原文現代語訳 : 七九 : 序段つれづれなるままに・ : 七九・ 第一段いでや、この世に生れては 第二段いにしへのひじりの御代の : 第三段よろづにいみじくとも : 第四段後の世の事、心にわすれず : 第五段不幸に愁にしづめる人の・ 第六段わが身のやんごとなからんにも : : 八三 : 第七段あだし野の露きゅる時なく・ 第八段世の人の心まどはす事・ 第九段女は髪のめでたからんこそ : : 八六 : 第一〇段家居のつきづきしく・ 第二段神無月の比・ ・ : 一一六四 第一二段おなじ心ならん人と 第一三段ひとり灯のもとに : 第一四段和歌こそ、なほをかしき : 第一五段いづくにもあれ・ 第一六段神楽こそなまめかしく・ 第一七段山寺にかきこもりて・ 原文現代語訳 第一八段人はおのれをつづまやかにし : : : : 九一 : 第一九段折節のうつりかはるこそ : 第二〇段なにがしとかや言ひし世捨人の : : 九五 : 第二一段よろづのことは、月見るにこそ : : : 第一三段なに事も、古き世のみぞ・ 第一一三段おとろへたる末の世とはいへど : : 突 : : 九七・ : 一一七 0 第二四段斎宮の野宮に・ 第二五段飛鳥川の淵瀬・ 第二六段風も吹きあへず : ・ : 一 00 ・ 第二七段御国ゅづりの節会・ ・ : 一 00 ・ 第二八段諒闇の年ばかり・ 第二九段しづかに思へば・ 第三〇段人のなきあとばかり : : 一一七三 第三一段雪のおもしろう降りたりし朝 : : : 一 0 一一 : : 一一七四 第三二段九月廿日の比 : 一 0 四・ : 一一七四 第三三段今の内裏作り出されて : ・ : 一 0 四・ : 一一七四 第三四段甲香は・ : 一一七四 第三五段手のわろき人の・
( 現代語訳三七ハー ) くぎゃう ちんまんにう 珍万宝さながら灰燼となりにき。その費いくそばくぞ。そのたび、公卿の家十 = 『玉葉』では十四。『平家物語』 は十六。 六焼けたり。ましてその外数へ知るに及ばず。惣て都のうち三分が一に及べり一 = 嵯峨本『方丈記』は「数千人」、 『平家物語』は「数百人」。 なんによ 一三「辺際」は、はて、かぎり。馬 とぞ。男女死ぬるもの数十人、馬牛のたぐひ辺際を知らず。 や牛は、無数に死んだとあるわけ あやきゃうちゅう おろ だが、実情は不明。解き放たれ、 人のいとなみ皆愚かなるなかに、さしも危ふき京中の家を作るとて、宝を費 盗まれ、縄を引きちぎって逃げな どもしたろう。おとなしく焼け死 し、心を悩ます事は、すぐれてあぢきなくぞ侍る。 一五 一四 んだとばかりは思われない。 なかみかどきゃうごく ちしよう うづき また、治承四年卯月のころ、中御門京極のほどより、大き一四「治承四年」は一一八〇年。 「卯月」は旧暦四月。一一十九日だっ 風 つじかゼ つじか なる辻風おこりて、六条わたりまで吹ける事侍りき。三四たらしい。『平家物語』巻一二に「颱」 として同文に近い箇所がある。 月さきも、ひとっと一五中御門大路は一条と一一条との 町を吹きまくるあひだに、こもれる家ども、大きなるも、 間を東西に貫く大路で、この「京 けたはしら して破れざるはなし。さながら平に倒れたるもあり、桁柱ばかり残れるもあり、極」は東京極、平安京の東界を南 一七 となり かき カど 北に貫く大路。その交点【 門を吹き放ちて四五町がほかに置き、また垣を吹きはらひて隣とひとつになせ一六旋風圏内にある家々 宅ここの主語は辻風。 ひはだきいた そら ふ 穴屋根を葺く板。 り。いはむや、家のうちの資財、数を尽して空にあり。檜皮、葺板のたぐひ、 ごふ 一九「業」は行為。ロで言い、心に ちり あくごう 丈冬の木の葉の風に乱るるがごとし。塵を煙のごとく吹き立てたれば、すべて目思うことも含む。人間の亜の影 響で「業風」が起るという。だがま えごう 方 た、世界壊滅の時をいう「壊劫」に も見えず。おびたたしく鳴りとよむほどに、もの言ふ声も聞えず。かの地獄の 9 一九 も劫火・劫水・劫風が起ると説く そんまう ごうふう 1 ごふ 業の風なりとも、かばかりにこそはとぞおぼゆる。家の損亡せるのみにあらず、から、その「劫風」との混同か。 つじ 〔三〕辻 こ は くわいじん 一六 ひら つひえ つく はべ きこ つひや
91 第 15 段 ~ 第 18 段 ゆれ。 ◆俗世界から、しばし解き放たれ、 心の自由をとりもどすと、すべて てらやしろ が新鮮に見えてくる。だから、寺 寺・社などに忍びてこもりたるもをかし。 や社にも、「しのびてこもりたる もをかし」となるのである。 ないしどころ 一ニ宮中の御神楽。内侍所の庭前 第一六段 で、毎年十二月に行われた。 一三上品・優雅で 一四楽器の音。音楽。 神楽こそなまめかしく、おもしろけれ。 一五大和笛。神楽笛ともいう横笛。 一五ちりき 一六中国伝来の竹笛。約一八の おほかた、ものの音には、笛・篳篥。常に聞きたきは、琵琶・和琴。 竹管の表に七箇、裏に二箇の穴を あけ、上端に舌をさしこんだもの。 縦にして吹く。 第一七段 毛四絃四柱の雅楽用の琵琶。 穴やまとごと。六絃の琴で、日 山寺にかきこもりて、仏につかうまつるこそ、つれづれもなく、心の濁りも本固有の絃楽器。 ◆まず宮中の神楽をあげたのも、 きょ ここち 一つには俗世間で得られない、そ 清まる心地すれ。 れを超えた世界の音楽に、とりわ け彼が心引かれたからであろう。 一九ここでは閑暇で所在ないの意。 第一八段 ◆兼好の関心は、修道生活そのも のよりは山寺でえられる自由・孤 しりぞたから 人はおのれをつづまやかにし、奢りを退けて財を持たず、世をむさぼらざら独、清澄な境地にあった。 ニ 0 慎み深く簡素にし。 ニ一俗世間的な利欲を、の意。 んぞいみじかるべき。昔より、賢き人の富めるは稀なり。 し まれ びは にご
391 図録 右京 大口ロ 京 平田田田田田羂譱串翆羂羂 一条大路 ( 北京極大路 ) 正親町小路 土御門大路 近衛御門大路 勘解由小路 中御門大路 春日小路 大炊御門大路 令泉小路 こ条大路 押小路 三条坊門小路 姉小路 三条大路 六角小路 四条坊門小路 錦小路 四条大路 綾小路 五条坊門小路 高辻小路 五条大路 ロ小路 六条坊門小路 腸梅小路 六条大路 左女午小路 七条坊門小路 七条大路 塩小路 入条坊門小路 物小路 八条大路 九条坊門小路 言第小路 九条大路 ( 南京大路 ) 3 豊楽院 八省院月 . 42 43 23 24 泉 27 28 後院町 33 34 38 39 東京極大路 万里小路 高倉小路 東洞院大路 烏丸小路 室田 / ー 町尻小路 西洞院大路 大宮大路 東寺冊小路 壬生大路 坊城小路 城未雀大路 西坊城小路 星嘉門大路 西寺西物笥小路 西大宮大路 西負ト路 西堀川小路 道組大路 宇多小路 馬代小路 恵止利小路 木辻大路 菖り路 山 無差小路 西京様大路 1 一条院 2 染殿 3 清和院 4 土御門院 5 高倉殿 6 鷹司殿 7 京極殿 8 検非違使庁 9 近衛殿 10 左獄 11 枇杷殿 12 花山院 13 本院 14 高陽殿 15 小松殿 16 冷泉院 17 町尻殿 18 堀川院 19 閑院 20 東三条殿 21 鴨院 22 押小路殿 23 左京職 24 弘文院 25 御子左第 26 高松殿 27 奨学院 28 勧 学院 29 鬼殿 30 六角堂 31 四条宮 32 紅梅殿 33 千種殿 34 池亭 35 河原 院 36 亭子院 37 西八条殿 38 施薬院 39 九条殿 40 宇多院 41 右獄 42 穀 倉院 43 右京職 44 淳和院 45 花園 ( 典拠は主として「拾芥抄」によリ、図中の番号は左京から右京へ、 北から南、西から東の順に配列した。 )
第一八八段或者、子を法師になして・ 第一八九段今日は、その事をなさんと・ 第一九〇段妻といふものこそ : 第一九一段夜に入りて物のはえなしと・ 第一九二段神仏にも、人のまうでぬ日 第一九三段くらき人の、人をはかりて・ 第一九四段達人の人を見る眼は・ 第一九五段或人久我縄手を通りけるに・ 第一九六段東大寺の神輿 第一九七段諸寺の僧のみにもあらず・ 第一九八段揚名介にかぎらず・ 第一九九段横川行宣法印が 第二〇〇段呉竹は葉細く・ 第二〇一段退凡・下乗の卒都婆・ 第二〇二段十月を神無月と言ひて : 第二〇三段勅勘の所に靫かくる作法・ 第二〇四段犯人を笞にて打っ時は : 第二〇五段比叡山に・ 第二〇六段徳大寺右大臣殿 ・ : 三三八第二〇七段亀山殿建てられんとて : ・ : 三四 0 第二〇八段経文などの紐を結ふに・ : ・三四一第二〇九段人の田を論ずるもの : ・ : 三四一第二一〇段喚子鳥は・ ・ : 三四一一第二一一段よろづの事は頼むべからず : : : : ・一三一・ ・ : 三四一一第二一二段秋の月は : ・ : 三四一一第二一三段御前の火炉に火を・ : ・三四三第二一四段相夫恋といふ楽は・ ・ : 一一一四三第一一一五段平宣時朝臣 : ・ : 三四四第一一一六段最明寺人道 : ・ : 三四四第一一一七段或大福長者の言はく : ・三四四第二一八段狐は人に食ひっくものなり・ ・ : 三四四第一一一九段四条黄門命ぜられて言はく ・ : 三四四第一三〇段何事も辺土は ・ : 三四四第一三一段建治・弘安の比は・ ・ : 三四五第一一一三段竹谷乗願房 : : ・三四五第一三三段鶴の大臣殿は・ ・ : 三四五第一三四段陰陽師有宗人道・ : ・三四五第二二五段多久資が申しけるは : ・ : 三四七 ・ : 三四七 ・ : 三四八 ・ : 三四八 ・ : 三四九 ・ : 三五 0 ・ : 三五 0 ・ : 一五三 ・ : 三吾
( 現代語訳一一七一 l(-) ひも 第二九段 一四太刀につける鼠色の飾り紐。 一五とりわけ厳粛な感じがする。 ◆諒闇中の御所の状態が、こまか しづかに思へば、よろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき。 く観察されている。これは体験せ ずには描けない筆致である。厳粛 ぐそく 人しづまりて後、長き夜のすさびに、なにとなき具足とりしたため、残しおな宮廷の儀式であるが、それだけ 兼好には、無常を深く感ぜしめら ほうご かじと思ふ反古など破り捨つる中に、なき人の手ならひ、絵かきすさびたる見れたことであろう。 一六身のまわりの道具類を片づけ。 をり 一七ころ 出でたるこそ、ただその折のここちすれ。この比ある人の文だに、久しくなり宅現在、生存している人。 穴無心に昔に変らず残っている。 ぐそく て、いかなる折、いつの年なりけんと思ふはあはれなるぞかし。手なれし具足◆みたされぬ現状に対比しつつ、 「過ぎにしかた」に心を傾けた、切 かは 一八 なども、心もなくて変らず久しき、いとかなし。 ないばかりの真情があふれ出てい る一章である。 一九死者が来世に生れかわるまで 第三〇段 の期間。死後、四十九日の間。 段 ニ 0 七日毎に行われる死後の仏事。 ちゅういん やまざと 人のなきあとばかり悲しきはなし。中陰のほど、山里などにうつろひて、便 = 一気ぜわしいものだの意。 ニ 0 一三中陰の終る四十九日目の日。 のち いとな 段 あしく狭き所にあまたあひ居て、後のわざども営みあへる、心あわたたし。日 = = 薄情にも。 第 品我がちに身のまわりのものを かず なさけ 数のはやく過ぐるほどぞものにも似ぬ。果ての日は、いと情なう、たがひに言とり片づけて。 あか あか 0 孟「あかる」は「別る」「散る」で ふ事もなく、我かしこげに物ひきしたため、ちりぢりに行きあかれぬ。もとの離れ去り行ってしまう、の意。 ふみ びん た。
なく消えてゆく雪仏によって、具 第一六七段 象的に実感をこめて述べているこ の段の表現は、論理的に説示して いちだうたづさ いる諸段にくらべても、独自の説 しろのぞ 一道に携はる人、あらぬ道の筵に臨みて、「あはれ、わが道ならましかば、 得性をもって迫ってくる。 みはべ 九一つの専門の道に従事する人。 かくよそに見侍らじものを , と言ひ、心にも思へる事、常のことなれど、よに一 0 会合の席。 一一まことに。ひどく。 わろく覚ゆるなり。知らぬ道のうらやましく覚えば、「あなうらやまし。など 一ニ傾けて突きかかる意。 一三善行をほこりにせず。一七三 ともがら か習はざりけん」と言ひてありなん。 謇の「善に伐らず、輩に争ふべか ち らず」およびその注一二参照 カたぶきば 我が智をとり出でて人に争ふは、角あるものの角を傾け、牙あるものの牙を一 0 「物に争はず」 ( 一七一一一ハーとそ たぐひ の注一六参照 ) 。 咬み出だす類なり。 一五美点。長所。 一大欠点。難点。 人としては善にほこらず、物と争はざるを徳とす。他に勝ることのあるは、 宅品格。ここは家柄、身分の意。 一七 穴たくさんの。 しな ほまれ 段大きなる失なり。品の高さにても、才芸のすぐれたるにても、先祖の誉にても、一九欠点。難点。 ニ 0 「言ひ消つ」。非難する。 一八 第人に勝れりと思へる人は、たとひ言葉に出でてこそ言はねども、内心にそこば = 一おごりたかぶる心。うぬぼれ。 段 とが ◆わが長所をほこる者と、長所を つつし わざはひ ニ 0 け くの咎あり。慎みてこれを忘るべし。痴にも見え、人にも言ひ消たれ、禍をも欠点として自覚する者との間にあ 第 る落差を指摘しているが、とりわ まこと 招くは、ただ、この慢心なり。一道にも誠に長じぬる人は、自ら明らかにそのけ長所がそのまま欠点に転化する 2 ひ こころざし ことを洞察する兼好の論理の展開 に注目したい。 非を知る故に、志常に満たずして、終に物に伐る事なし。 い ものあらそ つの 、ひ まさ
尺三寸余。指穴が七つある。 一四以下笛の説明は、巻末図録 第二一九段 ( 三九八ハー ) 参照。 一五「隔つ」は、間に置く意。 たあき しぞうのくわうもん一 0 一六「置く」は、「隔つ」に同じ。 四条黄門命ぜられて言はく、「竜秋は、道にとりてはやんごとなき者なり。 宅穴と穴との間ごとに。 きた たんりよ くわうりゃう よこぶえご 穴十二律の一。半音に近い。 先日来りていはく、短慮のいたり、きはめて荒涼の事なれども、横笛の五の穴 「ぬすむ」は、ひそかにかくす意。 いささ ぞん ゅゑ は、聊かいぶかしき所の侍るかと、ひそかにこれを存ず。その故は、干の穴は一九一律の調子をかくさず、の意。 一五 ニ 0 穴と穴との間隔を配当するこ ひやうぞうご しもむゼう あひだしようぜっぞうへだ じゃう さ - っ、う 平調、五の穴は下無調なり。その間に、勝絶調を隔てたり。上の穴双調、次にとは、他の部分に等しい、の意。 ニ一「退く」。口を吹き口から少し さく ふしようゼう一六 わうしきゼう らんけいぞう ちゅうばんしき 鳧鐘調を置きて、タの穴、黄鐘調なり。その次に鸞鏡調を置きて、中の穴盤渉離して吹き、音を小さくすること。 一七 一三離しきれない時は。 ぞうちゅうろく しんせんぞう りつ 調、中と六とのあはひに神仙調あり。かやうに間々に皆一律をぬすめるに、五 = = 他の楽器に。「物」は楽器。 一九 品「有り難し」で、あまりいない。 じゃうあひだてうし すぐ の穴のみ、上の間に調子を持たずして、しかも間をくばる事等しきゅゑに、そ = = 思慮のきわみ、秀れた考えで。 ↓一一七ハー注一三。 おそ 段の声不快なり。されば、この穴を吹く時は、必ずのく。のけあへぬ時は、物に毛「子日ク、後生畏ルペシ。焉 ンゾ来者ノ今ニ如カザルヲ知ラン うけん せんだちこうせい 第あはず。吹きうる人難し、と申しき。料簡のいたり、誠に興あり。先達、後生ヤ」 ( 論語・子罕 ) をふまえ、先進者 が後進の進歩を畏敬する意。 段おそ はべ おおがかげもち 一穴大神景茂。笛の名手。従四位 を畏ると云ふこと、この事なり」と侍りき。 ニ八 ニ九 筑前守。永和一一年 ( 一三七六 ) 没。 かげもち しら しゃう 他日に、景茂が申し侍りしは、「笙は、調べおほせて持ちたれば、ただ吹く = 九雅楽の管楽器。十数本の竹を 三 0 環状に立てて下から吹く。笙の笛。 いき ばかりなり。笛は、吹きながら、息のうちにて、かっ調べもてゆくものなれば、 = 0 呼吸、息づかいのなかで。 たじっ ニ四 まこときよう かん 一四
て、心あわたたしく散り過ぎぬ。青葉になり行くまで、よろづにただ心をのみさとは花ぞ昔の香ににほひける」 九 ( 古今・春貫之 ) などをふまえる。 なや にほ はなたちばな一 0 ぞ悩ます。花橘は名にこそ負へれ、なほ梅の匂ひにぞ、いにしへの事も立ちか一 = 花房がぼうっとかすんださま。 しやか 一三陰暦四月八日の釈迦生誕祭。 やまぶき とり 一四陰暦四月、中の酉の日に催さ へり恋しう思ひ出でらるる。山吹のきょげに、藤のおぼっかなきさましたる、 れる賀茂祭。祭の代表とされた。 しようぶ 一五菖蒲。五月五日の端午の節句 すべて、思ひ捨てがたきこと多し。 一四 に、邪気払いのために軒にさした。 くわんぶつころまつりころ こずゑ 一六冬渡来し、水田・池沼に住み、 「灌仏の比、祭の比、若葉の、梢涼しげに茂りゆくほどこそ、世のあはれも、 戸をたたくような音をたてて鳴く。 さっき一五 人の恋しさもまされーと人のおほせられしこそ、げにさるものなれ。五月、あ宅みすぼらしい家。『源氏物語』 タ顔巻の情景をふまえていよう。 くひな ころさなへ みなづきころ みそかおおはらえ やめふく比、早苗とるころ、水鶏のたたくなど、心ぼそからぬかは。六月の比、穴六月晦日の大祓の行事。川原 一八 で邪気を払うために行われた。 ゅふが 一七 かやりび みなづきばらへ けんぎゅうしよくじよ あやしき家にタ顔の白く見えて、蚊遣火ふすぶるもあはれなり。六月祓又を一九七月七日夜、牽牛・織女の二 星が年一回出会うのを祭る行事。 かし。 ニ 0 さまざまなことが、一時に集 一九 中して、とり行われるのをいう。 たなばた よさむ カーり・ ニ一二百十日・二十日前後の暴風。 七夕まつるこそなまめかしけれ。ゃうやう夜寒になるほど、雁鳴きてくるこ その景は、『枕草子』の「野分のま わさだか ニ 0 ろ、萩の下葉色づくほど、早稲田刈りほすなど、とり集めたる事は秋のみぞ多たの日こそ」や『源氏物語』野分の 段 巻などに美しく描かれている。 のわきあした 一三「こと」は「言」。「ふる」は、古 かる。又、野分の朝こそをかしけれ。 くさくなるの意。 第 げんじのものがたりまくらのさうし おな 言ひつづくれば、みな源氏物語・枕草子などにことふりにたれど、同じ事、 = = 「おぼしきこと言はぬは、げ にぞ腹ふくるる心地しける」 ( 大 又今さらに言はじとにもあらず。おぼしき事言はぬは、腹ふくるるわざなれば、鏡 ) 。 はぎしたば い お しげ はら たんご
じゃうのむつのかみやすもり 城陸奥守泰盛は、さうなき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足を一 0 前段の義景の三男。父の没後、 むつのかみ 一八 秋田城介兼陸奥守、弘安八年 ( 一天 しきみ くら これ一七 そろへて閾をゆらりと越ゆるを見ては、「是は勇める馬なり」とて、鞍を置き五 ) 、執権北条貞時に滅ぼされた。 一五「双なき」。並ぶ者のない。 しきみけ にぶ かへさせけり。又、足を伸べて閾に蹴あてぬれば、「是は鈍くして、あやまち一六敷居。 毛気の荒い。 入鞍を他の馬に置きかえさせた。 あるべし」とて、乗らざりけり。道を知らざらん人、かばかり恐れなんや。 一九馬術の道。 ニ 0 伝未詳。 ニ一手ごわい。 第一八六段 一三馬と争う、はりあう。 ニ 0 ニ三「くちわ」の転。馬のロにかま よしだ うまのり・ 吉田と申す馬乗の申し侍りしは、「馬ごとにこはきものなり。人のカ、あらせる器具。これに手綱をつける。 品走らす。 そふべからずと知るべし。乗るべき馬をば、まづよく見て、強き所、弱き所を = = 秘密にしておくべきこと。乗 馬の秘訣である、の意。 くつわくら あやふ や以上二段、ともに馬術の名人の 知るべし。次に、轡・鞍の具に、危き事やあると見て、心にかかる事あらば、 話である。いずれも馬をよく調べ、 段その馬を馳すべからず。この用意を忘れざるを馬乗とは申すなり。これ秘蔵のその性質を明識した上で乗ってい る。名人のわざが慎重な調査と細 第事なり」と申しき。 心な配慮の上に築かれていること を、兼好はよく見ており、人生行 段 路にもまた、この智恵が必要であ 第 ることを説示しているのである。 第一八七段 実「不堪能」。↓一九二注二。 毛↓一九二ハー注八。 かんのうひか よろづの道の人、たとひ不堪なりといへども、堪能の非家の人にならぶ時、 ll< 専門の家柄でない人。 一五 いだ ひさう しら