の女、右に新大納言、おなじ三位兼行とかやの女。四の左をしなべてみなすはうのはり一重がさね、くれなゐのひへ 宰相君、房門三位基輔の女、右治部卿かねともの三位の女ぎ、こきはかま、すはうのうはぎ、あをくち葉のから衣、 なり。それよりしもはれいのむつかしくてなん。おほくは うす色のも、みへだすき、上下おなじさまなる。まいり給 本所のけいし、なにくれがむすめどもなるべし。わらは、 ひぬれば、蔵人左衛門権佐俊光うけたまはりて、手ぐるま しもづかへ、御ざうし、はした物にいたるまで、かみかた のせんじあり。殿上人まいりて御車ひき入。御せうと中納 ちめやすく、おやうちぐし、すこしもかたほなるなくとゝ 言公衡、別当かね給へり。うへの御おいの左衛門督通重、 のヘられたり。 御せうとになずらふるよしきこゆれば、御びやうぶ、御木 そのくれつかた、頭中将為兼朝臣、御消息もてまいれり。丁たてらる。ひの御座へ御車よる。御ふすま、二位殿まい 内のうへ、身づからあそばしけり。 らせ給ふ。御だいまいりて、夜のおとゞへ御のばり。この 雲のうへに千代をめぐらんはじめとてけふの日かげも御ふすまは、京極院のめでたかりしれいとかや聞えて、公 かくや久しき 守の大納言さたし申されけるとかやうけたまはりしは、ま くれなゐのうすやう、おなじうすやうにぞっゝまれため ことにや侍りけん。三夜のもちゐも、やがてかの大納言さ る。関白殿、「つゝむやうしらず」とかやのたまひけると たし申さる。内のうへの、夜のおとゞへめしていらせ給へ 鏡 増て、花山に心えたるときかせ給ひければ、つかはしてつゝ る御さうかいをば、二位殿とりていでさせ給ひて、大納一言 料ませられけるとぞうけたまはりしとかたるに、又このぐし殿とふたりの御中にいだきてね給ふと聞えし。さきみ、も 考たる女、「いっぞやは、御つかひ、実教の中将とこそはか さる事にてこそは侍りけめ。 八日、御所あらはしとて、うへわたらせ給へば、袖ロど 録たり給ひしか」といふ。 付 女御の御よそひは、すはうのはり一重がさね、こきうら も心ことにて、わざとなくをしいださる。けふは、をの / 、紅のひとへがさね、あをくちばのうはぎ、二あゐのか のひへぎ、こきすはうの御うはぎ、あかいろの御から衣、 こき御はかま、地ずりの御もたてまつる。女房のよそひ、 ら衣なり。大納言どのもさぶらはせ給ふ。うへも御だいま
270 いる。二位殿御はいぜん、女御のは一条どのつかまつり給の御はかま、御もん竹たてわけをゝる。うへは、御ひきな をし、すゞしの御はかま、らひしまいる。御陪膳一条殿、 ふ。女御の君は、すはうのはり一重がさね、紅のひへぎ、 けふよりはうちとけたる心ちにて、女房ども色 / 、の一重 あをくち葉のうはぎ、あか色のからぎぬ、二重をりもの、 がさね、唐衣、さまみ、めづらしき色どもをつくして、 既からのうすものの御裳、こきあやの御はかま、御ぐしいと ずうるはしくてさかりにねびとゝのほり給へる、いと見どこすゞしのはかまにきかへたる、いますこし見どころそひ、 とろおほくめでたし。御ともにまいり給へる人み、、右大臣、なっかしきさまなり。とくせん、らひしをもてまいる。次 内大臣、大納言左大将、花山院中納言、権大夫、殿上人ど第にとりつぎてまいらす。かねの御ごき、しろかねのかた も、あまたこゝかしこのうちはし、わたどのなどに、けし くちの御てうし、一条どの御はいぜん、そのゝち、女御殿 きばみつゝむれゐたるも、えんなる心地すべし。上達部の も御てうしにてかけさせ給ふ事侍りけり。こよひ二位殿、 けんばいはてゝのち、内の御方の御めのとをはじめて、内今出河へまかで給ふ。て車のせんじ内より給ふ。御をくり に御子の公衡中納言、御おいの通重の左衛門督など、殿上 侍、女官ども、かなゐ殿までろく給はる。 十日夕つかた、下大所の御らんあり。だいばん所の北の人どもあまたなり。ぬいどのゝ陣より出給ふけしき、いと よそほし。 御つばへまいる。そばのまにて、内の御かた御らんぜらる。 まことや、御入内の夜の御使、勾当内侍まいれりしろく やがて東向より女御も御らんず。二位殿、一条どの、二条 に、うはぎ、からぎぬを給はる。御せうそこの御つかひに どのをはじめて、上らうだつ人み、、あまたさぶらひ給ふ。 まいれりしうへ人も、女の装束かづきながら帰りまいりて、 御すのとにも、上達部あまたさぶらはる。いとはれみ、し。 十四日、又うちのうへいらせ給ひて、こなたにてはじめ殿上口におとしすつ。とのもりづかさぞとるならひなりけ る。後朝の御使には、実貫中将なりし。公衡の中納言対面 て御みききこしめせば、南おもてへいでさせ給ふ。女御、 して、けむばいののち、これも女のしゃうそくかづけらる。 すはうの御ひとへがさね、はぎのたてあをの御うはぎ、く かくて八月廿日、后に立給ふ。かねてより今出川の御家 ちばの御こうちき、みな二重をり物、あやのをり、すゞし
つりける。御へいまいらせたまふ。またわたくしにもまい す。女のあそびともみえず。たゞあらんだにあるべきに、 2 りて、へいたてまつる。としおいたる神とのもりあり。こ うみのほとりにめおどろかす物やあらんとおばゅ。でんが のやしろはかものみくりやに、このとまりのまかりなりし くはてにしかば、国のずしとて、おかしげなる物どもまい 既そのかみ、ふりわけまいらせて、御しるしあらたなり。やりて、ずしはしりつかふまつる。日くれにしかばみなまか でぬ。うら / 、御らんじゃりて、いる日のそらにくれなゐ ずしろ五六、大やかにてならびつくりたる。っゞみうちて、 とひまなく神なぎどもあつまりてあそびあいたり。これは御をあらいて、むかひなるしまがくれなる山のこだちども、 道のほど、あめかぜのわづらひなどの御いのり申とそきこゑにかきたる心地するに、御めにかゝる所 / 、たづねさせ 給。このむかひなる山のあなたに入道おとゞはおはすると ゆる。雲わけむの御ちかひも、思ひがけぬうらのほとりに たのもしくぞおばゆる。 申に、きこしめして御気色うちかはりにしかば、人 / 、ま でもあはれに思心の中どもみえたり。あからさまとおもふ 廿三日に空もはれかぜもしづまりて、ありあけの月あは ぢしまにをちかゝりて、またなくおもしろければ、 とまりだにもものあはれなるに、ましてゑびすがたちにい りぬらん気色、いかばかりとおばゅ。くにつなの大納一一 = ロ御 あはちしまかたぶく月をながめてもよにありあけの思 ひいでにせん をとづれありつなど申ける。なにのはヘもおばしめしわか びぜんのくにこじまのとまりにつかせ給。御所つくりたず。この国にやはたのわか宮おはしますときこしめして、 へいたてまつらせ給。 り。御物ゝぐどもあたらしくとゝのヘをきたり。かむだち 廿四日のとらの時につゞみをうちて、び中のくにせみ め殿上人どものしゆく所どもっくりならべたり。しほすこ しひて、御ふねつき給。みぎはとをければ、御こしにてぞ とゝいふ所につかせ給。くにみ、ふかくなるまゝに、山の のばらせ給。御所の東の御つばにがくやをつくりて、入道木だちいしのたちゃうもきびしくみゆ。 内侍どもぐしてまいる。さまみ、のひたゝれども、にしき 廿五日のさるの時に、あきのくにむましまといふところ つく。これにてみなうしほにてかみをあらひ、身をきょ をたちいれ、はなをつけたる八人、あつまりてゞむがくを
とよのあかりえぞうし 豊明絵草子 、身にうれへたる色なし。人間に生をうけたれども、四 豊明のよな / 、は、淵酔舞楽に袖をつらねてあまたとし、 苦も八苦も身にあたらむものともしらざれば、善現城のた 臨時調楽のおり / 、は、おみのころもにたちなれて、みた らし河にかげをうっす。年いまだみそぢにみたずして、黄のしみにもことならず。たゞもろとものあそびたはぶれに 門郎にあがりて、あまさへ左大将をかけて朝恩にほこるの夜をあかし、日をくらすよりほかのことなし。愛に着し色 にそみて、有為無常のなさけなきことはりをしらず。もの みならす、家にありては、まどのうちにかしづかれて、天 にふれ、ことによそへては、松竹千秋のたのしみをいはふ。 子に、いをかけ、禁中にまじらはせむことを思かしづかせけ ( 麟 ) る人のむすめをえたり。かの楊玄珱がむすめをはじめてえ亀鶴をともとし、鳳鱗をもてあそびとす。家のうち門のほ か、たのしみいさめるよりほかのことなし。さらにかなし 給へりけむ、皇帝の御心地にもすぎたり。草のかりねのう みちまたにうれふれども、きくことなければこれをさとら 子ちふすほども、ひとりは夜をあかさず、あけぬる夜半のき 絵ぬム \ も、たちはなるべくもなし。公事につかふるおりず。貧窮孤独のたぐひは、めに見ざればありとだにもしら ず。卑賤醜陋のやからはちかづかざればあはれむことなし。 豊 / 、は、いゑちをおもふに、、。 してむことのみ心もとなく、 かたみにいまだいはけなかりしょはひのほどよりあひとも 料あけてもおなじゅかをはなるゝことなく、くれてもおなじ なひて、世々の宿縁あさからざりければにや、男女の子息 考ふすまをかはさぬ夜をへだつることなし。こゝろこと葉も 録たくみに、しわざありさまも人にすぐれたり。はるはみど両三人かずをそへたりき。 ( 偕 ) 付 陛老同穴のちぎり、年月をかさねて十とせあまりの春を りにかすむより、晴のそらに落花をおしみて哥をながめ、 7 秋は野もせのむしをまがきにうっして、管絃糸竹のねにあすぎぬるに、その秋ながっきのころ、女にはかにあきのき りにをかされて、やまふのゆかにふしたり。しばしはかり はせてあはれをそへ、すべて時につけて心にたらぬことな
そめのあだことゝおもふだに、「ときのまもわが身にかふ みちをまどへり。みゝにちかづきて名号をすゝむれども、 るならひもがな」とおもひむせぶより、やう / 、人間のう聞にもあらず唱にもたえず。しかれども知識こと葉をのこ れへのうち一苦はまづきたれり。なげきのせちなるにそへ さず種々に安慰してすゝめて念仏せしむるに、、いをはげま 既て、有験智徳の僧はみやまをたづねてのこるなく、陰陽医して十念は具足しぬ。罪五逆にいたらざりし力は ず療の道々はもるゝすくなくあつまれり。金銀珠玉のたから、や見金蓮花猶如日輪の説虚妄ならざれば、さだめて下品三 と七珍綾羅のたぐひ、かずをつくしてはらひいで、家にった生のうてなにはのそみをやとげぬらむかし。 つら / 、このことを案ずるに、鴛鴦眦鯛の契たちまちに へたる宝物、世にきこえたる名馬ども、霊仏霊社へたてま つれり。おもひのこすことなく、心のいたらぬくまもなし。わかれ、生者必滅のことはりのがれざりければ、この火宅 ちからをつくすによらざれば、日かずはつもれどもしるし にかげをとゞむべき心地せず。中にも刹那のきざみ知識の 気色見しにおもひっきしなれざりける、後悔まことにさき 仏神のちからのよはきにはあらず、運命かぎりありて定 にたゝざりけるうらみ也。春霞飛花のあそび、秋風明月の 業きはまりにければ、みち / 、の験徳しるしなきがごとし。 たはぶれ、簫笛琴瑟のしらべ、流泉啄木の曲、一として臨 日々にかげかたぶきて、ひつじのあゆみやう / 、ちかづき、終々焉のゆふべにはしなれても要なかりけり。みゝのよそ にきゝ、こと葉のってにいまひし南無阿弥施仏の六字の名 夜々にけしきょはりて、朝露のいのちきえなんとす。法術 ちからっきて、命那につゞまる時、さはぎて一人のひじ号にすぎたることはなし。しかじ、始てならはむよりは、 りをかたらひて、はじめて弥施の宝号をすゝむ。年月しな これをくちなれて、亡魂の冥途のともとして身づからが浄 しょ / 、心をすゝめむがために、な れざることなれば、ロにとなふるに物うく、みゝにきくこ土の資粮とせんには。、 みだをゝさへて、かのやまおくりをして、なりはつるあり とかすかなり。浄土宝刹の荘厳をとけども、聞なれざるす さまを見るに、そゝや霓裳羽衣の舞たとへとするにあかざ ぢなれば、三種の愛に心をとゞめて、懺悔のおもひにひる りしすがた、いたづらに東岱の雲とのばりぬるありさま、 がヘらず。知識すゝむるにたよりをうしなひ、教化の詞に
にしにわらざをしきて御ゃうじのざとす。神馬一びきたつ。 む。宮じまちかくなりにけりと、きよき心をゝこす。 さゑもんのぜうのぶさだ、時むねこれをひく。きたをもて 廿六日。そらの気色うらゝかにて、神の心もうけよろこ などもいまだはじめをかれねば、御ともにはかんだちめの ばせ給にやと、めぐみもかねてしるし。日さしいづる程に いでさせ給。むまの時に宮じまにつかせ給。神ほうのふねさぶらひをそめされける。たかふさの中将御前に候。宮内 たづねらる。かねてまいりまうけたるよし申。御ゃうじの少輔むねのりやくそうをつとむ。御けいはてぬれば、めし つかひ御くつをもちてさきにまいる。くわいらうのきたの ふねしばらくまたるゝ。空のけしき、所のありさま、めも はまをめぐりてまいる。らうをとおりてまいらせ給。くら 心もをよばず。だいたうの湖心寺かくやとそみへ、神山の ゐの御時は、一二ちゃうをだにもえんだうをこそまいらせ ほらなどにいでたらん心地す。宮じまのありのうらに神ほ しに、めしならはぬ御くつもいかゞとぞおばゆる。上達部 うとゝのへたてて御はいあり。やしろづかさかりぎぬなど のきたる物、神ほうもちてまいる。おほぬさにはらへきよめ殿上人御ともに候。まらうどの宮にまづまいらせ給。こむ 旨ロ ム、のへいは二さゝげ、しろたへのへい、神くわんとりて 幸申てまいらする。ときざねの中将とりつぎてまいらす。し ほうぜんにそなへならべたつ。はいでんのうちのほど、か 島ほひくほどにて御所へ御ふねいらねば、はしふねにてそお うらいのはむでう一帖、御はいのざとす。こむみ、のへい 院りさせ給。かむだちめ御ふねにさぶらひて、宮じまのみな かねみつの弁ったへとりて、たかすゑの大納一言、たふ大納 縞みの方、三げむ四めむの御所つくりて、しゃうじのゑども 言、ったへとりてまいらす。御はいをはりて返らせ給。の 料うみのかたをぞかきたる。うみのうゑなぎさまでらうをつ とのしたまわる。御こと一、御びわ一、御ひやうし、よこ 考くりつゞけて、しほみたば御ふねをさしよせんずるしたく ぶゑうけとりて、ほう前にならべをく。内侍ども色 / 、さ 録をぞしたる。御ゅ殿などありて、きぬの御じゃうえめして 付 まみ、にしゃうぞきてにしきをたちきたり。ぬい物せしめ、 いでさせ給。御所のひんがしのにはにしらきのつくゑをた 9 てゝ、こもをしきて、しろたへのへいをよせたつ。そのひも心もをよばず。御かぐらをはりて大宮へまいらせ給。御 ほうへいはてゝ御きゃう供養あり。金でいの法花経一部、 がしにからびつのふたをあけてこがねのへいをおく。その
こしちかくさぶらひて、所み、とはせたまふ。やせどうじ いづれのさとにか、にはとりのほのかにきこへていと物 あはれなり。よものうら / 、かすみわたりて、たゞならぬ をぞざすのめして、御こしつかうまつる。はりまの国山だ といふところに、ひるの御まうけあり。心ことにつくりた春のあけばのに、たびの袖のうゑ、そのことゝなくそしほ たれける。しほみちぬ、いでさせ給べしとて、我も / 、と り。にはにはくろきしろきいしにて、あられの方にいし だゝみにし、まつをふき、さまみ、のかざりどもをぞしわふねどもいとなみたり。ちかく候へなど、たのもしくおば しめしたる、いとかたじけなし。からの御ふねよりつゞみ たしたる。御まうけうみのいろくづをつくし、山の木みを ひろいていとなめる。とばかりありてぞいでさせ給。かぜを三たびうつ。もろ / 、の舟ども、はじめてこのこゑにみ すこしあらだちて、なみのをとも気あしくきこゅ。うかべ なとをいづ。いではてゝそ一の御ふねはいださるる。ふな こかんどりなど、、いことにさうぞきたり。はじこがしのあ るふねどもすこしさはぎあひたり。あかしのうらなどすぐ いずりに、きなるきぬどもかさねて廿人きたり。なぎたる るにも、なにがしのむかししほたれけんも思ひいでらる。 旨ロ 幸さるの時に、たかさごのとまりにつかせ給。よものふねど あさのうみに、ふな人のえいやごゑ、めづらしくぞきこゅ る。むまの時かたぶきし程に、むろのとまりにつき給。山 島もいかりおろしつゝ、うら / 、につきたり。御ふねのあし まはりて、そのなかにいけなどのやうにそみゆる。ふねど 院ふかくてみなとへかゝりしかば、はしふね三ぞうをあみて、 高御こしかきすゑて、かんだちめばかりにて御舟にたてまつもおほくつきたる。そのむかひにいゑしまといふとまりあ 料りし。きゝもならはぬなみのおと、いっしかおどろ / 、し り。つくしへときこゆるふねどもは、かぜにしたがひてあ 考 く、うら人のこゑもみゝにとまりたり。これよりそ、国れにはつくよし申。むろのとまりに御所つくりたり。御舟 参 / 、ヘめされたる夫など返っかはさるゝ。たよりにつけて よせておりさせ給。御ゅなどめして、このとまりのあそび 録 付 ものども、ふるきっかのきつねのゆふぐれにばけたらんや 宮こなる人にをとづれける。 おもひやれ心もすまにねざめしてあかしかねたるよゝ うに、我も / 、と御所ちかくさしょす。もてなす人もなけ のうらみを ればまかりいでぬ。この山のうゑにかもをそいはゐたてま
寺といへり。この井の本縁によりて、つけらるゝところな 化尼此像の深義をときていはく、「南のヘりには序分を り。役行者、この仏庭に末代の法苗のため、一本の桜樹を あらはし、北のヘりには三昧正受のむねをのべ、中台には うへられたり。人みな霊木といへり。花のいろ芬馥せり。 四十八願の浄土の相をとゝのへ、下方には上中下品の来迎 號そのゝちおほくのよゝをへて、かけのくちきとなれり。し の義をつくせり」となり。これをきくになみだ二のそでを ずかれどもそのたねおひかはりて、はるやむかしのいろをの しばるといへども、心は九品の土にまうづるがごとし。本 とこせり。かの霊地にあひあたりて、この井をもほられたる願の尼つら / 、この事をおもふに、弥陀の智願として大聖 の定通なりとおもへり。すなはちこれ、生身の如来をおが おなじき廿三日のゆふべ、化女一人きたれり。そのかた みたてまつりて、極楽の荘厳をみるにあらすや。こゝに化 ちみやびかなる事、天女のごとし。化尼にとひていはく、 尼、四句偈をつくりていはく、 「はすのいとすでにとゝのへまうけ侍や」といふ。すなは 往昔迦葉説法所法基今来作仏事郷懇西方故我来 ち、いろ /. 、のいとをさゝげさづくるに、わら二はをあぶ 一入是場永離苦 ら二升にひたしてともしびとす。堂のいぬゐのすみをしめ この偈をきくになみだをながし、たましひをけす。とき て、いろはたをたてゝ、 いぬのときよりとらの時におよび に本願尼なく / 、その由来をとふに、化尼のいはく、「わ て、あしだまもてだまもゆらにおりいだせり。そのゝち化れは西方極楽の教主なり。おりめはわが左脇の弟子観音な 尼本願尼両人のまへに、 一丈五尺の曼陀羅一鋪たけのふし り」といひて、西方をさしてさりぬ。そのわかれをしたふ なきを軸としてかけたてまつる。これをおがみたてまつる に、ふでしてかくといふとも、ことばをもみ ( みミセケチ に、玉をつらねてみがきたるがごとく、金をのべてかざり カ ) ちてのぶといふとも、ことのたるまじきにはべり。 たるがごとし。荘厳赫奕として、光明遍照せり。ときに化 たゞなみだのかはかむをもちてかぎりとせり。 女のはたおりめ、五色のくもにのりて、いなびかりのきゅ 光仁天皇の御宇、宝亀六年三月十四日、本願尼おもふが るがごとくしてさりぬ。 ごとくに往生す。青天たかくはれて、紫雲なゝめにそびけ
寿量品、寿命経、御てづからかゝせたまひける。御導師こ せたる、宮のまへにはこびをく。らうのまへに楽やをつく 2 うけむ僧正参て、此よしを申あげらる。こゝのへのなかを りて、拝殿をたてたり。内侍どもおひたるわかき、さま いでゝ、やヘのしほぢをわけまいらせ給御心ざしなど、き ム、あゆみつらなりて、神くまいらす。とりつゞきてがく 既く人もそでをしばりあへず申あげゝる。かづけ物一かさねどもして、御とひらきてまいらす。それはてしかば、宮司 ず一つゝみをぞたまはりける。けんじゃうおほせらる。法げ神人まで物を給はる。ちゃう官などぞわかち給。内侍ども、 とん一人なしたまふ。神ぬしかげひろくらゐあげさせ給。宮 かねをのべにしきをたちて、さまみ、のはなをつけて、大 じまの座す阿闍梨になしたぶ。あきのかみありつねかゝい くちをきて、ゞむがくつかうまつる。八人ならび候、天人 一なしあげさせ給。院の殿上ゆるさる。隆季大納言そ、か のおりあそぶらんもかくやとぞおばゆる。そのゝち、そが ねみつにおほせける。御神楽のやおとめ八人きぬ。一 / 、 う、こまばこなどまふ。さほとれるすがた、めも心もをよ わたなどたまはせける。日くれて返らせ給。上達部殿上人ばず。日もくれにしかば、たきの宮へまいらせ給。こうけ のとのゐ所、心をつくしてまうけたり。内侍どもがやかたむそう正うたよみてかきつけゝる。 をしつらひてぞおの / 、すごしける。月のころならましか 雲ゐよりおちくるたきのしらいとに契をむすぶことそ ば、、かにおもしろからまし。月なき空をぞくちをしくお , つれしき もひあひたる。 ょに入にしかば、こよひ御つやあるべしとてまいらせた 廿七日に、そらの気色うらゝかにはれわたりて、のこり まふ。内侍どもあつまりて、よもすがら御神楽あり。ふく のうぐひすおもはぬみやまの木かげにかたらふ声す。夜を るほどに、七になるこ内侍あるに神つかせ給て、はじめは こめて、しほみつとて御所の前までさしいりたる。まこと たうれふして、時中ばかりたへいりにし。おとなしき内侍 にこの世のありさまともみえず。く御などはてにしかば、 どもかゝへて、程へていきいづ。御神楽つかふまつるべき 御宮めぐりあるべしとて、みやヘまいらせたまふ。けふは よしおほせられて、神ぬしめしいでゝさまみ、のことゞも ぬのゝ御じゃう衣をそめしたる。国 / 、のかみどもまいら 申さる。めもあやにいかにとうたがひをなす人もありぬべ
くさぶらひて、よそながらも見まゐらせむなどさぶらひしに、十五日のっとめ 8 ふかくさほっけだう みえい す ては深草の法華堂へ参りたるに、御影の新しく作られさせおはしますとて、据一深草の御陵。 ニご肖像。 いかでか浅くおばえさせおはしまさむ。 既ゑまゐらせたるを拝みまゐらするにも、 ぐそう 袖の涙も包みあへぬさまなりしを、供僧などにや、並びたる人々、あやしく思 レ」 ひけるにや、「近く寄りて見たてまつれ」と言ふもうれしくて、参りて拝みま ゐらするにつけても、涙の残りはなほありけりとおばえて、 四 のち おもかげ 四「露消えし」の「露」は院のはか 露消えし後の形見の面影にまたあらたまる袖の露かな ない命、「袖の露」は作者の涙の比 むかしいま ひやうゑのすけつばね 十五日の月いと隈なきに、兵衛佐の局に立ち入りて、昔今のこと思ひつづく喩。 こ , 」ち あ みやうじゃうゐんどのかた るも、なほ飽かぬ心地して、立ち出でて、明星院殿の方ざまにたたずむほどに、 「すでに入らせおはします」など言ふを、何事ぞと思ふほどに、今朝深草の御 あん す 所にて見まゐらせつる御影、入らせおはしますなりけり。案とかやいふ物に据六机とかいうもの。 セ仏像を彫刻し、または描く人。 めしつぎ もの すみぞめ ここでは絵仏師か。 ゑまゐらせて、召次めきたる者四人して舁きまゐらせたり。仏師にや、墨染の ^ ある役所の事務を司る職。主 ころも ぶぎゃう ′」しよさぶらひ あづかり 衣着たる者奉行して、二人あり。また預一人、御所侍一、二人ばかりにて任。絵所預、楽所預などという。 かみおほ 九天子。主上。下の「百官」とと 付き、紙被ひまゐらせて入らせおはしましたるさま、夢の心地してはべりき。 そで か そで ぶっし 三供奉僧。本尊の供養や読経な どに従事する僧 五伏見院の母后玄輝門院がいた 衣笠殿の内の建物。