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検索対象: 完訳日本の古典 第48巻 狂言集
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1. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

仰せ付けらるるによって、ひとしほ御奉公の致しよいことでござる。さらば一他に比べて一段と。 ニたいそう。 それがし 急いで参らう。 ( 舞台一巡しながら ) イヤまことに、某も都初めてでござるによ三ほーら、やつばり思ったとお 言 り。自分の推定 ( 都近うなった ) を 狂って、これをよいついでと致し、ここかしこ走り回り、ゆるりと見物致さうあらためて確認している。 四家の並び具合。家並。 ひとあししげ みやこぢか 脇 と存ずる。イヤ都近うなったとみえて、いかう人足が繁うなった。イエされ五ああ、しまった。後悔とか驚 きを表すことば。 ばこそ、はや都へ上り着いた。ハハア、また某の辺りとは違うて、家建ちま六ばかなことをした。まずいこ とをした。↓四四ハー注四。 のき むね でも格別ぢゃ。あれからつうっとあれまで、軒と軒、棟と棟、仲よささうにセどんなところ。どこ。 ハ商人の売声を聞いて、買うと なむさんう ひっしりと建て並うだほどにの。南無一二宝、某は愚念なことを致いた。あまきにも大声をあげて求めるものだ と勘違いした。↓四四ハー注五。 り都へ上るが嬉しさに、末広がりがどのやうな物やら、またどこもとにある九この柱のところに人がいるつ もりで演じる。次の脇柱も同様。 うけたまは ことやら、承らずに参った。と申してはるばるの所、尋ねにも戻られまい。 なに 一 0 もう少し。 これはまづ何と致さう。 ( 思案して ) イヤさすがは都でござる。かう見るに、 一一京都の二条通以北をいう。 あり さっそく みども わるもの 売り買ふ物も呼ばはって歩けば、物ごと早速知るるさうな。身共もこの辺り一 = 詐欺師。悪者の類。↓三七五 注七。 からちと呼ばはって参らう。 ( 目付柱に向い ) イヤなうなう、その辺りに末広が三以下、このすつばも、果報者 同様名乗りでは、「ござる」「存ず り屋はござらぬか。ジャア。ここもとではないさうな。 ( 今度は脇柱に向い ) イる」「申す」という丁寧な言い方を する。あとの太郎冠者に対するこ ヤなうなう、その辺りに末広がり屋はござらぬか。ジャア。ここもとでもなとばづかいと対照的である。 うれ 六 いへだ

2. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

をちごさま 太郎「おつつけ申しまする。『伯父御様に、久々お便りもござらぬが、変はらハただいま。 九祝言用演出の場合は「変はら ( みョうにツた ) ひがら せらるることもござらぬか。さうござらば、明日は日柄もようござるによせらるることもなうてめでたう・こ ざる」と言いきる。 はう って伊勢参宮を致しまする。何かの用意は皆この方で致いてござるによって、 一 0 ただお身すがら出させられい』とねんごろに申しこしました。 伯父「ヤレャレ、それはようこそ誘うてくれられたれ。さりながら、明日とい うてはあまり火急なことぢやによって、え行かれまい。 太郎「イヤ、私もさやう存じ、申し上げてはござれども、『かねてのお約束ぢ = 主の内々のことばを筒抜けに しゃべってしまっている。これを やによって、まづお付け届けまでに参るやうに』と申しこしましてござる。 太郎冠者の愚鈍さとか無意識のう ちでの主への批判とみる見方もあ 伯父「ハハア、すれば、『お付け届けまでに』か。 るが、それよりも太郎冠者の人の さやう よさ、無邪気さとみたほうがおも 太郎「左様でござる。 しろい。伯父の応対ぶりにも、甥 落伯父 ( 笑って ) 「イヤ、それならば、戻ったならばさう言うてくれい。ふと申した ( 主 ) や太郎冠者の性格を十分承知 したうえでの配慮がうかがえる。 ( みョうにツた ) ことを御失念もなう、ようこそ誘うて下されたれ。さりながら明日はちと一 = 何気なく言ったことをお忘れ もなく。 げかう 叶はぬ用のことがあってえ参りませぬ。めでたう下向の程を待つでこそあれ、一三やむを得ない用事。「お付け 届けーと聞いて、伯父も「叶はぬ 用」ととってつけたのである。 とねんごろに言うてくれい。 なに 一 0 言ってよこす。ことづけるこ とを丁寧に表現した言い方。

3. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

大名狂言 44 一てきばきと。 こちの頼うだお方のやうに物ごと火急に仰せ出ださるるお方はござらぬ。さ ニ他に比べて一段と。 なんどき ただいま りながら、いっ何時仰せ出だされても、只今のやうにはしはしと仰せ付けら三狂言では、舞台は主として仕 手柱・目付柱・脇柱を結ぶ三角形 るるによって、ひとしほ御奉公の致しよいことでござる。まづ急いで参らう。の部分のみを使う。したがって笛 座前に座った大名は ( あるいは後 なにひとしな ( 第台一巡しながら ) イヤまことに、只今までのお道具くらべに何一品負けさせ見座や狂言座にいる者も ) 舞台に はいないものとみなされる。 たび それがし られたこともござらぬに、この度の粟田口一品で負けさせられては、某まで も残念なことでござる。随分と走り回って、よい粟田口を求めて参らうと存 ひとあししげ みやこぢか ) する。ハノ 、ア、都近うなったとみえて、いかう人足が繁うなった。イエされ ばこそ、はや都へ上り着いた。ハハア、また某の辺りとは違うて、家建ちま のき でも格別ぢゃ。あれからつうっとあれまで、軒と軒、棟と棟、仲よささうに なむさんう ひっしりと建て並うだほどにの。南無一二宝、某は愚念なことを致いた。あま り都へ上るが嬉しさに、粟田口がどのやうな物やら、またどこもとにあるこ うけたまは とやら、承らずに参った。と申してはるばるの所、尋ねにも戻られまい。 これはまづ何と致さう。 ( 思案して ) イヤさすがは都でござる。かう見るに、 あり ととの 売り買ふ物も呼ばはって歩けば、物ごと早速調ふるさうな。某もこの辺りか うれ い い 四 むね いへだ 四ばかなことをした。まずいこ とをした。虎寛本をはじめ他本に は、不注意、思慮のないという意 の「ぶねん ( 不念・無念 ) 」とある。 茂山千五郎家本の「ぐねん」はその 転訛で、それに「愚念」の字を当て たものであろう。 後見座Ⅷ 狂言座 △ の手ⅱ常座笛座前Ⅷ 脇座Ⅲ 目付柱

4. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

太郎「エ工、静かに召され。 駄「エイエイエイエイ、ヤットナ。 言 なに 狂伯父「何と、立てたか。 名 あすさうさうこしら 太郎 ( 笑いながら ) 「まんまと立てました。さて明日は早々拵へをして、この方へ 向けて出させられいや。 伯父「明日はえ参らぬと言ふに。 太郎「エ工、参らせられぬ。 伯父「なかなか みや 太郎「さやうならばお土産を進ぜませう。 伯父「それも最前聞いた。 太郎「なぜそのやうに仰せらるる。私のことでござれば、たまでしゃうらかし 一以下、酔っぱらって、みやげ はら こさまがた い物もござらぬ。まづ和子様方へはめでたうお祓ひ、奥様へは愛らしうぜぜ物を一つずっ取り違えているが、 特に伯父に「伊勢白粉」というのが しゃう 効果的である。伯父ももはやたし 貝や笙の笛、こなた様へは、 ( 思案して ) ホウ、い、伊勢白粉を進ぜませう。 なめることもしない。いささかも みども てあました体である。 伯父「身共に伊勢白粉はよう似合ふであらう。 いせおしろい はう

5. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

集狂言 360 一ここに出て参りました者は。 「まかり」は他の動詞の上に付けて 謙譲の意を表す。「まかり出づ」も 本来は退出する意であるが、狂言 では、名乗りの際の観客に対する 改った気持の表れであり、単なる 謙譲語より丁寧語とすべきであろ う。虎寛本ではこの「まかり出で はじかみう 薑売り ( 登場 ) 「まかり出でたる者は、津の国の薑売りでござる。毎日都へ薑をたる者は」の名乗りは、主に脇狂 言・大名狂言等、格式ばった曲に しゃうばい けふ 限られていたが、この原則はその 商売に参る。また今日も参らうと存ずる。まづそろりそろりと参らう。 ( 舞台 後ゆるんだようで、本書でも『右 一巡しながら ) イヤまことに、さすがは都でござる。いっ持って参っても、つ近左近』 ( 二四九ハー ) や『月見座頭』 ( 三四九 ) にみられるように、そ けふ ひに売り余いたことがござらぬ。また今日も売り余さぬゃうに致したいものれ以外の種類の狂言にもかなり自 由に使われている。 あた でござる。イヤ何かと申すうち、はや上下の街道へ参った。この辺りで、し = 摂津国。大阪府北西部と兵庫 県南東部。 しようが 三ここでは生姜の別名。「生姜 ばらく休らうで参らう。 ( 脇座に座る ) しゃうか はじかみ生薑同」 ( 和漢通用 いづみすう 酢売り ( 登場 ) 「まかり出でたる者は、和泉の酢売りでござる。毎日都へ酢を商集 ) 。 四いまだかって。一度も。 売に参る。また今日も参らうと存ずる。まづ急いで参らう。 ( 歩き始める ) イヤ三売り残した。 六都へ通じる街道。 まことに、さすがは都でござる。かやうに毎日持って参っても、つひに売りセ和泉国。大阪府の南西部。 ^ 酢は和泉国の名産。「和泉酢 けふ 余いたことがござらぬ。また今日も売り余さぬゃうに致したいものでござる。 ( 庭訓往来・四月返状 ) 。 なに い い きようげんがみしもいゼたち 薑売り狂言裃出立 ( シテ ) 酢売り同右 六 四 しゃうか

6. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

89 武悪 なに 主「何と待てとは。 太郎「まづものを言はさせられい。 主「何とものを言はせいとは。 太郎「武悪を討ちに参りませう。 主「イイヤ、お行きやるいものを。 太郎「しかと参りませう。 主「それはまことか。 太郎「まことでござる。 主「真実か。 ちぢゃう 太郎「一定でござる。 かな 主「さうなうて叶はうか。 ( 手に持った太刀を太郎冠者に渡しながら ) これは重代なれ なんぢ しゅび ど、汝ぢやによって持たせてやる。首尾よう武悪を討って来い。 太郎「かやうにお受けを致しまするからは、首尾よう武悪を討って参りませう。 おめ お心安う思し召せ。 五 ちゅうだい 五お行きにならないでしようよ。 お行きになるものですか。しかし 主も、この辺で太郎冠者の討ちに 行く気持をみてとったので、これ 以後太郎冠者に敬語を使うことは しない。 六必ず。確かに。 七間違いございません。 ハそうこなくっちゃならないと ころだ。 九先祖から代々伝わったもの。 や武悪が出勤を怠ったくらいでな ぜ主が成敗までしようとするのか、 現行の台本ではその辺が少し明確 でないが、虎明本には武悪が「し がひをするやうな奴ーなので成敗 するとある。「しがひ」とは「新開」 で、新しく田地を開くこと。つま みようゼん り武悪が名田を持ち独立しようと しており、しだいに主にとって手 ごわい存在となっていた事情をう かがわせている。 しんがい

7. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

甲「なかなか 太郎「ヤレャレおでかしなされました、おでかしなされました。縄は私の一得一うまくおやりになりました。 上出来でございました。 言 もの 一一能楽用の小道具。「ぼうじ」と 狂物でござる。まづ藁を取って参りませう。 わら 名 呼ぶ。なお和泉流では本物の藁を 使う。 甲「それがよからう。 三押えて引っ張っていてやろう。 あさひも 四思いがけないことで ( 恐縮で ) 太郎 ( 舞台後方より麻紐を持って出て ) 「イヤ申し、幸ひこれに綯ひさしの藁がござる。 ございます。 五一般に。 これへ綯ひ足して進ぜませう。 ( 舞台中央に座る ) 六藁の一方を持っていてもらう みども ことができると。「貰ゆるは「貰 甲「どれどれ、身共があとを控へてやらう。 ( 後ろから紐の端を持っ ) ふ [ の可能動詞。本来は「貰ふる」 もら 四りよぐわい 太郎「それは近頃お慮外でござる。総じてあとを控へて貰ゆれば、ひとしほ早のはずであるが、 ( 行音転呼、さ らにはア行・ヤ行の混同などもか らまって、室町時代にはヤ行下二 う綯ゆることでござる。 段活用の形も併存させていた。 七一段と。後ろを引っ張っても 甲「さぞさうであらう。 らうと、それだけ縒りの戻りが少 あひだ 太郎「さて、この縄を綯ひまする間に、太郎殿の内の様子を話いて聞かせませないからである。 八人には親しく付き合ってみな ければ、また馬には実際に乗って みなければ、外から見ただけでは 真実はわからない、という諺。 甲「それがよからう。 「ヒトニワソウテミョ、ウマニ 太郎 ( 以下縄を綯いながら、シグサをまじえて話す ) 「総じて『人には添うてみよ、馬にワノッテミョトユウ」 ( 日葡 ) 。 わら さいは いちえ

8. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

あ 太郎「私も気味が悪しうなりました。 主「もはや戻らう。 言 狂太郎「それがようござりませう。 名 大主「サアサア、来い来い。 太郎「参りまする参りまする。 ( 両人歩き始める ) 主「また東山へは、何時なりと心面白い時に来たがよからう。 太郎「それがようござりませう。 みども 主「すれば、身共に会ひたいと言うたか。 太郎「余のことは申しませぬが、今一度こなたのお目にかかりたい、かかりた ぎわ いと申してござる。 ( 幽霊に扮した武悪がふらふらと登場。橋がかり付け際で主と顔を合す ) 主「そうりや出た、そりや出た。 ( 逃げかける ) なに 太郎「まことに、何やら出ました。 主「ほかに道はないか。 太郎「この道一筋でござる。 しろねり 一肩衣を脱ぎ、白練を着、鉢巻 くろがしら の上に黒頭 ( 長く垂れた黒色の毛 っえ のかずら ) を付け杖を持つ。白練 みずごろも の代りに水衣を着ることもある。 狂言の亡霊の姿としては鉢巻・捌 き髪が本来だが、髪を捌くことが できない現在では、黒頭を用いる のが常である。

9. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

さだめて深い縁でかなござりませう。 太郎 ( 舞台一巡したところで、両人止って向き合い ) 「さて、いづれもの粟田口を御重宝七大事がられるのは。 なに 召さるには、何ぞ子細ばしおりやるか。 ただいま 粟田口「いかにもおびただしい子細がござる。只今でこそ、天下治まりめでた みよ さやう ぜい い御代でござるによって左様なこともござらぬが、すは人々のおかたらひ勢八合戦の時に援軍として加わる 軍勢。 ( な ) せんぎまんぎ などにお出でなされう時分は、千騎万騎を召し連れられうより、この粟田口 九満ち満ちた。たくさんの。 いちにん てき はヘおほうち 一人お馬の先に立てば、いかなる満々たる敵も、たとへば夏の蚊や蠅を大団一 0 みるみるうちに。「メッキメ ッキト」 ( 日葡 ) 。 もっ 扇を以て追ふ如く、また雪・霜に水をかくるが如く、片端よりめつきめつき = 滅びてしまい。 一ニ「悪魔」も「魔縁」も人の心を惑 あくままえん しりぞ と滅却致し、そのほかいかなる悪魔魔縁までも引き退くによっての御重宝でわし、仏道を妨げる魔物。 一三本来、中世の大名家臣団にお トり・こ くみがしら ご」る ける組頭を言い、配下の寄子を取 り締り、ことある場合はそのまま かな 太郎「それは御重宝なされいでは叶はぬものぢゃ。サアサアおりやれおりやれ。軍事組織に切り替えられるように ロ なっていた。のちにはこの制度が 田粟田口「参りまする、参りまする。 ( また両人歩き始める ) さて、かやうにお供致し農村や都市の雇用関係にまで及び、 外来者が村に定住したり奉公した ひまは よりおや まするからは、こなたを寄親殿と頼みまする。万事よいやうに引き回いて下りするときには、適当な者が寄親 となって身元保証をし、また適宜 相談役ともなった。ここは後者。 されい。 は 0 かたはし てんが 七ちょうう

10. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

太郎「近々算用致しませう。今二、三日待って下されい。 ( さんにヨう ) ( にさんにツた ) 一 酒屋「そちの二、三日、二、三日は、ほうど聞き飽いた。きっと算用をさしめ。一全く。ほとほと。 ニ「早く」と「間違いなく」と、一一 言 かしこま つの意味を含んでいる。 狂太郎「畏ってござる。 名 けふなに 酒屋「して、今日は何と思うておりやった。 ただいま 太郎「只今参るも別なることでもござらぬ。頼うだ者のお使ひに参りました。 なに 酒屋「何と言うておこされた。 太郎「おつつけ申しまする。今晩俄にお客がござるによって、いつものよい酒四ただいま。 五言ってよこす。ことづけるこ ひとたる かたじけな とを丁寧に表現した言い方。セリ を一樽おこいて下されうならば忝うござる、と申しこしました。 フのはしばしに、太郎冠者の低姿 ないない 酒屋「イヤここな者が。今も今とて言ふとほり、まだ内々の通ひの表も済まさ勢ぶりが感じとれる。 六こいつはまあ ( とんでもない ことを言う ) 。 いで、ようもようもそのやうなことが言うておこされたものぢゃ。 けふ 太郎「こなたがさやう仰せられうと存じ、今日一度の代はりは持って参りましセ代金。 なにけふ 酒屋「ヤアヤア何、今日一度の代はりを持って来た、とおしやるか。 太郎「なかなか。 ( 0 きんきん ( さんにヨう ) 四 にはか 五 おもて 三主人。