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検索対象: 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)
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1. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

たる山がつどものみ、まれに馴れ参り仕うまつる。峰の朝霧晴るるをりなくて八行 ) 。山住みではいっそう顕著。 一六荘園の管理者などか。 一九 明かし暮らしたまふに、この宇治山に、聖だちたる阿闍梨住みけり、才いとか宅「雁の来る峰の朝霧晴れずの み思ひ尽きせぬ世の中の憂さ」 ( 古 かろ おほやけごと しこくて、世のおばえも軽からねど、をさをさ公事にも出で仕へず籠りゐたる今・雑下読人しらす ) 。 一〈「わが庵は都のたつみしかそ に、この宮のかく近きほどに住みたまひて、さびしき御さまに、尊きわざをせ住む世を宇治山と人はいふなり」 ( 古今・雑下喜撰法師 ) 。 ほふもん 一九「聖だち」で、世間離れした感 させたまひつつ、法文を読みならひたまへば、尊がりきこえて常に参る。年ご じ。「阿闍梨」は、天台・真言宗で、 朝廷から任ぜられる僧の称号。 いよいよ、 ろ学び知りたまへることどもの、深き心を説き聞かせたてまつり、 ニ 0 以下、「聖だち」のゆえん。 この世のいとかりそめにあちきなきことを申し知らすれば、八の宮「、いばかりは = 一阿闍梨は自分の意思から、八 のり の宮の法の師となった。 はちすうへ 蓮の上に思ひのばり、濁りなき池にも住みぬべきを、いとかく幼き人々を見棄一三身は俗体ながら心だけは極楽 往生を願う気持。「極楽国土、七 てんうしろめたさばかりになん、えひたみちにかたちをも変へぬ」など、隔て宝ノ池有リ、 : ・池中ノ蓮花、大キ ナルコト車輪ノゴトシ」 ( 阿弥陀 経 ) 。「住み」「澄み」の掛詞。 なく物語したまふ。 ニ三姫君たちが、出家を妨げる絆。 あぎり れぜいゐん この阿闍梨は、冷泉院にも親しくさぶらひて、御経など教ニ四迷いを腹蔵なく言う私淑ぶり。 姫〔六〕阿闍梨、八の宮の 0 八の宮の道心は、政治的敗北 生活を院・薫らに報ず へきこゆる人なりけり。京に出でたるついでに参りて、例愛妻の死、自邸炎上などの不遇に 見舞われたため。内的な由因によ ふみ 橋 の、さるべき文など御覧じて問はせたまふこともあるついでに、阿闍梨「八の宮る薫の道心とは異なる点に注意。 一宝仏徒は仏教を「内教ーと呼ぶ。 ざえさとり の、いとかしこく、内教の御才悟深くものしたまひけるかな。さるべきにてニ六仏教者となるべき宿運として。 ニ五 ニ 0 あざり ぎえ ニ四

2. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

、ころう うに独身をおし通されるのは。 かと心憂くて、中の君「一ところをのみやは、さて世にはてたまへとは聞こえた 一三あなたの身の上だけを。↓一 まひけむ。はかばかしくもあらぬ身のうしろめたさは、数そひたるやうにこそ八八ハー一三行。以下、せめて中の 君の結婚をと願う気持。 いかな一四自らは山里に埋れながらも、 思されためりしか。心細き御慰めには、かく朝夕に見たてまつるより、 中の君を後見して面目を施したい。 る方にか」と、なま限めしく思ひたまへれば、げにといとほしくて、大君「な一五父宮は、大君一人だけを、こ のまま独身で終るようにとは。 ほ、これかれ、うたてひがひがしきものに言ひ思ふべかめるにつけて、思ひ乱一六頼りない私への心配のほうが、 姉上よりずっとまさると。 宅姉上の心細さを慰めるには、 れはべるぞやーと言ひさしたまひつ。 一九 大君の「慰むばかり : ・」に応じた。 まらっと一 暮れゆくに、客人は帰りたまはず。姫宮いとむつかしと思す。弁参りて、御一 ^ やはり、女房の誰も彼もが私 のことを。↓前ハー一〇行。 せうそこ 消息ども聞こえ伝へて、恨みたまふをことわりなるよしをつぶつぶと聞こゆれ一九薫。ここに泊ろうという魂胆。 ニ 0 以下、大君の心中。 ひと ニ 0 三父母のうちのどちらかでも。 ば、答へもしたまはず、うち嘆きて、「いかにもてなすべき身にかは。一とこ 一三親の世話を受けながら、その すくせ ろおはせましかば、ともかくもさるべき人にあっかはれたてまつりて、宿世と指図どおりに結婚して。 ニ三思いどおりにならぬ世の中だ 角いふなる方につけて、身を心ともせぬ世なれば、みな例のことにてこそは、人から。「いなせとも言ひはなたれ す憂きものは身を心ともせぬ世な とが りけり」 ( 後撰・恋五伊勢 ) 。 笑へなる咎をも隠すなれ。あるかぎりの人は年つもり、さかしげにおのがじし 総 一西親の勧める結婚なら、失敗し ても世間の物笑いにならぬとする。 は思ひつつ、心をやりて似つかはしげなることを聞こえ知らすれど、こははか 一宝弁など、周囲の女房は年配者。 ひとかた ばかしきことかは。人めかしからぬ心どもにて、ただ一方に言ふにこそは」とニ六人並でもない女房たちの。 ひと ニ四

3. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

て、何ごとも思しわかギ、りしほどながら、これをいと、い苦しと思ひて、北の方りこむ。ここは出家の意思を留保 したまま、姫君たちが美しく成長。 ひとこと 「ただ、この君をば形見に見たまひて、あはれと思せーとばかり、ただ一言な一三かっては北の方が、今は姫君 たちが、「うき世の慰めーとなる。 さき ん宮に聞こえおきたまひければ、前の世の契りもつらきをりふしなれど、さる一四中の君。 一五生れた折が折とて情けない。 べきにこそはありけめと、今はと見えしまでいとあはれと思ひてうしろめたげ中の君の、北の方の死を代償とし たかのような誕生をいう。 にのたまひしをと思し出でつつ、この君をしもいとかなしうしたてまつりたま一六以下、臨終の北の方の言動。 一九 宅中の君への憐憫。 かたち ふ。容貌なむまことにいとうつくしう、ゆゅしきまでものしたまひける。姫君一 ^ 「前の世の契り」を繰り返す気 持。北の方との死別を宿世とする。 けだか は、、いばせ静かによしある方にて、見る目もてなしも、気高く、いにくきさまぞ「ありけめ」まで八の宮の心中。 「と」は「のたまひしをと」の「と」と ともに、「思し出でつつ」にかかる。 したまへる、いたはしくやむごとなき筋はまさりて、いづれをも、さまざまに 一九中の君は。 ニ 0 大君。 思ひかしづききこえたまへど、かなはぬこと多く、年月にそへて宮の内ものさ ニ一いたわってあげたいような、 びしくのみなりまさる。さぶらひし人も、たづきなき心地するにえ忍びあへず、高貴な血筋という点では。「筋は まさりて」まで大君のこと。一説 めのと には中の君とするが、とらない。 次々に、従ひてまかで散りつつ、若君の御乳母も、さる騒ぎにはかばかしき人 姫 一三生活の不如意。困窮する一方。 え をしも選りあへたまはざりければ、ほどにつけたる心浅さにて、幼きほどを見ニ三以下、女房らの離散。「次々 に・ : つつ」と、一人減り二人減り。 一西北の方の死去をさす。 棄てたてまつりにければ、ただ宮そはぐくみたまふ。 げろう 一宝下﨟の乳母ゆえの浅慮から。 ニ六 ニ六かって信望あった親王だけに。 さすがに広くおもしろき宮の、池、山などのけしきばかり昔に変らでいとい としつき み れんびん

4. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

81 竹河 ( 現代語訳三二四ハー ) 寄せたまひしなごりに、思しおとしけるよと、限めしう思ひきこえたまひけり。大君の木とし、母玉鬘が中の君の 木とした往時を回想。↓五九ハー うへ 院の上、はた、ましていみじうつらしとそ思しのたまはせける。冷泉院「古めか一六玉鬘が院にまいらぬのを。 宅年老いた私のところに、娘一 しきあたりにさし放ちて。思ひおとさるるもことわりなり」とうち語らひたま人を放っておいて。盛りを過ぎた 自分 ( 院 ) を疎略にしながら、はな ひて、あはれにのみ思しまさる。 やかな宮中には参上する、の皮肉 をこめて、大君に共鳴してみせる。 一九 年ごろありて、また男御子産みたまひつ。そこらさぶらひ一 ^ 大君がひがんでいるのを。 〔一 0 大君、男御子を産 一九年立では五年経過。 む人々に憎まれる ニ 0 秋好中宮や弘徽殿女御など。 たまふ御方々にかかることなくて年ごろになりにけるを、 ニ一冷泉院と大君の宿世。 よひと みかど おろかならざりける御宿世など世人おどろく。帝は、まして限りなくめづらし一三「院の帝」の意。冷泉院。 ニ三誕生した「男御子」。 。しカニ四以下、冷泉院の心中。院は、 と、この今宮をば思ひきこえたまへり。おりゐたまはぬ世ならましかま、 自らに皇胤のないのを嘆いて退位 にかひあらまし、今は何ごともはえなき世を、いと口惜しとなん思しける。女した。↓若菜下同一三〇ハー 一宝退位後では、若宮が生れても 一の宮を限りなきものに思ひきこえたまひしを、かくさまざまにうつくしくて立太子の可能性もない。 一宍弘徼殿女御腹。院の一人っ子 おば だけに、その母女御も重んじられ 数そひたまへれば、めづらかなる方にて、いとことに思いたるをなん、女御も、 てきた。しかし男御子の誕生で、 あまりかうてはものしからむと御心動きける。事にふれて安からすくねくねし院の寵愛が大君に傾こうとする。 毛弘徽殿女御。しだいに嫉妬。 夭面倒な事態。↓七八ハー九行。 きこと出で来などして、おのづから御仲も隔たるべかめり。世のこととして、 ニ九本妻の地位にあたる人。 ニ九 数ならぬ人の仲らひにも、もとよりことわりえたる方にこそ、あいなきおほよ三 0 無関係な第三者も味方する意。 ニ一すくせ をとこみこ ニ七 ニ六

5. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

0 同腹の姉に好色心を動かす匂宮 訪れたまはで日ごろ経ぬ。 の、特異なまでの多感ぶりを描く。 待ちきこえたまふ所は、絶え間遠き心地して、なほかくな一四匂宮の来訪を待望する宇治邸。 〔毛〕薫、大君の病を聞 一五数日間の途絶えから、匂宮は き、訪れて看護する めりと心細くながめたまふに、中納言おはしたり。なやまやはり不誠実と絶望する気持。 一六大君は心労のあまり病臥。食 しげにしたまふと聞きて、御とぶらひなりけり。いと、い地まどふばかりの御な欲なく衰弱。↓二三五ハー注 = 一、二 ー一二行。薫はその病気見舞。 一セ たいめん やみにもあらねど、ことつけて、対面したまはす。薫「おどろきながら、遥け宅薫の懸想が厄介なので、病気 を口実に対面を断る。 きほどを参り来つるを。なほかのなやみたまふらむ御あたり近くーと、切にお一 ^ 大君の病室の前の廂の間。 一九以下、大君の態度。 ばっかながりきこえたまへば、うちとけて住まひたまへる方の御簾の前に入れニ 0 そっけなくはなく。 ニ一臥床のまま御簾を隔てて応対。 たてまつる。いとかたはらいたきわざと苦しがりたまへど、けにくくはあらで、一三大君の病悩を匂宮ゆえと感取 する薫が、宮側の事情を説明。 ニ三中の君は格別何も言われない 御頭もたげ、御答へなど聞こえたまふ。 あきら ようだ。とうに諦めているとして、 宮の、御心もゆかでおはし過ぎにしありさまなど語りきこえたまひて、薫薫の慰めの言葉を拒む体である。 一西八の宮の遺言 ( 椎本一四四ハー ) 。 おの 角「のどかに思せ。心焦られして、な恨みきこえたまひそ」など教へきこえたま中の君の問題を己が身に転じなが ニ四 ら、父宮の遺訓を楯に結婚拒否を な へば、大君「ここには、ともかくも聞こえたまはざめり。亡き人の御諫めはか決意した苦衷を言いこめる。二三 総 六ハーと照応。 かることにこそと見はべるばかりなむ、いとほしかりける」とて、泣きたまふ一宝夫婦仲。「世の中はとてもか わらや くても同じこと宮も藁屋も果てし なければ」 ( 新古今・雑下蝉丸 ) 。 気色なり。、 しと心苦しく、我さへ恥づかしき心地して、薫「世の中はとてもか けしき 一 ^ みす ニ五 せち

6. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

ひね らば、抓みも捻らせたまへ。やむごとなき方に思しよるめるを、宿世などいふ宅私をつねるなり何なり。 一 ^ あなたは高貴な身分のお方に、 お心寄せのようだが。薫のこのい めるもの、さらに、いにかなはぬものにはべるめれば、かの御心ざしはことには やみな言い方は二〇一ハーにも。 、 : ろう べりけるを、いとほしく思ひたまふるに、かなはぬ身こそ置き所なく心憂くは一九宮は格別のお方、中の君に執 心だった。これもいやみな言い方。 一うじ ニ 0 思いのかなわぬわが身、と嘆 べりけれ。なほ、いかがはせむに思し弱りね。この障子の固めばかりいと強き ↓前ハー九行。 いぎな ニ一宿世と思って私にお心寄せく も、まことにもの清く推しはかりきこゆる人もはべらじ。しるべと誘ひたまへ あきら ださるよう、お諦めなさい、の意。 一三↓二〇七ハー七行。 る人の御心にも、まさにかく胸ふたがりて明かすらむとは思しなむや」とて、 ニ三あなたと私の間に実事がなか ゃぶ ったとは、誰も思うまい、の意。 、、いはむ方なく心づきなけれど、こしらへ 障子をも引き破りつべき気色なれは 一西私を案内人に誘った匂宮。 一宝薫の「宿世などいふ : ・」を受け、 むと思ひしづめて、大君「こののたまふ宿世といふらむ方は、目にも見えぬこ そのいやみな言い方をはぐらかす。 とにて、いかにもいかにも思ひたどられず、知らぬ涙のみ霧りふたがる心地しニ六「行く先を知らぬ涙の悲しき はただ目の前に落つるなりけり」 のち てなむ。こはいかにもてなしたまふそと、夢のやうにあさましきに、後の世の ( 後撰・離別羇旅源済 ) 。 毛男にだまされた愚かな女の話 ためし 角例に言ひ出づる人もあらば、昔物語などに、ことさらにをこめきて作り出でたの例。昔物語には多かったらしい ニ ^ 律儀な薫がこんな非常手段を ニ ^ たとひ とった真意を、匂宮も疑うだろう。 . し、刀ナ′ る物の譬にこそはなりぬべかめれ。かく思しかまふる心のほどをも、 総 ニ九恐ろしいほどのつらい思いで、 妹をも私をも困らせないでほしい。 けるとかは推しはかりたまはむ。なほ、いとかく、おどろおどろしく心憂く、 三 0 あまりのことで死にそうだが、 三 0 なとり集めまどはしたまひそ。心より外にながらへば、すこし思ひのどまりてもしも意外に生き長らえたならば。 っ 一セ お けしき ほか ニ 0 ニ六 ニ九 一九 ニ四

7. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

23 匂宮 ( 現代語訳二八七ハー ) 薫「宮のおはしまさむ世のかぎりは、朝夕に御目離れず御人の信望を得、多くの女性関係を 〔九〕タ霧、六の君を落 も持つ。しかし召人との関係では 葉の宮の養女とする 結婚や好色の対象にならない。薫 覧ぜられ、見えたてまつらんをだに」と思ひのたまへば、 の道心の破綻しないゆえんである。 みぎのおとど ひとりひとり 右大臣も、あまたものしたまふ御むすめたちを、一人一人はと心ざしたまひな一四母女三の宮のご存命中は。 一五せめてもの孝養に、の気持。 こと がら、え一一 = ロ出でたまはず。さすがにゆかしげなき仲らひなるをとは思ひなせど、一六タ霧。その娘は六人いる。 宅誰か一人は薫にと思いながら も、母思いの薫には言い出せない この君たちをおきて、ほかにはなずらひなるべき人を求め出づべき世かはと思 天なんといっても、あまりに近 ないしのすけばらニ 0 い縁者ゆえおもしろみがないので。 とすぐれてをかし しわづらふ。やむごとなきよりも、典侍腹の六の君とか、い 一九北の方の雲居雁腹の姫君たち。 お げに、、いばへなども足らひて生ひ出でたまふを、世のおばえのおとしめざまな = 0 ↓一 = 一ハー注一七。 ニ一その母典侍は身分が高くない。 るべきしもかくあたらしきを心苦しう思して、一条宮の、さるあっかひぐさ持 = = 落葉の宮。↓一三ハー ニ三子のない落葉の宮の養女とし ニ四 て、六の君の世評を高めようとす たまへらでさうざうしきに、迎へとりて奉りたまへり。「わざとはなくて、こ る。源氏が明石の姫君を紫の上の の人々に見せそめてば、かならず心とどめたまひてん。人のありさまをも知る養女にしたのや、玉鬘を六条院の 花形として迎えたのと同趣向。 人は、ことにこそあるべけれ」など思して、いといつくしくはもてなしたまはニ四薫や匂宮。 一宝箱入り娘の扱いでなく、男た ず、いまめかしくをかしきゃうにもの好みせさせて、人の心つけんたより多くちが近づきやすいようにした。 ニ六和歌や琴などの趣味。 つくりなしたまふ。 0 前に世人が六の君に熱中したと あったのは ( 一二ハー末 ) 、この時点 以後か。玉鬘求婚譚とも似た趣向。 た ニ六 ニ五 か

8. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

かたち めたまふ。ねびまさりたまふ御さま容貌どもいよいよまさり、あらまほしくを一四大君。中の君との相違に注意。 一五春の明るい陽光にかえって胸 ゝこまこもおはせましかばあたらし , っ惜しき方中の憂愁が照らし出される趣。 かしきも、なかなか心苦し , つ、カオ冫冫 一六姫君二人の。 の思ひはうすくやあらましなど明け暮れ思し乱る。姉君二十五、中の君二十一一一宅以下、八の宮の心中 天姫君が不器量であったなら。 一九当時の上流貴族の姫君は、十 にそなりたまひける。 五、六歳で結婚するのが普通 ニ 0 やくどし 宮は重くつつしみたまふべき年なりけり。もの心細く思して、御行ひ常より = 0 八の宮は厄年。六十一歳であ ろう。秋に亡くなる伏線か ニ一死出の旅への出立の用意。 もたゆみなくしたまふ。世に心とどめたまはねば、出立いそぎをのみ思せば、 行幸同九六ハー一〇行。 と、とましく、一三極楽往生も間違いなかろうが。 涼しき道にもおもむきたまひぬべきを、ただこの御事どもこ、、 ニ三二人の姫君たちのこと。 みす ニ五 ニ四二行後・・推しはかり : ・」に続く。 限りなき御心強さなれど、かならず今はと見棄てたまはむ御心は乱れなむと、 一宝道心の堅固さ。 お ニ六以下、死期の迫る八の宮が、 見たてまつる人も推しはかりきこゆるを、思すさまにはあらずとも、なのめに、 ニ七 姫君の婿を苦慮。理想どおりの相 ま 1 ) ころうしろみ きは さても人聞き口惜しかるまじう、見ゆるされぬべき際の人の、真、いに後見きこ手ではなくとも、どうにか人並で、 婿として外聞わるくなく、世間か 本えんなど思ひょりきこゆるあらば、知らず顔にてゆるしてむ、一ところ一とこらも認められそうな身分の男が。 毛夫として姫君の世話をする意。 ニ〈現世を捨てた人らしい配慮 ろ世に住みつきたまふよすがあらば、それを見ゅづる方に慰めおくべきを、さ ニ九大君、中の君それぞれが。 まで深き心にたづねきこゆる人もなし。まれまれはかなきたよりに、すき事聞 - 三 0 世間並に結婚する縁があれば。 三一寺社参詣の中宿りとか、旅の ものまう なかやどりゆ こえなどする人は、まだ若々しき人の心のすさびに、物詣での中宿、往き来の往来の途中とかの気まぐれに。 三 0 いでたち かた ニ九 かた ニ四

9. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

75 竹河 れて参りたまふ。右の大殿、致仕の大殿の族を離れて、きらきらしうきょげな切り、部屋を作っている。 天男踏歌の見物のために参集。 うちおまへ ニ 0 る人はなき世なりと見ゅ。内裏の御前よりも、この院をばいと恥づかしうこと一九タ霧と旧頭中将の子孫以外は。 ニ 0 暗に、光源氏の血を秘かに弓 くらひとの みなひと に思ひきこえて、皆人用意を加ふる中にも、蔵人少将は、見たまふらんかしとく冷泉院の無類の高貴性をいうか。 ニ一大君が自分 ( 少将 ) を。 しづごころ 思ひやりて静心なし。にほひもなく見苦しき綿花もかざす人からに見分かれて、 = = 男踏歌の折、冠にさす綿製の ニ四 造花。↓初音一一〇八ハー注四。 みはし さまも声もいとをかしくそありける。竹河うたひて、御階のもとに踏み寄るほ = 三男踏歌に謡う。↓五五注 = 0 。 一西寝殿南側の階段か。 く一宝昨年の正月。↓五四ハ ど、過ぎにし夜のはかなかりし遊びも思ひ出でられければ、ひが事もしつべ ニ七 兵舞いそこないもしかねるほど。 きさいみや 毛秋好中宮。冷泉院もいっしよ。 て涙ぐみけり。后の宮の御方に参れば、上もそなたに渡らせたまひて御覧ず。 一穴大君が自分 ( 少将 ) を。 月は、夜深うなるままに昼よりもはしたなう澄みのばりて、いかに見たまふら = 九踏み舞うのもうわの空。一行 は、ます院の殿上の間の前庭で女 ひとり 著 ) かづき ニ九 んとのみおばゆれば、踏むそらもなうただよひ歩きて、盃も、さして一人をの御や大君らの見物に供し、ついで 中宮御殿にむかって中宮と院の御 とカ 覧に供す。すでに中宮御殿に移っ み咎めらるるは面目なくなん。 たが少将の心から大君が離れない。 あり よひとよ 夜一夜、所どころかき歩きて、いとなやましう苦しくて臥したるに、源侍従三 0 少将は、自分への同情やから かいと思い、たまらない気持。 を院より召したれば、薫「あな苦し、しばし休むべきに ! とむつかりながら参三一一行は夜中、貴人邸を回る。 三三 三ニ以下、源侍従 ( 薫 ) 。 かとう三四 ごぜん りたまへり。御前のことどもなど問はせたまふ。冷泉院「歌頭はうち過ぐしたる三三宮中での男踏歌の様子を。 = 西これまでは、年配者が勤めた えら 人のさきざきするわざを、選ばれたるほど、いにくかりけり」とて、 , つつくしと三 = すぐれた手並がしのばれる意。 ニ五 よ めいばく ぞう わたばな あ ふ ニ六

10. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

中納言は、三条宮造りはてて、さるべきさまにて渡したて一 0 匂宮を将来立坊させること。 〔一 = 〕薫大君を迎える用 帝と中宮のひそかな心づもり。↓ 意中の君のため尽力 まつらむと思す。げに、ただ人は、いやすかりけり。かくい 一一匂宮の即位後、中の君を中宮 けしき にも立てよう、の心づもり。 と心苦しき御気色ながら、やすからず忍びたまふからに、かたみに思ひ悩みた 0 東宮候補の匂宮と、親王の遺児 ながら召人にふさわしいと思われ まふべかめるも、心苦しくて、「忍びてかく通ひたまふよしを、中宮などにも る中の君の、身分的懸隔に注意。 をむながた 漏らし聞こしめさせて、しばしの御騒がれはいとほしくとも、女方の御ためは三薫は、昨年焼失した母女三の 宮の三条邸 ( 椎本一六九ハー ) を新築。 とが 咎もあらじ。 いと、かく、夜をだに明かしたまはぬ苦しげさよ。いみじくもて一三大君を迎える準備。 一四匂宮の「苦しかりけり」に照応。 一五匂宮と中の君。 なしてあらせたてまつらばや」など思ひて、あながちにも隠ろへず。 一九 一六以下、匂宮の心中。 かたびらかべしろ けんせき たれ ころもがヘ 更衣など、はかばかしく誰かはあっかふらむなど思して、御帳の帷子、壁代宅母中宮からの譴責。 天中の君にとっては。 など、三条宮造りはてて渡りたまはむ心まうけにしおかせたまへるを、薫「ま一九十月一日、衣服や調度を冬の 装いに替える。後文に「十月一日」。 づさるべき用なむ」など、いと忍びて聞こえたまひて、奉れたまふ。さまざま = 0 御帳台 ( 寝台 ) の垂絹。 三母屋と廂の間に垂す幕。 さうぞくニニめのと 一三薫の乳母。 角なる女房の装束、御乳母などにものたまひつつ、わざともせさせたまひけり。 ニ三冬。宇治では網代の時期に入 あじろ ついたち る。↓橋姫九八ハー注七。 十月一日ごろ、網代もをかしきほどならむとそそのかしき 〔一三〕匂宮、紅葉狩を口 ニ四薫が匂宮を。 総 もみぢ 実に宇治訪問を計る 一宝「宇治山の紅葉を見ずは長月 こえたまひて、紅葉御覧ずべく申しさだめたまふ。親しき のすぎゅくひをも知らずぞあらま むつ 宮人ども、殿上人の睦ましく思すかぎり、いと忍びてと思せど、ところせき御し」 ( 後撰・秋下千兼が女 ) 。 一セ ニ 0 ニ四