も、それ以上の具体的問題にはほとんど発言できない。そうすると、跋扈するのは、支持者 たちの減税要求を実現しようとだけする族議員と旧大蔵省・財務省出身議員だけになる。そ の結果、不公正な特別措置の乱立と税収確保のための不合理な措置の温存ということになる。 自民党政権時代の税制改正はまさにこの連続であった。結局、税制改正は旧大蔵省・財務省 のための改正になってしまっていた。 この旧弊を打ち破った最初の本格的な改正が、序章で述べた租税の手続法制の改正で実現 した。政権が交代して、新たに納税者に納得される税制を構築しようという政治家の意気込 みが、改正案を具体的なものにしたのである。この問題で、民主党政権の政府税調は専門家 委員会の論点整理を受けて、手続法改正の細かい点についても詳細に検討し、納税者にも税 務署と同様に五年間の更正の請求 ( 税額を減額すること ) を認めることとし、不利益な処分には 理由を附記し、税務調査に際しては事前に通知する、という民主主義国家では当然の手続を 導入することを決断した。従来のように、財務省が実質的に税制改正を決定する仕組みから 大きく踏み出し、これか手続法改革につながったのである。 したがって、次は本書で取り上げた所得税法などの税負担に直結する税法の国民目線での 具体的改革である。そのためには、議員・政党の実体税法についての適切な理解が何よりも ばっこ 220
除等 4 累進税率の意味 超過累進税率 / 税率の変遷 / 税額控除か所得控除か / 控除から手当へ / 住 民税負担 所得税をどう改革すべきか 建前の応能負担 / 所得の把握と番号 / 税のグローバル化 第二章法人税ーー選挙権がないので課税しやすい 会社の税金の実態 法人税率は高いか / 赤字法人 / 多い法人数 2 法人税の仕組み 法人の所得 / 会社の建前と法人税 / 同族会社 / 受取配当益金不算入 / 交際 費損金不算入 / 税率 / 組織再編税制の台頭 3 会社の所得は誰のものか 法人擬制説と実在説 / 選挙権のない法人 / 法人税の方向
負担した消費税も控除でき、売上にかかる消費税Ⅱゼロから仕入に際して負担した消費税を 控除すると、マイナスになり、その分を還付してもらえるのである。 日本の消費税はこのゼロ税率を輸出取引にのみ認めている。輸出取引をする企業の多くは 大企業なので、不公平との指摘もあるが、他方で輸出取引には製造した国の消費税を戻して、 消費する国の消費税に服すようにしないと、消費税率の低い国の商品が相対的に有利になり、 消費税率の高い国の商品は輸出しにくくなってしまうのである。その意味で、輸出取引にゼ ロ税率を適用すること自体は非難できないが、輸出取引だけに限定していることは問題であ ろう。食料品についてみると、多くの国が軽減税率を適用し、イギリスのようにゼロ税率を 適用している国もあるからである。 しかし、ゼロ税率は仕入段階の消費税をすべて戻すので、税収の落ち込みが激しいとして、 も採用しない方向を示しており、日本の税調 ( 税制調査会 ) も同様である ( 表 3 ー 3 ) 。 給付つき消費税額控除 これらのゼロ税率や軽減税率が仮に導入されたとしても、消費税の致命的欠陥である逆進 性を解消することは難しい 110
で売ってしまってはどうだろう ? 日本の会社の利益はゼロで、外国子会社の利益は七〇 〇円にもなる。こういう価格設定を通じて日本の会社の利益が国外に移されていく。そこで、 企業の価格設定を全くの自由にすると各国の租税が回避されてしまうので、子会社等との国 際取引については適正な価格で取引をしろと規制するようになる。これが移転価格税制と言 われているものである。しかし、当初は、租税回避規制を目的としていたが、徐々に「政府 間の税金分捕り合戦」の様相を見せ始めている。客観的に正しい価格の判定は容易ではない し、どの国も、自国の利益を多くし、税額を増やしたいからだ。 外国企業が日本に子会社をつくって、日本での利益を外国に移していく方法もいろいろあ る。例えば、日本の子会社に出資して、子会社の所得から配当を受け取っても、子会社の税 金は減らない。子会社が税金を払った残りの利益を配当している、という建前だからである。 それなら、子会社に出資すると同時にそれ以上の巨額の貸付をしたらどうなるだろう。日本 の子会社は、借入の金利を親会社に支払うことになる。その利子は損金になるから、子会社 ししことになる。こ、つ の所得は減る。だから、親会社は出資を少なくし、貸付金を増やせば ) 、 いうことを自由にやられたら、それぞれの国の税制は形骸化してしまう。そこで、これも過 少資本税制という措置を通じて規制している。 208
でも自治体の平均であるから、六 5 七割の税収を得られる自治体もあれば、一割どころか一 分程度しか税収を得られない過疎の村もあるのである。 自治体間のこうした格差にも留意しながら、地方税の税源をもっと大胆に自治体に委譲す べきように思われる。自治体に税を徴収する能力かあるのか、という批判もあるが、そのよ うな税源が与えられれば、それにふさわしい体制に整備されるはずである。地方自治を真に 推進しようとするなら、独自の税収の確保はやはり不可欠である。 2 事業税 事業に課税 事業税は住民税と並んで都道府県の大きな財源となっているこの事業税の沿革は一八七 税八年の営業税にさかのほる。当初は業種ごとに定額で課税された営業税は、その後様々な変 地 遷を経て今日の事業税に至っているが、常に大きな難問を抱えている税制である。というの 章 は、この事業税は一般に事業活動と都道府県の行政サービスによる受益関係に着目した税制 1 第 とされているが、受益との対応関係をどのような基準で測ればいいのか明確なものがないか
合は生活保護基準額の五 % を所得税額から控除できることとし、所得のない者は還付申告で 戻せるようにし、かっ、所得が一定額以上の者に対しては控除額を徐々に減らしていく方法 が一番合理的なように思われる 民主党政権はこれを税制改革の柱の一つにしていた。「給付つき消費税額控除」を導入し て、消費税の逆進性対策に正面から取り組もうとしたのである。本来であれば、税制改正の 初年度にこれを導入し、消費税に対する配慮をすべきだった。しかし、まず子ども手当のこ とが問題となり、財政赤字の中で財源を捻出するために所得税の税収を減らすわけにはいか ず、手がつけられないまま推移した。しかも、菅首相は消費税の引き上げを選挙前に打ち出 し、逆進性対策として複数税率などを示唆し、民主党の租税政策を理解していないことを露 わにしてしまった。 税高齢化社会と消費税 消費税導入当時、消費税は高齢化社会のための税制ということが強調された。消費税を福 章 祉のために使うので高齢化社会のための税制だと勘違いする人も多かった。しかし本当の意 第 味は、所得税だけに頼っていると勤労世代しか所得がないために、世代間の負担の不公平が 113
第 2 章法人税 できることになったといえるからである。 ただ、連結納税は適用開始時に子会社の保有資産を強制的に時価評価するので、それを嫌 うグル 1 プ企業が多かったため、グループ内部の取引についての税法上の扱いが違っていた。 そこで、グル 1 プの一体性を重視して、連結納税を選択していなくても内部取引については 連結納税と同じようにするグループ税制も二〇一〇年から導入されている。 このようにグループで税負担を考慮することを認めることは、諸外国の法人税制でも採用 されており、確かに合理性もある。しかし、個人の場合は個人ごとに課税する制度を強制し、 会社の場合にはグループでの納税も認めるというのは、課税単位のあり方としてはご都合主 義といえるかもしれない 3 会社の所得は誰のものか 法人擬制説と実在説 会社が所得を得たら法人税等を負担するが、この会社の所得とは一体誰のものなのだろう か。会社自体は利益追求のために人が集まって作った団体であるから、結局は会社に出資し
次 目 第三章消費税ーー市民の錯覚が支えてきた ? ・ 錯覚する消費者別 痛みを感じた消費税 / 誰が払うべきなのか / 誰に払っているのかーー免税 業者 / 誰に払っているのかーー簡易課税業者 2 シンプルでも、公平でもない税制 どの取引に消費税がかかるのか / シンプルな税制か / 消費税は付加価値税 / 増加する仕入税額控除否認 / 逆進性は変わらず / 滞納の増加 3 どうなるのか消費税 税率アップと非課税 / ゼロ税率・軽減税率 / 給付つき消費税額控除 / 高齢 化社会と消費税 / 正規雇用と付加価値税 第四章相続税ーー自分の財産までなくなる ? ・ 1 制度疲労に陥っている税制 相続額が同じでも / 遺産取得税方式から折衷方式へ / 死亡件数一〇〇件の うち、相続税がかかるのは ? / 法定相続分でまず計算 / 取得額が同じでも 税負担増 / 連帯納付 / 右肩上がりの税制 / 通達で評価 / 事業承継 118 117
戦後、憲法は変わったのに、税制決定のシステムは変わらなかった。それをずっと見過ご してきたため、私たちはこういう問題に直面しているのである。もはや、主権者である以上、 「税金のことはよくわからない」と一言うだけではすまない。税金問題を考えるためにも、ま ず現在の税制の基本を理解してほしい、という思いから本書を執筆した。 本書の旧版は二〇〇三年、小泉改革が吹き荒れているときに、国内税制に限定して、負担 能力に応じた公平なものになることを願って執筆した。今回は、その後の変化を踏まえ、日 本の税制も国際社会と連帯して国際的に公正な税制を目指さねばならなくなっていることを 意識して執筆した。 本書の校正については、岩波書店の永沼浩一さんに大変お世話になった。また、青山学院 大学大学院ビジネスロー税法専攻の社会人院生の方々からも、校正の協力をいただいている。 感謝申し上げたい。 二〇一二年一月 三木義一
確かに、ごく少数の富裕層にだけ課税しても、国家の税収はそれほどの規模にならないか もしれない。現在の税制でいうと、相続税は富裕者層だけが対象になるが、この税収は消費 税率五 % の五分の一以下であるので、消費税一 % にも満たないのである。 滞納の増加 不况になってから、消費税の納税に異変が生じている。バブル期には、益税もあり、抵抗 なく支払っていたが、バブル崩壊後は消費税滞納が目立ちはじめた。とくに一九九八年に七 〇〇〇億円を超える滞納が発生し、あわてて大蔵省 ( 現・財務省 ) も「事業者が納付すべき消 費税相当分の資金は消費者からの預り金的性格を有するものです」というキャンペーンを行 、滞納防止に乗り出した。そのせいか、その後は多少減少しはじめている。もっとも、こ の滞納率は他の所得税等と比較しても、また外国の滞納率と比較しても異常に高いわけでも ない。しかし、消費者にとっては、自己の負担した税金が結局税金として国に納付されてい ないというのは、やはり納得できるものではないであろう。 滞納の増大については会計検査院も注目し、その原因に業者の資金繰りの悪化を指摘して いる ( 「平成一〇年度決算検査報告」九〇 5 九一頁 ) 。つまり、消費税分を自分の資金繰りに使っ