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検索対象: 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)
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1. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

たまふ心浅さに、みづからの言ふかひなさも思ひ知らるるに、さまざま慰む方一三大君がこんなにいやがらす。 薫の無理じいしようとする気持が、 なく」と恨みて、何心もなくやつれたまへる墨染の炉影を、いとはしたなくわ気長に待とうとする気持に移る。 一四無理やり迫るようなのも。 一九 びしと思ひまどひたまへり。薫「いとかくしも思さるるやうこそはと恥づかし一五不思議なほど親交してきたが。 一六不吉な喪服のやつれ姿を。顔 きに聞こえむ方なし。袖の色をひきかけさせたまふはしもことわりなれど、こを見られたことの屈辱は、ロに出 して言うことさえできない こら御覧じ馴れぬる心ギ、しのしるしには、さばかりの忌おくべく、今はじめた宅自分の不用意さをも悔む気持。 一 ^ 何の心用意もなく。 る事めきてやは思さるべき。なかなかなる御わきまへ心になむ」とて、かの物一九こうまで私をお嫌いになる理 由も何かあろう、の意。 ありあけ の音聞きし有明の月影よりはじめて、をりをりの思ふ心の忍びがたくなりゆく = 0 喪服のやつれ姿を見たと非難 されるのはもっともだが。「ひき かく」は袖の縁語で、言う意。 さまを、いと多く聞こえたまふに、恥づかしくもありけるかなと疎ましく、か ニ一喪中ぐらいを遠慮しなければ ならぬような、今始ったことと同 かる心ばへながらつれなくまめだちたまひけるかなと聞きたまふこと多かり。 じに考えてよいものか。長年にわ きちゃう たる恋慕だとして、二年前のかい 御かたはらなる短き几帳を、仏の御方にさし隔てて、かりそめに添ひ臥した ニ四 ま見 ( 橋姫〔一 0 〕 ) の一件などを言う。 しきみ みやうがう 一三大君の心中。 角まへり。名香のいとかうばしく匂ひて、樒のいとはなやかに薫れるけはひも、 ニ三実事のない添い寝。 ニ四モクレン科の常緑樹。閼伽 人よりはけに仏をも思ひきこえたまへる御心にてわづらはしく、墨染のいまさ ( 仏に供える水 ) に散らす。 総 たが ニ六 こ・一ろい らに、をりふし心焦られしたるやうにあはあはしく、思ひそめしに違ふべけれ一宝折もあろうに服喪中の今、こ らえ性もなく軽率で。自らを反省。 この御心にも、さりともすこしたわみたまひなニ六仏道に志した当初の気持。 かかる忌なからむほどに、 ニ 0 ふ

2. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

一以下、薫の心中。まだ若い大 はひいとあはれげなり。 君が、てきばきと大人ぶっても、 どうして妹の縁談を決められよう。 けざやかにおとなびてもいかでかはさかしがりたまはむと 〔ニ〕薫、姫君たちのこ ニ弁。大君相手では埒があかず、 語 ふるびと とを弁と話し合う 物 ことわりにて、例の、古人召し出でてそ語らひたまふ。薫弁に打ち明けて加勢を頼む。 氏 三後生を願う気持で、こちらに。 のち 四八の宮の晩年に、姫君二人の 源「年ごろは、ただ後の世ざまの心ばへにて進み参りそめしを、もの心細げに思 将来を依託されたこと ( ↓橋姫一 二四ハー・椎本一四一ハー ) 。「、いにま しなるめりし御末のころほひ、この御事どもを心にまかせてもてなしきこゅべ かせてもてな」すようにとは、薫 の勝手な解釈による。 くなんのたまひ契りてしを、思しおきてたてまつりたまひし御ありさまどもに 五以下、姫君一一人の堅固な気持。 たが 六八の宮には、私 ( 薫 ) 以外に意 は違ひて、御心ばへどもの、いといとあやにくにもの強げなるは、、ゝに、思 中の人物があったのか、の意。 しおきつる方の異なるにやと疑はしきことさへなむ。おのづから聞き伝へたまセ私は妙に人とは変った性分で。 ^ 執着のなさをいう。女に、い惹 ほんじゃう ふやうもあらむ。いとあやしき本性にて、世の中に、いをしむる方なかりつるを、かれたりもしなかったとする。 九前世の因縁で、大君と親しく な よひと さるべきにてや、かうまでも聞こえ馴れにけん。世人もやうやう言ひなすやう交際するようになったか、とする。 うわさ 一 0 二人の仲が世間の噂になりは じめたとして、逃れがたさを説得。 あべかめるに、同じくは昔の御事も違へきこえず、我も人も、世の常に心とけ 一一同じ結婚するのなら故宮の遺 ためし て聞こえ通はばやと思ひょるは、つきなかるべきことにても、さやうなる例な託にもお背き申さず。 三世間の普通の男女のように。 くやはある」などのたまひつづけて、薫「宮の御事をも、かく聞こゆるに、う一三皇族 ( 大君 ) と臣族 ( 薫 ) では、 身分違いで不似合いな結婚だが。 しろめたくはあらじとうちとけたまふさまならぬは、内々に、さりとも思ほし一四落葉の宮と柏木などもその例。 五 四 こと たが

3. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

215 総 へど、あはれともいかにとも思ひわきたまはす。言ひ知らずかしづくものの姫一五先夜にもまして、世の若妻ら しくなまめかしい風情なのは。 せうと ↓二一一ハー九行。 君も、すこし世の常の人げ近く、親、兄弟などいひつつ、人のたたずまひをも一六 宅うれしいなどの感動もない。 見馴れたまへるは、ものの恥づかしさも恐ろしさもなのめにゃあらむ。家にあ一〈以下、中の君の人柄を、世間 一般の、愛育される姫君と比較 がめきこゆる人こそなけれ、かく山深き御あたりなれば、人に遠くもの深くて一九世間並に人に接し、親兄弟な ど男のすることを見なれていれば。 ニ 0 ほどほどとい、つものだろう。 ならひたまへる、い地に、思ひかけぬありさまのつつましく恥づかしく、何ごと ニ一以下、中の君。邸内にかしず ゐなか く世話役はついていないが。 も世の人に似ずあやしう田舎びたらむかしと、はかなき御答へにても言ひ出で 一三先夜の匂宮と逢った体験。 ニ五 ニ四 ん方なくつつみたまへり。さるは、この君しもそ、らうらうじくかどある方の = 三以下、中の君の心中。妙に田 舎じみていよう、との自卑 一西その実。当人の意識とは別に、 にほひはまさりたまへる。 ニ六 中の君の人柄の美質を語る趣。 ニ七 もちひ ニ五利発で才覚に富む美しさは、 「三日に当る夜、餅なむまゐる」と人々の聞こゆれば、こ 〔一三〕三日夜婚儀の用意 大君よりも。 おまへ 薫来たらず贈物あり とさらにさるべき祝ひのことにこそはと思して、御前にてニ六三日の夜の餅。新婚三日目の 夜に餅を食べる習俗。 おとな 角せさせたまふもたどたどしく、かつは大人になりておきてたまふも、人の見る毛世事に疎い大君は、女房に言 われてはじめてこの習俗を知る。 ニ九 らむこと憚られて、面うち赤めておはするさま、いとをかしげなり。このかみ = 〈年配者ぶって。末婚の身でこ れを指図するのに気がひける。 な一けな著」け ニ九妹をいたわる姉心からか。 心にや、のどかに気高きものから、人のためあはれに情々しくそおはしける。 三 0 三 0 奉公に励んでも。大君が自分 おも みやづかへらう に応じてくれぬ恨みをこめて言う。 中納一言殿より、「昨夜、参らむと思たまへしかど、宮仕の労もしるしなげな みな 一九 けだか よべ おもて

4. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

201 総角 きのふ り。昨日のたまひしことを思し出でて、姫宮をつらしと思ひきこえたまふ。明結婚を勧めたこと。↓一九二ハー 一九薫の侵入は姉の計略と思うと、 けにける光につきてぞ、壁の中のきりぎりす這ひ出でたまへる。思すらむこと常はやさしく親しい姉が恨めしい ニ 0 今のこおろぎ。壁と屏風の間 のいといとほしければ、かたみにものも言はれたまはず。ゆかしげなく、心憂に身をひそめていた大君の比喩。 しゅしゆっ 「季夏蟋蟀壁ニ居ル」 ( 礼記・月令 ) 。 のち そうへん くもあるかな。今より後も心ゆるいすべくもあらぬ世にこそと思ひ乱れたまへ「叢辺ニ怨ミ遠クシテ風ノ聞キ暗 かす シ壁ノ底ニ吟幽カニシテ月ノ色 寒シ」 ( 和漢朗詠集・上・虫源順 ) 。 一 = 大君もまた。 弁はあなたに参りて、あさましかりける御心強さを聞きあらはして、いとあ一三大君の心中。姉妹ともに薫か ら顔をあらわに見られ、奥ゆかし 、いとほしく思ひほれゐたり。薫「来し方のつげもなく、情けないことだ、の意。 まり深く、人憎かりけることと ニ三女房たちへの警戒心を強める。 らさはなほ残りある、い地して、よろづに思ひ慰めつるを、今宵なむまことに恥ニ四薫のいる部屋。西廂。 ニ七 一宝今までの恨めしさには、まだ す づかしく、身も投げつべき心地する。棄てがたく落しおきたてまつりたまへり望みが残っている気がして。 兵「頼めくる君しつらくは四方 けん、い苦しさを思ひきこゆる方こそ、また、ひたぶるに、身をもえ思ひ棄つまの海に身も投げつべき心地こそす れ」 ( 馬内侍集 ) 。 じけれ。かけかけしき筋は、 : っ方にも思ひきこえじ。 , つきもつらきも、かた毛亡き父宮が姫君たちを残して いかれた気持のおいたわしさを思 ニ九 ; たに忘られたまふまじくなん。宮などの恥づかしげなく聞こえたまふめるを、うと、わが身も捨てられぬ意。自 分は遺託を受けたのにと脅迫めく。 夭大君にも中の君にも。 同じくは心高くと思ふ方そことにものしたまふらんと、い得はてつれば、し ニ九匂宮。以下、結婚するなら身 とわりに恥づかしくて、また、参りて人々に見えたてまつらむこともねたくな分高い匂宮を望むのか、のいやみ。 ニ四 ニ六 かた

5. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

97 橋姫 一三母方一族に権勢家がいない。 もあらで、いとをかしく聞こゅ。 一四政道に役立っ学問 おく によう′ ) 父帝にも女御にも、とく後れきこえたまひて、はかばかし一五前の「才など : ・」を受け、まし 〔四〕八の宮の、政争に て権勢獲得の手腕や処世の術法は。 うしろみ おうよう 操られた悲運の半生 き御後見のとりたてたるおはせざりければ、才など深くも一六驚くほど気品高く鷹揚な。 宅権勢を争う世俗と関わらぬ能度。 え習ひたまはず、まいて、世の中に住みつく御心おきてはいかでかは知りたま天母女御の父大臣。 一九宮の無頓着な性格から、由緒 ある名家の豊富な財宝も散逸する。 はむ、高き人と聞こゆる中にも、あさましうあてにおほどかなる、女のやうに ニ 0 移動しにくいので家具類だけ たからものおほぢおとど そうぶん は残る。これとて由緒ある品々。 おはすれば、古き世の御宝物、祖父大臣の御処分、何やかやと尽きすまじかり ニ一親交する人もない。政争に敗 一九へ けれど、行く方もなくはかなく失せはてて、御調度などばかりなん、わざとうれた犠牲者として世間から敬遠。 一三雅楽寮の音楽の師。歌師・舞 るはしくて多かりける。参りとぶらひきこえ、心寄せたてまつる人もなし、つ師・笛師・唐楽師・高麗楽師・百 済師・新羅楽師・伎楽師・腰鼓師。 うたづかさ ニ三「女のやう」と評されるゆえん。 れづれなるままに、雅楽寮の物の師どもなどやうのすぐれたるを召し寄せつつ、 ニ四以下、八の宮の系譜と来歴。 はかなき遊びに心を入れて生ひ出でたまへれば、その方はいとをかしうすぐれニ五朱雀帝の御代。冷泉院が東宮。 ニ六かって弘徽殿大后の暗躍が想 像されたが ( 賢木末 ) 、以下の事 たまへり。 件はここが初見。 おとど れぜいゐんとうぐう 源氏の大殿の御弟、八の宮とそ聞こえしを、冷泉院の春宮におはしましし毛大后方が、東宮 ( 冷泉院 ) を廃 し、処世意識の薄い八の宮を擁立。 ニ七 すぎくゐんおほきさき 時、朱雀院の大后の横さまに思しかまへて、この宮を世の中に立ち継ぎたまふニ ^ 政争。以下はその敗北後。 ニ九八の宮との意思とは無関係に。 三 0 大后方に対立する源氏方。 べく、わが御時、もてかしづきたてまつりたまひける騒ぎに、あいなく、あな ニ四 おとうと 一ニみかど ニ 0 かた ニ九 ざえ 三 0

6. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

源氏物語 256 一先夜来の大君の態度。 なっかしうらうたげなる御もてなしを、ただしばしにても例になして、思ひっ ニ元どおりにして。 ることども語らはばや、と思ひつづけてながめたまふ。光もなくて暮れはてぬ。三薫は結婚したかったことを。 「つる」の完了形に注意。死が目前。 四終日、光もささぬ雪や雲の空。 薫かきくもり日かげも見えぬ奥山に心をくらすころにもあるかな 五「光もなくて : ・」の景に、薫の たた、かくておはするを頼みにみな思ひきこえたり。例の、近き方にゐたま絶望的な心象景をかたどる歌。 ひかげひかげかづら 「日光」「日陰の蔓」 ( 豊明に官人が きちゃう へるに、御几帳などを、風のあらはに吹きなせば、中の宮奥に入りたまふ。見冠にかける蔓 ) の掛詞。 六薫がここに来ているのを。 セ病床近い所。↓二五〇ハー三行。 しと近う寄りて、薫「いかが思 苦しげなる人々も、かかやき隠れぬるほどに、、 ^ 老いた女房たちまで恥ずかし さるる。、い地に思ひ残すことなく、念じきこゆるかひなく、御声をだに聞かずがって隠れる。年がいもなく滑稽。 九薫が几帳を上げて入り込む。 おく なりにたれば、いとこそわびしけれ。後らかしたまはば、いみじうつらから一 0 私が心の限りを尽して、神仏 に祈願する効もなく。 ↓二五〇ハー一〇行。 む」と泣く泣く聞こえたまふ。ものおばえずなりにたるさまなれど、顔はいと = 三私を残して亡くなられたら。 よく隠したまへり。大君「よろしきひまあらば、聞こえまほしきこともはべれ一三病状が悪化し、意識が混濁。 一四衰弱の顔を見られまいとする。 いとあは薫に美しき印象を残して死にたい ど、ただ消え入るやうにのみなりゆくは、口惜しきわざにこそ」と、 という願望。↓二五一ハー四行。 けしき れと思ひたまへる気色なるに、いよいよせきとどめがたくて、ゆゅしう、かく一五薫に真情を告白したい気持。 一六薫は。落涙の表情を見せては、 大君の死を認めるようで不吉。 、い細げに思ふとは見えじとつつみたまへど、声も惜しまれず。 宅薫の心中。どんな前世の因縁 「いかなる契りにて、限りなく思ひきこえながら、つらきこと多くて別れたてで。「別れたてまつる : ・」にかかる。 四

7. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

一以下も、主に大君の感懐。 「さても、あさましうて明け暮らさるるは月日なりけり。 〔三〕姫君たち、山籠り ニ月日の驚くほど迅速な経過を、 四 の寂寥の日々を過す かく頼みがたかりける御世を、昨日今日とは思はで、ただあらためて認識する気持。 三八の宮の寿命。 語 ↓一五〇ハー注四の歌。 物おほかた定めなきはかなさばかりを明け暮れのことに聞き見しかど、我も人も四 氏 五人生の無常を一般論として受 おく けとめ、わが身のこととは思わな 源後れ先だつほどしもやは経むなどうち思ひけるよ。来し方を思ひつづくるも、 かった、の気持。 何の頼もしげなる世にもあらざりけれど、ただいっとなくのどかにながめ過ぐ岶分も父宮も死ぬ時期は同じ と迂闊にも思っていた意。「人」は あら 父宮。↓葵一三一ハー注 = 三の歌。 し、もの恐ろしくつつましきこともなくて経つるものを、風の音も荒らかに、 セ父宮在世中の今までを回顧。 こわ 例見ぬ人影も、うち連れ、声づくれば、まづ胸つぶれて、もの恐ろしくわびし ^ 以下、父宮と死別後の現在。 九ふだん見かけない人が連れ立 って訪れ、案内を請うたりすると、 うおばゆることさへそひにたるが、いみじうたへがたきこと」と、二ところう まずは胸がどきついて。応対に出 ていた父宮が亡くなったと、あら ち語らひつつ、乾す世もなくて過ぐしたまふに、年も暮れにけり。 ためて実感される。 おと あられ しつくもかくこそはある風の音なれど、今はじめて一 0 大君と中の君。 雪、霰降りしくころは、、・ = 涙に濡れがちの日常。 思ひ入りたらむ山住みの心地したまふ。女ばらなど、「あはれ、年はかはりな三世間を捨てて、仏道修行のた めの山住いを始めたような感じ。 んとす。心細く悲しきことを。あらたまるべき春待ち出でてしがな」と、心を一三女房たち。 一四これまでの不幸続きを払拭し、 かた 消たず言ふもあり。難きことかなと聞きたまふ。向ひの山にも、時々の御念仏新しい希望のもてる春を。↓末摘 花四二ハー注九の歌。 あぎり しかがと、おほかた一五悲しみにめげず。実生活面で に籠りたまひしゅゑこそ、人も参り通ひしか、阿闍梨も、 ふた

8. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

ニおほいどの く人を見たまふにつけても、さるは御心に離るるをりなし。左の大殿のわたり一宮は、一方では他の女とかり 8 そめに情を交しつつも、中の君へ 四うしろみ のこと、大宮も、「なほさるのどやかなる御後見をまうけたまひて、そのほかの執心を捨てない。 一一タ霧の六の君と匂宮の縁談。 語 三明石の中宮。↓一一三八ハー末行。 物に尋ねまほしく思さるる人あらば参らせて、重々しくもてなしたまへ」と聞こ 氏 四この「後見」は正妻の意。その 源えたまへど、匂宮「しばし。さ思うたまふるやうなむ」など聞こえいなびたま実家から後援もされ、将来をまか せられるような北の方をさす。 めしうど ひて、まことにつらき目はいかでか見せむなど思す御心を知りたまはねば、月五召人として。↓一三八ハー注九。 六東宮候補ゆえ慎重に、の気持。 七考えている子細があるので。 日にそへてものをのみ思す。 ^ 中の宮を召人扱いして恨めし い思いはさせられない、の意。 中納言も、見しほどよりは軽びたる御心かな、さりともと 〔三ニ〕薫、重態の大君を 九宇治の姫君たちは。 看護大君薫を拒まず 思ひきこえけるもいとほしく心からおばえつつ、をさをさ 0 匂宮は、大君にとってはわが運 命を痛恨させる存在だが、中の君 には恋しさをつのらせる夫である。 参りたまはず。山里には、、ゝにいかにととぶらひきこえたまふ。この月とな ここでも宮の都でのありようが、 おほやけわたくし りては、すこしよろしくおはすと聞きたまひけるに、公私もの騒がしきころ零落の姫君たちの存在を貴族社会 全体のなかに相対化させる。 冫し力ならむとうちおどろかれたまひて、わ一 0 匂宮は思ったより不実なお方。 にて、五六日人も奉れたまはぬこ、、ゝ = 前にも「・ : さりともとうしろ す やすかりけり」 ( 二二五ハー一行 ) 。 りなきことのしげさをうち棄てて参でたまふ。 宮の態度を楽観していた自分の不 ずほふ 修法は、おこたりはてたまふまでとのたまひおきけるを、よろしくなりにけ明を反省し、後悔するほかない。 三薫の匂宮への腹立たしい気持。 あぎり おいびと りとて、阿闍梨をも帰したまひければ、いと人少なにて、例の、老人出で来て一三十一月になってからは。 まう かろ

9. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

のち一 も亡せたまひて後、かの殿には疎くなり、この宮には尋ね取りてあらせたまふ一柏木の住んだ致仕の大臣邸。 ニ八の宮家で引き取って。 みやづかへな なりけり。人もいとやむごとなからず、宮仕馴れにたれど、心地なからぬもの三人柄も格別というわけでなく。 八の宮の北の方の従姉妹という血 語 五うしろみ 物に宮も思して、姫君たちの御後見だつ人になしたまへるなりけり。昔の御事は、筋のよさが消え失せたような感じ。 氏 四情理をわきまえぬでもない者。 源年ごろかく朝夕に見たてまつり馴れ、心隔つる隈なく思ひきこゆる君たちにも、 = 前にも「姫君の御後見にて」 ( 橋姫一二五ハー ) 。乳母めいた役目。 ひとこと ふるびと 一言うち出できこゆるついでなく、忍びこめたりけれど、中納言の君は、古人六柏木の一件を。以下、「忍び こめたりけれど」まで、弁の態度。 の問はず語り、みな、例のことなれば、おしなべてあはあはしうなどは言ひひセ八の宮の姫君たちにも。 ^ 以下、薫の推測。老人は問わ ろげずとも、 いと恥づかしげなめる御心どもには聞きおきたまへらむかしと推ず語りをしがちだから、姫君たち も真相を知っていよう、とする。 しはからるるが、ねたくもいとほしくもおばゆるにそ、またもて離れてはやま九誰彼にの区別なく軽々しく言 いふらしたりしないにしても。 一 0 いかにも気のおける姫君たち。 じと思ひょらるるつまにもなりぬべき。 = いまわしいとも、困ったとも。 今は旅寝もすずろなる心地して、帰りたまふにも、「これや限りの」などの三姫君たちを他人で終らせては ならぬと考える因由にもなりそう だ。語り手の評。自分の出生の秘 たまひしを、などか、さしもやはとうち頼みて、また見たてまつらずなりにけ 事を封じ込めるとして、姫君接近 む、秋やは変れる、あまたの日数も隔てぬほどに、おはしにけむ方も知らす、を合理化することにもなる。 一三八の宮死後の今は。「旅寝」は と事そぎたま自邸以外での宿泊。姫君らだけの あへなきわざなりや。ことに例の人めいたる御しつらひなく、い 邸に泊るのを穏やかならぬとする。 ふめりしかど、いとものきょげにかき払ひ、あたりをかしくもてないたまへり一四八の宮の、最後の対面の言葉 お

10. 完訳日本の古典 第21巻 源氏物語(八)

と、 いとなっかしきさまして語らひきこえたまへば、やうやう恐ろしさも慰み一四薫の「同じ心にもて遊び : ・」に 応じた。上の「物隔てて」と照応。 て、大君「かういとはしたなからで、物隔ててなど聞こえば、まことに心の隔一五↓行幸 3 九七ハー注 = 0 の歌。 一六宇治山の阿闍梨の住む寺の鐘 じんじよろ・ か。晨朝 ( 午前四時ごろ ) の鐘。 てはさらにあるまじくなむ」と答へたまふ。 宅せめて今のうちに。周囲には おと よぶかあした 明かくなりゆき、むら鳥の立ちさまよふ羽風近く聞こゅ。夜深き朝の鐘の音ばかって、薫の帰りをせき立てる。 一 ^ わけあり顔に。朝露を分けて いとわりなく恥づかしげ女のもとから帰るのは、後朝の男 かすかに響く。大君「今だに。い と見苦しきを」と、 の典型的な姿。大君のつれなさを に思したり。薫「事あり顔に朝露もえ分けはべるまじ。また、人はいかが推し恨む気持もこもる。 ニ 0 一九どうせ人は、結婚した仲と思 れい はかりきこゅべき。例のやうになだらかにもてなさせたまひて、ただ世に違ひうから、早く退出してはかえって 不都合でもあったかと疑うだろう。 のち たることにて、今より後も、ただ、かやうにしなさせたまひてよ。ょにうしろニ 0 表面は普通の夫婦のように。 ニ一実事のない親交をさす。 めたき心はあらじと思せ。かばかりあながちなる心のほども、あはれと思し知一三一途に思いつめる私の心を。 ニ三見苦しいことだろうと。 けしき ゝこよ一西今後は、あなたの気持がよく らぬこそかひなけれ」とて、出でたまはむの気色もなし。あさましく、カオ。 分っているので。以下は、その場 ニ四 のち 角ならむとて、大君「今より後は、さればこそ、もてなしたまはむままにあらむ。しのぎの言葉。薫の一刻も早い退 出をと願う。 一宝以下、後朝の別れを惜しむ趣 今朝は、また、聞こゆるに従ひたまへかし」とて、いと術なしと思したれば、 総 薫の、やや演技的な言葉。 ニ六 薫「あな苦しゃ。暁の別れや、まだ知らぬことにて、げにまどひぬべきを」と = 六「まだ知らぬ暁起きの別れに は道さへまどふものにぞありけ 嘆きがちなり。鶏も、いづ方にかあらむ、ほのかに音なふに、京思ひ出でらる。る」 ( 花鳥余情 ) 。 ニ五 ・ヤはレ」め・ すべ ニ三