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検索対象: 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語
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1. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

撼りつけ ひきまわしのこぎりびき 引廻、鋸挽の上、礫」と定められ と云ふ。姉落ちゐてよろこぶ。捨いしは主をころせしよと思ひて、家にもかへ ていた。 みなそこ らず。いづちなく迯げうせたり。二人のをとこ等こそ、水底にしづみて、むな贏文のつながり、整わない。 「いひ騒ぐを」を補って読む。 一六決してそのようなことはない。 しく成りぬ。 宅「彼」と同じ他称の代名詞。 一里立ちさうどき、「捨石、主をころして迯げ行きしか」とて、みな長者の穴兄弟、姉妹。 くすし 一七 一九医者。西荘文庫本「医師」。 カれ ニ 0 「心見る」。実際について様子 家にあつまりて、小伝次せいして、「必ずあらぬ事也。渠がかひなに血出でて、 をみる意。近世では、診察の意に かばね 用いた。 父にそそぎし也」と云ふ。「さらば」とて、「ただ二人のをとこが屍もとめん」 ニ一急に病んで。天理冊子本「卒 一八 とて、立ち走り行く。いかにしけん、父はあしたになれど起き出でず。おとどのしるし」。また巻子本に「病は いびき 中風の一症に、卒倒して鼾を吹、 いゆき見れば、ロあき目とぢ、身はひえて死にたり。「こはいかに」とて、い寝たるま、に死ぬる者あり」とあ る。今日の脳卒中。 とみ ニ 0 一九 そぎくす師よびてこころみさす。くすしこころみて云ふ。「是は頓にやみて死や偶然が重なって、事態は思わぬ 展開を示す。噂がつくりだす状況 が、捨石、小伝次を追いこみ、次 にたまふ也。今は薬まゐらすともかひなし」と云ふ。おとどいなきまどふ。家 の目代の処置の素地を構成。 ニニ仁愛に同じ。憐れみ慈しむに 丸の内の者ども、又立ちさうどき、「まこと、主はころせし也。御めぐみふかく も程がある。姉弟が捨石をかばっ ごじんけい 石 ていると考えている。 て、とみのやまひとはのたまふ也。御仁恵といふもあまり也」と云ふ。 ニ三代官。 捨 国の守に聞えて、目代いそぎ来たる。かねて長者が富をうらやみしかば、此品「なり」が省略された形。 ついぞ ニ五「序に」。この機会に、家を滅 かばね ワ】 のついでになくしてんとて、屍見あらため、「是は、血はそそぎかけし也。たぼしてやろうと。 ひとさと もくだい

2. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

よ 一 0 ふに成りたる也。海賊は心をさなき者にて、君が国能く守らすのみならず、あ一九真名序に「続万葉集ト曰フ」。 もろえ ニ 0 『万葉』の撰者。古来橘諸兄説、 よそ やかもち さましく貧しき山国にて、あぶるるにたよりなければ、余所にして怠りたるに家持説がある。以下の所説、作者 こがねいさご の意見を仮托。『金砂』五、『金砂 一四 じようげん 剰言』『古葉剰言』に同見がある。 ぞ。都の御たちへ参るべけれど、ことごとしく、且つ、人に見知られたれば、 くんこ ニ一北海の人。訓詁学を体系化。 えんぎ 世狭くて、とにかくに紛れあるくなり。さて問ひまゐらすは、延喜五年に勅を = = 音に従って事物の意義を説明 した字学書。八巻。 奉りて、国ぶりの歌撰びて奉りし中に、左こそ長君たれと聞く。続万葉集の題 = = 枝や茎の意 ( 釈名四・釈楽器一一 十一 l) 。「釈名云、人ノ声ヲ歌ト曰 ニ 0 た 号は、昔の誰があつめしともしらぬに次がれしなるべし。是はよし。題の心をフ。歌 ( 柯也。声ヲ以ケ盻咏シテ 一」三上下有ルコト、草木ニ柯葉有ルガ りうきしやくみやう きけば、万は多数の義とは、是もよし。葉は、後漢の劉熙が釈名に、『歌は柯如キ也」 ( 金砂剰言 ) 。 はやら ニ四「暴風八夜知」 ( 和名抄 ) 。 也』。いふ意は、『人の声あるや、草木の柯葉有るが如し』とぞ。是はいかにぞ = 五「此書はやくの世にここに渡 より せしかば、是に依て題をえらびし は、時世のひらけざるをいかにせ ゃ。人の声には、喜怒哀楽につきて、聞くによろこぶべく、悲しむべきがあり。 ん」 ( 古葉剰言 ) 。 しよなん 故に声に長短緩急有りて、うたふにしらべととのはぬがあり。草木の枝葉の風 = 六後漢の学者。汝南召陵の人。 毛『説文解字』。漢字を系統的に 賊に音するも、はやちならば、誰かはあはれと聞くべき。さて柯葉とのみにては解明した最古最大の字学書。 ll< 同書の「歌」の注に、「歌、詠 ニ五おろか ことわり足らず。そのかみの人、わづかに釈名につきて字を解く。人の愚なる也。欠ニ从 ( 従 ) フ。哥ハ声ナリ」。 「詠」には、語を長く引いて感動を きよしんせもん 表す意味がある にもあらで、かく心をあやまりしが世の姿也。同じ代にも、許慎が説文には、 ニ九「詩ハ志ヲ言ヒ、歌ハ言ヲ、水 『歌は詠也』と云ひしは、舜典に『歌は永一一一口也』と有るを、よん所として云ひクス」 ( 書経・舜典 ) 。 み こころ ニ九 しゅんてん っ せつもん

3. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

やしろ かんなぎ 眼をひらきて見れば、海べにて、ここも神の社あり。松杉かうがうしきが中一「」。神官。 ニ「被る」。「かぶる」の古形。 じゃうえ かりぎぬ にたたせたまへり。かんなぎならめ、白髪交りたる頭に烏帽子かがぶり、浄衣三神事に着用する白い狩衣。 五ロ 「なれたる」は、着古した。 寺一口 物なれたるに、手には今朝のにへつ物、み台にささげてあゆみくるが、見とがめ四魚鳥等の神への供え物。 五こらしめられ、の意。 春て、「いづこより来たる。あやしき男也」と問ふ。「伯耆の大山にのぼりて、神一 ( 一緒に連れてこられて。 七「棄」の古字。 と - も にいましめられ、遠く此のぬさの箱と倶にここに投げ弃てて、神は帰らせたま八「怪」の本字。 九「鳥滸」。たわけたこと。 あや わざ おろか ふ」と云ふ。「いと恠し。汝はをこ業する愚もの也。命たまはりしこそよろこ一 0 島根県隠岐郡の隠岐諸島。 たくひ = 西ノ島の焼火山中腹にある。 ひなまらひめ べ。ここは隠岐の国のたく火の権現の御やしろ也」と聞きて、目ロはだけて驚『延喜式』に「比奈麻知比売ノ命ノ 神社」。大山の北東約一〇〇キロ ことくに き、「二親ある者也。海をこさせて、里にかへらせ給へ」と云ふ。「他国の者の一 = 「開く」の意の中近世語。 一三以下、自宅へ伴った叙述が略。 くにところ おきて 故なくて来たれば、掟有りて、国所を正しく問ひて後に送りかへさるる也。し一四国司に代って任に当った家人。 一四 近世の代官のイメージ。 これ ただ もくだい みにヘ ばしをれ。是奉りて後、我がもとに来たれ」。問ひ糺して、目代に行きて申す一 = 「御贄」。「に ( つ物」に同じ。 一六「ふと」は美称。 ごと は、「けさのみにへたてまつるふとのりと言高く申す手に、物のはらはらとこ一七何かが。 穴神殿の戸。「帰る」の主体は神 みと 官。このあたりの夢のお告げの神 ぼれしに、御戸たてて帰ると夢見たり。おどろきて、いそぎ御にへてうじて、 秘、桜山本にない設定。 うった 御社に参るに、松蔭に見しらぬ者のたてり。『いづこの人』ととひしかば、『伯一九「訴 0 の古形。 ニ 0 「罪す」は、処罰する。 ニ一夕方の満潮を待って出る船。 耆の国の者也。しかじかの事して、ここにしらず参りたり』と申す。即ち吾が 304 やしろ ふたおや 一八 六 だいせん

4. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

( 現代語訳三六〇 ) わかれ なみだがは れたりとて出でゆく別の袖の泪川、聞きにくきをまでえらびて奉りしは、政令やこのあたりの言辞、海賊の気骨 風貎を戯画的に強調する。強弁は 一四 にたがふ也。さらば、罪は同じき者ぞ。恋の部とて五巻まで多かるは、いたづもとより作者があえてしたもの。 五 一五男女の情を不道徳とする考え んなん ら事のつつしみなき也。淫奔の事、神代のむかしは、兄妹相思ひても、情のま方。朱子学徒の教条主義を批判。 一六五倫の一。『孟子』滕文公上 に「夫婦別有リ」。 ことぞとて、其の罪にあらざりし。人の代となりて、儒教さかんに成りんたり 一七『社記』曲社上に見える言葉。 とっくに めと しかば、『夫婦別あり』、又、『同姓を娶らず』と云ふは、外国のさかしきをま唐律にもあり、日本に移人された。 一八 一八天皇が政務をとる宮殿と皇后 せいりゃうこうりゃうざうりう でえらび給ひしならはせ也。さらば、清涼、後涼の造立はありし也。かの国にの居殿。夫婦の別をいう。 一九同姓不娶の教え。 はじめ ても、始は同姓ならで相近よるべからぬを、国さかえて、他姓とも交り篤くし = 0 学問。暗に当代の歌人を諷刺 ニ一菅原道真。醍醐帝時代の右大 う たより 一九 て、境をひろめ、人多く産むべき便の為なりしかば、是を必ずよき事とはした臣。のち左遷。『古今和歌集編纂 の二年前、延喜三年没、五十九歳 ニ 0 る也。歌さかしくよむとも、撰びし四人の筆あやまりしは、学文なくてたがヘ史実をわざと前後させた。 一三延喜元年の大宰府左遷をさす。 くんしゃうこう ニ三 ( 貫之たちに対する ) 勅勘。 る也。菅相公ひとりにくませおはせしかど、やがて外藩におとされたまひしか ニ四 品いわゆる醍醐帝の「延喜の治」。 おとし えんぎ おとがめ 賊ば、御咎なかりしなるべし。延喜を聖代といふも、阿諛の言ぞ。君も御眼くら = = 貶め〕排斥する義。 ニ六文章博士。延喜十八年没、七 しりぞ みよしきよっら 十二歳。よみ、諸説がある くて、博覧の忠臣をば黜けさせ給ふ世なり。三善の清行こそ、いささかもたが 毛史実では延喜十し年宮内卿 いけん ニ七 ( ずしてつかうまつるをば、参議式部卿にて停められし、選挙の道暗し。意見六人材登用の道。 ニ九公徴に応えた密奏の意見書 ワ 1 ふうじ 封事十二条は、文もよく、事共も聞くべかりけるを、ただただ学者は古轍をふ ( 本朝文粋所収 ) 。延喜 + 四年止奏。 あゆ あっ

5. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

うた 一清友 ( 贈太政大臣 ) の娘は嵯峨 ん。山吹を口なし色とは、此の哥をぞはじめ也ける。 かちこ 皇后嘉智子。以下、嘉智子のこと。 たいくわうごう そうらくきづ 淳和のきさいの宮、今、太皇后にてましませり。橘の清友のおとどの御むす = 京都府相楽郡木津町にある寺。 もろえ まっ 五ロ 橘氏の祖諸兄を祀る ウ′′ミャ 物め也。円提寺の僧、奏聞す。「『橘の氏の神を我が寺に祭るべし』と、先帝の夢三『伊呂波字類抄』梅宮の条によ る。同書の氏神の託宣に「我今天 おっげ 春の御告ありし」とぞ。帝、さる事にゆるさまくおぼすを、太后の宮聞こし召し子外家神也。我不」得 = 国家大幣→ 是何縁哉」とあるのを転用。 四 四皇后方の親戚。 て、「外戚の家なり。国家の大祭にあづからしむるは、かへりて非礼也」とて、 おおい 五葛野郡における大堰川の称。 かどの これ すなは ゆるさせたまはざりし也。葛野川のべ、今の梅の宮のまつりは是也。かく男さ六『字類抄』に「仍チ近ク移シテ 糲し」れ・ 葛野川の頭ニ祭リ、太后自ラ幸シ テ拝祭ス、今ノ梅宮ノ祭是也」。 びたまへば、宗貞がさがのよからぬを、ひそかににくませたまひしとぞ。伴の 京都市右京区梅津にある。 こはみね はやなり りうあん 健岑、橘の逸勢等、さがの上皇の諒闇の御つつしみの時に乗じて謀反ある事を、セ剛毅で男まさりのこと。 广」、 4 うわ 八いわゆる承和の変をいう。健 あを 阿保親王のもれ聞きて、朝廷にあらはしたまへば、官兵即ちいたりて搦めとる。岑は皇太子側近の武官、逸勢は たじまのごんのかみ 但馬権守。次編「海賊」の文室秋津 太后、是をも、逸勢が氏のけがれをなすとて、「重く刑せよ」と、ひとりごた ( 参議 ) が連座した事件。 九承和九年七月十五日崩。事件 せたまひしとぞ。子は、此の反逆のぬしに名付けられて、僧となり、名を恒は七月十七日のこと ( 続日本後紀 ) 。 一 0 天子が喪に服する期間。 じゃく 寂と申したまへる也。「嗟乎、受襌廃立のあしきためしは、もろこしの文に見 = 平城帝第一皇子。承和九年薨。 一ニ史実では嘉智子太后に報告。 一三「罪人橘逸勢除 = 本姓「賜 = 非 えて、是にならはせたまふよ」とて、憎む人多かりけり。 人姓 7 流 = 於伊豆国「伴健岑流 = 於 一六かしゃう こり一七 帝は嘉祥三年に崩御ありて、御陵墓を紀伊の郡深草山につきて、はふり奉る隠岐国一」 ( 続日本後紀七月廿八日 ) 。 んだいじ うぢ むん から ふんやのあきっ

6. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

二人の盗人め、酒にゑひて、若ざむらひ達の懐をさぐりとりしを見あらはされ、 = 一『懐硯』四ノ一に「咽の家老の 歩行若党五、六人・ : 無左法かず きず ニ六がたな / 、なるを見かね、向に進む大男 屋しきへつれいきて殺さんとおしやる。のがれんとて、ぬき刀して一人に疵っ めを切倒せば、残る五人抜合せた けたり。皆一つれにておはせば、かく血にまみれて、互ひに打ちあふ也」と云るを、また一二人討て捨、此よし奉 行所へ訴へしに」とある。 ニ九 ふ。「さらば」とてちかくより、「今はたがひに無やくのたたかひ也。あっかは = = 市の商人たち。 ニ三思い思いに棒を手に取って。 ん」と云ふ。小猿月夜は力を得て、刀ぬきたるをかまへて、樹下に立つ。侍等、品「不憫」に当てた。 ニ五おっしやる。ロ語的な言い方。 イっとう 三 0 ニ六抜刀。近世語。「して」は手段 「いな、かく我々も疵つきしかば、帰るべき道無し。かれら首にしてかへり、 を示す。 ごと あるじ 主の君にわびん。あっかひ言して法師も命損ずな」とて、聞き人るべくもあら毛一つ連れ。仲間。 夭これ以上は互いに無益。 かれら ず。「首は渠等が物也。ぬすみし物だにわきまへなば、助けてとらせ。立ちま = 九「扱ふ」「曖ふ」。調停する。 三 0 このまま帰ったのでは面目が ひあしくて盗人に疵つけられたるは、おのおの不幸の事也。聞き人れずば」と立たない。 三一↓三〇二ハー注一五。 わきま 三四 しやくちゃう 三ニ「弁ふ」。弁償する。 て、錫杖とりて二三人を一度に打ち倒す。「すは、ぬす人のかしら来たるは」 ふるま 三三振舞い。ここは立ち回り方。 下とて、群り迯ぐるもあり、「打ちたふせ」、「打ちころせ、とて、棒はしの原よ = 0 「驚破」。突然の事態にく声。 三五『水滸伝』第四回に「只見ル楼 おのおのはくなくこんをう まなこ りしげし。「おのれ等眼なきか。我は修行者也。事聞き分けて、人の命失はせ下三二 + 人、各白木棍棒ヲ執リ テ、ロ裡ニ都拿将下来ト叫プ」。 三六考えなしに。 ぬを、心なく云ふは共に打ちちらさん」とて、錫杖にて前にたっ七八人をうつ 毛近世語で順接。、ので。 3 三七 ほどに、「あ」と叫んで、皆打ちたふる。さむらひは今はうろたへて、迯げゅ lll< 「叫」の俗字。 三天 三三 と

7. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

「うましうまし」とてくふほどに、となりの人也とて、人り来たる。谷川のあ あきひと 一「商人和名阿岐比止、一云 あきびと 商買」 ( 和名抄 ) 。 なたの家より也。あとにつきて商人ひとり。「むすこはいまだかへられずや。 かへごと 五ロ ニ「易事」。交易。中世語。 きロ びと 三いわゆる銅脈。贋造の金貨。 物此のあき人どのは、いつも此のあたりへかへ事にくる人也。『此の家に黄なる ひるこ 雨 四正月十日、大阪今宮の蛭児神 にせ えびす 春金といふ物を持ちたり』とかたりたれば、『それは珍しき物なり。贋のかねあ ( 夷神社 ) の祭社。『日本年中行事 四 大全』に「帰路、小判、米俵・桝・米 はっとら えびす りて、春は大坂の戎まつりに、又京の鞍馬の初寅まうでにも商ふ。それらは皆袋・束のしを笹付けたるを買ふ」。 はっとら 五京都北郊鞍馬寺の正月初寅の いつはり ゅふげはし 譌もの也。よく見て参らすべし』とて、夕飯の箸をさめて、ただに来たるは」縁日。『日本年中行事大全』同条に 「鞍馬の土民銅にて造る小判を売 る。是をくらま小判といふ」。 と云ふ。「むすこがいづこに置きつる。人らぬ物なりとて、人にもやらじ」と 六終助詞。強調を表す。 くやう 云ふほどに、むすこ米おひ収めて来たり。「僧をとめたり。供養の物たきてま七僧に対する供応で、仏の供養。 八煮てさしあげよ。 てまさぐ ゐらせよ。米洗へ。飯たかん」とて、柴たきくゆらせ、「『かの黄なる金見せ九「手弄り」。手でもてあそぶこ と。関心がないさまを示す。 を まち 一 0 この前後の叙述、商人の気持 よ』とて、隣へくる商人殿が、待久しく居らるるよ」。「それはここに」とて、 をよく写し出している。 神祭る棚より取り出でて見する。つつみたる紙の破れたるより、光きらきらし = 「難〕に当てた。 一ニ一貫文は、一文銭千枚。近世 一 0 くまばゆきは、手まさぐりせぬ故也。されど僧が眼つきのおそろしさに、いつを通じて一両が四貫文前後、天明 以後下落して六、七貫文。実際の ぜに一ニ 三分の一の値である。米三斗も実 はりもえせず、「是はま事の金也。銭二貫文にかへてまゐらせん。米ならば、 際の三分の一以下。 やしろ 我もたねば、社の町へいきて、三斗にかへてまゐらすべし」とぞ。樊くわいに一 = 交換の相場。 320 こがね いひ 五

8. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

しるしれいげん ちならす事、凡百余年なるべし。何のしるしもなくて、骨のみ留まりしは、あ一「験」。霊験。仏徳のあかし。 「さても」 ( 前ハー ) 以下の部分、叙述 さましき有様也。母刀自はかへりて覚悟あらためて、「年月大事と、子の財宝の主体が不明確。主人の感想に話 五ロ 者の感想が重ねられながら、後出 の人物たちが導き出されている。 物をぬすみて、三施おこたらじとっとめしは、きつね狸に道まどはされしよ」と ニ考え方。「ぬすむ」は、勝手に 春て、子の物しりに問ひて、日がらの尸まうでの外は、野山のあそびして、嫁ま無駄使いをする意。 ふせ 三仏教が教える施し。お市施。 まじは むいせ ご子に手ひかれ、よろこぶよろこぶ。一族の人々にもよく交り、めしつかふ者『智度論』に、財施、法施、無畏施 けごん おんしきせ ちん虐う をいい、「華厳」では飲食施、珍宝 しんみようせ らに心つけて、物をりをりあたへつれば、「貴しと聞きし事も忘れて、心しづ施、身命施をいう。 四『国意考』に「すべてむくひと こり いひ、あやしき事といふは狐狸の かに暮らす事のうれしさ」と、時々人にかたり出でて、うれしげ也。 なす事也」とある。 いか ぢゃう 此のほり出だせし男は、時々腹だたしく目怒らせ物いふ。定に人りたる者ぞ = 譱」。日の吉凶。ここでは 先祖の命日。「尸」は「かばね」だが、 にふぢゃうぢゃうすけ まっ ここでは墓。作者は、先祖を祀る とて、人定の定助と名呼びて、五とせばかりここに在りしが、此の里の貧しき 習俗と仏法の教えを区別する ずみ 六この部分、文意分明を欠く。 やもめ住のかたへ、聟に人りて行きし也。齢はいくっとて己しらずても、かか 「人にも尊敬され、自分も満足し る ~ 父りはするにぞありける。「さてもさても、仏因のまのあたりにしるし見ぬて」の意を補って読む。 しゅばく やこのあたり、仏説の呪縛から開 は」とて、一里又隣の里々にもいひさやめくほどに、法師はいかりて、「いっ放され、のびのびとした人間性が 回復されたさまを描いて仏法の批 一 0 判にあてるとともに、信むの内実 はり事也」といひあさみて説法すれど、聞く人やうやう少く成りぬ。 をなしている人間の欲望に視線を をさ 又、この里の長の母の、八十まで生きて、今は重き病にて死なんずるに、く与えている。また、作者が理想と 254 ひとさと い およそ さん むこ いっ はか よはひ 四 にか どこ

9. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

一嫁として正式に認めることを しなんとねがふままに、つれ来たる也。ここにてしなせ、此の家の墓にならべ つひえ さがりんしよく ニ「性」。吝嗇な性質。 てはうぶれ。れいの物をしきさがはしりたる故に、此のいへの費にしはせじ。 五ロ 三小判一二枚。「ひら」 ( 枚・片 ) は、 ロ三 六 物金三ひらここに有り。是にてかろくともとりをさめよといふ。をどり上りて、薄く平らなものを数える語。 雨 四金は足らぬであろうが簡略に。 春「かねは我がふくの神のたま物なれど、おのれが家にけがれたるは何せん。も = 始末する意。葬る。 六西荘文庫本「を取上て」。怒っ とよりよめ子にあらず。死人ならば、とくつれいね。五曹いづこにをる。此のて躍り上がる意に読んでおく。 たまもの 七「賜物」。五曾次は、己の信条 けがらはしき、きかずばいかに。よくはからずば、おのれも追ひうたん。親にを軽んぜられて激怒している。 けが ^ この穢らわしい病人を、わし たち さかふ罪、目代どのにうたへ申して、とり行はせん」とて、来たるをすぐに立が承知しなかったらどうするつも りだった。 蹴に庭にけおとしたり。五蔵、「いかにもしたまへ。この女、我がつま也。追九上手に処置しないと。 一 0 「逆ふ」。逆らい背く罪。 ひ出さるれば、ここより手とりて出でんと、兼ねて思ふにたがはざるこのあし = 処罰していただこう。 一ニ足蹴にかけること。 た也。いざといひて、手とりて出づべくす。兄がいふ。「一足ひきては、た一三前から心配していたとおりの 事態になった。事態を予見しなが ふるべし。汝がつま也。この家にてしぬべし」とて、刀ぬきていもうとが首切ら、とどめえなかった五蔵の苦悩 を示す。 りおとす。五蔵取り上げて、袖につつみて、涙も見せず門に出でんとす。父お一四「べし」は当然を示す。 おやおや 一五「祖々」。先祖。 一五 どろき、馬にはね上がり、「おのれ、其の首もちていづこにか行く。我がおや一六お上によって誅せられるがい つみな、 おきて い。「罰ば罪を在せずー ( 推古紀 ) 。 おやの墓にをさめん事ゆるさじ。それまでもあらず。兄めは人ごろしぞ。おほ宅庄屋をいう。 四 いう。

10. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

といへるにて色々なるをつきまし ( たり見るにいまの見えたり、其中に就てこはいにし ( ざま也と思ふ事もあれ 世にあとは少たかひて紋あるからの紙なり手はいとめど大かたは疑がはしく ( 下略 ) 」と、彼は書いている。 てたくなたらかにてさま / \ あやとりて書たる世に紀「伝紀氏自筆本 , を一見した感動的な経験は、逆に彼にい のうしの筆とてたふとめるにまたくおなし手ふり也隣わゆる伝本類に対する懐疑の姿勢をもたらしたかのようで ある。そして皮肉なことに、天明四年の明記のある、この なる井坂氏は遠さと何かしと疎からぬ家にておはせり さてなん深く秘めたまへるをもたやすくかりて見せたま秋成書人れが、現在遺されたものの内、もっとも信頼でき へる也けりされとた、一時はかりに灯火のもとにてよる、一等早い時期の秋成自筆文なのである。 みかうかへしかば猶漏しぬる事もあらむ天明よっと いふとし十月十四日の夜亥の時はかりに此事をしるし とゝめぬるは此事のほいとけたるよろこひのあまりに 『懐硯』と秋成 なむ上田秋成しるす 中村博保 いうまでもないことだが、秋成はこの貴重な経験を、 ふところすずり 『古今和歌集打聴』の校訂作業のなかに生かした。同書西鶴の『懐硯』は、秋成が好んで用いた題材の一つだ 「序」の本文校訂にはいちいち「貫之筆」として、この伝が、その巻四の五「見て帰る地獄極楽」は一種の詐欺僧説 さぬき 書の本文を記人し、本文異同の考証に大きく一歩をすすめ話で、讃岐の空楽坊なる僧侶が、みずから往生を予告、数 たのである。しかし、秋成はこの作業をすすめる間に、つ万の群衆を集めてひともうけしたあと、たくらみが露見し いには「伝紀氏自筆本」の真偽を疑がわざるを得なくなって追放されるはなしである。人々これに信心を失い、誰ま にせえにし いる者もいなくなったという結びが「二世の縁」のプロッ たらしい。 ケジメ 「さて此度所々に書加〈て参差見せたるは或人の家に蔵めトに通じていたが、このはなし、どうやら「青頭巾」に関 て紀氏の筆也と云が今の本にはたがヘる所凡八十余箇所連があったことも認める必要があるようだ。