のやりとりが活写された傑作で、典薬頭の 老醜無惨を描く筆致と一分の隙もない説話構成は、本集中でも抜群の秀逸。男心を翻弄した女 の才覚は心憎いばかりであるが、方法こそ違え、前話同様、典薬頭を利用して難病を治癒した おちくばものがたり 賢女の話でもある。偶合かどうか、『落窪物語』にも好色無恥の老典薬助が登場している。 八 第 五ロ 一三ロ 三↓一二四ハー注五。 ならびな 逃 いふやむごとな いまはむかしてんやくのかみ 一三姓名の明記を期した欠字。 瘡今昔、典薬頭ニテ〔は凵凵ト云止事無キ医師有ケリ。世ニ並無キ者也ケレバ 一四美しく飾り立てた婦人用牛車。 家 ひとみなこのひともちゐ ↓六六ハー注一四。それが女車の いだしぎぬ 師人皆此人ヲ用タリケリ。 はなやかな出衣に惑わされた典薬 かみこれみ 行 しかあひだこのてんやくのかみいみじしゃうぞくつかまつりをむなぐるまのりこば 女而ル間、此典薬頭ニ極ク装束仕タル女車ノ乗泛レタル、入ル。頭此ヲ見頭の錯覚であ。たことは、次【、注 九以下の記事で明らか。 くるま やりい ただや くるま とひ 盟テ、「何クノ車ゾ」ト問ヌレドモ、答へモ不為シテ、只遣リニ遣入レテ、車ヲ実車を牛からはずす意。 ひひじじい こた くすしあり よ ものなり ぎっしゃ
どうじなり なのりさぶらひ いりさぶらひ こゑきかれたてまつりのちかへりいで 童子也』ト名乗テ候ツレバ、入テ候ツレバ、音ヲ被聞奉テ後、返テ出テ、此一「れ」は受身で、御主人 ( 季通 ) とのさぶらめのわらはおほぢ くそ ゐさぶらひ かみとりうちふ きめはぎ ノ殿ニ候フ女童ノ大路ニ屎マリ居テ候ツルヲ、シャ髪ヲ取テ打臥セテ、衣ヲ剥 ニ大便をする。 , 卞さぶらひ さけさぶらひ わらはっき さぶらひどもいできたさぶらひ ↓六七ハー注三三。 二戻ツレバ、 叫ビ候ツル童ニ付テ、侍共ノ出来リ候ツレバ、『今ハ然リトモ出三 第 四丹鶴本「音」。↓前ハー注一一三。 巻 うちすてこなたぎままゐりあひさぶらひなり たまひ おもひたまへ かへり サセ給ヌラム』ト思給テ、打棄テ此方様ニ参合候ツル也」ト云テ、具シテ返 = 女の童を放り出して。 集 六主格が季通に転する。 語 セ「賢キ」とありたいところ。 物ニケル。 昔 ↓六四ハー注一。 今 わらはべ かかしこセやつありがたものなり 九「此モ」は前話の則光の行状を 童部ナレドモ此ク賢ク奴ハ難有キ者也。 踏まえて、季通もまたといったも こすゑみちみちのおくのぜんじのりみつのあそむこなりこれこころふとちからあり の。 ノ止クモ逃也、 此ノ季通ハ陸奥前司則光朝臣ノ子也。此モ心太クカ有ケレヾ、ヒ かたったへ とや トナン語リ伝タル也。 をはりのくにのをむなみののきつねをぶくすることだいじふしち 尾張国女伏美濃狐語第十七 どうじようほうし おおおんなみのの 本話の出典は『日本霊異記』中の四。道場法師の血を引く尾張国の小女が、大力の大女美濃 むち きつね 狐が小川の市で物品を強奪する由を聞き、現地に出向いて船荷を餌に美濃狐をおびき出し、鞭 で打ちのめして改心させた話。狐の血を引く美濃狐、雷神の申し子道場法師の孫娘、ともに人 にぐるなり こおんな
なりひらうこんのむまばにしてをむなをみてわかをよむことだいさむじふろく 業平於右近馬場見女読和歌語第三十六 いせものがたり 本話は在原業平にまつわる三つの歌話をまとめたもので、第一段は『伊勢物語』九九、第二段 は『伊勢物語』八二 ( 後半部 ) 、第三段は『伊勢物語』八三 ( 後半部 ) を出典とする。第一段は、五月六 日の騎射の日、業平が右近の馬場で会った物見車の女と和歌を贈答した話。第二段は、業平が これたか 惟喬親王主従と一日を狩り暮し、天の河原で酒をくみながら歌をよみ交した話。第三段は、業 わびずまい 平が惟喬親王出家後の小野の侘住居を訪ね、感懐を歌に託した話。『伊勢物語』に比して、全 こきんわかしゅう 十 般に叙述が簡略化されている。なお小異はあるが、第一段と同話は『古今和歌集』一一恋一、 やまとものがたり 第 『大和物語』一六六、第二段と同話は『古今和歌集』九羇旅・一七雑上、第三段と同話は『古今和 語 歌 歌集』一八雑下以下に散見。 和 一五↓八〇ハー注七。 女 一六馬弓。騎射。五月六日には右 見 まてつがい 一八 場 いまはむかしうこんむまば さっきむいかゆみおこな 近馬場で真手番 ( 結 ) ( 荒手番に対 ありはらのなりひらいふひとちうじゃう 馬今昔、右近ノ馬場ニ、五月六日弓行ヒケルニ、在原業平ト云人中将ニテ有 し、騎射の本勝負 ) が行われた。 右 宅↓二〇四ハー注一。 おとどや をむなぐるまおとどやちかたち かぜすこ 於ケレバ、大臣屋ニ着タリケルニ、女車大臣屋近ク立テ、物見ル有リ。風ノ少一〈貞観 + 七年任右近衛権中将。 業 一九馬場に特設された公卿・殿上 ふき したすだれふきあげられ にくか ( ら ) めみ なり シ吹ケルニ、下簾ノ被吹上タリケルョリ、女ノ顔ノ不憾ラ見ヱタリケレバ、業人などの観覧所。 ニ 0 牛車の簾の内側にたらした布。 2 ひらちうじゃうこどねりわらはもっ かくいひやり ↓六四ハー注六。 平ノ中将小舎人童ヲ以テ、此云遣タリケリ、 一九 つき をむなかほ ものみ あり ぎっしゃ
もとゐてゆき し・はり みつとほ ひとすゑおほはしりあひとらへてうちふ 一男が逃げ出した地点を本とし、 ガ如クニ遷ケルヲ、人末ニ多ク走合テ捕打伏セテ縛テ、光遠ガ許ニ将行タレ 逃げた先を末といったもの。 すててにげ なむぢいかおもひしちとるばかり 光遠男ニ、「汝、何ニ思テ質ニ取許ニテハ棄逃ツルゾト問ヒケレバ、男ニ「ハ」は強意。人質に取るほど のことをしたくせして。 をむなやうおもひ しちとりたてまつりさむらひ 三「被砕レヌペシ」の強調表現 二ノ云ク、「可為キ方ノ不候ザリツレバ、例ノ女ノ様ニ思テ、質ニ取奉テ候 あてじ 第 四「嘲」の当字。 くちき くだやう もつおしくだたまひ やしのふしもと おほ 巻 ツルニ、大キナル箭ノ篠ノ節ノ許ヲ、朽木ナドヲ砕ク様ニ、手ヲ以テ押砕キ給五原姿「掻ロテ。とあったものが、 集 転写間に空格の消滅によって上下 おもひたまへ 五ロ あ一まし かばかりちから みたま 連接し、「掻テ」に転じたもの。消 枷ツルヲ見給ヘッレバ、奇異クテ、『此許ノカニテハ腕折リ被砕レヌ』ト思給テ、 昔 滅した空格は「ネチ」の漢字表記を にげさむらひ 期した欠字。本条を含め、これ以 逃候ツル也」 下の一節には「ネヂ ( ヅ ) 」の漢字表 っ にようばうひとたび つかれ みつとほこれききあぎわらひいは 光遠此ヲ聞テ疵咲テ云ク、「其ノ女房ハ一度ニョモ不被突ジ。突カントセン記を期した空格が集中的に消滅し ている疑いがある。↓注六・八。 いで六きられ かしこおのれかひな かたほねうへ うでとりかき五 うへざまっ 腕ヲ取掻テ、上様ニ突カバ、肩ノ骨ハ上ニ出テ被切ナマシ。賢ク己ガ肱六↓注 九 セ都合よく、運よく、の意 なりみつとほ おのれてごろ あり によら・ばうせ 〈原姿「不ロザリケル也」で、消 ノ不抜マジキ宿世ノ有テ、其ノ女房ハ不ザリケル也。光遠ダニ己ヲバ手殺シ 滅した空格は「ネヂ」の漢字表記を おの いきあり ころ もの 一 0 かひなとり うちふ はらのほねふみ ニ殺シテム物ヲ。シャ肱ヲ取テ打伏セテ腹骨ヲ踏ナンニハ、己レハ生テ有ナン期した欠字か。↓注五。 九光遠でさえもお前などは素手 ほそ それ にようばうみつとほふたりばかりちからもち で殺してしまえるだろうに。「ダ ャ。其ニ、女房ハ光遠ガ二人許ガカヲ持タルゾ。然コソ細ャカニ女メカシケレ ニ」によって、言外に妹だったら とり うでつよとられ みつとほてたはぶす まして、の意を匂わせている。 ドモ、光遠ガ手戯レ為ルニ、取タル腕ヲ強ク被取タレバ、手弘ゴリテ免シッル ↓六七ハー注三三。 あら あら あかたきな あは 物ヲ。哀レ、此レガ男ニテ有マシカバ、合フ敵無クテ手ナムドニテコソハ有マ = ところが。しかるに。 三手でからかうこと。 このしちとりをのこなか いふキ一 をしをーむ物は シカ。惜ク女ニテ有ケルコソ」ナド云ヲ聞クニ、此質取ノ男、中ラハ死ヌル心 = = つかんだ手がしびれ、指が広 もの ごと みつとほをのこ しくせ かた一むらは 0 あり をと - 一 そ そ うでを て くだか てひろ て と をむな ゆる し をのこ