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検索対象: リストカット : 自傷行為をのりこえる
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1. リストカット : 自傷行為をのりこえる

の自傷行為のみの狭い意味て捉えるウォルシュらなどの考え方との間には、 がある。しかし筆者は、この二つの考え方のどちらかを選ぶという一一者択一の態度に 成することがてきない。実際のケースの対応ては、どちらかに決めつけて考えるのてはな 両方の可能性を念頭において十分に時間をかけて自殺未遂の特徴を見きわめることが 必要だからてある。 自殺未遂の特徴 実際の対応ては、自傷者にその行為にいたる気持ちの動きやそれについての考えを尋ね ること、および周囲の人々から客観的な情報を集めることという二つの方向から自殺未遂 の特徴が吟味される。 自傷者からその行為にいたる気持ちの動きを聞き取る際には、その行為の意図や目的、 それに伴う死の願望の強さを尋ねることが重要てある。さらに、手段の危険性についての 自覚、生きることや死ぬことに対する態度、事前の熟慮の有無や、その行動がどのような 結果となると推測していたかなどが有用な情報となる。 しかし、実際には、自傷者の自己表現力の限界のために、これらの情報がスムーズに聴 きないことがしばしばある。そのような場合ても参考となるのは、客観的な情報てあ

2. リストカット : 自傷行為をのりこえる

止てきると考えられている。 自傷行為を生じる歪んだ認知は、図の①②③のように分類てきる。自動的思考 ( 図の③ ) は、自傷行為に走るときに付随しているもっとも意識化されやすい認知てある。中むにあ る思い込み ( 図の① ) とは、生活のさまざまな場面て患者の判断や行動を支配している根 の深い考え方てある。介在する思い込み ( 図の② ) とは、自動的思考と中心にある思い込 みとの間を結びつけている思い込みてある。それはたとえば、自己否定的な考え方にもと づいて自傷行為を促す「自分は否定されるべき存在てすから、自分の身体を傷つけて痛い 思いをするのは当然てす」といった考え方てある。 図に示しているもののほかにも、自傷者ては「私は感情的な辛さに耐えられません」、 「私には幸せになる資格がありません」といった自己否定的な認知があることもまれては 認知療法ては、これらの病的な認知に対して、 はさまさまな歪んだ認知の存在を患者に認識してもらうこと に畆知か妥当てあるかどうか、他の考え方も可能てはないかといった検討をおこなう こし」 ③それらの認知の歪みへの再考を促すこと 16 2

3. リストカット : 自傷行為をのりこえる

決断し行動する力を強めることてす。 自傷者への援助の前提は、自傷者をみずから考え行動する主体として尊重することて す。そのためにはまず、自傷者本人の考え方や判断を最大限に尊重しなくてはなリませ ん。自傷行為に、なんとかして生きようとする試みといったプラスの側面を認めることも その一つてす。皆さんが自傷者の続けてきた努力を認めようとするなら、自傷者はそこか ら自分のカて新しい行動を組み立てようとする勇気を得るてしよう。 ただしこれは、皆さんが自傷者の考えや行動をそのまま受け人れるべきだということて はあリません。相手を自らに責任を負うことのてきる存在と認めるなら、皆さんがしつか リご自分の意見を述べるのは、むしろ当然なことてす。自傷者をそのように尊重したうえ て発せられる助言なら、それは、自傷者にとってきっと有意義なものとなるてしよう。 役割を守ること 皆さんにとくに注意してほしいのは、関わリの中てそれぞれの役割を守るべきだという ことてす。自傷者の対人関係ては、それぞれの役割が混乱し、行動の責任の所在が不明確 となっておリ、それが自傷行為の発生要因の一つとなっていることがしばしばあリます。 対人関係て互いの役割を明確にすることには、自傷行為の発生を防止する効果があると考 1 7 7 工ヒ。ローグ「わたし」の回復

4. リストカット : 自傷行為をのりこえる

一方て自分の感情に意味を感じられないと、つご互、 しオ ( に対立するようにみえる患者の訴 えを、二律背反的にてはなく、矛盾なく並存しているものとして「弁証法」的に取り扱お うとする考え方が応用されているからてある。それゆえここては、対立する考え方を二分 して扱うのてはなく、それらを超えた視点から把握して、行動を組み立ててゆくことが重 視される。 弁証法的行動療法のポイントは、次のようなものてある。 ・マインドフルネス 弁証法的行動療法ては、矛盾している状態を超えた視点を獲得して、揺さぶられても なおバランスを保つことがてきるマインドフルネスと呼ばれる心の状態を達成すること が重視されている。これは、東洋的な精神的行、とくに褝から発想を得たものとされ ており、弁証法的行動療法の治療全体を通じて求められている基本的な課題てある。 マインドフルネスとは、理性と感情の両方を視野におきながら、両者を超えた地点に 立って、考え、行動することのてきる心の状態てある。これをリネハンの図 ( 図 7 ) を 用いて説明しよう。 「賢い心」すなわちマインドフルネスとは、「理性の心」と「感情の心」との間のバラ 16 4

5. リストカット : 自傷行為をのりこえる

傷つくにふさわしい自分 本章ては、三つのモデル症例を題材として、自傷行為のきっかけとなるストレスや悩 み、性格特徴 ( パーソナリティ特性 ) や生育歴などの自傷行為の心理学的な発生要因につ いて考えてみたい。 このような心理的要因の把握は、実際の対応や治療の際にまず第ご 進められることてある。 ◆症例マサミ マサミは、「リストカットをやめられない」、「生きている実感がない」ことを主訴に病 院を訪れた二十代前半の大学生てある。彼女は、「このところリストカットが増えてしま った」ということて恋人や友人から強く精神科受診を勧められていた , 。彼女の左右の手 あと 首・前腕・上腕には数十のカッティングの痕があった。 初診時の彼女は「いつも死にたい気持ちがある。生きていても意味がない。 薄くしか手 首を切れない自分が恥ずかしい。自分のことをいつもネガテイプにしか感じられないと言 われるけれども、自分の感じ方は間違っていない」と述べていた , 彼女の自傷行為の背景 には、このような自分を否定する考え方があった。

6. リストカット : 自傷行為をのりこえる

エリカの入院によって彼女の自傷行為や過量服薬は、すべて家族の知るところとなっ 彼女は「両親の悲しそうな顔を見るのが辛かった」という。彼女は、両親に対して自 分の行動て心配をかけたことを謝罪し、さらにそれまて内緒にしていた自傷行為の体験を 打ち明けた。それをきっかけにして、彼女は周囲の人々にとっての自分の行動の意味につ いて考え始めた。 こうして彼女は、家族の反応が返ってくることによって、自分の行動の重大さを思い知 ることになった。両親は、エリカの自傷行為と入院にショックを受けていたが、それまて 、アルバイトも学業も続けられなかったのは精神疾患が重いせいだという現実を受 け入れて、それまて以上に腰を据えてエリカの精神疾患と取り組む覚語を固めたようだ。 エリカのリストカットや過量服薬は、この入院の後、まれになっている。彼女はさら に、生活のペースを地道に固めるという方針の下て、気分状態が変動しても続けることの てきる軽いアルバイトを始めることにした。彼女の自傷行為はそのような生活が軌道にの ると見られなくなっている。 治療関係を築く 次に、これら三症例を振り返りながら、自傷行為に対する治療の考え方を示すことにし 14 2

7. リストカット : 自傷行為をのりこえる

自傷行為が不合理なものてあるからといって自傷者を非難してはならない。 傷行為は、その人を叱ったからといって止まるようなものぞはない。 それは、そこに・目傷 者の窮迫した精神状態があると考えるべきだからだ。しかし過度に同情的になることも有 害てある。それによっていっそうの同情を得ようとするために、新たな自傷行為を誘発す るこし」か↓のるか・ら′し ~ のる 次に必要なのは、自傷者の訴えに耳を傾けることてある。自傷行為への取り組みの糸口 は、自傷者本人の内面に見出されることが多い。しかしほとんどの場合、自傷者は、それ を適切に表現するための準備がてきていない。 ここては、次々に質問を投げかけるより も、本人の問題の深刻さをそのままに受け止めようとすることのほうが大切てある。 さらに、自傷行為の傷に対して手当てをしたり、自傷者を病院に連れていったりして、 身体的損傷に対して手厚くケアすることも重要てある。自傷者の身体を気遣い、大切に扱 うことは、自傷者が自分の身体を傷つけても構わないという考え方を修正する契機となる 可能性がある。 理解すること 自傷行為への対応の第一歩は、自傷者のおかれた状況や心のあり方 ( 精神状態 ) を知る 117 第七章自傷行為への対応

8. リストカット : 自傷行為をのりこえる

どの厄災の折に、聖職者に先導されて街の住民が列を作り、自らを鞭て打ちながら行進し たことか言命に残されている。この多くの人々の参加する自傷行為には、自らの罪を罰す るという宗教的な意味に加えて、災害や疫病を避けるために、それを生じる神の怒りを和 らげようという意図があったと考えられている。 今一つの世界宗教てある仏教ては、宗教的な理由て自傷がおこなわれることがまれてあ しようろうびようし るとファヴァッツアはいう。なせなら仏教ては、生老病死という人生の要素すべてが苦 しみてあり、人間は、すてに苦しんているという基本的な考え方があるからてある。ま 釈尊は、べナレスにおける最初の説教において極端な苦行をおこなうことを否定して いる。ファヴァッツアは、このような事情から仏教国ては自傷行為の発生が少ないのだろ うと述べている。本章の表 3 を見ると、 たしかに仏教圏てある台湾、韓国ては、他の地域 より少ない傾向があるようだ。 指詰めと根性焼き 特定の集団において文化的意味合いの強い自傷行為がおこなわれてきたことは、わが国 も例外てはない。 ここては、わが国て置習的におこなわれてきた自傷行為てある「指詰め ( 断指 ) 」と「根焼き」について、小原圭司の報告を元に述べることにしたい。

9. リストカット : 自傷行為をのりこえる

実際の治療ては、このような感情のプラスの面を生かすために、さまざまな種類の感 情の発生様式やその表出の方法を自傷者に学んてもらい、感情体験への対処法のレバ トリーを広げるトレーニングがおこなわれる。 ここては、代表的な「困難に耐える」技法として、「根本的受容 ( ラジカル・アクセプタ ンス ) 」をみてみよう。それは、「苦しみから自由になるためには、心の奧深くから物事 をそのままに受け入れる」こと、「その瞬間を耐えようと決意する」ことてある。この 認知の様式は、理性や感情の動きを超えたマインドフルネスの考え方を徹底させたもの てある。 さらに「困難に耐える」ては、「自分の意田 5 を活かす」ことが勧められている。これ は、「状况において必要なことをなすこと」、「『賢い心』に耳を傾けること」てあり、そ こ、る人とのつながりへの気づき」に れはまた「宇宙の、大地の、そして自分の目の前 ( し もとづく行動をおこなうことてある。このような「自分の意田 5 を活かす」訓練によっ て、人はありのままの自分の行動をとれるようになる。 「困難に耐える」ことは、マインドフルネスの考え方を認識と行動において徹底させる 一」し J にほかた 6 、らたい。 それは、その対極の回復を妨げる「自分の意思にこだわる」こと ・「困難に耐える」 167 第九章さまざまな対処法・治療法

10. リストカット : 自傷行為をのりこえる

る。そしてその記述の対象は、自殺未遂と重なるような症例、明らかな精神障害を合併し ている重症の症例に偏っている。それは、筆者が精神科医療の現場てそのような患者の治 療に携わっているからてある。筆者は、そのような立場にある者として、本書において自 傷行為のなるべく多くに当てはまる記述を心がけたつもりてある。 しかし、本書が精神科医療て扱われる自傷行為を過不足なく捉えているかと問われるな ら、まだ不十分だとしか答えよ - フがない。 それは、筆者が本書の執筆中にも次々とそれま て見られなかったタイプの自傷者に出会い、自傷行為を把握することの難しさを思い知ら されてきたからてある。また、精神科治療スタッフの中にも、本書とは別の立場や考え方 をお持ちの方もおいてだろう。それらの人々の考え方も併せて検討するなら、治療の有効 生をもっと高めることカてきるかもしれない。 精神科医療の外に目を転じれば、さらに別の可能性を見出すことがてきる。近年、多く の書籍やインターネット上のホームページて、自傷者自身によってその体験や回復過程が 公表されるようになっている。それらは、自傷行為に関わるすべての人にとって、多くを 学ぶことのてきる貴重な機会てある。それはまた、自傷者が力をつけつつあることを意味 している。そのような活動のさらなる発展を期侍したい。 本書がさまざまな制約を抱えているとしても、自傷行為への一般の読者の理解を深め、 18 3 おわりに