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検索対象: 完訳日本の古典 第48巻 狂言集
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1. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

なに一 一理由。事情。 酢売り「ハハア、それには何ぞ子細があるか。 ニびつくりするような。たいへ 薑売り「いかにもおびただしい子細がある。語って聞かさう、ようお聞きやれ。んな。 三「か」にかけた架空の天皇。 言 きんちうだい 四天子の御所の中。「禁中内 酢売り「心得た。 狂 四 裡」 ( 和漢通用集 ) 。 きんちゅう いちにんはじかみう ゴチャウ 五仰せ。「御定御意ノ義也ー 集薑売り「〔語り〕さてもからこ天皇のおん時、一人の薑売り、禁中を売り歩く。 0 ( 広本節用集 ) 。 みかど ごぢゃう 六ざふらふ 帝これを聞こし召し、『あれは何ぞ』と御諚ある。『さん候。あれは薑と申し六さようでございます。応答詞 ささふらふ 「然に候」の音便形。 から て、いかにも辛きものにて候』と申し上ぐる。『さあらば、その薑売りこれ七屋根を唐破風造にし、唐戸を 0 つけた、中国風建築の門 からたけーんん からもん ( の ) 八幹竹、つまり真竹を張った縁 へ召せ』とて召されしに、唐門をからりと通り、唐竹縁にぞかしこまる。 0 0 0 ・倶 九中国渡来の絵。特に宋・元の 酢売り「出来た。 水墨画をさす。「コレニ加へテ からゑ からかみ 薑売り「帝、その時唐絵の唐紙をからりと開けさせ給ひ、からからと御出なっ処々ノ障子ニ於テハ種々ノ唐絵ヲ 0 0 0 0 0 飾ル」 ( 喫茶往来 ) 。 た ごえいか からしからたぞからひるからき カらいり 一 0 唐紙障子のこと。唐紙を貼っ て、その時の御詠歌に『辛きもの芥子辛蓼辛蒜や枯木で焚いて乾煎にせん』 ふすま 0 0 0 0 0 0 0 た懊。 となばされ、その後、いかにも辛き御酒を下されてよりこの方、薑は売り物 = 糶達に出て来る意の形容か。 0 一四 御機嫌うるわしく、というほどの それがし つかさ 意であろう。 の司ぢやによって、某に一社せずば、その酢は売らすまい。 一ニ水分がなくなるまでよく煎り 酢売り「さてさてそれはおびただしい威言ぢゃ。さりながら、それほどのことつける調理法。 一三お詠みになり。 みどもはう 一四つかさどる役。支配役。 ならば身共の方にもある。語って聞かさう、ようお聞きやれ。 ( ゅげん ) ぎよしゆっ あり からたけ い

2. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

仰せ付けらるるによって、ひとしほ御奉公の致しよいことでござる。さらば一他に比べて一段と。 ニたいそう。 それがし 急いで参らう。 ( 舞台一巡しながら ) イヤまことに、某も都初めてでござるによ三ほーら、やつばり思ったとお 言 り。自分の推定 ( 都近うなった ) を 狂って、これをよいついでと致し、ここかしこ走り回り、ゆるりと見物致さうあらためて確認している。 四家の並び具合。家並。 ひとあししげ みやこぢか 脇 と存ずる。イヤ都近うなったとみえて、いかう人足が繁うなった。イエされ五ああ、しまった。後悔とか驚 きを表すことば。 ばこそ、はや都へ上り着いた。ハハア、また某の辺りとは違うて、家建ちま六ばかなことをした。まずいこ とをした。↓四四ハー注四。 のき むね でも格別ぢゃ。あれからつうっとあれまで、軒と軒、棟と棟、仲よささうにセどんなところ。どこ。 ハ商人の売声を聞いて、買うと なむさんう ひっしりと建て並うだほどにの。南無一二宝、某は愚念なことを致いた。あまきにも大声をあげて求めるものだ と勘違いした。↓四四ハー注五。 り都へ上るが嬉しさに、末広がりがどのやうな物やら、またどこもとにある九この柱のところに人がいるつ もりで演じる。次の脇柱も同様。 うけたまは ことやら、承らずに参った。と申してはるばるの所、尋ねにも戻られまい。 なに 一 0 もう少し。 これはまづ何と致さう。 ( 思案して ) イヤさすがは都でござる。かう見るに、 一一京都の二条通以北をいう。 あり さっそく みども わるもの 売り買ふ物も呼ばはって歩けば、物ごと早速知るるさうな。身共もこの辺り一 = 詐欺師。悪者の類。↓三七五 注七。 からちと呼ばはって参らう。 ( 目付柱に向い ) イヤなうなう、その辺りに末広が三以下、このすつばも、果報者 同様名乗りでは、「ござる」「存ず り屋はござらぬか。ジャア。ここもとではないさうな。 ( 今度は脇柱に向い ) イる」「申す」という丁寧な言い方を する。あとの太郎冠者に対するこ ヤなうなう、その辺りに末広がり屋はござらぬか。ジャア。ここもとでもなとばづかいと対照的である。 うれ 六 いへだ

3. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

集狂言 360 一ここに出て参りました者は。 「まかり」は他の動詞の上に付けて 謙譲の意を表す。「まかり出づ」も 本来は退出する意であるが、狂言 では、名乗りの際の観客に対する 改った気持の表れであり、単なる 謙譲語より丁寧語とすべきであろ う。虎寛本ではこの「まかり出で はじかみう 薑売り ( 登場 ) 「まかり出でたる者は、津の国の薑売りでござる。毎日都へ薑をたる者は」の名乗りは、主に脇狂 言・大名狂言等、格式ばった曲に しゃうばい けふ 限られていたが、この原則はその 商売に参る。また今日も参らうと存ずる。まづそろりそろりと参らう。 ( 舞台 後ゆるんだようで、本書でも『右 一巡しながら ) イヤまことに、さすがは都でござる。いっ持って参っても、つ近左近』 ( 二四九ハー ) や『月見座頭』 ( 三四九 ) にみられるように、そ けふ ひに売り余いたことがござらぬ。また今日も売り余さぬゃうに致したいものれ以外の種類の狂言にもかなり自 由に使われている。 あた でござる。イヤ何かと申すうち、はや上下の街道へ参った。この辺りで、し = 摂津国。大阪府北西部と兵庫 県南東部。 しようが 三ここでは生姜の別名。「生姜 ばらく休らうで参らう。 ( 脇座に座る ) しゃうか はじかみ生薑同」 ( 和漢通用 いづみすう 酢売り ( 登場 ) 「まかり出でたる者は、和泉の酢売りでござる。毎日都へ酢を商集 ) 。 四いまだかって。一度も。 売に参る。また今日も参らうと存ずる。まづ急いで参らう。 ( 歩き始める ) イヤ三売り残した。 六都へ通じる街道。 まことに、さすがは都でござる。かやうに毎日持って参っても、つひに売りセ和泉国。大阪府の南西部。 ^ 酢は和泉国の名産。「和泉酢 けふ 余いたことがござらぬ。また今日も売り余さぬゃうに致したいものでござる。 ( 庭訓往来・四月返状 ) 。 なに い い きようげんがみしもいゼたち 薑売り狂言裃出立 ( シテ ) 酢売り同右 六 四 しゃうか

4. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

ろう。は、要するに前代、室町時代として望ましいことばの状態を想定し、その枠にはめこもうとする類 型化の営為であるが、別の角度からすれば、古典演劇としての狂言の「古相」に磨きをかける洗練化のそれ であるとも見ることが出来るのである。 このように述べて来ると、狂言のことばは、がモザイク模様をなして形成された結果、「時代的に 一定の日付を打ち得る言語でないこと」 ( 亀井孝「狂言のことば」『能楽全書』 ) が理解されるであろう。 適当な材料が得られるとき、を中心にをアレンジしてゆけば、狂言の新作は必ずしも 狂言の創作 困難でないのである。一例として、『五山詩僧伝』 ( 明治四十五年 ) に寄せられた、吉沢義則 ばっ 博士の手になる、狂言風の跋の冒頭を、本書の本文の表記に則してあげてみよう。題して「序跋」 たび まかり出でたる者は、この辺りにかくれもない書作りでござる。この度、五山詩僧伝を作って、売りひ ろめうと存ずる。何がさて今の世の中は、中身よりも飾りが大切でござるによって、太郎冠者や、次郎 冠者、三郎四郎など申すうつけた人たちをすかいて、序をながながと書かせてござる。また川一つ彼方 えせ に白水と申す似而非国学者がござる。総じて山には枯木でも沢山ながましぢやと申すほどに、あの白水 にも序を書かせうと存ずる。何かと申すうちに、はやこれちゃ。なうなう白水はござるか、居させらる るか この内の「五山詩僧伝」「国学者」を伏せた時、「新作」であることは、どこで判るであろうか。 解台本に定着して三百年、そこに見られる狂言のことばは、詮ずるところ同じ色に染められていたと言える ( 三安田章 ) のではあるまいか。

5. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

( わどりョ ) はじかみう 酢売り「ハハア、我御料は薑売りぢやの。 薑売り「なかなか 言 ( の ) もっ みども 酢売り「薑売りぢやによって、その辛き縁を以て、『身共から参らうか』は、よ 狂 集う出来た。 ニそれほどでもないよ。 薑売り「さうもおりやるまい。 ( 両人笑う ) ◆これまで両人言い争っていたの 酢売り「それならば、すぐにおりやれ。 △ が、この少し前から相手に調子を ( わごりョ ) す 合せたり、褒めたり、ともに笑っ 薑売り「ハハア、我御料は酢を売るの。 たりなどして、和気あいあいの感 酢売り「なかなか じになってくる。本来は両者の争 いを笑劇的に描こうとしていたも ( の ) のが、時代がたつにつれてしだい 薑売り「酢売りぢやによって、その酸き縁を以て、『すぐに』とは、よう出来た。 に和楽的・祝言的方向に進んだの で、そのゆきつくところが最後の 酢売り「さうもおりやるまい。 ( 両人笑う ) 「笑い留め」となっている。このよ うに全体としては一貫性がなく、 薑売り「サアサアおりやれおりやれ。 場面本位であること、笑劇性と祝 言性が同居していること、どちら 酢売り「参る参る。 ( 両人歩き始める ) も狂言の特色といってよかろう。 からかさ三 薑売り ( 目付柱の方をさして ) 「あれあれ、あれお見やれ。雨も降らぬに傘をさいて 0 三「さして」のイ音便形。 行くわ。 から 一お前さん。

6. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

いげん 一五ュゲンと発音する。威言の転 薑売り「心得た。 それがし 訛形。虎明本には「さあらば某が 酢売り「〔語り〕さても推古天皇のおん時、一人の酢売り、禁中を売り歩く。帝いげんを言うて聞かせう。とあり、 由来というほどの意に用いている なに これを聞こし召し、『あれは何ぞ』と御諚ある。『さん候、あれは酢と申して、が、本来は誇示すること。自慢話。 「威言自賛之義ー ( 書言字考 ) 。 いかにも酸きものにて候』と申し上ぐる。『さあらば、その酢売りこれへ召一六三十一二代の天皇。「す」にかけ た。 すのこえん 一七もん ( の ) 毛「水門」「杉門」「透門」、いろ 簀子縁にぞかすこまる。 せ』とて召されしに、すい門をするりとくぐり、 △ いろに考えられるが不明。 穴細い板を少しずつ透かして打 薑売り「出来た。 ちつけ、雨などがたまらないよう ひさしま すみふすま 酢売り「帝、その時墨絵の懊をするりと開けさせ給ひ、するすると御出なって、に造った縁。寝殿造では廂の間の △ △ さらに外側に造作されていた。 ( おんぬた ) ニ 0 その時の御歌に、『住吉のすまに雀が巣を組うでさこそ雀は住みよかるら一九「おん」の鼻音 ( ん ) と「うた」の △ △ △ 「うとが融合して、オンヌタと連 かた すどすすはい め』と遊ばされ、その後、いかにも酸き御酢を数盃下されてよりこの方、酢発音する。 △ △ △ ニ 0 下句は「すはや雀は巣立ちす るらん」とも言う。「す」の字尽し は売り物の司ぢやによって、某に一礼せずば、その薑は売らすまい。 の和歌。「すま」は隅。この和歌は ( ゅげん ) 『旧宇和島藩御座船唄』 ( 俚謡集拾 おふなうたどめ 薑薑売り「さてさてそれはおびただしい威言ぢゃ。 遺 ) 『御船歌留』巻下「枝も弥生」、 ( ゅげん ) 酢売り「さて、互ひに威言があるによって、これより路次すがら秀句を言ひ合そのほか民謡にも伝承されている。 ニ一 ( 連れだって行く ) 道中で。 酢 じぐち はう 一三掛詞・縁語・地ロ・洒落など、 ひ、言ひ勝った方が売り物の司を持たうではないか。 和歌・文章・対話等における巧み な言いかけ。 薑売り「それは一段とよからう。それならば身共から参らうか △ △ △ のち △ △ △ いちにん しうく △ ぎよすっ あり

7. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

ちゃのみちやわん 大名「心得た。 ( 女、橋がかりより大名の様子をうかがい、舞台後方 ( 行き、水を入れた茶呑茶碗五虎明本では「櫛の水人れ」 ( 整 髪用の油類を人れる器 ) を使って いる。 を右手に持ち、後ろに隠しながら大名の前に出る ) 六どうした風の吹回しで。長ら けふ なっ 女「なうお懐かしやお懐かしゃ。今日はどち風が吹いて出させられてござるく顔を見せなかった大名 ( の皮肉。 七行くべき家を間違えておいで カどたが かた になったのででも。これも遠まわ ぞ。妾が方ではござりまするまい。さだめて門違へでかなござりませう。 しに皮肉っているのである。「か あす もっと みどもけふ な」は例示を表す。 大名「イヤ、その恨みは尤もぢやが、身共も今日は来よう、明日は来よう、と 八「来よう」とあるのは後世の形 ぶさた ひま は思へども、なりはひに暇がなさに、心ならずも無沙汰致いた。さりながら、であり、室町時代末期では「来う」 ( コー ) であった。 九日々の仕事。「活業活計 : そなたも変はらせらるることもなうてめでたうござる。 民業ー ( 書言字考 ) 。 女「妾は変はることもござらぬが、変はらせられたはこなたのお心でござる。一 0 二人称代名詞。敬意が高く、 狂言の女は通常この語を使う。た たとへこなたこそ御用多うござらうとも、太郎冠者なりと下さるることのなだし太郎冠者に対しては「そち」を 使っている。 = せめて太郎冠者でも ( 私の様 らぬほどのこともござるまいに。妾を忘れさせられたものでござらう。 子を見に ) およこしになることが なに できないこともございませんでし 大名「何しに忘るるものでござらうぞ。真実暇がなさに無沙汰致いてござる。 塗 ように。 あひかな ないないそしよう 一ニどうして。何で。 さて、そなたも喜うで下されい。内々の訴訟のことも思ひのままに相叶ひ、 なになに しんち 墨あんどみげうしょ 安堵の御教書賜はり、新地を過分に拝領したは、何と何とめでたいことでは ござらぬか ナリハヒ

8. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

鬼・山伏狂言 304 ひしやくちやせん 座り、団扇を腰に差し、柄杓と茶筅、茶碗を手にを交えて ) 〔語り〕さても、宇治橋の一都からの順社。「道者」は、団 体で社寺を巡拝する旅人のこと。 なか みやこだうしゃ 供養、今を半ばと見えしところに、都道者とおぼしくて、通円が茶を飲み尽「ダウシャ。モノマイリノミチュ キビト」 ( 日葡 ) 。 くちわき、 くさんと、名乗りもあへず三百人、地謡「名乗りもあへず三百人、ロ脇を = 名乗るか名乗り終らぬかのう 四 さしやく、、、、、ひくづ、 ちに。以下『頼』の「名乗りもあ 広げ茶を飲まんと、群れゐる旅人に大茶を点てんと、茶杓をおっ取り篏屑ど〈ず三百余騎、轡を揃へ川水に、 少しもためらはず : ・ざっざっと も、ちゃっちゃっと打ち人れて、浮きぬ沈みぬ点てかけたり。通円「通円うち人れて、浮きぬ沈みぬ渡しけ り」、さらにはこれに続く足利又 しもべ、げぢ、、いは、 下部を下知して曰く、地謡「水の逆巻く所をば砂ありと知るべし、弱き者太郎忠綱の川渡りの部分の詞章に 拠っている。 には柄杓を持たせ、強きに水を荷はせよ、流れん者には茶筅を持たせ、互ひ = 大口を開いて。 四「ヒクヅ。茶の良いものをよ りすぐったあとに残る、細くて品 に力を合はすべしと、ただ一人の下知によって、さばかりの大場なれども、 質の劣った茶の葉」 ( 日葡 ) 。 五手早く。「茶」をかける。 一騎も残らず点てかけ点てかけ、穂先を揃へてここを最期と点てかけたり。 六世話をする下伎。 さるほどに人れ乱れ我も我もと飲むほどに、通円「通円が茶飲みつる、地七指図。命令。 きっさき 八茶筅の先端。『頼政』に「切先 かずらおけ へんてつ を揃へて」とあるのに対応する。 謡「茶碗・柄杓を打ち割れば、 ( 葛桶より立ち、茶道具類を置き、着ていた褊綴を脱ぎな 九『頼政』の終局部には「さるほ がら ) 通円「これまでと思ひて、地謡「これまでと思ひて、平等院の縁の下、どに人り乱れ、われもわれもと戦 へば、頼政が頼みつる、兄弟の者 これなる砂の上に、団扇をうち敷き、衣脱ぎ捨て座を組みて、 ( 舞台前方に座も討たれければ : ・これまでと思ひ おも て、平等院の庭の面、これなる芝 よろひ の上に、扇をうち敷き、鎧脱ぎ捨 り ) 茶筅を持ちながら、さすが名を得し通円が、 ( 団扇を手に立ち、カケリを舞い、 五 うちわ

9. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

大名狂言 44 一てきばきと。 こちの頼うだお方のやうに物ごと火急に仰せ出ださるるお方はござらぬ。さ ニ他に比べて一段と。 なんどき ただいま りながら、いっ何時仰せ出だされても、只今のやうにはしはしと仰せ付けら三狂言では、舞台は主として仕 手柱・目付柱・脇柱を結ぶ三角形 るるによって、ひとしほ御奉公の致しよいことでござる。まづ急いで参らう。の部分のみを使う。したがって笛 座前に座った大名は ( あるいは後 なにひとしな ( 第台一巡しながら ) イヤまことに、只今までのお道具くらべに何一品負けさせ見座や狂言座にいる者も ) 舞台に はいないものとみなされる。 たび それがし られたこともござらぬに、この度の粟田口一品で負けさせられては、某まで も残念なことでござる。随分と走り回って、よい粟田口を求めて参らうと存 ひとあししげ みやこぢか ) する。ハノ 、ア、都近うなったとみえて、いかう人足が繁うなった。イエされ ばこそ、はや都へ上り着いた。ハハア、また某の辺りとは違うて、家建ちま のき でも格別ぢゃ。あれからつうっとあれまで、軒と軒、棟と棟、仲よささうに なむさんう ひっしりと建て並うだほどにの。南無一二宝、某は愚念なことを致いた。あま り都へ上るが嬉しさに、粟田口がどのやうな物やら、またどこもとにあるこ うけたまは とやら、承らずに参った。と申してはるばるの所、尋ねにも戻られまい。 これはまづ何と致さう。 ( 思案して ) イヤさすがは都でござる。かう見るに、 あり ととの 売り買ふ物も呼ばはって歩けば、物ごと早速調ふるさうな。某もこの辺りか うれ い い 四 むね いへだ 四ばかなことをした。まずいこ とをした。虎寛本をはじめ他本に は、不注意、思慮のないという意 の「ぶねん ( 不念・無念 ) 」とある。 茂山千五郎家本の「ぐねん」はその 転訛で、それに「愚念」の字を当て たものであろう。 後見座Ⅷ 狂言座 △ の手ⅱ常座笛座前Ⅷ 脇座Ⅲ 目付柱

10. 完訳日本の古典 第48巻 狂言集

すがうニ ちょうすごう 一趙子昂 ( 一一三四、一三一三 ) 。中国元 酢売り「子昂が自画自賛か。 もうふ △ 時代の文人。名は孟願。詩文・書 なん 画に巧みで、『君台観左右帳記』の 薑売り「何ぢや、子昂。 「絵之筆者下」にもその名が見え、 言 からやう 「山水・人物・馬形・花鳥、墨絵 酢売り「唐様。 狂 モアリ」と説明されている。中世 の座敷装飾の世界でもてはやされ 集薑売り「子昂、子昂、子昂、子昂。 ニ自分の描いた絵に、自分で賛 酢売り「唐様、唐様、唐様、唐様。 ( 両人笑う ) イヤなうなう、お聞きやるか。 を書くこと。 三一般に。世に。 薑売り「何ごとぢゃ。 四「スハジカミ。酢あるいは漬 みども 酢売り「そなたも見事言ひ、身共もいつまで言うたりと言ひ尽くさるることで汁につけた生薑」 ( 日葡 ) 。 四 五ことのついでに。祝意を重ね すはじかみ るように。 はない。総じて昔より酢薑と言うて、薑は酢でなければ食はれぬによって、 六一度に声を合せて高笑いする つかさ ( こののツた ) ドットワラウ こと。「咄笑」 ( 天正十八年本節用 この後は両人して売り物の司を持たうではないか。 七終りとしよう。別れるとしょ 薑売り「それは一段とよからう。 う。ここにも祝言的な言い方が見 ひら られる。「披。婚儀に『反 ( 帰 ) る』 酢売り「それならば、とてものことに、この所をめでたうどっと笑うて開かう。 と云ふを諱んでヒラクと云ふ」 ( 俚 言集覧 ) 。 薑売り「それがよからう。 ^ 以下、次のような留め方もあ る。薑売り「それは一段とよから 酢売り「それへお出やれ。 う。とてものことに秀句の引き退 きに致さう」酢売り「なほなほで 薑売り「心得た。 なに の