( 十一とや、一度でもまことがあるならば、人の言ったこと ばがうれしく思われるであろうに ) 十二とや、憎しと人の思ふらんかなはぬことに心尽せ ( 十二とや、憎いと人が思うであろう、できないことに心を くだいているので ) なさけ 十三や、さのみ情をふり捨てそ情は人のためにあらね ば ( 十一二とや、そのようにむやみにつれなくするものではない、 情けは他人のためではなく自分のためになるものであるか ら ) 十四とや、死なん命も惜しからず君故流すわが身なり せば ( 十四とや、たとえ死んでも命は惜しくない、あなたのため 部 に流浪する私の身であるのだから ) 式 ごせさは 泉十五とや、後世の障りとなりやせん身のはかなくも逢 和 はで果てなば ( 十五とや、来世の安楽の妨げとなるかもしれない、私がは かなくも逢わないで死んでしまったならば ) ゅゑ つく 十六や、陸地のほどを過ぐるにも君に心をつれてこそ 行け ( 十六とや、陸地のあたりを過ぎるにも、あなたのことを思 いながら行くことだ ) まう たびたび 十七や、七度詣での度々も君に逢ふ世と祈りこそすれ ( 十七とや、一日に七度ずつ神に詣でるたびごとに、あなた に逢う時がきてほしいと祈ることである ) 十八や、恥づかしながら言ふことを心強くも逢はぬ君 かな ( 十八とや、恥ずかしいと思いながら言うことを、無情にも 逢ってくれないあなたですね ) 十九とや、くるし夜ごとに待ちかねて袖いたづらに朽 ちゃ果てまし ( 十九とや、つらく思いながら夜ごとに待ちかねて、ひとり で敷く袖がむなしく朽ちてしまうことだろうか ) 二十とや、憎しと人の思ふらんわれならぬ身を人の恋 ふれば ( 二十とや、憎いと人が思うことであろう、自分であって自 分でない正体もない身を人が恋しく思うので ) こうじ げじよ と言ったので、かの下女がこれを聞いて「柑子を欲張るわ ろくち
倒れてあれば、起きあがることなし。 赤木文庫旧蔵絵巻に「とらしま」と は ある。鬼界が島は実在の島として を 刀知られ、薩南から沖縄までの諸島 叫べど声の出でざる時、これを打ち鳴 た をいう。 め らし候ふ」と申す。義経、しばらく物 一ニ風変りな島の意。『一寸法師』 納 に にも「興がる島ーとあって、鬼のす ( 絵 ) とうりう一六 語して、逗留もせんなしとて、また御 尻む島とされている。↓一九八注 製六。 いだ かねじゃ ( 船をおし出す。 一三一丈は一尺の十倍。曲尺で約 毛 は 三、鯨尺で約三・八。 子 風に任せて行くほどに、八十余日と 曹一四なんと。どうしゃ。呼びかけ のことば。 る 一五古梓堂本に「わせん嶋」とある。 申すには、またある島へぞ著き給ふ。 け っ = 〈かいがない。に立たない。 をとこをんな を 渚に寄せて見給へば、男女の隔ては知 腰 は ち らず、三十人ばかり裸にてゐたりし 馬 を、御覧じて、「いかに島人、この島 島 人 馬 をばいかなる島」とのたまひければ、 毛「・ : といふか」が略されている 一八ざうら はだかじま 子「さん候ふ。この島は、かしまと申して、隠れなき裸島と申すなり」。御曹子一八「さにさうらふ」の転じたもの。 かしこまって答えるときに用いら 一九 きこしめし、「これは神の誓ひかや、所のならひか、不思議なり」と仰せけれれる。 一九習慣。動詞「ならふ」の名詞形。 ば、「神の誓ひにてもましまさず、ただ昔より、この所のならひにて候ふ」と なぎさ い 2 0 お
足がきせば、両眼を強くふさぎ給へ。あなかしこ、道にて御眼をばしあき給ふ一 = 「ばし , は、強調を表す助詞。 係助詞「は」の燭音化したものに間 むま な。この馬とり付きて、身ぶるひせん時、御眼をあきて御覧ぜよ」と、こまご投助詞「し」の付加されたもの。 むち一三 まと仰せければ、教へのごとく、両眼を強くふさぎて、鞭をしとと当てられけ一三勢いを強く、動作を早くする ( 絵 ) むまこくう 一四空。大空。 る時、馬は虚空へあがりける。 一五平らな土地。陸地。 ろくち ややありて、陸地とおぼしき所にて、身ぶるひを三度したりける時、両眼を一六遠く広々としたさま。果てし なく広がったさま まんまん いさご 開きて御覧ずれば、漫々たる砂の地にぞ著き給ふ。この馬一二度いばへて、人な毛「いばふ」は、いななく意。 入道を迷いながらたどって行く こくう そみち いとまこ らば暇を乞ふとおぼしくて、虚空に行きぬ。さて、何となく、細道をしるべに、さま。 一九人家のある所。人の住んでい あゆ 一八 たどりたどりと歩み給ふほどに、人に会ひて、「この国をば、いづくと申すぞ」る所。 ニ 0 際限もない。「ほとり」も、き だいり んゼんこく と問ひ給へば、「梵天国」とぞ伝へける。さて、「梵天国の内裏は、いづくにてわみ、際限の意。 ニ一面積の単位。一般に中世には、 候ふぞ」と問ひ給へば、「これなる道を、南へ行きて御覧ぜよ。すなはち内裏一町が三六〇〇歩。一歩は六尺四 方で、約三・三平方 うれ るり 一三「瑠璃」の誤りか。「瑠璃」は七 国なるべし」と答へける。嬉しくおぼしめして、行き給ふほどに、野にてもなく 宝の一で、青色の宝石。↓一六八 山にてもなく、漫々平々として、また里もなく、限りほとりもなし。次第次第注五。 ニ三「七宝ーは七種の宝物 ( ↓一六 しろかね いさご に砂の色を見れば、みな金のごとくなり。銀の門を建て、金の門を建て、見れ〇ハー注一五 ) 。「荘厳、はおごそかに 美しいことであるが、寺院や仏像 めなう しっぽうしゃうごん いさごニ一 ば金の砂、一町ばかり敷き満てり。その内に、きりの柱、瑪瑙の石、七宝荘厳の飾りつけをさす。 りゃうがん へいへい こがね 一七 しだい さま
入清水本「十二かや」。十四、十 ぬ君が宿にとどめよ 五、十九、二十についても同し。 ごくらくみだ じゃうど 一九清水本「さのみなさけなふり 九つや、ここで逢はずは極楽の弥陀の浄土で逢ふ世あるべし すてそ」。そうそう情けをふり捨 とを とや てるな、の意。 十とかや、鳥屋を離れしあら鷹をいっかわが手にひき据ゑて見ん ニ 0 「情けは人のためならず」とい ことはうれ - っことわ」による。 十一や、一度まことのあるならば人の言の葉嬉しからまし 三清水本「おしからし」。 ニニ清水本「君ゅへすつる」。「流 十二とや、憎しと人の思ふらんかなはぬことに心尽せば す」は流浪する意か。「うき名を流 なさけ 一九 す」で、浮いた評判をたてる意か 十三や、さのみ情をふり捨てそ情は人のためにあらねば ニ三死後の極楽往生を妨げること。 ニ四清水本「この世はかなく」。 十四とや、死なん命も惜しからず君故流すわが身なりせば ニ五清水本「めぐるにも」。 ごせさは ニ六清水本「きみに心は」。 十五とや、後世の障りとなりやせん身のはかなくも逢はで果てなば 毛清水本「七ととまらて」。 ろくぢ 夭清水本「君にあふかといのり 十六や、陸地のほどを過ぐるにも君に心をつれてこそ行け をそなす」。 たびたびニ八 ニ七まう ニ九「心強し」は人情に乏しい、情 十七や、七度詣での度々も君に逢ふ世と祈りこそすれ にほだされない意。 ニ九 三 0 三 0 清水本「きかぬ君かな」。 部十八や、恥づかしながら言ふことを心強くも逢はぬ君かな 三一清水本「くる、夜ことにおも 式 ふには」。 泉十九とや、くるし夜ごとに待ちかねて袖いたづらに朽ちゃ果てまし 和 三ニ清水本「にくしと人をおもふ まし」。 二十とや、憎しと人の思ふらんわれならぬ身を人の恋ふれば 8 三三清水本「われならぬ身も」。 げぢよ かんし三四 と言ひければ、かの下女、これを聞きて、「柑子よくぼるべきにはあらねども、品欲張る。 一八 一七 ニニゅゑ ニ四 つく す
だんかう = 例の。あの。にせの宇都宮を の様体をも、談合申さんと存じ候へ る さす。 れ ら 一ニそのまま素通りしては、亭主 ば、急ぎまかり出づべきよし仰せ出さ 、カ が恨みに思うでしようから。 れ、一両日以前に、出仕申して候ふ。 武一三馬具の一。馬に乗る人が足を の 踏みかけるもの。 ぶさた 子一四あれこれと日も過ぎ。「まか 無沙汰のいたり、御許しあれ。かなら る」は、動詞にかぶせて語勢を強 鳥 しゆくしょ め、また謙譲の意を表す。 ず御宿所へ参りて申すべし」とて、馬 る 一五人間の姿。なりかたち。 けい れ 一六相談すること。話合い。 引き寄せて乗らんとせしところに、蛍 や は ぐわうすぐもはるさめ て 火、薄雲、春雨とて、そのほかの遊君 に 女 十人ばかり立ち出でて、「いかにやい 氏 なさけ 源 かにや、情なくも、目のあたりを通ら 猿 っ せ給ふとて、うち過ぎんとし給ふぞ に たもと 一七主語が遊女から宇都宮に変る 紙や」と言ひて、袂にすがりつつ、座敷 草 穴気の進まない。不本意な。 ふぜい 一八 原へ手を引かれ、心ならぬ風情にて、座敷へ人りにけり。かくて、宇都宮思ふや一九思いがけないことだ。丹緑本 に「おもはゆや」とある。 らくちゅう いわし ありさまニ 0 一九 ニ 0 様子を改めた。姿を変えた。 う、あら恥づかしや、思はずや、われ、洛中をめぐり、鰯売りし有様、ひきか ニ一南阿弥の心中を察して、恥ず ( 絵 ) かしく思われる へたるさまかなと思ふにつけても、南阿弥の心の中こそ恥づかしけれ。 ま いうくん むま なあみ うち
も、一目よりほか見ざりける。かやうに 一三焼けた卒塔婆。卒塔婆は死者 っ の追福のために墓地に立てる、細 あした 待 を長い塔形の板。経文や梵字を記す。 立ちたること、朝よりその日の暮るるま て 一四立ったまま動かないこと。 ひとかず一七 げ ろ 一五参詣と帰宅。 で、人数幾千万といふことなし。あれも ひ 一六脇へ避けて行く道。脇道。 を わろ わろ 手 毛多数にのぼるさま。 悪し、これも悪しとためらひゐたるとこ 大 ず穴桜の花をさす。 かわせみ ろに、女房一人出で来たり。年ならば十 結一九翡翠の羽のような美しい黒髪。 髪 = 0 しなやかで美しいさま。 一八 ニ一青黒い色の眉墨。美人の眉を 七八かと見え侍り、かたちは春の花、翡 に 日 いう。『和漢朗詠集』下の「妓女」に せいたいまゆずみ ニ 0 の「嬋娟タル両鬢ハ秋蝿ノ翼、宛転 翠のかんざしたをやかに、青黛の眉墨は 音 タル双蛾ハ遠山ノ色」とある。 ことな 観 水 = = しなやかに美しい左右の鬢 はなやかにして、遠山の桜に異らず、嬋 鬢は結髪の両側の部分。 げん りゃうびん せみは わ ニ三仏の備えているという相好。 ぎ 娟たる両鬢は、秋の蝿の羽に異らず、三 に 転じて、美人の形容に用いられる。 こんじき で 出品仏の尊称。 十二相、八十種好の飽き満ちて、金色の ニ四 ニ五この部分は、やや通じがたい。 によらい つまさき ニ六濃い紅の色。「千人」は、幾度 戀如来のごとし。踏みたる足の爪先まで も染汁に浸して染めること。 まゆあいきゃう ひとへぎぬ くれなゐちしはかまニ七 も、眉の愛敬ととの〈て、いろいろの単衣に、紅の千人の袴踏みしだき、裏無毛踏みしめて。強く踏んで。 ニ九 夭裏がなくて一枚に作った草履。 むめ 三 0 うちはきて、たけに余れるかんざしを、梅のにほひに寄せて、われに劣らぬ下普通は二枚重ねる。 ニ九梅のようににおわせての意か ともぐ 女一人、供に具してぞ参りたる。ものくさ太郎、これを見て、ここにこそ、わ = 0 女房自身。 139 よ すい ひとめ しゆがう はんべ い とやま せん うらなし
まことしからぬことなれども、床を清 かうた め、香を焚き、なりをしづめて、笛を 吹き給ふ。十八日の月、やうやう澄み 上りて、千里万里に明らかなり。いと いきゃうくん かうばしき風吹きて、花降り、異香薫 かぶり ずる内よりも、十六人の童子、玉の冠 いただ を頂きて、金の輿をさし寄せ、十四五 一五 ひめぎみひたひ てんくわん ばかりの姫君、額には天冠をあて、身 には玉の瓔珞を垂れ、金のひっかうを くれなゐはかま一八 一九 履き、紅の袴ふみくくみ、すべてあ ことは 国だなる、言の葉まではありぬべしとも 天 おぼえず。侍従、「こなたへ」とのたまへば、経の前、錦の褥の上にゐ給へり。 梵 ゑんあうひょく たがひに見えつ見えられつ、鴛鴦比翼のかたらひも、浅からずとぞ聞えける。 ニ四 じふぜん かかるめでたき折節に、帝、このよしきこしめし、「われ十善の位をうけ、 の こがねこし をりふし みかど 一七 す きう にしきしとね 一 0 「納受」は、神が人の願いなど を聞き人れること。 る 降 = 「回向ーは、読経などによって が死者の霊を弔うこと。 王 一ニ居待ちの月で、月の出がやや 天 梵 遅い。 に 一三仏菩薩や天人が天降るさま。 よ の 一四十六人の童子が金の輿をかっ ぎ人れ、十四、五歳ばかりの姫君 の がその輿から現れ出るのである。 仏 一五仏や天人のかぶる宝冠。 一六玉をつらねた装身具。 びこう 宅鼻高で、爪先の高くあがった を 革製の沓。 め 入足が見えないように、袴の裾 た の を引いてはくこと。 養 一九何から何までなまめかしく美 供 の しいことは、ことばには言い表せ 母 父 そうには思われない。 君ニ 0 笹野本に「きちゃうのまに」と 若 あり、「儿帳の間」にあたる。 ニ一敷物。 一三見たり見られたり。「見る」は、 男女が契りを交す意。 ニ三夫婦のむつまじい仲。↓三七 ′ー注一四。 ニ四天子の位。↓一三ハー注一五。
末は習はぬなり。もしそれを習ひてや 空中を飛びあるくという怪物。 一 0 「相伝」は、受け伝えること。 る 去 一一未詳。 あるらん。それを習ひてあるならば、 ち 立 一ニ流布本『平治物語』下に「ひる て は終日に学問を事とし、夜は終夜 われわれが目の前にて、ことごとく語 せ ーカ 武芸を稽古せられたり。僧正が谷 のち び な にて、天狗と夜々兵法をならふと るべし。その後、大事を伝ふべし」と を れ巾 云々」とある。謡曲『鞍馬天狗』、 ひ領 幸若舞『末来記』などにも、鞍馬の のたまひければ、御曹子はきこしめ 奥の僧正が谷で大天狗から天狗の くらまそだ や し法を学んだとされている。 し、もとより鞍馬育ちのことなれば、 一三私。一人称の代名詞。単数の びしやもんてんわうけしんもんじゅさいたん 目謙称としても用いられる。 毘沙門天王の化身、文殊の再誕にてま 尻 一四鞍馬寺 ( 京都市左京区 ) の本尊 もんじ を の の毘沙門天。毘沙門天は四天王の しますうへ、文字にくらきことましま る え 一で、北方を守る。福徳を与え、 に七福神の一とされている。 さず、鞍馬の奥にて習はせ給ひし、四 庭 一五釈迦仏の左に侍して、知恵を おこな 広 つかさどる菩薩。 十二巻の巻物を、ことごとく行ひ給 子 曹一六「林樹の法」か。 一七「霞の法」か ふ。大王御覧じて、「まことになんぢ 入「小鷹の法ーか。『浄瑠璃十二 島 しんべう 子は、こころざし深き者なり。神妙なり」と仰せありて、「さらば、許し申さん」段草子』に「わが身には、こたかの いんをむすんで、ゑんよりしたへ 一七 とんており」とある。 とて、師弟の契約をなし給ふ。まづりんしゅの法、かすみの法、こたかの法、 一九「霧の法」か 9 一九 ニ 0 奥義。極意。 きりの法、雲居に飛び去る鳥の法などを御伝 ( あり、「これより甓は無益なり」 お ′彡あ
べきーは『法華経』化城喩品の「従冥 人於冥、永不聞仏名」 ( 冥より冥に 人りて、永く仏の名を聞かず ) に よる。 九昔と今との中間。 一 0 大阪市。「津の国」は摂津国。 おきな 一一年老いた男。翁。 おうな 一ニ年老いた女。媼。 一三住吉神社。大阪市住吉区。 一四子がいないので、子を授けて 中ごろのことなるに、津の国難波の里に、おほぢとうばと侍り。うば四十にほしいとお祈りする。申し子の例 一五 一五神名につける尊称。 だいみやうじん すみよし 及ぶまで、子のなきことを悲しみ、住吉に参り、なき子を祈り申すに、大明神一六妊娠したことをいう。 毛出産の月をさす。 穴「いつくし」は、容姿が整って あはれとおぼしめして、四十一と申すに、ただならずなりぬれば、おほぢ、喜 一七 美しい意。ここでは、主人公の一 ( 絵 ) とっき 一八 び限りなし。やがて十月と申すに、いつくしき男子をまうけけり。さりながら、寸法師が神の申し子として生れた とある。民間の昔話では、主人公 のちせい一九 いっすんふし の小さ子が、脛や指などから生れ 生れおちてより後、背一寸ありぬれば、やがて、その名を、一寸法師とぞ名づ たにしかたつむり たとも、田螺や蝸牛などとして現 れたとも伝えられる。 師けられたり。 一九一寸は約一一。 法 としつぎふ せいニ 0 ニ 0 人並でなく。 寸年月を経るほどに、はや十二三になるまで育てぬれども、背も人ならず、つ ニ一普通の者。凡人。 ばけものふぜい くづくと思ひけるは、ただ者にてはあらざれ、ただ化物風情にてこそ候へ、わ = = 化物のようなもの。 ニ三一人称の代名詞。単数の謙称 れら、いかなる罪の報いにて、かやうの者をば、住吉より給はりたるぞや、あにも用いられる。 193 いっすんふし 一寸法師 くになには をのこ はんべ すね
( 現代語訳一一九五 ) ごぞう しゃうらく さるほどに、猿源氏は、まづ五条へ行きて申すやう、「宇都宮殿は、上洛と八すべての条件が備わった。 九歴々の武士たち。「ばら」は、 あふみのくに力がみもりやま ふうぶん て、近江国鏡守山に宿をとり給ふ」と風聞させければ、宇都宮殿、大名なれ複数を表す接尾語。 一 0 貴人に仕えて雑用をつとめる いうくん ば、京中の遊君ども、さだめておとづれあるべしとて、座敷を飾り、心待ちし者。多くは少年。 一一室町時代に、幕府の雑事をつ かさどった僧体の者。江戸幕府で てゐたり。さるほどに、また二三日過ぎて、猿源氏、五条あたりにて申すやう、 一八 は、大名の案内、衣服の着替え、 けさ くばうさましゆっし 刀剣の上げ下げ、弁当・湯茶の世 「宇都宮は、はや京人りし給ひて、すでに今朝、公方様へ出仕なり」と風聞さ 一九 話など、殿中の雑事をつとめた。 けいぐわ ていしゅ ちゅうげん 一ニ武家の召使で、中間より下位 せて、南阿弥は、まづ蛍火がもとへ行きければ、亭主出であひて、「何とて、 に置かれたもの。 とに このほどは、久しく御尋ねもなされ候はぬぞや。ただ今は、いづくへの御通り一 = 武家の召使で、時と小者との 中間に置かれたもの。 みちたが たはぶ にようばう いだ 候ふや。さだめて御道違ひならん」と戯れつつ、はや若き女房十人ばかり出し、一 0 それぞれの身分の人。 一五武家の老臣。家老 さかづき あるじ しゃうらくふうぶん 一六滋賀県蒲生郡竜王町。 盃を控へ、主申すやう、「まことやらん、宇都宮殿、御上洛と風聞候ふが、い 一七滋賀県守山市。 かが」と尋ねければ、「その御ことにて候ふ。われらも、関東にて参りあひた穴将車の尊称。注一の推定によ れば、九代足利義尚 ( 一四 ~ 釡、兊 ) か しゃうらくいちちゃう 紙る人にて候ふまま、さだめておとづれ給ふべし。上洛は一定にて候ふまま、そ一九その家の主人。 草 ニ 0 道をまちがえること。 ニ一女。ここでは遊女をさす。 源の時、わが身出であひて、『々、御上洛のこと承り候ふ故、御宿をも申しつ 猿 ニニ「まま」↓一〇七謇注一八。 しゃう したく け候ふまま、こなたへ御人り候へ』とて、請じ人れ参らせんまま、その支度を = = 確かにそれと定ま 0 ているこ と。確実なこと。 さうち たいぐん こしゃうわかたう ニ四若い侍。家来としての若侍。 御こしらへ候へ。座敷などの御掃除、また大軍にて候はんまま、小姓、若党、