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検索対象: 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語
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1. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

よろこ をとめ り大いに喜び、「娘子の家はいづくぞ。傘もとむとて尋ね来るといふ。 >- 鬟大ナル門ヲ見ル」 ( 白娘子 ) 。 や夢と現実が一致する。豊雄の恋 さき 打ちゑみて、「よくも来ませり。こなたに歩み給へ」とて、前に立ちて行くゆ情の内に真女児が既に憑いている のである。なお、本編の成立後と く、幾ほどもなく、「ここぞ」と聞ゆる所を見るに、門高く造りなし、家も大思われるが、新宮市では、市内の 天然記念物「浮島の森」が、真女児 うち しとみ すだれ たが あや きなり。蔀おろし簾たれこめしまで、夢の裏に見しと露違はぬを、奇しと思ふの住居であるとする伝説が残る。 一五前出。安倍弓麿。 いざな ぬしまうぞ 一六「まろや」はー鬟の名前。 おもふ門に人る。ー鬟走り人りて、「おほがさの主詣給ふを誘ひ奉る」といへ 毛けっして。 まなご l< ご返社に。 ば、「いづ方にますぞ。こち迎へませ」といひつっ立ち出づるは真女子なり。 一九強引に座敷へ案内するさま。 としごろまな かしこ 豊雄、「ここに安倍の大人とまうすは、年来物学ぶ師にてます。彼所に詣づる = 0 客を迎える座敷。 わら あ務 ニ一藁を芯として畳表を張った上 だたみ 畳。昔は部屋は板敷で、客を迎え 便りに傘とりて帰るとて推て参りぬ。御住居見おきて侍れば又こそ詣で来ん」 るとき円座や畳 ( 現在のござ ) を敷 あながち といふを、真女子強にとどめて、「まろや努出し奉るな」といへば、ー鬟立ちいた。「床畳」は由緒ある家でしか 用いない。 しひめぐ ふたがりて「おほがさ強て恵ませ給ふならずや。其がむくひに強ひてとどめま = ニ室内の仕切に用いた家具。儿 婬 ニ 0 という台に柱を立て、横木を渡し の こしおしみなみおもて て布を結び垂れたもの。 性ゐらす」とて、腰を押て南面の所に迎へける。 ニ四 ニ三普通、三重の小さな置戸棚 とこだたみまう きちゃうみづし かざりかべしろゑ 四板敷の間に床畳を設けて、儿帳、御廚子の餝、壁代の絵なども、皆古代のよ品壁の代りに間ごとの隔てに垂 ちょうい れておく、綾絹等の張帷。絵や刺 巻 なみ しゅう き物にて、倫の人の住居ならず。真女子立ち出でて、「故ありて人なき家とは繍の飾りがあるものが多い。 ニ五主人のいない家。 8 みあへ うすきさけひとつぎ ニ六豪華なご馳走。 なりぬれば、実やかなる御饗もえし奉らず。只薄酒一杯すすめ奉らん」とて、 め六 むか かさ あゆ そ 一八 ゅゑ こだい 0

2. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

すざま たたず に持ちて、停みたるが恐し。かん人申す。「修験はきのふ筑石を出でて、山陽一 = 「妻しく」 ( 仏法僧 ) 。 一四荒々しく。 おんめ なにがし 道へ、都に在りしに、何某殿の御使してここを過ぐるに、一たび御目たまはら一 = 古怪な山野の神。百鬼夜行説 話にも目一つの鬼が現れる。 にびいろ しし ニ 0 すずき のうし 一九 一六直衣の下に着た平服。鈍色は ばやと申して、山づとの宍むら油に煮こらしたる、又出雲の松江の鱸二尾、是 濃ねずみ色。「調ずる」は調製する。 なます やから はしたがひし輩にとらせて、けさ都に来たりと。あさらけきを鱠につくりてた一七鳥の羽で作製。天狗の心象。 一 ( 九州。天理冊子本「筑紫の彦 ひこさん の山より」。筑紫彦山、四国白峯、 いまつる」と。修げん者申す。「みやこの何がし殿の、あづまの君に聞えたち、 うきだいせん 伯耆大山には天狗が住むと伝えら あたご 申し合さるべきにて、御つかひにまゐる也。事起りても、御あたりまでは騷がれていた。「何某殿」は京都愛宕山 の太郎坊。天狗飛行説話の心象。 し奉らじ」。神云ふ。「此の国は無やくの湖水にせばめられて、山の物、海のも一九山の土産。「宍むら」は肉塊。 ニ 0 島根県松江市。鱸は宍道湖の のも、共に乏し。たま物いそぎ、酒くまん」とおほす。わらはめ立ちて、御湯名産 ( 出雲風土記 ) 。 ニ一「鮮き」。新鮮なのを。 さがみおおやま かまど たいまつりし竈のこぼれたるに、木の葉、小枝、松笠かきあつめて、くゆらす。 = = 相模大山の伯耆坊をさすか。 桜山本「鎌倉の君に心合せて」。 くま めらめらとほの火の立ち昇るあかりに、物の隈なくみわたさるる。恐しさに、 = = 申し上げ。「言ふ」の謙譲体 品関東、東海の戦乱。『太平記』 の笠打ち被きねたるさまして、いかに成るべき命ぞと、心も空にてあるに、「酒に天狗が争乱をはかる記述がある。 ニ五湯立の神事を行った。 っ にな さる おい ひとくあたためよ」とおほす。狙と兎が、大なる酒がめさし荷ひて、あゆみくる実猿と同義。このあたり『鳥獣 戯画』のイメージ。怪奇にして瓢 目 - め ニ七 しげ也。「とく」と申せば、「肩弱くて」と、かしこまりぬ。わらは女、事ども味ある心象。「疾く」は、早くの意。 毛酒盛りの準備 おんまへ 執り行ふ。大なるかはらけ七つかさねて、御前におもたげに擎ぐ。しろき狐の夭手で高く持ち上げる意。 かづ びと ひと ささ てう

3. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

303 樊哈上 すざま 毛「妻し」の読み、作者の慣用に ど、追い止めむともさらにせず。 すいこぞん よる。『水滸伝』第一回に「只見ル さんあうり 此の大蔵と云ふは、足もいとはやし。まだ日高きに、御堂のあたりにゆきて、山凹裏ョリ一陣ノ風起リ 一八騒ぎ動く。 一八 みめぐ 一七すざま ひとけ 見巡るほどに、日やや傾きて、物妻しく風吹きたち、檜原杉むらさやさやと鳴一九人気がないのを、かえって得 意に。胆力を誇るさまを示す。 おどろ ニ 0 なんちらみだ こせつ りとよむ。暮れはてて人なきにほこり、「此のあたり何事もなし。山の僧の驚 = 0 「胡説↑でたらめ ) 、价等妄 せんわく くわいし リニ恠事ヲ生ジ、百姓良民ヲ扇惑 かすにこそあれ」とて、雨晴れたれば、みの笠投げやり、火切り出だしてたばスルヲ要シ」 ( 水滸伝・第一回 ) 。 ニ一奥の院の大智大権現社。大山 かみやしろ このむ。いと暗う成りて、さらば上の社にとて、木むらが中を、落葉踏み分け、寺東南約一一キ。。剣峰中腹にある。 ニニ↓二五八謇注一。 ふみはららかしてのぼるのぼる。十八丁とぞ聞きし。ここに来て何のしるしを = 三↓二五八ハー注七。 ニ四一丁は約一〇九 さいせんば ( かおかんとて、見巡るに、ぬさたいまつる箱の大きなるが有り。「是かづきて孟神に奉る布帛。ここは賽銭箱。 かづ ニ六背負うの意で「被く」。近世語 ニ七 下りなん」とて、重きをかるげに打ちかづきてんとするに、此の箱のゆらめきとして「担ぐ」ともよめる。 毛ゆらゆらと動き出して。桜山 ニ九 出でて、手足おひ、大蔵を安々と引き提げ、空にかけり上る。ここにて心よわ本「動」と傍書。 ll< 手足が生え。 ひしよう かけ 三 0 ニ九「翔る」。飛翔する意。 り、「ゆるせよ」、「助けよ」とおらべど、こたへなくて飛びかけり行くほどに、 三 0 悲しみ叫ぶ。 波の音のおどろおどろしきを聞き、いと悲しく、ここに打ちはめられやすると三一恐ろしく無気味。 たわむ 荒々しさと戯れを感じさせるこ きようまんいまし て、今は箱をつよくとらへてたのみたり。夜漸く明けぬ。神は箱を地に投げおの霓道の神、大蔵の驕慢を戒める と同時に愛でる要素もあって、本 来的な父親の伎割を果している。 きてかへりたり。 一九 ゃうや ひはら かっ ふはく けんがみね

4. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

( 代語訳三五八謇 ) あるひとあがたよとせいとせ 紀の朝臣つらゆき、土佐守にて五とせの任はてて、承和それの年十二月それ「或人、県の四年五年はてて」 ( 土 佐 ) 。以下『土佐日記』による。 なごり ふんやのあきっ の日、都にまうのぼらせたまふ。国人のしたしきかぎりは、名残をしみて悲し一五後出、承和十年没の文室秋津 に合せたか。史実無視の設定。 がる。民も「昔よりかかる守のあらせたまふを聞かずーとて、父母の別れに泣一六史家の記載にない。 よきものさかな 毛「美物」。肴の意。 く子なして、したひなげく。出舟のほども、人々ここかしこ追ひ来て、酒、よ穴『土佐日記』に物を贈り歌の応 酬を求めた人のあったことを記す。 うた き物ささげきて、哥よみかはすべくする人もあり。船は、風のしたがはずして、一九上佐の大津を出て室戸岬を廻 るまで一か月近くかかっている。 もひ ニ 0 思の外に日を経るほどに、「海賊うらみありて追ひく」と云ふ。安き心こそな = 0 一月二十三日「このわたり、 海賊のおそれありといへば、神仏 みやこ けれ、ただただたひらかに宮古へと、朝ゅふ海の神にぬさ散して、ねぎたいまを祈る」 ( 土佐 ) 。承平年中、南海 に海賊跳梁 ( 扶桑略記等 ) 。貫之の ふなをさ つる。舟の中の人々こぞりてわたの底を拝みす。「いづみの国まで」と舟長が帰路は、海賊横行の道筋に当った。 ニ一無事に。「宮古」は都に当てた。 云ふに、くだりし所々はながめ捨てて、さる国の名おぼえず、今はただ和泉の = = 紙絹を細く切った供え物。 ニ三「祈ぐ」。お祈り申し上げた。 かみ ニ四現在の大阪府南部の沿湾地方。 くにとのみとなふる也けり。守夫婦は、国にて失ひしいとし子のなきをのみい ニ五貫之は任地で娘を失っていた。 賊ひつつ、都に心はさせれど、跡にも忘られぬ事のあるぞ悲しき。「ここいづみ実「は ( 馳 ) さすれど」が正しい。 毛『源氏』玉鬘巻に「海賊の舟に おちゐ ふなをさ の国」と、船長が聞えしらすにぞ、舟の人皆生き出でて、先づ落居たり。嬉しゃあらん、小さき舟の飛ぶやうに て来るなど言ふ者あり」「川尻と いふ所近づきぬ、と言ふにぞ、す き事限なし。 こし生き出づる心地する」とある 以下、『上佐日記』にない虚構 ここに釣ぶねかとおぼしき、木葉のやうなるが散り来て、我が船に漕ぎよせ、 一三あそん ふ このは いっ 一五 しはす ふそう

5. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

一妻を持たず独身で過している て、「男子のひとり寝し給ふが、兼ねていとほしかりつるに、いとよき事ぞ。 ことをさす。 さいはひ おろかなり 愚也ともよくいひとり侍らん」とて、其の夜太郎に、「かうかうの事なるは幸 = 説得してあげましよう。 五ロ 一三ロ 三白話小説の語。庄屋、里の長 をいう。「一箇ノ保正」 ( 『水滸伝』 物におぼさずや。父君の前をもよきにいひなし給 ( 」といふ。 訓訳本 ) 。 まゆひそ したづかさあがたなにがし 雨 太郎眉を顰めて、「あやし。此の国の守の下司に県の何某と言ふ人を聞かず。四「おほいどの」は大臣の敬称。 五大願成就して。 なく をさ 我が家保正なればさる人の亡なり給ひしを聞えぬ事あらじを。まづ太刀ここに六新宮速玉神社をさす。古くか ら熊野権現といわれていた。 ためいき たづさ とりて来よ」といふに、刀自やがて携へ来るを、よくよく見をはりて、長嘘を七突然、にわかに。 五 四 ハ神社の神官の長。 ちかごろ おいどのごぐわん すりよう つぎつつもいふは、「ここに恐しき事あり。近来都の大臣殿の御願の事みたし九国の支配官。受領。 すけ 一 0 正しくは「介」。国司の次官。 かんだから みたからぐら たから ごんげん 「文室」は古代官僚に多い姓。 め給ひて、権現におほくの宝を奉り給ふ。さるに此の神宝ども、御宝蔵の中に 一一消失した神宝の探索。 かみぬすびとさぐとら 九 かみうったへい だいぐじ て頓に失しとて、大宮司より国の守に訴出で給ふ。守此の賊を探り捕ふため一 = どうみても。 一三「あるなる」の約。あります。 たち もつばら一一 すけきみふんやひろゆき に、助の君文室の広之、大宮司の館に来りて、今専に此の事をはかり給ふよ高全く盗みをしないことのたと え。「許宣ハ日常、一毛モ抜カズ した・つかさ しを聞きぬ。此の太刀いかさまにも下司などの帯べき物にあらず。猶父に見せ ( 白娘子 ) によったか。 一五他人の口から知られたら。 奉らん」とて、御前に持ちいきて、「かうかうの恐しき事のあなるは、いかが一六罪を連座して一家断絶にされ るだろう。神社に対する盗み・破 はか 計らひ申さん」といふ。父面を青くして、「こは浅ましき事の出できつるかな。壊は大罪で、罪は家族に及んだ。 一七豊雄をさす。豊雄の釈明は親 ひごろ一四もう にも信じられないのである。大宅 日来は一毛をもぬかざるが、何の報にてかう良らぬ心や出できぬらん。他より とみうせ をのこど一 おもて むくひ

6. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

さき たいめん 笘上げて出づる男、声をかけ、「前の土左守殿のみ舟に、たいめたまはるべき一「対面」の略。 ニ「此おふは舟を風に進ます也」 事ありとて、追ひ来たる」と、声あららかに云ふ。「何事ぞ」といへば、「国を ( 上佐日記解 ) 。 ふなやかた ロ 三「篷庫・ : 舟上屋也」 ( 和名抄 ) 。 二 = ロ いたづらごと 四「徒事」。に立たぬこと。無 物出でさせしよりおひくれど、風波の荒きにえおはずして、今日なんたいめたま 駄事。作者は文事や個人の見解を 公世界と区別する。 春はるべし」と云ふ。「すは、さればこそ海ぞくの追ひ来たるよ」とて、さわぎ 五「させ」は尊敬。 たつ。つらゆき舟屋かたの上に出でたまひて、「なぞ、此の男、我に物いはん六毛が濃く、汚らしいさま 七返報させる覚えはないであろ うから、の意。 と云ふや」とのたまへば、「是はいたづら事也。しかれども、波の上へだてて ゆる 八「緩ぶ」は、気を許す意。 つばさ わ 五 は、声を風がとりてかひなし。ゆるさせよ」とて、翅ある如くに吾がふねに飛九「筑紫」。九州全体の称。 一 0 思うままで、邪心なきこと。 あぶ び乗る。見れば、いとむさむさしき男の、腰に広刃の剣おびて、恐しげなる眼 = 「溢る」。荒らしてまわる。 一ニなおざりにして。 しち つきしたり。朝臣、けしきよくて、「八重の汐路をしのぎて、ここまで来たる一 = 大げさで。 一四末段で明らかにされる設定。 な は何事」と、とはせたまへば、帯びたるつるぎ取り棄てて、おのが舟に抛げ人一五人目を避けて歩く意。 一六醍醐帝の代。九〇五年。『古 今和歌集』真名序に「延喜五年・ : 四 れたり。 月十五日の日付がある。 さて申すは、「海ぞく也とて、仇すべき事おぼししらせたまはねば、打ちゅ毛漢詩に対しての和歌。「撰ぶ」 は詩文を集める意。 るびて、物答へて聞かせよ。君が国に、五歳のあひだ、参らんとおもひしかど、穴『古今集』の撰者は、貫之を中 きのとものりおおしこうちのみつねみぶの 九 心に、紀友則、凡河内躬恒、壬生 つくしきうごく ただみわ 竺紫九国、山陽道の国の守等が怠りを見聞きて、其のをちこちしあるきて、け忠岑の四人。 242 とま おこた 四

7. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

( 二人を使うさまを ) 頼りに たのまれて、とどむ。物おどろきせさせず、法師いとどたのもし。雪は日毎に あるし ニ主を心配させるようなこと はうせう にうしゃう 三「鳳笙」の意か。簫も竹管を並 ふる。「ことしの雪いと深し」とて、湯あみ等かたりあふ。山寺の僧の匏簫も べた笛だが笙とは別。匏は笙の台 1 三ロ おも 物て来て、吹きて遊ぶ。樊噌面しろく聞きて、「をしへたまはんや」と云ふ。僧になるふくべ。 四 楽の音に心を動かす樊は、そ まう きしゅんらく 春喜びて、「よき友設けたり」とて、喜春楽と云ふ曲を先づ教ふ。うまれつきてれまでの放埒な若者とは異なって いる。このあたり『古今著聞集』巻 五 かな のど しゃう 拍子よく、節に叶ひ、咽ふとければ、笙のね高し。僧よろこびて、「修行者は六の「源義光笙の秘曲を豊原時秋 ちゅうとう に授くる事」や巻十二「偸盗 . 」の心 うおんてん 妙音天の鬼にてあらはれたまふや」。はん噌云ふ。「天女のつかはしめに、我が象が投影。もちろん本編の心象は えしん 固有で、樊喰の回心の素地を描く。 ごとき鬼ありし」とて、打ち笑ふありさまただならず。「面しろき冬ごもり也。四唐楽の楽名。曲・舞とも不伝。 「返り声に喜春楽立ちそひて」 ( 源 まうけ されど寺に一たびかへりて、春の事ども設して、又こん。今一曲を」といへば、氏・胡蝶 ) 。 リズム感覚。節はメロディー わづら かったっ 「いな、一曲にて心たりぬ。おほく覚えんは煩はし」とて習はず。「春は必ず山天賦の楽才、闊達な人間性を暗示。 六呼気の大きさと強さをいう。 なさっ に来たりたまへ。あたら妙音ぼさっ也」とて出でたつ。月夜に、「御送りつか七妙音菩薩は美声をもって十方 世界に教えを広める菩薩。妙音天 ばんきんひら は弁財天の異称。両者を混同。 うまつれ」、「一曲の御社に」とて、判金一枚つつみに書きつけてまゐらす。い 八神仏の使仗する鳥獣。 と思ひがけぬ宝を得て、山にかへる。湯の中にも笛もて行きて、ささげて吹く。九正月の準備。「こん」は「来ん 一 0 欲念や邪心がないさまを示す。 = もったいない。評価されない 雪おほしとて人皆いぬる。さびしく成りて、「又いづちにも賑はしき所やある」 ことを惜しむ衄讐 じゃうし ごくいん と問へば、「粟津と云ふ所にも湯わく。加賀の城市ちかければ、人も多く人り一 = 極印のある小判。 324 五 かへ

8. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

五ロ 一三ロ うけ ささべ 一御当地へ行きます。 のぼらんことを頼みしに、雀部いとやすく肯がひて、「いつの比はまかるべし」 ニ前出の足利染の絹織物。全財 かねかへき と聞えける。他がたのもしきをよろこびて、残る田をも販つくして金に代、絹産を絹の交易に賭けたのである。 三準備をととのえた。 四「宮木」という名には二つの根 素あまた買積て、京にゆく日をもよほしける。 拠がある。一つは原拠「愛卿伝」 かたち おろか めみやぎ おとぎなうこ 勝四郎が妻宮木なるものは、人の目とむるばかりの容に、心ばへも愚ならず ( 剪灯新話 ) の翻訳 ( 伽婢子・藤井清 みやぎの めと 六遊女宮城野を娶る事 ) の人名で ことば あきものかひみやこ ありけり。此の度勝四郎が商物買て京にゆくといふをうたてきことに思ひ、言あり、今一つは秋成がよく知って いる、加島稲荷付辺の遊女宮木塚 つね をつくして諫むれども、常の心のはやりたるにせんかたなく、梓弓末のたづきの伝説の女性であった。 五困ったこと。 こし わか 六「末」の枕詞。 の心ぼそきにも、かひがひしく調らへて、其の夜はさりがたき別れをかたり、 セ生計。 まど 八夫にとり残され、頼りない女 「かくてはたのみなき女心の、野にも山にも惑ふばかり、物うきかぎりに侍り。 の気持をいう。 あす あした はや 朝にタベにわすれ給はで、速く帰り給へ。命だにとは思ふものの、明をたのま九命さえあれば。再会の可能を いう。「命だに心にかなふものな うきぎ たけみこころ れぬ世のことわりは、武き御心にもあはれみ給ヘーといふに、「いかで浮木にらば何か別れのかなしからまし」 ( 古今・巻八 ) 。 ながゐ くず いかだ 乗っもしらぬ国に長居せん。葛のうら葉のかへるは此の秋なるべし。心づよく一 0 「浮木」は筏、舟などをさす。 不安定な流浪のたとえで、「いく あづま みやこ 待ち給へ」といひなぐさめて、夜も明けぬるに、鳥が啼く東を立ち出でて京のか ( りゆきかふ秋をすぐしつつう き木にのりてわれかへるらん」 ( 源 氏・松風 ) による。 方へ急ぎけり。 = 「かへる」の序詞。ただし「か みたちひやうくわ カまくらごしよしげうぢあそんくわんれいう、すぎおんなかさけ ことしきゃうとく 此年享徳の夏、鎌倉の御所成氏朝臣、管領の上杉と御中放て、館、兵火に跡 ( る」は「帰る」の裏にる」 ( 約束 のり かひつみ いさ かれ のこ うり あづさゆみす七 ころ一

9. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

やしろ かんなぎ 眼をひらきて見れば、海べにて、ここも神の社あり。松杉かうがうしきが中一「」。神官。 ニ「被る」。「かぶる」の古形。 じゃうえ かりぎぬ にたたせたまへり。かんなぎならめ、白髪交りたる頭に烏帽子かがぶり、浄衣三神事に着用する白い狩衣。 五ロ 「なれたる」は、着古した。 寺一口 物なれたるに、手には今朝のにへつ物、み台にささげてあゆみくるが、見とがめ四魚鳥等の神への供え物。 五こらしめられ、の意。 春て、「いづこより来たる。あやしき男也」と問ふ。「伯耆の大山にのぼりて、神一 ( 一緒に連れてこられて。 七「棄」の古字。 と - も にいましめられ、遠く此のぬさの箱と倶にここに投げ弃てて、神は帰らせたま八「怪」の本字。 九「鳥滸」。たわけたこと。 あや わざ おろか ふ」と云ふ。「いと恠し。汝はをこ業する愚もの也。命たまはりしこそよろこ一 0 島根県隠岐郡の隠岐諸島。 たくひ = 西ノ島の焼火山中腹にある。 ひなまらひめ べ。ここは隠岐の国のたく火の権現の御やしろ也」と聞きて、目ロはだけて驚『延喜式』に「比奈麻知比売ノ命ノ 神社」。大山の北東約一〇〇キロ ことくに き、「二親ある者也。海をこさせて、里にかへらせ給へ」と云ふ。「他国の者の一 = 「開く」の意の中近世語。 一三以下、自宅へ伴った叙述が略。 くにところ おきて 故なくて来たれば、掟有りて、国所を正しく問ひて後に送りかへさるる也。し一四国司に代って任に当った家人。 一四 近世の代官のイメージ。 これ ただ もくだい みにヘ ばしをれ。是奉りて後、我がもとに来たれ」。問ひ糺して、目代に行きて申す一 = 「御贄」。「に ( つ物」に同じ。 一六「ふと」は美称。 ごと は、「けさのみにへたてまつるふとのりと言高く申す手に、物のはらはらとこ一七何かが。 穴神殿の戸。「帰る」の主体は神 みと 官。このあたりの夢のお告げの神 ぼれしに、御戸たてて帰ると夢見たり。おどろきて、いそぎ御にへてうじて、 秘、桜山本にない設定。 うった 御社に参るに、松蔭に見しらぬ者のたてり。『いづこの人』ととひしかば、『伯一九「訴 0 の古形。 ニ 0 「罪す」は、処罰する。 ニ一夕方の満潮を待って出る船。 耆の国の者也。しかじかの事して、ここにしらず参りたり』と申す。即ち吾が 304 やしろ ふたおや 一八 六 だいせん

10. 完訳日本の古典 第57巻 雨月物語 春雨物語

4 ときはかきはに ( 意改 ) ーときはかき 肥ゐろり ( 意補 ) ーゐろ はは べしとぞ ( 意補 ) ーへしそ 6 男ぶりよりして ( 桜・補 ) ー男ふりし て 肥となふる人多し ( 意補 ) ーとなふ人多 腰かけたる ( 意削 ) ー腰こしかたける し 6 一人すかさず ( 意削 ) ー一人すかさか さす 期 3 土佐 ( 桜 ) ー土左 6 手とりたるを ( 意削 ) ー手とりたるる 歌のほまれ を 繝 4 と云ふ歌は ( 桜・補 ) ーと歌は 3 1 加賀 ( 意改 ) ー賀々 3 とどまりたまふ ( 西・削 ) ーと、まり 繝 9 汐干の潟 ( 意改 ) ー汐干の瀉 たりたまふ 9 じん通川 ( 意改 ) ーしん堂川 肥月夜等 ( 意改 ) ー月夜に 7 さらずば ( 桜・補 ) ーさらす 7 ふみはららかして ( 天冊・補 ) ーふみ 3 と問へば ( 意補 ) ー問へは はらかして 6 見ゆるは ( 西・補 ) ー見るは 6 廊 ( 意改 ) ー廓 肥おどろきて ( 意補 ) ーおろきて 繝 3 舟にのせ ( 桜・補 ) ー舟に 3 身をくくりからめ ( 意削 ) ー身ををく 、りからめ 2 あつまり来て ( 意補 ) ーあつま来て 肥かうむりたり ( 意補 ) ーかうむたり 4 奪ひかへさんとすれど ( 意補 ) ー奪ひ かへさんと 錫杖にて ( 意補 ) ー錫杖に きロ 付 築紫 ( 意改 ) ー築砦 4 おとせしぞ ( 西 ) ーおとせしに 訂 9 何にても出だせ ( 意削 ) ー何にても何夜とは ( 西 ) ー夜 , 、は 校 にても出せ 2 かへりみもせず ( 意補 ) ーかへりもせ 6 山の峯 ( 意削 ) ー山の山の峯 6 門出にぎはしくす ( 意削 ) ー門出すに きはしくす 000 す