平家物語 186 たんばぢ ふつかぢひとひ じ時に都をたツて丹波路にかかり、二日路を一日にうッて、播磨と丹波のさか一馬に鞭打って急がせるをいう。 ニ兵庫県多紀郡と加東郡との境 ひんがしやまぐちをのばら ひなる三草の山の東の山口、小野原にこそっきにけれ。 にある山。加東郡社町の北の山。 三多紀郡今田町。京都の西、約 六〇は毖の地。 0 前半の平氏のさまは教盛・全真 ・維盛を中心に描かれ、和歌を挿 むなど優雅だが弱々しい。後半、 みくさがっせん 源氏の状況は武将を列記し、対 三草合戦 的な力強さが感じられる。 キョイへ 四元和版「伊賀平内兵衛清家」。 五海老は江見の転か。延慶本・ こまつのしんぎんみのちゅうじゃうすけもりおなじきせうしゃうありもりたんごのじじゅうただふさ 『盛衰記』など「江見太郎清平」、正 平家の方には大将軍小松新三位中将資盛、同少将有盛、丹後侍従忠房、 みま 四 五 節本「江見の次郎盛方」。江見は美 びっちゅうのかみもろもりさぶらひだいしゃう へいないびやうゑきよいへえみのじらうもりかたはじめ 備中守師盛、侍大将には、平内兵衛清家、海老次郎盛方を初として、都合国 ( 岡山県田郡の地名。 六控えているということだぞ。 をのばら 「は」は終助詞。 其勢三千余騎、小野原より三里へだてて、三草の山の西の山口に陣をとる。 セお延ばしになったなら。 くらうおんぎうし とひのじらう ^ はるかに ( ずっと ) 有利です。 其夜の戌の剋ばかり、九郎御曹司、土肥次郎を召して、「平家はこれより三 九「よかりぬ」の音便。「ぬ」は完 こんやようち 里へだてて、三草の山の西の山口に大勢でひかへたんなるは。今夜夜討に寄す了の助動詞。ここでは確信をこめ た強い断定を表す。 たしろのくわんじゃ べきか、あすのいくさか」と宣へば、田代冠者すすみいでて申しけるは、「あ一 0 「いし」の連用形「いしく」の音 便。物のできのよさをほめる語。 みかた すのいくさとのべられなば、平家勢つき候ひなんず。平家は三千余騎、御方の「いしく ( う ) も言ふ」の形で、言い 分が自分の意にかなったものであ る場合に用いる。よくそ。 御勢は一万余騎、はるかの利に候。夜うちよかんぬと覚え候」と申しければ、 おんせい とき みくさ かた く 六 九 はりま / ヘイ た
もろもり あきら きょふ一 きよさだ つねとし なく言われた。だいたい、兵衛佐だけが好意をもっておら章・備中守師盛・淡路守清房・尾張守清貞・若狭守経俊・ ひょうぶのしようまさあきら なりもめ・ あつもり こいのそう れるとしても、その他の源氏の者どもはどうであろうか。 兵部少輔尹明・蔵人大夫業盛・大夫敦盛、僧では、 i 一位僧 ずせんしんほっしようじのしゅぎようのうえん ちゅうかいきようじゅばうのあじゃ なまじっか一尸し。 1 こま離れてしまわれたし、波にも磯にもっ都全真・法勝寺執行能円・中納言律師忠快・経誦坊阿闍 りゅうえん ずりよう けびいし かぬ不安な心地でおられた。 梨祐円、侍では、受領・検非違使・衛府・諸司が百六十人、 きんだち いくさ そうしているうちに、小松殿の公達は三位中将維盛卿を総計七千余騎、これは東国・北国の何度もの戦で、この二、 よどむつだ はじめとして、兄弟六人、その軍勢千騎ほどで、淀の六田 三か年の間に討ちもらされてわずかに残ったものである。 がわら せきどのいん み一し おとこやま 河原で行幸に追いっき申す。大臣殿は待ち受けて、うれし 山崎の関戸院に帝の御輿を置いて、男山八幡宮を伏し拝み、 なむきみよう - ようらい そうに、「どうして、今まで」と言われると、三位中将は、 平大納言時忠卿は、「南無帰命頂礼、八幡大菩薩、帝をは 「幼い者どもが、あまりに慕いますのを、あれこれなだめ じめ我々を都にお帰し入れください」と祈られたのは悲し すかそうとして遅刻いたしました」と申されたので、大臣 いことである。めいめい後ろを振り返って見られると、空 ろくだいどの さび 殿は、「どうして六代殿をお連れにならないのか、気の強 はかすんで見え、煙ばかりが淋しく立ちのばる。平中納言 いことだ」と言われたので、維盛卿は、「行く先も頼もし教盛卿は、 くもありません」と、問われてつらい涙を流されたのは悲 はかなしなぬしは雲井にわかるれば跡はけぶりとたち しいことである。 のばるかな 落 とき 都 落ち行く平家は誰々か。前内大臣宗盛公・平大納言時 ( はかないことであるよ。家の主人は雲の遥かかなたに都を のりもり つねもりうえもんの 離れてしまい、その跡は煙となって空に立ちのばっている ) 忠・平中納言教盛・新中納言知盛・修理大夫経盛・右衛門 しげひら よ キ〕かみきょむね 第督清宗・本三位中将重衡・小松三位中将維盛・新三位中将と詠むと、修理大夫経盛は、 みちもりてんじようびと くらのかみのぶもとさぬきの 巻すけもり 資盛・越前三位通盛、殿上人では、内蔵頭信基・讃岐中将 ふるさとをやけ野の原にかへりみてすゑもけぶりのな ときぎね きよっね ありもり ただふさ みぢをそゆく 時実・左中将清経・小松少将有盛・丹後侍従忠房・皇后宮 つねまささまのかみゆきもりさつまのかみただのりのとのかみのりつねむさしのかみとも ( 焼け野原になって煙る故郷を振り返って見て、これから先 亮経正・左馬頭行盛・薩摩守忠度・能登守教経・武蔵守知 、一れもり えふ
ふたり あくぎゃう きゃうゐなかふたり 国に二人の王なし」と申せども、平家の悪行によッてこそ、京田舎に二人の王「天ニ双ッノ日無ク、国ニ二王無 シ」 ( 日本書紀・孝徳天皇条 ) 。 はましきしけれ。 三八五八年。廿三は廿七の誤り。 一三母は紀名虎娘静子。小原は大 もんどくてんわう てんあん おんこ みやたち 昔文徳天皇は、天安二年八月廿三日にかくれさせ給ひぬ。御子の宮達あまた原と同じ。出家後、大原近くの小 野に住むゆえとも、墓所が大原上 くらゐのぞみ ない / 、おんいのり みここれたかのしんわう 野にあったゆえともいう。屋代本 位に望をかけてましますは、内々御祈どもありけり。一の御子惟喬親王をば小 「小ハ一フ」。正節本「木原」。 はらわうじ わうしゃぎいりゃうおんこころ しかいあんきたな′ : 一ろ てら 一四王者としての才能・器量。 原の王子とも申しき。王者の才量を御心にかけ、四海の安危は掌の内に照し、 たなごころ 三「四海ノ安危ハ掌ノ内ニ照ラ はくわうりらん けんせいな シ、百王ノ理乱ハ心ノ中ニ懸ケタ 百王の理乱は心のうちにかけ給へり。されば賢聖の名をもとらせましましぬべ リ」 ( 和漢朗詠集下・帝王白居易 ) 。 にのみやこれひとのしんわう そのころしつべいちゅうじんこうおんむすめそめどのきさき き君なりと見え給へり。二宮惟仁親王は、其比の執柄忠仁公の御娘、染殿の后一六四宮の誤り。母は藤原良房 ( 忠仁公 ) 娘明子。染殿は父の邸名。 おんばら いちもんくぎゃうれつ の御腹なり。一門の公卿列してもてなし奉り給ひしかば、是も又さしおきがた宅摂政関白の異称。 一九 天一宮をさす。守文は始祖が武 しゅぶんけいていきりゃう ばんきふさ しんさう き御事なり。かれは守文継体の器量あり、是は万機輔佐の心操あり。かれもこを以て国を鯡めたのに対し、これ を受け継ぐ君主は文を以て守る意。 いちのみやこれたかのしんわうおんいのり れもいたはしくて、いづれもおばしめしわづらはれき。一宮惟喬親王の御祈は継体は王統を継承する君主。 ニ 0 一九朝政を輔佐する心構え ( の人 とうじ かきのもときそうじゃうしんぜい こうばふだいし おんでし 虎柿本の紀僧正真済とて、東寺の一の長者、弘法大師の御弟子なり。一一宮惟仁人 ) 。真名本『曾我物語』に「万機無 双ノ人相」。 しんわうおんいのり ぐわいそちゅうじんこうごぢそうひえいさんゑりゃうくわしゃう たがひ ニ 0 俗姓紀氏。承和十四年 ( 八四セ ) 八親王の御祈には、外祖忠仁公の御持僧比叡山の恵亮和尚そ承られける。「互に 東寺一の長者。貞観一一年 ( 八六 0 ) 没。 かうそうたち おとらぬ高僧達なり。とみにことゆきがたうやあらむずらむ」と、人々ささや = 一護持僧 ( 天子の祈疇僧 ) の転用 一三円澄・円仁に学び妙法院門跡 みかど くぎゃうせんぎ そもノ、しんら となる。貞観元年 ( 八五九 ) 没。 きあへり。御門かくれさせ給ひしかば、公卿僉議あり。「抑臣等がおもむば これひとの を コ パラ
方丈記 神田秀夫 ( 武蔵大学 ) 日本の古典」全巻の内容 永積安明 ( 神戸大学 ) 徒然草 荻原浅男 ( 千葉大学 ) 国古事記 国国とはずがたり・久保田淳 ( 東京大学 ) 小島憲之 ( 大阪市立大学 ) 佐竹昭広 ( 成城大学 ) 回ー萬葉集 木下正俊 ( 関西大学 ) 囮回宇治拾遺物語は器笋 中田祝夫 ( 筑波大学 ) 回日本霊異記 市古貞次 ( 東京大学 ) 囮ー囮平家物語 7 国 小沢正夫 ( 中京大学 ) 回古今和歌集 囮謡曲集三道 小山弘志 ( 国文学研究資料館 ) 佐藤健一郎 ( 武蔵野美術大学 ) 表章 ( 法政大学 ) 竹取物語 回謡曲集ロ風姿花伝佐藤喜久雄 ( 学習院大学 ) 片桐洋一 ( 大阪女子大学 ) 福井貞助 ( 静岡大学 ) 回 伊勢物語 北川忠彦 ( 京都女子大学 ) 安田章 ( 京都大学 ) 松村誠一 ( 成蹊大学 ) 囮狂言集 土佐日記 大島建彦 ( 東洋大学 ) 国 御伽草子集 木村正中 ( 学習院大学 ) 伊牟田経久 ( 鹿児島大学 ) 回 蜻蛉日記 好色一代男康降 ( 早稲田大学 ) 松尾聰 ( 学習院大学 ) 永井和子 ( 学習院大学 ) 回回枕草子 好色五人女 東明雅 ( 信州大学 ) 阿部秋生 ( 実践女子大学 ) 今井源衛 ( 梅光女学院大学 ) 国 回ー源氏物語 7 田 好色一代女 和泉式部日記 谷脇理史 ( 筑波大学 ) 藤岡忠美 ( 神戸大学 ) 国日本永代蔵 中野幸一 ( 早稲田大学 ) 紫式部日記 大養廉 ( お茶の水女子大学 ) 万の文反古 更級日記 神保五彌 ( 早稲田大学 ) 世間胸算用 鈴木一雄 ( 明治大学 ) 夜の寝覚 井本農一 ( 実践女子大学 ) 中村俊定 ( 早稲田大学 ) 図芭蕉句集 堀信夫 ( 神戸大学 ) 堀切実 ( 早稲田大学 ) 堤中納言物語 稲賀敬一一 ( 広島大学 ) 井本農一 ( 実践女子大学 ) 栗山理一 ( 成城大学 ) 久保木哲夫 ( 都留文科大学 ) 芭蕉文集・去来抄 村松友次 ( 東洋大学 ) 無名草子 森修 ( 大阪市立大学 ) 嶌越文蔵 ( 早稲田大学 ) 国近松門左衛門集 橘健一ズ岐阜女子大学 ) 四大鏡冒 雨月物語 高田衛 ( 都立大学 ) 今昔物語集 7 国馬淵和夫 ( 中央大学 ) 国東文麿 ( 早稲田大学 ) 中村博保 ( 静岡大学 ) 本朝世俗部今野達 ( 横浜国立大学 ) 春雨物語 栗山理一 ( 成城大学 ) 新間進一 ( 青山学院大学 ) 国梁塵秘抄 国蕪村集・一茶集 暉崚康降 ( 早稲田大学 ) 国国新古今和歌集圄峯村文人 ( 国際基督教大学 ) 圈古典詞華集冒山本健吉 ( 文芸評論家 ) 松田成穂 ( 金城学院大学 ) 石埜敬子 ( 跡見学園短期大学 ) 増古和子 ( 上野学園大学 ) 丸山一彦 ( 宇都宮大学 ) 松尾靖秋 ( 工学院大学 )