の文脈の中て、お互いの立場や責任を明確にしながら、自傷者の本当に必要としているこ とを満たすという共同作業を進めようとする。このように関わりを仕切り直すことによっ て、対応者は、本来の対応、援助の作業に復帰することがてきるだろう。そしてこのよう な対応は、対人関係の歪みを修正することに通じてゆくことはいうまてもない。 これまて述べてきたことの多くは、自傷者自身の力を強くするための援助てある。自傷 行為は、本書て紹介した多くのケースて示されているように、自傷者自身の行動・判断の 積み重ねの結果てある。それゆえ、ここては、自傷者が力をつけて、その人にふさわしい 方法て状況に対処てきるようになることこそが本質的な解決への道てある。 「流行」をくいとめる 現場の状況や周囲の人々との対人関係によって自傷行為が発生していることが明らかな 場合、自傷者を含む状況全体への対応が必要となる。また、自傷行為が周囲に及ばす影響 への対応も重要てある。 、身動 自傷行為のために家族や学校などの集団全体が恐怖心や罪悪感に取りつかれたり きのとれない一種の麻痺の状態に陥ることがある。自傷行為が繰り返されたり、自傷行為 が多数の人によっておこなわれる「流行」の事態にいたれば、その影響はいっそう強烈な 127 第七章自傷行為への対応
るケースはまれてある。タイアナ妃てもこのように表現てきるようになったのは、何年も の努力の後に十分に力をつけてからてあり、自傷行為が起きている時期には、このように 捉えることはてきていなかった。 このような状況ては、自傷者の精神状態や周囲の人々に生じるさまざまな反応を結びつ けて、自傷行為のメッセージとしての意味を考える作業が必要となる。自傷行為を「救い を求める叫び」としてみることは、自傷者によって反発されるにせよ受け入れられるにせ よ、その作業の手がかりとなる。 支えること 次の段階の課題は、支えることてある。自傷者は、重大な矛盾や葛藤に直面しているの が通例てある。自傷者が自分の体験や自分の置かれた状況の深刻さを表現てきる場合に は、それに共感を寄せることによって自傷者を気持ちて支えることがてきる。しかし実際 の自傷者は、文字通り自分を見失っている状態にあり、自分の状態をうまく表現てきない ケースが大多数てある。そのような場合には、その気持ちを理解することが難しいため、 まず自傷者を支えることが必要になる。 自傷者を支えるための最初のステップは、自傷者を援助しようとする対応者の存在を伝 1 2 0
感情障害の原因としては、さまざまなものが考えられている。うつ病の生物学的な病態 としては、神経伝達物質のセロトニンやノルエピネフリンによって作動している神経系 ( セロトニン系、ノルエピネフリン系 ) の機能が低下しているという仮説が有力てある。 過剰なストレスやパーソナリティのもろさがあると発症しやすくなると考えられている。 うつ状態は、ほとんどの自傷行為において伴われている精神状態てあり、自傷行為を生 じやすくする精神的要因として筆頭に挙げられるべきものてある。自傷行為に伴う自己評 価の低下、自分を罰しようとする傾向は、うつ状態の表れとして捉えることがてきる。第 五章て示した三つのモデル症例ても、全例て経過中にうつ状態が認められていた。また、 感情障害一般にしばしば伴われる感情不安定は、患者に混乱と苦痛をもたらし、やはり自 傷行為の原因となることがある。 感情障害の治療ては、心理社会的治療 ( 精神療法 ) と薬物療法とを組み合わせることが 基本てある。薬物療法にあたっては、うつ状態にはセロトニン系やノルエピネフリン系の 機能を強める効果のある抗うつ薬が、躁状態には炭酸リチウムなどの抗躁薬 ( 気分調整 とくに注意しなくてはならないのは、その 薬 ) がそれぞれ有効てある。感情障害の治療て 再発てある。躁うつ病および再発傾向の強いうつ病に対しては、抗うつ薬や気分調整薬を 継続的に投与する再発予防がおこなわれている。感情障害の心理社会的治療としては、患 103 第六章精神疾患との関係
これは、自傷行為の発生が人々のおかれた状況や精神状態によって大きく影響されるこ とを物語っている。このような自傷行為に影響を与えるさまざまな要因については、さら に後の章て取り上げることにしごい。
自傷行為が不合理なものてあるからといって自傷者を非難してはならない。 傷行為は、その人を叱ったからといって止まるようなものぞはない。 それは、そこに・目傷 者の窮迫した精神状態があると考えるべきだからだ。しかし過度に同情的になることも有 害てある。それによっていっそうの同情を得ようとするために、新たな自傷行為を誘発す るこし」か↓のるか・ら′し ~ のる 次に必要なのは、自傷者の訴えに耳を傾けることてある。自傷行為への取り組みの糸口 は、自傷者本人の内面に見出されることが多い。しかしほとんどの場合、自傷者は、それ を適切に表現するための準備がてきていない。 ここては、次々に質問を投げかけるより も、本人の問題の深刻さをそのままに受け止めようとすることのほうが大切てある。 さらに、自傷行為の傷に対して手当てをしたり、自傷者を病院に連れていったりして、 身体的損傷に対して手厚くケアすることも重要てある。自傷者の身体を気遣い、大切に扱 うことは、自傷者が自分の身体を傷つけても構わないという考え方を修正する契機となる 可能性がある。 理解すること 自傷行為への対応の第一歩は、自傷者のおかれた状況や心のあり方 ( 精神状態 ) を知る 117 第七章自傷行為への対応
ンスが保たれている状態てある。この状態において人間は、自分の心をうまくコントロ ししか - んれ、は、 ルすることが可能になる。理性の心と感情の心のどちらに偏っても、 頭だけの理屈に頼ることもその逆に感情に支配されることも、人間が行動を誤る原因と なる。その両方を大切にすることによってこそ、新たに自分を発見する気づきの体験 や、自分にふさわしい行動を選択することを実現しうるのてある。 づのるさ マインドフル、不スを論理的 と情い合 も感て統 に説明することはむすかし カ ン 実者 これは実際に技法を実践 ネⅱ しながら、体験的に理解しょ え と 0 な、状 うとすることが大切てある。 資用 理 弁証法的行動療法ては、表 布皿 8 に示されているようなマイ 心感印 の るの 態 法ⅶ ンドフルネスを習得するため 状 気動のるる 行そああ の動山 の技能として「それが何なの 的ⅱ 第静は態態 の 法“ 0 冷と状状かを把握する技法」と「それ 性 証 て」のた 図弁り 心心れをそのままに把握する技法」 理性の心賢い心感情の心 165 第九章さまざまな対処法・治療法
傷行為をおこなっているのなら、そう感じるにいたった事情をあなたはきっと思い浮かべ ることがてきるてしよ、つ。それは、心をこめて努力してきた試みが失敗して自尊心が大き く傷ついた、大切な人との関係がゆきづまって絶望したといった体験かもしれません。こ のような出来事に対して、ご自分の身体を傷つけることて反応することは、けっして理解 てきないことてはあリません。 しかし、自分の身体を傷つける人たちには、ほとんど常に別の事情も見出されます。そ れは、その人たちが「わたし」の本来の姿が見失われている状態にあるということてす。 本来の自分ならしないてあろう行動をとってしまうのは、どうしていいかわからなくなっ ているからなのてす。そのような人たちては、ほかにも矛盾した行動が見られて、それに よって苦悩を増していることが少なくあリません。 「わたし」を取り戻す 絶望にうちひしがれたリ、自分の存在が否定されたと感じさせられたリして、「どうし ていいかわからない」状況に陥ることは、人生の中てけっしてまれてはあリません。しか し、思い出してみてください これまてのあなたは、そのような苦しい状況の中て、自分 にふさわしいふるまいを選択することて「わたし」を作リ上げてきたのてはあリません 17 3 工ヒ。ローグ「わたし」の回復
これらの調査の所見から、自傷行為の多くが表に挙げた精神疾患の影響を受けて生じた まのと老ノ、んるこし」がてきる。 感情障害 ( うつ病・躁うつ病 ) ・うつ状態 次に、このような精神疾患から発生する自傷行為について考えていこう。 うつ状態、躁状態といった感情状態の異常が主な精神症状となっている精神疾患が感情 障害てある。うつ状態ては、気分が落ち込んて、悲哀感、罪悪感、抑うつ気分が支配的に なり、自己評価が低下し、悲観的認知が強まって、思考や行動が停滞してスムーズに活動 てきなくなる。躁状態ては逆に、爽快な高揚した気分が強まり、過度に活動的になった り、自信過剰・誇大的になったりする。 感情障害は、躁状態とうつ状態の双方が出現する躁うつ病と、うつ状態のみが現れるう つ病とに大きく二分される。両者は、うつ状態が出現するという共通性があるものの、基 りかん 本的に異なる疾患てある。うつ病は、生涯罹患率が男性て約一五パーセント、女性て約一一 五パーセントと、きわめて高率てある。うつ病が誰てもかかる可能性がある疾患といわれ るのはこのゆえてある。これに対して、躁うつ病の生涯罹患率は、男女とも約一。 トてあり、うつ病よりもずっと頻度が低い 1 0 2
の手段として利用しているようてあった。彼女はリストカットや過量服薬をすると、気持 ちが楽になって、しばらくそれをしなくてもよくなると五っていた。 治療ては、抗うつ薬による抑うつ症状の改善と、無気力のために不規則になりがちな生 彼女には、学校やアルバイトに行けないこと 活を立て直すことに焦点があてられていた。 , などて自責的になるものの、主体的にその生活を変えようとする行動を起こせない状態が 続いていた 。彼女の気分状態て さらに彼女には、うつ状態と躁状態の気分の変動が見られていた , は、無気力てすべてになげやりになるうつ状態が支配的ぞあったが、それにときおり、交 際範囲を性急に広げようとして周囲の人々と衝突を起こしやすくなる軽い躁状態の時期が 織り交ざっていた。このような気分状態の変動に対しては、抗うつ薬や気分調整薬が使用 された。 治療が開始されて約一一年が経過した時点て、彼女は過量服薬をきっかけにして入院冶療 を受けることになった。 空虚感や焦燥感による苦痛が抑えられなくなり、処方薬を大量に 服用した彼女は、その後に強まった恐怖感の中て、担当医に助けを求める電話をかけてき こ。担当医の指示てタクシーて来院した彼女は、薬剤の影響てもうろう状態となってお り、胃洗浄の処置を受けたのちに入院となった。 141 第八章自傷行為の治療
からの回復に貢献するに違いない。 ここて、患者の、自分の行動を整え自分を統合しようとする作業を助けるための、心理 まずそれは、治療スタッフが患者の述べる考えや感 的な働きかけを二つ挙げておきたい。 じ方を本当のものと認めて尊重し、受け入れることてある。先に述べた、自傷行為に患者 を支えるプラスの側面があるということを認めるのもそのような働きかけの一つてある。 第二は、患者の自己評価を高めることてある。自傷行為をおこなう患者の自己評価は、 第五章、第六章て指摘したように通常極めて低い状態にある。そのような自傷患者に対し て、患者のよい面を認めて、自尊心を保たせようとすることは、治療の基本的作業てあ る。そのよ , フな働きか けによって、自傷者は、自分を統合し、一貫性のあるものに作り上 げる工、不ルギーを得ることがてきる。 精神疾患 ・パーソナリティ特性・状況的要因 第六章て示した精神科医療の立場から、自傷行為の治療を考えてみよう。自傷行為は図 ーソナリティ特生 ( 障害 ) 、状況的要因から 5 に示されている三つの要因、精神疾患、 生じていると把握がてきる。 先に呈示したモデル症例の治療ては、自傷行為の背景となっている精神疾患に対する治 149 第八章自傷行為の治療