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検索対象: 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)
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1. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

203 東屋 ニ 0 だもの急ぎにぞ見えける。 弁の尼やどり木は色かはりぬる秋なれどむかしおばえて澄める月かな 一八 と古めかしく書きたるを、恥づかしくもあはれにも思されて、 薫里の名もむかしながらに見し人のおもがはりせるねやの月かげ わざと返り事とはなくてのたまふ、侍従なむ伝へけるとそ。 一九 じト・ろ・おう 行 ) による。第二句は、楚の襄王 らんだい が蘭台のほとりで夜琴を弾じた ( 文選・風賦 ) のによる。 一一武を事とする常陸介の家庭に 育った者には、詩句の意味は分ら ぬが、朗詠の美声にだけは感動 三右の詩句の第一句。「白き扇 をまさぐりつつ」の浮舟は、班姥 妤の不幸にわが身を重ね思っても よいのに、詩句の意を解せず、そ んな不吉な感慨など抱かない。 一三語り手の評。 一四事もあろうに、不吉な詩句を 口にしたものだ。薫自身の反省。 一五老人らしい筆太の文字。 一六くだものを早くほしがってい る様子に。語り手の、戯れの言辞。 宅宿木一〇五ハーの薫・弁の贈答 歌をふまえた歌。上句は浮舟が大 君に替ったことをいう。「澄める 「住める」の掛詞。「月」は薫。 天浮舟、大君を思う複雑な感情。 一九宇治の名のように世を憂しと 嘆く私は昔のままなのに、昔の人 は面変りしたと、宿世の恋を嘆く。 ニ 0 独詠のように詠んだ歌。 ニ一侍従が語り手に組み込まれる。

2. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

源氏物語 78 仲らひなめれば、さるやうこそはあらめと思ふに、かたはらいたければ、知ら一何か子細があるのだろうと。 四 ニ女房たちが遠慮して退座。 おとこ しぞ れんびん 三語り手の、中の君への憐憫 す顔にてやをら退きぬるそ、いとほしきや。男君は、いにしへを悔ゆる心の忍 四薫。男女関係の強調の呼称。 六 びがたさなどもいとしづめがたかりぬべかめれど、昔だにありがたかりし御心五悔恨の繰り返される点に注意。 以下、薫は接近しながらも自制 の用意なれば、なほいと思ひのままにももてなしきこえたまはざりけり。かや六昔のあの一夜でさえ、中の君 と何事もなかったほど人とは異な うの筋は、こまかにも、えなんまねびつづけざりける。かひなきものから、人り慎重な人柄なので、まして今は。 セ以下、語り手の省筆の弁。 「まねぶ」はそのまま語り伝える意。 目のあいなきを思へば、よろづに思ひ返して出でたまひぬ。 〈帰るのは不本意だが。薫は人 まだ宵と思ひつれど、暁近うなりにけるを、見咎むる人も目につく不都合さを思い、自制 三巴薫、中の君への恋 九前に「やうやう暗く」 ( 七五ハー ) 。 情に苦悩する ゃあらんとわづらはしきも、女の御ためのいとほしきぞか一 0 男女の逢瀬かと気づく人も。 = 語り手が、中の君をかばう薫 を代弁し、薫の心中叙述に続ける。 し。「なやましげに聞きわたる御、い地はことわりなりけり。、 しと恥づか 1 しと田 5 三中の君の体調が不例と聞いて いたが、その原因にはじめて気づ したりつる腰のしるしに、多くは心苦しくおばえてやみぬるかな。例のをこが く。「けり」に注意。次文に詳述。 なさけ 一三妊婦の腹帯。衣の上に巻くか。 ましの心や」と思へど、「情なからむことはなほいと本意なかるべし。また、 中の君は、薫の求愛の言葉に接す のち一八 るたけこ、、 っ、 , っ恥ず・かしい たちまちのわが心の乱れにまかせて、あながちなる心をつかひて後、心やすく 一四匂宮の妻になりきって子をも あり うけた中の君を前に、懸想する不 しもあらざらむものから、わりなく忍び歩かんほども心づくしに、女のかたが 都合さを思い、痛々しさも感ずる。 た思し乱れんことよ」など、さかしく思ふにせかれず、今の間も恋しきそわり一五愚かと規制する薫の自意識 九 よひ 五 みとが

3. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

63 宿木 一九 一六宮は早朝からここにいるのに。 今はかひなければ、女房して御文とり入れさせたまふ。同じくは、隔てなきさ 宅いきなり見せつけるのでは。 あ ままはは まにもてなしはててむと思ほして、ひき開けたまへるに、継母の宮の御手なめ一 ^ 中の君のもとで読む覚悟。 一九六の君のことを、最後まで隠 せんじが りと見ゆれば、し 、ますこし心やすくて、うち置きたまへり。宣旨書きにても、 し隔てなく押し通そう、の気持。 ニ 0 六の君の養親、落葉の宮。 ニ一この「宣旨書き」は代筆の意。 うしろめたのわざや。落葉の宮「さかしらはかたはらいたさに、そそのかしはべ 語り手の評言。たとえ代筆でも中 れど、いとなやましげにてなむ。 の君に見られてもよいか、の気持。 一三以下、なるべく代筆を避けよ をみなへし 女郎花しをれぞまさる朝露のいかにおきけるなごりなるらん うとしたが、とことわる文句。 ニ三「女郎花」は六の君、「朝露」は あてやかにをかしく書きたまへり。 匂宮。「置き」「起き」の掛詞。六 の君の物思いは、匂宮がどんな心 匂宮「か」とがましげなるもわづらはしゃ。まことは、、いで接したからか、と問う趣。 〔一五〕中の君、わが身の 一西恨みがましい歌であるのも。 悲運を諦観する やすくてしばしはあらむと思ふ世を、思ひの外にもあるか一宝中の君との気楽な生活。 ニ六他に妻が二人となく、そうい な」などはのたまへど、また二つとなくて、さるべきものに思ひならひたるた うものと思い馴れている普通の身 分の夫婦仲なら。 ニセ 毛第三者は同情もしようが。 だ人の仲こそ、かやうなることの恨めしさなども、見る人苦しくはあれ、思へ ニ ^ 語り手の評言。高貴な匂宮の ニ九 ばこれはいと難し。つひにかかるべき御事なり。宮たちと聞こゆる中にも、筋身分と立場から一夫一妻に落ち着 かぬとして、中の君の苦悩を思う。 よひと ことに世人思ひきこえたれば、幾人も幾人もえたまはんことも、もどきあるま = 九こうなるはずの匂宮の立場。 三 0 ↓注八。 じければ、人も、この御方いとほしなども思ひたらぬなるべし。かばかりもの三一匂宮が、中の君を。 かた ニ六ふた ニ四 いくたり 三 0

4. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

ナる。 0 この大納言は、宮の御方の上﨟 ワ 1 の女房が姿を見せまいと奥に入っ ぶんだい た折、腹を立てたことがあった 紙燭さして歌ども奉る。文台のもとに寄りつつ置くほどの気色は、おのおの ( 紅梅 3 三五ハー二 5 三行 ) 。そうし 語 た性格の大納言の、腹立たしいま 物したり顔なりけれど、例の、いかにあやしげに古めきたりけんと思ひやれば、 氏 での羨望の目と心を通して、薫の じゃうらふ 源あながちにみなも尋ね書かす。上の町も、上﨟とて、御ロつきどもは、ことな異例の繁栄ぶりを語る 一人々は詠歌の懐紙を献上すべ く、南庭に設けられた文台に赴く。 ること見えざめれど、しるしばかりとて、一つ二つそ問ひ聞きたりし。これは、 ニ例によって盛儀の折の歌には お 秀作がなかったろう、として、特 大将の君の、下りて御かざし折りてまゐりたまへりけるとか。 定の歌以外を省筆する語り手の弁。 三上の方々も、位が高いからと 薫すべらきのかざしに折ると藤の花およばぬ枝に袖かけてけり て詠みぶりが格別でもあるまいが。 四帝の冠に挿す藤の花枝。 うけばりたるそ、憎きや。 五「すべらき」は帝の尊称。帝の 意にかなうべく、及びもっかぬ高 帝よろづ世をかけてにほはん花なれば今日をもあかぬ色とこそみれ 貴な姫宮をいただいた、の意。 六語り手の評言。誰はばからぬ 君がため折れるかざしは紫の雲におとらぬ花のけしきか ところが憎い、とする。 くもゐ セ帝の御製。薫の栄華を確信し、 大納言世のつねのいろとも見えず雲居までたちのばりたる藤波の花 厚い信任をこめた歌。「かくてこ こと これやこの腹立つ大納言のなりけんと見ゆれ。かたへはひが言にもやありけん。そ見まくほしけれよろづ代をかけ てにほへる藤波の花」 ( 新古今・春 下醍醐天皇 ) 。 かや , つに、 ことなるをかしきふしもなくのみそあなりし。 ^ タ霧の歌か。「紫の雲」は祥雲、 よふ あなたふと 夜更くるままに、御遊びいとおもしろし。大将の君の、安名尊うたひたまへ天人などが乗る。「藤の花宮の内 しそく 五 四 かみ そで けしき

5. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

し、いおきては、なほ、、 一薫が若君を見たがる。 しと重々しく思ひ出でられたまふ。 ニ以下、中の君の心中。 せち 若君を切にゆかしがりきこえたまへば、恥づかしけれど、何かは、隔て顔に三薫に疎々しくは接すまい 語 四迷惑な懸想、それによって恨 四 し。し力でこのまれる以外には。 物もあらむ、わりなきことひとつにつけて、恨みらるるより外こま、 氏 五後見役としての薫の誠実さに たが めのと は、背くべきでないとする。 源人の御心に違はじと思へば、みづからはともかくも答へきこえたまはで、乳母 六語り手の評言。匂宮と中の君 六 の子だから当然かわいい 、の気持。 してさし出でさせたまへり。さらなることなれば、憎げならんやは、ゆゅしき セ薫の現世執着の情。以下、最 まで白くうつくしくて、たかやかに物語し、うち笑ひなどしたまふ顔を見るに、終行まで語り手の、薫への評言。 〈亡くなられた大君。 わがものにて見まほしくうらやましきも、世の思ひ離れがたくなりぬるにゃあ九結婚したばかりの女二の宮。 その間の子の誕生を望まない。 らむ。されど、言ふかひなくなりたまひにし人の、世の常のありさまにて、か一 0 あまりに始末におえぬ心。 = 前述から反転。薫を女々しく ゃうならむ人をもとどめおきたまへらましかばとのみおばえて、このごろ面だ片意地な者と評するのは気の毒。 あかし 一ニ以下、帝の厚遇を証として、 たしげなる御あたりに、、 しっしかなどは思ひょられぬこそ、あまりすべなき君薫のすぐれた性格を推し量る。 一三行政面での薫の思慮、才覚。 一一めめ の御心なめれ。かく女々しくねぢけて、まねびなすこそいとほしけれ、しかわ一四中の君が薫に、幼児を。 一五薫の、中の君への感動。 ろびかたはならん人を、帝のとりわき切に近づけて、睦びたまふべきにもあら一六女二の宮のもとに赴かねばな らぬから。義務感の先立っ結婚。 じものを、まことしき方ざまの御心おきてなどこそは、めやすくものしたまひ宅薫生来の芳香。薫賛美の言葉。 天「折りつれば袖こそにほへ梅 けめとそ推しはかるべき。 の花ありとやここに鶯の鳴く」 ( 古 お みかど せち むつ おも

6. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

源氏物語 72 あぎり くはしく聞きはべりにき。か一八の宮の三回忌。薫が阿闍梨 中の君一日の御事は、阿闍梨の伝へたりしに、 に法事の万般を依頼。↓五三ハー ニ昔の親交のなごりの親切さが 、ゝにいとほしくと思ひたまへらるるに かる御心のなごりなからましかば、 課へ・一 - っ なかったら、回向もできずどんな に亡き人々が気の毒か、の意。 も、おろかならずのみなん。さりぬべくは、みづからも。 三できれば、直接謝意を申し述 べたい。薫の来訪を期待する気持。 と聞こえたまへり。 四公用、雑用向きの紙。色めか みちのくにがみ しくなるのを避けた。 陸奥国紙に、ひきつくろはずまめだち書きたまへるしも、いとをかしげなり。 五気どらぬのが、かえって。 六慣例として定められた仏事 宮の御忌日に、例のことどもいと尊くせさせたまへりけるを、よろこびたまへ セ「よろこぶ」は、感謝する意。 ^ 語り手の推測。中の君の手紙 るさまの、おどろおどろしくはあらねど、げに思ひ知りたまへるなめりかし。 に納得される薫の心中を推し量る。 九常日頃は、薫からの便りへの 例は、これより奉る御返りをだにつつましげに思ほして、はかばかしくもつづ 返事さえ容易に書かない。薫の下 心を直感しての遠慮だが、匂宮の けたまはぬを、「みづから」とさへのたまへるがめづらしくうれしきに、、いと 結婚ゆえの物思いが、異例の積極 きめきもしぬべし。宮の、いまめかしく好みたちたまへるほどにて、思しおこ的な行動をさせたといえよう。 一 0 中の君の文面の末尾をさす。 いとあはれにて、をかしやかな = これも語り手の推測。薫のと たりけるも、げに、い苦しく推しはからるれば、 きめく思いを推し量る。 ることもなき御文を、うちも置かずひき返しひき返し見ゐたまへり。御返りは、三匂宮の、六の君への熱中ぶり。 一三匂宮の、中の君への疎略ぶり。 ひとひ ひじり 薫うけたまはりぬ。一日は、聖だちたるさまにて、ことさらに忍びはべしも、一四薫は、中の君の文面に、その 苦しい心中を推測し納得する。 さ思ひたまふるやうはべるころほひにてなん。なごりとのたまはせたるこそ、一五中の君への執心がこみあげる。 きにち ひとひ お

7. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

みかどさ ながのおきまろ ( 万葉・巻三長奥麻呂 ) 。 の、人の御車入るべくは、引き入れて御門鎖してよ。かかる、人の供人こそ、 むぐら ニ 0 戸口を閉ざす葎が茂っている 、いはうたてあれ」など言ひあへるも、むくむくしく聞きならはぬ、い地したまふ。のかと、待たされる不満をいう歌。 「あまり」は軒、「あまりほど経る」 一九 すのこ 薫「佐野のわたりに家もあらなくに」など口ずさびて、里びたる簀子の端っ方に掛けた。「経る」「降る」も掛詞。 「雨そそき」は雨だれ。催馬楽「東 屋」 ( ↓紅葉賀七〇ハー注一 I) による。 にゐたまへり。 巻名も、ここから出た。 しずく ニ一軒の雫を払う動作につれて、 薫さしとむるむぐらやしげき東屋のあまりはどふる雨そそきかな 袖ロあたりから芳香が匂い立っ おひかぜ あづま 一三宿直人たちをさす。 とうち払ひたまへる追風、いとかたはなるまで東国の里人も驚きぬべし。 ニ三乳母らが強引に対面させる。 ひさしおまし ひさし とざまかうざまに聞こえのがれん方なければ、南の廂に御座ひきつくろひて、ニ四引戸。ここは廂と母屋の隔て。 すだれ 普通ならば簾で隔てるところ。こ 入れたてまつる。心やすくしも対面したまはぬを、これかれ押し出でたり。遣れは、身分低い者の家の建具らし これを細目に開けて薫と対面。 あ たくみ 戸といふもの鎖して、いささか開けたれば、薫「飛騨のエ匠も恨めしき隔てか = 五『今昔物語集』巻二十四第五話、 飛騨のエ匠が、一間四面の、どの うれ なかかる物の外には、まだゐならはず」と愁へたまひて、いかがしたまひけ戸から中に入ろうとしても閉じて くだらのかわなり しまう小堂を建て、絵師百済川成 屋ん、入りたまひぬ。かの人形の願ひものたまはで、ただ、薫「おばえなきものを困らせた話をふまえる。 ニ六乳母らが開いたか。その経緯 に立ち入らぬ語り手の推測 のはさまより見しより、すずろに恋しきこと。さるべきにゃあらむ、あやしき 東 毛↓一六二ハー注六。 ニ九 までそ思ひきこゆる」とそ語らひたまふべき。人のさまいとらうたげにおほどニ〈宇治で浮舟をかいま見たこと を言う。↓宿木一一一八ハー。 ニ九これも語り手の推測 きたれば、見劣りもせす、いとあはれと思しけり。 ど 一六みくるま と ニ七ひとがた あづまや ひだ あま ニ六 ニ四 やり

8. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

つる人々は心地よげに酔ひ乱れて寄り臥しぬらんかしと、うらやましきなめり一匂宮の従者たち。 ニ薫の従者の心を語り手が推測 三三条宮に帰った後の薫。 語 四今宵の婚儀への感想。タ霧邸 物君は、入りて臥したまひて、「はしたなげなるわざかな。ことごとしげなるの婿にな 0 た匂宮を面いとする。 五格式ばった様子。「ことごと ひあ 源 さましたる親の出でゐて、離れぬ仲らひなれど、これかれ、灯明かくかかげて、し」はタ霧の一面を特徴づける語。 六近親の縁故。タ霧は匂宮の伯 さかづき すすめきこゆる盃などを、いとめやすくもてなしたまふめりつるかな」と、宮父、薫も匂宮の叔父。 セ匂宮の体裁よくふるまうさま。 の御ありさまをめやすく思ひ出でたてまつりたまふ。「げに、我にても、よし〈「げに」は、世間の、匂宮を婿 にとの願望に、自ら納得する気持。 をむなごも と思ふ女子持たらましかば、この宮をおきたてまつりて、内裏にだにえ参らせ九「 : ・ましかば : ・まし」の反実仮 想の構文。匂宮をさし措いては帝 たれ にさえさしあげないだろう、の意。 ざらまし」と思ふに、「誰も誰も、宮に奉らんと心ざしたまへるむすめは、な 一 0 匂宮の高い評価から薫に転じ、 ほ源中納言にこそと、とりどりに言ひならふなるこそ、わがおばえの口惜しく宮に匹敵するとする。「なほ」の語 勢に注意。前にタ霧がこの縁談を はあらぬなめりな。さるは、、 薫に持ちかけたのを根拠にするか。 しとあまり世づかず、古めきたるものをーなど、 一一「言ひ慣らふ」。「なる」は伝聞。 心おごりせらる。「内裏の御気色あること、まことに思したたむに、かくのみ三現世厭離に傾く性格をいう。 一三帝からの、女二の宮との縁談。 ものうくおばえば、 しかがすべからん。面だたしきことにはありとも、 しカカ一四帝が縁談に本気になった場合、 その時も気がすすまないなら。 一五薫の心の中で、大君は永遠の はあらむ。いかにぞ、故君にいとよく似たまへらん時に、うれしからむかし」 理想人として偶像化しつつある。 一六語り手の評言。大君追慕、高 と思ひょらるるは、さすがにもて離るまじき心なめりかし。 六 けしき ふ

9. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

67 宿木 たりを」と、ふさはしからず思ひて言ひしを思し出づるなめり。されど、見知一五薫の、とりすました表情 一六薫が匂宮の供人たちを接待。 ひむがしたい うわ らぬゃうにていとまめなり。東の対に出でたまひて、御供の人々もてはやした宅「女の装束」は裳・唐衣・表 ぎうちき 着・袿など一揃え。「細長」は表着。 てんじゃうびと まふ。おばえある殿上人どもいと多かり。四位六人は、女の装束に細長そへて、以下、引出物の豪華なさま。 なかべ 一九 天中倍 ( 表と裏の間に重ね入れ みへがさねからぎぬも あや たもの ) のある唐衣かといわれる。 五位十人は、三重襲の唐衣、裳の腰もみなけぢめあるべし。六位四人は、綾の 一九裳の腰も位階で差があるはず。 はかま 細長、袴など、かつは限りあることを飽かず思しければ、物の色、しざまなどニ 0 綾織りの絹製。禄の品として ニ四 は、高級な「織物」のほうが格が上。 めしつぎとねり 六五ハー「限りあらんかし」。 をぞきよらを尽くしたまへりける。召次、舎人などの中には、 工自りカはしきまニ一↓ 一三衣装の色合いや仕立て方など。 で、いかめしくなんありける。ガ レにカく、にぎははしく華やかなることは見ニ三親王家で奉仕する者。 みむまや ニ四御厩の舎人。馬の世話係。 るかひあれば、物語などにも、まづ言ひたてたるにゃあらむ、されど、くはし = 五以下、語り手の感想。 ニ六省筆の弁。↓注七。 毛以下、薫の従者で厚いもてな くは、えそ数へたてざりけるとや。 しにあわなかった者の行動を点描。 ニ七 ごぜん 中納一言殿の御前の中に、なまおばえあざやかならぬや、暗これを戯画的に軽妙に描く。 〔一 0 薫、匂宮の婚儀に ニ ^ 「暗き・ : たりけん」が挿入句。 つけてわが心を省みる タ霧家から無視されたかとする。 き紛れに立ちまじりたりけん、帰りてうち嘆きて、薫の従者 ニ九六の君を薫にとのタ霧の意向 ニ九 むこ は、世間の一部に知られていたか。 「わが殿の、などか、おいらかに、この殿の御婿にうちならせたまふまじき。 匂宮とは対等なまでのわが主人、 との誇りもあろう。 あぢきなき御独り住みなりや」と、中門のもとにてつぶやきけるを聞きつけた 三 0 以下、従者がなぜあんなこと まひて、をかしとなん思しける。夜の更けてねぶたきに、かのもてかしづかれを一一一一口ったかの、語り手の補足説明。 よふ 三 0 ニ三 一七さうぞくほそなが ニ六

10. 完訳日本の古典 第22巻 源氏物語(九)

子なれば、さりともいとかくは思ひ放ちたまはじとこそ思ひつれ。されば、世一世間には母のない子もいる。 母親に顧みられずともと居直る。 めのとふたりな に母なき子はなくやはある」とて、むすめを、昼より乳母と二人、撫でつくろニ実娘 ( 妹娘 ) の乳母。 語 三実娘の年齢。 物ひ立てたれば、にくげにもあらず、十五六のほどにて、いと小さやかにふくら四小柄でふつくらした体つき。 氏 五髪が小袿 ( 略礼装 ) の丈ぐらい。 こうちき 源かなる人の、髪うつくしげにて小袿のほどなり、裾いとふさやかなり。これを六何も、北の方が浮舟をと心づ もりしておられた婿君を、こちら 六 こと いとめでたしと思ひて撫でつくろふ。常陸守「何か、人の異ざまに思ひ構へられに変えなくともとは思うが。 セ少将の人柄がもったいなく。 か , っ、く ↓一四四ハー五行。 ける人をしもと思へど、人柄のあたらしく、警策にものしたまふ君なれば、我〈 九以下、語り手の評言。 も我もと婿に取らまほしくする人の多かなるに、取られなんも口惜しくてな一 0 右の「人柄のあたらしく : ・」が、 仲人の「あたら人の御婿を : ・我も なかびと 我も婿に : ・」 ( 一四五ハー ) を受ける。 ん」と、かの仲人にはかられて言ふもいとをこなり。 仲人の言葉を口移しに言う。 男君も、このほどのいかめしく思ふやうなることと、よろづの罪あるまじう = 婿 ( 少将 ) は、今度の縁談は豪 勢で自分の思いどおりだと。 三何の支障もなさそう。 思ひて、その夜も変へず来そめぬ。 ここで、「日をだにとりかへ 母君、御方の乳母、いとあさましく思ふ。ひがひがしきやで、契りし暮にぞ : ・」 ( 一四七ハー一 〔一三〕中将の君、中の君 〇行 ) の時点にたち戻る。 に浮舟の庇護を頼む うなれば、とかく見あっかふも心づきなければ、宮の北の一四浮舟の乳母。 一五少将を婿として迎えるこの邸 で浮舟の世話にかかりきりなのも、 方の御もとに御文奉る。 片意地のようなので。 な 中将の君そのこととはべらでは、馴れ馴れしくやとかしこまりて、え思ひたま一六少将の婿入りの世話。 九 めのと すそ 四