発見された。その死因については、他殺、謀殺によるものとする説もあるが、二回にわた る調査委員会の結論は、睡眠薬の過量服用による自殺てあった。 米国の精神保健の専門家の多くはマリリン・モンローを境界性パーソナリティ障害てあ ったと考えている。これは、感情や対人関係の不安定さ、そして同一性障害 ( 自分が何者 か、社会てどう位置づけられるか、といった自己イメージや自己の役割意識が不安定な状態 ) を特徴と する精神疾患てある。彼女の男性との関係は、ほとんど手当たりしだいのものといってよ 長続きしなかった。 彼女はまた、早くから映画撮影ての緊張感や、監督から軽蔑されているという不安に押 しつぶされそうになっており、それから逃れるためにアルコールや睡眠薬の乱用を続けて 彼女の主演する映画の製作は彼女の情緒不安定、遅刻癖、撮影のすつばかしのため に大混乱となるのが常だった。 モンローは、いつも自分にあきたらず、ひたすらにもっとたしかな自分をつかみ取ろう として苦闘を続けていた , 彼女の内部ては、有名になりたいという 上昇志向と、自らを 「スラムっ子」と呼ぶ低い自己評価とが同居していて、絶えず葛藤を引き起こしていた このような状態の彼女は、どんなに頑張って女優としての名声を高めても、自分の意思は 何か、自分は何者かということがっかめないままてあった。 71 第四章マリリン・モンローと南条あや
止てきると考えられている。 自傷行為を生じる歪んだ認知は、図の①②③のように分類てきる。自動的思考 ( 図の③ ) は、自傷行為に走るときに付随しているもっとも意識化されやすい認知てある。中むにあ る思い込み ( 図の① ) とは、生活のさまざまな場面て患者の判断や行動を支配している根 の深い考え方てある。介在する思い込み ( 図の② ) とは、自動的思考と中心にある思い込 みとの間を結びつけている思い込みてある。それはたとえば、自己否定的な考え方にもと づいて自傷行為を促す「自分は否定されるべき存在てすから、自分の身体を傷つけて痛い 思いをするのは当然てす」といった考え方てある。 図に示しているもののほかにも、自傷者ては「私は感情的な辛さに耐えられません」、 「私には幸せになる資格がありません」といった自己否定的な認知があることもまれては 認知療法ては、これらの病的な認知に対して、 はさまさまな歪んだ認知の存在を患者に認識してもらうこと に畆知か妥当てあるかどうか、他の考え方も可能てはないかといった検討をおこなう こし」 ③それらの認知の歪みへの再考を促すこと 16 2
ゴ ) 、「死ねたらそれてもよい」 ( エリカ ) といった陳述から、その行為ては自殺未遂の 場合よりも自殺の意思が弱いとい - フことがてきる。むしろ自傷行為には、生きることを 確認する試み、さらには、生きるための試みという意味が認められることが多い この「死の願望」は、 かならすしも危険なものと見る必要はない 。それは世の中一般 に広く認められるものてある。世界各地の神話や昔話、伝統的な習俗、宗教的な修行に は、結局は再生へと通じる性質の「死」、つまり「死と再生」の普遍的テーマを読み取 ることがてきる。それらには、その文化や集団の危機に直面して、自分たちの同一性を 寉忍し、危機に立ち向かう力を強めるというプラスの作用がある。自傷行為にも、これ と類似の意味を帯びていることが少なくない。自傷者は、自傷行為をおこなうことによ って、自らの存在の意味を突き詰めて考える機会を得ることがある。私たちは、自傷行 為の持っこのようなプラスの意味を見落とすべきてない ・自己感覚や自己コントロールの回復 自傷行為は、痛み、恐怖、苦痛を発生させることによって自己感覚や自己コントロー ルの感覚を確認するためにおこなわれることかある。それは、「実際に生きているとい う感覚を取り戻すため」「自分がそれをてきるということを確かめたかったから」など と説明される場合てある。この意図は、空虚感や現実感覚の喪失に苦しむ人々によって
えることてある。それはたとえば、「私にはまだあなたの辛い思いをよく理解てきないけ それをやりたくなったら、どうか私に声を れども、自傷行為を繰り返してほしくはない。 かけてほー ) い」し J い , フレよ - フに、て ~ のる さらに、自傷者の自尊心もしくは自己評価を高め、自己コントロール能力の回復を図る ことも重要なポイントてある。たいていの自傷者は自尊心が大きく損なわれた状態にある のて、対応者はその自尊心の回復を促すように関わるべきてある。 ますおこなうべきことは、困難を克服しようとしてきた自傷者のそれまての努力に敬意 を払うことてある。自傷者は、対応する者が彼らを肯定的に捉えようとすれば、そのぶん だけスムーズに自分を表現てきるようになる。また、自分をコントロールてきた点を評価 することも大切てある。それは、自信を失っている自傷者に再び自分の間題に取り組もう とする勇気を取り戻すきっかけになることがある。 このような関わりを重ねる中て、自傷者の内面が徐々に明らかにされ、その抱えている 間題が把握てきるようになる。自傷者を支えようとする作業は、それを理解する作業と同 時にゆっくりと進んてゆく 121 第七章自傷行為への対応
語られることが多い。このような自傷行為の意図はモデル症例の中てエリカにもっとも 顕著に認められていた 自傷行為は、このような自己感覚の障害を克服しようとする行動てもある。しかし自 傷行為にはごく一時的な効果しか望むことがてきないのて、自己感覚にまつわる苦痛が 続けば、それが繰り返されることになりかねない ・身体において苦しみを表現すること 人間は、しばしばその身体を使って自らの感情を表現する。なかても皮膚は、もっと も簡単に傷をつけられると同時に、その傷が人々の目にもっとも留まりやすいために、 効果的にメッセージを発することのてきる身体部位てある。たとえば、症例シンゴのよ うに、自分の苦しい体験の記憶を自分の身体に刻み込み、それを周囲の人々に見せつけ るために自傷行為がおこなわれるケースは少なくない それはさらに、痛みをいとわず自傷行為をやってのけるという勇敢さや忍耐力を誇示 する意味がある。また、症例マサミて見られたように、それは、罪悪感を感じさせ、態 度の変更を迫るというように周囲の人々に強い影響を及ばすメッセージとなることが ある。 しかしそれは、周囲の人々にとってけっしてわかりやすいメッセージてはない。 93 第五章三つのモデル症例
周囲の人々 ( とくに異性 ) の注目や関心を集める派手な外見や演技的行動が特徴て ある。 ・強迫性バーソナリティ障害 一定の秩序を保つことに固執することが基本的特徴てある。きちょうめん・完全主 りんしよく 義・頑固・過度に良心的て倫理的・吝嗇 ( けち ) ・優柔不断 ( 決断困難 ) などがみられる。 ・回避性バーソナリティ障害 自分の失敗をおそれ、周囲の人々からの拒絶を避けるのが特徴てある。自己 ~ の不確 実感、劣等感などの自己にまつわる不安や緊張がある。 ・依存性バーソナリティ障害 他者への過度の依存が基本的な特徴てある。そのため、自らの行動や決断に他者の助 言や指示が必要となる。他者の支えがないと、無力感や孤独感をいだきやすい ーソナリティ障害が自傷行為の発生に関与していると考えられるケースは多い。第五 章て論じたように、衝動的、攻撃的、自己破壊的なパーソナリティ傾向は、自傷行為の発 生要因の一つてある。このため、自傷行為を示す患者ては、境界性、反社会性といった種 類のパーソナリティ障害が見出されることがある。 1 12
他方、自分の身体に生じた不快感に対しては、それを無視するのてはなく、身体が 発しているメッセージとして受け入れて、その感覚を変えることを試みる。 ・セクシャリティについて考えるーーー身体的魅力を高める セクシャリティ ( 性のあり方 ) は、自己の感覚の重要部分てあると同時に、人間関係 を形成するための土台の一つてある。それが自分にとって受け入れられない場合には、 自傷行為を含むさまざまな問題の原因となる。 それぞれの人のセクシャリティは、実際の活動や対人関係を積み重ねながら、自分て 定めてゆくものてある。自分のセクシャリティを確認するための心理的作業は、自傷行 為から脱するための重要な道筋てある。そのために試みられるものとしては、自分自身 の成熟した大人の身体を受け入れようとすることや、性的特徴を隠す、もしくは逆にそ れを強調する服装をすることなどがある。 また、自分の身体的魅力を高めることは、健康の感覚を強め、セクシャリティを確認 するためのポイントとなる。ダイエットして体重を適正に保つ、化粧をする、自分の好 きな身体部位をイメージするといったことは、それを促進するために有用だろう。 ・身体有効感 身体有効感は、身体感覚や運動感覚によってもたらされる自らを肯定的に捉える身体 159 第九章さまざまな対処法・治療法
切る、裂く、刺す、殴る、咬む 自傷行為とは、自分て自分の身体を傷つける行動を指す用語てある。この自傷行為に は、ごくさまざまな行動が含まれている。 自傷行為の中て一般にもよく知られているのは、手首などの四肢、顔や頸部、腹や胸と かみそり いった身体のさまざまな部位を刃物て切ること ( 自己切傷 ) てある。剃刀などて手首を切 るリストカットは、まさしくその典型てある。また、皮膚を引き裂くこと ( 自己裂傷 ) や ひっかくことも自傷行為に含まれる。さらに身体を、鋭いものて突き刺すこと ( 自己刺 やけど かしよう こうしよう 傷 ) 、火傷を負わせること ( 自己火傷 ) 、殴ること ( 自己殴打 ) 、咬むこと ( 自己咬傷 ) 、 っそ 手や足の指などの身体の突起した部分を切断することも含まれる。自傷行為には、い う特異なものもある。それらは、自己身体の一部 ( ロたとえば、指やロ唇 ) を食べてしまう こと、眼球を突いたりくりぬいたりすること、性器の切断といった行動てある。 このように書くと、自傷行為はいかにも馴染みの薄い日常からかけ離れた異常な行動と 受け取られるかもしれない。 しかし、実際には、次に示されるように高い頻度ぞ発生して おり、その実態が多くの人に知られていないだけなのてある。また、その中にはわが国の 一つの習俗といえるようなよく知られている行為もある。たとえば、非行少年に多く見ら
こには、この時期、父親が自分の身体疾患のために飲酒をやめており、話を聞いてくれる ようになったとマサミが期待したという事情もあるたろう。しかし、もともと寡黙な父親 は、マサミに責められても黙りこむばかりてあった。 神科冶療を始める前の時期、マサミの父親に封する怒りはとくに激しくなっていた このときはまず、父親が過去のふるまいについてマサミに謝ったのて、彼女の怒りは一時 収まった。しかしすぐ 彼女は従来と同じ態度をとり続けている父親に対して、「これ ては以前と変わらないてはないか」と怒りを倍加させた。また、この頃の彼女は感情が不 安定てあり、理由もなく気分が沈んて泣き出したり、 不安に襲われたりするようになって いた。さらに彼女は、昔から母親の代わりとして世話をしてくれていた年長の姉に不安を 訴えてしがみつく行動を見せていた マサミの自傷行為の心理的要因を整理してみよう。まず、彼女に生じていた自分に対す る怒りや罪悪感による自己処罰の欲求を挙げることがてきる。さらにそれは、自分に価値 がなく死んだほうかよいと彼女が感じていることから、自殺と連続生のあるものだといえ る。しかしここては、リストカットによって「ほっとして安心てきる」とい , フ感覚が生じ ていることに注目する必要がある。それは彼女の自傷行為に、否定的な自己感覚、低い自 尊むに由来する苦痛の感情を紛らわす作用があるということてある。それゆえ、彼女の自
からの回復に貢献するに違いない。 ここて、患者の、自分の行動を整え自分を統合しようとする作業を助けるための、心理 まずそれは、治療スタッフが患者の述べる考えや感 的な働きかけを二つ挙げておきたい。 じ方を本当のものと認めて尊重し、受け入れることてある。先に述べた、自傷行為に患者 を支えるプラスの側面があるということを認めるのもそのような働きかけの一つてある。 第二は、患者の自己評価を高めることてある。自傷行為をおこなう患者の自己評価は、 第五章、第六章て指摘したように通常極めて低い状態にある。そのような自傷患者に対し て、患者のよい面を認めて、自尊心を保たせようとすることは、治療の基本的作業てあ る。そのよ , フな働きか けによって、自傷者は、自分を統合し、一貫性のあるものに作り上 げる工、不ルギーを得ることがてきる。 精神疾患 ・パーソナリティ特性・状況的要因 第六章て示した精神科医療の立場から、自傷行為の治療を考えてみよう。自傷行為は図 ーソナリティ特生 ( 障害 ) 、状況的要因から 5 に示されている三つの要因、精神疾患、 生じていると把握がてきる。 先に呈示したモデル症例の治療ては、自傷行為の背景となっている精神疾患に対する治 149 第八章自傷行為の治療