雇用 - みる会図書館


検索対象: 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか
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1. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

大規模に実施するなどして乗り切ろうとしている。生産体制の縮小や自粛ムードの広がりが人 員削減につながっており、製造業やサ 1 ビス業など業種を問わず、震災直後から非正規雇用を 削減する動きは非常に早い。 雇用は労働者のライフラインであるが、災害の影響は、長期にわたって拡大し再生産される。 阪神・淡路大震災では、九七年以降に倒産件数が増加し、有効求人倍率は伸びても正規雇用の 美 麻増加には結びつかなかった。災害とは、原因となる力が社会の脆弱な構造に作用して発生する 仲社会現象であって、日常の労働と生活のなかに構造化された脆弱性が一気に噴出する。そのま すっただ中で被災した人たちが立ち直りの契機をつかむことはきわめて困難であり、これまでの 構格差はさらに拡大してしまう。 を 戦後、経済は飛躍的に成長したが、その裏で非正規雇用 ( 低賃金不安定雇用 ) が膨脹して貧富 ン イ の格差が拡大し、職場や地域、家族の繋がりが分断されて社会のひずみが顕在化した。どんな フ 仕事や形態で働こうが、また仕事を持っているかそうでないかにかかわらず、人々に広く安全 のな公共住宅を提供する政策はいつも背後に押しやられてきた。世界的不況の波を被った九〇年 働代では、矛盾はさらに拡大し、二〇〇八年のリーマンショックで一気に噴出した。派遣切り、 労 有期切りのように真っ先に非正規雇用労働者から解雇され、しかも住む場所さえ奪い取られた。 173

2. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

神・淡路大震災のまちづくりが難渋した最大の理由である。たとえば、密集市街地の復興計画 では、津波の高さのコンクリート橋脚上に作られた人工地盤上に旧市街地の私有地を垂直に投 影し、その面積を所有する方式にすれば、土地の取引は基本的になくなるはずである。③将来 の津波災害の脅威から解放される。これは、今回の津波が再来しても浸水しない高さを確保し 惠ようというものである。④水産業、農業、観光業など地元産業の重視・奨励と環境産業などの 可 育成と地域振興を目指す。これは、もともとの産業である水産業、観光業や農業をこれまで以 し上に振興・奨励しようというものである。⑤エコタウンであり、資源・エネルギー的に持続可 め能な社会を目指す。これは、エコタウンを目指し、とくに集中豪雨時に流入河川の洪水はん濫 絵が密集市街地を襲う危険から逃れることができ、かつ新市街地に降った雨や河川の水を旧市街 地に「淡水湖」として貯めて利用しようとするものである。〕ずれ地球温暖化で渇水リスク」 安 大きくなるので、それに対処しようとするものである。⑥新しいまちづくりの担い手は被災者 安 らであり、関連公共事業において雇用を創出する。これは、水産業、農業や観光業に従事してい 会た人びとが失業し、収入手段を奪われたので、当面、まちづくりという公共事業に参画する形 社 - 険で雇用され、収入を得ようというものである。⑦津波残存物を原則、被災地内で分別処理し、 活用する。これは、津波残存物を被災地の復興に役立つように、分別後活用しようというもの 251

3. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

に医師不足・医療破壊がすでに深刻な社会問題となっていた。仕事と生活を支え合う公共分野 に重点的に雇用を投入し、地域経済から被災者の収入機会を損なわないよう復旧のために必要 な仕事に被災失業者を雇用し、その対価を支給することで地域経済の早期復興をはかる「労働 対価による支援プログラム」がもっと強力に広い分野で発動されるべきだ。建設などのハード 面のみならず、生活再建支援のために求められる仕事は膨大にある。それを仕事を失った人々 に有償で開放すること、そうした活動を組織する公社、社会福祉法人、協同組合、 zæo ・ z によって雇用の受け皿を用意し、就労支援の一環としてコンピュータ技術をはじめとする 職業教育を組み込んでいく。 災害からの復興を長引かせないためにも、差別のない働きがいのある人間らしい仕事 ( ディ ーセントワーク ) の保障が不可欠だ。働いても差別や貧困のために復興を困難にしてしまうよ うでは本末転倒である。無期限直接雇用の原則にしたがって、非正規雇用、とくに派遣や有期 雇用の導入については、相応の合理的な根拠を必要とし、一定の枠組みを超えたときには、安 定した正規雇用が保障されることが求められる。その際、ハローワークの役割はきわめて重要 であり、人員を補充し、ワンストップサービス ( 一度アクセスすれば必要なすべてのサービス を受けられるようにする ) を、医療や福祉、教育訓練などさらに総合的なサービスの提供に結 176

4. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

大震災と生活保障 ( 宮本太郎 ) 震災復興と生活保障の再構築を別だてにすることは、震災復興の名目で生活保障への支出を削 減する以外の効用が見いだせない。それは、復興を土建工事に還元してしまう一方で、被災地 と被災を免れた地域が共通して抱える課題も見えにくくする。もちろん、住宅や道路、港湾施 設などの復興は急がれなければならない。しかし、再建が成った街に雇用がなく人々が離れて いくとしたら何のための復興か。あるいは、日本全国で男女の就業率がさらに低下していけば、 そもそも復興は成るのか 私たちは大震災を、成熟の年代を迎えたこの国が、一人でも多くの人々が見返りのある仕事 に就き、つながりあうことのできる社会へと歩み出す転換点にしなければならない みやもと・たろう一九五八年生。北海道大学大学院法学研究科教授。比較政治・福祉政策論。 『福祉政治』『生活保障』他。 237

5. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

倒産・失業の拡大は子どもたちから教育の機会も奪い取り、いまや日本の一人親世帯の子ども の貧困率は五八・七 % と、 OQOQ 加盟国で突出している。 復興とは何か。それは、社会的な ( 構造化された ) リスクを取り除くことによってすべての 人々に平穏な生活と仕事を保障することである。災害は雇用を直撃するが、被る不利益を最小 限にし、仕事と生活を立て直すことができるシステムを用意することは、日本全体の課題であ る。今回の震災の規模は、阪神・淡路大震災の比ではない。そして、同様の規模の巨大地震・ 津波はそう遠くない将来、ほば確実に巨大都市を襲う。そのとき、貧困問題の解決と尊厳に値 する雇用の確保に向かって、どれほどのシステムを用意できているだろうか。医療・介護・福 祉、年金などの社会保障や、教育の充実、子どもたちへの支援も、少子高齢化に直面しつつ充 実した雇用社会を築くには不可欠の課題である。経済の発展とその成果を公正に配分するのみ ならず、インドの経済学者、アマルティア・センが唱える、不利益を被るリスクにも配慮した 「安全な下降」「人間の安全保障」という考え方が不可欠である。 被災地に特区を設けて大規模な規制緩和をはかり、投資を呼び込むことによって新たな雇用 を創ったり、第一次産業を効率化の観点から再編し、競争力を強化する構想も飛び交っている。 経済界は、雇用の維持・確保が最優先課題であるとしながら規制緩和を求め、日本経団連は、 174

6. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

建物のエネルギー効率を高める「グリ ーンジョブ」の創出も求められる。こうした職種は海外 移転が困難で、そのための技能は中短期の訓練で習得可能である。国も公共職業訓練に太陽光 パネル設置技術などの「住環境計画科」やエネルギー効率改善についての「電気工ネルギー制 御科」などをスタートさせつつある。 このように、必ずしも生産性が高くなくても地域社会のニーズに根づき新しいリスクや不安 を軽減する仕事は、地域の生活保障の礎となる。こうした雇用を生み出しながら、職業訓練や 就労支援あるいは子ども・子育て支援などで人々をそこに結びつけようとするのが、新しい生 活保障の考え方である。 生活保障の再構築は、雇用危機が全国に拡がることを防ぐ上でも重要である。震災による鉱 工業生産の落ち込みや節電の影響から、全国的に雇用が縮小している。非正規労働者の雇い止 めなどで雇用調整が図られる傾向は顕著で、大震災のあった三月には前月比で一・五倍に相当 する七〇〇〇人近い非正規労働者が職を失った。これが放置されれば、復興を支える力も引き 出されない このように見てくると、被災地復興と生活保障の再構築は、実は一体の課題であることが分 かる。そのための負担や財源のあり方も、一続きのものとして考えて不自然ではない。あえて 236

7. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

だが、地域にとって欠かせない、カのある企業に対する長い目でみた支援は、復興と雇用に は不可欠だ。そのためには、被災自治体が運営主体となった基金を創設、その資金を活用し、 復興のカギとなる民間企業を、地元に通じた目利きが支援する仕組みも、考えるべきだろう。 提案される復興都市のイメージ図には、高層の建物や高床式の土地利用などは描かれている が、寺社や神社など古くからの建造物が見当たらないこともある。だが、今回の津波でも釜石 せきおうぜんじ の石應褝寺は損壊を免れたように、田野畑村、大槌町、仙台市など、被災地でも逃げ込んだ住 民の命を救った神社や寺がある。「あそこに逃げれば大丈夫」という思いを、住民は以前にも まして強くしている。 歴史にはつねに理由がある。地域の実情を知らないと、固有の歴史や文化は無視され、やや もすれば無駄のない計画や戦略ばかりが尊重される。しかし「無駄に対して否定的になりすぎ ると、希望との思いがけない出会いもなくなっていく」という希望学の発見もある ( 拙著『希望 のつくり方』岩波新書、二〇一〇年、一二八頁 ) 。復興には、地元の実情や住民一人ひとりの思い や感情をふまえるため、粘り強い対話による現地の合意形成が必要になる。徹底すべきは、緊 急事態における市町村などの現場の判断を信頼し、県や国が迅速にサポートするという「現場 主義・現地主義」の実践だ。

8. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

びつける必要が痛感される。 号民間職業仲介事業所条約 ( 一九九七年 ) は、民間の公共的な役割に着目して労 働市場において官と民がパ ートナーシップを組んで役割を発揮するよう求めている。労働者派 遣事業は、復興に寄与するという公共的使命にそって、地元優先の原則を貫き、条約の求める 権利の確保された雇用を提供する立場にあることを明確にし、職業紹介や常用型派遣を追求す 美 麻る姿勢を示す必要がある。派遣が禁止されている建設・港湾運送にかかる業務を解禁すること 仲は、安全の確保などに欠けることにもなりかねず、一時的にも許容すべきでない。 る す特区構想は、中長期的な地域の復興と災害対策としても問題がある。経済成長こそ社会の安 構全性を達成する最大の手段であるという考え方は、災害からの復興には当てはまらない。経済 を 成長による利益は人々に均等に行き渡るわけではなく、貧富の格差が復興を困難にしている要 ン イ 因でもある。特に日本では、働きに応じて富 ( 成果 ) を均等に配分するシステムすら充分に確立 フ されておらず ( 徹底した差別の撤廃が実現されていない ) 、公正な競争と配分の前提を欠いてい ノー のる。いま私たちが直面しているのは、人と自然を収奪するグローバルな資本の動きに翻弄され、 働経済成長と効率重視のあまり、長い時間をかけて築いてきたセイフティーネットさえ「自己責 任」の名のもとに切り裂かれてきた深刻な状況である。復興が求めているのは、衣食住の安定 177

9. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

的な確保、資源エネルギーや医療・福祉・教育など人間の生活を持続させるためのインフラ整 備であり、切り裂かれたセイフティーネットの再構築なのである。 都市と農村の格差と矛盾は、被災地における雇用の確保が具体化できない以上、労働者が地 域に見切りをつけて出ていかざるをえない事態となって一気に亀裂が深まることになる。そう ならないよう、国や自治体、漁業・水産関連企業が出資して公的な漁業会社を作り、漁船など のインフラを用意し、雇用の受け皿とする構想が提唱されている。農業も広大な土地・土壌の 改良が求められ、同様の構想が有効な産業・雇用対策となるだろう。しかし、それが効率本位 の選別による漁業や農業の再編となると問題である。農業・漁業従事者として産業に貢献して きたすべての人々の仕事を確保し、家族経営のなかで果たしてきた女性や高齢者の力を活かす 仕組みが求められる。高齢化をめぐる諸問題や都市と農村の間の格差や矛盾を解決するにも、 固定的な男女の役割を縮め、解消に向かう努力も不可欠である。 政策の舵取りを、災害を大きくし、立ち直りを長期化させてしまう社会の構造的矛盾を解決 する方向に大きく転換すべきである。災害は、そうした社会の脆弱な部分に襲いかかり、社会 の歪みを瞬時にして可視化させるものだが、それが巨大都市を襲ったとき、どうなるのか。災 害を最小限のものとするため、自立して生きていけない低賃金や労働の買い叩きを撲滅するこ 178

10. 大震災のなかで : 私たちは何をすべきか

用や社会保障への財源は確保できないとする主張が勢いを強め、市場原理主義の復活にも連動 しかねない状況が窺える。 他方で大震災は、被災地への連帯の意識、つながりを求める気持ちを強めている。この気持 ちを受け止め、かたちにできるビジョンが必要である。行政への不信が強いこの国では、こう した連帯感は社会制度に結実しにくく、場合によっては「今はがまんの時」という方向に誘導 されかねない。 もし多くの若者たちが、社会とつながり能力を発揮できる条件を「がまん」す ることになれば、それはこの国の復興を遠のかせる。 長い間この国は、社会保障の支出を抑制しつつも、男性稼ぎ主の雇用を安定させて生活保障 を実現してきた。この仕組みが明らかに瓦解を始めたのは、一九九五年、つまり今回に先立っ 本阪神・淡路大震災の年であった。阪神大震災は、日本型生活保障をも根本から揺るがせたかた ちになった。 活 c-5QD-* に占める公共事業支出はこの年に , ハ・四 % とピークに達し、その後減少していく。こ との年に日経連は「新時代の日本的経営」を発表し、長期的雇用慣行の対象を縮小していくこと を宣言した。非正規労働者が初めて一〇〇〇万人を突破し、家計所得の総額が減少を始め、国 民一人あたりも四万ドルをピークに下降しはじめた。家族のかたちや人口動態にも大き 231