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検索対象: 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草
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1. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

まゐ としば て参らせよ」と仰せられたりければ、花もなき梅の枝に、一つを付けて参らせ一鳥柴。鷹狩で得た鳥を木の枝 につけて贈る。その木の枝をいう。 ニ花盛りの枝にはつけないの意。 けり。 三五葉の松。 しばえだ 武勝が申し侍りしは、「柴の枝、梅の枝つぼみたると散りたるとに付く。五四まず一方から斜めに切り込み、 次に反対側から小さく切ること。 あるい なかば かへがたなごぶ 徒葉などにも付く。枝の長さ七尺、或は六尺、返し刀五分に切る。枝の半に鳥を = 葛藤。そのつるを裂かないま まで付けること。 ふた 付く。付くる枝、踏まする枝あり。しじら藤のわらぬにて、二ところ付くべし。六鷹の羽の末端。矢に使う。そ の長さにあわせて切ること。 ばたけ つの たわ 藤のさきは、いうち羽の長にくらべて切りて、牛の角のやうにたわむべし。初、「撓む」。曲げる。 八表門と寝殿との間にある門 ← 9 みぎり ゆきあした ちゅうもん ふるま った 雪の朝、枝を肩にかけて、中門より振舞ひて参る。大砌の石を伝ひて、雪に跡九独特の大げさな身ぶりをして。 一 0 寝殿の軒下の石畳。 ふたむねごしょカうらん をつけず、あまおほひの毛を少しかなぐり散らして、二棟の御所の高欄に寄せ = 鳥の翼の風切羽の根元をおお う短い羽毛。 しりぞ かく。禄を出ださるれば、肩にかけて、拝して退く。初雪といへども、沓のは一 = 寝殿の東北に設けられ、居間 や応接間などに使用された御殿。 らんかん なのかくれぬほどの雪には参らず。あまおほひの毛を散らすことは、鷹は、よ一 = 建物の周囲などの爛干。 高ご祝儀の品。衣類が多い。 ごし おんたか 一五一種の舞踏形式をとる拝舞。 わ腰をとる事なれば、御鷹の取りたるよしなるべし」と申しき。 一七 一六鳥の腰のくびれて細いところ。 ながっき 花に鳥付けずとは、いかなるゆゑにかありけん。長月ばかりに、梅の作り毛「九月ばかりに、梅の造り枝 に雉をつけて奉るとて、わが頼む 枝に雉を付けて、「君がためにと折る花は時しも分かぬ」と言へる事、伊勢君がためにと折る花はときしもわ かぬものにぞありける」 ( 伊勢物 つくばな 語 ) とあるから、造花につけるの 物語に見えたり。造り花は苦しからぬにや。 えふ 一四 ろくい きじ はべ はい ふぢ くっ はっ 一六

2. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

「霞立っ長き春日の、暮れに けるわづきも知らず・ : ぬえこ鳥う 第二一一段 らなけ居れば・ : 」 ( 万葉・巻一 ) 。 一六事の様子。事情。 うらいか 宅「通う」は通じる、似るの意。 よろづの事は頼むべからず。愚かなる人は、深くものを頼むゅゑに、恨み怒 一八権勢。 一九「強き」。強い、強力な者。 る事あり。 ニ 0 「孔子日ク、遇ト不遇トハ時 たから 一九 勢ひありとて頼むべからず。こはきもの先づほろぶ。財多しとて頼むべからナリ。 : ・何ゾ独リ丘 ( 孔子 ) ノミナ ニ 0 ランヤ」 ( 孔子家語 ) 。孔子も時勢 ざえ こうし ず。時のまに失ひやすし。才ありとて頼むべからず。孔子も時に遇はず。徳あにいれられず不遇であったとの意。 ニ一「顔回トイフ者アリ。 : ・不幸、 がくわい ちょう ちゅう ようや りとて頼むべからず。顔回も不幸なりき。君の寵をも頼むべからず。誅を受く短命一一シテ死セリ」 ( 論語・雍也 ) 。 「顔回」↓一七二ハー注吾 すみや やっこしたが そむはし る事速かなり。奴従へりとて頼むべからず。背き走る事あり。人の志をも頼む = = 罪を受けて殺されること。 ニ三信義。偽らないこと。 しん やく 品障害、さしさわりがない。 べからず。必ず変ず。約をも頼むべからず。信ある事すくなし。 ニ五いつばいにならず、余裕あり。 さう 段身をも人をも頼まざれば、是なる時は喜び、非なるときは恨みず。左右広け = = 「ひしぐ」は、つぶれる。 毛厳格、狭量である時は。 ぜんご せば 第ればさはらず。前後遠ければ塞がらず。狭き時はひしげくだく。心を用ゐる事 ll< 寛容で柔軟な時は。 ニ九毛の一本も、そこなわない。 段すこ さか ニ七 少しきにしてきびしき時は、物に逆ひ、争ひて破る。ゆるくしてやはらかなる = 0 「惟レ天地 ( 万物ノ父母、惟 ニ九 第 レ人ハ万物ノ霊」 ( 書経・泰誓 ) 。 いちまうそん 三一本性。天性。 時は、一毛も損ぜず。 三ニ ( どうして ) 天地の本性と異な かぎ 三 0 人は天地の霊なり。天地は限る所なし。人の性なんぞことならん。寛大にしることがあろうか、の意。 いき ニ四 ゃぶ ひ あ

3. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

( 現代語訳三二二 ) 一九 なさけ ど、げには心の色なく、情おくれ、ひとへにすくよかなるものなれば、始めよ一九「実には」。じつは。 ニ 0 心の情味、やさしさ。 いな ゆた り否と言ひてやみぬ。にぎはひ豊かなれば、人には頼まるるぞかし」とことわ = 一人情味が劣っており。 一三剛直。剛健。 ひじりニ五 しゃうげうニ七 られ侍りしこそ、この聖、声うちゅがみ、あらあらしくて、聖教のこまやかな = = 「賑はひ」。富み栄えて。 品判断、判定すること。 ひとこと ることわり、いとわきまへずもやと思ひしに、この一言の後、心にくくなりて、 = = 「うち」は接頭語。関東方言で 言葉がなまっていること。 ニ九 多かるなかに寺をも住持せらるるは、かくやはらぎたる所ありて、その益もあ = 六聖典。仏典。 毛きめこまかな道理。 るにこそと覚え侍りし。 ll< よくも理解できないであろう か。「もや」は「もやあらん」の略。 ニ九多くいる僧たちの中で。 第一四二段 三 0 守り保つ。管理すること。 にゆうわ 三一柔和なところ。 三四 三 = そのおかげもあるに相違ない。 ひとこと あらえびす 心なしと見ゆる者も、よき一言いふものなり。ある荒夷のおそろしげなるが、◆東夷堯蓮は、都会人兼好の肌 にあわなかったが、さすが個別的 ひとり 段かたへにあひて、「御子はおはすや」と問ひしに、「一人も持ち侍らず」と答へに人を見る眼を持っている彼は、 4 柔軟な上人の一言に、都会人とし なさけ みこころ 第しかば、「さては、もののあはれは知り給はじ。情なき御心にぞものし給ふらての偏見を改めているのである。 三三何のわきまえもない、の意。 段 ゅゑ んと、いとおそろし。子故にこそ、よろづのあはれは思ひ知らるれ」と言ひた = 0 東国の荒武者。 第 三五ここは、人間の情味の意。 おんあい じひ りし、さもありぬべき事なり。恩愛の道ならでは、かかる者の心に慈悲ありな = 六思いあたる。心に自覚される。 毛親子・夫婦・兄弟など肉親間 けうやう の愛情。 んや。孝養の心なき者も、子持ちてこそ、親の志は思ひ知るなれ。 三天 ぢうち

4. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

ニ四 ( 現代語訳一一八五叮 ) むさ だい よろづちくるい けれ。ひとへに貪る事をつとめて、菩提におもむかざらんは、万の畜類にかはとはいっても、悪には縁遠くなり。 品悟りをひらいて往生すること。 る所あるまじくや。 ニ五「や」は疑問の助詞。 ◆「道心あらば : ・」の語は、じつは 修道の本質に遠い観念論であるこ 第五九段 とを、外縁に左右されがちの人間 を知る作者は明識し、正統的な出 家遁世に踏みきるべきことを、強 く勧奨している。 大事を思ひたたん人は、去りがたく、心にかからん事の本意を遂げずして、 実仏語「一大事」。仏道修行の大 さた さながら捨つべきなり。「しばし、この事はてて」、「おなじくはかの事沙汰し事。 毛避けがたく。取り去りにくく。 あざけり ゆくすゑな II< もうしばらく。 おきて」、「しかしかの事、人の嘲ゃあらん、行末難なくしたためまうけて」、 ニ九処置する、始末する意。 さわ 「年来もあればこそあれ、その事待たん、ほどあらじ。もの騒がしからぬゃう = 0 非難のないように。 三一処置しておいて。「まうく」は、 に」など思はんには、えさらぬ事のみいとどかさなりて、事の尽くるかぎりも前もって準備すること。 三ニこれまで何年も、こうして事 なく、思ひ立つ日もあるべからず。おほゃう、人を見るに、少し心あるきはは、なく過してきたのだからの意。 三三あれこれ事の始末を待つのに。 いちどす 品避けられないこと。 段皆このあらましにてぞ一期は過ぐめる。 三五分別ある程度の人々は。 はぢ 近き火などに逃ぐる人は、「しばし」とや言ふ。身を助けんとすれば、恥を = 宍予測。心づもり。 第 三九 毛一生。 たから 三八 むじゃうきた も顧みず、財をも捨てて遁れ去るぞかし。命は人を待つものかは。無常の来る六寿命は人の都合を待つもので あろうか。「かは」は反語の助詞。 すみや 事は、水火の攻むるよりも速かに、遁れがたきものを、その時、老いたる親、究死。 としごろ かへり だニ い′、 すいくわ のが ニ七

5. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

じゃうのむつのかみやすもり 城陸奥守泰盛は、さうなき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足を一 0 前段の義景の三男。父の没後、 むつのかみ 一八 秋田城介兼陸奥守、弘安八年 ( 一天 しきみ くら これ一七 そろへて閾をゆらりと越ゆるを見ては、「是は勇める馬なり」とて、鞍を置き五 ) 、執権北条貞時に滅ぼされた。 一五「双なき」。並ぶ者のない。 しきみけ にぶ かへさせけり。又、足を伸べて閾に蹴あてぬれば、「是は鈍くして、あやまち一六敷居。 毛気の荒い。 入鞍を他の馬に置きかえさせた。 あるべし」とて、乗らざりけり。道を知らざらん人、かばかり恐れなんや。 一九馬術の道。 ニ 0 伝未詳。 ニ一手ごわい。 第一八六段 一三馬と争う、はりあう。 ニ 0 ニ三「くちわ」の転。馬のロにかま よしだ うまのり・ 吉田と申す馬乗の申し侍りしは、「馬ごとにこはきものなり。人のカ、あらせる器具。これに手綱をつける。 品走らす。 そふべからずと知るべし。乗るべき馬をば、まづよく見て、強き所、弱き所を = = 秘密にしておくべきこと。乗 馬の秘訣である、の意。 くつわくら あやふ や以上二段、ともに馬術の名人の 知るべし。次に、轡・鞍の具に、危き事やあると見て、心にかかる事あらば、 話である。いずれも馬をよく調べ、 段その馬を馳すべからず。この用意を忘れざるを馬乗とは申すなり。これ秘蔵のその性質を明識した上で乗ってい る。名人のわざが慎重な調査と細 第事なり」と申しき。 心な配慮の上に築かれていること を、兼好はよく見ており、人生行 段 路にもまた、この智恵が必要であ 第 ることを説示しているのである。 第一八七段 実「不堪能」。↓一九二注二。 毛↓一九二ハー注八。 かんのうひか よろづの道の人、たとひ不堪なりといへども、堪能の非家の人にならぶ時、 ll< 専門の家柄でない人。 一五 いだ ひさう しら

6. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

徒然草 2 圏 た一つの枝に二羽をとりつけることも、存じておりませ場合には、参上しない。あまおおいの毛をむしり散らすこ よわごし とは、鷹は獲物の鳥の弱腰をつかむものであるから、お飼 ん」と申しあげたので、関白殿は膳部の料理役にお尋ねに いになっている鷹が、その鳥を取ったという趣向であろ なり、人々にもお聞きになって、再び武勝に「それならば、 う」ということであった。 おまえの思うとおりに、とりつけてさし出せ」と、お命じ 花に鳥をつけないとは、どういう理由であったろうか。 になったところ、花もない梅の枝に、雉一つをつけてさし 陰暦九月のころに、梅の造り枝に雉をつけて、「君がた あげた。 としば めにと折る花は時しも分かぬ」と言っていることが、伊 武勝が申しましたことは、「鳥柴の枝としては、梅の枝 ごよう 勢物語に出ている。造り花ならば、さしつかえないので で、花の蕾んでいるのと散っているのとにつける。五葉の あろうか 松の枝などにもつける。枝の長さは七尺あるいは六尺で、 切る作法は、返し刀で五分の長さに切る。枝の半ばほどに 第六七段 鳥をつける。枝には、とりつける枝と鳥の足に踏ませる枝 つる 上賀茂神社の末社の岩本社・橋本社の祭神は、在原業 とがきまっている。つづらふじの蔓を裂かないままのでも って、二ところつけるものである。藤の先端は、ひうち羽平・藤原実方である。人々が、いつも二社の祭神をとりち がえ言い誤りますので、ある年参拝しましたときに、年と の長さに合せて切って、牛の角のように曲げるものだ。初 ちゅうもん った神官の通りすぎたのを呼びとめて、尋ねましたところ、 雪の朝、枝を肩にかけて、中門から容儀をつくろって参上 まっ みたらし おおみぎり 「実方の祀られたのは、御手洗の川に姿が映った所だとあ する。大砌の石の上を伝わり歩いて、庭の雪に足跡をつけ りますから、橋本は、やはり流れが近いので、実方のほう ぬようにし、雉のあまおおいの毛を少しむしり散らして、 ふたむねごしよらんかん かと思われます。吉水の和尚が、 二棟の御所の爛干に、その枝を立てかけておく。引出物の 月をめで花をながめしいにしへのやさしき人はここに 衣類をくださったならば、肩にかけて、拝舞の礼をして退 ありはら 出する。初雪であっても、沓の先が隠れないくらいの雪の つな くっ わ

7. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

一七 せいきゅう さて、後に仰せられけるは、「この相国、北山抄を見て、西宮の説をこそ知一六藤原公任著。有識故実の書。 同書巻八に、「社頭に至りては警 あくじん けんぞくあくき られざりけれ。眷属の悪鬼・悪神をおそるる故に、神社にて、ことにさきをお蹕せず」と見える。 毛『西宮記』。源高明著。有識故 ことわ - り 実の書。 ふべき理あり」とぞ仰せられける。 一八神の従者、家来。 一九「定額」ということは、「諸寺 の僧」にあるのみでなく、の意。 第一九七段 ニ 0 きまった額、数量。一定の員 数の意。朝廷から供料を賜る僧で、 えんぎしき ちうがくによじゅ 諸寺の僧のみにもあらず、定額の女孺といふ事、延喜式に見えたり。すべて、その定員には限定があった。 一 = 宮中の雑役に奉仕する下級の くにんつうがう 女官。これも人数がきまっていた。 数さだまりたる公人の通号にこそ。 一三延喜五年 ( 九 0 五 ) の勅命で撰進 された律令の施行細則。五十巻。 ニ三宮中に仕える地下の役人。 第一九八段 品名ばかりで職掌も俸給もない さかん すけ ニ四 介 ( 国司の次官 ) 。「目」は四等官。 ゃうめいのさくわん せいじえうりやく ゃうめいのすけ これむねときすけ ニ五惟宗允亮著。平安中期の法制 段揚名介にかぎらず、揚名目といふものもあり。政事要略にあり。 書。巻六十七にこのことが見える。 第 ニ六比叡山三塔 ( 東塔・西塔・横 川 ) の一。兼好もかって修道した 第一九九段 段 聖地。 毛伝未詳。法印↓一四四ハー注一 0 。 たうど りつおん よかはのぎうせんふいん りよせんうりっせんなう 横川行宣法印が申し侍りしは、「唐土は呂の国なり。律の音なし。和国は単 ll< 音階に呂旋法と律旋法とがあ 、前者は理性的、後者は情感的 りよおん 2 りつ な旋法といわれている。 律の国にて、呂の音なし」と申しき。 りよ くざんせう わこくたん

8. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

一五不思議で普通と違った様相。 乱れずと言はば心にくかるべきを、愚かなる人は、あやしく異なる相を語りつ 一六つけ加えて語り。語りそえ。 け、言ひし一一一口葉も、ふるまひも、おのれが好むかたにほめなすこそ、その人の毛好みの方向に引きつけて、ほ めそやす。 穴臨終という一大事。 日来の本意にもあらずやと覚ゆれ。 けしん ニ 0 一九神仏の化身。神仏が人を救う ごんげ さだ かり この大事は、権化の人も定むべからず。博学の士もはかるべからず。おのれために、権に姿をかえて、この世 に現れる、その人。 ニ 0 ( よしあしを ) 判定することは たがふ所なくは、人の見聞くにはよるべからず。 できない。 ニ一測定する。「定む」の対句。 一三わが身、本人さえ間違いがな 第一四四段 ければ ( 正しければ ) の意。 一一三京都市右京区高尾栂尾の高山 かは け・こんしゅう こう・ヘん 栂尾の上人、道を過ぎ給ひけるに、河にて馬洗ふ男、「あしあし」と言ひけ特再興、華厳宗を中興した高弁、 明恵上人。寛喜四年 ( 一一三一 l) 没。 あじあじ とな たふとしゆくしふかいほっ れば、上人立ちとまりて、「あな尊ゃ。宿執開発の人かな。阿字阿字と唱ふる品前世の善根珈際が、現世に開 き出て善根を結んだ、りつばな人。 おんうま 段ぞや。如何なる人の御馬ぞ、あまりに尊く覚ゆるは」と尋ね給ひければ、「府 = = 「足」を「阿字」と聞きなした。 ニ七 ニ六近衛府の下級官人の「府生」を 1 しゃうどの あじんふしゃう 第生殿の御馬に候」と答へけり。「こはめでたき事かな。阿字本不生にこそあな「不生」と聞きなした。 毛梵語の十二母韻の第一音。こ 段 けちえん 4 ・ の音が元になって一切の語が生れ れ。うれしき結縁をもしつるかな」とて、感涙をのごはれけるとぞ。 第 るので、「阿字」は宇宙の根源で、 他の因によることなく、また本来 不生不滅である、とする仏教観。 第一四五段 ll< 仏道に縁を結ぶこと。 ひごろい とがのをしゃうにん 一八だいじ いか 一五 をのこ こと さう一六 とがのお

9. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

ニ 0 さりげなく、それとなく見る。 なし。 ニ一賀茂祭。↓九三謇注一四。 み さやうの人の祭見しさま、いとめづらかなりき。「見ごと、いとおそし。そ = = 見物の対象になる行列をいう。 ゐごすぐろく さドレを、ふよう や 品桟敷に接し、その奥の一段低 のほどは桟敷不用なり」とて、奥なる屋にて酒飲み、物食ひ、囲碁・双六など い所にある家屋。 おのおのきも ニ五さうら 遊びて、桟敷には人を置きたれば、「渡り候ふーといふ時に、各肝つぶるるや = 五「行列が通ります」の意。 ニ六落ちてしまいそうなほど身を あらそ すだれは うに争ひ走りのぼりて、落ちぬべきまで簾張り出でて、押しあひつつ、一事ものり出し、簾を外に押し出して。 毛ああだ、こうだ。 見もらさじとまぼりて、「とあり、かかり」と、ものごとに言ひて、渡り過ぎ夭目に人る物ごとに、いちいち。 ニ九奥の家におりてしまう。 ニ九 三 0 ぬれば、「又渡らんまで」と言ひておりぬ。ただ、ものをのみ見んとするなる = 0 祭の行列そのものだけを 三四 三一身分の高そうに見える人 わかすずゑ みやづか ねぶ 三五 三三身分の低い人びと。 うしろ およ へに立ち居、人の後にさぶらふは、様あしくも及びかからず、わりなく見んと = 0 貴人の奉仕に立ったり坐った りしており。 三五ぶざまにのしかかったりせず。 する人もなし。 三六特定の何にということもなく、 あ なに しの 段何となく葵かけわたしてなまめかしきに、明けはなれぬほど、忍びて寄するあたり一帯あれにもこれにも。 四 0 毛車・簾をはじめ何くれとなく うしかひしもべ 三九 車どものゆかしきを、それか、かれかなど思ひ寄すれば、牛飼・下部などの見葵をかけたので、葵祭の名がある。 第 lll< 主人が何となく知りたくて。 かた 三九あの方か、この方かなどと。 知れるもあり。をかしくも、きらきらしくも、さまざまに行きかふ、見るもっ うしかいわらわ 8 四 0 牛飼童の略。牛使い。 な なら れづれならず。暮るるほどには、立て並べつる車ども、所なく並みゐつる人も、巴優美に、また華美に飾り立て。 あひ ニ七 い びとこと 0

10. 完訳日本の古典 第37巻 方丈記 徒然草

81 第 2 段 ~ 第 3 段 ふみみちさくもんわか くわんげん ありたき事は、まことしき文の道、作文・和歌・管絃の道、又有職に、公事 = 一漢詩を作ること。 一三典例・故実などに明らかで。 かた の方、人の鏡ならんこそいみじかるべけれ。手などったなからず走りがき、声 = = 公の儀式作法等の規定や慣例。 しやく ニ四笏に似た二枚の板をたたいて げこ 調子をとること。 をかしくて拍子とり、いたましうするものから、下戸ならぬこそ男はよけれ。 ニ五心苦しく迷惑そうにはするが。 ◆第一段の冒頭から、まず人間の 欲求について語りはじめているこ 第二段 とに注目したい。 えんぎてんりやく 実聖天子のご治世。延喜・天暦 みよまつりごと うれへ いにしへのひじりの御代の政をもわすれ、民の愁、国のそこなはるるをもの醍醐・村上両天皇時代をさす。 毛華美のかぎりをつくして。 よろづニ七 ニ九 夭あたり狭しといばるさま。 知らず、万にきよらをつくしていみじと思ひ、所せきさましたる人こそ、うた ニ九程度の甚だしい意。まるで。 て、思ふところなく見ゆれ。 三 0 朝廷に出仕する際の略式公服。 もろすけ 三 0 三一右大臣藤原師輔。天徳四年 ( 九 いくわん うまくるま 「衣冠より馬・車にいたるまで、有るにしたがひて用ゐよ。美麗をもとむる事六 0 ) 没。彼が子孫に遺した訓戒書。 うつ 三ニ承久の乱 ( 一一三 l) 後、佐渡に遷 じゅんとくゐん きんちゅう きんびしよう なかれ」とぞ、九条殿の遺誡にも侍る。順徳院の、禁中の事ども書かせ給へるされた院の著、『禁秘抄』をさす。 三三公 ( 天皇 ) のお召物。 三四粗末な物。 にも、「おほやけの奉り物は、おろそかなるをもてよしとす」とこそ侍れ。 ◆一転して、時の為政者に対する 批判が展開される。 三五恋の情趣を解しえないような。 第三段 三六ものたりなくて さかづきそこ 毛「玉ノ巵ノ当ナキハ、宝トイ 三七さかづきそこ もんぜん よろづにいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざうしく、玉の巵の当 ( ドモ用ニアラズ」 ( 文選 ) 。 ニ四 はうし くぞうどのゆいかい 三五この 三四 はべ をのこ びれい をのこ いうそく だいご