会社があなたに払う給料は不課税、出張旅費は課税仕入だが、国外は不課税、あなたに支払 う通勤手当は課税仕入、というように全取引を分類しなければいけないのである。消費税は シンプルというのは税率だけの話で、実際は大変複雑で、難解な税なのである。 消費税は付加価値税 消費税は課税売上に税率を適用して、そこから課税仕入に際して負担した税額分を控除す る。つまり、 課税売上 x 税率ー課税仕入 x 税率Ⅱ納税額 となるが、これを簡単に書くと、 ( 課税売上ー課税仕入 ) x 税率Ⅱ納税額 ということになる。売上から仕入を控除した部分を通常その企業の付加価値というが、消費 税はその企業の付加価値に税率をかけた分を納税するので、付加価値税ともいわれるのであ る。 この付加価値税はフランスが発明し、多くの国で採用されている税制だが、その理由は累 積課税を排除する点で優れているからである。もし付加価値税方式でないと、次のような困
錯覚する消費者 痛みを感じた消費税 一九八九年に導入されてから二〇〇四年まで消費税は消費者の痛税感を刺激した。例えば、 喫茶店に入り、三五〇円という値段の付いているコ 1 ヒーを注文しよう。香りもすばらしく 美味しく飲んだあなたはレジで三五〇円を出す。すると、「三六七円です」と言われ、ハッ として消費税 ( 正確には国税としての消費税四 % に地方消費税一 % の合計五 % 。以下では両税をまと めて消費税という ) のことを思い出す。あなたは、三六七円をしかたなく払い、消費税という 税金の存在を自覚する。 この章では消費税を考えてみよう。この税ほど市民に身近で、しかも誤解されている税も ないように思われる。どこが誤解されているのか、消費税の基本的仕組みも解説しながら説 明しよ、つ。
このような税負担を感じることを「痛税感」とか「税痛感」というが、日本の消費税は市 民にもっとも強い「税痛感」を自覚させ、子どもにも消費税の名前を知らしめた。なぜ、そ 、つなったのだろう。 もし、ビールを買うとき、値段が一九〇円と表示されているので一九〇円渡して、「一九 〇円に酒税一三九円と消費税一六円の合計三四五円いただきます」と言われたら、あなたも ビールの酒税がこんなにも高いのかと自覚し「税の痛み」を感じるはずである。消費税がも たらした「税痛感」という効果は、商品の価格の中に消費税を含めて表一小 ( 内税方式という ) せずに、支払に際して加算するという、いわゆる外税方式を多くの業者が採用したことによ るものである。 財務省 ( 旧・大蔵省 ) も消費税導入当初は業者が消費税を転嫁しやすいように外税方式を認 めてきたが、 外税方式だとわずか五 % の負担でも消費者には痛みを与え、消費税率を引き上 税げにくくするので、二〇〇四年から内税方式 ( 総額表示方式 ) を強制することにしたのである ( 消費税法六三条の一 I)O 内税方式に切り替えればビールのように四〇 % 以上の負担でも消費者 章 は税負担を自覚しなくなり、引き上げについても関心が薄くなるからである。付加価値税を 第 実施しているフランス、ドイツ、イギリスなどでは消費者に対してはほとんどが内税方式で
わけでもない。事業者であっても前々年または前々事業年度の課税売上高が一〇〇〇万円以 下である場合には免税事業者となり、確定申告の必要もなくなるからである ( 消費税法九条 ) 。 しかし、免税業者も商品の仕入に際して消費税を負担している。従来と同じように利益を出 すためには、仕入にかかった消費税分を商品価格に上乗せしなければならない。今まで六〇 〇万円仕入れて一〇〇〇万円の売上があった場合は、六〇〇万円の仕入に際して三〇万円の 消費税を負担するから、一〇三〇万円の売上は欲しいことになる。そうすると、売上一〇〇 〇万円分の三〇万円、つまり、三 % の値上げをすればいいのだが、なぜ三 % 値上げするのか の説明は難しいので、「消費税をいただきます」と五 % の値上げをすることになる。そうす ると、この業者は一〇五〇万円の売上になり、売上には消費税がかからないので、仕入の三 〇万円を引いても、従来の儲けよりも二〇万円も増えることになる。これが益税といわれ、 消費者の反発を招いてきた。 税二〇〇四年四月から従来の三〇〇〇万円が一〇〇〇万円の基準に切り下げられたので、課 税業者に該当する者が激増したが、それでも事業者 ( 個人二八一万、法人二八六万 ) の約六割程 章 度である ( 表 3 ー 1 ) 。にもかかわらず、消費者はあらゆる取引に際しておとなしく消費税分 第 として負担してきているのである。しかし、免税業者も仕入にかかった消費税分の負担を転
ーヒーは売りません」というだけの話である。このあとは消費者と業者の事実上の力関係で 決まる。業者がどうしても売りたければ、三五〇円に値引きするからどうぞ、ということに なり、あなたがコーヒーを飲みたくてしかたなければ、三六七円支払って飲むだけのことで ある。もし消費者が納税義務を負っている税金であるなら、ス ーパーが勝手に「消費税還元 セール」をやるのは違法なことになるはずである。 これが、通常の間接税の法的関係なのである。間接税というのは法律上の納税義務者と実 際の負担者とが一致せず、納税義務は事業者が負い、その分が商品の価格に転嫁されること が予定されている税である。なお、転嫁といっても法律が転嫁を強制しているわけではなく、 その「可能性」を認めているだけなので、カの弱い業者は転嫁できずに自ら負担することも ありうるのである。同じ消費行為に課税する場合でも、例えばゴルフ場利用税のように「利 用者」に納税義務が課されている ( 地方税法七五条 ) 直接税とは異なっているのである。 税ところで、あなたはすでに飲んでしまったので三六七円を支払うとしよう。このうちの一 七円は一体何だろう。あなたは消費税の納税義務を負っているわけではないのだから、あな 3 たが払った一七円は消費税そのものではない。この消費税相当額である一七円は実は「対価 第 の一部」なのである。つまり、あなたは三五〇円に消費税一七円を上乗せして消費したので
しかも、奇妙なことに、このような業者についても所得税や法人税の計算では仕入があっ たものとして計算することを認めるのである。なぜなら、所得とは収入金額や益金から必要 経費や損金を控除したものだから、仕入をなかったものとして収入金額や益金に課税するわ しに ( いかないからである。同じ業者が所得税では仕入があったこととされ、消費税では仕 入がなかったものとされてしまうのである。仕入税額控除が、このように調査手続に異論を 唱える業者に対する威嚇手段と化している現状は問題であり、立法論としては所得税や法人 税と同様に、推計で合理的な仕入税額を控除することを認めるようにすべきであろう。 逆進性は変わらす こうした問題に加えて、消費税は誕生の当初から致命的な欠陥を持っている。いわゆる逆 進性の問題である。消費税の法律上の納税義務者は前述のように事業者であるが、事業者は 自己が払う消費税分を商品の価格に転嫁して、実際には消費者が負担させられているのは明 らかである。この消費者の消費税負担の割合は、高所得者より低所得者層の方が高い。これ を負担の逆進性というか、消費税にこの欠陥がっきまとうことは、様々な調査研究で明らか にされている 102
予定外の設備投資が必要になり、結果として原則計算の方が有利であったような場合も出て くるのである。その意味で、この選択制度は一種の賭のようなものだともいわれる。 この制度を選択している業者は、表 3 ー 2 のように個人は六割、法人は四割で、全体の約 半分といえよう。 業者の約四割が免税業者で、残りの業者の約五割が簡易課税業者だとすると、実際に消費 者が消費税だと思って負担している金額の何割が、本当に消費税として納付されてきたのだ ろうか。消費税が定着した今、もはやこれらの益税を生み出す制度の役割は、課税する立場 からも終わったのかもしれない。 2 シンプルでも、公平でもない税制 税どの取引に消費税がかかるのか ところで、物を買うと必ず消費税を負担させられるのだろうか。かからない物もあるのだ 3 ろうか。消費税法は、まず四条で「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法 第 律により、消費税を課する」と規定し、国内のすべての取引を課税対象にしている。このよ
価格表示をしており、事業者間での取引にのみ外税方式が用いられている。内税方式への切 り替えは税率アップの準備であったが、内税化後も国民の抵抗感が強く、相変わらず、税制 改正の最大の争点となっている。 なお、五 % の負担のうち、一円未満の端数は切り捨てることができるので、三五〇円の場 合は一七円の負担になる。 誰が払うべきなのか ところで、外税時代には、コーヒー代金は三五〇円と表示されているので、税のことを考 えずに飲み、払う段階で三六七円を請求されてきた。もし、あなたが、一七円も余分に払う のはいやだと言ったらどうなるのだろう。注文した以上、あなたが負担しなければ、あなた は脱税者になるのだろうか。つまり、あなたは納税義務を負うのか、という問題である。 多くの消費者は、「消費税」という名前からして消費者が負担しなくてはいけない税金だ と考えているようだ。しかし、消費税法は納税義務を「事業者」 ( 五条 ) に課しているのであ る。つまり、納税義務を負うのは事業者であって消費者ではないので、あなたが「消費税は 払いません」と言っても一向にかまわなかったのである。そうすると、業者は「それならコ
確かに、ごく少数の富裕層にだけ課税しても、国家の税収はそれほどの規模にならないか もしれない。現在の税制でいうと、相続税は富裕者層だけが対象になるが、この税収は消費 税率五 % の五分の一以下であるので、消費税一 % にも満たないのである。 滞納の増加 不况になってから、消費税の納税に異変が生じている。バブル期には、益税もあり、抵抗 なく支払っていたが、バブル崩壊後は消費税滞納が目立ちはじめた。とくに一九九八年に七 〇〇〇億円を超える滞納が発生し、あわてて大蔵省 ( 現・財務省 ) も「事業者が納付すべき消 費税相当分の資金は消費者からの預り金的性格を有するものです」というキャンペーンを行 、滞納防止に乗り出した。そのせいか、その後は多少減少しはじめている。もっとも、こ の滞納率は他の所得税等と比較しても、また外国の滞納率と比較しても異常に高いわけでも ない。しかし、消費者にとっては、自己の負担した税金が結局税金として国に納付されてい ないというのは、やはり納得できるものではないであろう。 滞納の増大については会計検査院も注目し、その原因に業者の資金繰りの悪化を指摘して いる ( 「平成一〇年度決算検査報告」九〇 5 九一頁 ) 。つまり、消費税分を自分の資金繰りに使っ
合は生活保護基準額の五 % を所得税額から控除できることとし、所得のない者は還付申告で 戻せるようにし、かっ、所得が一定額以上の者に対しては控除額を徐々に減らしていく方法 が一番合理的なように思われる 民主党政権はこれを税制改革の柱の一つにしていた。「給付つき消費税額控除」を導入し て、消費税の逆進性対策に正面から取り組もうとしたのである。本来であれば、税制改正の 初年度にこれを導入し、消費税に対する配慮をすべきだった。しかし、まず子ども手当のこ とが問題となり、財政赤字の中で財源を捻出するために所得税の税収を減らすわけにはいか ず、手がつけられないまま推移した。しかも、菅首相は消費税の引き上げを選挙前に打ち出 し、逆進性対策として複数税率などを示唆し、民主党の租税政策を理解していないことを露 わにしてしまった。 税高齢化社会と消費税 消費税導入当時、消費税は高齢化社会のための税制ということが強調された。消費税を福 章 祉のために使うので高齢化社会のための税制だと勘違いする人も多かった。しかし本当の意 第 味は、所得税だけに頼っていると勤労世代しか所得がないために、世代間の負担の不公平が 113