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検索対象: 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)
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1. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

てもおりませんでした私の心には、夫婦仲を並ひと通りな しますたびに、後悔されるのでございますが、肝心な女君 ものと思うことはとうてい許されないことではあり、その がまた、いまだに少しも打ち解けて情けをかけてくださる 妻に遠慮されて、女君の御結婚に対して一言も口に出して御様子もなく、昔とまったく同様に私をお嫌いになり近づ たど 寝申しあげようもなく、まるで悪夢の中を辿るような思いで けてはくださいません。なるほど、人数にも入らぬ身が、 の まったくかかわりのないこととして耳にするほかはありま それもせめてこの人一人だけを思うというのでもないとな 夜 せんでした。しかし、この人のことは片時も心から離れず、ると、まったくとりえがないと思うのは道理、それはすべ もんもん 内心安からずいつも悶々としております苦しさのあまり、 て承知のうえなのですが、妻を一人持つのも二人持つのも 何かと心慰むこともあろうかと、それまでの不思議なまでそれは男の心の持ちょう次第で一概に浮気とはきめつけ得 すざくいんおんないち にまじめで通っておりました心を改めて、朱雀院の女一の ないでしように、なんとも情けなく、このまま私が逢った 宮との結婚にも心傾いたのでしたが、結婚したことによっ り親しんだりすることのないようにと出家を思い立たれた おおいぎみ て心の休まるはずもないばかりか、故大君には深く恨みに お心を、昨夜初めて承りまして、驚きながらも、この折に、 思われ、あなた様にも思いやりのない無礼な男とすっかりお聞き人れにならないまでも、昔からの人知れず悩んだ心 思われてしまいました私の辛さを、瞬時も忘れることなく の乱れやら女君との契りの恨めしさやらを打ち明け申しあ 強く身にしみて思い続けながらも、機会がなくてはとても げてしまおうと決心いたしまして : 申しあげることもかないませんので、私も女君も心安らか 〔巨内大臣心を尽し綿それにしても、御出家なさる御身一 であるような折を待ち設けてやっと手に人れましたのに、 綿と告白を続ける人はそれでよいでしようが、残され いったい何だって女一の宮との結婚を思い傾く心になった た子供が・ 、それも男の子はなるほど自然一人でも成長 たいおうみや のかと、 大皇の宮のお心向けが穏やかでなく、私が女しましよう、しかし、女の身である姫君は、 それは幼 めのと 君と関係があるのではないかとのお疑いからお心をとがら い時こそいかにも乳母の懐一つをこの上ない深窓と頼みに せていろいろと御計画になることがありますのを、見聞き して育ちもしましたが。ーー次第に成人してまいりました年 ( 原文一九四ハー ) きら

2. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

寝覚の上が、ほんにまったく人目の悪さもかまわずひたす似た九条の夜の相手を誰と思い合せるまでは独りでいよう とお思いにならなかったお心の浅さから、さまざまな間違 ら愛された故関白殿のおもてなしに馴染んでおられるので、 いが起ったと思われるのです」と、ほほえんで、隔意なく 私を恨む心が解ける時とてなく苦しむことになるであろう お言い出しになった親しさに、内大臣も思わず顔がほころ と思うと、どうしてよいかわからぬほど気の毒に思われ、 ときあきら 自分としても片時の隔てもまことに辛く思われるに違いなぶと、「それは、時明の娘と思ったものだから : いので、あれやこれやと心を尽し言葉を尽して語り合われら中宮に少将を召させたのですよ。そのうえで逢おうと思 ったのでしたが、それを心浅いと言われるのでしようか」 ると、「いやもう、なんで、慰むこともあろうかと女一の と言われると、 宮に思い寄ったのだろう。今は、ほかに心を分ける人もな こ それにてもさやは程なく藻塩やくあ〈ずなびき寄 く、思いのままにあなたと御一緒にありたいのに : るべき れというのもすべて、昔からあなたのお心があまりにもっ ( それにしても、あんなに早く、思いを焦す間もないくらい れないせいなのですよ。私があの時申しあげたとおりに、 に姉に靡き寄って結婚されるべきだったでしようか ) お従いになっていたら、その当座はともかくとして、聞き しやかぶつ と詠み出された女君の風情は、釈迦仏の悟りに人られたお にくい世間の非難を、私だとてあなただとて、いつまでも 負うことがあったでしようか」などと、まるで今、目の前心であっても、なお乱れておしまいになるばかり、目も奪 われるように美しい。 のことのように改めて恨み続けられるので、寝覚の上も、 しら 五 思ひわび慰むやとてなびきしに晴れずまよひし峰の白 「なぜ、そのように、御自身の御都合のよいほうばかり・ こんなに苦しまねばならなかったのは、どなたのお心 雲 こた 巻 ( 思い悩み、せめて心慰むこともあるかと結婚したのだが、 ゆえでしようか」と恥じらいながらもお応えになる。内大 まるで峰の白雲のように、晴れず漂い迷ってきた私の心なの 四臣に、「なぜ。なぜ私が悪いのか」と責め問われて、「いえ、 です ) お悪いのなんのというのではありませんが、旅寝の夢にも ふゼい こが

3. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

みかど 右大臣は帝の手紙を広げると、今こそ寝覚の上にお見せす着する心があったとしたら、恨めしく感じることがないと るのだった。 は言いきれないに違いない」などとお思いになると、「こ の世は、もはやどうあってもいい。このまま、何かと心満 覚〔 = 0 寝覚の上、本願と寝覚の上は、「どうしてこの方のお さだめ たされぬ宿命で終りもしよう。せめて来世なりと、何とし 寝現実の乖離に悩み述懷心はこうなのだろう」と思われるに の てもと思うのだが、とはいえ、きつばりと決意すべくもな つけても、「そもそも殿との出会いこそ、避けがたい憂き 夜 ふびん いがんじがらめの手かせ足かせのますますふえる身になる 世の中を知り初めた初めであったが、不憫で捨て去るに忍 のは、なんとも悲しいこと」と深く嘆かれて、女君に、寝 びない子供までできて、その子たちの愛にひかされたから こそ、心ならずもしいて人目を忍ぶ言葉も交し申したのだ覚めがちな愁いの夜は絶える時とてなかったという。 った。この上もない帝のお心とても、今の私には少しも関 心がないし、通り一遍の御返事を申しあげようにもそれも 軽率なことと思えば、しかるべき折に帝が心にしみて私に 興味をお示しになったとしても、効あるわが身であろうか。 また、まことに無礼だ、心外なと、帝がお心を損じられる としても、私にはどうしようもないことではないか。こう して生きていても真実生きているとも思われないことだ。 幼い子供たちが幾人もあるのを見捨てがたく、あの人この 人のお世話を私までが投げ出してしまったらどうなること かと思うばかりに、生き永らえているにすぎないのだ。ま ことのところ、世間並に執着する心のないことも、思えば 気持の楽なことだったのだ。もしこの上、私にこの世に執 かい

4. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

一右大臣のお心に気を使ってい にこの御心をば慎み思ふかひなく、はかなきほどの罪あるまじきことをも、か る効もなく。 ニ格段に劣ったお心の程なのだ。 くのみとりなしたまふ、こよなき御心の程なりかし。おぼっかなくて隔たる日 三右大臣が服喪中のため互いに 逢えなかった最近の日々をいう。 寝ごろの事などをも差し置きて、すずろなることを言ひ出でて恨みのたまふ。 四 の g 「受け張る」は、でしやばる意。 うば いくよ あきら 五思い諦めて過しているのに。 夜『なぞ、あいなく。幾世あるまじき世に、受け張り物を言はであらむかし』と、 六感情のにぶい女だと。 あなづ 五け セ私が右大臣との仲をどんなに 思ひ消ちて過ごすを、あまり心もなきものと、侮りやすくおぼすなめりかし。 田 5 っているかなど。 はばか 八「人」は、右大臣をさす。 いかに世を思ふらむなど、憚りおぼすところのなきよ。いみじく物思ひ知り、 九辛いご自身の仕打が原因で私 との仲が浅くなってしまうという なべてならぬものに言ひ思はれたる人も、憂き我からに浅くなりぬるかたは、 ことについては、そうしたご分別 その御心のけぢめもなかりけるをや」と、あいなく、我があながちに慎み、従の心もなかったのか、の気持。 一 0 自分の、強いて右大臣に遠慮 こた ひたる心を、悔しくおぼし続けて、答へもせず、ただっくづくとうちながめ出し、従ってきた心を。 = 寝覚の上は内心を男君に見せ まいとするのである。「ことなし でて、いと引き隠し、ことなしびにて人りたまひなむとするを、 ( て、「さ ぶーは、何でもないふうをする意。 けしき はか おぼすなめり」と、御心のうち推し量り、気色見るに、いともいともいみじき一 = 「控ふ、は、引き留める意。 さいぎ 一三自分 ( 右大臣 ) のあまりの猜疑 しん 心から今後のこともこの際に言っ ことわりに、我があまりの心に、今より後の事をもこのついでにとり出でむと ておこうと思って言い出したのだ が、の気持。「・ : 思ひて」の接続が 思ひて、隈なく昔恋しき気色を見るより悔しくなりて、引き替へ、いみじく慰 やや不審。下に「言ひ出しつるに」 をばすて めこしらふれど、さだに思ひ続け、ながめたちぬれば、姨捨山の月見む心地しなどの意を補って考えておく。 つつ つつ ここち かい

5. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

265 巻五 かずかず いかがはあらむとする。かくてあるも、あるとも覚えず。幼き人々の数々見捨一五「心おく」は、心を隔てる意。 帝がお心を損じられたところで。 一七 てがたく、これかれの御扱ひを、我さへ知らずなりなば、いかがはと思ふばか一六こうして生きていても、真実 生きているとも思えない、の意。 りに、永らふるにこそあれ。まことは、世のつねにとまる心のなきも、心安き宅「これかれ」は、主に故関白の 遺児達をいう。 一九 わざなりけり。この世にしむ心のあらましかば、恨めしき節なくはあるまじ一 ^ ほんとうのところ、世間並の 暮しに執着する心がないというの ニ 0 も、気楽なことだったのだ。 き」などおぼすに、「この世は、さはれや。かばかりにて、飽かぬこと多かる 一九もしこの世に執着する心があ や のち 契りにて、止みもしぬべし。後の世をだに、いかでと思ふを、さすがにすがすったならば。「しむ」は、深く思い 入る、執着する。 だし こころう よるね がしく思ひ立つべくもあらぬ絆がちになりまさるこそ、心憂けれ」と、夜の寝 = 0 「さはあれや」の略。もうどう でもよい、の気持。 ニ一せめて来世だけでも、何とか 覚め絶ゆる世なくとぞ。 幸せにと思うのに。 一三きつばりと出家を決意すべく もない絆がますます多くなってゆ くことこそ、悲しいことだ、の意。 ニ三「寝覚め」の語は随所に見られ たが、「夜の寝覚めーの語は、現存 本ではここが初めて。「寝覚め」が 主に恋の寝覚めを意味するのに対 し、「夜の寝覚め」は、より孤独な 哀傷の意味を持っといわれる。巻 五最後の女主人公の心境を示した ものと思われる。 一六

6. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

まま申しあげずにしまったのだったが、それを寝覚の上は寝覚の上は御返事を、その点には触れず、たいそう言葉少 なに、「今すぐここを出ましてから : 一途に、人が告げるままに思い込まれてしまったとは、か ・、私自身で・ えって、まことに頼りないお心というほかはない。すべて、 とだけ書いてこられるので、内大臣は言い遣る一言葉にも窮 あやま わかってしまえば、平々凡々のこと、まったくの誤解なの して、「自分の心の過ちから、恨めしく悲しく悔まれるこ だ。今から言うにしても、お手紙では何といっても文章に とばかり数知らず積り、自分ゆえにこそ、昔から今日に至 は限りがあり、心のたけを尽して申しあげる表現もない。 るまで、あの人にひどく深刻な物思いをさせ、次々と悪い 自分で出向いて直接釈明しようと思っても、女君はまった評判を数多く立てられて、あの人の心も、また私の心も暗 く私の前に姿を現してくださらない。それがなおのこと辛 く沈んでしまったのだが、そんな二人の胸の中がすっきり く思われて : : : 」とお泣きになって、「あれほど並ぶ者な と晴れるように、なんとしてもしたいものだ」と、明けて く愛情の深かった故関白の正妻となっても、私をやはりおも暮れても心にかかり、こんな辛いことばかり次々と起っ とど 忘れにならず、離れられないものに心に留めてくださって てくるひどく味気ない世の中も、誰でもない、ほかならぬ いたその時あの時の言葉や、『こういう妻の座では、おも女君のためにこそ命も惜しいと、ただそればかりを思えば、 みかど しろくない』と、離れてしまわれたわけだが、帝の御一件世間の非難も、女一の宮のいとおしさも、もはや考える余 なび が起ってくると、私にまさる頼り所はないとして靡き寄っ地がないとまで追い込まれたお気持になるのだった。 て来られたありがたさ」などと、寝覚の上のお心を思い続〔五六〕内大臣嘆きを中宮内大臣は何もかもつまらなく考えに 四 けると、今、あの人が内大臣自身を、比べようがないほど に訴う心鎮まらす耽られると、女一の宮にも、「御病 愛情が薄い、心から思ってくれていないと、心を隔てて疎気も今はもう快復されたのだから、私も安心して、せめて 巻 んじられるのも、まことにもっともで、何と言葉をかけた 今からでも気持を楽にしましよう」と言われて、姫君のお とのい 四ものか、言いようもないままに、内大臣はお手紙を毎日次部屋の方に行ったり、宮中の御宿直などたびたびされたり 次と十枚ばかりに、繰り返し言訳をお書き尽しになるが、 して、いつも女一の宮のお傍に添っていないでも寂しい思 いちず しず

7. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

おまへ には深う恨みおかれ、御前にもおろかになめげなるものにきこしめしおかれは毛あなた様 ( 人道 ) にも、薄情で 無社な男と聞き思われてしまいま つら した辛さを。 べりし愁へ、高く思ひたまへわたりはべりながら、ついでならではえきこえさ 穴「愁へ」が「高し」とする表現は をり ニ 0 せ出でずはべるを、我も人も心安かりぬべき折をも待ち出ではべりけるを、なこの作品に特徴的。二一 行目にも「御愁への高さ、富士の たいわうみや にしに思ひたまへ寄りし心なりと、大皇の宮の御心掟てのおいらかならず、さ嶺よりも高けれど」とある。 一九大君も老関白も亡くなり、自 る事もやの御疑ひに、いぶせげにおぼし構ふる御事どものはべるを、見聞きは分も寝覚の上も、障害のない心安 らかな折を待ってやっとその時に べるごとに、悔い思うたまへらるるに、ここにも、いまだにつゆばかりうちゅ出会えたのに、の気持。「待ち出 づ」は、待ち受けて出会う意。 けしき るび、あはれをかけたまふ御気色もなく、昔ながらに厭ひ捨てさせたまふ。げ = 0 なぜ女一の宮との結婚を思い ついてしまったわが心かと。下の かず に数ならぬ身の、分くる方なくだにあらず、いと取り所なしと思ふことわりを、「悔い思うたま ( らるるに」に続く。 ニ一大皇の宮は、内大臣と寝覚の ひとりふたり 上の仲を疑うのである。 みな思ひたまへ知りながら、一人も二人も、そは人の心からにこそはべらめ、 一三寝覚の上のほうでも私に対し。 こころう いと心憂く、やがて見え知らるまじきさまにとおぼし立ちける御心を、昨夜承 = 三心を分ける女がないわけでさ えなく。女一の宮の存在をいう。 品妻が一人でも二人でも、それ 五り付けしままに、おどろきながら、このついでに、きこしめし人れぬまでも、 は夫たる男の心次第でしように。 昔よりの人知れぬ心の乱れ、契りの恨めしさを、きこえさせ顕はしてむと、思内大臣のほんとうの愛情は寝覚の 巻 上に対するものだというのである。 ニ五出家を決意された寝覚の上の ひたまへ立ちてなむ。 お心を。 ニ六入道殿が納得なさらぬまでも。 ニ四 おき いと

8. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

そち けれど、一夜ばかりにて、身を恨みてまかでたまひにける」といふことを、帥一一夜だけのお情けで。 ワ 3 ニ寝覚の上はわが身を恨んで。 くま わ おとど の君、人ごとに言ひ散らし、大臣にも漏り聞かせたてまつれど、我が御心に隈 = 大皇の宮付の女房。↓六四謇。 四噂を言いふらす人の心底。 寝なう知りたまへることにて、なほ言ふ人の心見えて、うたてとのみこそおぼさ五男君からお恨まれになるのだ の ったが。「られ」は受身。 おんないちみや 夜るれ、何の思ひ覚ます節とかはならむ。女君も、漏り聞きたまひて、「されば六「宮」は、女一の宮。 七女一の宮のもと、すなわち内 ちぎ 大臣邸に何度もお越しになっては。 よ。昔より、憂く、あはつけき名をのみ立っ身の契りの、心憂くもあるかな」 八女一の宮のご病気や大皇の宮 とおぼししめど、さりとては、いかがはせむ。いとど、もの慎ましうのみ、忍のお世話で、忙しいことをいう。 九うわの空で寝覚の上を訪れて わづら びまさりて、恨みられたまふに、四月一日の程より、宮、いといみじう患はせは、尽きせぬ思いや一途な心のす しず べてをお鎮めになるのだが。 たいわうみや七 たまひて、日ごろ過ぎゅけば、大皇の宮も渡らせたまひつつ、見たてまつらせ一 0 女一の宮がこのようにご病気 でいらっしやる際までは。 さま たまふ様のおろかならぬも、かたがたいと限りなきに、内の大殿も、事なくお = 世間体を憚るだけでなく。 一ニ女一の宮がお亡くなりになる はしますときこそ、心を空にあくがらして、尽きせぬ思ひ、一つ心の限りをも、場合のことをいう。 一三思いのままのお忍び歩きもな しづ さらないのだが。「ぬ」は連体中止。 もて鎮めたまひても、かうおはしますをりさへは、いかでかは。 一四寝覚の上への気がかりさ。 わ おほかたの人目のみにもあらず、我が御心にも、虚しうならせたまはむを一五以下、内大臣の心中表現。寝 覚の上は表面はさりげなく振舞い 見たてまつらむ嘆きも、なのめなるべうもあらず。我が御心にも、さまざま御ながら。「うち思ひしたえむも」あ たりで地の文に融け込んでいる。 祈りゃなにやと、心の隙なく、つと添ひさぶらひたまひて、心のままなる御 = 〈内大臣の想像する寝覚の上の 五 九 ひま 四 わ おほいどの つつ

9. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

45 巻 ( 現代語訳一一九九ハー ) 人のもてなしに、思ひ慣らひたまひにける御心ときめきこそ、なかなか浅け一六私とは縁遠くていらっしやる と以前から承知していたから。 一九 れ。よし、心みたまへ、げにや御心よりほかに見えたてまつりけると。ただ毛どんな情熱的な男の扱いに。 以下、文脈やや不整。「いかに・ 心を鎮めて、きこえむことをよく聞きたまひて、『げに、あはれ』とも、また御心ときめきか」「 ( そのような ) 御心ときめきこそ : ・となるべき ふるまひ ひとことこた ニ 0 『憎し』とも、一言答へたまへ。ただ人や、人の心許さぬ振舞をも押し立つらところを続けてしまったもの。 穴かえって浅はかです。 一九あなたのお心に反して。 む、いとかくところせき身は、人の進み参り、もしは上りなどするを、待ちか ニ 0 帝に対して臣下。普通の男。 ニ一窮屈な身。帝自身をいう。 けつつのみ見るものと、慣らひにたれば、御心許されぬ乱れは、よもせじと 一三女が進んで人内したり、ある なさ つをね いは上の局に上がりなどするのを。 よ」と、いとのどやかに、恥づかしげに、情けなき乱れはせさせたまはぬに、 ニ三以下、寝覚の上の心中表現。 ここち 品なぜこうまでひどいことをな 少しづっ生き出づる心地するにしも、「あなあさまし。よろづにのたまふに、 さるのか、の気持。 いかにも、我が動くべくもあらぬに、おぼし煩ひ、つひに = 五以下も文脈やや不整。「なに 〔ニ巴寝覚の上惑乱の中 なび し・ : 交じらむー「 ( そのように ) 交 うちおと に内大臣を思い靡かす 宮の構へたまふことの様ゃ。など。かくてはまた、内の大じらむ方をこそ・ : 、と二文になる ところを、続けてしまった構文。 もとゐ 臣に、いかなる事を言ひ聞かせたまふらむとすらむ。なにし、やむごとなき基 = 六正妻女一の宮をさす。 毛格段に劣った愛人として。 ニ七 を見ながら、我はこよなき劣りざまにて、交じらむ方をこそ、すべてあるまじ ll< まったくあってはいけないこ ととして、無理にも遠ざかっては。 ニ九 はな きことにも、あながちにもかけ離れつつ、恨みらるれ。それよりほかに、つゆ = 九内大臣から恨まれているのだ。 三 0 故関白との結婚は、常識から 三 0 も怠りありて、聞き疎まれむな。おほかたにとりても、あるまじきことなりし見ても論外のことだったのに。 しづ さま ニ四

10. 完訳日本の古典 第26巻 夜の寝覚(二)

一相手の女性の素性を。 ワ〕 ニでは、妻の妹であったのだ。 三中の君を恋するもとからの心。 四石山の姫君が、夢のようには かない契りで生れたことをいう。 寝ただはかなかりける契りを恨み思ひたまへしに、この姫君の、夢ばかりの契り の 五事情を知る者たち。 ゅ 夜にはべりけるを、その心知るどち嘆き思ひて行く方なきゃうにもてなしつべう六生れた姫を行方もわからぬよ うに扱ってしまうはずでしたのを。 はぐく はべりしを、あながちに忍び尋ね取りても、いづくよりともなくて年ごろは育七私が無理にこっそりと引き取 りましたが、それも。 きは み生し立ててはべりしほどに、今、やうやう物思ひ知る際にもなりはてはべる〈まさこ誕生のときも。 九もしゃ妊娠したのではないか。 おとど けしき めり。まさこをも、もしさる気色にゃなど思ひたまへしほどに、故関白の大臣「さる気色」は、妊娠の気配をいう。 一 0 父人道が勧めて寝覚の上を故 に放たせたまひしほどに、我がため人のためいみじきことにもあるかなと思ひ関白に嫁がせたことをさす。 = 自分にとっても中の君にとっ かしびと たまへしかど、昔人物せられしほどにて、彼を浅くも思ひきこえざりし心には、ても一大事だと。 おおいぎみ 一ニ「昔人ーは、故人。大君をさす。 それをよろしう思ひ許さるべうもはべらざりしに、慎み思ひたまへて、ともか一 = 大君を妻として浅くは思って いなかった自分の心には、大君を ゅめぢまど いいかげんに扱うことはとても許 くも申し出でむかたなく、夢路に迷ふやうにてよそに聞きなしはべりにしを、 されなかった、というのである。 かたとき 片時も思ひ怠らず、胸、心安からずのみ思ひたまへられしが苦しさに、ことと一 0 人に不審がられるほどまじめ 一方でしたそれまでの心を改めて。 すざくゐん おんないちみや 慰むこともやと、あやしきまでまめになりおきはべりにし心を改めて、朱雀院一 = 女一の宮と結婚したことをい の宮の御事も思ひ寄りにしを、それに心の休まるやうはなきものから、昔の人一六妻であった故大君には。 に、夢のやうに聞き付けたてまつりても、今はいかがは、みだりがはしく、 あら 『さは、これなりけり』と、もとの心を顕はし出づべきにもはべらざりしかば、 四 おた はな カれ つつ