源氏物語 384 修理大夫 藤 ~ 亞女御 ( 故左大臣殿の女御、藤壺、女御、御母女御 ) 宿木 △朱雀院 △源氏 ( 故院、故六条院 ) △致仕の大臣 女 △左大臣 女 明石の君 明石の中宮 ( 今上帝 ( 帝、上、内裏 ) 常陸の宮 更衣 落葉の宮 ( 継母の宮 ) 姫宮、母宮、宮一 女三の宮の御方、宮、尼 宮、入道の宮一 △柏 , 不 ( 故権納 ) 按察大納言言、 左衛門督 一呂 ) 女一の宮 匂宮 ( 中務の親王 兵部卿宮、宮、 男宮、三の宮 源中納言、中納言、中納言源 朝臣、中納言の朝臣、中納言 董の君、中納言殿、君、男君、大 将殿、大将、大将の君、殿 女二の宮 ( むめ、藤壺の
とのたまはす。 一薫の、万事気長に構える性癖 ニいや、女二の宮は、自分の望 かやうに、をりをりほのめかさせたまふ御気色を人づてならず、うけたまはむところでない。以下、薫の心中。 語 三こちらが放置しては気の毒に 物りながら、例の心の癖なれば、急がしくしもおばえず。「いでや、本意にもあなる女たち。大君からは中の君を、 タ霧からは六の君を勧められたが、 源 らず。さまざまにいとほしき人々の御事どもをも、よく聞き過ぐしつつ年経ぬうまく身をかわしてきた。ただし、 六の君の縁談をことわったのは、 ひじり るを、今さらに聖よのものの、世に還り出でん心地すべきこと」と思ふも、か年立上、翌年の春。↓早蕨二七ハ ' 四薫の現世離脱の理想から、結 きャきばら げんぞく つはあやしや、ことさらに心を尽くす人だにこそあなれとは思ひながら、后腹婚は修行僧の還俗と同じだとする。 諸本、「聖の」など異文が多い うち におはせばしもとおばゆる心の中そ、あまりおほけなかりける。 五我ながら合点がゆかない性分。 六世間には、女二の宮に対して。 かかることを、右大殿はの聞きたまひて、「六の君はさりセ薫の憧れは中宮腹の女一の宮。 〔四〕タ霧、六の君の婿 ^ 「かつは・ : ーと照応する語り手 に匂宮をと切望する ともこの君にこそは。しぶしぶなりとも、まめやかに恨みの評言。道心を求める薫は、一方 で、中宮腹の皇女を得て栄耀の人 いな 寄らばつひには、え否びはてじ」と思しつるを、思ひの外のこと出で来ぬべか生をと念願。彼の現世執着のした たかさに注意させる評言でもある。 ひやうぶきゃうのみや なりとねたく思されければ、兵部卿宮、はた、わざとにはあらねど、をりをり九タ霧。 一 0 ↓早蕨二七ハー。「この君は薫。 = 薫と女二の宮の縁談。 につけつつをかしきさまに聞こえたまふことなど絶えざりければ、「さばれ、 一ニ匂宮。彼の懸想文が時折ある。 なはざりのすきにはありとも、さるべきにて御心とまるやうもなどかなからん。一三宿世として、縁談を合理化。 一四「などてかくあふごかたみに きはくだ 水漏るまじく思ひ定めんとても、なほなほしき際に下らん、はた、いと人わろなりにけむ水漏らさじと結びしも ( 現代語訳一一三一 けしき
33 宿木 すくせ 一漠然とした過去を設定。新し い話題を語り起そうとする常套句。 ニ今上帝の東宮時代に入内した 女御。当時の左大臣の三の君。入 れいけいでん 内当時は麗景殿と呼ばれた ( 梅枝 3 一九二ハー ) が、藤壺に移った。 によう′一 ふぢつば そのころ、藤壺と聞こゆるは、故左大臣殿の女御になむお三「おはしける」まで挿入句。父 〔こ藤壺女御、女ニの じんすい 左大臣がいっ薨去したかは不明。 とうぐう 宮の養育に尽瘁する 四立后などの抜擢もなかった。 はしける、まだ春宮と聞こえさせし時、人よりさきに参り 五明石の中宮。立后はもちろん、 かた たまひにしかば、睦ましくあはれなる方の御思ひはことにものしたまふめれど、大勢の御子にまで恵まれたこと。 六藤壺女御は、御子も少なく。 そのしるしと見ゆるふしもなくて年経たまふに、中宮には、宮たちさへあまたセ後出の女二の宮。 〈「人」は明石の中宮。女御の地 ひと あきら ここらおとなびたまふめるに、さやうのことも少なくて、ただ女宮一ところを位で終るのを「宿世」と諦める気持。 九わが不運を代償に、せめて女 くちを ^ お ぞ持ちたてまつりたまへりける。わがいと口惜しく人に圧されたてまつりぬる二の宮の将来の幸運をと期待。 一 0 女二の宮をかわいいと。 宿世嘆かしくおばゆるかはりに、この宮をだにいかで行く末の心も慰むばかり = 明石の中宮腹の女一の宮を。 彼女は薫の憧憬する皇女でもある。 かたち ↓総角二一九ハー一 ~ 二行など。 にて見たてまつらむと、かしづききこえたまふことおろかならず。御容貌もい 一ニ女二の宮は、世間の評判こそ みかど一 0 とをかしくおはすれば、帝もらうたきものに思ひきこえさせたまへり。女一の女一の宮に及ぶべくもないが。女 二の宮が、実質的には女一の宮と 宮を、世にたぐひなきものにかしづききこえさせたまふに、おほかたの世のお匹敵すべく同格である点に注意。 一三内々のお暮しぶり。 うちうち 一四おとど ばえこそ及ぶべうもあらね、内々の御ありさまはをさをさ劣らず、父大臣の御一四藤壺女御の父。故左大臣。 四 やどり木 むつ へ セ
つまゐりたまふ。故六条院の御手づから書きたまひて、入道の宮に奉らせたま一源氏が女三の宮に琴譜二巻を 与えた事実は初見。『花鳥余情』は、 きんふ ごえふ おとど ひし琴の譜二巻、五葉の枝につけたるを、大臣取りたまひて奏したまふ。次々右大臣藤原師輔が、先帝醍醐から 語 さう 勤子内親王 ( 師輔の北の方 ) に賜っ ことびはわごん すぎくゐん た箏譜三巻を、天暦三年、時の村 物に、箏の御琴、琵琶、和琴など、朱雀院の物どもなりけり。笛は、かの夢に伝 氏 上帝に献上した事跡 ( 師輔の娘安 源へし、いにしへの形見のを、またなきものの音なりとめでさせたまひければ、 子は村上帝女御 ) を准拠とみる。 ニタ霧が間にいて、帝に渡す。 六 このをりのきよらより、またま、、 。しつかははえばえしきついでのあらむと思し三朱雀院から女三の宮に伝わっ ていたもの。↓若菜上圈一二ハー。 おとど て、取う出たまへるなめり。大臣和琴、三の宮琵琶など、とりどりに賜ふ。大四落葉の宮から柏木遺愛の笛を 譲り受けたタ霧が、夢のなかで、 将の御笛は、今日ぞ世になき音の限りは吹きたてたまひける。殿上人の中にも、その笛を自分の子孫に伝えてほし いと聞いた。↓横笛〔六〕。 しゃうが 五かって今上帝がこの笛を賞賛。 唱歌につきなからぬどもは召し出でて、おもしろく遊ぶ。 六薫は今宵を人生最良と思う。 ふずく ぢんをしき したんたかっき 一むら 宮の御方より、粉熟まゐらせたまへり。沈の折敷四つ、紫檀の高坏、藤の村セタ霧が和琴、匂宮が琵琶。 ^ 二行前「このをりの : こに照応。 うちしきをりえだ るり しろかねゃうき こんるり 濃の打敷に折枝縫ひたり。銀の様器、瑠璃の御盃、瓶子は紺瑠璃なり。兵衛九譜を口で謡うこと。 一 0 女二の宮。「粉熟」↓一一三ハー おとど 督、御まかなひ仕うまつりたまふ。御盃まゐりたまふに、大臣しきりては便な注 = 〈。 = 「村濃」は同じ色で濃い所と薄 い所のある染色。ここは、紫色の かるべし、宮たちの御中に、はた、さるべきもおはせねば、大将に譲りきこえ それ。「打敷」は器物の下の敷物。 はばか たまふを、憚り申したまへど、御気色もいかがありけん、御盃ささげて「を三藤の折枝の意匠の刺繍。 一三酒を入れて、注ぐための器。 こわ 一九おほやけごと ↓一一九ハー注三 0 。 し」とのたまへる声づかひもてなしさへ、例の公事なれど、人に似ず見ゆるも、一四 と で 一七けしき さかづきへいじ びん
( 現代語訳二八七ハー ) レに、いとかく幼きほどを見せたまへるもあはれなれば、例よりは物語など今・春上読人しらす ) 。 一九夏になると、宮中の女二の宮 よ かたふたが のもとから三条宮への方角が方塞 こまやかに聞こえたまふほどに、暮れぬれば、心やすく夜をだに更かすまじき りになるとの判断 ニ 0 「節分」は季節の改る日。ここ を苦しうおばゆれば、嘆く嘆く出でたまひぬ。女房「をかしの人の御匂ひや。 は立夏。方塞りになる夏以前に、 うぐひす 折りつれば、とかや言ふやうに、鶯も尋ね来ぬべかめり」など、わづらはしが女二の宮を = 一条宮に移そうとする。 ニ一女宮が三条宮に移る前日。 る若き人もあり。 一三女二の宮は藤壺に住まう。 ニ三村上天皇の天暦三年 ( 九四九 ) 四 夏にならば、三条宮ふたがる方になりぬべしと定めて、四月十二日の藤花の宴に准拠 ( 花鳥 〔四六〕藤壺の藤花の宴 ニ 0 余情 ) 。『西宮記』の記事が詳しい せちぶん さき 薫の晴れ姿羨望される 月の朔日ごろ、節分とかいふことまだしき前に渡したてまニ四帝のすわる、いわゆる玉座。 この宴は、帝の主催による。 あす ふぢつばうへ つりたまふ。明日とての日、藤壺に上渡らせたまひて、藤の花の宴せさせたま一宝藤壺に住まう女二の宮。 ニ五 一宍中務省に属す。宝物など管理。 ひさしみす おほやけわぎ あるじ ふ。南の廂の御簾あげて、倚子立てたり。公事にて、主の宮の仕うまつりたま毛タ霧。 ニ六 ニ七 ニ ^ 紅梅大納言。故柏木の弟 きゃう くらづかさ みぎのおとどあぜ ふにはあらず、上達部、殿上人の饗など内蔵寮より仕うまつれり。右大臣、按 = 九鬚黒とその先妻との間の長男。 ニ九 三 0 藤中納言の弟で三男。玉鬘腹 とう ひたち 木察大納言、藤中納言、左兵衛督、親王たちは三の宮、常陸の宮などさぶらひた三一匂宮。 三三 三ニ今上帝の四の宮。↓匂宮 こうらうでんひむがしがくそ まふ。南の庭の藤の花のもとに、殿上人の座はしたり。後凉殿の東に、楽所の二四一 , 注セ。 三四 宿 三三藤壺の南。位置として不審。 一うでう うへ 三五 人々召して、暮れゆくほどに、双調に吹きて。上の御遊びに、宮の御方より御 = 西↓胡蝶団一二六ハー注一。 三六 三五女二の宮方。 こと おとど おまへ 三六右大臣タ霧。 琴ども、笛など出ださせたまへば、大臣をはじめたてまつりて、御前にとりつ ちの 一九 三 0 ついたち し かた 三ニ
一ニ山里。「ふところの中は、 る人も故宮も思し嘆きしを、こよなき御宿世のほどなりければ、さる山ふとこ 「生ひ出で」とひびきあう語。 ろの中にも、生ひ出でさせたまひしにこそありけれ。口惜しく、故姫君のおは一三匂宮と六の君との結婚など。 一四若君誕生の喜びなどをさす。 しまさずなりにたるこそ飽かぬことなれ」など、うち泣きつつ聞こゅ。君もう一五両親との死別はかえって世間 あ、ら・ によくあることとして諦める。 ち泣きたまひて、中の君「世の中の恨めしく心細きをりをりも、また、かくなが一六特に母君については、顔も知 らなかったので。 らふれば、すこしも思ひ慰めつべきをりもあるを、いにしへ頼みきこえける蔭宅この「ある」は代用語。それな りにすんだが、ぐらいの意。 おく 天大君の死は諦めがたいとする。 どもに後れたてまつりけるは、なかなかに世の常に思ひなされて、見たてまっ 一九薫は、何事にも心が移らない り知らずなりにければ、あるを、なほこの御事は尽きせずいみじくこそ。大将と嘆いては。薫は、女二の宮降嫁 にも、い慰められぬと、中の君にも うれ 宿木一一七ハー六行。 の、よろづのことに心の移らぬよしを愁へつつ、浅からぬ御心のさまを見るに訴えていた。↓ ニ 0 大君への、深く変らぬ追慕。 つけても、 いとこそ口惜しけれ」とのたまへば、中将の君「大将殿は、さばかり一 = 女二の宮降嫁をさす。 一三得意でおられよう。 ためし 世に例なきまで帝のかしづき思したなるに、、いおごりしたまふらむかし。おはニ三大君が存命なら、やはり降嫁 の件は堰かれただろうか、の意。 「このこと」を降嫁の一件と解した。 屋しまさましかば、なほこのことせかれしもしたまはざらましゃーなど聞こゅ。 一西姉妹がともに世間から笑われ 中の君「いさや。ゃうのものと、人笑はれなる心地せましも、なかなかにゃあらるようにつらい思いをするなら、 東 かえって情けない。匂宮が六の君 を、薫が女二の宮を迎えるのだか まし。見はてぬにつけて、、いにくくもある世にこそはと思へど、かの君は、、 LO ら、ともに苦悩したろうとする。 のち かなるにかあらむ、あやしきまでもの忘れせず、故宮の御後の世をさへ思ひやニ五八の宮の追善供養。 ニ四 一セ 一九
勢ひいかめしかりしなごりいたく衰へねば、ことに、いもとなきことなどなくて、一女房の服装などにも、主家の 嗜好や勢力が反映するとの考え方。 ニ椎本巻後半、薫二十四歳の春 さぶらふ人々のなり、姿よりはじめ、たゆみなく、時々につけつつ、ととのヘ 語 このあたりの記述は前に見えない。 三女子の成人式。結婚を前提に 物好み、いまめかしくゆゑゅゑしきさまにもてなしたまへり。 行うのが普通。母女御は将来を期 源 待するだけにその準備に専心する。 十四になりたまふ年、御裳着せたてまつりたまはんとて、 〔ニ〕藤壺女御の死去 四父左大臣家に。↓一行。 こと ) 一と 女ニの宮の不安な将来 春よりうちはじめて、他事なく思しいそぎて、何ごともな五春には想像できない早世。女 二の宮を孤立させる物語的設定。 べてならぬさまにと思しま , つくし冫 。、こしへより伝はりたりける宝物ども、この六今上帝。 七母女御の性格。情け深くやさ しい。殿上人など第三者の哀惜に をりにこそはと探し出でつつ、いみじく営みたまふに、女御、夏ごろ、物の怪 も、中宮に次ぐ位置が想像される。 にわづらひたまひて、いとはかなく亡せたまひぬ。言ふかひなく口惜しきこと〈女御を直接知らぬ女官までも。 「女官」は「にようくわん」下級女房。 七 な一けなさけ を内裏にも思し嘆く。心ばへ情々しく、なっかしきところおはしつる御方なれ九女二の宮。 一 0 以下、今上帝。 てんじゃうびと よ、殿上人どもも、「こよなくさうざうしかるべきわざかな」と惜しみきこゅ。 = 女宮を帝のもとに。「忍びて」 は、母の喪に一年間服す身ゆえ。 きは ^ 三母女御の実家から参内した女 おほかたさるまじき際の女官などまで、しのびきこえぬはなし。 二の宮は、母の居所藤壺にいる。 九 しようあい 彼女を鍾愛する帝は「日々に」対面。 宮は、まして、若き御心地に心細く悲しく思し入りたるを、聞こしめして、 一三喪服姿がかえって美しい趣。 心苦しくあはれに思しめさるれば、御四十九日過ぐるままに忍びて参らせたて母の死ゆえの重忌は色濃い喪服。 一四「あてーは皇女らしい気品。 まつらせたまへり。日々に渡らせたまひつつ見たてまつらせたまふ。黒き御衣一五母まさりの美質は皇女ゆえか。 たからもの ものけ
祝儀の品々なども、仰々しくはなさらないものの、身分身ても、あのお方は、取りつく島もない、 もってのほかとい 分に応じて不都合のないよう細かくお心づかいをなさって ったような扱い方でもって、この自分にきまりのわるい思 は、ほんとにたくさんお贈りになる。「何かの折にふれて、 いをおさせになることもなかったものを、もつばらわたし 語 物昔をお忘れにならないご親切は世間にもめったにないこと 自身の心柄ゆえに、変によそよそしく他人のまま終ってし 氏 で、ご兄弟などといっても、とてもこれほどまでにはおで まったものよ」と、胸も痛むばかりにお思い続けになる。 源 すきみ ふすま きにならぬものです」などと、女房たちは中の宮にお聞か いっそや隙見をした襖の穴のことも思い出さずにはいられ せ申している。地道にひっそりと仕えている老女房たちの ないので、近寄ってのそいてごらんになるけれども、部屋 、いには、こうした中納言のご配慮が身にしみてありがたく、の中に御簾などを下ろして閉めきってあるものだから、ま その気持を申しあげている。若い女房たちは、ときおりな ったく何も見えはしない。 がらもお越しになる中納言の君にいつもお近づき申してき お部屋の内でも女房たちが亡き姫宮をおしのび申しては、 たので、いよいよ中の宮が京へお移りになるのを寂しく思 みな涙ぐんでいる。中の宮は、なおさらのこと、とめどな 「中納一一一一口殿がどんなにか恋しくお思いあそばすことで く流れるお涙に、明日のお移りのこともどこへやら、いか しよう」と一同お噂申している。 にも気の抜けたような御面持でばんやりと横になっていら 中納一一 = ロご自身は、中の宮の京へお移りになるのが明日と っしやるところへ、中納言が、「この月ごろのご無沙汰い いう日の早朝、宇治にお越しになった。いつものように客たしております間のことも、何がどうというのでもござい 間のほうにおはいりになるにつけても、「もしも姫宮がご ませんけれど、胸にたまっているように思わないではいら 存命であったら、今ごろはだんだん親しくなって、この自れませんので、せめてその片端なりとお話し申しあげて、 分こそ宮より先に、このように京へ迎えようというつもり気持を晴しとうございます。いつものように、きまりわる になっていただろうに」などと、ありし日の御面影や、そ く他人扱いにはなさらないでください。いよいよ知らぬ他 の仰せられたお気持のほどを思い起しては、「なんといっ 国にやってまいった心地がいたします」とお申しあげにな うわさ おももち
ニ一口 互いお話を途中でお聞きさしにはなれないが、どこまでも ほかにどなたもおりませんものですから、何も特別な意味 尽きぬ御物語をお気のすむまでお続けにならないうちに、 ではなしにすべて私が面倒をみてあげなければならない人 夜もひどく更けてしまった。宮が、この世にまたと例のあ だと思っておりますが、もしかしてあなた様は、それを不 物りそうもないくらい親しかった中納言と姫宮との間柄を、 都合なこととお思いになりましようか」と言って、あの亡 氏 「さて、いくらなんでも、それだけのご関係ではなかった き姫宮が、中の宮を自分と同様に考えてほしい、 とお譲り 源 のでしよう」と、 いかにもまだ何か隠しだてをなさってで になった意向をも、少しは宮のお耳にお入れになるけれど せんさく よぶこどり ひとづて もいるかのように詮索なさるのは、、 こ自分の日ごろのけし も、あの「いはせの森の呼子鳥」めいて人伝でなく直接に からぬお心からそうご推測になるのであろう。そうはいっ 中の宮と語らった一夜のことは、さすがにお口には出され ても、宮は何事もよくわきまえていらっしやって、悲しみ ないのだった。ただ心の中では、「これほどまでもあきら にとざされた中納言の胸のうちも晴れるばかりに、一方で めきれないあの方の形見としてでも、 いかにもあのお言葉 は慰め、また一方ではその悲しみをときほぐし、さまざま どおりこのお方を譲り受けて、宮がなさるのと同様にこの お相手をなさる、その御もてなしの好ましさに乗せられ申自分がお世話申しあげればよかったものを」と、くやしい して、いかにも中納言は胸ひとつにあまるまでわだかまっ 思いがしだいにつのっていくけれども、今となってはどう ていた思いの数々を、少しずつお話し出し申されたものだ にも仕方がないので、「いつもこうしたことばかり思って りようけん から、これですっかり心の晴れるお気持になられる。 いたら、しまいにはとんでもない了簡を起すことになるか 宮も、あの中の宮を近々京にお移し申そうとする準備に もしれない。そんなことになっては誰のためにもおもしろ ついてあれこれご相談申しあげられるので、中納言は、 くなく愚かしいことになろう」と、中の宮のことは思いあ 「まったくうれしいことでございます。ただ今のようでは、 きらめる。しかし、それにしても、京へお移りになるにつ 不本意ながらこの私自身の過ちと思わすにはいられません。 けても親身になってお世話申しあげる人は、この自分のほ あきらめきれない昔のお方の形見としては、あの妹君より かに誰がいるというのだろう、とお思いになるので、お引
薫まだなりあはぬ仏の御飾りなど見たまへおきて、今日よろしき日なりけれ一完成しきらぬ仏殿の飾りなど。 宇治行きの理由をかこつける。実 ものいみ はすでに完成。↓一八九ハー九行。 ば、急ぎものしはべりて、乱り心地のなやましきに、物忌なりけるを思ひた 語 この物忌も宇治滞在の口実。 あす 物まへ出でてなん、今日明日ここにてつつしみはべるべき。 三正室女二の宮。 氏 四薫が浮舟の部屋に 源など、母宮にも姫宮にも聞こえたまふ。 五浮舟の装束。配色もきれいに と考慮して仕立て、着重ねている。 うちとけたる御ありさま、いますこしをかしくて入りおは六亡き大君の、身になじんだ着 〔四三〕薫、今後の浮舟の 衣を召された姿。浮舟と対比。 あっかいを思案する セ浮舟の髪の裾の、扇のように したるも恥づかしけれど、もて隠すべくもあらでゐたまへ 拡がるさま。大君は、「髪さはら 一うぞく ゐなか かなるほどに : ・末すこし細りて」 り。女の御装束など、色々によくと思ひてし重ねたれど、すこし田舎びたるこ ( 椎本 3 一七二ハー三行 ) 。 ともうちまじりてそ、昔のいと萎えばみたりし御姿のあてになまめかしかりし〈女二の宮の髪の美しさ。 九以下、浮舟の処遇を思う。 かみすそ のみ思ひ出でられて。髪の裾のをかしげさなどは、こまごまとあてなり、宮の一 0 薫の自邸、三条宮。そこに迎 えれば、対の御方ぐらいの地位か。 御髪のいみじくめでたきにも劣るまじかりけり、と見たまふ。かつは、「この = 今上帝の皇女を正室に、権大 納言兼右大将の地位にある薫には、 人をいかにもてなしてあらせむとすらん。ただ今、ものものしげにてかの宮に浮舟ごときは妻にしかねる。 一ニ大勢いる女房と同列に、、、 す おとぎびん 迎へ据ゑんも音聞き便なかるべし。さりとて、これかれある列にて、おほぞう かげんに扱うのでは。召人の待遇。 一三具体的な処遇を決めるまでは。 にまじらはせんは本意なからむ。しばし、ここに隠してあらん」と思ふも、見一四遠い宇治には頻繁に通えない ことが、今から想像される。 ずはさうざうしかるべくあはれにおばえたまへば、おろかならず語らひ暮らし一五亡き八の宮。 みぐし 五 つら